IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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178話。ついに最終回です。

最近思ったが、ジョジョのホルホースはパラベラム扱いしていいと思う。


卒業式

 

---3月、IS学園

卒業式。それは別れと旅立ちの象徴。それはこのIS学園でも同じであった。

 

 

 

 

 

「ですけど、まぁああなりますよね」

「随分古い文化ですよね?」

「そうね」

「わー、すごーい」

 

 

 

 

 

しかし普通の女子高以上に閉鎖的なIS学園における男子2名は相変わらず人気者であり、特に接触が無かった3年生達によって現在包囲されていた。

彼女らが集まっている理由は、卒業の思い出という新華、一夏両名のボタン剥ぎだった。

 

 

 

 

 

「これが最後ですし、皆進路が決まっているのもありますから」

「虚ちゃんはお友達に付き合わなくていいの?」

「あの中に入るつもりはありませんし、寧ろ後で貰っておいてとか言われましたね」

「おねーちゃんも大変だぁー」

「…本音は気楽でいいわね」

「まるで有名人のサイン感覚ね。新華君が誰のものか分かっているでしょうに」

「だったら助けに行ったらどうです?」

「流石にそこまで独占したら卒業生の皆が可哀想じゃない?」

「(それ以外で譲る気は無いということですね)」

 

 

 

 

 

それらを遠巻きに見る虚と刀奈達。卒業する虚の見送りをするために生徒会一同と専用機持ちが来たのだが、目聡い女子に見つかってしまった。

即座に囲まれた男2名は適度に相手をしつつ脱出しようとしたが人数差に圧倒され、女性陣は弾かれた。

しかしそれに負けじと箒達は突入したが、混沌に飲まれる結果となっていた。

 

 

 

 

 

「そう考えると、織斑君は織斑君で少々同情します。救出に入った人達がたどり着けないくらい混沌になってますし」

「人数差がどうしてもねぇ。トリィちゃんが織斑君の上に居るから分かりやすいけど」

「あ、上半身の制服がとうとう脱がされましたね」

「おりむーがピンチだー!」

「…流石に見ていられないわね。助けに行きましょうか」

「青木君は?」

「自力で脱出出来るけど卒業生に気を使って相手しているだけだからね、心配無いわ」

「そうですか。…しかし、織斑君の様子が少しおかしいような」

「……今スキャンしましたが、ズボンのボタンまで取られたようですね」

「「「………」」」

「凄い勢いだねぇ」

 

 

 

 

 

サヤカの報告を聞いて、流石に放置出来ないと介入を決める。専用機持ちをISのプライベートチャンネルを使用し誘導、一夏を脱出させる。

対する新華は、上着のボタンを全て提供(・・)した上で一夏側の動きを確認し自力で脱出した。

 

 

 

 

 

「乙カレー。っつうか誰も助けてくれないとか酷くね?」

「あら、沢山の女の子に囲まれて役得だったでしょう?」

「囲んでいたのがお前だったらな。しっかし一夏、随分と持ってかれたな」

「新華もな。でも流石にズボンは困った」

「ベルトで誤魔化せ」

 

 

 

 

 

新華は上半身の制服のボタンこそ全部取られていたが一夏と違いズボンは死守した。とはいえ、刀奈の言った通り逃げずに気を使っていたため疲労はあった。

新華と一夏の2名が脱出したことで卒業生達も満足したのか、各々で散らばっていく。既に卒業生は寮から荷物を引き上げており、卒業式が終わった後はIS学園から去るのみだった。しかし名残惜しいのか多くはしばし留まり、友人達と泣いたり談笑したりと自由にしていた。

 

 

 

 

 

「あっ! 布仏先輩、卒業おめでとうございます!」

「ありがとうございます。お疲れ様ですね」

「そうよ一夏。アンタ少しは抵抗しなさいよ!」

「嫌なら嫌と言うのも嫁には必要だぞ」

「まぁまぁ。卒業生の最後のチャンスですし多めに見てください」

 

 

 

 

 

鈴、ラウラ、セシリアの3名の抗議に虚が宥める。最も、一夏に彼女らの言うことを実践しろと言っても本人の性格上厳しいと言わざるをえないが。

 

 

 

 

 

「一夏は対人スキルをもうチョイ身に着けような。少しは楽になるぞ」

「新華もボタン全部取られてるじゃんか」

「卒業生が駆け寄ってきた時点で諦めてただけだ。それでも下には触れさせはしてねぇっての」

「いいのかそれで?」

「そもそも逃げりゃよかったんだが、そうするとお前への負担が倍ドンだったし。ボタンは後で縫えばいい」

「それもそうか」

 

 

 

 

 

新華と一夏が会話をしている後ろで、卒業生の一部が虚を呼んだ。

 

 

 

 

 

「…お嬢様」

「今日の主役は虚ちゃんでしょう? 私達に気にせず行ってらっしゃいな」

「ありがとうございます。では皆さん、失礼します」

「いってらっしゃーいー」

 

 

 

 

 

虚は生徒会と関係者で集まっているこの場から離れてもいいかと刀奈に確認すべく声を掛けた。一言でそれを察した刀奈は虚を送り出す。

刀奈と一同に軽く会釈し、虚は友人達のところへ行く。それを本音は手を振って見送った。

 

---布仏 虚

卒業後も『楯無』こと刀奈の従者を勤め上げ、彼女の引退と共に自らも子供にその役目を継ぎ引退する。

五反田 弾と清らかな交際を経て結婚、弾が婿養子という形で籍を入れる。その際に暖簾分けされた『五反田食堂』の2号店を開き、庶民派の味と値段で地域住民と暗部構成員の憩いの場として評判を得た。晩年は彼女もこの店の手伝いをしていた。

夫婦仲は良好であり、実に平和な家庭であった。

 

 

 

 

 

「…布仏さんって友達居たんだな」

「……一夏、流石にそれは酷過ぎるぞ」

「おりむーってお姉ちゃんをそういう目で見てたんだー」

「へっ? あっ、いや、そうじゃなくて!? ほら、生徒会長…は新華といつも居るからともかく、布仏さんとは学園生活で生徒会以外にあんまり会わないし、会った時も大体生徒会だしでさ」

「言いたいことは分かるがな。普通に放課後以外は教室に居るんだし友人が居るのは当たり前だろうに」

「それにー。お姉ちゃんのルームメイトも居るもんねー? なのにぃー、おりむーってば『友達居たんだな』だってー」

「いやホントすいませんでした!」

 

 

 

 

 

本音の言葉に平謝りする一夏。謝る相手は既に離れた場所に居るが、一夏自身も反省しているし本音もからかっているので悪い空気にはならずにいた。

 

---布仏 本音

恋愛を意識しつつも友人達と学生生活を謳歌し整備科として多くを学ぶ。卒業後数年間は友人と共に機械系の就職をするが、『布仏』家の意向でお見合いを経て専業主婦となる。

姉と違い政略結婚的な意味合いがあったが、その性格から夫を支え良き母となる。結婚後も友人や簪、一夏達と交流を途切れさせることは無かった。

 

 

 

 

 

「まぁ、その辺にしてやってくれ。一夏も反省していることだし」

「そーだねー。そうするよー」

「…対人スキルの前にその天然をどうにか……別にいいか」

「匙を投げるのが早いわよ!」

「鈍感はともかく天然は一夏の魅力だしええやろが。というか天然と鈍感って表裏一体だし」

「そ、それはそうだけど……うーん、でも渋めの一夏ってのも…」

「それは天然鈍感言う前に老けてると言わないか?」

 

 

 

 

 

新華の言葉に鈴が勢い良くツッコミを入れたが反論の内容に勢いが止まる。そこで渋めもアリかと考えるが、またしても新華の言葉に撃沈する。

 

---鳳 鈴音

後に『黄金世代』と呼ばれるIS学園卒業生の代表的な1人。3年間で実力を大きく伸ばし卒業後は彼女自身の努力もあり国家代表として活躍する。誰もが認める姉御肌であり彼女を慕う人間も多く、また彼女に鍛えられたIS、MS操縦者は特に優秀であった。

また彼女の波乱万丈な人生が韓流ドラマにされたこともあり、知名度で言えば新華、一夏に次いで有名だった。

 

 

 

 

 

「老けてる一夏さんですか…。それはそれでアリ、な気がしますわ」

「そうかい。で、寒いから場所を移動しないか? 風邪を引きそうだ」

「賛成だけど、その前に誰かカイロか何か持ってないか?」

「なら嫁よ、私のを使うといい」

「おお、サンキュー」

 

 

 

 

 

ラウラが寒がる一夏に持っていたカイロを渡す。彼女の渡したカイロは暖かく一夏が早速脇に挟んだ。

 

---ラウラ・ボーデヴィッヒ

『黄金世代』代表の1人。1対1での戦いにおいて無類の強さを持ち、卒業後もその強さは衰えずに自身の隊を率いた。AIC操作において右に出るものは居らず、最終的に制限有りの新華に勝てる見込みのある数少ない人物となる。その生まれと部隊の特性上、表舞台に出ることは殆ど無かったが、IS学園で得た友人達と交流を絶やすことは無かった。

なお一夏への『嫁』呼びは彼女の黒歴史扱いとなる。

 

 

 

 

 

「うー寒寒」

「ほら一夏、これでも羽織れ」

「えっ!? それじゃあ箒が寒いだろ?」

「ISには温度調節機能もあるだろう。多少なら問題は無い。極端に言えばこの時期でもISスーツのみで過ごせるが、流石にな」

「今更ですがISは元々宇宙作業用として発表されたものですからね。寧ろそういった機能こそ本来のISの使い方なのでしょう。…新華さん、MSにもそういった機能はあるんですの?」

 

 

 

 

 

箒の解説にセシリアが問い掛ける。束が『白騎士・蒼天使事件』を起こす前にISを発表した際の内容と、そのISを元に開発されたMSとの差異が気になったが故の発言だった。

 

---セシリア・オルコット

『黄金世代』を代表する1人。卒業後はオルコット財閥を率いて亡き親に恥じない生き様を見せた。また学生時代の経験を元に鈴と同様に国家代表へと駆け上がり、IS操縦者と経営者の二束の草鞋を行った。また新華と同様に自ら広告塔としての役割を率先して行い、貴族としてノブレスオブリージュを心がけた。

そのせいかMSが浸透すると一部『トールギス』のようなぶっ飛んだ機体や『パンシャンドラム』的な兵器の開発提携の提案やら宣伝依頼やら出資の申し込みやらが舞い込んできて、経営者として嬉しいやら個人的な疲労やらで叫んでいたという。

機体の相性のせいで制限有りとはいえ新華に勝てず仕舞いだったが、それ以外では苦手だった近距離での戦闘もこなし国家代表に相応しい勝率を誇っている。

 

 

 

 

 

「あー、一応載ってはいる。水陸両用MSには必須だしな。量産機もそうだが、基本的に標準搭載されている。が、あくまで展開しないと使えない。IS見たいに便利じゃねぇんだ」

「だがお前の弟が似たような機能を使っていたと記憶しているが」

「あれは俺がハサン先生と相談しつつコスト度外視で作ったものだったからな。量産機に付けてらんなくて、ゼロ以外じゃ出来ん」

「そうだったのか」

「っつーかそれ含めたらゼロ1機で量産機が数機作れるからな予算的に。CB(うち)はまず試作機や専用機に試作品や最新技術を投入し高い完成度を目指し、量産する際にはいかに性能を落とさずコストダウンするかという開発の仕方してるんよ。だから必然的に試作機や専用機はコストを含め全て高水準なんだ」

「? その方法はおかしいのか?」

 

 

 

 

 

箒は新華の言ったCBの開発順序に首を傾げる。開発の現場を知らない箒にとって、その順序の可笑しさに疑問を持てなかったが故の質問である。

 

---篠ノ之 箒

卒業までに一夏を巡り、ライバル達と切磋琢磨しながら争い最終的に勝利する。卒業後に一夏と結婚を果たし、政府の要人保護プログラムで離れ離れだった両親と実家に戻り道場を再開。子供も一姫二太郎を授かるなど、1人の女としての幸せを手に入れた。

道場を再開した直後は、千冬、一夏、新華が通っていた道場ということで門下生が集まり、更に新華の子である次代『楯無』を受け入れた時もあったため閑古鳥が鳴くようなことは無かった。

同時にIS学園地下に監禁された姉の束の元へ卒業後も足を運び彼女の社会復帰と、何より新華と断絶した交流を多少なりとも回復させている。それにより束とクロエの2名も条件付きで実家に戻ることが出来、誰も欠けない家族を取り戻した。

 

 

 

 

 

「普通は試験機や試作機で稼動実験して、危険な部分を確認し排除して穴を埋めてっつー作業があるんだ。それを全てクリアして初めて量産機として生産されるのが普通だ」

「僕の『ラファール・リヴァイブⅡ』や簪さんの『打鉄弐式』がそうだね。とは言っても僕のラファールは既存技術ばっかりだったから量産機のカスタマイズ程度だったけど」

「ん…。私と織斑君のISを元にして、倉持技研で後継機が開発されてるから…。近いうちに宣伝されると思う…」

「思えば『打鉄弐式』もマルチロックシステムは試作品だったし、荷電粒子砲も試験運用を残すのみというものだったなぁ」

「簪ちゃんと仲直りするときに、思い切り新華君の影響受けて殴り掛かってきたのは驚いたけどね」

「…ああ、あの手に付いてる篭手みたいなやつか」

 

 

 

 

 

一夏が『打鉄弐式』に付いているナックルガードを思い出す。本来の『打鉄弐式』を知らない一夏は、戦闘スタイルまで新華の影響を受けた結果利用する頻度が高いため存在に疑問を持っていなかった。

 

---織斑 一夏

在学中も卒業後も結婚後も女難の相から逃れることは無かったが、常に誠実であったそうな。

ただ、たった2人の男性操縦者の片割れとして注目を受け続けた上、彼の息子にIS適性があると発覚したせいで気苦労は多かった。とはいえ姉や親友の協力もあり、篠ノ之道場で竹刀を振るっていられるだけの余裕はあった。

『黄金世代』の中でも最も成長した人物であるとされ、剣だけの近接戦に限定すれば新華に一太刀浴びせられる希有な存在となった。また幼馴染であるが故か制限無しの新華を相手にして懐に飛び込むことの出来る技量と根性を持ち、剣道という舞台上なら新華に勝てることから篠ノ之道場の門下生が増える理由の1つとなる。

しかしIS操縦者を引退した訳ではなく、『白式』に乗り倉持技研所属としても活動。その関係で簪と度々会うこともあり、彼女が引退するまで良き同僚の関係だった。同時に新華とも仕事で会うことも多く、家族ぐるみの交流が多かった。

なお彼の子供は彼に似て非常にモテたという。

 

 

 

 

 

「いや、あのナックルガードは俺が図面引いた後付け武装だぞ」

「へ? そうなのか?」

「うん…。実際有効だったし、倉持技研で開発中の機体にも搭載される予定みたい…」

「じゃあ何で新華は付けてないんだ? 新華も結構拳で戦ってること多いだろ」

「GNクロー、GN粒子のコジマパンチ出来るし」

「…本当にか?」

「いや、ただ単に多種多様な武装を使う場合はナックルガードが邪魔になりかねんから付けてないだけ。あと拳に振動が伝わらんと浅いかどうかも分からんし」

 

 

 

 

 

その言葉に簪は苦笑する。確かに『打鉄弐式』は武装が多いと言えないが、逆にサヤカの『Evolveクアンタ』に搭載出来る武装が多過ぎるというのが一番適切である。同時に、ISでそんな野蛮とも言えるような喧嘩スタイルで戦うのも新華くらいである。…が、勧善懲悪が多い特撮ヒーローは殴り合いが多いので特に気にしない簪だった。

 

---更識 簪

卒業後色んな理由から速攻で籍を入れる。『打鉄弐式』と共に倉持技研で代表候補生として活動していたが、妊娠を理由に引退。産休を終えた後は倉持技研に技術アドバイザーとして招かれる。仕事柄よく一夏と顔を合わせることがあり、都合が合えば『打鉄弐式』の制式機や後継機に乗ることもあった。

家では理系母として新華と共に子供のプレゼントを自作したり映画や特撮、アニメを見せたりと、どちらかというとオタク寄りであった。ただ特撮に関しては『子供に見せるのは電王とフォーゼで』と言うくらいに厳選して子供に配慮していた。その甲斐あっていい子が多く育つ切っ掛けとなる。

また新華と結婚した3人の中で、卒業後もメディアに顔が出る機会が存在していた人物であったためパパラッチの被害を知り、新華と同様にマスコミ嫌いになってしまう。なおパパラッチは新華により処されました。

 

 

 

 

 

「…でもエステバリスの例もあるよ…」

「そうなんだよなぁ。技術試験ということで試しに作ってみるか」

「だからといって無理しちゃ駄目だよ? 新華はすぐに無理しようとするんだから、気を付けないと」

「そうだなぁ」

 

 

 

 

 

シャロの忠告に心当たりが多くあるため生返事になってしまう。実際無理するのが当たり前になっている新華にとって今のようなシャロの言葉はストッパーになっていた。

 

---シャルロット・デュノア

簪と同様に卒業後に籍を入れる。刀奈と簪は入籍後もしばらくIS操縦者をやっていたのに対し、彼女は卒業と同時にISを降り主婦の道を選んだ。これはデュノア本社の跡継ぎ問題から抜ける意味合いもあったが、一番の理由はみんなが安心して帰ってこれるようにしたいという彼女の想いだった。

同時にその裏には、新華と刀奈が責任のある立場の人間であり、簪も『打鉄弐式』のこともあって家事をする時間的余裕が無いという切実な理由もあった。実際、彼女のお陰で他3人の休む時間が確保出来た面もあり一堂は彼女に頭が上がらなかった。

またその結果か、子供と最も触れ合う時間が多くなり一番『母親』をやっていたという。

 

 

 

 

 

「もう。サヤカ、新華が無理するようならすぐに教えてね?」

「わかりました。止めろ、とは言わないのですね」

「サヤカは新華の言うことやること全部否定しないから僕らが止めないと。あと楯無さんも!」

「ああ、うん。言いたいことは分かるわ。あんまり振り回し過ぎないように、でしょ?」

「ええ」

 

 

 

 

 

シャロの注意は刀奈も理解している。IS学園入学以前に新華と会って以来、何度も『楯無』として仕事を共にしているのをシャロも簪も知っていたが故の言葉である。

 

---更識 刀奈

引退するまでの間、『楯無』とロシア国家代表の二束の草鞋を見事勤め上げる。卒業時に生徒会長の役を一夏に譲り、先に卒業していた虚と暗部の仕事に邁進する。

『更識』とロシア国家代表としての事情もあり新華達の卒業直後に籍を入れる。新華の協力もあり『更識』の暗部としての評価を不動のものとし、跡継ぎに関してもはっきり意思表明して問題を未然に防ぐなど歴代『楯無』の中でも高評価される。

夫婦関係は良好であり、それは第一子の次代『楯無』は純粋な兄弟が多かったことからも伺える。『黄金世代』や妹の簪と違いロシア国家代表以外に彼女が表舞台に立つことは無かった。だが晩年は政治家や女傑として知る人ぞ知る存在となる。

また、彼女がかつて新華と交わした軽い約束で、実際に月へデートしに行ったというエピソードは有名である。

 

 

 

 

 

「新華は愛されてるな」

「将来、尻に敷かれそうだ」

「まぁ、無理するのは今に始まったことじゃねぇし有難いけどな。本当に、有難てぇよ。…一夏はどうなるかな?」

「俺? うーん、まだ先のことは分からないし、その時になってからじゃないとな」

「ま、そうだろうな」

「ご主人様とは既に切っても切れない関係ですから、家族ぐるみでそれを確認する日も来るでしょうね」

「そいつは良いな」

 

 

 

 

 

サヤカの未来予測に新華は笑う。実際、この場に居る人間と居ることで非常に濃い時間を過ごせているので、その縁が切れず楽しい時間が続くと思うと嬉しいものがあった。

 

---サヤカ・クアンタ(Evolveクアンタ)

新華の乗機であり、相棒であり、娘であり続けた存在。その外見は他のISの自我意識と同様に老いることは無く新華と、その孫の最後を看取るまで『ハロ』と共にCBの象徴的存在であり続けた。

新華の孫達が亡くなった後は、CBに手紙を残し月の『ヴェーダ』へと赴き全機能を自ら停止させ新華の後を追う。それまでに彼女が辿った軌跡には多くの人間が関わり、彼女の死と共に新華の時代が終わったとされている。その後、新華の子孫が『ヴェーダ』を発掘すると同時に彼女の朽ちた亡骸を発見。その一部を新華の墓へと入れられた。

新華が引退するまで数多くの改修を受け、最後まで彼以外を乗せなかった。そんな彼女に惚れた男も居たが、それに応えることは無く最後まで自らの主人の為に生き抜いた。

 

 

 

 

 

「ねーねー、話が盛り上がるのもいいけどー。生徒会室に着いたよー?」

「あれ、寮に戻るんじゃないのか?」

「ここまで来てから言うかそれ? こっちの方が近いし生徒会室なら暖房付いてるから丁度良いだろ? 上から卒業生も見えるし」

「そうなのか。でも生徒会じゃなくても入っていいのか?」

「今日は特に重要な案件も無いからね。気にしなくていいわよ。温まるくらい大目に見るわ」

「そういうこと。寮じゃこの人数で纏まって過ごせる場所はホールくらいだし、ホールは広い代わりに寒いからな。着替えて集まるより気楽でいいだろ」

 

 

 

 

 

加えて、寮のホールだと他の生徒も居るからと笑う。今更噂されて困るような関係ではないが、それでもこの人数で会話するとそれなりの音量になってしまう。それに刀奈の言った通り特に仕事も無いので気楽に過ごせる場所でもあった。

 

---青木 新華

数多くの逸話と画期的な技術を産み出したことで、束と対を成す天才として歴史に名を残す。特にMSと、それに使われるバッテリー技術と『PS装甲』、『ヴォアチュール・リュミエール』は非常に注目度が高くCBの発展に一躍を担った。

彼が在学中の3年間関わった世代を『黄金世代』と呼び、IS学園史上最も優秀な卒業生を輩出した。

また逸話の中には非常に愛妻家であったエピソード『モンド・グロッソの中心で愛を叫んだ男』が特に有名であり、その証明といかないまでも3人の妻との間に合計10人以上の子供をつくった。

戦闘面では先のエピソードの際に愛機の『Evolveクアンタ』を駆り参加者全員を同時に相手し、殆ど被弾らしい被弾をせずに勝利するなどの記録もあって『人類最強』とすら呼ばれた。

しかしその反面黒い噂も絶えず、マスコミ嫌いも重なり公の場に姿を現すことは多くなかった。特に簪がパパラッチの被害に遭い自分と同様にマスコミ嫌いとなった際は、マスコミ業界が酷く荒れ社会問題になった。

子供達への教育にも影響したが、それ以外は概ね良き父であろうと努力し家庭を大事にする。特に第一子である次代『楯無』誕生の際は、人目を気にせず嬉しさのあまり大泣きしたという暖かいエピソードも残る。

パラベラムの能力は関係者以外に知られず、自身の子供に能力が発現しないことを安堵し最後まで口外するようなことは無かった。が、『更識』が保管する記録の中に転生者であることを含め記載されていたため子孫が一時的に騒ぎになったという。

そして彼の最期は、妻達、友人達、子供達に看取られるというものであり、彼は笑顔で老衰を迎えることが出来たという。

 

 

 

 

 

「確かに」

「目安は卒業生が全員帰宅するまで、かな。それまでここでゆっくりしようや」

「寝ちゃったら後が寮に戻る時に辛いわよ? 気を付けてね」

「進級式に風邪引いたらみっともないからなー」

 

 

 

 

 

そう刀奈と忠告すると小さく笑いが起きる。そのままぞろぞろと生徒会室に入り扉を閉める。

 

暖かい部屋でその後どんな会話が繰り広げられたかは、皆様のご想像にお任せしましょう。

ただ1つ言えるのは、誰もが今幸せであるということだけである。

 

 

 

 

 




最後までお読み頂き誠にありがとうございます!
本投稿を持ってこの『IS~疾走する思春期の転生者~』は完結になります。
5年前から始めたこの処女作が完結出来たのは主に皆様の感想やご指摘のお陰です。
作者も留年含めた5年間の大学生活、その集大成であるこの作品は一生の思い出となるでしょう。

どうかこの作品が皆様にとって、良き作品であったこと、また良き暇つぶしになっていたら幸いです。
どうも今までありがとうございました! 良いお年を!

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