フランス国際空港。平日で混んでいない空港に堂々と歩く日本人---青木 新華が居た。
「………」
「ハロッ、ハロッ」コロコロ
新華は黒いシャツの上から青いパーカーを着て、黒い長ズボンを履き腰にベルトと待機状態のクアンタをぶら下げてバイザー型のサングラスで、特徴的な鋭い目を隠していた。頬には塞がった小さい傷がある。
「………」
「ハロッ、ハロッ」テーン、テーン
空港の出口に向かい歩く。今新華はクアンタをMP3プレイヤーとして使っている為、違和感は全く無い。…ハロを除けば。当然視線は集中する。しかし無視。今回新華は目的が有ってフランスに来たのだ。
その目的は無論シャルルの事---だけではない。
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IS学園生徒会室。新華がフランスに行く2日前、部屋には新華、千冬、山田先生、楯無、虚の5人が集まっていた。普段五月蝿いハロは今回幾つかのコードを繋げられPCとして新華に使われている。そのコードの先には生徒会長のプレートが有る机、そしてそこから空中に出された画面。新華以外の視線がその画面に向けられていた。
「これが俺のフランスに行く申請した理由です。騒ぎにしたくないんで1人で行きますが」
「…青木。お前、これだけの情報どうやって集めた?」
「クラッキングですが何か? 俺と束さんにかかれば紙同然です」
「ふあぁ…これってフランスの機密情報ですよねぇ…」
「もう、驚かないわよ」
「お嬢様、しっかりしてください」
「だって…ねぇ。
新華が画面に映している情報はフランスの1部の機密情報。そこにはシャルルから話を聞いて繋がりを確認出来たものもある。
「折角掴んだ尻尾ですから、ついでに潰してこようかと」
「つ、潰してって…」
「いい加減自分達が何しているが分からせて絶望を与えようかと。調子に乗ってる馬鹿ほど隙は多いですから」
「女性利権団体…酷いわね、コレ」
「ですね。やっている事が常軌を逸しています」
「ですので、プチって来ますから出国許可が欲しいんですが」
「(…頭が痛い)お前がIS学園に居るのは監視と拘束が本来の目的だ。そう簡単に許可する訳にはいかんな」
「だったら会長の家から監視付けてもいいですよ? 後で俺もレポート出しますし。あ、ただ観光くらいはさせて下さい」
「呑気なものだな。これはそれどころではないだろう」
「でもコレが処理出来ればシャルルの問題が解決出来ます。それに女性利権団体だけはもう見過ごせない」
「…まさか新華君の方から解決策を出すとはね…それも具体的な。勝算はあるの?」
「当然です。もうフルボッコ確定ですね。向こうが助かるには逃げるしか選択肢はありません。最も、そんなの許しませんが」
新華はハロの操作を中断し4人に視線を向ける。
「因果応報。奴等にたっぷり地獄を見せてやりますよ」
新華は笑顔だった。
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新華はタクシーに乗り、まず泊まる予約をしたホテルに向かった。下着など最低限の日常品を置きすぐに移動する。向かう先は
「…ここがシャルルん家か」
「オウチ、オウチ」
デュノア社長、別邸。シャルルが自分の身の上を一夏と新華の時に話した中に『ふだん別邸で暮らしてる』とあった。つまりはデュノア社長は生活の面倒を見ていたのである。そして新華はその生活を知るべくその別邸に足を運んでいた。
チャイムを鳴らし少し待つ。
『はい、どなたですか?』
「こんにちは、IS学園生徒のシャルル…いえ、シャルロット・デュノアの友人です」
『………え?』
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夕方、日が完全に暮れかけている時間に、新華はデュノア社の歓迎を受けていた。それも社長自ら。
「遅くなってしまい申し訳ありません。少々寄り道をした所時間が掛かってしまいこの時間となってしまいました」
「いえいえ。かの有名な『蒼天使』である青木 新華殿に足を運んで頂けるというのは光栄な事です。それで…その、足元に転がっているのは…?」
「これはハロと言って私のPC兼鞄兼ペットロボです。細かいスペックなどは秘密です」
「ヨロシク、ヨロシク」
「そうですか。では、ここで話すのも失礼ですから、社長室へいらして下さい」
「分かりました」
デュノア社長の案内の下、社長室に案内される。新華はシャルルの人生を棒に振らせる様な命令を出した目の前の人物を殺したかったが、今回はそのシャルルを助ける為に行動しているので気持ちを押し殺した。
社長室に入り促されて周りに幹部が居る中ソファに座る。
「それで、どのようなご要件で? 突然のご来訪ですので目的を聞いておりませんので」
「その前に、これから話す事は重大な事なので人払いをお願い出来ますか? いくら幹部とはいえ、これは重大過ぎる事ですから」
「ほぅ…それはどんな?」
「代表候補生で現在IS学園に居るあなたの息子の事です」
「!! …いいでしょう」
新華の言葉で冷や汗を流すデュノア社長。幹部たちは部屋から出て人払いを完了させる。
「単刀直入に言います。あなたの息子…いえ、娘のシャルロット・デュノアは情報を盗む前に織斑 一夏と私青木 新華に正体がバレました」
「!」
「まぁ、大事にはなってませんが、一般生徒にバレるのも時間の問題でしょうね。見た目と言動で何とか誤魔化せてますけど、それでも惑わされないのは何人か居ますから」
「………」ダラダラダラ
社長は汗を滝の様に流していた。子供とはいえ目の前に居るのは『蒼天使』。しかもIS学園に入る前は篠ノ之 束博士と行動を共にしていた事は有名だ。風の噂では子供に対して非道な扱いをした人物に容赦しないと聞いた事もある。
どうしようかと頭をぐるぐる回していた所に、勢い良くドアが開かれる。
「あの泥棒猫の娘は役立たずね! まさか何も出来ずに終わるなんて!」
「! お、お前…聞いていたのか」
「…アンタがデュノア夫人か」
「ええそうよ。あなたが『蒼天使』でしょう? 丁度いいわ。今すぐ『蒼天使』を渡しなさい」
「!? お前、何を言っている!?」
「………」
「アナタ、もうウチには後が無い事くらい分かっているでしょう! データどころか実物が目の前に有るのよ!? このチャンスを逃す気!?」
「ここの社長は私だ。お前は口出し出来る立場では無いだろう! 下がりなさい!」
「さあ早く『蒼天使』を渡しなさい」
「お前!」
突然の乱入から数十秒。デュノア夫人が我慢出来ずに乱入してくる事は予想出来ていた新華だったが、ここまで展開が早いと呆然とするしかなかった。
「…何言ってんのアンタ? 社長さんが言った通り、アンタ口出し出来る立場じゃ無いだろ。すっこんでろ」
「スッコンデロ、スッコンデロ」
「あら? これも使えそうね」
「人の話聞けよ…」
「いい加減にしなさい!」
余りにも話を聞かない傍若無人に新華は呆れて物も言えなかった。デュノア社長が抑えようとするが全然収まらない。
「はぁ…もう話勝手に進めてもいいですか? もう外も暗いですし」
「…すまない」
「いえ。ただ夫人の方は悪いですけど無視の方向でいきます。それで、シャルロット・デュノアについて、このままだと彼女だけではなくあなた方まで警察の厄介になるのはお分かりですね?」
「…ええ」
「それで、少しばかり協力をお願いしたいのですが。そこの夫人も含めてちょっとばかり協力をば」
「協力かい?」
「ふん! あなたの『蒼天使』を解析させてくれるならね!」
「お前、まだ…!」
「夫人、すこし落ち着いたらどうですか? でないと見限られますよ?」
「…なんですって?」
「もうあーだこーだ理由適当に並べるのも面倒だ。単刀直入に、バッサリ言わせてもらう」
新華はもう目の前の夫人とマトモに話す気は無かった。要はもう面倒臭くなったのである。
「夫人。女性権利団体と手を切るついでに奴等の粛清に付き合え。社長さんも、今回の原因はアンタだから他人事じゃねえぞ」
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フランスのとある1件家。夜にその1室で女性が1人顔を歪め呟く。
「くそっ、あの忌々しい
彼女はフランスの女性権利団体の1人、それも政治家として大きな権利を持ち濫用を繰り返す幹部のような存在だった。彼女はその日の会議での内容を思い出し苛立っていた。彼女が出した法案は女尊男卑の物でそれを過半数を占める男性議員によって否決されたのだ。そこに与野党の溝は奇跡的に無くある意味人類の調和がそこにあった。しかしそれは女尊男卑の彼女にとって面白くない。
「しょうがない…誰か適当に不慮の事故にあってもらって退場願おうかしらね…丁度扱いやすい軍人崩れも居たからねぇ…」
そう呟き相手の悔しがる顔でも思い浮かべたのだろうか、クックックッとどう見ても悪役の笑いを零す。
「取り敢えずは他の議員と連絡を取らないと。全く、本当に面倒な事をさせる…」
そう呟き携帯電話を取り出し、自分以外の女尊男卑の議員をコールする。しかし…
「………出ないわねぇ。どうしたのかしら」
いつもなら3、4コールで出る議員から何も音沙汰が無い事に訝しみながら他の議員や政治とは関係無い手駒にも連絡を取ろうとするが、誰も電話に出る事は無かった。
「…おかしい。何故誰も出ないの? 一体何が?」
彼女は妙な胸騒ぎがしていた。とそこへ玄関に誰か来た事を告げるチャイムが鳴った。少々苛立っている時だったので舌打ちを1つしてからポーカーフェイスで笑みを作る。政治家をする上でポーカーフェイスは必須の技術だった。
「はい、どなたでしょうか」
「夜分にすいません」
扉の前には気弱そうな男が立っていた。
「(ふん、なんなのよイラついているときに…)あの…失礼ですが、どなたでしょうか?」
「すみません、警察の者です。少々聞きたい事がございまして、署までご同行願えますか?」
「は?」
この日、新華がフランスに入国した2日目、多くの女尊男卑の女性が逮捕され、そのまま自然と女性権利団体は消滅した。
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新華がフランスに入国して3日目の朝。デュノア夫妻は社長室で呆然としていた。机に置かれた新聞と備え付けのテレビに映されたニュースに女尊男卑の女性や議員達が逮捕され報道されていた。無理もない。それに協力したのは自分達で、この騒ぎの原因が
「よしよし、これで壊滅か。一安心だな、ふぅ…」
などと先程からハロで何か指を動かしている少年なのだから…。
「いやはや夫人、協力感謝です。あなたの提供してくれた情報は役に立ちました」
「え、ええ…そうみたいね………」
「こ、これは…一体何が起きたのかね…?」
「簡単です。俺が手に入れた情報と夫人の提供で手に入れた証拠をマトモな警察の人に流して揉み消させなかったってだけです」
「「いや、だけって…」」
「意外と簡単ですよ? 情報流して証拠を渡し邪魔者を状況証拠掴んで捕縛して排除、そのまま人を集めて一気に奇襲させる。いやー中々良い連携だったな。清々しい」
「「………………………」」
イイ笑顔で話す新華にデュノア夫妻は何も言えなかった。というか考えるのをやめた。
「さて、こっからが本題だ」
「まだ何かあるの…?」
「あのですね、今回の騒動は寧ろついでなんですよ? 夫人が女性権利団体と繋がりを持ってなかったら手付けてません」
「………」
「今回俺は友人のシャルロットの件で来たんですよ。でもまずうっとおしい方から終わらせました。でないと横槍が絶対に入りますからね」
「………まぁ、それは…ええ」
「というか大元は社長さんが原因であり今回の騒動のキーは夫人であるんですから、社長さんにはキッチリ反省して貰いたい所ですが…」
「反省、だと?」
「そうですよ。夫人が女性権利団体と関わりを持ったのはアンタがシャルロットの母親に愛情を注いじまったからでしょうが」
「わ、私のせい、だと?」
「そうですよ。もうズバッと言いたいんですが、いいですかね? 夫人」
「………」
「沈黙は肯定と受け取りますよ」
新華は怖い顔になっている夫人を置いておき社長に顔を向ける。
「社長さん。アンタがそこの夫人をちゃんと愛さなかったのが原因です。娘が出来て嬉しかったのは分かりますが、夫人が居たでしょうに」
「………」
「まさか本当にシャルロットの母親が『泥棒猫』だとは思いませんでしたよ。責任取ったのはいいんですが、それで夫人を見向きしなきゃ暴走されても当然でしょうに」
シャルルの家庭事情はこうだ。まずデュノア社長と夫人は幼馴染で親の地位も高かった。前社長の息子ととある家のお嬢様。親の付き合いで中も良く許嫁でもあった。しかし社長が大学でシャルロット母と出会い、関係がドロドロし始める。大学卒業後、社長はデュノア社を継ぐ為デュノア社に、シャルロット母も追いかける様にデュノア社に就職。夫人も負けじとばかりに許嫁として社長を支えていた。
しかしある時シャルロット母の誘惑に負けた社長がシャルロットを身篭らせてしまう。この事態に激怒すると同時に危機感を抱いた夫人はすぐに許嫁としての立場と家の圧力を使い結婚にまで押し通した。シャルロット母を愛人という立場にして何とか社長の目を自分に向けさせようとしたのだ。しかし社長は自分の子供に意識が行き生活が出来る様に別邸を建てそこの住まわせた。シャルロット母とシャルロットに愛情が行き夫人は嫉妬。そしてそこを女性権利団体につけこまれ駒にされてしまった。
実はシャルロットの男装の理由は女性権利団体に唆された夫人が社長に実行させたもので、白式とクアンタのデータを入手出来たら団体に情報が回り新しく違法研究施設が出来、非道な実験が繰り返される事になっていた。
「全く…これで後はシャルロットの男装の問題ですけど、これももう殆ど解決したも同然です。もう根回ししたんで」
「………は?」
「あー、かったりぃ。明後日警察と軍の方に行かなきゃならないんですよ。事情聴取とIS指導で。騒ぎにしたくなかったのに動き過ぎたかねぇ…帰ってレポート書くの面倒だなぁ…今のうちに書いとこっかね?」
「………ちょっと待ってくれ、頭が追いつかない」
「…ねぇ、あなた何したの? もう、解決したって?」
「シャルロットはこのままだと牢屋行きなんで女性権利団体の脅しで男装する事になったって事にしましたー。ぶっちゃけアイツ等はやってきた罪が多いのでそこに罪追加しても結果は変わりませんし、問題ありません。後は、あんたら家庭の問題ですから」
再びデュノア夫妻が呆然とするのを無視してハロのPCモードを解除する。
「ハロッ!」
「家庭の問題は全面的にハッキリしない社長が悪い気がしますが、そこんトコは家族でじっくり話し合ってくださいな」
「「………」」
「…社長さん。このままだとシャルロット…あー違和感。シャルルはアンタから離れて居なくなりますよ?」
「………………、何!?」
「何じゃありませんがな。そりゃそうでしょ。生まれてからほぼ全く会わず、会ったら会ったでまるで自分を道具の様に扱う。しかも自分は愛人の子で本妻の人には嫌われている。…こんなんで離れないとか思う方が可笑しいでしょうに」
「だ、だが」
「専用機を与えたから大丈夫? っは。望んでいなかった『力』を与えられて誰が喜びますか? 俺だったら願い下げですね」
新華はP・V・Fという『力』を望んで手に入れた。それはかつての映画部の面子全員に共通していた。しかしIS学園に居る一夏、箒、そしてシャルルは別だ。一夏は束の意思で無理矢理IS学園に入れられ束と新華が制作した白式という力を流される様に手に入れた。箒も姉の束が原因でIS学園に入れられた。シャルルは男装と代表候補生という立場を無理矢理背負わされ専用機を入手した。自分の意思で手に入れたのではない。半ば無理矢理だ。新華も、今の両親と暮らすうえで本来なら必要無いISを、もしP・V・Fが無ければ受け取りたく無かった。もう出来れば戦いはしたくなかったから。
「一夏と俺に事情を話す時に、社長さんの事は『あの人』と言ってました。父親とも言いましたが、それは関係を説明する時だけ。あんたの事を『父親』とは
「………くっ」
「そもそもアンタは、誘惑して女としての幸せを手に入れようとした人と、暴走する位に幼い頃から慕い支えてくれた人、どっちを愛しているんですか? 子供を愛すのは構いません、むしろ親として当然でしょう。しかしそれで自分の周りが見えなくなっては救いようがない」
「…!」
「今更気付きましたか? 夫人は確かにシャルルの母親に嫉妬していたでしょう。故にシャルルと会った時にシャルルを叩いた。ですよね?」
「………」
「そして俺が来た時の暴走。理由は、愛している社長さんとその社長さんが経営する会社を潰したく無かったからでしょう? 愛するが故の暴走。愛されているじゃないですか。それに気付いて、社長さんはどうですか?」
「どう…とは?」
「心、動かされませんでした? 程度はどうあれ自分が愛されている事実を知って」
「………」
「………」
社長は夫人と見つめ合う。しばらくその無言の時間が続きそうだったので新華は
「後は夫婦と家族で話し合ってくださいな。部外者の俺はホテルに戻るんで」
「ま、待ってくれ!」
「…なんですか社長さん?」
「君は…どうして我々を助けてくれたんだい?」
「はぁ? 助けてないでしょう。まだこの会社の経営危機は去って無いんですし、団体潰したのは俺自身の意思でアナタ達には関係ありませんし、むしろ協力を強要させた部分もありますし」
「いや、そうではなくてね。我々家族の問題をどうにかしようとしてくれているだろう」
「ああ、それですか。簡単な事ですよ」
新華は膝の上のハロを持ち上げ指で回しながら答える。
「友人の力になりたいって思うのは当然でしょう? それに、もう友人の悲しみの表情は見たくありませんしね」
フランス編、まだ続きます。
なかなか書けないので先にストーリー中の問題を片付けさせようかと。そしたら進む変わり長く…
トーナメントイベントの間に時間があるので、新華がIS学園に帰って少ししたらトーナメントって感じです、日付的に