IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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167話目です。次回で最終回の予定。
卒研忙しいんじゃ
今年中に投稿出来るかどうか…


リザルト

 

 

 

---IS学園生徒会室

冬休みが終わり始業式が行われ3学期が始まる。生徒各位も学内の寮へと戻り学園生活を再開していく。

そんな中、1年専用機持ち達と生徒会、そして織斑 千冬と山田先生が集まっていた。

 

 

 

 

 

「みんな、改めてあけましておめでとう」

「おめでとうございます」

「おめっとさん」

「明日から授業も再開するところを呼び出して悪いわね? 織斑先生も山田先生もご足労ありがとうございます」

「いや、いい。我々教師も無関係ではないからな」

 

 

 

 

 

そう答える千冬と山田先生の顔には、こころなしか疲労が見られた。最も新華、刀奈、虚の3名も同様であるが。

 

 

 

 

 

「何だか、千冬姉も新華達も疲れてるように見えるんだけど」

「おう、疲れてるぞー。まぁそれは今気にしなくていい」

「すぐに分かるわよー。…さて、早速だけど今日呼び出したのは他でもないわ。去年の作戦の後処理が全部終わったから、みんなに知らせておこうと思ってね」

「それは…」

「篠ノ之 束博士に側近のクロエ・クロニクル、『亡国機業』の構成員達、そして関係者各位の処理が決まったの」

「姉さんの…」

 

 

 

 

 

一夏の指摘通り新華達は疲労していたが、束の単語が出てきた途端に箒が反応し不安と興味が混ざった表情をしていた。そんな箒に刀奈は頷く。

 

 

 

 

 

「先生方はその関係で疲れてらっしゃるのよ。私達も、だけどね…」

「ちなみに生徒会としてじゃないから、一夏が除け者になったとか、そういうんじゃねぇから安心しろ」

「そうなのか?」

「というか、生徒会の仕事じゃないからアレ。まぁその辺もおいおい」

「ちゃんと篠ノ之博士についても教えるから待っててね? じゃあ早速始めましょうか。虚ちゃん」

「はい。皆様こちらをご覧ください」

 

 

 

 

 

虚が刀奈に促され生徒会室の空間ディスプレイを映し出す。そこに書かれていたのは文字と数字の羅列だった。

 

 

 

 

 

「まずは改めて結果から確認しましょうか」

「では説明します。こちらの損害ですが、各ISの損害は軽微でダメージレベルがB以上の機体は無く、現在は全機の修理も終わっています。しかしCB側は『ガンペリー』が撃墜、MSが1機中破。そして外部戦力の『シーマ艦隊』は負傷者こそ出ましたがどれも軽いもので、全体の死者はゼロ。負傷者も数名で済みました」

「『ガンペリー』は赤字だが何とかなる。で中破したMSは実の『ウィングゼロカスタム』のことで、そっちも修理が終わっている」

「続いて成果ですが、奇襲が功を奏したのか『亡国機業』の構成員は全て捕縛、兵器も撃墜した残骸含め確保し作戦目標は完遂されました。同時に篠ノ之博士を確保したことで日本政府より謝礼が出ています。IS学園に届いているので、後で受け取ってください」

「謝礼って?」

「一生遊んで暮らせそうな0(ゼロ)の並んだ額。確認して引っくり返るんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

新華の言う通り一般人からすればたまげる金額が日本政府から個人へと支払われることになっている。しかし新華達CBは組織参加枠として扱われ、同時に金額ではなく別のものを報酬として要求し受諾されていた。

つまり、受け取れるのはIS組である。なお例外として刀奈と虚は『更識』の予算の増加という形で恩恵を受けることになる。

 

 

 

 

 

「そんなに?」

「寧ろやったことと比べると安くね? って思う。まぁ賞金首ってわけでもないし…」

「…それでも、それだけのことをしていたという証拠だろう。それで、姉さんは結局どうなるんだ?」

「博士は、厳重な拘束をされた上で監禁されているわ。今度こそ逃げられないようにね」

「政府はアレが世界に与えた影響と、確保したという事実による世界の混乱……というか日本が被る面倒事を回避するために情報統制を行うことになった。さっき言った報酬の中には口止め料も入っている。…余計に少なく感じるが」

「そういう事情もあって、語れることはほぼ無いに等しいわね。こればっかりは、ね」

「そう、ですか」

 

 

 

 

 

箒は姉と交わした約束を守りたいと思っていた。しかし同時に、その姉は世界を変えた責任を背負う必要があるとわかっていた。しかし、最後に見た姉のあの涙が箒の頭に過ぎる。

新華と一夏、刀奈や虚と千冬はそれに気づいた。だが一夏以外がそれを後回しにして話しを続けた。

 

 

 

 

 

「続けます。篠ノ之博士と共に居た『クロエ・クロニクル』という少女も博士同様に行動を制限され監禁状態にあります。こちらは青木君の方が詳しいですね」

「新華が?」

「うぃじゃあ説明引継ぎますよー。まずくーちゃん、『クロエ・クロニクル』の現状を説明するには彼女自身のことを説明しないとならない。データを作ってきたからディスプレイを見てくれ」

 

 

 

 

 

新華が虚から説明を引き継ぎサヤカが空間ディスプレイにデータを映し出す。クロエの顔写真とプロフィールが映された。

 

 

 

 

 

「ざっくり行くぞー。彼女は違法研究所潰ししていた時にクソ兎が気まぐれで拾った子だ。クソう詐欺の特性ISコアを1つ所持していて、一言で言うと『生体同期型』っつー同化した形態になってる。ISのダメージ=身体ダメージという厄介な弱点を持っている代わりにAIや機械に滅法強いというやつで、ワンオフアビリティーは『ワールドパージ』。電脳ダイブ時に専用の設備無しで俺らを幻想に捕らえた、と言えばどれだけのものか分かってもらえると思う」

「では、あの時のハッキングは」

「クソう詐欺が実行犯だ。本当に碌なことしねぇ。で、『生体同期型』の名の通り肉体と同期してて切り離せないのも特徴でな。下手に切り離したり機能停止させたりすると命に関わる。なんで前に手に入れた純正ISコアを同期させることで制限させた」

 

 

 

 

 

その新華の説明に、事前に知っていた嫁'sと虚、千冬以外が驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

「くーちゃんのISは本当に厄介でな、理論上彼女の意思を縛る以外に拘束手段が無い。だからISのコアネットワークを利用した外部からの機能コントロールでもって何とかした」

「ISコア…!?」

「ディスプレイに映ってるっしょ? ああ、その制御ISコアはくーちゃんに付いているけどネットワークの大元とセキュリティに関してはサヤカと同じ元でやってるから誰にも手出し出来ん。というかその大元にアクセスする媒体が『ハロO』しかねぇ。加えて『ハロO』でアクセス出来るの俺とサヤカしか居ねぇし」

「ほあー…」

「くーちゃんに関してはこんなもんかな? ちな今の電波妨害技術じゃネットワークは潰せないんで安心しとけ」

「あとネットワークの本体は世界一人の手が届かない場所にあるから、そっちも安心していいわ」

 

 

 

 

 

ちなみに制御ISコアは新華が新造したものであり、ネットワークの大元とは月の裏側にある『ヴェーダ』のことであった。

未だに宇宙開発が進んでいないこの世界では月の裏側に秘匿された『ヴェーダ』を見つけ出すことは出来ない。例え金属反応で確認出来たとしても入ることも出来ないので遺跡として扱われるだろう。

なお刀奈がそれの存在を知っている理由は、サイコフレームの共振が起きた時に知り新華本人を二重の意味で搾り出したからである。

 

 

 

 

 

「まずここで質問は?」

「じゃああたしが。政治的判断って言ったけど、登録されてないISコアは無人機だったの含め結構あるでしょ? それに博士に作らせればもっと数が増えるだろうし、その辺はどうなってるの?」

「無人ISコアはIS学園の地下で厳重に封印されてるわ。理由は色々あるけど、これからはISコアの数は増えないと思ってくれて構わないわ」

「それはどうして?」

「理由としてはまず篠ノ之博士に工具の類を持たせるつもりが一切無いこと。かつてISコアを作れるような環境に無かった博士は自力で工房を実家に作っていた。この事実から少しでも工業製品を与えたら脱走される可能性が生まれると判断され、博士と『クロエ・クロニクル』には生活必需品以外を与えないという決まりになった」

「あの鯨の形をした移動ラボにして潜水艇の『我輩は猫である』とやらもどこから資材を調達したのか結局分からず仕舞いだしね」

「その潜水艇はどうなりましたの?」

「政府が勝手にバラして解析させようとしたのを止めて、この学園地下に眠らせてある。…クソう詐欺は嫌いだが技術屋として、流石に見過ごせなかったんでな。最も、後はIS学園の仕事だが」

「そのせいで我々教師陣も見ての通り疲労が残っている。だが授業にまで影響させるような真似はせん」

「俺はまだ2徹くらい行けますけどねー」

 

 

 

 

 

会話に合わせて変わる空間ディスプレイの映像を見ながら一同は疲れた顔の理由を理解した。束の存在はIS学園にとって重要過ぎるものであり、その束の拠点と無人機を封印するのにIS学園は国際的に最も適していた。だが束を抑えられる技術を持つ人間も力もIS学園には存在していなかった。今新華が言ったようにくーちゃんという束の従者にしてIS学園メインコンピュータをクラッキングした存在も居る。そこで新華のCBと『更識』が活躍することになった。

 

 

 

 

 

 

「諸々の作業にはCBも関わりISでも破れないような厳重なセキュリティを施しました」

「万が一にも封印が解けないような、それこそISで実力行使しても行けないようにしてある。だからその辺りは安心してくれていい。諸外国どころか日本も、IS学園の教師ですらおいそれと近付けないからな!」

「…他に何か質問は? 無ければ、続いて『亡国機業』について説明させていただきます」

 

 

 

 

 

新華の謎の説得力に、それはそれでそうなんだという感想を持ちつつ倒した敵の情報に意識を傾ける一同。正直彼女ら『亡国機業』のことも気になるが、色んな意味で重要だった束の話を聞いた後なので適度に力を抜いていた。

 

 

 

 

 

「所持し運用していたIS『暁』、『黒騎士』は登録されていないコアを使用していたためIS委員会の管理下に置かれています。しかし『サイレント・ゼフィルス』は所属元のイギリスに返還されております」

「イギリスに、というかオルコット財閥のセシリアに、だよな。作戦の後にそのまま持ち帰ったみたいだけど」

「ええ。そのお陰と言うのも何ですけど、開発者の皆さんに日の目を見せてあげることが出来ましたわ。…ある意味で実戦データなら十二分に採れたとも言えますし」

「そっか」

「…各機体の元搭乗者である『スコール・ミューゼル』、『織斑 マドカ』、『ラクス・クライン』も一度IS委員会の管理下にありましたが、後者2名は現在CB預かりとなっています」

「おっと唐突な衝撃の事実。寝耳に水だな。何があったんだ?」

 

 

 

 

 

一夏の驚愕の声が上がり新華に視線が集中する。実というマドカに執着していた人物が居たので彼女を(多分)引き取ったのだろうと予想は出来たが一夏は知らされていなかった。同時に束嫌いの新華がラクスを預かるというのも予想外の1つである。

 

 

 

 

 

「あのさ、そもそもの話IS委員会の本部ってどこか知ってる? 国連本部だぞ? 武器を奪ったとはいえテロリストの子供2人、そんなの要人の集まる場所に誰も置きたくないって考えるだろ。しかもどっちも千冬さんとクソう詐欺のクローンで機械に近付けたくない。となると何処に閉じ込めるべきかという話しになって実という前例のある俺、というかCBが適任だ! つってブン投げやがった」

「あー……」

「でもタダで受け入れるのも癪だったし色々対価吹っかけて通した。ついでに『お前ら仕事しろ!(意訳)』つって煽って学習の色無くスコールを利用しようとしてたから気付かれないようデリートして一部不正があったからコピッて国連の全コンピュータにばら撒いたりとやったが」

「おい      おい」

「ばっ何やってんの!? アンタ何やってんの!?」

「むしゃくしゃしてやった。反省も後悔もしていない。スコール作ったのも監視衛星に仕込み入れたのも密かに『亡国機業』の支援してたのも連中だし」

「ハァッ!?」

「何がどういうことだ!?」

「はいはーい、言い出したら止まらないから後でねー。新華君も少しは反省して頂戴?」

「ういうい」

「虚ちゃん、続けちゃって」

「分かりました」

 

 

 

 

 

一夏一同の騒ぎを見て当時を思い出した刀奈と虚は疲れが一層深くなった気がした。

 

 

 

 

 

「(あの時も大変だったわねぇ…。ロシアとの緩衝もあったから尚更。…早目に引退して暗部に専念しようかしら。もしくは専業主婦とか)」

「彼女らと同時に確保した構成員達は現在身元を調べテロリストとして裁かれる準備が現在行われている最中です。ただ『ファミリアⅡ』と呼ばれる機体に載せられていた人物達は全員死亡を確認しています」

「…!?」

「こちらをご覧ください。山田先生とボーデヴィッヒさんと鳳さんは見覚えがあるでしょう」

「ああ、これ……人乗ってたの!?」

「『エンジェルパック』『ナニカサレタ』とか言い方はあるが、端的に言えば脳と脊髄を機械とISコアに繋げた上で『VTシステム』を使い男でも使えるようにした、っつー非人道兵器だ。最も乗っていたのは『亡国機業』の幹部の老害だったらしく、クルーゼさんが愉悦に笑いアズラエルさんが微妙な顔をしてたな」

「どういうことなの…」

「それらも無人機と一緒に地下に封印されてます。無論生態部分は取り除いた状態で、ですが」

「これのどこが、『男でも使えるIS』なんだ!?」

「『男性自身が使える』という意味じゃなく『女性にとって使える男』という意味なんだろ。『ファミリア』なんて名前からして程度が知れる。だからこそ完膚無きまでに破壊したから残骸しか残っとらんけど」

「そんな…」

 

 

 

 

 

交戦する直前に有人機であるという報告を聞いてはいたが、実際にどんな形であったにせよ、搭乗者の命が失われたという事実。そして自分たちがその一端を担ったという事実が山田先生と鈴の心に影を落とす。

 

 

 

 

 

「しっかし何度見ても『クロスドレッサー』なんだよな。寄生型じゃなくてよかったと言うべきか」

「…今、凄まじく危ない単語が出たな。何だ、寄生だと?」

「俺の知ってるソイツは暴走したうえ陰湿な連続殺人をしたくせに、姿を現すまで誰にも見つからなかった兵器ですからね。しかも多分、ISじゃ見付けられません。俺でも潜伏されたら見付けられません」

「恐ろしいISもあったものだな」

「(恐ろしいのはISじゃなく人工P・V・Fというところなんだよなぁ)現存してないのを確認してるんで、今後作られでもしない限り現状問題無いです」

「今後もそうであってほしいものだな」

 

 

 

 

 

作戦の最中、Aチームだった簪が基地から抜き取ったデータで確認したが、その後もヴェーダ経由で調べ尽くし現在は存在していないと確認していた。

 

 

 

 

 

「さて、『亡国機業』に関することはこれで全部かしら。皆はここまでで何か質問ある?」

「………結局、『亡国機業』ってどんな組織だったんですか? ああして戦って倒しましたけど、あれだけの設備だったり戦力だったり、規模が普通じゃないから気になって」

「ふむ、確かに気になるでしょうし終わったことだから言ってもいいかしらね」

「政治的な問題は政府にブン投げたし、もういいんじゃ? 語るには丁度いいタイミングでもあるし」

「そうね。ここまで話したら全部言っちゃいましょうか。虚ちゃん、出して頂戴」

「分かりました」

 

 

 

 

 

一夏の疑問と新華の進言で刀奈は虚に指示を出す。虚が空間ディスプレイを操作し映像を変更した。

そこには『『亡国機業』について』という見出しが映る。

 

 

 

 

 

「これから語るのは、現存する数少ない情報を纏め整理したものよ。でも中には資料が足りず筋の通る憶測で補完している部分もあるから留意してちょうだい」

「分かりました」

「……まずこの組織の成り立ちから話しましょうか。時は第二次世界大戦終結間近、原爆を広島と長崎に落とされた直後でしょうね」

 

 

 

 

 

刀奈の語りに合わせ虚が画像を変える。今の日本人でも読めないような古い資料が映る。

 

 

 

 

 

「歴史の授業では日本は原爆を落とされて無条件降伏を行った、と習うわね? でもその無条件降伏をするまでのごく短い期間に、降伏に納得しない軍人達が居たらしいわ」

「去年の終戦記念日にとある映画が放送されたが、まさにこの期間を題材にしたものだったから、興味があれば見るといい」

「その納得出来なかった軍人達が揃って公式の記録で行方不明になってるの。それも日本だけでなく、当時のドイツからも」

「えっ、それって」

 

 

 

 

 

新華の映画宣伝を挟んだ刀奈の言葉に一同の視線がラウラに集まる。そのラウラも驚きの表情を隠せなかったが、直ぐに当たりを付けた。

 

 

 

 

 

「ドイツ、いや、ナチスか?」

「正解。と言っても念入りに足跡を消されていたせいで中々見付けられなかったのだから、その執念は押して知るべしと言ったところね。捜査が進展したのもここ数年になってからだもの」

「つまり、奴らの『亡国機業』という名前は…」

「亡国は、大日本帝国とナチスドイツのことね。『機業』という言葉には織物という意味があるわ。…『織斑』とも言い換えられるけど」

「えっ!?」

 

 

 

 

 

今度は大声で驚きの声を上げた一夏と千冬に視線が向かう。…が

 

 

 

 

 

「最も織斑先生や織斑君の『織斑家』は何の関係も無かったのだけれどね。そんな簡単に関係者が見つかるなら苦労してないわよ」

「織斑さんの家については既に調べ終えてあり、同時に『亡国機業』の資料から名前の由来を確認済みです」

「『亡き国を織り続ける(ごう)』、という意味らしい。…どこかで自分達が負けたことを理解していたんだろうな。皮肉を混ぜつつ罪を織り続けると言ってる辺りを見るに、止まれなかっただけなのかもしれんな」

「止まれなかった、か」

 

 

 

 

 

新華の言った言葉を聞いた箒は、ある意味で姉のような人間が居たのではないかと思い寂しさを感じた。

次いで映された画像は、作戦時に突入するAチームと『シーマ艦隊』に提供された図面だった。

 

 

 

 

 

「こちらの画像は『亡国機業』について調べる際に発見した資料で、『三式潜航輸送艇整備基地』と書かれている通り元は陸軍の三式潜航輸送艇、通称『まるゆ』と呼ばれる船の整備基地として建造されていたようです」

「この基地が『亡国機業』の基地として利用されていたのは皆も知っての通りだけど、調査の結果あることが分かったの」

「この施設には油田採掘プラントが存在しており、まるゆ型潜水艇と同様に酷使された形跡がありました。同時に『亡国機業』という組織について、結成当時の人間のものと思われる資料も多く残されているのが見付かり、解析も完了しています」

「その資料を紐解くと、色んなことが分かったわ。『亡国機業』の発祥、理念、活動内容もね」

 

 

 

 

 

残された多くの資料は、本当であればスコール達の逃走と同時に爆破され永遠に失われる筈だった。しかしAチームと『シーマ艦隊』陸戦隊の活躍により未然に防がれ全て回収されたのだった。

これはAチーム達が優秀だった、というよりも基地に対する奇襲を想定出来ていなかったという点が大きい。

 

 

 

 

 

「纏めて簡単に言うと、大日本帝国とナチスドイツの残党が竹島の基地に集い『亡国機業』を結成した、ってこった」

「な、なるほど」

「ただ、どんな組織でも活動するためには先立つものが必要でね。世知辛い話になるけど、活動資金を稼ぐ必要性が出てきたらしく色々やっていたみたいなの。その過程で多くの人間を引き入れたり国や企業の後ろめたい部分で取引したりと活動していたら、いつの間にか世界有数のテロ組織であるのと同時に資金源たる大企業の私兵の集まりという形になった、という嘆きが書かれていたわ」

「えぇ…?」

「それは、組織としてどうなんですの?」

「これは推測になるけど、『亡国機業』の成り立ちから組織運営の知識や才がある者が居なかったんじゃないかと考えられるわ。というか、ある者は現実を見て『亡国機業』に参加するより戦争の責任を取ったり戦後処理に走っていたのだから十中八九そうなのでしょうけど」

「組織として、と問う前の問題だったという情け無い話だがな」

「で、ある時を境に資料の数が激減しているの。その頃の資料と一緒に見ると、どうやら元から居た人間は軒並み排除されて完全に組織を乗っ取られたと見て間違いないわね。記録を見るとテロ組織と言うより国際的なモルモットと言った方がよさそうだけど」

 

 

 

 

 

空間ディスプレイに幾つもの資料とデータが映る。その中の電子データは簪が作戦中に抜き取ったものも入っていた。

 

 

 

 

 

「表に出せない倫理を外れた技術のテスト、危険で採用されないような兵器の運用等を主に行っていたようです。その最たる例が『織斑 マドカ』や『ラクス・クライン』といったクローン技術ですね」

「構成員も犯罪者や身元が特定出来ないような人間ばかりで、大した情報を持ってる人は殆ど居なかった。ここまで来ると名前だけの別の組織よね。で、どんどん調子に乗って活動していた最中に起きた事件で一気に活動が活発化することになるの」

「それが、『白騎士・蒼天使事件』。『亡国機業』はある意味で世界一影響を受けた組織と言っても過言じゃないくらいに衝撃を受けていました。その結果が『オータム』や『サリー・エル・サーシェス』といった女性戦闘員とISの横流し、運用に繋がってきます」

「で、さっき新華君の言ったIS委員会云々の話になるのだけど…」

 

 

 

 

 

そこまで言葉が出た後に、虚と刀奈の視線を受けて新華が肩を竦める。実は暗部として調査してきた『更識』より『ヴェーダ』というチートを持つ新華がこの辺りからの活動に詳しかったりする。

『亡国機業』の構成員にイノベイドは居なかったものの、電子化されればされる程に実力を発揮するのが量子演算型コンピュータ『ヴェーダ』である。そして、ヴェーダはこれまで記録したデータ全てを保持している。

 

 

 

 

 

「もうさっきの俺の台詞で察したかもしれんが、最近『亡国機業』を利用しまくってたのはIS委員会、っつーかIS委員会を掌握出来るアメリカを始めとした国連常任理事国だ。ただし国家元首は関わってないという意味不明なことになってるが」

「それもう非公認の国連軍じゃん…」

「せやで? でないとただのテロリストがあんな充実した装備持ってるわけ無いやん。あと第2回モンドグロッソで俺とお前が糞ビッチに襲われたの覚えてるか?」

「…ああ」

「あの時の奴は正式にテストパイロットとして『アラクネ』を所持していたことになってんだぞ。普通は国家機密や重要な自国戦力の要に不確定要素を近付ける訳無いだろ常識的に考えて。実力主義の前にアメリカは『絶対的な独善主義』だぞ。自らの正義に反するようなことはしない」

 

 

 

 

 

ちなみに秘匿空母の件は『アメリカの正義』を被った『亡国機業』の『更識』に対する釣り針である。『亡国機業』実働部隊隊長の『スコール・ミューゼル』は生前アメリカ国籍であり、それを探る『更識』はアメリカにとって、『亡国機業』にとって害であると判断されていた。

空母とアメリカ代表の行動はアメリカ政府の指示だが、更に『亡国機業』側は漁夫の利、つまり刀奈を撃墜するのと同時に日本とアメリカの関係を悪化させテロ活動を行う大儀と『更識』の失墜による日本の治安低下を狙って行動していた。故に派手に戦闘してみせた上でアメリカ代表に勘違いをさせてみせた。

加えてこの件が成功していた場合、ロシア国家代表でもある刀奈の撃墜による日本-ロシア間に不穏の種を撒くことも出来た(元々不穏でないとは言ってない

 

 

 

 

 

「最も、向こうの誤算は『蒼天使』の正体が俺で一夏と一緒に行動していたことだろうな。加えてCBを立ち上げたりクソう詐欺との契約で連中の研究所や拠点を潰して回ってたし、余裕は無くなってた筈だ」

「その余裕の無さで行動の1つ1つが粗くなり尻尾を掴んで今に繋がるのだけどね」

「じゃあIS委員会については…」

「アレはもう『亡国機業』の隠れ蓑の1つやぞ。…IS委員会が設立初期に打ち上げた監視衛星ってあるやろ」

「『強力な兵器であるISの乱用を防ぐため』という名目で打ち上げられているものだな。ISの軍事利用の禁止と同時に各国の動きを封じるためのものだったはず」

「IS委員会がシステム管理してるんだから『亡国機業』が裏で手を回したら意味無いに決まってんだろJK。実際『亡国機業』に都合良く改竄されてたんだし、その上でスコールのような死人利用した人造人間に世界的自爆装置を仕込んだり好き勝手やってたんだから。衛星打ち上げ前の建造段階で手を入れられてたんだし、仕事してないって言っても間違いじゃない」

「あと何となくボーデヴィッヒちゃんは何となく察してるかもしれないけど、あなたの機体に『VTシステム』組み込んだ原因もここよ。あの暴走のデータを元に『ファミリアⅡ』に『VTシステム』が組み込まれていたのだし」

 

 

 

 

 

ディスプレイにその辺りの関係性が纏められた図が映る。広く大きな関係図に、纏めた本人達が辟易する。

 

 

 

 

 

「これを調査して纏めるだけでも随分と大変だったんだから」

「それで『織斑 マドカ』と『ラクス・クライン』の2人を預かる時に、反省どころか偉そうにしてた職員にキレて色々やってきたんだ。もう1度言うが反省も後悔もしとらん」

「えー…」

「連中に俺らがどれだけ迷惑を受けたと思ってんだ。あんな舐めた態度クソう詐欺でなくともキレるわ。本当ならばら撒く以外の方法があったんだが、『スコール・ミューゼル』について調べたら衛星とのリンクを解除しないどころかそのままメインコンピュータに繋いで、より高性能にとか考えてたらしくてな。流石に見過ごせんかった」

「…もしそれが実行されてたらどうなっていたんだ?」

「スコールの意思でIS委員会のコンピュータどころか国連が滅茶苦茶にされる。というか最終的に俺らが迷惑するだろうし何も問題が無いかのように作業を進めてた連中本気で無能過ぎる癖に態度無駄にデカイしテメェらの尻拭い誰がしてやったと思ってんだっての。与えられた仕事もできねぇのに礼儀はなってねぇし最悪。消してきたのと同レベルで屑だし良心の呵責も無かったのが救いだな」

「そのせいで私達の仕事が増えたんだけど…?」

「本当に申し訳ないと思っている」

「……話を続けてもらえませんか?」

「「ごめんなさい」」

 

 

 

 

 

新華と刀奈の漫才に冷たい視線を向ける虚。2人は話が逸れかけたと自覚し素直に謝り、ドン引きする一同への説明を続ける。

 

 

 

 

 

「で、『亡国機業』の関係図を見て分かる通り本当に関わってる連中が多く、かつ連中の伝手で実働部隊に入るアウトローや危険思想持ちも多かった。そんな連中を纏めるために単純明快なやり方が、力によるごり押しだったんだな」

「その力というのは権力だったりお金だったり暴力だったりと色々。そんな中出てきたISは彼らにとって都合のいい力でありながら搭乗者を限定され数を用意出来ない厄介な代物だった」

「そこで連中が考えたのが『スコール・ミューゼル』という女性のコピー。既に死んでいた彼女の遺体でISが起動する条件、ISの起動条件の絞り込みを検証。…胸糞悪いが最終的に俺達が戦った『スコール・ミューゼル』に人工皮膚はあっても生身の部位は一切存在していなかった。そこまでやって命令を聞かせるために機械にリミッターまで仕込んで一緒に作った監視衛星とリンクさせて活動しやすくさせるまでがワンセット」

「さらにそこへ各国研究所で造らせていたクローンによる部隊を結成し戦力増強まで考えてたみたい。『ラウ・ル・クルーゼ』、『織斑 マドカ』と『ラクス・クライン』、そして『青木 実』もその計画のスタート地点として扱われるはずだった」

「だが俺とクソう詐欺により軒並み消滅。クルーゼさんにより幹部の1人は物理的に排除、他の幹部も『スコール・ミューゼル』自身の手で『ファミリアⅡ』に組み込まれ全滅。最後にあの作戦でそのスコールも全部潰して『亡国機業』という組織は消滅した」

「……説明としてはこんな感じかしら。ちなみに幹部の運営していた国や企業は既に頭が挿げ変わったうえで、新華君の手で黒い部分をIS委員会の闇と一緒に国連に叩き付けられたからお先真っ暗ね」

 

 

 

 

 

衝撃の事実が盛り込まれた説明に一同は、理解を後回しにして呆れた。その呆れは『亡国機業』へのものか、IS委員会へのものか、新華へのものかは定かではなかったが。

説明に合わせて流れていった資料も説明の終わりと共に消える。

 

 

 

 

 

「なんともまぁ、ここまで調べ上げたものだ」

「竹島基地を制圧出来たからってのもあるがな。データを消される前に簪が何とかしたのも大きい」

「……ぶい」

「(かわいい)それで、他に何か質問はあるかしら?」

 

 

 

 

 

簪のVサインを愛でながら刀奈は質問を促す。すると一夏が手を上げる。

 

 

 

 

 

「えっと、なんか有耶無耶になったけど『マドカ』っていうあの子と『ラクス・クライン』って子は結局のところ、どうなるんだ?」

「ん? ああ忘れてたな、スマン。あの2人はスコールやクソう詐欺程ではないが行動を制限させてCBに居る。無論ISは持たせてないし、MSにも近付けさせないよう配慮している」

「…会えるのか?」

「一夏?」

「俺、結局あの子と全く話さずに終わったから気になってさ。千冬姉のクローンって話だけど、あの子と千冬姉は違う存在だろ?」

「うむ」

「結局、何で俺に敵意を持っていたのかもよく分からないし、彼女がどういう人間なのかも知らないんだ。でも、何も知らないままっていうのはきっと寂しいことなんだ」

「会ってどうする?」

「うーん…。とりあえず話てみたいと思う。前に新華は千冬姉と相談しろって言っただろ」

「ん? 実にそう言っとけって口止めした覚えはあるが…そうだな」

「で、言われた通り千冬姉と色々話してみてさ。…俺らにもう出来ることが無くても、『織斑』って苗字を名乗ってるんだから家族になれるかもしれない。そう思ったら気になってさ」

 

 

 

 

 

一夏の言葉に新華は小さく息を吐く。新華は一夏の言葉が嘘でないと分かるから、その優しさというか、懐の深さというか、能天気さには呆れていた。

普通は自分に害意を持って武器を向けてきた者を懐に入れたりはしない。ただ、一夏からすれば身内のクローンであるから例外なのかもしれないが、それでも良い感情は持たないのが普通である。

最も、新華が預かっているという信頼があるからかもしれないが。

 

 

 

 

 

「まぁ会えるっちゃ会えるな。ただCBまで足を運んだ上で、面会時は面倒な手続きとIS含めた服装以外の全所持品を預けてもらうことになる」

「えっ!?」

「一応理由はちゃんとしたものだ。まず第一に、マドカとラクスの2名の安全を確保するためだ」

「安全? どういうことだ?」

「……大変ですわね、新華さんも」

「セシリア? 何か分かったのか?」

 

 

 

 

 

頭に?マークを浮かべたままの一夏は嘆息したセシリアに問う。

 

 

 

 

 

「そうですわね。この場合ですとCBという組織から見た彼女達と、血という貴族的な視点から見た彼女達、とでも言いましょうか」

「正解だ。まずCBという組織が作ってるMSは(表向き)ISに対抗して出来たものであり、それに関わる人員の多くはISとそれに纏わる女尊男卑によって元々の暮らしや大切なものを奪われたのが多い。そこにISでテロってた奴入れたら袋にされるわ」

「じゃあ、何でCBに…」

「その理由は2つ目の貴族的視点にも関わってくる。まぁ貴族的視点でもあり商人的視点でもあるが…」

「この場合、新華さんの言う商人的視点というのは人脈のことですわね。ただ、後者はあまり効果が無いので普通は選択肢に入れないのですけど」

「えっと…」

 

 

 

 

 

一夏の、というか一夏と箒、鈴、ラウラの4名は理解出来ずにいた。

…こういう時、同じ視点に立てるセシリアは貴重な存在だと思わずにはいられない新華だった。

 

 

 

 

 

「まぁ要するに、CBに居る時の危険よりCB以外に居る時の危険の方がデカイって話だ。それに俺の目が光っている間は手を出させるつもりはないし、社会復帰? 出来ると判断したらある程度自由にさせるし」

「何で疑問系なんだ」

「元々表社会の人間じゃないから復帰と言えるのか。とりあえず倫理と一般常識を叩き込んで社会に出ても大丈夫なように教育しないとイカン」

「ああ、そういうの得意そうだもんな」

「…若干1名その必要も無さそうだが、まぁそういうことで。ああ、千冬さんも同様なんであしからず」

「分かっている」

 

 

 

 

 

だいぶ前からマドカのことを気にしていた実は、彼女がCBに移ってからというもの頻繁に会いに行っていた。その際、きちんとW0を外し新華の言った条件を遵守している。

対するラクスには、会いに行く者が皆無だったので実にマドカと会った後でいいからと意識調査を頼んである。時間がある時は新華自身も足を運び経過を確認している。が、育った環境と本人の大元の影響か外に出すには不安が残りまくりなので、新華が持つ悩みの1つとなりつつあった。

最も最終的にはマドカと実、真やスウェンに任せるかとか考えているが。

 

 

 

 

 

 

「さて、マドカに関してはそんなもんか。他に質問は?」

「んー」

「今思いつくことはありませんね」

「無いようなら、これにて解散。みんな、協力ありがとうね」

「報酬の手続きを忘れるなよー。ああ、でも一夏は千冬さんと一緒にやれ。うっかり書類を紙ごみに出すとか無いようにな」

「さ、流石にしねぇよ!」

「ハハッ、授業初日に教科書捨てた奴がぬかしよるわ」

「ああそれと、篠ノ之ちゃんは残って頂戴」

「? 分かりました」

「簪ちゃん、本音ちゃん、お願い」

「うん…」

「わかりましたー」

 

 

 

 

 

刀奈に呼ばれ箒が生徒会室に残り、一夏含めた専用機持ちと簪、本音が外に出る。千冬と山田先生も部屋の中で待機したままなのが気になる箒だったが、寧ろ先生2名の用件はここからであった。

 

 

 

 

 

「さて、篠ノ之ちゃんに残ってもらったのは、あなたのお姉さんである篠ノ之博士についての重要なお話があるからよ」

「姉さんの、ですか」

「ええ。…さっきちゃんと後で教えるって言ったでしょ? あまり必要以上に情報を漏らす真似はしたくないのよ。だから簪ちゃんと本音ちゃんに生徒会室から離れるよう織斑君達を誘導してもらっているし」

「それで2人が出て行ったのですか。しかし、では一夏達にも教えるな、と?」

「出来ればそうしてもらいたいのだけれどね。まぁ最後までお話しを聞いてから、ね。織斑先生、お願いします」

 

 

 

 

 

刀奈から会話の振られた千冬は、ようやくかというため息を吐いた。今まで居たのは作戦参加者という以上に、この要件のためであった。

 

 

 

 

 

「さて、ようやく話を始められるな」

「千冬さん。姉さんは、今、どこに?」

「それを教えに行くんだ。ただ、その前にやることがある」

「篠ノ之さん、この書類をよーく読んで理解してください」

 

 

 

 

 

そう言って山田先生から箒に渡された1枚の書類。そこにはびっしりと文字の羅列が並んでおり、その内容が『銀の福音』の時のそれより情報漏れを警戒しているのに気付いた箒は眉を顰めた。

 

 

 

 

 

「これは…」

「束と会いたいならそれにサインしろ。出来なければ、一夏達とあいつのことを忘れて一夏達のところへ帰れ」

「………」

 

 

 

 

 

皆の視線が集中する中で箒は、書類の記載事項を何度も読み、サインした。

 

 

 

 

 

「…いいんだな?」

「ええ。私は姉さんに会って話しをしないといけないんです。それに、ここに書かれているのは『銀の福音』の時より厳しいくらいですから」

「そうか。なら、行くとしようか」

「行くって、姉さんのところへですか? 行けるのですか!?」

「ああ」

 

 

 

 

 

箒の驚きの声に肯定し、一同は生徒会室から移動する。以前『ワールドパージ』時に通った地下への通路を使い、更に深く潜っていく。

エレベーターが止まったところで出ると、薄暗い通路が目に入ってきた。

 

 

 

 

 

「ここは…」

「ああ、箒、試しにここら一帯をスキャンしてみな」

「? ………何だ、ここは」

「結構大変だったんだぞ、ここの工事手伝うの」

 

 

 

 

 

新華に言われた通り『紅椿』のハイパーセンサーで周囲を確認した箒は驚愕する。割と深く降りてきたと思ったが、それ以上に現在位置が地面の中にあったことに驚いていた。

それと同じ理由のせいか、目の前の通路も見通すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

「どういうことだ?」

「これが俺ら一同の疲労の理由だ。ここの工事にMSも使ったし、GNステルスの技術も盛り込んであるから電子機器による発見はまず無理になってる」

「ここまでしても政府は心配なようでな。ここは、監視員2名と我々、学園長の許可が無い限り立ち入ることは出来ん」

「例外として、飯持ってくる食堂のオバチャンくらいか? オバチャンも監視員が居ないと入れないけど」

「それ以前に、あの書類にサインしないと存在すら教えてもらえないし、知っても大丈夫という認定されないと書類すら発行してもらえないしね」

 

 

 

 

 

そう説明されながら通路内を歩き、扉の前に着く。

 

 

 

 

 

「ここに、姉さんが」

「ああ」

「私たちはここに残ってますので、織斑先生と篠ノ之さんは入ってください」

「新華は、入らないのか?」

「やなこった。2人で行ってきな。俺が行くと面倒ごとになりかねんし」

「そうか…。分かった」

「山田先生もここで一緒に待ちましょうか」

「そうですね。お邪魔するのも悪いですし、そうさせてもらいますね」

「じゃあ、行ってきます」

 

 

 

 

 

厳重に掛けられた認証ロックを解除し箒と千冬が扉の向こうに入る。新華達は扉の前で箒と千冬が戻るのを待つ。

 

 

 

 

 

「これにて本当に一段落、ってところかな?」

「そうね。もう緊急性のある事は無いからゆっくりしましょ。ここのところ働き通しだったもの」

「あー、でも俺らCBはMSの発表とかあるから…」

「青木君も大変ですね」

「まー仕方ないですよ。いい加減機密にしておくのも限界ですし、利益上げないとウチの子供連中も養えませんから」

「そういう先生も大変だったでしょう?」

「ええ。ですが生徒の前くらいはちゃんとしないと。織斑先生も頑張っていますしね」

「生徒会も次期会計候補を見繕っておかないといけないわね。そう考えると、やることはまだあるわね」

「流石にまたデカイ戦いは無いだろうけどな」

 

 

 

 

 

長年の懸念事項だった『亡国機業』が崩壊したことで安心している新華達。それに伴いCBはMSの発表を予定しており、新たなステージに立とうとしていた。同時に『デュノア社』とも技術連携を行い予定であり、また雇用募集も始めようと考えてたりと精力的に活動予定であった。

しかし命を掛けて戦うよりマシだ、と皆が思っていた。

 

 

 

 

 

「明日からの授業は、また寝て過ごしそうだ」

「織斑先生に起こられるわよ?」

「いつものことだな」

「あ、あまり寝ずに授業を受けてもらえると先生としては嬉しいんですけど」

「分かっちゃいるんですがね。CBが安定するのはまだ先になりそうですし、厳しいと思います」

「夜も夜で体力を使うものね」

「えっ?」

「おい」

「お嬢様?」

 

 

 

 

 

刀奈の一言でその場の空気が凍る。事実なだけに新華は何も言わなかったが、察した山田先生は顔を真っ赤にさせた。

 

 

 

 

 

「は、破廉恥です!」

「コイツに言ってください。大体の元凶はコイツです」

「あら、いっつも寝る時は離さない人が言うのかしら」

「最初に簪とシャロをけしかけて逃げ場を塞いだのを忘れたとは言わせねぇ」

「お嬢様、青木君、いい加減にしてください。シバきますよ…?」

 

 

 

 

 

ぎゃーすぎゃーすと緊張感も無く騒ぐ声が薄暗い通路に響く。部屋の中までは聞こえずそれ以外何も無く薄暗いが、その場の空気は明るかった。

 

 

 

 

 

 


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