IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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26話目お届けします。


完成と姉妹

 

 

「さて、簪さーん、本音さーん。どうだー?」

「ハロハロ」

「あ! あおきーにハロハロ~。パーティー抜け出してきたの~?」

「ああ。簪さんが頑張っているのに協力者の俺が参加するっていうのはどうかと思って。で、どう?ようやく…?」

「……………出来た…!」

「お!?」

「おお!?」

「ハロッ!?」

「…ッ!」

 

 

 

 

 

新華がパーティーを抜け出して来た場所は整備科作業室。それまで鳴っていた作業の音がピタリと止み3人+1が声を上げ1人が小さく密かにガッツポーズをする。

 

 

 

 

 

「おめでとう! 簪さん! いやぁー良かった良かった! ホントマジでおめでとう!」

「かんちゃんオメデトー!」

「カンザシオツカレ、カンザシオツカレ」

「! 本音ちゃんに…新華君…!? どうして…? パーティーは?」

「んなもん抜け出して来たよ。もう完成するのに今まで手伝って来た俺が居ないのはどうかと思って」

「かんちゃん集中してたから気付いて無かったよね~。あおきー、走って来てたよ~?」

「そうだったの…ありがとう」

「いやいや。どうせだったらあそこに隠れているお姉さんにも祝福してもらいませんか?」

「ぶっ」

「えっ!?」

「あ~、会長だ~」

 

 

 

 

 

密かに隠れていた会長の存在を暴露し2人の前に出す新華。以前から自分の居る場所は姉である彼女が居るべき場所だと考えていたうえ、会長にも言っていたので、せめて祝福だけでもと思い中々出てこない会長を強引に引きずり出した。 

 

 

 

 

 

「あー…えっと…」

「………」

「うわ~空気がおも~い」

「無茶ぶりだったけどこうでもしないと進まねぇからな。家族なんだから仲良くしろよ」

「………」

「………」

「…はぁ」

 

 

 

 

 

気まずくなって一向に話さない2人。新華としては姉弟や姉妹などの家族が憎みあっている訳でもなくすれ違っているだけの状態を見逃したくはなかった。前世で両親を殺し、映画部の面子の様な家庭に問題を抱えている人達を見てきた事が、新華にこの姉妹の仲を改善させようとさせる原因であった。

 

 

 

 

 

「………黙っていても何も変わらないし、進めない。自分の中で想いを燻らせて溜め込むより勇気を出してぶちまけた方がお互いの為になりますよ?」

「………」

「………」

「…だあーもう! 思い切って話せって! 会長もへたれてないでさ!」

「………簡単に言ってくれるけど、言うほど簡単に出来るものではないわよ? わかっているのかしら?」

「分かってますよ。でも言えずに後悔するなんて悲しすぎるじゃないですか。俺を口実にしていいんで、話だけでもしてくださいな。ここ何年も話してないんでしょう?」

「………そうだけれど…」

「…どうして新華君はそこまで私達に関わろうとするの…? あなたには本来関係の無い話の筈………」

「………」

「…新華君?」

 

 

 

 

 

簪のセリフで新華の顔が歪む。その顔には深い悲しみが宿っている。前世での『スキゾイド・ドーベルマン』と一兎の元カノが起こした一連の激しく悲しい戦い、そして一兎の悲しい涙の記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

「…俺の知り合いに、知らず知らずの内に殺しあっていた義理の兄弟が居たんです。2人の仲は最悪で顔を合わせるとすぐ暴力沙汰になる程でした。兄は弟を疎ましく思い弟は殺したい程憎んでいました。ある時とある組織の実験兵器が暴走して兄の体を乗っ取り弟と戦闘になった。結果兄は弟によって討たれました。しかし兄の方には妹がいて、兄を殺したのが弟だったと分かると全てをかなぐり捨てて弟を殺そうとした。結局敵討ちは失敗し妹は記憶を失い弟は一生心に残る深い傷を負い泣いていたんです。あの時のあいつの顔は、今でも忘れられない程辛く、悲しいものでした」

「「「………………」」」

「…ハロ」ピコピコ

「…環境や状況こそ違えど、自分の中に思いを抱え込み過ぎると良くないことが引き起こされる。ニュースでも『あの人が○○だったなんて』と言う事はいくらでもあるんです。どれだけ相手を想っていても一方的では意味がないんです。ちゃんと言葉にださなきゃ伝わらない。いつまでも誤解したままだといつか取り返しがつかなくなる事もある。あなた達にそんな思いをして欲しく無いんですよ、俺は」

 

 

 

 

 

新華が言った知り合い(一兎)の話には少し足りない場所がある。それは兄方の妹と(一兎)が義理の兄妹とは知らずに恋人になっていた事と、乾燥者によって乾燥者に覚醒した妹が恋心を捨て憎しみに染まり、一兎がP・V・Fを使い自分との記憶と彼女の乾燥者としての部分を破壊して『無かったこと』にした事、その殺し合いに志甫が参加していた事。話すと更に長くなるうえ、暗部で耐性が付いてる会長はともかく、まだ純粋な簪や本音には刺激が強すぎるので省いた。

 

 

 

 

 

「あんたらは家族だろ? 思いっ切り言いたいことを言って、何度も喧嘩して、何度も仲直りするのが家族ってもんじゃないんですかね。少なくとも俺の家はそうでしたよ。世間で俺の存在が報道された後父さんと母さんと言い争いしてましたし、『蒼天使』だって事を話したら父さんにぶん殴られましたよ。それでその後こう言われたんです。『お前は俺たちのたった一人の息子なんだから、1人で何でも抱え込まずに俺たちにも頼れ。お前から見たら頼りないかも知れんが、俺達は、親として、最後までお前の味方だ』と。…それまで無意識に罪悪感と引け目を感じていたんでしょうね。その言葉が嬉しくて、胸が軽くなったと思ったら涙が止まらなかった。それまで俺がしてきた事も全部話した。正直話している時は怖かった。話す事で拒絶されるんじゃないかと、嫌われて俺の目の前から消えてしまうんじゃないかと」

 

 

 

 

 

新華はその時の両親の顔を思い出して心に暖かさが込み上げてくるのを感じた。3人+1は静かに聞いている。

 

 

 

 

 

「…両親は叱ってくれました。俺がしてきた事は、罪は消えない。でも父さんも母さんも受け入れてくれた。抱きしめてくれた。そして俺は知らず知らずの内に作っていた心の壁を破壊し本当の(・・・)笑顔を取り戻す事が出来た。心からの、感情が一杯詰まった笑顔を」

「「………」」

「あおきー…」

「ハロ…」

「…あんたら姉妹だってそうじゃないか? 自分で心を閉ざし拒絶や絶望に怯え、勇気を出さずに時間に身を任せる。壊れてしまうくらいならこのままでいようと。でも時間は待ってくれません。そして、あんたらが思っている以上に家族の絆は強いんです。少しでも相手を想う心があるのなら、関係はそうそう途絶える事はない。そして」

 

 

 

 

 

新華の言葉は止まらない。元々仲の良かった2人が溝を埋められないまま離れて過ごすのを新華は看過出来なかった。選択戦争時に心配できる家族を殺していた自分が感じた虚無感を感じて欲しく無かったから、ちゃんと今の自分の様に心から笑顔で居て欲しいから。

 

 

 

 

 

「お互いの事を忘れず、互いを尊重し合える思いやりと絆がまだあなた達2人に残っているのだから、かつて持っていた筈の笑顔を取り戻せるはずです」

「!!」

「お互い…?」

「…言葉に出さないと分からない、ちゃんと話さないと。このまま距離を取り続けていたら絶対後悔しますよ」

「「………」」

「はぁ………本音さん、出よう」

「え~、かんちゃんと会長は~?」

「置いてく。…俺たちは先に帰ります。2人でゆっくり話し合って下さい」

「ガンバレ、ガンバレ」

「ちょっ!」

「えっ?」

 

 

 

 

 

新華が本音とハロを連れて整備科を出る。会長と簪は取り残される形となり気まずい空気が流れる。

 

 

 

 

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 

 

 

 

会長は新華がこの場を離れた事を感じ取り焦った。新華の言っていた通り会長は簪の意思を尊重していた。かつて自分が言った心無い一言で簪が離れてしまったのは分かっていた。しかし時間が経つに連れ簪の拒絶はより強固な物になっていき、自分は影から見守る事しか出来なかった。新華が簪と過ごしていく内に簪に歳相応の表情を見ることが出来て幸せと新華に対する嫉妬を感じる事もあった。新華に気付かれていないとは思っていなかったが、簪を影で祝福していた事でこの事態を予測出来ていなかった。

また簪も同様に焦っていた。幼い頃に拒絶されて以降、目の前の姉と比較される事が多く劣等感を抱いてきた。彼女も新華が言った通り会長である姉を認め尊重していた。でなければ自身もISを自作しようとしたり、代表候補生に選ばれる程の努力をしてはこなかった。コンプレックスである姉に追い付き自分の実力を認めてもらう為に、新華や本音に助けてもらいながらも専用IS『打鉄・弐式』を完成させた。しかしここにきて目の前の人物である。正直新華に話しをしろと言われたが、突然過ぎて何を言えばいいのやら全く思い付かなかった。

そして2人に共通する思いがあった。先程の新華の話である。彼の話には言い知れぬ悲しみと、聞いているこちらも心暖かくなるものがあり、それによって心を動かされていた。

 

 

 

 

 

「…簪ちゃん」

「!」

 

 

 

 

 

まず会長が口を開いた。

 

 

 

 

 

「まずは、簪ちゃんが幼い頃に突き放す様な言葉を言ってしまった事を謝るわ。ごめんなさい」

「…っ」

「そして、私に言う資格は無いのかも知れないけれど、完成、おめでとう。新華君には気付かれていたみたいだけど、影から見守っていたわ」

「!? そ、そんな…」

 

 

 

 

 

簪は裏切られた気持ちになった。新華は自分から簪に声を掛け手伝ってくれたと思っていたのに、目の前の人物と協力して自分を騙していたのではないのかと。しかし姉の続く言葉にその思考は中段される。

 

 

 

 

 

「あ、いや、あのね? 新華君は私に協力してくれていた訳じゃないと思うわ」

「え…?」

「新華君はね? 私が簪ちゃんの様子を部屋で聞くと決まってこう言うの。『知りたいならさっさと仲直りしてくださいよ。本来あの場所に居るのは俺じゃなくアンタなんですから』って。『簪さんに必要なのは俺みたいな第3者じゃなく、あんたの様な身内の支えなんだ』とも言っていたわ。そしてその日はもう私の質問には答えてくれなくなるの」

「………」

「…新華君は私の為ではなく、簪ちゃんの為でもなく、私達2人の為に行動してくれていたのね。結構強引な所もあるけど」

「………」

 

 

 

 

 

簪は何も言えなかった。新華の行動は、姉の言葉が本当なら確かに自分達2人の為のものだったと思う。しかし今更態度を変える事は出来ないししない。いくら向こうから歩み寄って来たとしてもそれこそ今更であるし、長年拒絶していた関係を戻せるなど都合が良すぎる考えだと思う。しかし簪もかつては姉が大好きで憧れていたし---

 

 

 

 

 

「(ああ、そうか---)」

 

 

 

 

 

簪はいつの間にか隠れていた感情を思い出す。簪は姉を拒絶していたのではない、怯えていたのだ。完全な姉と比べ自分の足りなさを浮き彫りにされ、惨めな思いをする事に。今以上に、好きな(・・・)姉に突き放され疎遠になってしまう事に。しかし長い間1人で考え事をする事が多くなっていき、その感情が意地と時間によって歪んでわからなくなっていた。それが今、新華の導きで正された。

 

 

 

 

 

「(それに)」

「か、簪ちゃん?」

 

 

 

 

 

目の前で黙ったままの自分の行動にキョドっている姉を見て、新華の『ヘタレ』発言も加えると、完全無欠の姉の像が崩れるのが分かった。

 

 

 

 

 

「…お姉ちゃん(・・・・・)

「!! か、簪ちゃん!」

 

 

 

 

 

簪は勇気を出して姉を昔の様に呼ぶ。新華と接する内に心が丸くなっていたのだろう、今まであった抵抗をあまり感じていなかった。楯無はようやくかつての様に自分を姉と呼んでくれた事が嬉しかった。長年の反動で感極まっているのか、その目は少し潤んでいた。

 

 

 

 

 

「今まで見守ってくれていた事はわかった。だけどこのまま『はいそうですか』と昔の様に過ごす事は出来ない」

「っ、そうよね。流石に都合が良すぎるわよね…でも!」

「だから」

「?」

「…この感情にも、私自身にも、そして今までの劣等感にも、ケジメをつける」

 

 

 

 

 

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「それで、今度そのケジメをつける為にISでの姉妹対決を来週すると? それでその見届けを俺に頼みたいと」

「そうよ。半ば強引なだけどあなたの御陰で一歩を踏み出せた。そして今まで私達の間に居てくれたあなたには最後まで見届けて欲しいのよ」

「別に虚さんに頼めばいいんじゃないんですか? 虚さんなら問題無いと思いますし」

 

 

 

 

 

1050室。楯無と簪を強制的に話し合う環境を作った後、本音を部屋に送り新華は部屋に戻りいつも通りハロを弄っていた。しばらくすると楯無が帰ってきて結果を話した。

 

 

 

 

 

「勿論虚ちゃんにも見て貰うわ。でもあなたは私達姉妹にとって大きな存在になっているの。あなたが思っている以上にね」

「まぁいいですけど。来週ってことは簪さんは一夏の時と違って万全な状態で望むってことですよね?」

「ええ。完成したとはいえ初期設定がまだでしょう? それに今まで開発ばかりしていたからカンを取り戻す必要もあるでしょうし」

「なら会長は簪さんを見に行くの禁止ですね」

「え?」

「え? じゃねぇですよ。あんた実力有るのに簪さんの手の内見たらダメでしょう。開発段階から機体見ているんですから既に簪さんに不利なのに、最後のひと押しを台無しにする気ですかアンタは」

「え、え~っとぉ…」

 

 

 

 

 

言えない。楯無は実は簪と新華ばかり見ていて打鉄・弐式を、良くて進行具合しか見ていなかったなどと。仕事の忙しさから来るストレスを簪を見て何とか乗り越えていたなどと。

 

 

 

 

 

「…朝とかに見に行くくらいなら」

「ダメです。直ぐに話しかけたくなって抑えが効かなくなるでしょうが」

「うう…簪ちゃん…」

「…ハァ、やっぱり虚さんに見張っていて貰った方がいいっすね。頼みます」

「ええ。分かりました」

「!? 虚ちゃんいつの間に!?」

「『あなたの御陰で一歩を踏み出せた』の辺りからですね。昔からお嬢様は妹様の事になると周りが見えなくなるので、話を聞くのは楽でした」

「………orz」

 

 

 

 

 

暗部の現当主とは思えない格好の楯無。家族愛は大いに結構だがそれで良いのか暗部と新華は思った。言わないが。

 

 

 

 

 

「さて、会長弄りはこれくらいにして」

「ちょっ」

「これくらいにして、今日はもう遅いんでさっさと寝ましょうか。虚さん、明日からお願いします」

「分かりました。それではお嬢様、青木君。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「うう、新華君と虚ちゃんがいじめる…」

「あんたもふざけてないで明日に備えて休みなさいよ。俺はさっさと寝ますね。ここのところ割と忙しいんで疲れ取っておかないと」

「あら、そうなの?」

「元凶の1人が言うなし…とにかく、俺は寝ます。明日は明日で忙しくなりますしね」

「そう。私はシャワー浴びてからにするわ」

 

 

 

 

 

 

そう言って楯無は着替えを取り出す。新華に見られる可能性があったにも関わらず。しかし新華は布団に横になり既に反対を向いていた。

 

 

 

 

 

「では、お先に」

「ええ。おやすみなさい」

 

 

 

 

 

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「ふぅー、気持ち良かった。新華君は、流石に寝てるわね」

「………」スースー

「ふふ。無防備な寝顔ね」

 

 

 

 

 

シャワーから出て寝ている新華のベットに腰掛け、新華の寝顔をのぞき込む。そして顔を近付け

 

 

 

 

 

「…ありがとう。天使さん」

「んっ…」スースー

 

 

 

 

 

そのまま頬をほんのり赤く染め布団にもぐった。

 

 

 

 

 

 




さて、重い話。書いている内に、新華の両親が完璧人間に。っていうか器が広い。
パラベラム関係の話は長くなってしまいますが、大丈夫ですかね? 原作持っている人は分かるでしょうが。
そうそう、今日IS1巻買いますた。でも専ら資料目的です。大体の流れはもう頭の中で組み上がっているので。具体的にはゴスペルまで。
でも中々日常が書けないので遅いっす。そこは勘弁してください・・・。

関係無いですが、最近ニコニコでマークデスティニーにハマってまして。
誰かシンのファフナー世界転移物書いてくれないかな~(チラッチラッ
それとも、俺が書くか?いや、でも時間足りないし…

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