IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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ISABで創作意欲が刺激されたため蛇足を投稿します。一部ISABよりキャラが登場しますが、未プレイなので独自の設定となります。
というか今更新キャラとか同年代に入れられん。

それと本作品の主人公機『Evolveクアンタ』がカササギ氏主催のガンプラ動画にて紹介されました!
『最高の作品』というテーマの動画ですので、興味のある方は是非ご覧ください。自分とは比べ物にならない高クオリティのガンプラが多数投稿されていますので、そちらの方が一見の価値有りと思います。


第3回モンド・グロッソ

 

 

---某国、特設スタジアム

 

 

 

『レディース&ジェントルメーン! 第3回モンド・グロッソ、これより開幕です!』

 

 

 

オリンピックと同様に4年の周期で開催されるIS国際大会モンド・グロッソ。

美人の参加者や色とりどりのIS同士による競技を見に多くの人で賑わっていた。

 

 

 

『今年も多くの国家が参加しております。今回『ブリュンヒルデ』の称号を手にするのは一体誰なのか! 目が離せません!』

 

 

 

解説者の言葉通り観客はオープニングセレモニーに登場するIS操縦者と機体に注目していた。

その操縦者の中にはIS学園生徒会長にしてロシア国家代表の更識 楯無(刀奈)と『ミステリアス・レディ』の姿もあった。

 

 

 

『しかし本大会にはなんと、あの初代『ブリュンヒルデ』こと『織斑 千冬』、第2回モンドグロッソ優勝者『アリーシャ・ジョセフターク』の2名がスペシャルゲストとして来ているとのこと。更にシークレットゲストも存在するという事前情報もあり、期待は高まるばかりです!』

 

 

 

IS国際大会とはいえオリンピックと同列に扱われる『モンドグロッソ』は、オリンピックと同様に選手宣誓等のカリキュラムを終えていく。

 

 

 

『さあゲストの紹介です! まず言わずと知れた初代『ブリュンヒルデ』、『織斑 千冬』と『暮桜』! 一線を引きIS学園の教師となった今でもその実力は変わらず!』

 

 

 

スタジアムに設置されたピットの1つにカメラと視線が集中する。そこには『暮桜』に登場し『雪片』を持った千冬が堂々と立っていた。

 

 

 

『続いて! 本大会にて『織斑 千冬』との決着を望む意気込みを見せている『アリーシャ・ジョセフターク』と『テンペスタ』!』

 

 

 

千冬が居るピットと対の位置に、心底楽しそうにしている『アリーシャ・ジョセフターク』の姿があった。

紹介が終わると2人はピットから飛び出し選手達の前へと降り立つ。

 

そして同時に、千冬が居たピットから1羽の機械で出来た鳥が現れ選手達の頭上を飛び回る。

 

 

 

『そしてシークレットゲスト! な、なんと! 1人目、『織斑 千冬』の弟にして男性操縦者の片割れ、去年最も世界を騒がせた男性の1人『織斑 一夏』!』

 

 

 

機械の鳥、白い『トリィ』が、一夏の紹介が終わると同時に出てきたピットへと戻る。

ピットには自身の専用機『白式』に搭乗した一夏が居た。戻ってきたトリィをマニピュレータに乗せ、そのまま自身の肩へ移動させる。

 

 

 

『更に! 去年世界を騒がせたもう1人の男性! 複合企業『ソレスタルビーイング』の院長にしてMSの開発者である『蒼天使』! 『青木 新華』!』

 

 

 

アリーシャの居たピットに『Evolveクアンタ』を展開した新華が表れる。

一夏と共に注目を浴びる新華は、その装甲の下で現状に対する思いを馳せていた。

 

 

 

「(この場にこうして立つ日が来ようとはな…)」

 

 

 

かつて幼い日に自らの力不足で一夏と共に拉致されかけた第2回モンドグロッソを思い出す。

そして同時に、数ヶ月前のIS学園での出来事も。

 

 

 

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---IS学園生徒会室

 

楯無は3年生に、新華と一夏達は2年生に上がっていた。

 

 

 

「モンドグロッソの招待券?」

「そう。織斑君宛てにね」

 

 

 

夏休みも目前といった時期に刀奈からの召集で集まった生徒会メンバー。その中には今年入学してきた『五反田 蘭』の姿もあった。

 

 

 

「モンドグロッソって、今度開催されるやつの招待券ですか!?」

「そうよ。ちなみに大会開催期間はIS学園はお休みになるわ」

「そうなんですか?」

「ええ。IS学園にとってモンドグロッソは全校生徒が目指すべきステージ。日々の授業も大事だけど頂点を実際に目の当たりにするのも大事だから休講にして視聴に専念してもらう、ということよ。その替わりレポートを書かされることになるから油断できないけど」

 

 

 

蘭は以前、IS学園に入学する際の警告を新華から説かれたが、『結局利用されるなら生き残れるように実力を付けないと』という結論に至っていた。

その意気込みは五反田家含め関係者にも伝わり、また中学での生徒会長経験を買われ刀奈にスカウトされたのだった。

 

 

 

「頂点…」

「…言いたいことは分かるわ」

 

 

 

頂点と聞いた蘭の視線が自然と移動し新華を捉える。搭乗時間が実力に繋がるという一般論から見ればどう足掻いても勝てない頂点を。

 

 

 

「モンドグロッソかー」

「苦い思い出しかねぇなぁ」

「また外国だろ?」

「おうとも。だから日本語は通じないと思え」

「やっぱ、そうだよな」

「糞う詐欺のやらかしで日本語の知名度は上がったが、だからといって話せるかどうかは別だし。それに日本語は平仮名、カタカナ、漢字、英語に記号とごちゃ混ぜな文体かつ若者言葉や略語まで入ってるもんだから学習するのにも難易度が高いのなんの」

「だけど日本語ペラペラな人多い気がする」

「そりゃお前、日本語出来ないとう詐欺の書いた論文読めねぇし」

 

 

 

幼少期の忘れられない出来事を一夏と2人で思い出していた。

2人共、昨年度と比べると実力が上がっており新入生からは、それこそ天上の存在扱いされることも多々あった。

その中で唯一生徒会に入れた蘭は注目と羨望の的になっていた。

 

 

 

「ちなみに織斑君、この招待を受けない選択も出来るけど」

「えっ。いや、行きますよ」

「まぁ、そうなるな」

「いや、どうせ新華も行くだろうし。生徒会長もロシアの代表だから行くんでしょう?」

「ええ。選手の1人としてエントリーされているから」

「………」

 

 

 

3人の会話を聞き、改めて自分の存在が場違いであると感じる蘭。

日本国籍ではあるが国家所属ではなく、代表候補生でもなく、専用機も持っていない。実力も同年代の代表候補生とは雲泥の差があった。

しかし一夏を始めとした2年生専用機持ち達に鍛えてもらえる彼女は、あまりに恵まれていた。

 

 

 

「ん? 蘭ちゃん、どうかしたのか?」

「い、いえ。その、やっぱり私って場違いだなって」

「…心配しなくても、大丈夫…」

「更識さん?」

「五反田さんは努力出来る人だから…。だから、ちゃんと認めて貰える。すぐには出来ないけど…。それに、仲間も居るから、大丈夫…」

 

 

 

簪が蘭の不安に回答を出す。簪がISの代表候補生になったのは姉への羨望が切欠だった。対する蘭も、最初は恋する一夏に近付きたいという一心で適正検査を受けている。

そして何より『IS学園に無事入学出来た』事、生徒会としての仕事を全う出来ていることが彼女の評価を上げる結果となっていた。

 

 

 

「更識さん…はい!」

「ん…」

「蘭ちゃんは昔から負けず嫌いだし、伸びしろがあるからいつも通り堂々としてな」

 

 

 

新華も新華で密かに蘭の環境が悪化するのを防ぐため行動していた。

具体的には、蘭と一緒に他の生徒達も一緒に訓練出来るよう手配したり、自分達2年生だけでなく3年生をも巻き込んだ交流会を企画したり、問題の在る娘の相談に乗ったりets…

まだたった2ヶ月なので中途半端なことばかりだったが、出来る限りのことを新華はやっているつもりだった。

 

 

 

「(激励してくれているし色々やってくださるのは有難いんだけど…)」

「準備するとして、何を持って行けばいいかな」

「まぁ旅行に必要な最低限の衣類と両替用の現金、パスポートに身分証明書は確定だな」

「あと開催地を予め調べておくのも必要…。時間があれば観光してもいいし…」

「(更識さんと腕を絡めながら話してるから、なんともなぁ)」

 

 

 

新華自身の強さが頂点レベルで高いのは百も承知な蘭だが、召集で生徒会室に集う前から簪と腕を組み体を密着させている光景になんとも言えない視線を投げるしかなかった。

正直、彼女が入学して一番の衝撃は新華が3人の女性と同時に交際していて人目を憚らずにラブラブだという現状だったりする。

 

いや、彼女も色々と彼を尊敬している部分もあるのだ。危険に対する警告や蘭自身の学生生活を円滑にするよう動いていたり、体を張った行動が多いのも尊敬に値すると思っている。

無論彼に対する恐怖もあるが、それ以上に彼女とのイチャイチャが台無しにしているのだった。

 

新華本人にとってそれが最も心安らぐ時間であるというのは一夏達関係者から聞いているが、それでも限度があると思う。

しかもそれ以外に関しては基本的に常識人オブ常識人なので厄介この上ない。

 

 

 

「あとアレだ。参加者のプロフィールを今の内から軽く調べておけ。時間無けりゃ俺が簡単なのを纏めておくが」

「いや、それくらいは自分でやるよ。無いとは思いたいけど、あの時のような事態を繰り返したくないしな…」

「ああ、それもそうだが、事前情報の在る無しで」

「観戦した時の注目点が変わるんだろ? 分かってる」

「まぁ若干一名目の前に居るうえ事前情報も糞も無いけどな」

「あら、そんなこと言って。エキヴィションマッチで負けても言い訳聞かないわよ?」

「…やっぱりあるんですね、対新華戦」

「これまでのIS開発競争は『白騎士』と新華君の『Evolveクアンタ』を目指す、あるいは対抗するという目標が暗黙の了解で出来ているからねぇ。そうなるわよ」

「操縦者の技術が足りなければ宝の持ち腐れなんですけどねぇ」

 

 

 

銀色肌の人、サヤカの言葉は実際に蘭も経験していた。

 

…入学当初に舐めた態度の代表候補生をほぼ生身(パラベラム状態)でフルボッコしていたのを見ていたのだから。

 

 

 

「新華さんでも流石に厳しいんじゃ?」

「そうだと思いたいんだがねぇ。その試合、機体のハンデが武器の威力以外無いんよ」

「あっ(察し」

「うん、嫌な予感しかしねぇ」

「当日は全力で挑む所存」

「それが嫌な予感の原因だよ」

 

 

 

一夏は新華の本気を知っている。それこそ自分達専用機持ちとの訓練を経て体で理解している。しかも心の余裕があるせいで以前より強くなっているのも感じている。

訓練にも着いて行けるし、最近では何とか『暮桜』を纏った千冬と良い勝負が出来るくらいになっていた。

 

し か し 、だからといって新華の言う『全力』が、手の内を知っているうえで未だに勝利出来ていない自分達にとっても地獄と言えるものだった場合。

もしそうだった場合、相手が強ければ強いほど全力を出す新華に『手加減』なんて期待するほうが無理ってなわけで。

 

 

 

「……よし、生徒会長」

「何かしら」

「交通費ってどうなるんです?」

 

 

 

そして一夏は考えるのをやめた。正直代表候補生ならともかく、国家代表なら大丈夫だろう(願望)とブン投げただけだが。

というか実際に会ったことも無い人の心配している暇は無いというか、生徒会長が居るしそこまで酷いことにならないだろうという考えもあった。

 

※刀奈が居るからある意味酷いことになります

 

 

 

「流石に全額負担だから安心なさいな」

「で、ようやく生徒会全員召集した理由になるんだが…」

「五反田ちゃん」

「な、何でしょう」

「ちょっと無茶なお願いなんだけどね」

「はい」

「……選手団はモンドグロッソ開催一ヶ月前に現地入りしないといけないから、その間の生徒会は活動休止になるの。ただ、その間に問題が起きて生徒会としての仕事を求められるかもしれない」

「だから最低限の対応マニュアルというか、諸々を今の内に教えておこうって話だ」

 

 

 

先程も言ったことだが、刀奈はロシアの国家代表としてモンド・グロッソに選手として参加しないといけない。生徒会長補佐の新華も、副会長の一夏も向かうため簪と本音、蘭の3名のみとなる。

そのためその3名で緊急時に対応するしかなく、内容の打ち合わせを行う必要があった。

 

 

 

「無いと思うけど、3人で対応出来ない案件があった場合はいつでも連絡してね」

「一応ハロOを置いていくから、連絡なりPCモードなり自由に使ってくれ」

「分かりました」

「じゃあまずこのマニュアルを…」

 

 

 

そう言って刀奈がマニュアルを取り出す。

IS学園最強の生徒が生徒会長を勤めるという風習は、今回のように生徒会長不在を招きやすい。生徒最強ということは、それだけの条件、すなわち他の生徒より専用機や腕の差があることに他ならない。

そういった存在は代表候補生が主であるが、同時に事情も抱えていたりと複雑な者が多い。そのためのマニュアルが、既に出来ていた。

 

そうして新華達は簪以下3名を残してモンドグロッソへと赴いた。

 

 

 

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---観戦室

 

 

 

「…人様。ご主人様」

「んぁ?」

「おはよう」

「おっふぁ、ぁあああああああ」

「そろそろ楯無さんの試合が始まりますよ」

「もう、そんなか」

「…お前よく寝れるな」

「一夏は緊張し過ぎ。ただまぁ、悪意のある視線も無いし気が抜けてたっていうのは確かだな」

 

 

 

重要人物用に設置された、スタジアムを一望出来る控え室。そこで新華と一夏はオープニングセレモニー後に移動し入り口に近い座席に座っていた。

男性操縦者2名ということで同室の大人達の『挨拶』を受け、試合が始まるまで心休まることの無い時間を一夏は過ごしていた。そんな中で隣の新華は試合が始まって早々に寝落ちしたため困惑しっぱなしだった。

 

一応新華が寝ているのは安全な証拠だと長い付き合いで理解しているので安心はしているが、入学初期のような視線の集中砲火に緊張せざるを得なかった。

 

 

 

「なんというか、いつも通りだな。あとこの状態で緊張するなって無理」

「早いうちに慣れとけ。社交性はどこ行っても必要になるから。…今のところCBからも連絡無いし、嫌な感じもしないし」

「去年あれだけ戦ったんだから、そうじゃないと困るぞ」

「確かに。……おっ」

 

 

 

2人で会話していると、刀奈と対戦相手がフィールドに出るのが見えた。

所定の位置に着いた直後、新華と刀奈の目が合い互いに手を振る。

 

 

 

「……しかし、常日頃から思うことだが」

「何だ?」

「ISスーツは露出が多すぎじゃね? 正直エグくて引くのが多い」

「あー…」

 

 

 

そう言われた一夏は刀奈の対戦相手を見る。刀奈のようにIS学園のほとんどの生徒が着用しているそれも割りとアレだが、競技という名目上目立つことを意識するせいか新華の言うとおりギリギリを攻めているものもあった。

 

というかアレ痴女じゃん(素

 

 

 

「分かるけど、そんなこと言ってると怒られるぞ」

「いや、あれだけ露出してるんだから絶対防御の上からでも捻挫や骨折程度の威力叩き込めるし、弾貫通しやすいから狙い目なんだよな」

「ああ、そっちの視点?」

「というか『ゴーレムⅣ』で素肌晒す危険性は理解出来るだろ。攻撃の通り易い部位へ集中攻撃して相手の体勢を崩すなりは常套手段だし」

「いやそうだけど、普段のお前ら見ているとな」

「いやー、そういう視点で見ても、正直やり過ぎは引くわ。いや、そういうプレイで身内だけとかならまだしも、公衆の面前でアレは無いわー」

「…なんというか、本当にいつも通りブレないな」

 

 

 

実際MSを始めとした全身装甲(フルスキン)が軍に人気なのは、見た目でも分かる安心感も一つの理由だった。

軍が欲しいのは戦力としての人員であり、アイドルや広報活動のための人員では決してない。そして兵器に求められるのは性能よりも『信頼性』。

 

以前新華はコストの話を『五反田食堂』で講義したが、その大前提として『信頼して命を任せられる兵器』であることが絶対条件である。

いざ戦争が起きた時に『原因不明のエラーを誰も理解出来ないので出撃出来ませんでした』などと言うのは論外もいいところ、というのは誰でも分かる理論である。

 

…最も、それ以前に羞恥心は無いのかと教師を意識していた身として小一時間は問い詰めてやりたいところだったりする。

 

 

 

「それと生徒会長に応援しなくていいのか? 試合始まるけど」

「いいんだよ。どうせ結果は分かってる」

「え?」

「だってお前---」

 

 

 

手を振っただけで刀奈のことを応援するように見えない様子なのを一夏が疑問に思うが、その後に呆れる答えが返ってきた。

 

 

 

「---俺を『落とした』女だぜ? 負ける訳ないだろ」

「そう…」(無関心

「そのうちお前も分かるって。とはいえ『カーバンクル』の持ち込みは公式レギュレーション上出来ないから、どこまで行くか」

「あったらどうなるんだ」

「それこそ負ける絵が思い浮かばんなぁ」

 

 

 

笑顔で本気で言っている新華に、本気で呆れた一夏は先程までの緊張もどこへやら。肩の力を抜いて試合を観戦することが出来るようになっていた。

モンドグロッソの公式レギュレーションで選手は己のISとその装備以外を持ち込んで競技に出ることを禁止されている。各国のIS技術と操縦者の技量以外の要素で勝敗を決しないためである。

 

刀奈は新華の存在もあって去年より戦闘能力を高めていた。しかし彼女の本業は『更識』での諜報活動、そして学生の本分である『学業』。ISに乗り戦うことで飯を食っている他の国家代表と比べると鍛錬に掛ける時間が少ないため、どうなるか楽しみに観戦を始めた。

 

---本大会において刀奈が残した成績は、なんと準優勝。

決勝戦ではフランスの国家代表『マーベット・フィンガーハット』の駆る白い専用IS『ラファール・リバイブⅢ』と激しい戦闘を行ったが、デュノア社が開発した新システムにより撃破された。

刀奈は本大会後に行われたインタビューにて、こう語った。

 

 

 

「私がこの結果を残せたのは、失ないたくない人が居たからです。その人の隣に立って守れるくらいに強くなろうと、大人になろうと走ってきたから」

 

 

 

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----IS学園地下、束拘束室

 

モンドグロッソが開催されている最中、箒は束とクロエの元へ連日訪問していた。

 

 

 

「それで剣道部でも一夏に教えを請う新入生が未だに後を絶たなくて…」

「そこまで経験を積んでいるのなら、剣道の腕はもう新華さんより強いかもしれませんね?」

「あいつは1本取る剣ではなくなってるからな。とはいえ千冬さんから1本取れるようになったから近い内に本気の試合をしてみたいと思っている」

「そっかー、いっくんもだんだんちーちゃんに近付いているんだ」

「ええ。もちろん、私も負けていませんよ」

「もっちろん! 箒ちゃんはこの束さんの妹なんだからね!」

「はい」

 

 

 

一部の代表候補生はこの休日に各々の所属国家の優待枠で会場へ行っていたが、箒はIS学園に残っていた。一夏の招待券が1人用だったというのもある。

 

だが一番の理由は、自分まで行ったら誰も束に会いに来ないということに気付いたためであった。

 

 

 

「しかし剣道の動きをISに落とし込もうとすると、どうしても手足の装甲分だけ間合いが『伸び』るんですよね。その伸びだけ出来た隙を新華は見逃さず斬ってくるんですが」

「あれ? 『紅椿』の自己進化は?」

「それ以前の話です。ISとして最低限の装甲が気になって、最終的に『Evolveクアンタ』や『MS』のようなというか、籠手レベルがしっくりくる感じが」

「…ちーちゃんと同じ感想だねー。やっぱりしんくんの影響かな?」

「千冬さんと、ですか」

 

 

 

この部屋に収容されたばかりの頃、束の精神は癇癪を起こす子供そのものだった。それも、欲しいものが貰えず駄々を捏ねるような、そんな感覚があった。

束の理解者であるクロエと千冬の3名で協力して宥め、なんとか会話を行い落ち着かせていた。しかしそれでも不安定さは残っており、言葉の端に何か狂気、と言うより虚しさを感じさせる言動もあった。

 

しかしその悩ましい状況を今の穏やかな状態まで落ち着かせたのは、新華から渡された設計図だった。

 

 

 

「ちーちゃんの『暮桜』が動かなくなったのは、箒ちゃんと同じことを言ってたちーちゃんの動きに『暮桜』の自己進化が追いつかなくなったからなんだよ。だから『暮桜』はちーちゃんの成長に合わせるために機能の全てを一旦落として最適化していたの」

「……それって」

「『一次移行(ファーストシフト)』と『二次移行(セカンドシフト)』。その次の『三次移行(サードシフト)』とでも言うべきかな? ただ『暮桜』が進化するにはまだコアネットワークが幼くて時間も無かった」

「ですから『暮桜』は機能を停止し必要な情報を探しました。ですがコアネットワークの成長が遅く、その間に千冬様は引退。それに気付かない『暮桜』は」

「原因不明の機能停止ということで放置されてたんだよねー。でも外からちーちゃんの今のデータを入れたら起動したから、ある意味じゃ引退も正解だったのかな?」

「今でも千冬さんは十分強いですから。比較対象に新華が居るだけで」

「そうですね」

 

 

 

それを見て図面を引いたのは誰か察した束は、一心不乱に図面と向き合い幾つかの図面を新たに書き上げた。

その図面で生まれ変わった一夏の剣は大きな力となって振るわれるだろう。

 

 

 

「………ねえ箒ちゃん」

「なんです?」

「行かなくて良かったの?」

「ええ。試合は中継で視聴出来ますから」

「そうじゃなくて」

「行ったところで一夏と常に行動出来る訳ではありませんし。…姉さんのせいじゃありませんよ、こればかりは」

 

 

 

箒にとって一夏と過ごす時間は何物にも変えられないものだ。しかし同時に、束とこうして会話する時間は束自身にとっても何物にも変えられないものだった。

…束が本当に求めた人物はここに来ない。そんな姉が悲しくて、寂しいと感じる箒。

 

その感情を自覚した時、箒はある事を思った。

 

 

 

「(もし姉さんが『亡国機業』と手を組まなければ、別の未来があったのだろうな)」

 

 

 

宇宙(そら)に憧れた束がこうして地下に監禁される、そんな今とは違うIF。

今でこそ関係が完全に拗れた2人だが、新華はその可能性を否定しないだろう。そして同時に笑うだろう。

 

『そのIFを考えたところで今が変わる訳じゃないから意味は無い。それに今の俺が幸せなのは変えようが無い現実だ』と。

 

 

 

「さて、そろそろか」

「…もうそんな時間ですか」

「お、何々ー? どうしたの2人してー」

「いえ、アイツの出番の時間だなと」

 

 

 

箒はそう言い、天井に目を向ける。その向こう側にある空で飛ぶ2人の幼馴染に思いを馳せて。

 

 

 

---side out

 

 

 

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『アーキタイプ・ブレイカー』って尾褄さんのP・V・Fと同じ名前なんですよね

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