IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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最近wiki見たら白式が第3形態になってるのとエグイ単一使用持ってるのにびっくりしました。
あと暴走形態とかまんまNT-Dやんけ。その時点でバナージのが強い(確信


天使と騎士

 

 

 

---30分後

 

再び競技場に立った新華は白式を展開した一夏と向かい合う。己が考案し束が添削した図面を元に改良を行われた白式。その手に持つ『雪片弐型』は機構を変え『雪片参型』となっていた。

 

 

 

『さぁ皆様、本大会最後のイベントがいよいよ始まろうとしています!』

 

 

 

一夏の傍には『トリィ』が羽ばたいており、対する新華は普段IS学園で適用される制限のまま軽装状態で佇んでいた。

 

 

 

「新華、休憩中姿が見えなかったけどもう右腕は大丈夫なのか?」

「おう。しっかり動くが、なーんか前より回復すんの早くなってる気がするんよなぁ」

「あー、あれじゃないか。愛の力とか何か」

「 そ れ だ 」

「それだじゃねぇよ」

 

 

 

言葉通り30分で回復した右手には『GNバスターソードⅢ』が握られていた。

この試合は一夏が初めて国際大会に参加するということで、同じく初参加の新華とIS学園同様の試合を行い実力を見せる意図があった。

マスコミとしても注目度が高いこの試合は、一夏が来なかった場合千冬が相手になる予定だった。

 

 

 

『彼ら2人が普段どんな試合を行っているのか、先程の試合により期待度は高まっております!』

「まぁ万全で無かったとしても? いつも通りやるだけだがな」

「そうだけどさ」

『間もなく試合開始となります。お二方、準備はよろしいですか?』

「問題無し」

「大丈夫です」

 

 

 

アナウンスからの問いに、互いに得物を構えて答える。新華は左足を前に出しいつでも動けるよう肩から脱力し、一夏は雪片を両手で持ち中段の構えを取る。

 

 

 

「……」

「………」

 

 

 

2人が意識を変え相手の一挙一動に注視し無言になる。試合が始まる前から戦いは始まっており、観客は先程と違う新華の雰囲気、初めて見る一夏の気合、これから始まるワクワク感に飲まれていた。

 

 

 

『それでは---試合、開始!』

「---」

 

 

 

まず初めに動いたのは新華。前に出した左足に力を込め地を蹴り一夏へ接近する。左肘を前に出しGNバスターソードⅢを突く形で構えた。

一夏は左へ体をずらし雪片を自身の右側へ逆さに立てるよう構える。

GNバスターソードⅢが突き出され、それを受け流す。そのまま返す刃で斬ろうとするが眼前に迫る蒼い装甲に、咄嗟に上半身を逸らした。

 

 

 

「うぉ!?」

「チッ」

 

 

 

一夏の行動を読んでいた新華は突撃を受け流されたと同時に左足で回し蹴りを放つ。

それを回避されるものの、体勢を崩した一夏へ回転した勢いそのままにGNバスターソードを叩き込む。

しかしその攻撃は振り上げられた雪片により軌道を逸らされた。

 

 

 

「ふっ」

「おお!」

 

 

 

一夏も右足を振ってAMBACを行い回転、背を向けた新華へ雪片を振るう。同時にトリィを突撃させ回し蹴りへの牽制とした。

だがそれは空中で跳び体の上下を逆にすることで回避。トリィが過ぎた直後に両手でGNバスターソードⅢを掴み一夏へ振り下ろし雪片と打ち合う。

 

 

 

「ラァ!」

「ぐっ、おおお!」

 

 

 

一瞬で目まぐるしく動き繰り返される激しい剣術の応酬に観客が沸く。全身を使い力強く剣を振るう新華と巧みに剣を振るい相対する一夏。

自身の動きに着いて来ている一夏に新華は内心嬉しかった。

 

 

 

「(そうだ! それでいい!)」

 

 

 

GNバスターソードⅢと雪片が打ち合い、トリィが突っ込んでくる。そちらを意識し回避、ないし迎撃すれば斬撃が迫る。剣の範囲から出れば『雪羅』よりエネルギー弾が連射され斬り払いを余儀なくされる。

武装が1つしか使えない現状で一夏から離れるのは悪手であるのは自明の理。だからこそ剣の腕で勝負しなければならないのだが

 

 

 

「(そのまま俺を超えて見せろ!)」

 

 

 

IS学園で箒が束に言ったように、新華の剣は既に『剣道』ではない。人を殺すため実戦で荒削りしたもの。かつては同門であったとはいえ剣道をやめた新華が一夏に勝っているものは、速度と重さ。

しかしその2つが対処された場合、剣のみで一夏に勝てるものではない。そう思っている。

それでも未だ自身へ攻撃が入っていないのは、剣以外で補えているからである。

 

 

 

「オラァ!」

 

 

 

殴る蹴るの喧嘩でなら実戦含め新華が上回る。そもそも一夏とは力を振るう思考が違うのだ。

一夏のような一般的に『主人公』と呼ばれるような人間は勝利という結果に向かって一直線に進んでいく。

しかし新華のような『臆病者』は敗北に至る要素を排除して確実性を求める。

どちらが良いか悪いかなど状況、手段、人となりによって変わる。

 

 

 

「うおおおお!」

「ッエイ!」

『トリィ!』

 

 

 

それはそのまま2人の強くなるための思考の違い。一夏は『相手を上回るにはどう鍛えればいいか』、新華は『自身を殺すにはどうするか、その手段を覆す手段は何か』。

一夏は新華へと剣を素直に振るう。新華は自身へ届く剣を想定してそこに攻撃を置く。

そして彼は、そんな自身を上回ってくれることを願っている。まるで教え子の成長を願う教師、親のように。

 

対する一夏は、そんな内心喜んでいる新華(しゅじんこう)とは裏腹に焦りまくりだった。

 

 

 

「(早えええええ!?)」

 

 

 

一夏にとって新華は未だ格上の実力者であった。速度、手段、機体性能、気迫、そして背負っているものの重さが違う。

それでも戦えているのは、他ならる当人からの多くの贈り物があるからである。

 

 

 

『トリィ!』

「チッ」

「ハァっ!」

 

 

トリィの突撃で逸れた剣筋を潜り雪片を振るう。

 

一つは、今飛び回り自身の援護をしてくれているペットロボのトリィ。何度も窮地を救ってくれた大切な物。

一つは、今乗っている白式の改良。燃費が非常に悪い『零落白夜』にCBで開発した『カートリッジシステム』を追加することで、カートリッジの数だけエネルギーの消費無しで振るうことが出来た。

 

 

 

「---っ」

「くぅ!?」

 

 

振るった雪片を足場にされ頭へ蹴りが振るわれる。それを体を傾けることで必死に回避し左手の雪羅を振った。

 

一つは、想像力を養う手段。映画が中心ではあったがアニメやゲームといった作品の数々は魅力的であると同時にISの操縦、戦闘技術に非常に役立っている。

一つは、経験。生きているからこそ、後悔出来る。戦いで命を落とさず得られた強さは、守られてきたからと自覚していた。

 

 

 

「っ、ァ!」

「ぐあ!」

 

 

 

振るわれた足の(かかと)で弾かれGNバスターソードⅢがとうとう一夏自身を捕らえ袈裟切りにする。絶対防御が発動しシールドエネルギーが削られた。

 

一つは、絶望。求めてたものが二度と手に入らない、触れていけないという悲しみ。自分自身の存在否定。自己犠牲でしか見出せない未来。知らなければ避けることすら出来ない現実。

一つは、希望。絶望を乗り越えた先にあった光。その中に自分が居たこと。今までが無駄なんかじゃなかったこと。そして、それを守れること。

 

 

 

「---おおおおお!」

「負け、るかあああ!」

 

 

 

新華が一気に自分の流れにしようと声を上げる。負けじと一夏も声を上げ地面を踏み込む。

上段から振り下ろされるそれを、咄嗟に雪片を振り上げ掠らせた。

 

 

 

「っ!」

「---!」

 

 

 

剣道型、五本目。相手の面を逸らして自分が面を打つ技。

生徒会として部活動を回る傍らで剣道を再開しており、ISでの戦闘軌道へ落とし込んでいる。そのため剣道の基本形である型も役立てられた。

カートリッジを消費し零落白夜を振り下ろす。

 

一つは、学ぶことへの意欲。学生の本分である勉強はもちろんのこと、知識の有無は戦闘に大いに影響する。

一つは、目標。その背中が未だに遠く感じるが、だからこそ目指し甲斐があった。

 

 

 

「くっ」

「---くそっ、トリィ!」

『トリィ!』

 

 

 

振り下ろした右腕を基点にした前転で回避され思わず一夏は悪態を着いた。そして一旦距離を取り、トリィを近くに呼ぶ。

 

沢山の贈り物をくれた感謝の印に、期待に応える。そのために

 

 

 

「今日も勝ちに行くぞ、白式、トリィ!」

 

 

 

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---side 簪

 

日本、五反田食堂。

簪は蘭に誘われ本音を含めた友人達と食堂で、その戦闘を見ていた。

 

 

 

「…ほえー」

「何よお兄。変に気の抜けた声出して」

「いや、え? あいつらの動き何?」

「何って、何よ」

 

 

 

食堂に置いてあるテレビでは画面が狭いとのことで、店主の厳に許可を取りハロOを接続。空中にディスプレイを投影して客全員で観戦していた。

 

 

 

「何やってんのか分かんね」

「見れば分かるでしょ」

「いや、どんな動きしてるのかが分かんね」

「………」

 

 

 

兄の発言に蘭が沈黙する。2人の友人とはいえ素人の弾が見切れる筈もない。なにせ自分達も見切れているとは言い難いのだから。

ただ見切れてない者が多い中で、そもそもマトモに見れていない者が1人居た。

 

30分経ってもプロポーズの余韻が抜けていない簪その人である。

 

 

 

「………」

「かんちゃんかんちゃん。あおきーがんばってるよ」

「うん…分かってる…」

 

 

 

画面の向こうで戦う新華に熱い視線を向ける姿は、まるで恋する乙女のようだった。…成就しているのにその表現はどうかと思うが、顔を赤くして心ここにあらずという感じで熱い視線を投げているのだから仕方ない。

新華の告白はカーバンクルのサイコフレームを経由し簪とシャロにしっかり届いていた。先程のP・V・FのS・Sについて言いたいことはあったが、今はそれを押しのけて駄目になっていた。

 

 

 

「……かんちゃん」

「…ん?」

「あおきーが何かしたの?」

「えっ?」

「…声が聞こえたの」

「…あおきーの?」

「うん…」

 

 

 

本音との会話にクラスメイトが驚きの声を上げる。しかしさっきから簪の頭には新華の声がリフレインしていた。

それは遠く離れたところに居るシャロも同じだったが、シャロは怒りたいのに嬉しすぎて悔しいという感情に悶えていた。

 

 

 

「おっ」

「あっ」

 

 

 

画面の向こうでは新華と一夏の戦闘が続いている。一夏が接近してきたところを競技場の地面を切り上げ目くらまし、反射的に目を庇いガラ空きになった胴を蹴ってGNバスターソードⅢを振るう。

が、それはトリィによって適わない。他ならぬ新華が防御力重視で製作したそれは、勢い良く突撃するだけでも十分ダメージを与えられる代物だった。その証拠に兄弟機のカーバンクル、龍形態も同様に武装していなくとも戦闘に参加していたことから分かる。

 

 

 

「すっげ。なんか新華の動きがヌルヌル過ぎてキモいけどスゲェ」

「お兄、いくら本当のことでも更識さんの前なのよ」

「あ、いや、その…」

「…激しく戦うのはいつものことだから…」

「否定しないんですね」

 

 

 

GNバスターソードⅢと雪片が打ち合わされると一夏が距離を取り雪羅でエネルギー弾を新華へ撃つ。だが必要最低限を切り払われ、弾に見覚えのある機動で後退を始めた。

一夏の武装の殆どがエネルギーを多く消費するため無駄撃ちさせればさせるほど相手は有利になる。そうでなくても射撃兵器相手に距離を取って迎撃するのは(弾を見切れるのであれば)正しい選択である。

 

 

 

「…GN粒子ってそういう」

「何?」

「後でThinker流した動画とか出るんだろうな」

「何の話よ」

「あいつゲームと同じ動きしやがった」

「はぁ?」

 

 

 

ドヒャァと効果音を付けたくなるような動きで地上を滑る新華(レイヴン)と、それを追う一夏(リンクス)。地を這う鴉が自在に飛び回る山猫を翻弄していく。

 

 

 

「というかさっきから一夏も新華も空飛ばないのな。さっきとは大違いだぜ」

「一夏さんは剣道やってるから足場があった方がいいのは分かるけど、新華さんも近接ブレードしか持ってないしねー」

「てか、なんで新華は銃を使わないんだ? 制限有りにしても撃てる武器選べば良かったのに」

「……今の新華君と織斑君の使える武器は、最初と真逆…」

「あ、かんちゃん戻ってきた?」

 

 

 

弾の疑問に答えるように簪が口を開く。彼女の顔はまだ赤かく視線は新華に向けられており、体も火照っていたままだった。

 

 

 

「織斑君の白式は二次以降するまで近接武器の雪片しか武器がなかった。対する新華君の武器は複合武器ばかりで射撃武器も使用していた」

「おりむーは雪羅が使えるもんねー」

「そう。使えるエネルギーが有限とはいえ距離を取った際の優位性は織斑君にある」

「じゃあ何で新華はさっきから被弾してないんだ?」

 

 

 

 

やたらと饒舌になる簪に、慣れているクラスメイトと本音以外は怪訝な目を向けるが気付いていない弾が試合を見ながら疑問を投げる。

 

 

 

「…単純に新華君が動きを読んでいるだけ…。雪羅はエネルギー消費が多い分使用回数が限られるし、武器が1つだけだからそっちに集中出来るし…」

「ふーん」

「……というか、新華さんが射撃武器使うと近付けませんよね。なのに向こうから近付いてくるんで怖いんですが」

「まぁ、あいつ結構ケンカしてたみたいだしそうだろうな。でも一夏も負けてねぇぜ」

 

 

 

一夏が新華と距離を取り雪片を腰溜めに構える。対する新華も居合いのような構えになり静止する。

 

 

 

「(そう、織斑君も負けていない。シールドエネルギーに大きな差があるけど、やる気を失っていない)」

 

 

 

一夏が何か呟きトリィが彼の近くで羽ばたき滞空する。新華は動かずじっとしていた。

 

 

 

「(新華君は、そんな織斑君に喜んで楽しんでる…)」

 

 

 

簪には新華のテンションが上がっているのを分かっていた。自身の姉とマーベット以外で命を意識しながら戦いを楽しんでいる。

先の集団戦の疲れがあるはずだが、その疲れが心地良い負荷となって新華の動きを鈍らせ一夏が追いつける結果となり、一夏の成長を感じてテンションを上げていた。

あと30分の休憩で刀奈と疲れて(意味深)いた。

 

 

「(…本当に、楽しそうに…)」

 

 

 

本当なら簪も新華と姉と一緒に現地へ行きたかった。実際日本代表候補生の彼女なら、政府が毎回出す優待枠をもぎ取ることが出来ただろう。だが他ならぬ新華と刀奈当人に頼まれて納得出来る理由があるなら仕方なかった。

……実際は簪が行くと間違いなく爛れた一月になるため刀奈がストップを掛けたのだが。

 

 

 

「(……早く帰ってこないかな…)」

 

 

 

刀奈、簪、シャロの3名の中で最も新華に溺れているのが彼女である。刀奈やシャロと違い明確に『勧善懲悪』『ヒーロー』という趣味があった彼女は、それを新華に重ねていた(・・)

彼女は夢ではなく現実を見ている。幻想ではなく真実を見ていた。他ならぬ新華を見失わないように。絶対に自分達の元へ帰ってくるように。

 

 

 

「(帰ってきたら、一杯抱きしめて欲しいな…)」

 

 

 

しかし一番溺れている理由は、お互いに1人が寂しく悲しいものだと知っているからだった。その点シャロも同じで人の温もりが心地よく感じられる。

だが、それ以上に新華が生きているという確認行為でもあった。

 

---今でも時々夢に見るのだ。血の海に沈む新華と、人間を辞めた新華の夢を。別の道を歩いている新華を。

そして目が覚めた時に、決まって彼の心配する顔があった。腕の中で暖かさに包まれる安心感が、心臓の音が、その存在を証明する。一緒に居て安心するからこそ彼女は彼を求めていた。

 

 

 

「(…一杯、抱いてほしいな…)」

 

 

 

まぁそんなシリアスを台無しにするくらい、刀奈が止めに入るくらい簪は新華に普段からベッタリだった。生徒会や機械弄りなど他の2人より時間を共有出来る条件が揃っており、新華も甘えられるのが満更でもないので一緒に居ることが多い。

逆に一番一緒に居る時間が少ないのがシャロだが、その分新華の方から動くことが多い。そういう意味ではシャロが最も新華の意識を引いていると言えなくもない。

 

 

 

「(…頑張れ、新華君)」

 

 

 

暖かいものを胸に抱えて新華を応援する。一夏には悪いと思いつつも、彼女は新華が負けるとは思っていなかった。

 

 

 

---side out

 

 

 

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--------------

-----------------------------

 

 

 

居合いの構えで一夏とトリィを睨む新華は、深呼吸を1度だけした。

疲労した身体は思い通りの動きをしてくれない。だが限界にはまだ遠かった。

 

 

 

「ん(頑張るよ)」

「『---ご主人様?』」

「なんでもない」

 

 

 

GNバスターソードⅢは本来2振りの実体剣だ。左右対称であり、連結すると更に大きなバスターソードとなる。

しかし敢えて1振りのみ携えここに居るのは、まさに簪が言った通り最初の頃の一夏と間逆の条件となるためだった。

そうすることで自身を追い込み神経を研ぎ澄ませるからだった。。

 

 

 

「…来るな」

「行くぞ、トリィ!」

 

 

 

掛け声と同時に一夏が零落白夜を起動して振るう。間合いが遠すぎるうえにカートリッジも1つしか消費しないが、反射的に身を屈めた。

その零落白夜の軌跡にトリィが突っ込みエネルギーを纏う。回転しエネルギーの渦を作りながら自分へ突撃を敢行してきた。

 

 

 

「………」

 

 

 

新華はそれに対し、より体を捻ってGNバスターソードⅢを振るう。

 

 

 

「---ふっ」

 

 

 

いつもの力強さで振ると剣の大きさも相まって風圧が巻き起こる。トリィに張られたエネルギーが吹き飛ばされ、エネルギーの裏に潜んでいた一夏が雪片を振り下ろしてきた。

時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう) 特式第十型 燕特攻(スコントロ・ディ・ローンディネ)』。トリィの突撃と一夏の斬撃による2段構えの攻撃は、左手を柄から離し雪羅のある左腕を掴んで止めた。

 

 

 

「いっ!?」

「お、りゃァ!」

「ぐはっ」

 

 

 

一夏の突進力を活かし背負い投げで地面へ叩き付ける。一夏は咄嗟に受身を取ったものの衝撃は全身に響いた。

明滅する視界で上を見れば右手で逆手持ちしたGNバスターソードⅢが突き降ろされる。

そこへ剣目掛けトリィが突撃。新華は上半身を仰け反らせバク転して距離を取る、が、その際に爪先を一夏の後頭部に引っ掛け強引に立ち上がらせた。

 

 

 

「いっだっ!?」

「っとと。おらっ、寝てんじゃ、ねぇぞ」

「そっちこそ、息整える時間、取ろうか?」

「へっ、冗、談!」

 

 

 

互いに息に乱れがあるものの、その顔に自然と笑顔が浮かぶ。

もう一夏に残されたエネルギーはごく僅か。いつもだったら箒と『紅椿』があるのでエネルギーの補給に困らないのだが、零落白夜と雪羅を縛って勝てる相手ではないのだ。

 

 

 

「(雪羅はもう使えない。零落白夜もカートリッジが1発。トリィは無事だけど撃破ダメージは見込めない)」

「(あっちのエネルギーも限界だろ。となると狙うはトリィの妨害でチャンスを作って零落白夜でのワンチャン)」

「(新華は俺の行動を分かっているだろうけど、これしか選択肢が残ってない)」

「(いつものこととはいえ、なーんで白式はバ火力ロマン仕様な武装ばっかなんだろうか。もうチョイ一夏に合った武器にすればいいのに)」

 

 

 

改めて新華は白式の一夏を考慮ているのかしてないのか分からない武器に哀れみを覚える。

『ならその無限機関1基寄越せオラァ!』とか文句言われそうだが、それ以前に雪羅が邪魔なのである。

待ちに待った射撃に使用出来る武装は有難いが、左手というのが酷い。剣道は右手ではなく左手で振るう競技故に右手にあった方がやり易い。

寧ろ力を入れるという意味なら、それこそ右手にあった方が適切だった。それが一夏の戦闘能力を考慮した形だっただろう。

 

 

 

「カァッ!(ま、そこは一夏の腕の見せ所さね)」

「ヤァア!」

 

 

 

GNバスターソードⅢと雪片が打ち合わされる。今までの全身を使った動きのあるものではなく、純粋に剣技のみの打ち合い。両手で剣を握った剣士の戦い。

トリィによる突撃は無い。そんな無粋なことをトリィはしなかったし、出来なかった。

 

 

 

「ぜああ!」

「ああああ!」

 

 

 

2人の剣を振るスピードは速く周囲に風が舞う。一夏は待っていた。新華が思い切り剣を振ってくることを。

逆転の一撃を決めるため剣を振るいながら己の神経を研ぎ澄ます。そして、その時が来る。

一夏の剣を振り払い新華が一度後方へと飛び、瞬間加速(イグニッション・ブースト)で神速の一撃を放つ。

 

 

 

「---」

「っ!」

 

 

 

一夏は己の勘で雪片を振るった。最高のタイミングでカートリッジを消費し零落白夜を起動する。しかしエネルギーの刃が形成される前にGNバスターソードⅢの刃と打ち合った。

---それが一夏の狙いだった。

 

零落白夜起動のため割れるように刀身が展開する。

 

 

 

「---!?」バキィッ

「(やった!)」

 

 

 

一夏の剣を振る速度、新華の速さに対するカウンター、零落白夜の起動タイミング、これら全てが合わさって初めて出来た芸当。

新華が強かったからこそ、早かったからこそ、一撃一撃を合理的に最高を突き詰めるからこそ、可能だった。

GNバスターソードⅢの破壊。しかし同時に雪片の刀身も砕ける。

 

 

 

「(これでぇ!)」

 

 

 

そのまま零落白夜で新華を切り裂く。その筈だった。

腕を振り切った時の手ごたえは無く、自身の腹部に衝撃が走った。

 

 

 

「ぐっ!?」

「(悪いな一夏)」

 

 

 

GNバスターソードⅢの破壊は新華にとって予想外の出来事だった。しかし一夏が反射的に腕を振るったのと同じように、新華も反射的に回避していたのだ。

2振りの剣が打ち合い破壊された瞬間、反動で出来た僅かな隙にISそのものを解除し生身に。紙一重で零落白夜を回避して懐へ潜り込みISスーツで覆われていない腹部へと拳を叩き込んだ。

 

 

 

「七花八裂(俺にはなァ)」

「かはっ」

 

 

 

普段とは違い全身装甲を展開せず、それこそ一般的なISのように腕部と脚部のみ部分展開する。IS学園の制服ではなくスーツ姿でその技を決める。

 

 

 

「改! (3人も勝利の女神が応援してくれてんだよォ!)」

 

 

 

---柳緑花紅(りゅうりょくかこう)

左拳で絶対防御を無視して衝撃を与える。

 

---鏡花水月(きょうかすいげつ)

拳を解いた左手で拳底を叩き付ける。

 

---飛花落葉(ひからくよう)

合掌した手を突き出し開く。

 

---落花狼藉(らっかろうぜき)

空中で前転し、先程の一夏が行ったように脚部の装甲を展開させ威力を増した踵落とし。

 

---百花繚乱(ひゃっかりょうらん)

落花狼藉で振り下ろした足をバネにして繰り出した右膝。

 

---錦上添花(きじょうてんか)

両手を手刀にして同時に両肩を打つ。

 

---花鳥風月(かちょうふうげつ)

右手を引き半身の捻って繰り出す貫き手。

 

 

それら全てが繰り出されるが、最後の花鳥風月の体を捻った瞬間にトリィが飛び込んできた。

 

 

 

『ドッ』

「!」

「が、ぁ」

 

 

 

新華の抜き手がトリィの胴を押し潰す。普段から物を大事にし製作したものなら尚更大事にする新華にとって、自身が製作したトリィを自分の手が破壊したという状況に一瞬だけ動きを止めた。

それと同時に殆ど意識の無い一夏が執念で本来の零落白夜を起動。トリィを抱えるように腕を振るった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

それに対し新華は避けられなかった。同時にあるべき衝撃も光の軌跡も見えなかった。

新華自身が放った『七花八裂(改)』にて白式のエネルギーが尽きたのと、最後にカートリッジを使わない本来の零落白夜がトドメとなり、新華を斬る前に刀身が消えてしまったのである。

ただ、もしエネルギーが十分に残っていたとしてもサヤカが反応して動いたため一撃で終わりはしないが、新華はそう思わなかった。

 

 

 

「………ふはっ」

「『---ご主人様?』」

「あっははははははは!」

 

 

 

執念による反応出来ない一撃。それは確かに新華を斬った。零落白夜は届かずとも新華には届いていた。

それが堪らなく嬉しくて大声で腹から笑う。

 

 

 

「あーほんと、スゲェなぁおい。流石俺が見込んだ男だよお前は」

 

 

 

笑顔で倒れている一夏のもとへ歩む。気絶している一夏の胸の上には無残に胴が潰れたトリィが横たわっていた。

完全にトリィが壊れてしまったのを確認し収納、気絶した一夏に肩を貸すように持ち上げ千冬や刀奈の居るピットへ足を向けた。

 

 

 

「さて、お出迎えだな」

 

 

 

新華の視線の先で、千冬と刀奈が飛んで来るのが見えた。刀奈は困った顔で新華に笑っていた。

 

 

 

「にししっ」

 

 

 

新華も笑い他のISもぞろぞろと出てくるのが見えた。2人を出迎えるために。

 

---こうして第3回モンド・グロッソが終わった。天使と騎士の戦いは多くの人に印象的に映っただろう。

負けたとはいえあそこまで戦った一夏は、もう嘗められることはない。

もう新華が面倒を見る必要も無い。今度は、新華と共に互いを高めあう。それだけの実力があると、その証明となった。

 

それだけの努力を、一夏は示した。同時にそれは、そこまで引き上げた新華自身の価値も示していた。

 

 

 

 




筆が滑ってイッピー強くし過ぎたw 多分もう千冬さんより強い。

っつーか新華を強くし過ぎたとも言える。お陰で登場人物全員、原作より強い筈。

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