あの騒ぎから数週間、もう5月に入るが一夏と鈴の距離は縮まって無い。それどころか鈴の態度が硬化してしまい一夏と全く話さない状態になってしまっていた。流石に新華も仲裁をしようとしたが、鈴の態度がかまってちゃんのものだと気付き放っておく事にした。
放課後、いつもの4人で第3アリーナへと移動する。
「一夏、いよいよ来週からクラス対抗戦だ。アリーナが試合用に設定されるから、実質訓練は今日で最後になるな」
「そうだな。最初と比べてトンデモナイ位腕が上がったからな、鈴位ならもうタイマン貼れるんじゃないか?」
「今日は試合の確認ですわね。大丈夫、一夏さんならこれくらいやれて当然ですわ。なんせ私が訓練に付き合っているんですもの」
「ふん、中距離射撃型の戦闘法が役にたつものか。第一、一夏の機体に射撃武装は無い」
「お、落ち着いて…」
「オチツケ、オチツケ」
「お前ら…俺と簪さんが居なければ訓練になって無かっただろうが。毎回毎回争いやがって、一夏の事を考えるなら少しは協力しやがれ」
一夏のIS『白式』には射撃武装を搭載出来るだけの
「それを言うのなら篠ノ之さんの剣術訓練も同じでしょう? ISを使用しない訓練など時間も無駄ですわ」
「な、何を言うか! 剣の道はすなわち見と言う言葉があってだな…」
「一夏さん、今日は…きゃっ」スパァン
「なぬっ」スパァン
「アホ共、何馬鹿言ってやがる。お前らが馬鹿にした訓練はどっちも必要だ。特に一夏にはな」
「ん? どういう事だ?」
また暴走し出す2人をハリセンで叩き一夏の疑問に新華は答える。
「いいか? まずセシリアの射撃型の戦闘型だが、これを把握していれば相手がどこに撃って来るかを銃口で把握出来る。完全近接型の一夏はこの技術を習得していれば接近がしやすくなるという効果があるし、射撃タイプが苦手な攻撃や位置が理解出来る」
「なるほど…」
「ふふん、そうでしょう、そうでしょう」
「…ふん、話は最後まで聞くものだ。まだ私の剣道について言ってないからな」
「そうだが、お前が言うな。んで剣道についてだが、別に剣道に限らず全ての操縦者はIS無しの訓練をすべきだと思うね。純粋に操縦者の体力や身体能力が試合の勝敗を分ける事もあるんだし。一夏の場合は剣道で戦闘スタイルが確定されているから、剣を振り下ろすスピードや威力を上げる効果が期待出来る。わかり易い例としては織斑先生だな。あの人は一夏と同じ完全近接型IS『暮桜』でモンドグロッソを優勝している」
「ふん、当然だな」
「ぐむむ…」
「…流石。私の時みたいにしっかり考えている」
「ケイカクテキ、ケイカクテキ」
「新華スゲェな…」
話している内に第3アリーナへ到着する。箒とセシリアが唸り一夏と簪が関心していたが、アリーナのドアが開きそこに居た人物に驚く。
「待っていたわよ! 一夏!」
「き、貴様! どうやってここに!」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですのよ!?」
「はんっ、何言ってるの、あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題無いわね」
「さて…今日もめんどくさそうだ」
「ほほぅ…どう言う関係かじっくり聞きたいものだな………」イライラ
「盗っ人猛々しいとはこの事ですわね!」
「………」オロオロ
「ミンナナカヨク、ミンナナカヨク」ポーンポーン
「…しかしこいつら平然と一夏の意思無視しやがるな…一夏、この空気で迂闊な発言に気をつけろよ」
「お、おう」
新華は千冬に連絡を入れた。別に訓練は誰でも出来るので、『関係無い』というのは問題無いのだが。しかし一夏と訓練出来ると意気込んできただけあって箒とセシリアにとって本気で邪魔な存在なのだろう。一夏は一夏で馬鹿な事を考えている様で、視線が変な所に向いていた。
「………おかしな事を考えていただろう、一夏」
「い、いやぁそんなことナイデスヨ?」
「ほんとバカだろお前…」
「イチカ、バカ? イチカ、バカ?」
「お前は…!」
「はいはーい、いまはあたしのターン。あたしが主役なの。脇役は引っ込んでて」
「わっ、脇やっ…!」
「わっ、私もですの!?」
「はいはい、話が進まないから後でね。で、一夏反省した?」
「へ? 何が?」
「だ か ら ! あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとかあるでしょうが!」
「いや、そう言われてもな…そっちが避けてたんじゃねぇか」
「アホかお前は。…アホだったな。この鈍感相手だと空回りするって分かってんだろうが」
「リン、カワラナイ、リン、カワラナイ」
もう何度目になるか分からない呆れを新華は感じる。流石にお互い馬鹿だろうと、この時は簪まで思っていた。簪の場合、鈴の硬化した態度が自分と被って見えてますます呆れてしまう。新華からすぐに仲直りすると聞いていたが、そうには見えずどうするのかと新華の顔を見るが
「? (笑ってる?)」
「アンタねぇ、じゃあ何? あんた女の子に『放っておいて』って言われたら放っておくわけ?」
「おう」
「………」
「鈴。これが一夏だろうが。割り切れや」
「何か変だったか?」
「うわぁ…こ、ここまで…」
「変よ! あぁもう! 謝りなさいよ!」
「だから、なんでだよ! 約束覚えてただろうが!」
「あっきれた、まだそんな事言っているわけ!? 意味が違うのよ、意味が!」
「ハァ!? 訳分かんねぇ、その意味を説明してくれりゃぁ謝るっつーの!」
「せ、説明したくないからこうして来ているんでしょうがー!」
「…もう堂々巡りだな。昔より酷くね?」
「オチツケ、オチツケ」
一夏と鈴の会話に割り込めずムスっとしている箒とセシリアは新華が少し笑っているのに気付かない。新華から見たらこの喧嘩は酷くなっていても、かつて中学で日常茶飯事だったうえ2人の間に確かな絆(一夏:友としての信頼 鈴:恋愛フラグの成立)で繋がっているので心配してないだけである。クラス対抗戦もあるので更に気にしなくなっていた。
「じゃあこうしましょう! 来週のクラス対抗戦、勝った方が負けた方に1つ何でも言うことを聞かせられるっていうのは!?」
「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明して貰うからな!」
「あれ? 最近デジャブ多いな…気のせい…じゃないな。このやり取りはセシリアの時だ」
「ドレイ? ドレイ?」
「せ、説明は、その…」
「なんだ? 止めるならやめてもいいぞ?」
「なに挑発してんだコイツは…簪さん。ここまで遠慮なく言い合えるのも絆の一つの在り方だからな?」
「そ、そうなの…」
「ケンカスルホド、ナカガイイ、ケンカスルホド、ナカガイイ」
「誰が止めるのよ! あんたこそ、あたしに謝る練習でもしていなさいよ!」
「なんでだよ馬鹿」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは!」
「傍から見たらどっちもどっちだアホ」
「ほらみろ」
「あんたもでしょうが!」
「ハロハロ」
簪は2人の勢いに呆然としていた。2人の言い争いは続くかと思われたが一夏の放つ一言で終わりを迎える。
「もう! この朴念神! アホ! 間抜け!」
「うるさい貧乳」
「あっ、ばっかおま! それは!」
「あ」
「………」サスサス、ズーン
「簪さん何ダメージ受けてんの!? だ、大丈夫簪さんその内大きくなるから! 会長もそれなりにあるでしょ!?」
「新華君は…」
「へ?」
「新華君は、大きい方が、良いの?」
「………」ダラダラダラダラ
「シンカ、ノウハミダレテル」
一夏の言葉で密かに自分の胸を触り落ち込む簪。新華が気付き必死にフォローし始めるが、鈴の怒りは2人などお構いなしに暴れる。
ドゴォと大きな音と衝撃が響く。見ると鈴が腕から肩にかけて部分展開させ、壁を凹ませていた。
「い、言ったわね…? 言ってはならない事を、言ったわね!?」
「い、いや、今の
「今の
「新華君…?」
「………」ダラダラダラダラ
「何なんだこの空間は…」
「カオスですわ…」
「カオス、カオス」
「ちょっとは手加減してあげようと思ってたけど、気が変わったわ。どうやら死にたいみたいだから、今度のクラス対抗戦、全力で叩きのめしてあげる…!」
鈴は一夏に宣言しアリーナから出ていく。一夏は鈴が作った壁の窪みを見る。窪みは直経30㎝程の大きさになっていた。
「パワータイプのISですわね。それも、一夏さんと同じ近接タイプ…」
「………鈴…」
「…一夏…」
「…なぁ、新華…。新華?」
「………」ジリジリ
「………」ジリジリ、ダラダラ
「………ハロ、2人は何してんだ?」
「イチャイチャ、イチャイチャ」
一夏はようやく新華と簪が自分達を放っておきながらイチャついているのに気付いた。取り敢えず、話をする為に一夏は動けなかった箒とセシリアと一緒に新華と簪の桃色空間を解除しにかかるのだった。
「(しかし、よりにもよって胸の事を言っちまうとは…こりゃ考えるまでもなく、勝敗関係無しに謝んなきゃな…)」
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時は過ぎ、対抗戦当日。第2アリーナ。
クラス対抗戦第1試合、一夏 VS 鈴の戦いが始まる所であった。既にアリーナの観客席は満員で通路にまで観客の生徒が溢れていた。
「さて、この時が来ましたが、今回はどう転びますかね? 以前セシリアの時は一夏の無理解でセシリアの勝利に終わりましたが、今回はセシリアよりも相性が悪い機体ですからねぇ」
「コウリュウ、コウリュウ」
「…ハロその言い方だとペルソナみたいだな」
「ホウオウ、ホウオウ」
「それだとコミュかペルソナかの区別がつかねぇ」
「ハロハロ」
「…お前ら少し静かにしていろ。あまり五月蝿いと追い出すぞ」
「サーセン」
「ハロハロ」
「全く…」
新華は管制室でハロを持ち箒、セシリア、千冬、山田先生と一緒にモニターを見ていた。簪は今日クラス代表の1人として本音と一緒に別のピットに待機していた。千冬にたしなめられ新華は静かにするが最初の新華の問いに答える者が居た。
「新華さん、相性が悪いとはどう言う事でして? 私の時の方が相性は悪いと思うのですが」
「ん? それか。射撃タイプが相手の場合、あいつは懐に一気に入れば距離を離されない限り無類の強さを発揮する。実際一夏がセシリアと戦ったあの試合、セシリアは一夏と距離を取って戦っただろ?」
「ええ。一夏さんの武器が剣だけと分かったので」
「だがもし懐に入られたら近接が苦手なセシリアに勝ち目はあったか? あの不意打ちミサイルがあったとはいえ最終的にフルボッコにされるだろ」
「そ、そうですわね…」
「鈴のIS『甲龍』は近~中距離型の第3世代機。もし一夏に近接戦闘に射撃を織り交ぜて攻められたら厳しくなるぞ」
『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』
アナウンスで一夏と鈴が空中で向かい合う。
『一夏、今謝るんなら痛めつけるレベルを少し下げてあげるけど?』
『雀の涙程度だろ? そんなのいらねぇよ、全力で来い』
『一応言っておくけど、ISの絶対防御も完全じゃないのよ。シールドエネルギーを突破出来る攻撃力があれば本体にダメージを与えられる』
「そして俺のクアンタはそのまま搭乗者を葬る事は容易い威力を持っている」
「「えっ!?」」
「リミッター付けてれば大丈夫だけどな」
『………』
『………』
一夏と鈴の会話が終わりざわめきのみが場を支配する。そして
『それでは両者、試合を開始してください』
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
IS学園今年初の公式試合が始まった。
最近この小説の情報欄を見たのですが、なんといつの間にかお気に入り件数が400件超えてました!
皆さんありがとうございます!
次回は一夏 VS 鈴を書き、その次に書きたい戦闘その2のゴーレムⅠ戦を投稿したいと思っております。
どうぞよろしくお願いします。