臨海学校最終日。新華は朝からの撤収作業とレポートの提出を済ませて帰りのバスの中に居た。
「あ~…すまん、誰か飲み物持ってないか?」
「唾でも飲んでろ」
「知りませんわ」
「あ、ゴメン飲みきっちゃった」
「有るがやらん。俺の生命線だ」
「え~…新華くれよー…寝不足で重労働だったんだ」
「自業自得だバータレ。というか何故にシャルルさんは隣に座っているんでせうか?」
「えっと、駄目?」
「いや、そうじゃなくて」
「あー…喉乾いた…」
今回の並び順は左窓側から箒、一夏、新華、シャルルである。ハロ兄は本音の元に居るがハロ弟は簪の所、つまり4組のバスに居た。今の新華はクアンタの調整以外は何も出来ない。しかもバスに乗った後にすぐ終わってしまい本格的にやる事が無くなった新華は
『------』
「撫でてるだろ…というか本当にサイズ自由に変えられる様になったのな。成長したって事か?」
『------』
「バスの中で肩車は無理だから。というか普段と真剣な時の精神年齢の振り幅が広くないか? 出撃の時はかなりサポート真面目にやってるのに」
「…サヤカは完全に新華に甘えているな。本当に父親と娘にしか見えんぞ。サイズ的にも絵的にも」
「ラウラうるさい。時間が立つ程言うこと聞くようになってるのはいいんだが、甘えが目立ってきたなぁ…。知的好奇心も出てきたし、可愛いことは可愛いんだけどさ」
「親馬鹿ここに極まれりか?」
「親言うな。間違ってないかもしれんが、この歳で父親呼びはキツイ」
新華の膝の上に子供サイズVer.のサヤカがチョコンと座っていた。全身銀色なのは変わらないが、心無しか体に色が付き始めた気がする。新華のオカンっぷりも発揮され完全に親子である。
「いいなぁサヤカは。思いっ切り甘えられて…」
「シャルルさんや、その発言は一夏に甘えたいからだよな? なぁ、サヤカと俺を思わせぶりに交互に見ないで頂けませんかね…!」
「いいじゃない。別に…」
「あー…なんだか暑くなってきた気も…」
「なってない。なってないぞ一夏。寧ろお前の周りが熱いからな、お前に」
「何おかしな事言ってんだよ新華…あ、本当にやばくなってきた………」チラッ
「なっ………何を見ているか!」/////
「ぐえっ」
「ふんっ」///
一夏が箒に視線を向けると、箒は昨日の事を思いだしたのか顔を赤くして一夏にチョップ、窓の方を向いてしまう。そして箒、ラウラ、セシリアの3人がいそいそと自分の鞄の中から新しいペットボトルを取り出す。新華はその行動を見てもう何も言う気が無くなった。
「もう何も言うまい…」
『------』
「あ? …来たのね。千冬さんに話は通してあるみたいだが、何をする気だ…?」
「あー…しんど」
「「「い、一夏!」」」
「ん? あれ?」
「失礼。織斑 一夏君は居るかしら?」
「あ、俺です」
「あらそう、君が…」
「(もうか? もうなのか!? いや、
新華は戸惑う一夏とは別に内心かなり焦っていた。もうこれ以上名ありキャラを落とされても庇いきれんぞと。
というか一夏は戦闘以外の理由で死ぬと思う。絶対にコイツのぺルソナはオルフェウスである。キタローには適わないと思うが。ただオルフェウスは妻以外アウトオブ眼中だったが、その妻の部分を一夏の場合千冬に置き換えられる気がしてならない。シスコンだし、鈍感だし。
「やば…またシャレにならん事が…。ええい、一夏のフェロモンは化け物か…!」
「新華何さっきからブツブツ言ってるの?」
「あ、あの、あなたは?」
「私はナターシャ・ファイルス。『
「え」チュッ
「「「「「「!?」」」」」」
「これはお礼。ありがとう、白い騎士さん」
「え、あ、う…」
「それで、この子が織斑君だとすると…」チラッ
「………ええ、俺が蒼天使の2つ名を持つ青木 新華です。んで、この膝の上に乗っているのがその蒼天使『Evolveクアンタ』の自我意識であるサヤカと言います。以後、お見知りおきを」
『------』ペコリ
「…噂は本当だったのね。『蒼天使は自我を獲得した』って。それに…あなたの目、人を殺しているでしょう?」
「「「「「「!?」」」」」」
「で? それがどうかしました? 軍人さん」
「いいえ? ただ思うことがあってね。私達軍人は、正式に配属されるとこう言われるの。『蒼天使と思われるISに戦場で出会ったら死んだと思え』ってね。今本人を見て納得したわ」
「そうですか」
「ええ。
「へぇ…そこまで見抜くとは、少々
先程の一夏の時とは違いバスの中の空気が冷え込む。新華とナターシャの視線はぶつかっているものの、その瞳は感情を映していなかった。
「…ま、今の俺はIS学園に在籍する1男子ですから? 戦場に出る事は
「今更それを言うのね。なら、1つ聞かせて貰えないかしら?」
「なんでしょうか?」
「
「ええ。もっともソイツとはもう俺も、敵同士ですがね」
「そう。ならあなたは敵じゃないと?」
「敵の敵は味方。そう思って頂いて結構です」
「そう。安心したわ」
明らかに安堵の表情を浮かべるナターシャ。その後、サヤカが何かに反応し新華に語りかける。
『------』
「…へぇ、なるほど。んで? お前はどうしたい?」
『------』
「…ふむ、それならいいか。ファイルスさん、少々お待ちを」
「…何かしら」
「サヤカが
「鍵…?」
「ね、ねぇ新華、さっきから一体…?」
「ちょっと悪いな。…サヤカ、大丈夫か?」
『------』パキパキパキ…
サヤカが新華の膝のうえで屈むと、背中から小さな羽が出る。この光景を視界に収める事が出来たナターシャ、シャルル、ラウラ、箒、セシリアは驚愕した。
「そ、れは」
『------』
「ん、これか」プツッ
『----------』
「ああ、痛かったか? すまんな、俺もこんな事は初めてだからな」
『------』
「あいよ。ハイ、コレを彼女に渡しておいてください」
「これは…羽?」
新華が渡したのはサヤカから生えた翼の羽だった。サヤカはすぐに羽を戻して伸びをする。
「渡すと言っても接触させるか収納させるだけでいいそうです。それが有れば限定的ですがサヤカの居る
「! あ、あなた…!」
「後は彼女本人(?)に決めてもらってください。あ、この話は査問委員会には通さないでくださいね。あの利権者どもが五月蝿いので最悪
「………、お礼は、言った方がいいのかしら?」
「さぁ? 言うなら、このサヤカに言ってください。俺とは違って純粋ですから」
「そう…。ありがとうね、サヤカ…ちゃん?」
『------』
「『どういたしまして』だそうです」
「そう」
バスの中の空気が緩む。しかし話の内容についてはその殆どが付いて来れなかった。1人を除いて。
「(福音のコアが、コアネットワークから外れただと!? そして、話からサヤカはコアネットワークに入っていないのか!? それに、別のネットワークだと…!)」
ラウラは脳量子波が使えるが故に新華とサヤカの会話が全て聞こえていた。驚愕ばかりで何も言えない。
「さて、用事は済んだからもう行くわね。出来れば、敵としては会いたくないわね」
「そうですね。俺も無駄に殺しをしたくありませんし」
「言ってくれるわね…。それじゃ、織斑君もまたね、バーイ♪」
「は、はい………」
「「「「「「………」」」」」」
「さて、寝るか。サヤカ、もうバイザーに戻れ」
『------』
「あ? 聞かねぇとわからん。シャルル」
「! な、何?」
「サヤカが外を見たいらしいんだが、そっちに邪魔しても大丈夫か? バイザーだけかね○どろいどのサイズにして置くのもアリだが」
「えっと、大丈夫だよ?」
「そっか、サンキュ。なら、頼んだ。俺は寝る」
「あ、うん」
『------』
「ああ、おやすみ」
新華はそう言うと目を閉じ体をシートに沈ませ眠りにつく。サヤカは小さくなりシャルルの体に乗り移り窓に乗る。結局新華は昼まで眠り続けた。
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---side ナターシャ&千冬
「で? どうだった、2人の男性操縦者は」
「1人は思ったよりも素敵な男性で、もう1人は化け物ですね。見事に対照的で仲良くしているのがおかしいくらいでしたよ」
「…青木か。しかし、軍人のお前から見ても化け物か」
「ええ。人を殺すのを躊躇わない目でした。もし許されるのなら、早めに殺した方がいいですよ、アレ」
「………そうもいくまい。アイツを殺せる実力を持つ者は最早居ない。それは分かるだろう?」
「ええ、悔しいですが伊達にもう1機出てきた福音のコピーを消し去るだけありますよ。相対しただけで悪寒が止みませんでした」
彼女はバスから降りた後、千冬の所に向かい話をしていた。
ナターシャは新華の目をきちんと見つめ返していたが、内心は冷や冷やであった。どこまでも底が無さそうな瞳は絶対的な恐怖を与える。
「だからこその入学だ。アイツは守る事に固執している。守るものを増やせば迂闊に動けないだろうし、いつでも拘束出来る…というのが政府の考えだが…」
「それでは拘束出来ても、殺されるでしょうね。それに守る対象が傷付けばどうなる事か…」
「………考えたくないな」
「そうですね。そういった事態にならない事を願うしかありませんね」
2人はため息をつき苦笑いする。そうなった場合、新華とクアンタを止められるのは千冬でも難しいと分かるから。
「しかし、その羽は何だ? 持っていなかっただろう?」
「それが…サヤカでしたっけ? その子があの子と友達になりたいからと、翼から出してくれた羽なんです」
「…翼? そんなもの付いて無かった筈だが?」
「…生やしましたよ? なんですかアレ?」
「………」
「ただ、査問委員会に言うなと釘を刺されましたね。でないと始末する必要があると」
「………夏季休暇も監視は付けるが、強化した方がいいか」
「そうしてください」
2人はハァ…とため息をつき頭を抱えたくなった。当事者がバスの中で呑気に寝た事も知らず。
---side out
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「ふあぁ…よく寝た」
『------』
「…肩に乗るな。伸びらんねぇ」
「もう…ね。新華がいくら否定しても親子だよ。そうとしか見えない」
「「オヤコ、オヤコ」」
「えっと、お疲れさま…」
「あおきーハロハロ返すね~」
バスから降りてIS学園に戻ってきた1年生。専用機持ち達は先頭に居る。寮に戻った後、新華は簪と本音と共に校舎の生徒会室に向かった。
「会長ー。1年生が臨海学校から帰ってきまし---うぉ!?」ドドドッ
「簪ちゃーん!」ダキッ
「お、お姉ちゃん。た、ただいま」
「お帰りなさい。大丈夫だった? どこか怪我してない? あだっ」スパァン
「早ぇよ。どんだけ飢えてんだこの
「今駄姉って言った!? 言ったわよね!」
「うるさいっすね」
「おねーちゃんただいま~」
「本音、お帰りなさい」
各々が帰りの報告をして席に着く。そして事件の内容を話す。新華が束とした会話は伏せる。
「へぇ~そんな事があったんだ~」
「ああ。負傷していた一夏の傷もセカンドシフト時に完治されてて、その日の夜中に旅館を抜け出して命懸けの鬼ごっこをするくらいピンピンしてたよ。ま、当面の問題は…」
「篠ノ之 箒さんの専用機の扱いと所属ね…。また仕事が増えるとなると、憂鬱だわ」
「でしょうね。ただ、その仕事の幾つかは箒本人にやらせた方がいいですよ」
「あら、そう?」
「箒は今はどの国家にも所属していない、束さんが作った第4世代ISを所持している。本人がこの重大さを自覚してないんですよ。1度福音によって自信をへし折られましたが、人は戦闘以外が恐ろしい。その事を少しでも教えないと、今後取り返しの付かない事になります」
「ふむ、確かにそうね。それに、単なる我侭で専用機を与えられたなんて知れ渡ったら、今の2、3年生達が黙っていないでしょうね」
「ですね。守りは一夏に任せて俺らは対処に回りましょう。程々に」
座りながら会話は行われる。今の話題は福音の事件ではなく、その前に箒と、与えられた紅椿の扱いについてである。
「あら、程々に?」
「ええ。自分の行動が何を引き起こすのか、まだ分かっていませんから。それに言っても分からないのはこの1学期で十分分かりましたから、どうせなら直に感じて理解させた方が早いかなと」
「守りに織斑君が居るから?」
「ええ。一夏はそんな状況を許しませんし、そうなった一夏は意外と手が出やすい。そこのコントロールは任せてもらうとして、箒は自分からこの状況を選んだんだ。だったら、責任は取らせるべきでしょう?」
「………新華君は、やっぱり黒いわよね」
「箒の為だと言ってくださいな。いい加減俺がなんとかするにも限度がありますし、本人がなんとかしてくれないと」
「夏休みの前に?」
「いや、そこまで早くなくてもいいんじゃないですか? 噂が広がるのは早いですが、早めに収めてしまえば悪い方向で成長してしまうんで。『自分がやらなくても誰かがやってくれる』と」
「そこまでじゃないでしょ? 篠ノ之さんは」
「さぁ? 案外、専用機持ちの中で最も心が弱いかもしれませんよ? 意思は無駄に強いですが」
そんな事を話ながら時間は過ぎていく。一連のイベントは終わり、夏休みが近付く。
シリアス多めで原作3刊がしゅーりょー!けっこう色々書きましたね。
3刊まで書くのに66話も投稿してました。ただその内2、3話ほど設定に使っているので前書きの話数ですが。
次回は新華が使ったαユニットとハロ弟とアニメ版福音の設定を書く予定です。キリが良いんで。