ちなみにフランス滞在中は新華はフランス語でペラペラです。基本新華はISが有る国の言葉は大体しゃべれます。でないと思うように動けないんで。
フランスに来て4日目の朝。新華は朝のランニングを済ませシャワーを済ましていた。
「さて、今日の予定は…」
ハロをPCモードにして色々と操作する。もうハロは新華の日常に欠かせない物である。
「えっと…まずは警察署に行って事情聴取。その後どっからか俺の情報を入手してきた軍に行ってISの指導か…正直後者は別に無視してもいいんだけどなぁ…後々めんどくさくなりそうだし、何より操縦者達がどの程度のレベルなのか知っておきたいしなぁ…」
その日の予定を確認していく。ちなみに新華が居る部屋は至って普通の部屋である。予約した後に名前をそのまま使った事に気付き心配になったがホテル側も仕事で一々気にしていられないのだろう、普通の部屋に案内された。その後新華に気付いた支配人が挨拶に来てスイートルームに案内されそうになったが丁重にお断りした。
「取り敢えず帰れるのは予定より遅い来週になりそうだから…会長と千冬さんに連絡くらいはしとくか」
新華はハロをPCモードにしたまま携帯を取り出し、まず生徒会室で仕事をしているであろう楯無にコールする。
「…あ、時差の関係で今、日本昼過ぎか。ま、会長なら丁度いいな。あとどっかで時間見つけてお土産買わんと」
そして電話が通じると、ニュースで新華が起こした騒動を見た楯無と千冬から説教を頂く新華だった。
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「だぁー…しんどいー…」ボスッ
「オツカレ、オツカレ」
「ホント疲れたぁー…」
夜。予定を全て消化した新華はホテルに戻りベットにダイブ。精神的な疲れが目立った。
「もーさー、警察と軍とかもう行きたくないね。よく千冬さんは1年間も居られたよね。俺は無理。社長さん位ならまだ大丈夫だったけど署長とか将軍とか無理。精神的に萎縮するだろーがー…」
警察署に行った時に署長が出てきて、軍に行けば将軍などの、つまりはお偉いさんが出てきたのだ。新華は束と行動を共にしていた『蒼天使』なのだから当然なのかもしれないが、新華本人からすればたまったものではない。社長などの立ち位置ならば新華の中で『民間』の区切りが出来るから堂々としていられた。しかし警察と軍は違う。前世以前の記憶もある為行きたくない所No.1である。しかも束とISでの違法行為をしてきた事もそれに拍車をかけている。
「スーツねぇからしょうがないけどさぁ…流石にお偉いさんの前に行くって分かってたら仕立ててきたっての。誰がお偉いさんの前で私服で堂々と出来るかっての…」
「バチガイ、バチガイ」
「そう言うレベルじゃねぇっての。はぁ…もう帰りたい。ホームシックとかじゃなくて気ままに過ごせるIS学園と家に今すぐ帰りてぇ…」
新華の言葉にもあった通りスーツを持ってきていなかった。故に新華はお偉いさんとの会談に私服で挑まなければならなかったのである。
場違いとかそういったレベルではなく萎縮っぷりがハンパじゃなかった。その代わりと言うか、軍でISの指導という名のフルボッコ祭りを開催していたが。
そこにマナーモードにしていた携帯が振動する。
「はぁ…もうやめやめ! あとは観光してお土産を確保して帰ろう! んで、誰からだ?」
「ダレダ? ダレダ?」
「…デュノア社長?」
怪訝な顔をして電話に出た新華。この電話で5日目の予定が決まってしまった。
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5日目。デュノア社社長室。
「…なぁ社長さんや」
「何かね」
「俺、言いましたよね? 後は夫婦と家族で話し合って下さいって。部外者の俺は帰りますとも」
「…言っていたね」
「なら 何 で 俺 を 巻 き 込 ん だ ? 何で他人の家の問題に首突っ込まなきゃいけないんですか」
今居るのは新華とデュノア夫婦にシャルル母。正直気まずいなんてものではない。空気が死んでいる。昨日の電話で新華は社長に協力を申し出されただけだった。ラファール・リバイヴの事だと思い、企業の開発を見れるならと勝手に思い込み安請け合いした新華が悪いのだが、気付いた時には遅かった。
「…私が頼んだのよ」
「夫人が?」
「ええ。正直彼女の顔を見て正気じゃ居られなかったでしょうから、抑えてもらおうと思ってね」
「…俺はストッパーか何かですか。
「この人はそういった事にはからっきしでね。経験上私が暴れたら宥めるのに時間がかかるのよ」
「宥めるとか自分で言っちゃったよこの人…そして社長さん、あんたの嫁だろ何とかしろよ…」
「………」
社長は黙ってしまった。新華は余りの理不尽さに頭が痛くなってきた。
「…それだけなら出てっていいですか? 俺、学園に土産買って行かないといけないんで」
「いいえ、聞きたい事はあるわ」
「なんですかい?」
「そこの愛人の娘が正体バレた時の事を教えて欲しくてね」
「………」
「あー…でもコレ言っていいのかな…? 真面目に」
「…シャルロットに何かあったの? 新華君」
「ん? お前彼と知り合いなのか?」
「あ、ええ。4日前に尋ねて来たの、彼。質問が有るって言ってすぐ居なくなっちゃったんだけど…」
「あの時はそのままここに来ましたからね。目的はシャルルから感じた『愛されているかどうか』を確認したかっただけですから」
「そうか…で、君の目にはどう映ったのかい?」
「この間も言いましたが、愛されているでしょう、シャルルは。ただ問題は父親である社長さんがハッキリしないせいでドロドロの関係になってややこしくなっているので、全ては社長が悪い。これに尽きます」
「………」
「黙っても何も進展はしませんよ。…もういっそのこと夫人とシャルルのお母さんで社長押し倒して本音聞き出したらどうですか?」
「!?」ガタッ
「「…なるほど…」」スッ
「いやいやいやいや、2人共? 今、そろそろ昼になるよ? 成程じゃないよね? これからまだ仕事があるんだよ? しかもここ会社だからね? って聞いてる!? 2人共! ねぇ!?」
「ごゆっくり~」
「ちょっと青木君! 部屋から出て行かないで助けて!」
「しっかり、2重の意味で絞られて下さいな。俺、テキトーにどっかで時間潰しますんで終わったら呼んで下さいねー」
哀れな悲鳴を背に社長室を出る新華。ピンク色の効果音を聞く前に退散する。
「パルパルする所なのか呆れる所なのかわからんな…」
「ドッチ? ドッチ?」
「まぁシャルルは愛されているって事で」
「ソレデイイノカ? ソレデイイノカ?」
「ドウダロウネー」
取り敢えず一番興味が有る技術部を探す事にした新華だった。
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3時間後
凄くげっそりしてやつれた顔でフラフラと歩くデュノア社長の姿があった。社員は社長を見てギョッとするか見なかった事にするかで近づかなかった。2人の女性を沈黙させた社長は連絡で新華が技術部に居るのを確認し向かっていた。
「ぐふっ…青木君め…」
新華に殺意をたぎらせながら歩いているが自業自得なので同情の余地は無い。むしろ愛されている事にパルパルされるべきである。技術部に近付いて行くと、防音の筈の扉から何やら喧騒が聞こえてきた。怪訝に思いながら扉を開くと
「だったら! ここの材料をコレにすれば伝導が効率良くなってエネルギーが確保出来ます!」
「だがそれだとコストが掛かりすぎる! 故にこの材料で構築すべきだろう!」
「量産と言ってもコアの数が少ないのにコストなんて言ってられますか! それに防御を考えるにしても絶対防御が有る中で動きの耐久性以外に使い道がありますかい!?」
「ならば、その材料を此処に使いさっきの部分をこの材料で使えばどうだ!?」
「………行けます! これなら出力も出せて機能も上がります!」
「よおし! なら早速実験だぁ!」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
「………」(゜д゜)
技術スタッフと新華がハロを覗き込みながら話をして生き生きと作業している光景が広がっていた。つい昨日まで作業が捗らずにどことなく位雰囲気だったのにも関わらず、今は明るい空気に包まれていた。
「これは…一体…」
「あ、社長さん。終わりましたか」
「あ、ああ。それで、これは、どういう状況なんだい?」
「いやー、一般企業の技術部も面白いですねぇー。今までとは違う視点での開発ってのは良い刺激になります」
「いや、だから、どうしてこうなったのかね…?」
社長は呆然としながら新華に目の前の状況の説明を求めた。先程の殺意なんて忘れている。
「行き詰まっていたみたいなんで、話を聞いて色々と。興味もありましたし、有意義な時間を過ごせましたよ」
「そ、そうかい…」
「おーい坊主! ここの武装なんだが上手くいかないみたいでなー! ちょっと見てくれねぇかぁー!」
「わかりましたー! では、行ってきます」
「あ、ああ」
「どれですかぁー!」
新華も生き生きとした顔でPCモードのハロを抱え走って行く。社長は呆然とその姿を見送るしかなかった。
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6日目。新華は今度はデュノア家本邸に呼ばれていた。どうにも家庭の問題が好転したらしく、その上ラファール・リバイヴな開発も驚愕のスピードで進み始めた事へのお礼だという。本邸の居間に案内され新華は社長と夫人、シャルル母と対面した。夫人とシャルル母の間にはまだ険悪なムードがあったが、昨日よりはマシだった。それも格段に、社長が2人を宥められる位に。
「…それで、解決…とまではいかなくても、前進はしたんですね」
「ゼンシン、ゼンシン」
「ああ。君のお陰でね。少々強引だと思う所はあったが…」
「俺が帰った後に話し合ったのでしょう? なら結果オーライです。これでシャルルも安心でしょう」
「そうね…ありがとうね、青木君。娘の為に尽力してくれて」
「おまけにIS開発まで手伝ってくれるなんて…」
「本当に、感謝している。何か、出来る事が有れば何でも言ってくれ」
「そうですかい? なら2つ程」
新華は自分で仲を進展させようとしたくせに、ここまで上手く行くとは想像出来ていなかった。だが貰える物はもらおうと思い口を開く。
「まず1つは、IS学園に持って帰るお土産をテキトーに見繕って貰えませんか? お菓子でいいんで。流石にこれ以上IS学園から離れていると後々面倒なんで、明日帰るつもりなんです」
「オミヤゲ、オミヤゲ」
「ふむ、そうか。いいだろう。用意させる。それで、2つ目は?」
「2つ目は、IS開発に俺が関わった事を秘密にしておいてもらいたいんです。これもバレたら後々面倒なんで」
「…それだけでいいのかい? もっと別に要望は無いのかい?」
「ありません。俺のISについては自分でどうにも出来ますし、これといって要望なんてありませんから」
「…そうか。なんとも規格外だな君は」
「今更ですよ。そう言われるのも陰口を叩かれるのも慣れました」
「ナレタ、ナレタ」
「もう、明日には帰ってしまうの? シャルロットの学園生活がどんなものか聞きたいのに」
「俺がIS学園に居るのは監視と拘束が目的ですよ? こうして出歩いているのも結構無茶してるからなんです。最低でも1週間、これが今回の外出の期限。これ以上伸ばす事は出来ません」
「そう…」
シャルル母は残念そうな顔をしていた。よっぽど娘の事が心配なのだろう。
「帰ったら、シャルロットの事、お願いね?」
「私からもよろしく頼む」
「…それは一夏に言って下さい。シャルルの心の拠り所はあの
「「「…へ?」」」
「あれ、言ってませんでした? シャルルは一夏に惚れてますよ? 一夏も満更では無さそうでしたし」
「イッテナイ、イッテナイ」
「………ちょっと話を聞かせてくれないかしら?」
「いいですけど」
新華は3人にシャルルの正体がバレたあたりから話した。3人は新華がシャルルに好意を持って行動してくれたものと思っていた。しかし話を聞くとどうにも違うと段々分かってきたようだった。
「…と、こんなトコですかね? 基本一夏は俺と違い人の心を助けるのに無意識に長けていますから。それにあんな状況で大抵の女子なら落ちない筈ないでしょう。その後イチャついていましたし」
「…青木君、君はシャルルが好きではないのかい?」
「友人として、同じIS指導する立場って意味では好きですが。ただ恋愛面で言うとそれほどでも。いい娘だとは思いますけどね」
「…じゃあ今回の騒動とこの家の問題は?」
「何度も言ってますが、騒動の方はついでで友人を安心させてやりたかったんです。シャルルがもし一夏の馬鹿を落とせれば俺の苦労も1つ減りますし、何より友人を放って置けないのは性分なもんで」
「「「………」」」
なんとも気まずい空気が流れる。しばらくの間、デュノア家の3人は何も反応出来なかった。
中途半端な終わりですが、次回で帰るので気にしないでください。
これでフランスイベントは殆ど消化したでしょうし。