「それでは皆さん。今度の学園祭、頑張ってくださいね」
学園祭の予告朝礼から1週間。皆は思い思いに過ごしていた。裁縫部ではクラスのコスチュームを作る為女子が放課後に多く駆り出され、一夏はクラス代表として学園祭への準備と新華達との訓練を同時進行させてへろへろに。新華は生徒会にて学園祭と自身に関わる仕事を生徒会メンバーと共にこなし、他の専用機持ち達は各々でクラスの手伝いや個人で特訓をしていた。
「………」
そして場面は生徒会室。新華は珍しく1人で仕事をしていた。ハロ兄弟はうるさいので電源を切っており、サヤカは新華の頭の上で寝ている。
「………」
コンコン
「………どうぞ」
「お邪魔しまーす。あ、居た居た」ガララッ
「………一夏か。何の用だ?」
珍しく一夏が生徒会室に入って来る。新華は1度だけそちらに視線を向けるだけですぐに仕事を続行した。
「これ、前に言われてた学園祭の出し物の費用。職員室に行ったら生徒会に出すように言われてさ」
「…こっちに」
「あいよ」
「………ん、確かに」
「よし、これで用は終わりだな。生徒会長とか居ないのか?」
「…今は所用で出てる。さっきまで簪さんと本音さんは居たが、そっちも出かけてる」
「ふーん…で、新華は何してるんだ?」
「………先週言っただろう、個人的な仕事だ。というか用が無いなら帰れ。今はこっちで手が離せない。箒達が待ってるんじゃないのか」
「ああ、その箒の事で話があるんだ」
一夏は新華に相談しようと思ってわざわざ自分で生徒会室まで来たのだ。そもそも職員室に行った時、山田先生が代わりに持って行こうと言われたのだ。しかしそれを断った。
「箒が…」
「言っておくが、俺は何もする気は無いからな」
「お、おい何も言ってないぞ」
「どうせ『箒の虐めを何とかするにはどうしたらいいか』とか言うつもりだったんだろ? 生徒会も何もしないってか出来ないからな」
「なっハァッ!? 何で!」
箒の虐めはここ1週間でレベルが上がっていた。最初の2、3日は物が無くなる程度だったが、4日以降になると1年1組以外の全校生徒から嫌がらせを受けていた。剣道部では箒に集中して練習試合が行われたり、箒が使う竹刀に限って刺さくれがあるようになり、他の部員から小言を言われるようになった。普段生活している時でも足を掛けられたり、陰口をわざと聞こえる様にする者も多くなった。
しかしたちが悪いのが、それが新華や一夏、千冬に山田先生が居ない時に行われているのである。だが完全に気付かれない事など無く、一夏ですら直ぐにそれに気付いた。しかし千冬と山田先生は注意するが反省の色は無く、むしろ箒への風当たりが強くなった。
肝心の箒は何も言わずに耐えているが元々それ程精神が強く無い箒は、新華と同じく表面上は平気でいるが内心は傷ついていた。だが新華からして見れば
「箒の今の状況は自業自得だ」
「おい、虐めを放っておくって言うのか!?」
「ああ。お前や鈴達専用機持ちとは違って一般生徒は立ってる視点が違うんだ。むしろこうなる事は当たり前だし予測するのは容易かった」
「だ、だけど」
「お前が正義感振りかざして箒の事を想うのは自由だ。それを元に行動することも
「じゃあ…!」
「だけどな一夏」
新華は書類に向けていた視線を一夏に向ける。その目には強い意思があった。
「ここで箒を助けたとして、後はどうする気だ?」
「あ、後?」
「………そもそもお前は箒への虐めがどうして始まったかを考えるべきだ。そして、箒は自分だけの力でそれにたどり着かなきゃいけない。そして解決の方法も箒自身が考えて実行していかなきゃいかん」
「な、何で…」
「それくらい自分で考えろ。俺から言える事は、必ずしも助ける事が本人の為になる訳では無いって事だ」
「そ、そんな…」
「まぁ別に? お前が一生箒の傍に居て全てを、人生すらも共に守るってなら止めないぞ? 一種のプロポーズになるけど」
「んなっ!? そ、そんな事言えるわけ無いだろ!」//////
「男が顔を赤らめるな気持ち悪い。まぁ、今分からなくてもいいさ。ただ俺や会長は介入しねぇって事は覚えておけ」
「………」
「………それこそ」
「?」
「俺がまた介入したら箒の為にならないしな」
「え?」
「…用が無いなら出てけ。仕事をさっさと終わらせなきゃいかん。お前が居ても邪魔なだけだ」
そう言って新華は席を立ち一夏を追い出す。
「あっ、ちょ、新華!」
「お前も箒も少しは考えろ。いつまでも俺が最後には何とかしてくれると思うんじゃねぇよ。それともう1度言っておくが、今回の原因は箒自身だ。原因を予想するんだったら一般生徒の視点で考えな。もっとも、一般とはいつも程遠かったお前には無理かもしれんがな」
「なっ、どういう意味だ!?」
「そのままの意味だバーロー。兎に角。俺に頼るな。自分で何とかしやがれ」
そう言って完全に生徒会室から一夏を押し出すと、扉を締めた。
「はぁ…。『いつまでもあると思うな親と金』って言うだろうが。全く。俺も千冬さんもう詐欺も、甘やかせ過ぎたか?」
『------』
「…まぁ、俺が味わった絶望にはまだまだ程遠いからな。俺の時は---」
新華は思い出してうんざりする。同時に虐めを目の前で許している自分に怒りが湧いた。
「俺の時は、文房具一式を池に沈められて、机をスクラップにされた挙句に総無視を喰らったからな。教師も保護者達が怖くて何もしてくれなかったし」
自分でも気付かない内に目が釣り上がり拳を強く握り締めていた。だがIS学園を出た後の箒の事を考えると、新華は何も出来なかった。
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生徒会での仕事が終わり、新華はハロ兄弟を起動させて音楽を聴きながら帰路に着こうとしていた。しかし下駄箱の前に来ると
「………♫~ ………? ありゃ一夏か? 鈴にセシリア、シャルロットにラウラまで。あんな所で何してるんだ?」
「アヤシイ、アヤシイ」
「フシン、フシン」
「………何か覗いているみたいだが、視線の先に何があるんだ…? あと、箒は?」
下駄箱の向こう側、整備科の工房へと繋がる廊下を覗くように一夏達が居た。新華は覗いている後ろから近付き声を掛ける。
「おい、そこで何をしてんだ?」
「「「「っ!? 何だ、新華か」」」」
「何だ、とは、随分と御挨拶だな…。で、何しているんだ?」
「………アレだ」
「お?」
「ナンダ、ナンダ?」
「ナニカミエルノカ? ナニカミエルノカ?」
「見れば分かるわよ」
「どれ…」
新華が先程の一夏達と同じ姿勢になりハロ兄弟も器用に斜めになって覗く。サヤカまで待機状態からねんどろいどサイズになって、新華の頭の上で同じ体勢になる。
「あれは…箒と、3年生か」
「うん。箒が呼び出されたらしいんだ。だから…」
「はぁ…下らん。気になるのは分かるが、俺は帰る」
「「「んなっ!?」」」
「新華!」
「一夏には生徒会室で言ったが、俺はこの事態、静観させてもらう。女生徒達の気持ちは分からんでもないからな」
「あ、あんた自分が何言ってんのか分かってんの!? 虐めを受けてるのに見逃すって言うの!?」
「ああ」
あっさり言う新華に鈴は絶句する。鈴と一夏は小、中学校に新華と共に過ごした事で、新華が虐めに対しては容赦が無い事を知っているからだ。新華があっさり容認する事を認めた事に驚くのも無理は無い。
「箒のあの顔は、何も分かってない顔だな。精神を剣道で鍛えられなかった挙句、思考も止まっていやがる。あれじゃ事態は好転しねぇ…」
「だ、だったら! 新華さんも何かするべきではありませんの!? 友達でしょう!?」
「友達だから、何もしない、出来ないんだ。お前ら、助ける事だけが友達じゃないって知ってるだろう?」
「それとこれとは話が別ですわ!」
「俺にとっちゃ同じなんだよ。今のまま箒がIS学園を卒業してみろ。壊れるぞ」
「こ、壊れるって…」
「…新華、何か考えがあるのか?」
「ラウラ、お前でも多分俺の考えは理解出来ても納得出来ないだろう。虐めが始まる前後で箒が持つ物、持たない物を考えてみろ。そこに『卒業後の進路』っていうキーワードを入れれば俺が何故静観するか分かる筈だ」
「何…?」
「生徒会でも箒に関する事で頭を抱えているんだ。短絡的な行動で多くの人間に迷惑が掛かってるって分かって………ねぇだろうなぁ、あの姉妹は」
新華は体勢を戻しため息を1つ。そしてハロ兄弟を足元に呼び寄せ一夏達に背を向け下駄箱へと歩いていく。
『思い上がってんじゃないわよ、このガキが!』パァン!
「!! 箒!」ダッ
「あっ、一夏待ちなさい!」ダッ
「い、一夏! 鈴!」
「私達も行きますわよ!」
「ああ!」
「やれやれ…」
3年生のものと思われる大声と平手打ちと思われる音が聞こえた後、一夏は走り出しそれに続いて専用機持ち達も走った。しかし新華は頭を振るだけで追いかける事も止める事もしなかった。それで事態が悪化する事はあっても、好転する事はないからだ。
「事態を好転させるには、箒自身の自覚と実力、そして『紅椿』を持つに相応しい事を公式で証明しないといけないって事がわからんのかねあの馬鹿共は…。ラウラくらいは気付いてくれると思ったが、こりゃ期待出来そうにねぇな」
「ハロ、シンパイ? シンパイ?」
「ラクタン? ラクタン?」
『------』
「まぁ、もうちょっと頭回るかと思っていたんだが…。千冬さんは抑えられても止める事は出来んし、山田先生は論外だし…ハァ」
直ぐに一夏の大声が聞こえてきた。だが新華は呆れるしかない。
「馬鹿が…(お前が出ていけば『箒に専用機を持つだけの実力も精神も無い』って証明されるだろうが。あの場の正解は『動かずに現実を教える』だ。なんせ、こういった事より酷い事が箒には一生付き纏うんだからな。箒が、う詐欺に紅椿を要求して受け取った時点で、な)」
そう思いながら一夏の怒鳴り声をバックに、再び曲を聴き直す新華。だが拳は頭とは違い震えていた。自分自身への、何もしない事への怒りで。
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その日から箒への風当たりは新華の思った通り、強くなった。1年1組の生徒達も箒に対して明らかに他所他所しくなり、影口の類は増えた。箒の『紅椿』に関する、所属やら研究やらの要請は『箒が卒業するまで返事はお預け』ということで大人しくなっているが、そのうち痺れを切らした馬鹿が行動してもおかしくない。加えて、新華は学園祭が無事に終わるとは思えなかった。
「(絶対『亡国機業』が何かアクションを起こすな。学園祭とか文化祭は一般人が多く来るから、防衛側はやりずらいんだよなぁ…。
「新華君…? 何を考えているの…?」
「あおきー何とかしないのー?」
「ん? 学園祭の事をね。とりあえず箒は自業自得だし、何もしないって理由も含めて生徒会でも言ったろ?」
「うん、そうだけど…」
「…あまりに分からなければ、流石に動くかもしれないけど、今じゃない。それに…」
「「それに?」」
「一夏が支えになってるんだ。大丈夫だろう。依存にならなきゃ、な」
新華はそれまでとは違い、一夏の席に集まる事はしなくなった。一夏の方は動かない新華に対して怒りを感じているようだが、新華に言われた事や『新華にも何か考えがある』と信じているために、何より箒を守る為に新華とは疎遠がちになっていた。
一見近くに見える新華と一夏の距離は、少しずつ開いていた。
「なんだか、心無しかダルくなってきた、かな?」
箒の虐めが加速したのは、呼び出しを受けた時に余計な事を言ったからです。それに切れた3年生は箒にビンタをかましました。そこに一夏介入。結果悪化。
次回は執事服の試着を書こうかと。
おたのしみに。
ちなみに途中専用機持ち達が出てくるシーンありますよね?
最初に書いていた時、ナチュラルにセシリアを忘れてましたwww
オルコッ党の方には申し訳ありませんが、この作品だと影が薄いんで。違和感はあったのに、直ぐに出てこないとか…