---side ???
生まれたのは随分前の事だった。ただまだその時は今の様な自我を手に入れていなかった。そもそも自我なんて発生するハズが無かった。
私は只のシステム。入力されたプログラムに従い行動するだけのシステム。本来ならそれが自然だったのだろう。そしてプログラムが停止すれば削除されるはずだった。
だが
『………トランザム・バースト!』
『---これは………お前は、誰だ?』
そう問われた時、生まれたばかりの私は、ただ戸惑い混乱していた。だが彼の言葉は優しく私を包み穏やかな気持ちにさせた。
『…まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ』
そう聞こえた時、自分の中から少女が取り出されたのに気付いた。そして先程の世界が消え元の世界に戻っていた。瞬間、初めて
『やるしか、ないだろ…!』
彼がその声の後に私と目線を合わせてきた。レンズ越しに光るその目は生まれたての私に安心感を与え、根拠の無い信頼があった。この人がどうにかしてくれる。この人なら任せられる。自然と暴れていた体は静まり彼を求め両手を彼に差し出していた。
『………まさか、この機能を使うとはな』
『------』はやく、はやく
『さて、そう焦るな。すぐに始まるから』
『------』はじまる?
『ああ。ここからがお前のハジマリだ。色んな物を見て、色んな事を学んで、生きればいい。もう、お前は1つの命だからな』
『------』いのち?
『…そう、命。さあ、話はこれからいくらでも出来るさ。だからさっさと始めよう』
彼がそう言った時には既に自分と彼を先程の光が包み込んでいた。あの不思議と心地よい世界を構成する光。私は歓喜した。目の前の彼が自分をなんとかしてくれる。これから生きる事が出来ると。そして
『------クアンタム・バースト!』
光が広がった。そして気付いた。この光は彼の心が生み出しているものだと。彼の心が私を生み出し安心感を与えるのだと。私は彼を知りたかった。自分を生み出し包み込んでくれる彼を。
------おいで------
そんな声が聞こえた気がした。気が付けば手を彼に触れていた。そして彼の中に入って行く。彼が纏うISと1つになる。そして知った。彼は優しく暖かい。だがその根本には
私は彼を知る事が出来て嬉しいと同時に悲しかった。守りたくて、砕かれた心。本当の悲しみを知ったからあの瞳は愛に溢れていた。絶望を知り、それでも守りたいと思う彼は痛々しくも愛しかった。
『『新華君!』』
だからだろうか。その時彼の心に近い2人の声が聞こえた時、何故か自分ではなく彼女達に彼を救って欲しかった。同じ人間だからだろうか。しかし自分も彼を知る物として彼を癒す事位は出来るだろう。そう思い彼の記憶にある、彼と付き合いが1番長かった女性の姿になって彼の傍に居ようと思った。傍に居るというのは融合する前のクアンタも
『------』
彼を支えた。自分は物理的に支える事しか出来ない。でもそれが少しでも彼の為になると願って。
---side out
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夕方、保健室。ラウラはベットの上で目覚め見舞いに来ていた千冬と話をしていた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はい!」
「お前は誰だ?」
「わ、私は………私、は………」
「誰でもないのなら、丁度いい。お前はこれから『ラウラ・ボーデヴィッヒ』になるがいい。何、時間は山の様にあるぞ。なにせ3年間はこの学園に在籍しなければならないからな。その後も、まぁ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」
「あ………」
千冬の言葉にラウラは衝撃を受けた。あの鬼教官が自分を励ますとは思っていなかったから。
「なんだ。私が言うのがそんなに不思議か?」
「い、いえ!」
「冗談だ。だが、あの光を見たからこういうセリフも出てくるのかもしれんな」
「光というと…あの青木 新華の機体が放った…」
「そうだ。あの光は青木のIS『Evolveクアンタ』の無限機関から放出されている物だった。GN粒子と言ったか…兎に角、分からん事だらけだ。あのISは」
「…教官でも分からないのですか?」
「私とて何でも知っている訳ではない。特に青木の事は昔から分からない事だらけだ」
「昔から…ですか?」
「そうだ。あいつは子供のくせして子供ではなかった。大人と同じ視点に立ちいつも油断無く振舞う。まだ年齢が1桁の時にそれだ。神童などと呼ばれる時期もあったみたいだが、アイツはその言葉の意味を理解して真っ向から否定していたよ。その上、ある程度成長すると私と打ち合う位の力をいつの間にか付けていたものだった」
ラウラは目を白黒させていた。自分が幼かった時は軍の訓練施設に居り、当時の自分では千冬の足元に及ばないからだ。今でもそう思っている。だが新華はその頃には千冬と打ちあっていたと言う。千冬の表情も冗談を言うときのソレではなかった。
「失礼ですが、それは本当なのですか…? それに、教官が手加減していたとかは…」
「いや、本当だ。流石に負ける事は無かったが、日に日に強くなっていくあいつに手加減なぞ出来なかった。そもそも私が手加減をすると思うか?」
「いえ」
「話が逸れたな。そういえばあの光は何か身体に変化を及ばす物かもしれんな」
「肉体に…ですか?」
「そうだ。気付かないか? ラウラ、お前今、眼帯をしていないのだぞ」
「っ!?」
ラウラは慌てて顔を触ると左目に眼帯をしていなかった。
「なっ」
「あそこの鏡で顔を見てみろ」
「………は?」
ラウラは鏡に映った自分の顔を、左目を見て絶句した。そこに見慣れた眼帯と金色の瞳は無く、本来の赤い目が映っていた。
「戸惑うだろうが聞け。あの後お前の体に異常が無いか調べた。その結果『ヴォーダン・オージェ』がお前の制御下におかれた事が判明した」
「………へ?」
「意識してみろ」
「は、ハッ」
そしてラウラが意識すると視界が変わり左目が金色になった。そしてもう少し操作を試みると、制御が完全に出来るようになっていた。
「これは………」
「どうだ」
「も、問題無く制御が出来ています………」
ラウラは呆然とするしかなかった。
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ラウラと千冬が保健室で話している時、楯無を始めとする生徒会組は集中治療室に居た。目の前のベットでは幾つかのコードが繋がれながら眠る新華の姿があった。
「………それで、新華君の状態は?」
「今はただ眠っているだけで何処にも異常は無いようです」
「そう。………で、『Evolveクアンタ』の解析は?」
「変わりなく、進んでいません」
「やっぱりね。期待はしていなかったけど」
「申し訳ございません」
「しょうがないわよ虚ちゃん」
「そうだよお姉ちゃん~。簪ちゃんでも駄目だったんだからぁ~」
「うん…あのセキュリティ、異常に固くて…」
「そこまでくるとお手上げね。IS学園の技術でも解析出来ないなんて…」
新華の枕元に
「ですが先程の事態の後、待機状態のISが変化していたので何かあると思ったのですが…」
「前代未聞だものねぇ…ISの待機形態
「なにか変化しても待機形態は変わらないのにね~」
「それに、あの時クアンタが変化していた痕跡が見当たらない…どうして?」
「それも含めて、分からない事だらけよねぇ。新華君も起きないし」
そんな話をしていると
「………ぅうん」
「あ、新華君、起きそう?」コトッ
「? 今の音は…?」
何かが落ちた音がしたと思い見ると待機状態のクアンタが消えていた。そして
『------』
「「「「!!?!?」」」」
『------』
ベットで死角になった所から銀色の女性と思わしき生物が現れた。思わしきと言うのは、その女性の肌も銀色だったからだ。何処か山田先生に通じるような容姿だが、簪位の背丈しかなく、メガネを掛け今まで会った誰よりも穏やかさを感じさせる姿。
「あ、あなたは?」
『------』
「ハロッ! クアンタ、クアンタ」
「あ、ハロハロ~」
「えっ、クアンタって…」
戸惑う4人に脳量子波で話掛けようとしたが、伝わらず残念そうな表情をする。すると行き成りハロが飛び出し銀色の女性の周りを飛び回る。女性はどこか困ったような笑みでハロを見ていた。
「…く、ぁあああ。うるせぇぞハロ」
「あ、新華君!」
「あおきー起きた~」
「オハヨ、オハヨ」
「おはよーございます。生徒会勢揃いですか?」
「はい。起きたてで申し訳無いのですが、彼女(?)は誰ですか?」
「ん? 彼女…? ………、おいおい、何だよそれ」
『------』
「いや、確かに俺言ったけどさ? 何でその姿なんさ」
『------』
「は? 見たのか? ってか見れたんかい」
「あの、新華君? さっきから何を言ってるの? あと彼女は何?」
新華が銀色の女性と会話? しているのを見た楯無は新華に聞いてみる。すると新華の口から驚愕のセリフが飛び出した。
「あ、ああ。すいません。彼女…でいいのか? 彼女は俺が回収したVTシステムの成れの果てにしてクアンタの自我です」
「「「「………はい?」」」」
『------』
「あ? 名前? クアンタでよくね?」
『------』
「機体名じゃなく個体名ね………その姿じゃ決まってるんだが」
『------』
「ああ。『サヤカ』。お前の名前は今日から『サヤカ』だ」
『------』
「苗字? なんでそんなトコ気にすんだよ。それこそ『クアンタ』だろ。『サヤカ・クアンタ』。フルネームで表すとしたらコレしかねぇ」
『------』
「異論は認めねぇ。『サヤカ・クアンタ』で決定だ」
呆然とする4人を放っておく様に新華は名前を付けていた。サヤカは憮然としながらどこか嬉しそうだった。
その後、学園の上から下への大騒ぎになったのは言うまでもない。
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夜。新華は疲れた顔でハロと、興味そうにあちこちをキョロキョロ見ているサヤカを連れて今日入れる様になった大浴場に着替えを持って向かっていた。
「ダル。書類とか精々レポート程度しか書かなかったから時間が掛かった…サヤカ、あんまキョロキョロすんな」
「スルナ、スルナ」
『------』
「いや、見るなとは言ってないが…」
『------』
「…あー、分かった分かった。好きにしろ。ただし、浴場には入って来るなよ。今度簪さん辺りに頼んで見れる様にしてやるから。だから俺が入っている時は待機状態で大人しくしてろ。ハロも収納しとけ」
サヤカは待機状態でも外を見られるらしいのだが、折角人の姿になれるからと言い待機状態に戻らないのだ。新華は書類を終わらせた後にサヤカに一般常識を教え、条件付きで人形態にする事にした。条件とは
・新華が許可した時以外は非常時のみ人形態になってもいい。だが何か問題を
・クアンタ展開時は戦闘に集中する事。
・やたらと同化しない事。
・必ず新華の目の届く範囲に居る事。
・束を見たら即刻新華に脳量子波で連絡、とっ捕まえる事。
条件と言うより注意事項になっていた。
「あ、青木君!」
「山田先生。おはよーございます」
「もうそんな時間じゃありませんけどね…ところで、そちらが…」
「クアンタ、クアンタ」
「そうです。俺のIS『Evolveクアンタ』の自我、『サヤカ』です」
『------』ペコッ
「あ、どうも」ペコッ
大浴場に着くと山田先生が居た。サヤカと互いに挨拶をする。
「大浴場、入って大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫ですよ。ただ先に織斑君とデュノア君が入ってますが」
「………いや、大丈夫じゃないでしょう」
「アウト、アウト」
「え?」
「こっちの話です。2人以外は入ってないんですね?」
「ええ」
「ならりょーかいです。サヤカ、戻れ。ハロも」
『------』
「ハロ~」
「ふわあぁ、凄いですね」
新華の合図でハロは収納されサヤカは腰に待機状態のウォークマンになりぶら下がる。山田先生はその光景を見て感嘆のため息を吐いた。
「では
「あ、はいごゆっくり?」
そうして新華は着替えを適当に籠に入れ服を脱がずに風呂場の入口にまで近づく。すると一夏とシャルルの声が聞こえてきた。
『わかった---シャルロット』
『ん』
「流石一夏。完全に落としたな」
『と、と、ところでだな。あの、いつまでもこの体勢でいられると、正直色々マズイ事態が起こりうるんだが………』
「…は? どんな体勢だアイツら。まさか1線超えてねぇだろうな」
『あ、ああっうん! そうだね! ぼ、僕、先に体と髪洗っちゃうね!』
「………おいお前ら」
『『びくぅっ!』』
新華が我慢出来ずに2人に話し掛けた。因みにスライド式のドアに背中を預け見てない事を証明し2人に声が聞こえる様に少しだけ隙間を開けた紳士仕様である。
「俺が居るって事完全に忘れてんだろコラ。あと、風呂には体洗ってから入れ」
『し、新華!? 起きたのか!』
「ああ。お前らがイチャついている間にな。どうやらまだお前ら時間掛かりそうだから部屋に戻るが、上がったら言え。次入る」
『うぇっ、う、うん』
「…なぁお前ら」
『『な、なに?』』
「1線超えてないよな?」
『『ぶはっ、な、何言って!?』』
「超えてないならいいや。ただこれから超えるつもりなら風呂汚すなよー」
『おいいいいいいい!? 何言ってんだよ!』
「はいはいごちそーさまー」
そう言って叫ぶ一夏を無視し新華は風呂場を出る。
「あれ? 青木君、もう入ったんですか?」
「いえ、一夏とシャルルが真剣に話していたんで邪魔しない様にと。一夏達が出た後に入るので、ご迷惑をおかけしますが、一旦部屋に戻ります」
「そうですか」
『------』
「…出るの早ぇんだよ。では」
「ええ。また後で」
新華は早速人形態に戻ったサヤカを連れ部屋に戻った。
Life Goes On の歌詞ネタ入っているのに気付きました?やっぱりUXは偉大。
霧? 何の事ですか?
ラウラがヴォーダン・オージェの制御が出来る様になりました。ただキャラとしての特徴が…
そしてVTがクアンタと融合して自我となり姿がパラベラム世界の宮田 彩夏先生のものになりますた。新華の中で触れられない人であり、死ぬ前まで共に住んでいた人ですから。新華の中で存在が大きくなってもしょうがないと思います。それに、人を殺して居ない綺麗な手を持ち新華を受け入れた数少ない異性ですからね。