第3アリーナピット
「あはは、やっぱり言葉責めされとる」
「イチカオツカレ、イチカオツカレ」
「し、新華! すまん負けちまった」
「知ってる。まあお前は詰めが甘いからな。でも俺と箒の特訓は意味があったろ?」
「ああ! 御陰でいい所まで行ったんだけどなぁ」
「調子に乗るな馬鹿者。今回はオルコットがお前を侮り手加減した結果だ。次はああはいかないうえ、お前はまだまだ素人だ。そんなに簡単に勝てるほど甘くはない」
「まあまあ、織斑先生。えっと織斑君のISは今待機状態ですけど織斑君が呼び出せば直ぐに展開出来ますが同時に多くの義務が発生します。詳しくはこの冊子に記載されているので後で読んでおいてくださいね」
そう言って山田先生が一夏に教科書に勝るとも劣らない厚さの冊子を渡す。
「お、重っ!」
「そりゃそうだろ。ISはパワードスーツとはいえ一歩間違えれば簡単に人殺せるからな。それだけ操縦者には規制やら制限やらかかるに決まってんだろ。この2週間勉強してなかった分上乗せで同時進行して使うからな」
「げっ、まじかよ…」
「イチカガンバレ、イチカガンバレ」
「…私も協力しよう。私は専用機を持っていないとはいえ知っておいて損はないからな」
「おう、そうしてくれ」
一夏は絶望したような顔をするが真面目にやろうとしていた。箒も一夏の精神的負担を和らげるためか、それとも一夏との共通の時間を過ごしたい為かは分からないが参加の意思を示す。
「後でお前の戦闘映像観て反省会するからな」
「あ、ああ。次は新華の番だよな。じっくり見させてもらうぞ」
「そうだな。心配ないと思うが、頑張って来い」
「りょーかいりょーかい」
「では、我々は管制室にまた向かいますので織斑君と篠ノ之さんは後で来てくださいね」
「はい」
「わかりました」
「さて…と。…ハロ収納「ハロッ」、来い」
新華は射出台の上に乗りクアンタを展開、代表的な特徴の
今回は試合用に調整してある故装備が違った。それに普段のクアンタの装備だと殆どの生徒が相手にならないので政府から規制とハンデを受けていた。
クアンタの装備はハンデを考慮して左右のGNドライブを外しファングを1セットを残し、それ以外の武装は両肩のシールド以外全て外していた。
「『
「この後ろ姿…あの時のとちょっと違うけど、同じだ。やっぱり新華は………新華?」
「………」
「新華?」
クアンタを纏った新華が行き成り何も反応しなくなり怪訝な顔になる2人。だが直ぐに気付く。新華が纏う空気が先程のそれではなく既に戦う者の空気になっているのを。
「………ここまでとは」
「…新華、だよな? まるで別人だな…」
「…済まないが…展開すると癖で口数が少なくなる…。全部聞こえているから、安心しろ…」
「! あ、あぁ」
「そ、そうか」
「…………」
「…………」
「…………」
話題の中心になるべき新華が無口になり2人も新華の空気で話ずらくなってしまい気まずい空気が流れる。
『青木君聞こえますか?』
「…jud. 聞こえます」
『じゃ、ジャッジ…?』
山田先生が管制室から通信を入れても対して変わらなかった。しかし先生はやはりタフなようで、諦めずに新華に話しかける。
『ええっと、オルコットさんが準備出来たそうなので青木君も準備が完了次第射出します』
「jud. ……一夏、箒」
「「ひゃい!?」」
「……………」
「「………」」
「…よく見てろ。観る事もお前らの実力に直結する。…そして強くなれ」
「? あ、あぁ」
「…楽しみにさせてもらう」
「………山田先生。準備完了です」
『あ、はい!』
新華は前屈みになり発進体勢になる。
『それでは、射出!』
「
掛け声の直後射出され幻想的な緑のGN粒子を撒きながら空中へと飛び出す新華とクアンタ。その後ろ姿にある種の美しさを感じた2人はしばらく見とれていたが
「はっ! 一夏、管制室に向かうぞ。少しも見逃したくない」
「! そうだな。急ごう」
「しかし新華は『イボルブクアンタ』とか言っていたな。どう言うことだ?」
「さぁ…? そういえば新華自身から『蒼天使』って言う所聞いた事無かったな…」
2人して首を傾げながら管制室へ急ぐ。その足の速さからは新華の『蒼天使』としての実力に期待しているのが感じ取れた。
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「…来ましたわね」
カタパルトから射出され飛ぶ。背中から緑のGN粒子を撒き散らし一息でセシリアの駆るIS『ブルーティアーズ』と相対する様に空中で静止する新華。
オルコット以外の全生徒達は動揺が隠せない。既に観客席はざわめきが大きくなり混乱が起きている。中には立ち上がり新華に何かを叫んでいる者も居た。
「…やはり『蒼天使』…。念の為ですが、本当に青木 新華その人なんですのね?」
「…」
頭部顔面部分の装甲がスライドし、感情を消しより鋭い目付きになった新華の顔が露になる。その目はハッキリと目の前の敵---セシリアに向けられていた。セシリアはその視線を受けたじろぎ恐怖を覚えた。自分と同い年のはずの青年から年齢に合わない威圧感だけがあった。
それだけではなく、以前教室で騒いだ際に全員が感じた殺気が全く感じられず、まるで機械を相手にしているかの様な感覚を味わった。
新華は5秒程顔を晒した後顔面装甲を再び展開し、試合の内容と武装の確認をする。
「(ミッション確認…セシリア・オルコット搭乗の第3世代IS『ブルーティアーズ』の無力化。ただし相手の得意とする距離と武装で交戦すること。今回は遠距離、狙撃武器のみの許可。今回選択した使用可能な武装…GNソードビット*6のみ。『トランザム』は使用不可)」
新華はIS学園と政府からの通達で、学園で『
・相手が苦手な距離での戦闘はなるべく行わず、相手が最も得意とする距離での戦闘
・相手が最も得意とする武装の種類みの使用
・絶対防御の発動の義務化
・永久機関『GNドライブ』を4基から1基への変更
・
・死に至る攻撃、行為の禁止
などを言い渡されている。普通の操縦者であればこれだけ制限されれば無理ゲーと化すが、生憎普通とは遠く離れ絶対防御を貼らず変態的な戦闘能力で戦闘をこなし、戦闘や重要な時には感情を完全に消して常に冷静な判断を下す新華には特に問題は無かった。
「…以前映像で見た蒼天使とは違うようですが、織斑さんと同じく素手で来るとは、いくらなんでも私を舐めすぎではなくて?」
「………」
「そちらの蒼天使は有名ですが第1世代機。第3世代のこのブルーティアーズとは性能が段違いの筈」
「………」
「相当の実力が無ければ量産機に乗っている方が良いはずですわよ」
「………」
「…何か言ったらどうなんですの?」
「………(隠蔽していた時はともかく、この環境で無口だといらん誤解を招くな。だがこの癖はすぐには治らないだろうしな。威圧には問題無いし無駄も少ないから別にいいんだが)」
オルコットや一般生徒には新華に課せられたハンデとクアンタの性能が知らされていないので、殆どの生徒はオルコットが勝つと思っている。中には露骨に
「オルコットさん、そんなパチモンぶっ飛ばしちゃえー!」
「蒼天使はここでボコボコにされてしまえ…!」
「出る杭は大人しく打たれてなさい!」
などと好き勝手に騒いでいた。中には蒼天使を真似した偽物と思っている者も居るらしく混乱が起きていた。
「…私もあのような感じだったのでしょうね…冷静になって見方が変わると滑稽に思えてきますわ」
「………」
「…青木さん…?」
「…すまん…展開すると癖で口数が少なくなる……………………」
そう言って新華はアリーナ全体に聞こえるようクアンタのマイクのボリュームを上げ、視線をセシリアから観客席に移して
「…五月蝿い…少し、『黙れ』」
ドスの効いた声と共に殺気を与える。すると面白い位に騒ぎが収まり静かになる。それを一瞥し再びセシリアに視線を戻す。
「フン…」
「…凄まじいですわね。一体どう言う経験を詰めばこの歳でそれ程の力を身につけられるのかしら?」
「…………」
「…口数が少なくなるんでしたわね。なら、この試合が終わってからでも聞くとしますわ」
「………」
セシリアが戦闘態勢に移行すると同時に新華も神経を研ぎ澄ます。
そして
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『試合開始です!』
「行きますわよ!」
「………」
蒼と青が激突する
名前が 厨 二 !
次回はセシリアフルボッコ回。直ぐに投稿できます。