IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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80話でござい。
学園祭とか文化祭とかって、大体は良いイメージがありますよね。大体は。
だがパラベラムは一味違った。


一夏争奪戦 予告

 

 

 

 

 

---side 一夏

 

 

 

 

 

「今日の朝礼は長いらしいな。あれ、新華はどこだ?」

「…知らん、私に聞くな」

「んー、シャルは何か知ってるか?」

「ううん。さっきまでは更識さんとのほほんさんと一緒だったんだけど…」

「ラウラは?」

「先程ホールの檀の方へ行くのが見えたが、それきりだな」

「そっか」

 

 

 

 

 

朝、一夏達は朝礼の為に体育ホールに来ていた。既にホールの中は全校生徒で一杯になっておりクラス別に別れていた。

 

 

 

 

 

「まぁ新華が居ないのはいつもの事か」

「そうだな」

「そうだね」

「確かにな」

 

 

 

 

 

新華は自身の特殊性から、新華はこういった行事の時によく一般生徒と居合わせない事が多かった。入学式の時も実は騒ぎを起こさせない為に出ていなかった。

 

 

 

 

 

「あ、生徒会長が出てきたよ」

「あ、本当だ」

『やあみんな、おはよう』

 

 

 

 

 

楯無が壇上に出てマイクを通して話す。その姿は堂々としており口元に添えている扇子がミステリアスさを醸し出していた。

 

 

 

 

 

『さてさて、今年は色々立て込んじゃってちゃんとした挨拶がまだだったわね。私は更識 楯無。君たち生徒の長よ。よろしく』

「やっぱり堂々としててかっこいいな。それが新華の前になると崩れるから可愛いよな」

「「「「「「!?」」」」」」

「い、一夏はああいうのが好みなのか?」

「いや、それは新華じゃないのか? ってそういえば新華をまだ見ないな」

「そういえば…」

『では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容は…』

 

 

 

 

 

楯無は口元で広げていた扇子をパタンと閉じる。同時に背後のスクリーンに1つの文が写し出される。

 

 

 

 

 

『名付けて『各部活対抗織斑 一夏争奪戦』!』

「………え?」

「えええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!??!?!?」

『静粛に。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行なって、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし今回、それではつまらないと思い』

 

 

 

 

 

楯無は閉じた扇子で正確に一夏を指す。

 

 

 

 

 

『織斑 一夏君を、1位の部活に強制入部させましょう!』

 

 

 

 

 

その1言で半数以上の生徒から歓声が湧く。その声に顔を顰めながら一夏は大声を上げる。

 

 

 

 

 

「待ってくれ! 俺は了承してないし、新華はどうなるんだ!? 新華だって部活動には所属していない筈です!」

「そうよ! 青木君は争奪戦しないんですか会長!」

「青木君も是非!」

 

 

 

 

 

一夏の言葉で残りの女子達も声を上げるが、楯無は不敵な笑みを浮かべて笑う。

 

 

 

 

 

『ふふふ…。青木君の事は本人から教えて貰いましょう。青木君、後の説明をお願いね』

「え?」

 

 

 

 

 

楯無がそう言って舞台袖に視線を向ける。そこから新華が疲れた顔で出てくる。

 

 

 

 

 

「新華!? あそこに居たのか」

「え? でも、何で?」

 

 

 

 

 

新華は楯無とアイコンタクトを交わし壇上のマイクの前に立つ。深呼吸した後は雰囲気が普段の物から仕事をする者の物に変わる。

 

 

 

 

 

『…知らない人は居ないと思いますが、改めて自己紹介をしましょう。『蒼天使』こと、青木 新華です。学園祭の詳しい説明の前に、何故私が争奪戦の対象にならないのかを説明します。それは私が『生徒会長補佐』という役職に既に着いているからです』

「は…?」

「えっ…?」

「ええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

『何故役職が既に決まっているか。聡明な方ならお分かりでしょう。私は『蒼天使』という複雑な立ち位置にあります。それ故制限や規則に縛られる事が多く、特定の部活動に所属すれば様々な問題が生じてきます。更に私には生徒会室や職員室に出入りする必要のある仕事が存在します』

 

 

 

 

 

新華が壇上で話している間、ホールにはざわめきが止まらなかった。他の女子達と動揺していたが新華は話を進めていく。

 

 

 

 

 

『それ故、特定の部活動に入部する事は出来ず、また仕事や立場の関係上生徒会所属という事に相成りました。ただ先程も申し上げた通り私には個人的に仕事が存在します。その関係で生徒会室には居ない事も多々ありますがご了承ください』

「い、いつの間に…」

「もしかして生徒会長、新華を1人占めしようと…!?」

「「「「「「っ!?」」」」」」

『尚、この人事に関して個人的な感情は一切入っていない事をここに示しておきます。それでは今回の学園祭のルール説明に入らせて頂きます』

 

 

 

 

 

新華はざわめきを無視しスクリーンを操作しながら学園祭の説明をしていく。一夏は呆気に取られ、そして自分が、自分だけが面倒な位置に放り出された事を自覚した。

 

 

 

 

 

「どうするか…」

 

 

 

 

 

頭を抱えながら、周りから獲物を狙う様な視線をひしひしと感じる一夏。まだ1年が半分も経っていないのにイベントが多過ぎる。

 

 

 

 

 

「だれでもいいから、助けてくれぇ…」

 

 

 

 

 

そう呟くが、『そんくらいは自分でやれ馬鹿』という新華と弾の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---同日、1年1組。放課後

 

 

 

 

 

「いや、マジで酷いなこれは。大丈夫………じゃなかったな日本」

「えっと…」

 

 

 

 

 

黒板に書かれているのは学園祭で1年1組が出す催し物の案。一夏はクラス代表として意見を纏める役目があり黒板の前に立っているが、現在進行系で困っていた。

案の内容は『織斑 一夏と青木 新華によるホストクラブ』『男子生徒2人と王様ゲーム』ets...

 

 

 

 

 

「「却下」」

「「「「「「ええぇえええーーー!」」」」」」

「あ、アホか! 誰が喜ぶんだこんなもん!」

「私は嬉しいわね! 断言する!」

「俺を巻き込むなよ…。生徒会で忙しいし、良くて時間の半分しか来れないんだから一夏だけにしとけ」

「新華ぁ! 逃げようったってそうはいかないぞ…!」

「チッ・・・。だけどあまり手伝えないのはホントな。繁盛してても見回りとかあるし」

「「ケイビ、ケイビ」」

「えー」

「まぁ、逆に言えば暇な時間が出来れば来て手伝ってやるよ」

「おっしゃあ! 言質取ったぁ! なら『織斑君と青木君とツイスター』を追加で!」

「なら私は『男子生徒とポッキーゲーム』を追加するわ!」

「「 却 下 だ ! 」」

 

 

 

 

 

女子達の盛り上がりに一夏と新華(2人だけの男子)は辟易した。女子達の盛り上がりは留まる事を知らず一夏と新華に集中した意見ばかりが出ている。

 

 

 

 

 

「(箒が何か出したそうだけど、この騒ぎじゃ出せるタイミングが無いし何より聞いてもらえないだろうな)」

『------』

『---どこの学校も、ここまではいかなくても盛り上がるもんさ。俺の記憶を見たなら分かるだろうが、城戸高校も盛り上がってただろ?』

『------』

『---まぁ、今回は騒動は起きないで欲しいな。無理だと思うけど』

「…先程から新華とサヤカは何の話をしているんだ?」

「おっとすまない。そういえばラウラにも俺らの会話が聞こえるんだったな」

「ああ」

「山田先生、駄目ですよね? こんな企画は」

「え!? わ、私に振るんですか!?」

「あの馬鹿は…。山田先生の様なタイプは天然なんだから振っちゃ駄目だろ…」

「「アホス、アホス」」

 

 

 

 

 

案の定山田先生は『ポッキーゲーム』を推してカオスを極め始めた。そこに救世主が現れる。

 

 

 

 

 

「ふむ、今までのが駄目ならメイド喫茶はどうだ?」

「「「「「「えっ…」」」」」」

「…? 何だ、私を見て」

「いや、ラウラからマトモな意見が出る事に驚いているんだろうが」

「そうか? 客受けはいいだろう? それに飲食店は経費の回収が望める。それに確か、招待券制で外部からも入れるのだろう? それならば休憩所としての需要はある筈だ」

「「「「「「お、おぉ………」」」」」」

 

 

 

 

 

ラウラの的確な意見に一同は感嘆のため息を漏らす。普段のアホの子とは思えないのだろう。

 

 

 

 

 

「え、えーと…みんなはどう思う?」

「俺はそれでいいと思う。それなら何か特別な事をする必要は無いし、何より俺らに出番が無い。文句は無い」

「「「「「「え?」」」」」」

「「えっ」」

「「「「「「………」」」」」」

「「………」」

 

 

 

 

 

新華のセリフで嫌な沈黙が降りる。新華は『メイド喫茶』という言葉上、女子がコスプレして接待して終わりだと思って言ったのだが、女子達から返ってきたのは『何言ってんの?』という視線だった。

 

 

 

 

 

「………何故貴重な男性操縦者を出さないのですの?」

「いや何故って、メイド喫茶だろう?」

「そうしたら、新華と一夏が執事や厨房をやればいいじゃない」

「執事! 織斑君と青木君が執事良い!」

「それでそれで!」

「え、ちょっ!?」

「メイド服はどうする? 私演劇部衣装係だから縫えるんだけど!」

 

 

 

 

 

シャルロットの執事発言で一気にクラスの総意が『メイド喫茶』に確定した。新華の抗議も虚しく女子達はもう衣装や内装の話で盛り上がってしまった。

 

 

 

 

 

「………新華」

「…何も言うな。………何か疲れた」

「オツカレ、オツカレ」

「ツカレテル? ツカレテル?」

「「………はぁ」」

『------』

「ああ、うん」

「何だって?」

「『頑張ってください!』だってよ」

「………あぁ、うん」

「「………はぁ」」

 

 

 

 

 

2人で疲れたようにため息をつく。

 

 

 

 

 

「そういえば学園祭は外に見えるようにアピールとかするのか?」

「あ? そんな予定は無いぞ。来るのは招待状貰った関係者か雑誌の取材班くらいだろうから必要無いし」

「へぇ~、景気良くバルーンとか上げるのかと思った」

「バルーン、か………」

「…新華?」

 

 

 

 

 

一夏の言葉で新華は顔を顰めた。脳裏をよぎるのはバルーンに擬態していた乾燥者の蜘蛛型兵器。そしてその直後に起きた一兎の悲劇、一兎の彼女の襲撃。

何より、初めてハッキリと感じた人の無意識下にあった悪意を思い出した。

 

 

 

 

 

「…新華。…新華!」

「っ! あ、ああ、何だ?」ズキッ

「何だじゃないぞ。さっきから呼んでるのに返事をしないで、どうしたんだ? なんだか苦しそうに見えるけど」

「………大丈夫だ。それより一夏、職員室に帰った千冬さんに出し物決まった事伝えに行ってこい。クラス代表の仕事だろ」ズキッ

「あ、ああ。…本当に大丈夫か?」

「問題無い。ほら、行ってこい」ズキッ

「わかった」

 

 

 

 

 

新華は痛む心に気付かない振りをして一夏を送り出した。そんな新華に本音とシャルロットが近付く。

 

 

 

 

 

「………」

「新華、どうしたの? 辛そうだけど」

「あおきー顔が怖いよ~」

「………」

「…新華?」

「あおきー聞いてる~?」

「………」

 

 

 

 

 

新華は俯き無言のままシャルロットと本音の言葉にも反応しなかった。見れば新華の左手は胸に手を当て服を握り締めていた。

 

 

 

 

 

「新華、新華!」

『------』

「っ! ………悪い、何だって?」

「本当に大丈夫? 顔色も悪いよ?」

「………大丈夫、だ。…出し物も決まったから、俺は生徒会室に行ってくる。一夏達と先に帰っててくれ」

「う、うん…」

「あおきー待って~。一緒に行こうよ~」

「………悪いけど、今は1人にさせてくれ。簪さんにも、そう言っておいてくれ」

「…あおきー?」

 

 

 

 

 

騒ぎ声がうるさい中、新華は静かに1人で教室から出る。丁度簪も来た所だったが、新華は簪に気付かず生徒会室へと向かう廊下を歩いて行った。

 

 

 

 

 

「新華君…?」

「あ、更識さん」

「かんちゃんお疲れ様~」

「あ、うん…。今の、新華君だよね…? 何かあったの…?」

「それが…クラスの出し物が決まった後に一夏と話していたら急にああなって…」

「おりむーも戸惑ってたしぃ~、いきなりだったねぇ~」

「そう…」

 

 

 

 

 

遠目に見える新華の背中は、寂しそうで悲しそうだった。頭にサヤカが乗ったり廊下に出てきた女生徒が新華に話掛けるが、新華は気付かずにそのまま歩いて行った。

 

 

 

 

 

「何があったの新華君…?」

 

 

 

 

 

簪はその背中が見た目以上に遠く感じた。そしていつもは力強くて大きく感じていた新華が、その時は脆くて小さく見えた。

 

 

 

 

 

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--------------

-----------------------------

 

 

 

 

 

---夜

 

 

 

 

 

新華は生徒会での仕事を終わらせた後、1人で寮と校舎の途中にある池の畔に座っていた。

 

 

 

 

 

『------』

「………」

「シンカ、ノウハオチテル、シンカ、ノウハオチテル」

「ノウリョウシハ、レベルテイカ、ノウリョウシハ、レベルテイカ」

 

 

 

 

 

 

サヤカとハロ兄弟が新華に語りかけるが、新華は反応しなかった。ただ、自分の胸を抑え水面を見つめるだけである。

 

 

 

 

 

「…平和、だな」

『------』

「ああ、平和なんだ。なのに」

 

 

 

 

 

新華はサヤカの言葉を聞いていなかった。

 

 

 

 

 

「なんでこうも辛いんだ…」

 

 

 

 

 

新華は今まで気丈に振舞っていたものの、心はすでにボロボロだった。生まれ変わっても人を殺し続け、自身のエゴを押し通して来た。一夏達を守る為に影で殺した人数も少なくない。

更に『ソレスタルビーイング』。前世で孤児院の経営を補佐していたと言っても経営するには限界がある。それに世界情勢も違う為に独学でやりくりするしか無かったのだ。ヴェーダのサポートがあったとはいえ味方は0(ゼロ)。現在は多くの仲間が居るものの前世やヴェーダの事を話す事が出来ないの故、殆ど何でも話せた前世の映画部の様な『仲間』は、全く居なかった。

 

 

 

 

 

「………どうして…」

『------』

「ハロ、ミンナイル、ミンナイル」

「ミンナトモダチ! ミンナトモダチ!」

「…そうだな。ああ、確かに友なら居る。でも…」

 

 

 

 

 

新華はゆっくりと立ち上がり空を見上げる。空は雲で覆われ、丁度雨も降り出した。遠くに雷の音も聞こえ、大雨になる事を思わせる。

 

 

 

 

 

戦友(とも)は、居ないんだ…。誰1人、背中を心から任せられる『仲間』も…」

 

 

 

 

 

一夏達では経験と実力が足りず、戦争の悲惨さも知らないが故戦友とは呼べなかった。一夏達は確かに単純で人としては純粋だ。だがその純粋さ故に新華は『仲間』とは思えず、楯無は利用し合っている関係(だと新華は思っている)で背中を任せるには信用出来る立場に居ない。ヴェーダの存在をばらせばまず確実に狙われソレスタルビーイングが危機に晒される。故に『仲間』とは思え無かった。

では新華にとって『仲間』とは誰の事を言えるのか。前世の映画部フライトのメンバー、もう2度と会えない彩香先生達である。

新華は未だに、過去を引き摺っていた。

 

 

 

 

 

「………居ないんだ」

『------』

「「ハロ…」」

 

 

 

 

 

サヤカもハロ兄弟も新華の深い悲しみを癒す事は出来ない。いくらサヤカが彩香先生の姿を取っていても、いくらハロが新華の好きな『ガンダム』のペットロボであっても。

新華の心を癒せるのは、新華の前世や罪を全て知った上で受け入れられる人間(・・)だけである。歪で進化を自称した人間モドキや、人間の天敵である少女、自分達のエゴを探求した外道達の居た世界で新華が受けた傷と背負った罪は重い。

 

 

 

 

 

「…戻ろう、嵐が来る。いつまでもこんな所で、こんな顔をしていたらあいつらに不安を与える」

 

 

 

 

 

そう言うと新華は池の水で顔を洗う。バシャバシャと洗った後に水面を見ると、そこに居たのは『いつもの(・・・・)だるそうにしている新華』の顔だった。

 

 

 

 

 

「…よし、戻るか。あまり濡れたくないしランニングをして行くとしますかね。ハロ兄弟、戻りな。サヤカも濡れるといけないから待機状態に。寮に着くまでポケットに入っとけ」

「「リョウカイ、リョウカイ」」

『------』

 

 

 

 

 

新華はハロ兄弟を回収後に待機状態のサヤカをポケットに入れ、雨が降り出した中を走った。途中急ぐ為にP・V・Fを展開すると、ヒビが入っており雨が心にしみた。

 

 

 

 

 




書いてて欝にさせすぎた気が。新華がマジでヤバい。


新華:新生人類化(BATEND)フラグが立ちました。回収されるとBADENDです。

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