IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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38話。再びシリアス。次回からシャルとラウラが出ます。
今まで以上の文章の長さです。


新華という存在

 

 

 

「んー、空気を変える為に外に出たものの、行く宛が無い…それに…」

「「………」」

「未だに空気が微妙とです…ハイ・・・」

「ジゴウジトク、ジゴウジトク」

 

 

 

 

 

五反田食堂を出た後、新華、一夏、弾の3人は街中を歩いていた。しかし先程の話が尾を引いているのか、一夏と弾はテンションが低かった。

 

 

 

 

 

「(でも、俺は蘭ちゃんや厳さんにあの話をしたことを後悔してない。むしろ今まで言いたかった事を言えてスッキリしてる。まぁその分コイツらのダメージは大きかったようだが)」

 

 

 

 

 

特に一夏はこれまで意識していなかったからか表情が真剣なものだった。

…そのキリッとした顔で先程から町中の視線が集中しているのだが。

 

 

 

 

 

「(これで、意識改革してヒロイン共に良い影響を与えてくれる事を願うばかりだ)」

「…新華さ」

「ん? 何だ?」

「聞きたい事があるんだが、さっき新華は蓮さんの『なんでそんな事知ってるか』って質問に『実際に見てきた』って答えただろ? 一体新華に何があったんだ?」

「ああ、それか。その話は流石に街のど真ん中でやるには勇気がいるから、ここに入ろうぜ」

「…あ、この公園は…」

「お前ら考えてたから誘導させてもらった。どうせ聞いて来ると思ったし、行く宛も無かったしな」

「ハロハロ」

 

 

 

 

 

その公園は鈴がまだ日本に居た頃、一夏、新華+ハロ、弾、鈴、蘭の5人でよく集まっていた公園だった。鈴の帰国後はあまり来なかったが、変わっている所は無く新華は懐かしさを覚えた。それなりに敷地が広く、大きな遊具が1つと屋根つきベンチが置かれ、驚く事に6割を占める広さの水辺がど真ん中に設置されていた。

 

 

 

 

 

「変わってないな、ここも。中学の頃はよく5人で集まったもんだ」

「…そだな。鈴が帰った後は来なくなったけど、何か安心した」

「お前らの環境、劇的に変わったもんな。俺はチョクチョク横通ってる見慣れてるけど」

「弾はそうだろうな。でも、全寮制の学園に行くとあんま外出ないから、見慣れた物があると安心すんだよ」

「そんなもんかね…」

「ソンナモン、ソンナモン」

「そんなもんさ。心の拠り所は何も人や物だけじゃない、風景も含まれる。変わらない風景ってのも、以外と心の支えになってくれるもんさ」

「「………」」

 

 

 

 

 

新華が思い出すのは、前世の終戦直後の荒廃した東京。それまで立ち並んでいた高層ビル群はその殆どを破壊され倒壊していた。中でも指揮官型乾燥者との激しい戦いでボロボロになった都庁は目を背けたくなるような有様だった。映画部で無事生き残れたのは新華、勇樹、志甫の3人のみ。一兎も生きてはいたのだが、サードプロメテウスファイアに繋がれ意識の無い状態でコアとして固定されているのを無事とは言えないだろう。志甫の家は乾燥者『センパイ』の襲撃で破壊され、勇樹の家も家族と運命を共にしていた。新華が住んでいた場所も瓦礫となり3人は帰る場所を失っていた。だがその戦争の中、奇跡的に無事だった城戸高校校舎を確認出来た時の安心感は、転生した今でも忘れられない。自分達にとっての当たり前が残っていた事への安心感を。

 

 

 

 

 

「………さて、さっきの質問に答えるか。『なぜそんな事を知っているか』って言葉に対して俺が『実際に見てきたから』という答えた事に関して、俺に何が有ったか、だったよな?」

「ああ」

「たしかIS開発者の篠ノ之博士に拉致られてたんだってな。そもそも博士ってどんな人なんだ? お前ら2人とは違って関係者にすら会った事ないから、人物像が思い浮かばないんだよな。新華の存在暴露した時にテレビに写っていたのは見たけど」

「あー………あの人は色々と、なぁ…」

「この際ハッキリ言っちまえよ。一言で言うなら『精神年齢の低い天才(的)コミュ障う詐欺』かね? 一夏、ここに異論は?」

「殆ど無い…かな。加えるなら妹の箒を溺愛しているってとこだな」

「…なんだそりゃ」

「そう言うのも無理無いな」

 

 

 

 

 

弾は2人の束への評価を聞いて呆れた。自分達より年上の有名人をボロクソ言っているのだ。しかし実際間違ってないのでどうしようもない。

 

 

 

 

 

「また話が脱線したな。俺が昔からよく行方不明になっていたのはその博士(笑)のせいだって事は言ったよな? 拉致られて何されていたか、そこだろ? 知りたいのは」

「そうそう。考えれば新華が居ない時俺らは普通に学校に居たか、遊んでいたかだったからさ。新華は何してたんだろうと思って」

「確かにな。『新華だから』って言って考えるの止めてた。それにこんな時じゃないと聞けないしな」

「…そうか。ま、知っているのも一握りだけだし、教えてもいいか。ただ、言い触らすなよ? この話が女性権利団体に行けば世界は混乱する。最悪完全に政治がクズ主導で世界が終わる事になる」

「す、スケールがデケェ! そんなにヤバいのか!?」

「ヤバい。今この公園には殆ど誰も居ないが、念には念を入れておこう」

 

 

 

 

 

そう言って新華は離れた場所にいた『更識』に目配せをして頭を下げ人払いを頼む。『更識』の1人は頭を掻きながら仲間に通信を入れその場を離れた。新華は別の『更識』の人間が周りを囲み人払いをすると同時に話を聞く体勢に入ったのを感じた。

 

 

 

 

 

「ん? 今新華何かしたか?」

「…お前って本当無駄にこう言う時鋭いよな。今俺の監視している機関の人に人払いを頼んだんだ。同時に向こうは俺の話を聞こうとしているけど」

「は!? 監視!? い、いつから!?」

「落ち着け弾。具体的には俺と一夏が駅出た後からだな。さっきの店での話も聞いてたぞ」

「マジ!?」

「マジ。というか強大な力を持ってる重要人物を野放しにするはずねェだろうが。ちなみに誤解を解くと、会長も監視の意味で同じ部屋だからな? 一夏とは違うんだよ、一夏とは」

「くっ、監視とはいえ女子と同じ部屋なのは純粋にうらやますぃ…パルパルすんぞコラ」

「だがな弾、一夏以外に男が居ないんだぞ? 同じ部屋に美女が居るし監視もあるから、な? 聖典(エロ本)は出せず、賢者になれないこの辛さが、分かるかっ…!? 男なら確かにうらやまな環境だろう。だが! 同時にそれだけ発散出来ないという事の裏返しだという事に気付いてくれ! 辛いんだよ! いくら俺がいろいろおかしいとはいえそこだけはどうしようもないんだよ! ポーカーフェイスで誤魔化してるけど発散方法が運動しかなくて死ねるんだよ! ………はっ!?」Σ(゚Д゚)

 

 

 

 

 

新華は一頻り叫んだ後全方向から自分に向く視線が生暖かいものになっている事に気付いた。一夏と弾は勿論、監視している『更識』の人間にまで。

 

 

 

 

 

「…ゴホン」

「こういう所あるから憎めなかったり一緒にいられるんだよな」

「こういう話は弾と相性いいからな。俺はいつも置いてきぼりだ」

「ウヲッホン! おいさっきまでの空気どこ行った。話を戻すぞ!」

「「へいへい」」

「ぐぐぐぐぐぐぐ…一夏、学園で絶対言うなよ! 言ったら俺は色々終わる! マジで! 3年間それだけは避けたい! いいか、振りじゃねぇぞ!」(;゙゚'ω゚')

「わ、分かった分かった! 分かったから落ち着け!」

「シンカ、ノウハミダレテル、シンカ、ノウハ、ミダレテル」

「聞いてる皆さんも、会長に報告しないでくださいよ!? あの人何仕出かすか…わかり易すぎますから!」

「チッ」

「ねぇ誰!? 今舌打ちしたの!?」

 

 

 

 

 

いつの間にか中腰になっていたのを改めて座り直し気持ちを落ち着かせる。もう既に空気がアレだが今から話す内容は重い。新華は先程の日常の顔から真剣なものへと変化させる。同時に和やかな空気は消える。

 

 

 

 

 

「はぁ、ったく。んで、何してたかって言うと、まぁう詐欺の手伝いだな。ISの開発を手伝ったり家事したり、クアンタで出撃したりな。ただ俺の要望も言えば聞いたからお互いwin-winの関係だったな」

「拉致された先でも家事してたのかよ…でも出撃? あ、見つかった時に逃げるためとか?」

「あれ? それじゃ行方不明じゃなくね? 新華場所知ってんだろ?」

「当時はな。だがいつも拉致されて連れてかれてたからな。しかもあの拠点、移動するんだよ。俺が以前行った場所にはもう無いから意味無いし」

「い、移動拠点!? ロマンじゃねぇか」

「ま、それが行方不明の大きな理由だな。常に移動してれば見つかる確立も少ないし。でも出撃するのは逃げる為だけじゃねぇよ。むしろそうなった時は殆ど無い」

「え? じゃあ何で出撃したんだ?」

「………IS非合法研究所の消去に伴う戦闘。目撃者の殲滅にクアンタとう詐欺が関与した証拠の隠滅」

「も、目撃者の殲滅!? っておいおいおいおいおい、まさか…」

「そうだ、皆殺しだ。たとえISに乗っていても、研究所のシェルターに逃げ込んでも、クアンタの前には意味無い。外道死すべし慈悲もない。孤児達を自分達の実験の材料にしやがってたからな。しかもそれが正しい行為だと抜かしてやがった。見に耐えない光景も幾つも見てきた。人を人と思わない様なクズばっかりで、地図から消した時もあった」

「…」

「だけど一番許せなかったのは時々研究所の要請で出てきたISの操縦者達だった! あいつら政府の命令で俺ごと研究所を抹消する時、無差別に破壊して回っていた。だがそこはいいんだ。まだ命令で研究者達にも非はあるから。だが、アイツ等の破壊や殺戮をしている時の表情と会話が淡々とゴミ処理してるものだった! しかも仲間と話しているとき何て言っていたと思う? 『だるいわー、さっさと帰りたい。この任務が終わったら買い物行かない?』だぞ!? 人間のする事じゃねぇよ! 我慢出来なくて嬲り殺しにした。命乞いされても何とも思わなかったね。『テメェらがやっていた事だ』と言って絶望させた後に殺した。絶対防御なんてあって無い様なものだったからな、機械に頼りっぱなしの雑魚は何で死ぬのか理解出来ないままに死んでいった」

「「………」」

 

 

 

 

 

拳を握り締め大声になる新華を誰も止めようとはしなかった。怒りと狂気が混じった新華の独白は重く、今まで平和にどっぷり浸かっていた一夏や弾には大きすぎる衝撃だった。自分達の知らない所で友人は、自分達と違う世界で生きていた事、どれだけ自分達は知らなかったかという事、自分達が知っている世界はどれだけ平和だったかという事。

 

 

 

 

 

「…叫んじまったな。でも未来の希望の象徴である子供達を道具の様に扱ったり人を人と思わないクズを俺は認めない。生かす気も無い。例え罪がこれ以上増えようと、止めない、止める訳にはいかない。ソイツらを野放しにすれば取り返しのつかない事になる。誰もやらないのなら俺が殺る。どんな扱いを受けようと」

「………確かに、これは他人に聞かせられないな。酷すぎる」

「そうさ。それにこんな事実をどの国も表に出来ない。もし表に出れば諸々の問題が噴出する。だけど俺とう詐欺の情報操作、それに各国の隠蔽で全部『無かった事』にされている。死んだ人物は事故か事件という扱いになり、政府も俺らの行動を表に出せない。だから」

「公になる事がない罪を忘れず背負い続けていく咎人………そうか、そういう事だったのか」

「覚えていたか、その通り。弾に分かりやすく言うと、俺はクアンタを展開したり戦闘を強く意識したとき、返事を『jud.』、咎人用の『judment.』って言うんだ。理由は今一夏が言った通り、自身が咎人だと言う意味でな」

「………あ、頭が追いつかねぇ。どんだけだよ」

「自分でもそう思う。自分でやっててふと我に帰る時があるんだよ。俺、何やってんだろって。思った所で罪が消える訳じゃないけどな」

 

 

 

 

 

新華の目には深い悲しみ。一夏と弾はまた考え込んでいた。しかし行き成り弾が口を開く。

 

 

 

 

 

「…なぁ、もしかして新華が今までどんな女の子とも付き合ってこなかった理由ってそれか? 俺とエロい話に花を咲かせるのに、不自然だと思っていたんだが、まさかその罪に関わらせたくないからか?」

「………よく分かったな弾。さすが『隠れチャラ紳士』」

「………おい、なんだその名前は。凄くかっこ悪いぞ」

「何って、お前の2つ名だが? 一夏の影に隠れるチャラい方の紳士。割と有名だぞ?」

「…始めて聞くんだが」

「え? そうか? 俺は知ってたけど」

「知らぬは本人ばかりか…」

「…お前ら教えろよ…。ってかそうじゃなくて、本当に罪が原因か?」

「ああ、そうだよ。俺が持つ罪は俺自身の罪。誰も入る余地は無い。それに俺が関われば、俺をおびき出す為や俺を脅す為の餌にされかねん。そんな思いはさせたくないし、俺の事情に巻き込ませるより平和な世界に留まって幸せを手に入れる方が良いんだ。未来をわざわざ暗くさせる必要は無い。可能性を潰させる訳にはいかないんだ」

 

 

 

 

 

この新華の言葉は前世で孤児院にて子供達の多岐にわたる可能性を間近で見たから出る言葉だった。新華も十分子供なのだが、今まで生きた時の記憶の積み重ねがそう言わせていた。

 

 

 

 

 

「俺はもう戻れないからな。こういう友人の付き合いだったら問題ないんだが、流石に男女の付き合いとなると…な。どうしても考え過ぎちまう。それに何より自分が誰かの隣に居るのが想像出来ない」

「そ、そんなの時間が経てばわからないじゃないか。誰かいい人が見つかるかもしれないだろ?」

「お前は周りに人が居るのが当たり前だと感じているからそう言えるんだよ一夏…。俺の周りにも人は居るが基本仕事か大きな集合体---学校や団体---の関係者ぐらいなんだよ。俺らの様な『友情』なんて繋がりは無く『利害関係』という細い1本の糸でしか繋がってない。小さなことで簡単に切れてしまう様なものでね。もう何年もそんな環境に居るとさ、誰かの存在がそこにあっても1人で居る様に感じるんだ。それが俺に好意を寄せてくれる娘であっても」

「…それで告られてもあっさり断っていたのか。何だか、思っていた以上に重い理由だな…」

「でも生徒会長姉妹はどうなんだ? 簪さんは今までと違って新華が自分から触れていたじゃないか。生徒会長とも特別仲良さそうだし」

「どっちも、『放っておけない姉と妹』って感覚さ。家族みたいなもん。それに、俺から見れば簪さんは勿論会長だって他と変わらず明るい未来が広がっているんだ。今あの2人からもし告られても断るつもりだ」

「…お前の気持ちはどうなんだ新華。お前自身の気持ちは。お前、相手の気持ち分かっていながらやっているだろ。でもお前自身の気持ちを聞いた事無いぞ」

 

 

 

 

 

弾も一夏と新華の側に居たからか中々鋭い事を言う。これまで新華に想いを伝え振られた女子も一夏に劣らず多い。一夏は告白に気付かずに箒や鈴、蘭などの話をする事が多いのでそれでも諦めない女子が多いのだが、新華の場合いつもバッサリ真正面から断るので諦めが付くのだ。それでも諦めない者はいるのだが。しかしその中で新華は理由やわざと嫌われる事ばかり述べ感情が言葉に乗せられていなかった。

一夏も同じ事を思っていたらしく食いつく。

 

 

 

 

 

「そうだぞ。何だかんだで新華はモテるんだからな。新華自身の気持ちで答えないと可哀想だろ」

「テメェが言うと説得力皆無だから黙っとけ一夏。…でもこんな話出来ないだろ? こうして話して初めて言える事だってあるんだからさ」

「ほぅ…じゃぁ聞かせてくれるんだな?」

「そうだな…正直に言わせてもらうと、だ」

 

 

 

 

 

新華の次のセリフに一夏と弾だけではなく『更識』も耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「怖いんだ。誰かと付き合うという事が。自分の大切な誰かが俺のせいで悲惨な目に遭って壊れてしまうのが。俺の、せいで、消えてしまうのが」

「「「「「「………」」」」」」

「さっきも言った様に俺は罪を多く背負っている。表には出ないが俺に恨みを持っている奴は多い、世界規模でな。もしその恨みが俺に牙を向いた時、真っ先に俺が付き合っている相手が狙われる。その時俺が守れるとは限らない」

「…か、会長なら大丈夫じゃないのか? 簪さんだって強いしISがあるし…」

「狙われて奪われるのは何も命だけじゃないんだ。女性がもし騙されたり抵抗出来ない状態になったら、正直口に出すのもおぞましい光景になる。想像するだけでも怖い。狂いそうになるな………!」

「お、お前…」

 

 

 

 

 

新華は最後のセリフを呟いた時、苦しそうに頭を抱えた。その姿は一夏と弾がいつも見ていた、いつもだるそうでいて優しい、それでいて厳しい新華は居なかった。そこに居るのは、ただただひたすらに怯え縮こまり苦しむ少年だった。それは紛れもない新華の心の一部。

新華自身の、因果応報への怯え、それに伴う苦痛。イド・アームズ『no name』のトラウマシェル、拒絶の力に繋がるモノ。新華が怯え、苦痛を感じる程、トラウマシェルは強くなっていく。

 

 

 

 

 

「新華…」

「新華、そんなに…」

 

 

 

 

 

一夏と弾は衝撃を受けた。今まで2人の新華に対するイメージは、『中身は親近感の沸くチートな第2の親』だった。2人だけではない。箒や鈴、元クラスメイトや『更識』の人間までもそう思った事がある。しかし今目の前に居るのはそんなイメージを崩れさせる姿。自分達よりも脆い、壊れかけの心だった。だが一夏達どころかこの世界に知る者は居ない、新華の心は既に1度壊れている事に…

 

 

 

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 

 

 

 

誰も何も発さない。空気の重さを感じたのか、自然の音は何もせず、人の起こす科学の音のみ小さく響いていた。

その空気を破るように突然、新華が頭を抱えていた手を離し何度か叩く。その顔はいつもの新華のものだったが、今までの話を聞き新華を見ていた者は例外無く(・・・・)言葉を失い、続いて疑問を持った。どうしてあれ程苦しんでいるのにいつも通りの顔が出来るのだと。

 

 

 

 

 

「はいはい! 暗い話は終わり! いつまでもメソメソしたって何にもならねぇからな。もう時間も遅くなってきたし、そろそろ帰ろうか」

「………」

「………」

「ほら、一夏も弾も。ボケっとしてないで帰るぞ」

「カエル、カエル」

「あ、あぁ」

「そ、そうだな…」

 

 

 

 

 

新華は2人を歩かせ周りを見、『更識』の人間に感謝の礼をする。『更識』の構成員達はその動作で我に帰り監視体勢を元に戻す。新華は体を逸らして延びをする。

 

 

 

 

 

「んー…ぐぐぐっとぉ。あー伸びるー。ふぅ、意外と話してたみたいだな。帰ったら夕食かねこれは」

「………そうだな。ここから時間掛かるし」

「………俺はあの空気の中に戻るのか…」

「あー…弾、フォローは頼んだ。家族で何とかしてくれ」

「………おう」

 

 

 

 

 

そして3人で公園から出て道路に出ようと言う所で2人の前に出た新華が一夏と弾に行き成り振り向き

 

 

 

 

 

「…今日はありがとよ2人共」

「えっ…」

「?」

「俺は知らない間に色々溜め込んでたらしい。自分では大丈夫だと思っていたが、なんともまぁ、みっともない姿を晒しちまった」

「い、いや、そんな事は」

「でもさ、今、なんだろうな、心が軽い気がするんだ。多分、今日1日今まで口に出せなかった事を話せたからだと思う。女尊男卑の事もそうだが、今さっき話したの俺の心境も、な。今まで話せる相手も居なかったと、そう自分に言い聞かせて、誰かに聞いて欲しかった事に蓋してたんだと思う。だから余計に苦しかったみたいだ」

「みたいって…」

「でも、お前らが最後まで聞いてくれたから今、素直に思うんだ」

 

 

 

 

 

一夏の言葉の後に新華は2人に向けて頭を下げた。その突然の行為に一夏と弾だけでなく『更識』の構成員も驚き動揺した。しかし新華の言葉に再び何も言えなくなる。

 

 

 

 

 

「今日ここに、『平和なセカイ』に居られるのはお前ら身近に居てくれた友人達のお陰だ。そうでなければ俺は今頃束さんと何処かで暴れていただろう。ああして心の内を話せるのはまず無いからな。だからもう1度------ありがとう」

 

 

 

 

 

最後の『ありがとう』のセリフの後に上げた新華の顔には、確かに感謝の気持ちと今度こそ(・・・・)恵まれた環境を確認出来た嬉しさで、怖さを感じさせない穏やかな笑顔があった。

 

 

 

 

 

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---side 簪

 

 

 

 

 

簪は夕方、姉と新華の部屋である1050室に向かってと歩いていた。その手には姉にひと足早く渡された来月の『学年別トーナメント』の紙を持っていた。しかしその紙には題名が本来『学年別個人(・・)トーナメント』となっている筈が『学年別タッグ(・・)トーナメント』と書かれていた。これは以前のゴーレムトリニティ襲撃の後、学園側が個人でなくチームで出させる事で連携を深め緊急時の対応をスムーズにさせられる様にした策だった。ただ新華だけは別格なので優勝チームの希望次第で、エクストラ戦としてリミッターの掛かったクアンタと戦えるという事にし、新華はトーナメントに結果的に不参加となっていた。

 

 

 

 

 

「かいちょーとあおきーの部屋、遠いね~」

「うん。でもいい運動になる」

「簪さん、それ脳筋とか言われる人の考えじゃない?」

「う、そ、そう?」

 

 

 

 

 

簪の隣には本音と、その本音と同じ部屋の宮川 加奈(かな)(本音からの呼ばれ方『かなりん』)が一緒だった。簪が新華にトーナメントの事を聞くついで(・・・)に夕食に誘うのに、本音を連れ出しなし崩し的に加奈も付いて来たのだ。

 

 

 

 

 

「でもあおきー帰ってるのかなぁ~? 今日おりむーと出かけてたみたいだけど~」

「帰ってきてるみたいよ? 私織斑君が帰ってきてたの見てたし」

「なら、大丈夫…。話は聞けると思う」

 

 

 

 

 

話をしながら1025室を通り過ぎ1050室に近付いて行く。1050室の扉に近付いた時、内側からゆっくり開けられた。

 

 

 

 

 

「ハロハロ」

「あれ? ハロハロ~♪ どうしたの~?」

「鍵、掛かってない…? 新華君もお姉ちゃんもいつも鍵閉めるのに…」

「えっと、ハロ、ちゃん? 新華君はどうしたの?」

「シンカ、ネテル、シンカ、ネテル」

「寝てる…? ………」ガチャ

「えっ!? 簪さん!?」

「あおきーの寝顔を身に行こ~!」

「ネガオ、ネガオ」

「本音までっ! あぁもう!」

 

 

 

 

 

簪と本音+ハロが部屋に入って行くのに驚き加奈は動揺するが、ヤケクソ気味に加奈も入っていく。なんだかんだ言いつつ加奈も一夏の次に男子の部屋に興味があったのだ。

 

 

 

 

 

「…本当に新華君寝て………っ!」/////

「ふあぁあ~! す、すご~い」//////

「………」/////

 

 

 

 

 

ベットで仰向けに寝ている新華の顔を見た瞬間、3人に衝撃が走り顔が真っ赤になっていた。

新華の怖い程の鋭い目は閉じられ普段感じる少しおちゃらけた雰囲気は鳴りを潜め、物凄く穏やかな顔つきで眠っていた。しかも何故かは分からないが両目から涙を流し、外の夕暮れが新華を照らし涙は美しく光っていた。

普段とのギャップのせいで破壊力は絶大であり加奈に至っては顔を真っ赤にさせながら絶句して何も言えなかった。

そのまま3人は新華が起きる少し後まで新華の寝顔を頭に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 




新華達が居た公園はガノタの地元にある公園がモデルです。その公園にはガチで水辺があります。
新華の心が壊れたのは『パラベラム』の世界で初めてP・V・Fを使い両親を殺した時。壊れたのは人に対して凶器を向ける事への抵抗。つまり躊躇う部分が壊れました。新華の攻撃に淀みが無いのはこの為です。
弾に2つ名を作りましたが、新華にも2つ名はあります。『フォローが秀逸な隠れ紳士』。
P・V・Fの記述は自己解釈です。
本音のルームメイトの名前が分からないので適当です…2巻持ってますが専ら資料なので詳しく読んでませんし調べようにもモブなので詳しくないです。出てくるのは本音ばかり。誰か知っていれば教えて下さい。すぐ修正します。
新華の涙は嬉し涙です。故に表情は優しいものに。そして女子に効果は抜群です。

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