IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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はい、34話、いってみましょー


戦闘後

 

 

 

 

 

 

---IS学園医務室前

 

 

 

 

 

『たしかにそうだな。もしかしたら毎日味噌汁をって事かと思ったけど、流石に違うよな。深読みしすぎた』

『………』

「…馬鹿だな。うん、馬鹿だ。自分でチャンスぶち壊した」

「リン、バカ?」

「うん。間違いなく馬鹿だ。一夏もそうだが、鈴も大概だよな。滅多に一夏は気付かないっていうのに」

 

 

 

 

 

趣味が悪いが新華は報告を済ませた後に一夏の様子を見に来ていた。報告で遅くなった結果鈴が先に居たので邪魔しない様に扉の前に寄りかかって会話を聞いていた。その姿勢は鈴が再会した時のポーズだったが、鈴とは違い様になっていた。しかも鈴とは違い意図してやっている訳ではない。足元にはハロが転がっている。

 

 

 

 

 

『鈴?』

『あぇっ!? そ、そうね! ふ、深読みし過ぎよ! あ、あははははは』

「内心『あばばばばばば』だろうな、はぁ…。ヘタレめ。ちゃんとはっきり言っておけばいいものを」

『日本に戻ってきたって事はまた店やるのか? 親父さんの料理美味かったからな、また食べたいぜ』

『あー、それなんだけど…その、お店は、やらないんだ』

『へ? なんでだよ』

『あたしの両親、離婚しちゃったから…』

『………』

「…そうだったな…あの2人、結局離婚しちまいやがったんだよな」

「リン、ゲンキナイ、リン、ゲンキナイ」

『国に帰る事になったのもそのせいなのよね…』

『そ、そうだったのか…』

 

 

 

 

 

鈴の両親には以前、仲が険悪そうなのを新華は知っていた。伊達にニュータイプではない。

 

 

 

 

 

『一応親権は母親の方なのよ。ほら、今は女性だと待遇いいじゃない? だから…父さんとは1年近く会ってないの。多分元気だとは思うけど』

『そうだったのか…』

「元気なわけ、ねぇだろ…離婚してこの時勢、元気でいられるわきゃねぇよ…」

 

 

 

 

 

新華は鈴の両親が離婚した後、父親の後を追った。結果、独房にぶち込まれた後、とある組織にスカウトされ姿を消していた。捕まった原因は、女尊男卑で調子に乗った女に理不尽な理由でだった。ムカついたので新華はその女性の情報を放出し一家路頭に迷わせたが。その後の父親は密かに鈴を見守って働いている。

 

 

 

 

 

『家族って、難しいよね』

『………』

「…難しいけど、簡単さ。ただお互い溜め込む物が多過ぎるんだ。しかも女尊男卑で男性側が溜め込む事が多くなっている。鈴の両親もそのタイプだったって事だ。母親がマトモなままだったら離婚なんざしなかっただろうにな…」

「ハロハロ」

「…あら? し、新華さん? 1人で何をブツブツ言っているのですか?」

「お、セシリアか。一夏の見舞いか?」

「ええ。先程診察を終えた後一夏さんも疲れていたようで、すぐ寝てしまわれたのですわ。なので一度部屋に戻ってから来たのですが」

 

 

 

 

 

セシリアが来たので一夏と鈴の会話を聞くのを一旦止める。

 

 

 

 

 

「今一夏起きてるみたいだから大丈夫だろ。ただ医務室回りでは静かにしろよ?」

「シズカニ、シズカニ」

「? は、はい、勿論ですわ」

「なら、いいんだがな」

『…なぁ鈴』

『ん? なに?』

『今度どっか遊びに行かないか?』

「!? まさか、デートのお誘いですの!?」

「違うと思うぞ。例えそうだったとしても一夏が自覚すると思うか?」

『え!? それってデー---』

『新華や弾も呼んでさ、久しぶりに皆で集まって。蘭ちゃんとか呼ぶのもいいかもな』

『………』

「ほらな」

「………」

「キヅカナイ、キヅカナイ」

 

 

 

 

 

一夏のわかってない発言で鈴の機嫌が一気に下がる。セシリアは安堵した。

 

 

 

 

 

『…行かない』

『? なんでだよ』

『あ、あんたと2人っきりだったら行ってあげても…』

「言わせませんわ…! 一夏さん! 具合はいかがですの!?」バンッ

「静かにしろっての。一夏、お疲れさん」

「イチカオツカレ、イチカオツカレ」

「おう。セシリアも来てくれたのか」

「勿論ですわ! しかし、どうして2組のあなたがいらっしゃいますの? 一夏さんは1組。お見舞いされる筋合いはなくってよ」

「何言ってんのよ。あたしは一夏の幼馴染だから良いに決まってるじゃない。あんたの方こそ他人じゃないのよ」

「わ、私はクラスメイトで一夏さんの特別コーチですから、いいんです!」

「静 か に し ろ っての馬鹿ども。医務室だって言ってんだろうが」

「うっ、は、はい…」

「わ、分かってるわよ…」

「は、迫力あるな…千冬姉みたいだ」

 

 

 

 

 

一夏達が新華の言葉で一旦は静かになる。しかし一夏の周りは喧騒が絶えない。

 

 

 

 

 

「っていうか特別コーチって何よ。一夏に何か教えているわけ?」

「勿論ですわ! IS操縦者の先輩としてISの操縦を指導しているのですわ! 代表候補生である私に相応しいですし」

「じゃあ明日からあたしも特別コーチになってあげる。あたしも代表候補生だし」

「なっ!? そ、そんなの駄目ですわ!」

「なんで? いいじゃん、一夏もそれでいいでしょ?」

「えっと…訓練の方は新華が計画作っているからなんとも…」

「そこで俺に振るな。お前の訓練なんだから少しは考えろ」

「ふーん。それで新華? いいでしょ?」

「だ、ダメですわよね!? 新華さん!?」

「やっと聞いてきたか…。セシリアと箒には悪いが、鈴に参加して貰えると助かる。訓練相手としてはかなり条件が良いからな。近接メインの中距離タイプ、正直箒より重宝するな」

「確かに鈴の方が相性は良いな」

「なっ…!」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう」

「同じパワータイプだし」

「………」

「………………」

「………………………ふぅ。ま、そういう事だ」

 

 

 

 

 

一夏の言う事も一理あるのでそのまま話を続行する。新華は一夏を睨む鈴をいつもの事なので放っておく。

 

 

 

 

 

「そうですわよね。同じパワータイプですものね。ですが安心してください。パワーのみ(・・)に頼らず私セシリア・オルコットは中距離射撃型であっても、特別コーチをまっとうしてご覧にいれますわ! では早速今日の戦闘の分析を始めましょう」

「こらこら待て待て、勝手に始めんな。分析はいつもの面子全員でやるっつってんだろ。やるんだったら箒と簪さん呼べよ」

「何勝手に始めようとしてんのよ。一夏はあたしと組んだんだからあたしと分析するに決まってんじゃない。馬鹿なの?」

「なんですって!? あうっ」スパァン

「あったっ」スパァン

「馬鹿はテメェらどっちもだコノヤロー。静かにしろっつってんだろうが。分析は全員でって聞いてなかったのか? 今から箒と簪さん呼ぶから待ってろ。あと一夏、その間に今日の戦闘で気付いた事メモっとけ。ほらメモ」

「メモメモ、メモメモ」

「お、おう」

 

 

 

 

 

ハロからメモ帳を取り出して一夏にペンと一緒に投げてよこす新華。そのまま携帯を持って廊下に出ようとする。その新華を一夏は呼び止める。

 

 

 

 

 

「新華」

「ん? どうした」

「いや、今日の箒の事なんだけど…」

「ああ、アレか。アレがどうした?」

「どうしたじゃなくて、言い過ぎだろ? あの時箒は俺を心配してくれていたんだし」

「関係ねぇよ。自ら死にに来るなんて迷惑以外の何者でも無い。実際アレでお前もチャンス逃しそうだっただろうが」

「で、でもさっ、結局なにもなかったんだし」

「………はぁ。一夏、お前まだ試合感覚が抜けきってないだろ」

 

 

 

 

 

新華は廊下に向けていた体を一夏達の方へ向ける。

 

 

 

 

 

「今回は確かにお前以外身体に被害があった奴は居ねぇ。だから甘くなっているみたいだが、それはあの場に俺が間に合ったからだ。もし間に合わなかったことを考えろ。アリーナのシールドをぶち抜いた出力のビーム、生身に直撃してみろ。消し炭になるぞ」

「っ! で、でもよ!」

「いいか? 消し炭になるって事は死ぬ(・・)って事だ。死ぬ(・・)ってのはもう2度とその人物とは話せない、触れ合えない、笑い合えない事だ。それだけじゃない。残された者には悲しみと怒り、憎しみしか残らない。それまでの思い出も過去の産物となって未来が断ち切られる結果となる。今回の箒の独断はそれだけじゃない。あの勝手な行動のせいでお前と鈴が落とされる可能性だってあった。無事だったってのは結果でしかない。よく『過ぎ去った過去に囚われるな』って言い回しがあるが、それは所詮結果論、今を生きているのだったら原因と結果を踏まえた上できちんと間違った部分は修正されなければいけない。でなければ同じ過ちが繰り返されて、憎しみの連鎖が止まらなくなる」

「「………」」

「………あの、新華さん。セリフに実感が篭っていますが、経験があるのですか? その、篠ノ之さんのような事が」

「あるよ。もっともその時は誰も間に合わずにその人は死んだがな」

「「「!」」」

「ああ…死んでしまったんだ。頭からまっ二つに斬られて、恋人の目の前で」

 

 

 

 

 

ドアに寄りかかり視線を上に向ける新華。そのセリフの重さに3人は絶句した。だが一夏達には分からない。セシリアも両親を失っているが目の前では無かったうえ、喪失感はあったが憎しみはあまり沸かなかった。鈴は父親を失っているが死んでは居ない。一夏はそもそも物心ついた時にはすでに家族は千冬しか居なかった。故に今の新華の感情とその恋人の感情が分からない。

新華が思い出すのは『選択戦争』が始まってすぐの事。志甫の家での戦闘。当時一兎、尾褄、勇樹の3人は1度帰宅し、志甫、睦美、早苗、そして新華の4人はクリスマスで集まっていた志甫の家で待機していたのだ。睦美も帰宅したが両親はおらず叔母に里香を預け、早苗は家族が既に居なかった為に志甫の家に戻って来た。新華はそもそも所持品が少なく帰っても持ってくる物も無く、両親は既に新華の手でこの世から居なくなっているので帰宅せずに志甫の家に残っていた。4人で一兎達3人を待っていた時、乾燥者の襲撃に遭い、あわや睦美が殺られると言う時、早苗が睦美を庇い『センパイ』のP・V・Fで切断され死んだ。そう『庇った』のだ。箒の様に考えなしに飛び出し迷惑を掛けたのとは全く違う。だが睦美は憎しみに染まり暴走、一兎と自衛隊の到着で全滅は免れたが映画部フライトは一時解散となった。

あの時の苦しさと悲しさを新華は忘れない。睦美と、家族を殺された勇樹の憎しみに染まった顔を。早苗死亡の報告を聞きショックと恐怖に襲われた一兎の顔を。そして自分の手を見、次いで一夏達の顔を見る。一夏達にあんな表情をしてもらいたくは無かった。

一夏達は悲しそうな、それでいて包み込むような優しさの篭った新華の顔を見て何も言えなかった。

 

 

 

 

 

「………すまん、箒と簪さんはお前らが呼んでくれ。俺は、部屋に戻る」

「………あ、ああ」

「空気を重くして、スマン。無理に理解しろとは言わない。だが、頭に残しておいてくれ。そういう事になったかもしれないって事を。行くぞハロ」

「ハロッ」

 

 

 

 

 

新華はハロを連れ廊下に出た時、更識姉妹がそこにいた。どうやら新華の話を聞いていたみたいで、その顔は複雑なものだった。

 

 

 

 

 

「あの、新華くん…」

「………新華君」

「…ゴメン。今は、1人にしてくれ。話なら後で聞くから」

「…そう」

「………」

 

 

 

 

 

2人の横を通り過ぎ新華は屋上へ向かった。姉妹は何も言えずに去っていく新華の背中を見ることしか出来なかった。その後箒も呼び新華の話をした所、箒もショックを受けた様で2人きりで一夏と話したことで舞い上がっていた所を殴られた感覚に陥った。箒は舞い上がっていた自分を恥じ、竹刀をキツく握り締めた。

 

 

 

 

 

---

------

--------------

 

 

 

 

 

---屋上

 

 

 

 

 

新華は1人、誰も居ない事を確認し携帯を取り出す。連絡相手は

 

 

 

 

 

『もっしもーし! みんなのアイドル、束さんだよー!』

「………」

『ああんもうしんくん! 放置プレイ!? しんくんの愛はちーちゃんに似て束さんゾクゾクしちゃうよー!』

「…う詐欺、無人機を作ったのはいい。ここに送り込んで一夏と戦わせたのもいい。聞いていたからな(・・・・・・・・)。だが、箒をあのピットまで誘導したの、アンタだろ」

『んー? いきなりだねー。どうしてそう思ったのかなー? 束さんは箒ちゃんに危険な事はさせないよー?』

「まずここのセキュリティはお粗末とはいえ世界で見たら最高峰のものだ。そしてあの時無人機の手によって扉は全てロックされていた。ISを持たない、かつ扉をどうにかする力も知識も無い箒があそこまでたどり着くのはありえない(・・・・・)。アンタが直接ゴーレム経由して弄ってたんでしょう? でなきゃあのタイミングで箒は飛び出せない」

『…流石だねーしんくんは!』

「ついでに言えば一夏と箒を成長を促す程度に守るという契約内容(・・・・)もこの為に設定していたんでしょう? 全く、歪んだ愛だ。こんな事続けるなら碌な死に方しませんよ、お互い」

『…そうだね。でも守ってくれるんでしょ(・・・・・・・・・)?』

「………箒と一夏、それに千冬さんも悲しみますからね。知り合いが死んだり絶望に歪んだ顔はなるべく見たくない。ただ、それだけですよ」

 

 

 

 

 

シリアスな空気が流れる。ここに千冬が居れば新華を問答無用で殴るだろう。しかし新華も束も分かっていながら止まらない。

 

 

 

 

 

『しんくんもツンデレだよねー! なんだかんだ言いながらキッチリ守ってくれるんだからねー!』

「うっせぇ。それで今回のデータは次の時(・・・)渡せばいいんですね?」

『うん! その時に報酬も渡すね! んじゃ、箒ちゃんのISも今作っている所だから、またねー!』

「はいよ。あ、くーちゃんによろしく言っといて下さい」

『わかったよー! んじゃねー!』ブツッ

「…まったく…」

 

 

 

 

 

ハイテンションに通信を切った束に呆れながら新華も携帯をしまう。そして空を見上げる。

 

 

 

 

 

「………訓練とか戦闘とか、関係無く自由に宇宙(そら)、飛んでみたいな…」

「ヴェーダ? ヴェーダ?」

「ん、それも関係無く、だよ」

 

 

 

 

 

実直に、ただ思うままに呟く。今の情勢ではまず無理な考えである。空はIS委員会を始めとした各勢力の監視があり、飛んでみようものなら即座に狙われ飛ぶどころではなくなる。宇宙に至っては、現段階で宇宙で活動出来るISはクアンタを除いて存在しない。クアンタは元がMSのおかげか、それともフルスキンの恩恵かは分からないが宇宙でも活動は可能だった。それも無限機関GNドライブがある御陰で大気圏突破と突入の両方を行える。大気圏突破は原作でガンダム単体では出来なかったが、Evolveクアンタはトランザムを使う事で可能だった。

 

 

 

 

 

「………そういや一兎は飛べてたな。目覚めた後、ちゃんと志甫と幸せになってくれればいいなぁ…」

 

 

 

 

 

最終決戦の前に見せてもらった規格外の一兎のP・V・F。空を跳びまわり自衛隊のパラベラムの実弾すら防ぐ防御力、そして時間停止のS・S。

そしてサードプロメテウスファイアに繋がれ時間が止まった様に微動だにしない一兎と成長した志甫。2人が幸せに暮らしている姿を想像して目頭が熱くなる。

 

 

 

 

 

「っ! …………部屋に戻るか」

「カエル、カエル」

「…そうだな。帰ろう」

 

 

 

 

 

腕で溜まった涙を拭い屋上を後にする新華。その歩きはしっかりとしていた。

 

 

 

 

 

 




早苗さんと箒の行動には雲泥の差があるということですね。
今回自己解釈が混じってますが大丈夫でしょか? 扉のロックは見てないとタイミングおかしいですよね。


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