IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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66話目。
今回side が多いです。
前話の新華が居なかった時間を『丸2日』から『丸1日』に変更しました。


後悔

 

 

 

 

 

新華は両肩のGNドライブでステルスを展開し本体と背のドライブで空を突き進む。今まで何度もやってきた事なのでその動きは違和感を感じさせない。

 

 

 

 

 

「(くそっ、この事態を予測すべきだった! 俺が関わったモノは大抵いい目に会ってないのをすっかり忘れてたクソッタレ!)」

 

 

 

 

 

新華は朝1番にヴェーダで情報を確認した時、デュノア夫人からの電話があった。『シャルロットが誘拐された。ライバル会社が新華から入手した技術の入手が目的と思われる。現在シャルロットの無事は確認しているが、変わりにシャルロットの交換条件で身代金と開発者を連れてくるよう要求されている』という内容だった。シャルルにボディーガードも付いていたのだが、そのボディーガード達は銃で撃たれ何人か死人が出ている。同時に中学の時のシャルルの友人も一緒に拉致されたらしく、騒ぎになりだしていた。

 

 

 

 

 

「(この調子なら早く着く。時間も惜しいから何処にも寄らない。いつも通りの隠密行動だ。それと、後で面倒になるなら噂を利用させてもらおう。確か治安が悪い所や各国の裏路地で殺しまくった時に付いた厨2的なあだ名があった筈だ。それに乗せてもらう)」

 

 

 

 

 

新華が束と共に各国を回っていたとき、クアンタで破壊行動だけをしていた訳ではない。食料を買いに街に行ったり、裏路地で屯している犯罪者を殺して回ったりしていた。その時は外に出ていたので普段着だったが、汚い場所が多かったので衣服が汚れ、くーちゃんへの影響を考慮して好きでもない服を何着も買う羽目になったりしていた。そのお陰で色んな国の言語や買い物が出来るようになったという副産物もあったが。

 

 

 

 

 

「(シャルルのダチも居るらしいし、流石に殺すのはダメだな。そう、殺しは(・・・)な。行動不能にする位ならいいな。後は性格見て決めるか。取り敢えず探そう。衛星とか全部使うぞ。友人がレイプで精神崩壊とか、シャレにならんからな…)」

『------』

『---よし、よくやったサヤカ。ヴェーダから衛星経由で車を見つけて、中学の近くで助かったな。監視カメラから車のナンバーを確認…追跡。このまま行けば…』

 

 

 

 

 

新華は空で1人、サヤカと会話しながら移動していく。

 

 

 

 

 

「(ここで遅くなってたら何の為に鍛えたんだってな!)」

 

 

 

 

 

着々とフランスに近付いて行く新華。シャルルが救出されるまで、あと少し。

 

 

 

 

 

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---side シャルロット

 

 

 

 

 

夜。シャルルは中学時代の友人の2人と拉致されとある裏路地にある廃ビルの中で監禁されていた。両手と両足は縄で縛られ壁に寄りかかって居る。拉致したのは元軍人と思われる3人の男と4人のならず者たちだった。元軍人はハンドガンとマシンガンを、ならず者はハンドガンで武装し、シャルル達の周りに立っていた。

 

 

 

 

 

「………次の連絡が来るまで待機だそうだ」

「おいおい、それまでこの殺風景の中じっとしてろってのかよ!」

「冗談じゃねぇぜ! 折角金が貰えるからやったってのによぉ!」

「なぁおい、コイツらで遊んじゃいけねぇのか? ウヒヒッ」

「! い、いや…!」

「…っ!」キッ

「やめろ。我々の仕事はクライアントが目的を達成するまでここで待機する事だ。余計なマネはするな」

 

 

 

 

 

元軍人達がシャルル達を守る様にならず者達の間に立つ。シャルル達はその対立に驚くが警戒は解かない。

 

 

 

 

 

「チッ、軍人さんは堅いねぇ。あ、今は()だったか?」

「黙れゲスが。貴様らは外で見張りでもしていろ。貴様らではこの少女を抑えられんだろうからな」

「ケッ、へいへい。おら、行くぞお前ら」

 

 

 

 

 

3人の元軍人達を残して部屋を出ていくならず者達。どうやら部屋が階段の傍、それに2階より高い所に居るのか、階段を降りていく足音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「………済まないな。本来ならそこのデュノアの娘だけの予定だったのだが、関係無い君まで巻き込んでしまった」

「え、ぁう」

「………本当に済まないと思う。だが我々も今の時代、こうでもしないと食べていけないのでな」

「え、えっと…」

「ああ、身の安全は我々が保証しよう。腐っても元は軍人、あんなゲス共に触れさせはしないさ」

 

 

 

 

 

そう言うと元軍人3人は部屋の出入口、シャルル達の傍、窓の傍に位置した。

 

 

 

 

 

「しゃ、シャルロット…私達、どうなるんだろう…」

「…多分、僕だけが目的だったって事だから、デュノア社が持ってる何かを目的にしているんだと思う。つまり人質って事…かな」

「じゃ、じゃあ帰れないの!? それに、もしかしてこのままこんな所に居なくちゃいけないの!?」

「………」

「っ! 何で! どうして私がっ…!」

 

 

 

 

 

友人の言葉と嗚咽が廃ビルの1室に響く。シャルルは巻き込んでしまった事に申し訳なく思い何も言えず、3人の元軍人は自分達がしている事に罪悪感を覚えながら戻れない道を行くしかなかった。

そして時間は過ぎ、元軍人達とならず者達の間で何度か険悪な雰囲気が出たが、クライアントの連絡も無いまま時間が過ぎる。

 

 

 

 

 

「誰か、誰か助けてよ…帰りたい…」

「………(新華だったら、どうしていただろう…)」

 

 

 

 

 

精神的に参ってしまった友人の隣でシャルルは、一夏より気になってきた新華を思う。そして隣の友人を励ましながら状況の好転を願った。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---side 一夏

 

 

 

 

 

朝。鈴と食堂に来た一夏はテーブルに座る簪と本音を見つけた。しかしいつもなら新華が一緒なので違和感を感じた。

 

 

 

 

 

「更識さん、のほほんさん、おはよう。新華は?」

「おはよ~おりむー。なんかね~、朝から居ないんだよ~」

「へ?」

「アイツ、また行方不明? 今度は何してんのかしら」

「えっと、確か生徒会長が同じ部屋だったんだよな。何か知ってるかな?」

「…お姉ちゃんなら、生徒会室にもう行っちゃったんだけど…」

「だけど?」

「すっごく不機嫌だった…。それで、新華君、どこかに行ってるみたいなんだけど…」

「あ、そうなんだ。何処に行ってるんだ?」

「分からない…少なくとも今日は居ないって言っていた…」

「生徒会長が?」

「うん」

 

 

 

 

 

一夏と鈴も隣のテーブルに座り朝食を取る。

 

 

 

 

 

「新華、どこに行ってるんだろうなー」

「ねぇ一夏。新華の今の状況ってさ、昔あたし達が言ってた放浪癖じゃない?」

「ああ、確かに。ってことはまた世界放浪してんのかもな」

「あー有り得るわね」

 

 

 

 

 

一夏は、自分が言っている事が正解とは思わず、笑いながら鈴と談笑する。概ね、IS学園は平和だった。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---side デュノア社

 

 

 

 

 

デュノア社社長室ではシャルル以外の一家が揃っていた。その表情は暗い。

 

 

 

 

 

「ああ…シャルロット………」

「…やられたな。ボディーガードを数人殺してまで誘拐するとは、流石に予想外だった」

「………」

 

 

 

 

 

シャルルが誘拐されデュノア社には犯人達と思われる者達から身代金を要求されていた。そのうえで身代金を持ってくる相手を『シャルロットと確認出来る開発部の人間』と限定されていた。

 

 

 

 

 

「これは、やっぱり新華君の技術が欲しいって事だな」

「ええ。恐らく開発部の人間も連れて行く気でしょうね。相手はIS開発をしている何処かの会社でしょうけど。しかし素人がこんな事すればどうなるか分かるでしょうに…」

「…シャルロットの無事は確認したけど、一刻も早く助けないと。どんな目に遭うか…」

「っ! シャルロット…あぁ………」

「…でも、技術を渡す訳にはいかないし、従業員を渡す訳にもいかない」

「そうだね。でも、どうしたらいいか…下手をするとシャルロットは戻って来ない。それどころか犯人達に…」

 

 

 

 

 

シャルル母は顔を真っ青にし、社長と夫人も難しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

「…警察には?」

「犯人側からの声明で『警察には連絡するな』と。『連絡した場合はシャルロットと共に監禁している少女もどんな目に遭うか分からない』と」

「………その共に捕まっている少女が居るのもマズイ。もしシャルロットを助けられても少女が助からなければ、会社の印象が悪くなって経営がまた難しくなる。だからといって大人しく指示に従うのも…」

「なので、警察には連絡していませんけど、彼には連絡しました」

「彼…………新華君か!? しかし彼は」

「ええ、前とは違って日本に居る。それに以前の様に自由に動くには時間が掛かって間に合わない」

「なら…!」

「でもね」

 

 

 

 

 

夫人は2人に視線を向け

 

 

 

 

 

「彼、『なんとかします』って言ってたわ、即答で。それも『俺が原因なら責任は俺が取ります。キッチリシャルルを連れ戻します』って。もしかしたら、もう来ているのかもしれないわね」

 

 

 

 

 

その言葉には確かな信頼があった。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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フランスの夜。深夜の港に1つの影が現れる。その影は右腕を巨大な銃にして静かに暗闇を疾走する。港を出て裏路地と建物の屋根を使い超人のスピードで走る。

 

 

 

 

 

「………………」

『------』

「………こっちか」

 

 

 

 

 

サヤカのサポートを受け新華は誰の目にも触れないように跳ぶ。夜中故に新華を目撃する人間は居らず、見えても一瞬。一瞬見えても鳥や猫か何かと勘違いしてしまうだろう。

夜中に『疾走する』体が『思春期の』この世界にたった1人しか存在しない『パラベラム(転生者)』。今まで数多くの命を奪ってきた存在は、2人の少女を助ける為に、誰にも知られない様に闇と同化する。

 

 

 

 

 

「(無事でいろよ)」

 

 

 

 

 

両手両足から重りを外し更に加速する。深夜の街は新華をツキアカリで彩った。

 

 

 

 

 

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---side ならず者

 

 

 

 

 

「ったく、あんのクソ軍人め…。あいつらが居なけりゃ今頃あのガキどもで愉しめたのによぉ」

「しょうがねぇよ。どうせ金を貰えりゃ好きにしろって言われてんだ。それまで楽しみはとっとこうぜ」

「そうだな。へへっ、あのカラダはそそられるよなぁ」

「くくっ、そうだなぁ…。ほんとだったら今からでも鳴かしてぇけどな!」

「違いねぇ!」

 

 

 

 

 

廃ビルの1階。ならず者達が集まって会話をしていた。今回の誘拐はデュノア家が考えた通り新華の技術が欲しいライバル会社が起こした物だった。しかし技術が手に入ればシャルルに用は無いのでそのままならず者達に任せるという決まりだった。元軍人達は金を受け取るだけでその事を知らない。

 

 

 

 

 

「そういや今は聞かなくなったが、とある都市伝説があったよな」

「あ? なんだそれ?」

「何だったか…ああ、『裏路地の死神』だったな。なんでも、裏路地で悪さしてると魂が抜かれるらしいぜ?」

「あ? 死神? なんだそりゃ。悪さってーと俺らのような事してたりか?」

「なんでも、全国で神出鬼没で、その姿を誰も見たことが無いらしい。魂が抜かれた奴ぁ発見された時は生きているがじきに衰弱して死ぬんだと」

「魂だぁ? はっ、どうせ誰かが吹かしたんじゃねぇの? そんな馬鹿な事があるかい」

「以前は頻繁に聞いたんだけどよぉ、いつからかパッタリと聞かなくなったんで今じゃ真相は分からねぇ」

「真相も何もねぇだろ。………ってそこの馬鹿ども起こせ。俺らが寝る番だ」

「あいよ」

 

 

 

 

 

シャルルのボディーガードを殺したのは彼らである。元軍人の3人は拘束するだけだったが、ならず者達は殺しただけでなく肉体目的でシャルルの友人も一緒に攫ったのだ。これが元軍人では理由が違ったが同じ結果になっただろう。後者は『情報の漏洩を防ぐ為』に。ならず者が仲間を起こす。その手にはハンドガンが握られていたが、すぐに意味が無くなった。

 

ならず者達は既に死神の鎌ならぬ銃口が自分達を狙っているとは思わなかった。もうすぐ太陽が登るのだろう明るみが出てきた空に気付き視線を空に向けたのを死神が見逃す筈もない。

 

そしてならず者達だけでなく死神の話を知っている者は勘違いをしていた。

 

その死神がするのは『魂を抜く』のではなく『精神、神経を破壊する』ということを。

 

廃ビルのある裏路地に罪人が居て、知り合いを見捨てる程死神は人間を辞められないという事を。

 

ならず者達はまだ死にたくなかった。

 

だが『裏路地の死神』はならず者達の様なクズを殺す事に躊躇いが無かった。

 

銃声が響く。

 

 

 

 

 

 




元軍人達の事は次回の冒頭に軽く書く予定です。
なんだか夫人が少しカッコよくなってる?
一夏は何も気付いてませんが、中学までの時にも新華が誰かを救出に向かう→一夏は知らない という事が多々ありました。というより新華が知らせてませんでした。
最後の締めをパラベラムっぽくしたつもりなんですが、出来てますかね?

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