IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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75話目。
新華のBADEND構想が出来た…。新華の心が救われた後に番外編として書こうか…


お礼と心

 

 

 

 

---side シャルロット

 

 

 

 

 

一夏達が悩み考えている時、シャルルもラウラと共に考えていた。だが一夏達とは違いラウラもシャルルも特殊な生まれにして複雑な家庭事情を持つ者なので、比較的衝撃は少なかった。

だが、それでもトラッシュの叫びは響いていた。

 

 

 

 

 

「………ねぇラウラ。一体新華って、なんなんだろうね」

「…藪から棒になんだ? まぁ、先程のトラッシュと言う男の言葉で考えたのだろう?」

「うん…。あれだけISを嫌っている人が居るのに、IS操縦者でもある新華の言うことはちゃんと聞くんだなって思って」

「そうだな。加えて、私達が見たここの大人達は全員が新華を慕っていた。あのトラッシュという男も新華には逆らえないようだったし、新華のカリスマの凄さが伺えるな。是非とも指揮官に欲しい程にな」

「…やっぱりラウラから見ても凄いと思うんだ。来た時は院長として仕事もしていたし、MSって機械も作っていたし…………本当に、何なんだろう…」

「ふむ…」

 

 

 

 

 

ラウラは顎に手を当てて考える仕草を見せる。

 

 

 

 

 

「…世界初IS『蒼天使』の操縦者であり、かなり特殊なクラスメイト………だな」

「うわ、ざっくり纏めたね。確かにそうなんだけど…」

「だが今の私達にそれ以上の表現は出来ん。まぁ、軍に居る私としては『戦場で会いたくない筆頭』とも言えるが」

「あ、そっか。新華は世界を回って色々していたんだっけ」

「話に聞いただけだったが、事実らしいな。密入国を繰り返していたのだろう。新華が何処かの国に正式に行った記録は第2回モンドグロッソの時と、以前のフランス訪問だけだ」

「そっか………、あ」

 

 

 

 

 

シャルルはそこで来た目的の1つを思い出した。誘拐事件で助けてくれたお礼を言ってなかったのだ。それに今日1日だけで驚く事が多すぎてすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

「どうしたシャルロット?」

「あ、うん。新華に言うことがあったの忘れてて」

「何? ………しょうがないか。あれだけインパクトの有る物を立て続けに見せられたんだ。あの、少年との戦闘だって…」

「ラウラ…」

 

 

 

 

 

ラウラはスウェンとの相打ちを思い出したのか、拳を強く握り締め顔を歪めた。勝てなかったのが相当悔しかったのだろう、負けなかったがラウラは生まれた時から職業軍人、それもISが登場する前までは部隊トップで有り続けISの登場後は千冬のお陰で今や特殊部隊の隊長である。それがMSという兵器に乗った男、それも自分達とそう変わらない少年と相打ちになったのだ。悔しがるのも無理は無い。

 

 

 

 

 

「………あれだけの事があれば、何か忘れても仕方ないだろう。気にする事は無いと思うぞ」

「…うん。でも、なるべく早く言いたい事なんだよね。遅くなって結局言えなくなるって事は避けたい」

「むむ…ならば今から行ってみてはどうだ?」

「へ? どこに?」

「新華の所へだ。丁度家に居るのだろう? 行けば話す事が出来るだろう」

「でも、もう外は真っ暗だよ?」

 

 

 

 

 

ラウラが気を取り直してシャルルに提案する。しかしシャルルの言う通り外は既に真っ暗で、ソレスタルビーイング敷地内とはいえ1人で歩くには危険だと思える暗さだった。しかも外の照明もポツポツと少数しかなくIS学園よりも暗かった。

 

 

 

 

 

「問題無かろう。この程度の暗さなら十分歩ける。点々としているが照明もあるんだ。新華の家に行くには十分だろう」

「…そうかな?」

「ああ」

「………でも迷惑じゃないかな?」

「そんなもの行ってみなければわからん。行って後悔するか言わずに後悔するかの違いだろう? どちらを選ぶかはシャルロット次第だ」

 

 

 

 

 

そう言われてシャルルは考えた。今行けば新華と話す事は出来るだろう。だが夜に家に行って迷惑ではなかろうかという懸念がある。

では今行かなければいつ言うのか。IS学園の新華の部屋は更識生徒会長と同室で、行っても機会はそうそう訪れないだろう。それにIS学園には人の目がある。あの事件の事は新華から口止めされているのだ、そうそうバラす訳にはいかない。

 

 

 

 

 

「…そうだね。今からでも行ってくるよ」

「そうか。なら、私も嫁の所に行くか。今なら誰も行かないだろう」

「そ、そうだね。がんばって」

「ああ」

 

 

 

 

 

そう言葉を交わすと、ラウラは隠密作戦でもするかのように、慎重に部屋から出ていった。ラウラが無駄な軍人スキルを披露していった後にシャルルはある事を思い出した。

 

 

 

 

 

「あ、一夏って確か弾って人と同じ部屋じゃなかったっけ」

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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新華は青木家の自室でのんびりしていた。IS学園に居る時はいつもハロを使い1050室でソレスタルビーイングの資料を整理していた。それ以前からも同じように自室でハロを弄っていたのだが

 

 

 

 

 

『自分の家に居る時くらいゆっくり寛ぎなさい。家族に遠慮する事なんて無いわ』

 

 

 

 

 

そう母に諭されて、今まで買ったが読めなかった本を読む事にしたのだ。時たまハロを弄って機体の設計をしていたりすると、決まって家の誰かが来て叱ってくるといった循環になっていた。この環境は新華の理想。親が叱ってくれて、優しい両親が居て、兄弟が居て、自由がある。

友人も居て自分のしたい事もある。かつての、1人で勉強しか出来る事が無く、家に呼ぶような親しい人間も居なかった環境を知る新華はそれまで手に入れられなかった幸せを手に入れた事が、ただただ嬉しく幸せだった。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

静かに本を読む。一夏達と別れた後、帰宅してニュースを見たり居間で人修羅と仲魔を育て(メガテンⅢをプレイして)たり、母の家事を手伝ったり、実の勉強を教えたりと、きちんと長男をしていた。今は全部終えてベットの上で音楽を聴きながら部屋に居た。ハロは机の上で充電中である。

 

 

 

 

 

「………」コンコン

『------』

「…ん? 誰か来たのか?」

『------』

「そうだな。はーい、ちょっと待ってて」

 

 

 

 

 

MP3の状態だったサヤカが人形態(子供.ver)になってベットに腰掛ける。新華はベットから立ち上がりドアを開ける。ドアの前には、いつの間に来たのかシャルルが立っていた。

 

 

 

 

 

「あ、お邪魔してるよ。新華」

「シャルル? どうしたんだ? もう外も暗いから誰も来ないと思ってたけど」

「えっと、迷惑だった?」

「いや。暇してたから問題無い。ってか部屋、入るか? 立ってるのも疲れるだろ?」

「あ、うん。お邪魔します」

「おう。入れ入れ」

 

 

 

 

 

シャルルを部屋に招き入れ、ベットに腰掛けていたサヤカを抱き上げ小さくして頭に乗せる。そのまま窓の前に立つ。

 

 

 

 

 

「好きな所に座ってくれよ。何か用があるんだろ?」

「うん」

 

 

 

 

 

シャルルは先程新華が居たベットに腰掛ける。新華はシャルルが座った事を確認すると、自分の椅子を机から引き出し座る。シャルルは興味深そうにキョロキョロと新華の部屋を見る。

新華の部屋は、典型的な主人公の様に綺麗に整っていた。ただ、机の上に充電中のハロとコードが沢山乗っているのと、2つあった本棚の内容の殆どが心理学や神話、工学系で埋められていた。しかも日本語で統一されている訳ではなく、英語やフランス語、中国語やヒンドゥー語で書かれた本もあった。それだけではなく、本棚をよく見てみれば『ダイ・ハード』シリーズや『グリーン・デスティニー』などの洋楽映画も置かれていた。こちらは和英両方あった。

 

 

 

 

 

「んで? 何の用があって来たんだ?」

「あの時のお礼が言いたくて」

「あの時?」

「うん。僕が誘拐されちゃった時の」

「ああ…あれか。確かに、口止してたな。でも礼はいらねぇよ。俺のせいでああなったんだし、寧ろ俺が謝るべきだろう?」

「そ、そんな事ないよ! 新華の御陰で会社は勢いを取り戻せて今後もなんとかなりそうだし、最近はお母さんも以前より明るいし、本妻の人や社長だって…!」

「だが、その結果シャルルは誘拐された。赤の他人を巻き込んで。俺が介入しなければ起きなかった事だ」

「そんなの!」

 

 

 

 

 

新華の言った事は事実だ。新華が介入しなければシャルルの誘拐事件は起きなかった。だが同時に、新華が介入しなければデュノア社の経営はどうなっていたか。シャルルの家庭問題はどうなっていたか。シャルル本人の扱いがどうなっていたか。しかも新華はシャルルを友人ごと助け出している。誘拐犯達を倒して。±0どころかお釣りが来るレベルである。

そのお釣りがデュノア社のコネとシャルルのフラグなのだが。

 

 

 

 

 

「新華が居てくれたおかげで僕は諦めてた自由を手にする事が出来たんだよ?」

「そのきっかけを作ったのは一夏だ。俺はあいつの裏方に回ったに過ぎない」

「それでも、助けてくれたのは新華だよ。ちゃんと助けてくれたのは、ね」

「…含みがある言い方だな。ただまぁ、そこまで言うならその礼、受け取っとく」

「うん」

 

 

 

 

 

新華が礼を受けた事でシャルルは安堵の笑みを浮かべ、新華も後悔の1つから開放された。お互いの笑みが自然になる。

 

 

 

 

 

「ところで新華は何をしていたの?」

「ん? ああ、コレ読んでたんだ」

「『ハムレット』…シェイクスピアの作品だね」

「ああ。たまに読みたくなるのさ、ここの本をな」

『------』

「ん、まぁ、ほっといても大丈夫だろ」

「サヤカは何て?」

「いや…何でもないさ」

「?」

「(………ドアの向こうで何してんだアンタら…)」

 

 

 

 

 

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---side 青木一家

 

 

 

 

 

新華とサヤカにバレバレの『アンタら』、青木両親、実の3人はドア越しに新華とシャルルの会話を聞いていた。

 

 

 

 

 

「あの子が、新華がまた(・・)引っ掛けた女の子か。一体どれだけの女の子を惚れさせれば無茶を止めるんだ?」

「分かっているでしょうあなた。あの子は意図せずに女の子を引き寄せているって。無茶するのは昔からで、女の子が付いてくるのはあの子の意図している事じゃ無いでしょう?」

「いやそうなんだがな…。こうも何人もの女の子を惚れさせるとなると、いつか刺されないか心配でな…」

「…一夏君の方が深刻じゃないかしら?」

「…あれは比べてはいかんだろう」

「…そこまでなんですか? 織斑 一夏って」

「新華が守っている御陰で何ともないみたいだが、いつ刺されてもおかしくないな。新華は自分で何とかしているみたいだが」

「………兄貴は無茶っていうか無謀に真正面から喧嘩売ってますよね」

 

 

 

 

 

初見の金髪の少女が新華を訪ねて夜に家に来る。これ程気になるイベントも無いだろう。予想通り新華に惚れた女子だった。しかも一夏が落とした後に新華に落ちたパターン。

 

 

 

 

 

「『白騎士・蒼天使事件』より前はこうじゃなかったと思うんだがなぁ。あの事件から新華の全てが変わった。新華は学校の出席日数ギリギリ計算して行方不明になっていたし、気付けば地元の不良たちをシめていた。モテだしたのはこの時期からだな」

「大きな怪我をしていたのもこの時期からだったわね。そして」

「このソレスタルビーイングの構想が練られ出したのもその時期と」

「そうだ。家に居ない事が増えたから心配していたんだが、その理由が判明したのが、あの束ちゃんの発表」

「織斑 一夏の後に無理矢理報道されたって言うアレですか。その時兄貴はどうしていたんですか?」

「束ちゃんからもらった工房で何か作っていたな。家に居る時はモノ作りが好きな只の男の子なのにな」

「そうね。私達の前ではちゃんとした息子なのに…」

 

 

 

 

 

両親から見れば新華は少し特別な、自分達の息子であった。蒼天使だとか院長だとかそんな物は関係なしに。新華も吹っ切れた後は両親に甘える部分も出てきて、実という弟を連れてきてからは長男としての役割も果たしている。

 

 

 

 

 

「今居る彼女も新華が好きな様子だし、新華も誰か彼女を作ればいいものを。更識の娘さんを始めとして、新華の彼女になりたい娘は大勢居るのに」

「兄貴は自分がしてきた事に執着してますから、今のままじゃまず彼女を作らないでしょうね」

「あの子はせっかく正常な性欲はあるのにねぇ」

「………へ?」

「知ってる? あの子本棚の裏にスペース作ってエッチな本隠しているのよ? 何冊かIS学園に持っていっているのも確認しているし」

「………どうやって確認したんだ?」

「ほら、更識の娘さんで、お姉ちゃんが居たでしょ? あの子が教えてくれたのよ」

「………新華」

「………兄貴」

 

 

 

 

 

青木父と実は、ドアの向こうに居る新華に哀れみの視線を向けた。新華の性生活が母と身近な女子に筒抜けである事と、いつの間にか外堀が埋められかけているのを。さらに言えば、青木家が知らない所(デュノア家)では既に新華を落とす指令がシャルルに与えられている。

もう1つ言えば、各国家は、代表候補生に取り込んで欲しいのはどちらかというと一夏でなく新華で、日本とロシアとフランス以外は技術格差が出来る事に焦りを感じている。日本、ロシア、フランスの3国は、自国の国家代表と代表候補生が新華に集中してアタックしている事に安心しているが、なるべく早く味方にして安心させて欲しいと考えている。

新華の争奪戦は、実は一夏より深刻で世界規模にまで発展していた。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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しかし新華は女性との距離を『友達』以上に縮める事は無い。実の言う通り、自分が今までしてきた事に、罪に執着しているからだ。その罪は前世のものも含まれている。青木母は親子関係でサヤカは娘のような存在なので例外だが、それ以外の女性を新華が彼女にすることは無い。

以前新華本人が一夏や弾に言った通り、自身の弱みとなり不幸な目に合わせてしまう。もう戻れないなら突き進めばいいと開き直り近付く女子を突き放していた。

 

 

 

 

 

「へぇ、じゃあ一夏は部屋で洋画を見てるんだ」

「今はどうか知らないけどな。シャルルもやってみたらどうだ?」

「うん、いいかもね。………ところで新華はいつまで僕の事を『シャルル』って呼んでるの? ちゃんと『シャルロット』って呼んで欲しいんだけど」

「今更だろ。それに最初から『シャルル』って呼んでたから今更直すのも違和感があってな。それに『シャルル』の方が短くて呼び易いだろ」

「僕の名前はもう対外的にも『シャルロット』だよ。いつまでも偽物の名前は嫌なんだ」

「…まぁ確かにそうかもしれんな。ま、出来るだけ努力してみるか」

「そうしてね。で、出来れば『シャル』でも…」

「却下。そんなに付き合いが長いって訳でもないのに一夏(鈍感)みたいに馴れ馴れしく呼べるか」

「…じゃあ長い付き合いになれば呼んでくれるの?」

「揚げ足をとるなよ。別にそういう訳でもない。鈴の場合は向こうからそう呼んで欲しいって提案があった訳だし、長い付き合いの会長や簪さんにだって言っているわけじゃないしな」

 

 

 

 

 

自分の肉体と心を傷付けながら、どこまで行っても1人を感じている新華。今のままでは1人のまま完全に壊れてしまうだろう。サヤカがその姿と行動で新華の心を癒そうとしているが、それは心が壊れるまでの時間稼ぎにしかならない。本当に心を癒すには新華の全てを受け入れ共に在ろうと決めた者にしか出来ない。前世では、彩夏先生がその役割を持っていた。だが新華は癒える前に死んだ。心が癒され始める直前に死んだのだ。あの戦闘に生き残り孤児院に帰っていれば、心配した彩夏先生に救われる筈だった。

 

 

 

 

 

「じゃあまずは『シャルロット』って呼ぶ所からだね」

「まずって何だよ」

「いいから、今呼んでみてよ」

「えー…。なんでそんなハズイ事を…」

「いいから!」

「ええー…。………シャルr…ロット」

「だめ。もう1回」

「………シャル…ロット?」

「だめ」

「…シャルロット」

「うん!」

「…やっぱ今まで『シャルル』って呼んできたから違和感あるわぁー…。『シャルロット』でなきゃ駄目か?」

「駄目」

「はあぁ…」

『------』

「いや、まぁ確かに失礼だから今度からは気を付けるけどさ…」

「サヤカも同じ事思ってたのかな?」

 

 

 

 

 

だがこの世界にサヤカは居ても彩夏先生は居ない。それどころか悲しみと絶望を共有する映画部の面子も居ない。たった1人、この世界に1人だけのパラベラムという事実が新華を縛り付けていた。そして、再び有名人になり多くの責任も背負った事が新華の心をすり減らしていた。

同時に子供達や趣味のMS製作、一夏達との生活は楽しいものであり、心の崩壊を遅くしていた。

それ程に、ソレスタルビーイングには今新華の心に必要なものが揃っていた。新華自身が作った楽園に。IS学園よりも危機感がしっかり有る楽園に。

 

 

 

 

 




このまま行けば、現実的に女尊男卑になりそうですよね。緩やかに。IS世界よりも穏やかな、平和的に女性に頭が上がらない世界に。
ということで、敢えて言わせてもらいます。
母と嫁は家庭内最強と。

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