IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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77話目前編。
一夏メインで進みます。


夏祭り 前編

 

 

 

 

 

 

ソレスタルビーイング、新華の研究室。

一夏達が帰宅して3日、8月のお盆。今日もAGEシステムは稼働していた。

 

 

 

 

 

「どうだ真、スウェン。新型の調子は」

『ストライクより使い易いですよコレ。なんだかストライクの時よりパックの換装が簡単になった気がしますし』

『このI.W.S.P.も使い易いですが、大きいのが難点ですね。この機体の他のパックは完成しましたか?』

「ああ。今完成した。後で使ってみてくれ。名称はアナザートライアル『ランチャー』と『ソード』だ」

『分かりました』

 

 

 

 

 

真とスウェンは完成したインパルスとストライクEを使っていた。その横では

 

 

 

 

 

『やはり連射系の武器が欲しいな…』

『お前は今までシグーに乗っていたからな。たまにはビーム系を使ってみるのも悪くないだろう』

『ハイペリオンのマシンガンを使ってみるか? エネルギーパック形式だから問題無く使えると思うが…』

『済まない、使わせてくれ』

 

 

 

 

 

旅行から帰って来た天田 志郎搭乗のプロトタイプガンダムがカナード搭乗のハイペリオンと、劾搭乗のブルーフレーム2ndと模擬戦をしていた。

 

 

 

 

 

「さて、ルージュの設定も終わったしシグーディープアームズの設計でも始めるか。ジンクスも開発したいし…そろそろパイロット増やすか? 候補としてはトラッシュとフリッツだな…。それと、走破性を考えてドムを上に作業用として回しておこう。あとは…」

『------』

「…あぁ、そういえば確か、今日が夏祭りの日だったか。教えてくれてありがとな、サヤカ」

『------』

 

 

 

 

 

新華はサヤカに言われて思い出す。この日はかつて青木家が住んでいた街の、織斑宅、篠ノ之宅がある街の夏祭りが有る日だった。

 

 

 

 

 

「前は箒の母さんがやってたけど、今日は箒が舞を舞うのかね? まぁモーションは昔既にパクらせて貰ったから、もう興味は無いけど」

 

 

 

 

 

そして街の方向に顔を向ける。

 

 

 

 

 

「一夏と五反田兄妹は行くだろうな。鈴は…行かないだろうな。面倒くさがって」

 

 

 

 

 

新華は顔を前に戻して稼働しているAGEシステムの元へと向かった。

 

 

 

 

 

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---side 一夏

 

 

 

 

 

「悪いな。焼きそば奢ってもらっちゃって」

「な、納得がいかん…!」

 

 

 

 

 

一夏と箒は夏祭りを堪能していた。一夏は半袖長ズボンのシンプルなスタイル、箒は叔母に舞の後に着付けてもらった白地に薄い水面模様と赤い金魚が泳いでいるように刺繍された浴衣だった。

だが堪能していると言っても、一夏の表情にはどこか陰りがあった。

 

 

 

 

 

「あの金魚め…真剣勝負に水を刺すとは…」

「金魚だけにな」

「………」ギロッ

「ま、いつまでもむくれるなよ。ほら、焼きそば旨いそ。箒も食えよ」

「む、むぅ…」

 

 

 

 

 

一夏はあろうことか、先程まで自分が使っていた箸で箒に焼きそばを摘んでよこす。かなりアレで失礼に値する行為だが恋する乙女には効果抜群だったようで、顔を真っ赤にしていた。更に『あーん』なんて期待した顔を一夏に向けるが

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

こんなんで気付かない。鈍感ここに極まれり。今までどれだけの負担が新華と弾に掛かっていたか…。

そして箒は乙女としての欲望に従い、そのまま焼きそばに食いつく。

 

 

 

 

 

「どうだ?」

「んぐ、お、思ったより旨いな」

「だろ?」

 

 

 

 

 

そう言って一夏は箒に微笑み掛けた後、人混みに目を戻す。その横顔は『恋は盲目フィルター』から見ても何を考えているか分かった。

 

 

 

 

 

「…一夏、新華の事を考えているのか?」

「ん、ああ。………あの最後の新華のセリフが忘れられなくてな」

「そうか」

 

 

 

 

 

箒も人混みに目を向ける。一夏の頭の中には新華の穏やかな笑みと狂気のセリフがリピートされていた。

 

 

 

 

 

「『喜んで命を差し出す』………か。新華にとって俺は命を差し出さなきゃならないくらい弱いのか」

「…一夏、お前らしくないぞ。それに、そんな事はない。お前も私も強くなってきている。新華が少しおかしいだけだ」

「………そうかな? 俺にはそう思えなかった」

「何?」

「新華は、そうだな…………俺が弱いっていうのもそうなんだろうけど、おかしいって言うより怖いんだと思う」

「怖い? 新華が?」

「ああ。確かに箒の言う通り、俺たちは強くなってきていると思う。でも多分、俺たちがどんなに強くなっても新華は聞いても、同じ答えを返すと思う」

 

 

 

 

 

一夏は祭りの賑わいの中歩きながら、手に持った焼きそばをそのままに言う。箒も一夏の話を黙って聞く。

 

 

 

 

 

「あのソレスタルビーイングだって、よくよく考えてみれば新華の大切な物を守る為に安全を確保しているように見えたし、MSってやつだって多分、自衛の為に作っているんだと思う」

「自衛にしては過剰ではないか? それに新華はまるで子供のようにMSとやらを弄っていたぞ。楽しそうに」

「でも作るだけなら1人で出来るんだ。束さんみたいに」

「む、確かに。あれだけの設備があればISの1機や2機つくれそうだな」

「それに新華は何か失う事を極端に恐れているんだ。何かを無くすくらいなら…って思ってるから自分を気にせず無茶出来るのかもしれない」

「…待て。新華が何かを失う事を恐れている? 何故そう言えるんだ」

「そっか、箒は知らないんだっけ。新華が何を考えているか、何を思ってISに乗っているか」

 

 

 

 

 

一夏は人混みの少ない所に移動し箒に以前弾と聞いた新華の話を話した。本来なら大騒ぎになりそうな内容だが運良く祭りで周りはざわめき、聞く者は全く居なかった。一夏は人混みに視線を向けたまま話し、箒は一夏の横顔を見ながら話を聞いた。そして衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

「………、そうか。新華がそんな事を…」

「…思ったより驚かないんだな」

「いや、驚いているさ。だがスケールが大きすぎて今すぐには受け止めきれないというだけだ。それに寧ろ納得する部分もある。あれだけ私達に色々と言ってきたり、同年代とは思えない事になっていたりな」

「そっか」

「だが、だからこそ強くなるんじゃないのか?」

「え?」

「新華が我々のせいで無茶をするのなら、無茶をさせなくするのも我々のするべきことではないのか? 具体的にどうすればいいかは見当もつかないが、それでも強くなるという事は間違ってないはずだ。新華がどれだけの高みに居ようと、その新華すら守れるように強くなりたいと言ったのは嘘ではないだろう?」

「それは…」

「だったら前を見ろ。新華は新華で、一夏は一夏だろう? 考えるなとは言わないが、我々がすべき事は今前を見て進む事だ。それに今は祭りだ。考えるのは後にして今は一時の休息を楽しもう。IS学園に戻れば授業と訓練の日々が始まるのだから」

「そう、だな。そうだな。新華の事を考えるにしてもまずは強くならないとな。ありがとな、箒」ニコッ

「う、うむ。分かればいいんだ…」//////

 

 

 

 

 

晴れ晴れとした一夏の顔を直視した箒は顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。しかし2人は知らない。考えるのが遅すぎると。IS学園に戻って授業が再会しても以前と同じ生活は送れないと。そしてその状況の元凶は他でもない箒の身勝手な行動だと。

そして何より、考えて考えて考えなければ、いくら力を付けても新華の足元に及ばない、何時まで経っても守られる側だと言うことを。

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ次の所に行くか。今日はいっぱい楽しもうぜ」

「ああ」

「あれ、一夏…さん…?」

「お? おー蘭か」

「やっぱり、一夏さん!? それに、篠ノ之さん、でしたっけ」

「あ、ああ。たしか五反田、だったな」

 

 

 

 

 

再び人混みの中へ移動しようとした時、浴衣姿の蘭が同じく浴衣姿の女子と共に一夏と箒を見つけた。

 

 

 

 

 

「き、奇遇ですね」

「そうだな。案外、知り合いに会わないと思ったらばったりだな。弾は?」

「お兄なら布仏さんをこのお祭りに誘ったらしいんですけど、断られて部屋に篭ってますよ」

「………あー………」

「…それは………」

 

 

 

 

 

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prrrr

「はい、新華です。どうしたんですか虚さん、こんな夜に。………は? 弾の予定? 自分で聞いて下s……そういえば今日は夏祭り…。弾、やるな。わかりました。今すぐ(・・・)聞いて教えますよ。………ええ、ええ、分かってます。虚さんの名前は出しませんよ。虚さんの名前は。では」

pi

prrrr prrrr prrrr prrrr prrrr

「あ、弾? 新華だけど。知り合いの女性がお前の月の予定知りたがってるから教えてくんね? ………絶望し過ぎじゃね? 呻きだけしか聞こえないとか軽くホラーだから戻ってこい。………はいはい後で相談にのってやるから、取り敢えず今月と来月の予定教えろ。………あ? 誰から? ん~そうだなぁ…、数分前までお前と話していた女性? ………うるせえよ行き成り食いつくな! いいからさっさと予定教えろっての! ったく………恋のキューピットも楽じゃないな…フフフ」

 

 

 

 

 

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「あんな落ち込み方初めて見ましたよ。アレですか? お兄やっぱり…」

「そうだろうなぁ…。話は変わるけど、蘭の浴衣姿って初めて見たな。髪も下ろしてるし、いつもと違う和服だから新鮮だ。似合ってるよ」

「そ、そうですかっ! あ、ありがとうございます!」

「むぅ…」

 

 

 

 

 

一夏が蘭を褒めると蘭は表情を輝かせ箒は不機嫌になる。それを見て後ろの女子達は蘭をはやし立てる。

 

 

 

 

 

「あ! 会長が照れてる!」

「そっかぁ。他校の男子は勿論同校の女子にもなびかないのはコレが理由かぁ」

「会長、ファイト!」

「あ、あんた達ねぇ!」

「きゃー! 会長が怒ったー!」

「逆鱗触れたぁー!」

「こわーい!www」

「最後の特に待ちなさい!」

「「「きゃー!」」」

 

 

 

 

 

蘭の怒った声で女子達は笑いながら逃げる素振りを見せる。ほぼ姉妹関係だった鈴に似ているのは、それだけ蘭と鈴の仲が良い証だろう。

 

 

 

 

 

「学校の友達?」

「え、えっとその、生徒会のメンバーでして…」

「生徒会かぁ。新華もメンバーなのかな?」

「そういえばそ、ソレスタルビーイング? に居ましたよね、水色の髪の人達」

「ああ。んで、彼女達はなんでここに?」

「はーい! 今日は秋の学園祭のアイデア探しに来たんでーす」

「祭りを学ぶ為には祭りに行かないと! って事で」

「ついでに私は人探しを」

「人探し?」

 

 

 

 

 

最後の一言で一夏は首を傾げる。蘭は呆れた顔をする。

 

 

 

 

 

「あんた、その人紹介してやるって言ったじゃないの」

「でも地元の人なんですよね? なら出会えるかと思って…」

「えっと、誰を探しているんだ? 手伝えるなら手伝うぞ」

「本当ですか!?」

「………あー、その前に一夏さん、探している人の特徴を聞いてやってください」

「え? いいけど、どんな人なんだ?」

「なんだか嫌な予感がする…」

 

 

 

 

 

嬉しそうな表情で女の子は一夏にその人の情報を伝える。それを箒は嫌な予感に顔を歪めて聞く。

 

 

 

 

 

「ええとですね、背があなた位あって」

「うんうん」

「綺麗な黒い髪で、目付きが少しキツくて」

「うんうん」

「両手に重りを付けてて」

「うんうん。ん?」

「腰に円柱型のミュージックプレイヤーを付けてて」

「ゑ?」

「丸くて緑色の『ハロ』っていうのを連れている人です」

「「新華ぁー!?」」

 

 

 

 

 

特定余裕でした。両手に重りを付けている人物ですら限られるのにハロを連れているとなると確定だった。

 

 

 

 

 

「ああ…始まるわよ」

「一夏さん、篠ノ之さん、覚悟を」

「へ?」

「あの人は私が不良に絡まれて路地裏に連れ込まれたのを颯爽と救ってくれたんです。脅してきた不良たちを文字通り薙ぎ倒して、しかも人質に取られた私に微笑みかけて『安心しろ、すぐ助ける』なんて言って、その言葉通り不良達を蹴り倒してへたりこんじゃった私に視線を合わせて『大丈夫だったか』なんて………もう…」

「うわぁ………」

「新華…お前は何をしているんだ…」

「はっ! す、すいません! 1人で長々と!」

「あー…うん…まぁ、大丈夫だよ」

「そう、だな。まぁ、なんだ。友人の知られざる一面を知ったと思えばそれほどでもない」

「そ、そうですか」

「だから言ったでしょ? 今度紹介してあげるって。知り合いなのよ、その人。そういえば新華さん、今日来てるんですか?」

「え? あ、えーと、どうだろうな? 多分来てないんじゃないか?」

「えぇ~、そうなんですか?」

「昔何回か来てたけど最近忙しそうだったからな」

「そうですか…」

 

 

 

 

 

少し残念な顔をした女子は肩を叩かれて青筋を立てた蘭の顔を直視する事になった。

 

 

 

 

 

「あ、か、会長…」

「アンタ…私に恥かかせるんじゃないわよ…?」

「す、すいません! じゃ、じゃあ私達はこれで帰りますんで!」

「は? ちょっと話はまだ」

「では会長!」

「私達は帰りますんでー」

「また学校でお会いしましょー」

「それでは、アディオス!」

「あっ、ちょっと待ちなさい!」

 

 

 

 

 

そう言って女子達はあっという間に人混みの中へと消えていった。蘭は伸ばした手をそのまま握り締め拳を震わせていた。

 

 

 

 

 

「な、なんか嵐みたいな女の子達だったな」

「一夏さんすみません。後できっちりしめておくんで」

「いや、主な原因が新華だったから大丈夫だよ。それより蘭はこれからどうするんだ?」

「あっ! そ、そうですね。………で、できればご一緒させてもらってもいいですかっ…!」

「ん? 別にいいぞ。いいだろ箒?」

「………」

「箒?」

「………ふんっ」

「どうしたんだ箒?」

 

 

 

 

 

箒は折角一夏と2人で祭りを回っていたのを邪魔されて不機嫌になるが、何より自分が不機嫌になる理由に気付かない一夏に苛立ちを感じた。

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

「おーい、箒ー」

「え、えっと…先程まで一夏さん達は何をしていたんですか?」

「ん? ああ、この間の別れ際の新華の事をさ」

「ああ…あの怖かった微笑みですか」

 

 

 

 

 

新華の話でその場を乗り切ろうとした蘭は見事地雷を踏み抜き、そのまま空気が重くなるのを見ていられなくなった箒が話に介入して空気を祭りモードまで戻す。あとはお祭りという舞台の中で乙女の攻防が始まり3人は人混みへと流れていった。

 

 

 

 

 

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pi

「蘭、先に帰るってさ」

「そ、そうかっ」

「なんか弾のテンションが予想以上に高かったらしくてさ。振り切れなかったんだって」

「一体何があったんだ…?」

「さあ?」

 

 

 

 

 

祭りの終盤、一夏達は途中の屋台で液晶テレビを入手してしまった蘭と分かれ2人で花火を待っていた。周りにはカップルや子連れの家族、友人と来ている男子や女子で賑わっていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、行こうぜ」

「あっ」

 

 

 

 

 

一夏は花火が一番見えるであろう場所まで移動するために箒の手を握った。箒は不意に握られた事に驚いて声を上げるが一夏は気付かない。同時に2人は気付かない。新華が居ない事と一夏の無自覚な行動でタガが外れた1人の女が動いた事を。祭りで浮かれ自分達の行動を省みない結果、新華が押さえつけ宥めた感情が暴発した女が居る事を。

 

 

 

 

 

「織斑君………」

 

 

 

 

 

その女の目は焦点が合ってなく、視界には一夏と箒の後ろ姿しか映っていなかった。

 

 

 

 

 

「その女はだれ…?」

 

 

 

 

 

彼女は1人だった。着物ではなく動きやすい私服で一夏達の後を追っていく。屋台から包丁を盗んで…

 

 

 

 

 




色々と原作飛ばしてます。だって文が無駄に多くなるもの。
さて一夏達の視点。正直なところコイツら世界舐めてますよね。特に箒は束という悪い礼が身近だったせいもありますし、一夏も千冬の情報規制で何も知らなさ過ぎな気もします。親が居ないせいですね。
あと原作とは違い一夏の鈍感の影響は負担となって新華達に掛かります(今更ですが)。特に日常の人間関係で対処可能な人間が新華くらいしか居ないというのもありますが、一夏達は自覚無しです。その結果が次回で…
そして蘭の生徒会の女子。新華の行動で惚れる女子が増える具体例だと思ってください。新華ェ…

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