IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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19話目ー

また長くなりますた…


ヒロイン達+a

 

 

side セシリア・オルコット

 

 

 

 

 

「あんな男性が『蒼天使』ですって…!?」

 

 

 

 

IS学園寮1022室、セシリアは部屋で1人この1日で何度繰り返したか分からないセリフを呟いた。教室で新華の専用ISについて問い詰め挑発されただけでなく、その専用ISが今や知る人は居ない程有名な『蒼天使』であることを示唆されて混乱し思わず激昂してしまった。

しかし今までセシリアが出会った男性とは全く違う反応をした新華、ついでに一夏に対して苛立ちを隠していなかった。

 

 

 

 

 

「あちらのブリュンヒルデの弟というのも気に入りませんが、あの青木 新華という人物は何者ですの…? ブリュンヒルデや篠ノ之博士との個人的な繋がりが有るだけでなく、あんな、あのような…!」

 

 

 

 

 

教室で新華からの圧力は彼女にとって屈辱だった。彼女は両親を事故で亡くしており母が切り盛りしていた財閥を受け継いでいた。家を存続させ守る為に努力に努力を重ね国家代表候補生という地位と専用機を手に入れた。しかし彼女の周りに居るのは使用人であり信頼の置ける友人以外、権力と彼女の美貌を目的に擦り寄り媚びてくる者しか居なかった。幼い頃から手本になる筈だった父親も母のご機嫌を伺いこそこそする情けない姿しか見れなかったため、男性に対する考えが歪み嫌悪していった。そこに現れた2人の男性IS操縦者。見るからに優男と思えるブリュンヒルデの弟と、その幼馴染である鋭いがだるそうな目をし奇妙なボールの様な機械を連れている変人が現れる。どんな人物かと声を掛ければ片方はIS学園に入学してきたとは思えない無知と甘えが目立っていた。もう片方はだるそうに自分をあしらい生意気に馬鹿にしてきた。確かに今までの男とは違ったが、同時に今まで感じなかった別ベクトルの不快感を覚えた。

そこにクラス代表と専用機の会話である。正直彼女にとって納得出来ない事であり今までの自分の努力を否定された様に思えた。

 

 

 

 

 

「専用機を与えられるとはいえ相手は素人。私の圧勝は目に見えてますわ。問題はもう1人の方ですのだけれど…」

 

 

 

 

 

正直彼女は一夏を驚異と見なしてはいなかった。問題はあの謎の男性が駆るであろう『蒼天使』である。しかしここで彼女は取り返しのつかない勘違いをしていた。

 

 

 

 

 

「いくら伝説を残したとはいえ相手は第1世代機、加えて初陣の相手は旧兵器の戦闘機や艦船。こちらは第3世代かつ四方八方からの攻撃が可能な『BT(ブルーティアーズ)』を装備していますわ。世界各地で目撃の報告が上がっていたようですが、データに証拠となるデータもありませんしガセでしょう」

 

 

 

 

 

このように侮りまくっていた。クアンタは確かに第1世代に分類されるのだが、クアンタを構成する全てが高水準で纏まりかつ新華自身の強さが性能を引き出していた。各地に目撃情報があってもデータが無いのは新華と束が削除して回ったり、政府が隠蔽していたりという事実が有るからであった。

 

 

 

 

 

「織斑 一夏に青木 新華…覚悟しなさい…私が叩き潰して上げますわ!」

 

 

 

 

 

こうして実力を図りそこね、2人を侮った事を後悔する羽目になるのは後の話。

 

 

 

 

 

side 箒

 

 

 

 

 

「………………………ハァ」

 

 

 

 

1025室。剣道場から戻ってきた箒は、一夏が居ない部屋でベットの上で膝を抱えていた。元気が無い理由は、先程の新華とのやり取りが原因だ。特に最後に新華に言われた『一夏にも見てもらえなくなる』と言う言葉が胸に刺さっていた。

 

 

 

 

 

「………はぁぁぁ…」

 

 

 

 

 

箒は昔と変わらない性格の一夏を教室で見てまず安心した。言わなくても分かるが箒は一夏が異性として好きである。まだISが世界に表れる前は、剣道でお互いに高め合う好敵手として、同い年であるに関わらず圧倒的な強さを誇る新華に追い付く為の相棒として側にいる内に惹かれ気づけば好きになっていた。そんな一夏と新華が同じクラスになったと知った時、内心ではしゃいでいた。何度も想い人に視線を向けていたが、目が合いそうになった途端恥ずかしくて目を背けてしまい何度も同じことを繰り返した。そして久々にまた共に剣道が出来ると思い実力を測った。しかし結果は期待したものでは無かった。一夏の腕は落ち自分と張り合えるだけの実力を失っていた。ならば、と思い一夏に稽古を付けようと半ば強制的に押し通そうとした。幼馴染でかつての目標の新華も同様だと思い実力を測ろうとした、が

 

 

 

 

 

『その天狗になったプライドをへし折ってやるよ』

 

 

 

 

 

一瞬だった。隙を伺い動けなかった挙句、余りの速さに反応出来なかった。新華は腕を落とすどころか更に上へと実力を高めていた。

今になって気付く。一夏と違い新華には両親が居る。しかも教室での会話を思い出す限りでは姉の束に何度も拉致されておりISに関しての知識も人並み以上あるだろう。そして自分と相対する際にハロに投げたのは重り。普段の生活から体を鍛えていたのだろう。自分はどうだったか。一夏が見てくれたあの大会以降負け知らずで新華の言葉通り天狗になっていなかったか? そして新華に負けた後、新華の言葉が胸に突き刺さった。昔より弱くなったという言葉の意味が分かった気がした。昔は誰にでも本気で挑み強くなろうと我武者羅に剣道を楽しんでいた。負けても次への糧になっていた。しかし両親と離れ時間が経つにつれ、いつしか勝つのが当たり前。負ける事など有り得ない。もう自分に敵う者は居ないと思い、剣道を、楽しむのではなく相手を叩き潰す手段となっていた。

 

 

 

 

 

「………よしっ」

 

 

 

 

 

新華に完敗したことでそれに気付き心機一転、また明日から剣道を一夏と共に昔の様にやり直そうと気合を入れる。昔の様に一夏と並んで打倒新華という目標を掲げて。

 

 

 

 

 

「…シャワーでも浴びるか」

 

 

 

 

 

もう外は暗くなり始め剣道場での汗を流していなかった事に気付き箒はシャワールームへ入っていく。

しかし箒さん学習しましょう…。その部屋は一夏も寝泊りするんですよ?

案の定一夏が新華に諭され箒に特訓を頼もうと部屋に戻って来るタイミングで箒は風呂を上がり、一夏にまたしても理不尽(笑)な暴力が振るわれる事になる。

 

 

 

 

 

 

side 更識 楯無

 

 

 

 

 

「…………」

「お嬢様、追加です」

「…またかしら。もうそろそろ終わりそうって時に限って仕事って増えるわね」

「生徒会と更識の両方の仕事をこなしているので、仕方ないかと」

 

 

 

 

 

生徒会室。部屋に居るのは2人のみ。1人は学園最強生徒会長にして暗部『更識』の当主、更識 楯無。もう1人はその従者で幼馴染の布仏 (うつほ)。2人は『生徒会長』というプレートが貼られた机を挟んで並ぶ。机の左には書類が積み重ねられており、右には数枚の書類が重なっていた。そこに暑さ5㎝程の書類が積まれる。

 

 

 

 

 

「ま、これだけならすぐ終わりそうね。さっさと片ずけましょう」

「こちらももうそろそろ終えられます。終わり次第職員室宛の書類を持っていきます」

「お願いね。さて、ラストスパートよ」

 

 

 

 

 

そう言った後再び部屋に静けさが降り、紙をめくる音、ペンで書く音、判子を押す音のみが響く。

30分後

 

 

 

 

 

「終わったー、んー」

「お疲れ様です、お嬢様。どうぞ」コト

「ん、ありがとね虚ちゃん」

「いえ」

「さて、今日も行きましょう!」

「私はこのまま職員室に書類を持っていきます」

「お願いね。彼も行っているみたいだし、気付かれない様にしないとね」

「(無駄かと思いますが)お気を付けて」

 

 

 

 

 

2人は部屋から出てお互い別方向に歩き出す。生徒会長の座を狙う一般生徒の攻撃を掻い潜り簪の居る整備科にたどり着き

 

 

 

 

 

「ん、簪ちゃん発見。新華くんも居るわね」<●><●>

 

 

 

 

 

密かに部屋に入り隠密スキルで空気に溶け込む。ここにもスキルの無駄遣いが。視線の先には作業をする簪と新華が居た。2人共作業が順調な様で、新華に至っては作業しながら整備科の生徒にアドバイスや手伝いもしていた。その姿は大変そうだが生き生きとして輝いて見えた。

 

 

 

 

 

「…んー、簪ちゃんもいい表情になっているわね。新華君が切っ掛けっていうのは悔しいけど、皆に手伝ってもらうのはいい傾向ね」

 

 

 

 

 

実の姉妹なのだから直接話に行けばいいのだが、そうもいかない理由がある。以前更識の仕事中に幼い簪が、姉を心配して付いて来てしまい足でまといになってしまった事がある。その際楯無がもう付いて来ない様にと突き放し貶してしまったのだ。幼い簪はショックを受け楯無の足でまといになるどころか、時間が経つにつれ優秀な姉に劣等感を抱き拒絶するようになってしまった。現在簪が専用ISを自作しているのは、打鉄弐式を制作していた『倉持技研』が一夏の専用ISの開発を始め優先したため、打鉄弐式の開発が遅れ簪が開発を引き継いだためである。簪が開発を引き継いだ理由は彼女が日本の代表候補生という事と自分の乗るISを自身で作りたいと言うもの、そして姉の楯無が現在の専用IS『ミステリアスレイディ』を自作したという事実を自分も実行する事で劣等感の払拭を目指したものだった。

 

 

 

 

 

「もうあんなに開発が進んでいるのね…簪ちゃんの努力もあるけど…」

 

 

 

 

 

多くの人物と話しながらプログラミングを組んでいる新華を見やる。彼は話しながらも凄まじい速さで手を動かしていた。いつも彼の側で転がっているハロは今は虚の妹の本音の腕に収まっていた。

 

 

 

 

 

「やっぱり新華くんが手伝っているのが大きいわね。あの作業スピードには目を見張るものがあるわ。篠ノ之博士と一緒に居たと言うのが理由かしらね。簪ちゃんも心無しか彼が来てから作業が捗っているみたいだし…」

 

 

 

 

 

彼女が呟く通り、新華が来る前と後では全体でもそうだが簪自身の作業効率も上がっている。姉である楯無が影から見てきたから分かることだが、簪のテンションも少し上がっている様に見えた。時折新華がミスに気付き簪に伝える為に近づくこともあるが、その度簪が緊張しスピードが上がっていた。

 

 

 

 

「…これは、簪ちゃんに春が来たと見ていいのかしら」

 

 

 

 

彼が簪にアドバイスを与えたと思わしき日から簪は確かに自分のみで無理をすることを控える様になった。しかし同時に彼と同じ時間を過ごしていく内に段々と歳相応のキョドリを見せる様になっていた。しかし楯無はそれを見て暖かく見守ると同時、黒い感情が芽生えてくるのを感じていた。現に彼が簪に近付き簪がキョドルのを見ていると、やはり姉として暖かく見守る感情と黒い感情が溢れてきた。

 

 

 

 

 

「…なんでここであの時の事を思い出すのかしら」

 

 

 

 

 

思い出すのは数年前、一夏の存在が発覚する前に更識は 新華=『蒼天使(クアンタ)』 と言う証拠を掴み、更識家の屋敷に始めて新華が足を踏み入れた日。その日は暗部でもなかなか尻尾を見せなかった篠ノ之博士に最も近いとされる2人の内1人が来るという事もあり、緊張と不安でいつも以上の静けさだった。楯無と簪の両親が当主の座を自身の娘に譲ったにも関わらず娘と共に3人で相対する事になっており緊張は更に高まる。簪は暗部の仕事に関わっていなかったから自室に居た。

そして、新華が屋敷に到着、3人の居る部屋に案内され部屋に入ってくる。第一印象は普通の鞘に入っていた妖刀だった。

足元に丸いボールの様な物が転がっているのを除けばどこにでも居る様な目付きがキツイ青年だった。しかし彼が発する雰囲気と存在感は普通では有り得ない物で。何があろうと反応出来る様な警戒心、自身を制御し礼を弁える教養、そして戦場を駆け多くの物を葬った者から発せられる血の臭い、些細な動きから見分けられる実力。最後に、彼以外が部屋の中に居たから一瞬だけ見ることの出来た、逆光によって強調された輝く瞳(・・・)。視線自体は人を射抜ける程鋭いものだったが、その輝きからは正反対の穏やかさを感じた。

 

 

 

 

 

『はじめまして、更識の皆様。『蒼天使』こと青木 新華です。以後お見知りおきを』

 

 

 

 

 

正座で向かい合い、始めて聞いた彼の声。それは感情が篭っていなかったがとても綺麗で純粋なもので。気付けば彼が居る事で鼓動が早くなってしまう様になった。

 

 

 

 

 

「…へっ部屋に戻りましょ」

 

 

 

 

 

回想している間に時間が経ったのか、新華と簪は作業する手を止め片ずけをしながら談笑していた。始めて会った日を思い出して新華を見た時に高鳴った胸を抑えながら、顔が少し赤らんでいることに気付かないまま新華もいずれ戻ってくる寮の部屋へと足早に戻って行った。

 

 

 

 

 

side 更識 簪

 

 

 

 

 

「………」

「かんちゃんゴキゲンだね~。開発が進んだ事が嬉しいのか、あっきーに会えたのが嬉しいのかどっちなのかな~?」

「開発が進んだのは確かに青木君のお陰だけど…青木君に会えたのが嬉しいっていうのは違う」

「あらら~、そうかなぁ~?」

 

 

 

 

 

この日の開発を終え薄暗い寮への道。簪は従者の本音と歩く。本音の言葉を否定したものの、自身に向けられた笑顔が強く頭に残っていた。彼、新華に開発を手伝ってもらったのは今日が始めてでは無かった。

そもそも最初に簪と新華が出会ったのは更識の屋敷。新華自身は何度目かの訪問だったが暗部関連だった為、簪には伝えられていなかった。本音と買い物した帰り、偶然帰る所だった新華と玄関でばったり鉢合わせたのだ。最初に見た時の第1印象は、顔が少し怖いだるそうにした少し年上の男子だった。一方新華が彼女を見たときの感想は、妹さんか? にしてもまた美少女か…というものだった。新華は一夏と一緒に居た結果、美少女慣れしかつ自分に向けられる邪気に慣れていた。

 

 

 

 

 

『更識 楯無さんの…妹さんですか? 青木 新華と言います。よろしく。この丸いのはハロって言うんですが、基本無視して下さって構いません』

 

 

 

 

 

顔からの印象とは違い思ったより綺麗な声だった。簪は楯無の妹ということで様々な視線を受けてきた。優秀な姉の妹という事で期待する目、妹だからとわざとらしく優しくして姉や両親に覚えを良くしようという考えの目、姉に近付く為の踏み台にしようとする目、嫌らしく舐めまわす様なめなど多岐にわたる。

しかし新華からの視線にはこれまでのとは違い定型文を流しているだけの様で何も感じなかった。後で簪は母から、彼が自分と同い年で仕事の客だと聞かされた時は驚いた。そして興味を持った。今まで見てきたどの男性とも違う雰囲気で、当主の妹ではなく更識 簪という1人の人間として見てもらえると感じたから。

しかしその思いとは裏腹に、新華はその後殆ど屋敷に訪れなかった。来たとしても以前と同じ偶然は中々起きず会えなかった。そして時間は経ち一夏の存在が報道され、それに伴い開発中だった自身の専用機が開発中止になった。簪は姉への対抗心から自分で開発を引き継ぐ事を決意、屋敷の空部屋を借り工房として開発を始めた。しかし流石に1人でやるには作業量が膨大で、開発の為の学習も並行して行う必要があった為なかなか進まなかった。そんな時

 

 

 

 

 

『ん? 何だこの音…? ちょっとお邪魔を…って大丈夫ですか!? それにどっかで見たと思ったら妹さんじゃないですか! ハロ! 楯無さんか前当主夫婦呼んで来い!』

『ハロッ!』

 

 

 

 

 

その時の簪はノイローゼ気味で顔が真っ青だった。しかも工房に篭って開発ばかりして、その開発も中々進ずストレスがたまっていた。そこに新華が通りがかり大騒ぎになった。両親と楯無がパニクッて病院に連れて行った結果、開発に集中してノイローゼ+碌に食事を採っておらず栄養失調気味と診断され怒られた。その後新華が見舞いに来たとき

 

 

 

 

 

『はぁ…何無茶してんスか。例えあのまま完成してもアンタが乗れなきゃ意味無いでしょうに。何で1人だけで、それこそあそこまで必死にやろうとしてたんスか?』

 

 

 

 

 

以前見た時と同じだるそうにして少々呆れが混じった声が簪の耳に入る。簪は自分も1人で専用機を完成させる事で姉に対する劣等感を払拭しようとした事を新華に話した。何故彼にあっさりと理由を話したのか簪自身分からなかったが、精神が思っていたより参っていた事と、新華が簪を1人の人間として見ていたのを感じていたから素直に話すことが出来ていた。

 

 

 

 

 

『あー…そういう事。あのですね、あの楯無さんも全部1人で専用機を開発した訳じゃないらしいッスよ? 従者の布仏さんから聞いたんですが、その布仏さんも手伝ったそうですし。1人で開発したってのはロシアの宣伝らしいですし。ほら、あの人あの国の国家代表じゃないですか』

 

 

 

 

 

新華のそのセリフに驚いた。自分の姉は優秀だから何でも出来てしまう、自分が苦労していたものも簡単に1人でこなしてしまうと思っていたからだ。しかし

 

 

 

 

 

『何でも1人で出来る人なんて存在居ませんよ。誰だって他人の助けが無きゃ何にも出来ないんです。あのクソう詐…篠ノ之博士ですら細かく砕けばIS1人で開発出来てませんし、あんな事件起こしてませんよ』

 

 

 

 

 

その言葉でさらに驚く。IS開発者の篠ノ之博士ですら他人の力が必要だったと、そう言っているのだ。最後の言葉が聞き取れなかったが簪に衝撃を与えるには十分だった。

 

 

 

 

 

『だから1人でやろうなんて無茶しないで下さい。皆さん心配してましたよ。無理なら無理でもいいじゃないですか。1人で駄目なら2人。2人で駄目なら3人でやりゃあいいんです。それが人ってもんでしょう? なんなら俺も手伝いますから、ゆっくりやりましょう』

 

 

 

 

 

簪の目を見ながら笑みを浮かべて提案する新華。この日以降新華は何度か簪の手伝いをする様になり、簪も従者の本音や、学園入学直後から整備科に手伝いを頼むなど無理をしなくなった。同時に新華の事が気になっているのだが。

 

 

 

 

 

「ん~、でも気にはなっているんじゃないのかな~? あんなに優しくしてくれて知識もあるし~」

「確かに気にはなっているけど、嬉しいっていうのは違う…と思う」

 

 

 

 

 

よくよく考えれば新華が手伝いに来ている度に密かに心を躍らせる自分がいる事に気付く。それに彼が自分の姉と同じ部屋と聞いた時はいい知れぬ不安があったが、彼から姉の様子や愚痴を聞くと安心していた。何故そう思うのか分からなかったが、彼の笑顔を見る度心が満たされる感覚があった。本音の言う通り自分に優しくしてくれ、ISについての知識もあり自分を理解してくれる数少ない人物である。そこまで考えて視界に寮が見えてきた事でその思考と会話を打ち切る。

 

 

 

 

 

「もう寮に着いたし、早くお風呂に入ろう…」

「あ! かんちゃん先いかないでよぉ~」パタパタ

 

 

 

 

 

足早に寮へ向かう簪とダボダボの制服で動きが遅くなっている本音。本音の位置からは見えなかったが、簪の顔は少し赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

side 織斑 一夏

 

 

 

 

 

「…ふう、箒は寝たか。痛てて、まだヒリヒリする」

 

 

 

 

 

1025室 23:50 箒が隣のベットで眠りについた事を確認して一夏は今日の出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

「今日も濃い1日だったな~」

 

 

 

 

 

朝は新華と箒と共に食堂で舌鼓を打ち千冬に殴られ、授業では難しい内容に追いつこうとしてたら新華と千冬の漫才が始まって、休み時間には箒の恐ろしい視線に晒されながら集まった女子達の質問攻めに遭い、休み時間が終わった直後千冬に殴られて専用機の事で騒ぎになり、次の休み時間にはオルコットと新華を中心で新華の専用機で大騒ぎに、放課後は剣道場で箒と試合してボコボコにされ、部屋に戻ったらまた風呂上がりの箒に遭遇して竹刀で叩かれて…。

 

 

 

 

 

「あれ、今日だけでも俺叩かれ過ぎじゃね?」

 

 

 

 

 

今更過ぎる気もするが、千冬のは愛情表現で箒はしょうがないので気にしていないのだが。しかしこの日一番の出来事は

 

 

 

 

 

「新華…まさか蒼天使だったなんて…そうなるとあの時見たのは…」

 

 

 

 

 

中学時代にちょくちょく居なくなった原因があの束だった事には納得したが、幼い日に見た伝説とは思わなかった。しかしそうなるとかつて自分がモンドグロッソで誘拐された時彼は誘拐されずに済んでいたのではないのか。自分を助けたあの光は彼の物だったのではないのか。思い出す度新華の姿が当てはまる。

 

 

 

 

 

「…俺、新華に助けられてばっかりだな。…よし! 専用機が来るなら今度は俺が新華を助けられる様になろう」

 

 

 

 

 

今まで誘拐以外にも日常で助けられてばっかりだった事を自覚し、新たな目標を掲げた一夏。その横顔はとても輝いており、月に照らされているせいか美しく凛々しくなっていた。女性が見たら確実に惚れるであろう顔。しかし長続きしない。

 

 

 

 

 

「でもその為には箒と新華の特訓しなきゃいけないんだよなぁ~。…死ぬかも」

 

 

 

 

 

先程の決意はどこへやら。しかしもう特訓を嫌がる事は無いだろう強さがその目に宿っていた。

 

 

 

 

 

 




ヒロイン決定! 更識姉妹にします。

最近思ったんですが、新華の持つP.V.Fって色んな異能バトルに出せる物騒な物ですよね。
例えば『とある』とか、『緋弾のアリア』とか、『進撃の巨人』とか。

次回は訓練話にしようと思ってます。セシリア戦はその後で

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