IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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166話目。ラストスパートです。

正月イベと言いつつ作品内で述べる理由で正月というより忘年会のような内容になってしまいました。

あとオルフェンズくっそ面白いです


年始の回想

 

 

 

 

 

 

---1月4日

 

あの作戦から8日後。

帰還後にIS組を交えて行われたCBでの大宴会を経て、平和が訪れていた。

新華を始めとする一部のCB社員は作戦の事後処理に追われていたが、12月30日~1月5日は休業日として定めており、例年通りCBはその全ての業務を停止していた。

 

 

 

 

 

「…ここは相変わらずだな」

 

 

 

 

 

そんな中、新華は更識家と共に初詣を済ませCBに帰宅する途中だった。既にCBの皆は最寄の神社で済ませており急ぐ必要も無いので、久しぶりに寄ってみていた。数年ぶりに来たこの場所は、新華から見て何も変わっていなかった。

人気のない敷地内でサヤカと時間を潰す。

 

 

 

 

 

「いつぶりだろうな」

「お祭りにも来てませんでしたしね」

「あー、そうだったそうだった。数ヶ月前のことなのに懐かしく思えるなぁ」

 

 

 

 

 

サヤカと新華は、1月1日から刀奈と共に『更識』として各所へ挨拶回りを行っていた。『更識』は暗部と一言で表せるが、非公開国営諜報機密組織、ないし旧家と言った方が正確なくらいで、年末年始は色々と行事やらパーティーなりに参加しないといけなかった。

東京で行われたパーティーを終えて帰宅する前に寄った、という次第である。

 

 

 

 

 

「しかし、刀奈さんと簪さんを置いて帰ってきましたけど、いいんでしょうか?」

「まだやることがあるって言われたし、手伝おうにも虚さん達に追い出されちゃな。ま、ゆっくり出来る時間があると考えるべきだろ」

「急ぐ必要もありませんしね」

「そういうこった」

 

 

 

 

 

2人で敷地内の木の根元に座り込み一息付く。

 

 

 

 

 

「………」

「…何か流しますか?」

「あー、いや、いい」

 

 

 

 

 

外の音を遮るようにヘッドホンを付けて時計を見る。シャルロットがくれた時計は正確に時間を刻んでいた。

そうして両手を開いて見る。

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 

 

 

 

何を言うでもなく、何も考えずぼーっとする。

 

 

 

 

 

「………暇だな」

「明後日からまたしばらく忙しくなりますけど、今日明日は予定無いのでそうなりますね」

「ハロ達は3人に持ってかれたから更にな。貯め撮りしてDVDに落としてもらった映画も、再生出来なきゃ見れないし」

 

 

 

 

 

現在ハロ3機は刀奈、簪、シャルロットの3名がそれぞれ所持している。持って行ったときの理由はそれぞれだが、一番の理由は新華に仕事をさせないためである。業務を停止させているCBは警備科を除き全館閉鎖中であるため仕事を取りに行くことも出来ない。しかしハロOは新華専用自走式バックでありノートPCなので、予めCBの社長室から送ったデータが入っていたりする。

もっとも、シャルロットだけは日本国外への帰還なので寂しさを紛らわすという理由があったが。

 

 

 

 

 

「……随分と、遠いところまで来たなぁ」

 

 

 

 

 

ふうっ、と息を吐き新華は手を握りこむ。

 

 

 

 

 

「えっと、あれから何年だっけかな…?」

「何の話です?」

「俺が『俺』になってからの話。えっと中3の時だから15の時で、死んだのが19だろ? 今が16だから20年か? 20年かぁ」

 

 

 

 

 

視界を地面から空に移す。今までのことを思い返そうとしたら、あくびが出た。

 

 

 

 

 

「ふあああああ…。まぁ、本当に色々あったな」

「私が『私』に成ってから1年も経ってませんけどね」

「そういやそうだったな。ずっと一緒だったから意識しないが、まだ1年経ってないのか」

「はい」

 

 

 

 

 

しみじみとサヤカと雑談する。今現在こそ暇があるが、6日以降はCBも業務を再開しやることが山積みである。

今までのことを振り返るのに今の時間はもってこいだった。

 

 

 

 

 

「パラベラムになるまでは、あんま思い出したくないな」

「誰の目から見ても酷いですよ」

「でも、あの時にさ。最初の父さんと母さんに相談していたり、クラスメイトや先生の誰かに助けを求めていたら、何か変わっていたのかな?」

「変わっていた……と、思いたいですね」

「全くだ」

「……虐めの実行犯と2組目のご両親は」

「今となっちゃ至極どうでもいい。まぁ、許すことは出来んが、それだけだ」

 

 

 

 

 

新華はそれらの顔を既に忘れていた。覚えているのは大学での友人、パラベラム世界で見知った者達、今の世界で出会った人達の、多くの顔である。

 

 

 

 

 

「あの時に『センパイ』から錠剤をもらって、新しいスタートを切ったんだよな。パラベラムになって先輩方、志甫、一兎、そして彩香先生に出会って。………沢山戦って」

「はい」

「嫌なことも、辛いこともあったけど、楽しかった。無我夢中に生きて、殺して。それまで知らなかったことも沢山知ってさ」

「はい」

「沢山、沢山掛け替えのないものを手に入れて。…失って。彩香先生の手伝いをしながら俺も先生のように孤児達に勉強を教えて。『お兄さん先生』なんて呼ばれることもあって」

「はい」

「……別れの挨拶が出来て、本当に良かったと思う」

 

 

 

 

 

パラベラム世界で紡いだ絆は消えることは無い。だが、生きている間に会う、ないし行くとこはもう無いだろうと感じていた。

後悔は沢山したが、未練はもう無い。今生きている世界で得たものも、背負っているものも捨てられない大事なものだった。

 

 

 

 

 

「で、閻魔様にこの世界へ転生させていただいた、と」

「魂からP・V・Fは取れるようになったのでしょうか?」

「なったんじゃね? で、この世界に父さん母さんの子供として生まれて、小学校で一夏と箒と出会ったわけだ」

「その頃はまだ私の前身は居ませんでしたね」

「受け取ったのそこの道場の裏だったっけか。誰も居なかったから都合良かったけど、そういや最初は『ダブルオーガンダム』だったな」

「そうでしたねぇ」

「で、起動だけやっておいて『白騎士事件』に備えて…ってそうだそうだ。一応『白騎士事件』っつうのが起きるってことは聞いてたんだったな」

 

 

 

 

 

今になって閻魔から教えてもらった出来事と、それに纏わる行動を思い出した新華。

自身の介入で事件の名称が変わったことに軽く笑う。

 

 

 

 

 

「『白騎士・蒼天使事件』ねぇ。『ダブルオーライザー』になってたら白天使とか言われてたかな?」

「それ以前に『ダブルオークアンタ』も蒼と言うには白地が多いと思うのですが」

「肩のシールドとフルセイバーが青かったしな。やー懐かしい。『乾燥者(デシケーター)』思い出して飛ぶ度に吐きそうになってたのも良い思い出だな」

「……吐かれなくて良かったですねぇ」

「まったくだ。で、正体隠してクソ兎は世界から逃げ出して、俺はそれに拉致られて週間世界裏路地の旅と」

 

 

 

 

 

新華が『裏路地の死神』と、今では聞かなくなった都市伝説になった切っ掛けである時間。そしてCB設立までの空白期間。

 

 

 

 

 

「あまりに頻度が高いもんだから契約という形にして報酬を出すようにしたんだったな。箒が居なくなって、弾達と出会って、鈴と出会って。その生活が、およそ5年か?」

「報酬として出された金銭はどちらから捻出されたのでしょうね?」

「確か両親の口座に振り込まれていたIS関連技術の特許で発生した金だった気が。マニュアル主義の日本で無かったら払われてない金だっただろうけど」

「…ご両親に一言でも断りを入れているとは思えないのですが」

「察しろ」

 

 

 

 

 

なるべく『Evolveクアンタ』を展開せずGN粒子によるステルスをフル活用し、治安が悪い国や地域に行ったことも多かった。パラベラムの能力で人を助けるために人を殺したこともある。その死者が発見された結果が『裏路地の死神』という都市伝説だが。

 

 

 

 

 

「で、結構世界回って沢山人と出会って、今のCBの人たちや子供達と出会って。中学と『我輩は猫である』とCBを行ったり来たりの忙しい日々」

「刀奈さんに呼び出されたのはその頃でしたか」

「ああ、そうそう。実の居た研究施設を消した後だったな。思えばあの時からの付き合いなわけだ。何気に簪とも当時会ってるし」

「もう当時からロシアの国家代表でしたっけ?」

「そうそう。最も機体は別の名前だったけど。知ってるか? 元々『ミステリアス・レディ』に使われてるナノマシン技術。元は旧大日本帝国が作ってたものなんだぜ」

「そういえばそうでしたね」

 

 

 

 

 

雑談感覚で国家機密を口にする新華達。人が居ないのをいいことに、普段言えないことも出てくるのだろうか。

 

 

 

 

 

「まーそんなこんなで、受験シーズンは勉強しつつメインをCBにして動いていたな。50年近く学生やってたお陰で学力に困らなかったのはマジでありがたかった」

「ご主人様は勉強好きですものね」

「好きっつーか新しい知識を身につけるのが楽しいんだよな。あとガンダムとか映画以外以外で勉強くらいしかやること出来ることが無かったというか」

「…努力が実りましたね」

「まー俺は神様でないし、知らないことは沢山あるから今となっちゃ別にどうでもいいんだけどな。とと、話がずれたな。えっとどこまでだっけ。ああ、受験のとこだったか」

 

 

 

 

 

ずれた話題を元に戻そうと色々思い出す。受験といえば忘れられない出来事が起きたエピソードが存在していた。

 

 

 

 

 

「あー、受験といえばそうだ。一夏のIS起動」

「そしてご主人様の正体バレですね」

「あの時が転換期だったな。なんというか色々と動き出したっつーか、動きが早くなった? そんな感じだな」

「入学まで全方面で忙しかったようですからね。……そこから休憩無しで走り続けたら、そりゃ倒れますよ」

「しゃーないやんけ。で、あとはIS学園とCBを行ったり来たり。クソ兎とは袂を分かって……一夏のフラグ建築っぷりと成長っぷりを見ていたな」

 

 

 

 

 

そこまで言ったところで、道場の方から見知った顔が歩いて来た。

 

 

 

 

 

「こんな場所で何をしているんだ…」

「よう。明けましておめでとう」

「ああ、明けましておめでとう。…雪子おばさんから聞いて来てみれば、生徒会長達と一緒じゃないのか」

「明けましておめでとうございます。皆さんやることがあるというので、先に帰ることになったのです」

「そうだったのか」

「そっちこそ一夏は一緒じゃないんか」

「なっ! …んん”っ、一夏なら千冬さんと家に居る筈だが」

「それもそうか」

 

 

 

 

 

この時間に竹刀でも振っていたのか、箒は剣道着の上にコートを羽織っていた。

新華が語っているのに気づいた箒の叔母の雪子が、箒を呼んだのだった。

 

 

 

 

 

 

「で、何をしているんだ?」

「いや何、ちょっと時間が出来たもんだから今までのことを振り返ってみようと思ってな。ちょうどIS学園に入学したあたりまで終わったところだ」

「そうか。…1年未満で随分と濃い時間になったものだ」

「本当にな。どうだい、箒も休憩がてら付き合わないか? その様子だと朝から竹刀振ってたんじゃねぇの?」

「ああ。そういう新華は、もう剣道をやらないのか?」

「ん、そうだな。とくに再開しようとかは考えてねぇな。そんな暇もまだ出来ねぇし」

「一夏と一緒に剣道部に顔を出すだけでもいいだろうに」

「……箒テメェ、さては一夏の方が狙いだな?」

「………」

「こっちを見ろや」

 

 

 

 

 

目を逸らしんんっ、と喉を鳴らして新華が座っている木に寄り掛かる。冬の寒さで流していた汗が引いていく。

 

 

 

 

 

「それで、今までの振り返りか」

「箒はIS学園に行くまで各地を転々としてただろ? 何か面白いこと無かったのか?」

「無茶を言うな。右も左も知らない土地で知り合いが誰も居ないんだぞ。それに今でこそ友人は居るが、あの時の私は荒んでいて誰かと仲良くなろうと考えていなかった」

「剣道は続けてたんだろ」

「剣道部には入っていた。どの学校でもな。多くの人との試合は良い経験になったが、それだけだった」

 

 

 

 

 

当時の箒は彼女自身が言った通り荒んでおり、『篠ノ之』の名や剣の腕により寄り付く人間は居なかった。面白半分で近付く者は居たが、箒本人により撃退されている。逆恨みで報復しようとした馬鹿は政府の保護プログラムにより叩き潰されていた。

ちなみに、その保護プログラムで箒を実際に守っていたのは『更識』だったりする。

 

 

 

 

 

「あー…」

「正直、昨年度までの生活は学業か竹刀を振るう以外に何も無かったからな」

「なるほどな。…何もしてやれなくて悪かった」

「お前はお前で色々と大変だったんだろう? 姉さんのこともあるが、今となってはあまり気にしていない」

「…ありがとう。しかし一夏がIS学園に来てくれてよかったな」

 

 

 

 

 

箒がずっと1人であったことに罪悪感を覚えた。1人の寂しさは新華自身がよく分かっていた筈なのに放置していたことを恥じた。そんな自分を許してくれた箒に感謝し一夏の名前を出す。

箒自身が1人でも剣道を続け頑張ってこれたのは、言うまでもなく一夏の存在を意識していたからである。まぁ初恋の相手であるのと同時に同門で共に競い合う仲だったのだから当然なのだろうが。

 

 

 

 

 

「だが結局それも姉さんの仕業だったんだろう?」

「まーそうだが、思えばトイレ行った後のアイツの行動にも結構問題あったしな」

「何?」

「普通さ、受験票に受験場所の詳細が書かれてるからさ、それ見れば場所の検討は付くやん? 常識的に考えて部屋のある階層を回ればちゃんと部屋に着くわけで」

「(そうなのか)」

 

 

 

 

 

箒は受験生の苦労を知らない。保護プログラムでIS学園に放り込まれた時に行ったのは『受験』ではなく『適性試験』と『学力検査』だけであり、もし学力が足りなければ政府から課題が出されていた。

 

 

 

 

 

「まぁ百歩譲って、それでも迷ったのはいい。割と他にも迷ってた奴居たからな。でもさぁ、誰も居ない部屋に勝手に入って、そこにあったISに勝手に触れるとかさぁ、普通やらねぇって常識的に考えて」

「…まぁ、うむ」

「糞兎の手引きは確かにあったけど、やっぱアイツはそういう星の下に居るんかね。まぁ、これからも苦労するだろうけど、頑張れ」

「…ああ」

 

 

 

 

 

新華は色んな意味を込めて頑張れと言ったが、箒はどこか上の空だった。一夏の事もあるが、姉の事が気になっているのだろう。

苦笑して新華は話題を戻す。

 

 

 

 

 

「IS学園に入学してからでいいんだっけ」

「はい。入学直後からですね。今のお話の流れを考えますとオルコットさんとの決闘からが適切でしょうか」

「そっからね。あの時はセシリアが俺らに突っ掛かってきたのが最初だったか」

 

 

 

 

 

サヤカの言葉に当時のセシリアを思い出す。今の彼女は一夏のお陰で嫉妬深いが淑女として成長しつつある。

 

 

 

 

 

「ああ、あの模擬戦のことか。一夏と『白式』が初めて戦った」

「そうそう。お前が一夏と剣道に打ち込んでいた」

「…あの時の事を思い出すと新華に圧倒されたのを思い出すのだが」

「あったなぁ、そんなことも。箒が一夏を鍛え直してセシリアと対決したんだったな」

「その後にご主人様との対戦でしたね」

「あの時はハンデがあったにも関わらずセシリアに同情したな。結局1発も命中しなかったのだから」

「流石に年季が違うっての。今じゃあそこまで圧倒出来んけども」

 

 

 

 

 

現在ではセシリアに限らず皆腕を上げているので、気を抜くことは出来ない。

最も負ける気はしない新華だが。

 

 

 

 

 

「あの後は結局一夏がクラス代表になりセシリアは、一夏に好意を寄せることになったな」

「そうそう。それでパーティーなんかもやって」

「あの頃の新華は、なんというか今と違って言動に軽さがあったな。色々と」

「あー、確かにそんなキャラだったな」

「口の悪さだけは変わらないが」

「それはもう性分だ。そういやあのパーティー、俺は途中で抜け出したんだよな」

「……そういえばセシリア以外の専用機持ちは更識がIS学園に居た筈だが、あの時はどうしていたんだろうな」

「おお、そうそう。あのパーティー抜け出した後に簪と本音さんが居た整備科に行ってたんだよな」

 

 

 

 

 

ほとんど一緒に居るのが当たり前となっている刀奈、簪の更識姉妹は、当時箒や一夏達と面識が無かった。

初めて顔を合わせたのはパーティー後の姉妹喧嘩の後である。

 

 

 

 

 

「あの時はギリギリで『打鉄弐式』が完成してなかったから、簪は作業中でね。様子を見に行ってたんだ」

「そうだったのか? だから、完成したあの時期に特訓への参加を言ってきたのか」

「正確に言うと、楯無と仲を戻してからだな。知らないだろうが、あの2人は俺が会う前から仲違いしててな。まぁ、『弐式』が完成した後に決闘というか模擬戦をしたんだよ」

「決闘ということは、生徒会長と1対1か? 結果は…」

「流石に楯無が勝った。でもその後はお前らの知る通り仲の良い姉妹に戻ったってことで察してくれ」

「そうか……」

 

 

 

 

 

箒の頭に自分の姉の顔が過ぎる。今束はどうしているのか気になった。

 

 

 

 

 

「…奴に関しては色々と手を打ってある。まぁ、悪くはならんよ」

「…本当か?」

「今はまだ確定してないから詳しいことは言えんが、学園に皆集まった時に言う」

「分かった。…それで更識が加わった後、鈴が来たのだったな」

「そうそう。丁度クラス対抗戦直前で宣戦布告してきたんだった。で、一夏が約束の意味を間違えてて喧嘩になって」

「対抗戦で1回戦から当たり、戦っていたところに無人機が3機現れた」

「あの時は箒が丸腰で行っちまうもんだから焦った焦った。間に合ったからいいけど」

「う……あの時は本当に済まなかった。軽率だったと反省している」

「ホントにやめてくれよああいうのは。心臓に悪いから」

 

 

 

 

 

新華は箒を守りつつ怒鳴りつけ、結局3機とも撃破し1機のコアを頂戴していたのを思い出す。そのコアは既に解体され技術は『ジンクス』等に使われた。

 

 

 

 

 

「んで一夏と鈴が仲直りして、その後にシャロ(・・・)とラウラが編入してきて。……ビンタから始まる恋だったな」

「ああ。………ん?」

「どうした?」

「いや、シャロ、だと? シャルロットの事か?」

「おお、そうそう。いやほら、一夏はシャルって呼んでるけど付き合ってる俺はシャルロットって名前をフルで言ってたからさ。本人が帰国する前にな」

「そうか」

 

 

 

 

 

新華はシャルロットの呼び方を『シャロ』としたが、これは一夏の呼び方との区別と『シャルル・デュノア』ではなく『シャルロット・デュノア』なのだという意味を込めていた。

 

 

 

 

 

「その後は…ああ、P・V・Fでラウラをボコった時もあったな」

「確かAICを無効化して転倒させていたが、パラベラムという能力者だから出来たのか?」

「まーそうだな。パラベラムに目覚めたら最初に発現するのが『イド・アームズ』だから、トラウマシェルさえ展開できれば誰でもAICから抜けれると思う」

「そうなのか…」

「あと対構造物鉄鋼弾は絶対防御で防げるけど、精神系通常弾は絶対防御反応しないから、危なくて実戦以外で使えないんだ。間違えて頭にでも当てたら死ぬし」

「それは、何故だ?」

「ISに自我が存在し、その自我が精神というものを知らないから、だと思う。知ってても今度はパラベラムを知らないと防げない気がするけど」

「…姉さんなら分かるだろうか」

「教えないから分からないだろうよ」

 

 

 

 

 

新華はパラベラムのことを表に出すつもりは全く無い。だが事情を知っている専用機持ちには、聞かれたら話そうとは思っている。

 

 

 

 

 

「その後はタッグマッチだが、その前に俺はフランスでシャロの実家問題を片付けてたな」

「そういえば、そうらしいな。我々は大まかにしか知らないが、大立ち回りだったんだろう?」

「まーな。で、タッグマッチでは箒はラウラと組んでたな」

「まるで狙っていたかのような組み合わせで、今では不正を疑いたくなるくらいに出来過ぎていた」

「本当にな。試合が始まった後は、普通に考えて当時のラウラが連携などするはずもなく」

「一夏とシャルロットの連携の前にあわや撃墜、というところで『VTシステム』が起動。結局トーナメントは中止になり新華が介入」

「そして、私が産まれた」

 

 

 

 

 

当時その場面を見ていた者は、誰一人として忘れることは出来ないだろう。一夏とラウラの意思を共有する為に広がった領域を。ただのシステムでしかなかった筈の『VTシステム』が暴れ、天へと伸びるGN粒子。光が天を貫き現れた幻想的なクアンタ。

 

 

 

 

 

「確か『トランザム』の本来の使い方だったな。GN粒子とは、一体何なんだ」

「コジマの上位互換で色々と凄い粒子だな。しかしまだあれから半年強しか経ってないのか…」

「そうですね。あの日から私という命が始まり、今日まで生きてきました。これからもご主人様と、そして多くの人と歩んでいくでしょう」

「ははっ、そうだな」

「しかし、何故サヤカはその、新華の先生の姿を取ったんだ? 他にも形はあっただろう」

「当時ご主人様の中で最も強く意識されていた人だったので。そちらの方が受け入れてもらい易かったと思ったんです」

「まぁ、そうだろうな」

 

 

 

 

 

宮田 彩香先生は新華の一種の目標であり、彼が尊敬する大人の中でもトップに入る。今でこそ最も強く意識しているのは3人に変わっているが。

 

 

 

 

 

 

「そこから俺はサヤカ連れて行動するようになって、ラウラも一夏に好意を寄せたと。……来年度はもっと増えるんだろうな」

「…頭が痛いな。どうにか出来ないのか?」

「知らん。俺の管轄外だ。誰かがさっさとくっついて見張ってるのが一番なんじゃないか?」

「出来るのならな」

「まぁ、な……頑張ってくれ。『紅椿』がある分、舐められるようなことは無いだろうからさ」

「『紅椿』……そうだな」

「………箒、『紅椿』を受け取ったことに後悔しているのか?」

 

 

 

 

 

汗が引いたのか箒はジャケットのチャックを閉め待機状態の『紅椿』に触れた。感情の揺れを感じた新華は問いを投げた。

 

 

 

 

 

「………半々、だな。この『紅椿』自体は良い機体だし私の思い通り以上に動いてくれたし守ってくれる。そこに一切の不満も何も存在しない。だが…」

「だろうな」

「だが……私の焦りと驕りの象徴でもある。覚えているだろう、臨海学校で出撃して一夏が撃墜された時のことを」

「勿論」

「我々が居なければ、お前が1人で出撃して終わりだったんだろうな。今はそう思う」

「それよりも俺はお前らが会話して動き止まった方にびっくりしたぞ。流石にアレは焦った」

「それが半分の後悔だ。私は、大事なものを独り占めしたくてズルをした。私の力でないのに、他力本願したくせに自分の力だと勘違いして大切なものを傷つけた」

「………」

 

 

 

 

 

臨海学校に行った先で発生した『銀の福音(シルバリオン・ゴスペル)』迎撃戦。箒は姉に頼み『紅椿』を製作してもらい、新華が束に協力した最後の戦い、一夏が落ちた戦い。

最終的に撃破し一夏を始めとした専用機持ち達が一皮剥ける結果となった、あの戦い。

 

 

 

 

 

「ISそのものから降りようと、逃げようと思った。でも私は降りなかった。鈴音に言われたのもあるが、最後まで自分のしたことに責任を持とうと決めたんだ。でなければ」

「でなければ?」

「鈴音やセシリア、ラウラのように誇りを持って力を持つ者と競える筈が無い。私は一夏を傷つけたのと同じくらいに、皆の誇りを貶していたんだ」

「…」

「専用機を持つという意味を私は、『紅椿』を手に入れるまで理解していなかったんだ。実に情けないと思う。だからせめて、これからは……お前が言ったように『大人』になりたい、いや、ならなければならないんだ」

「…そっか」

「ああ」

 

 

 

 

 

新華は、箒の成と覚悟を知り、何も言えなかった。何かを言おうものなら、それは箒の覚悟を貶す行為であったから。

本当の意味で強くなった箒に想われる一夏は幸せ者だと思い笑みが浮かぶ。

 

 

 

 

 

「臨海学校の後に夏休みを挟んで生徒会騒動が起きたんだったな」

「その夏休みにCBに誘われMSを知ることになったが、今後はどうするんだ?」

「とりあえず来年度頭にMSの正式発表することにはなった。スポンサーからの要望でな」

「スポンサー?」

「防衛省。発表後は自衛隊にパワードスーツとして、大々的に卸す予定だ」

「………また随分とビッグネームが出てきたものだ」

「そうでもしなきゃ日本国内で兵器の開発なんて出来やしねぇっての。あっ、これオフレコで頼むな」

「分かっている」

 

 

 

 

 

夏休みが終わり2学期が始まった後は、箒の『紅椿』に注目が集まり彼女への陰湿な虐めが起きた。そして新華はそれを、辛いのを分かっていて静観していた。

 

 

 

 

 

「それで、夏休みが終わってからしばらくしたあたりだったか。虐めが発生したの」

「ああ…」

「静観してたのは申し訳ないと思っている。だが俺がいつも通り潰したら、俺にも来るが箒自身への風当たりが強くなるし、表面上しか変わらないからな」

「それをどうにかするには、私自身が『紅椿』を持つに相応しいと納得出来るものを持たないといけない。そういうことだろう?」

「そう。前に一夏達相手に言ったが、俺達で助けて何も変わらなかったらお前は将来壊れていただろうし」

「将来、か」

「今はお前の所属と『紅椿』の研究やらは卒業まで保留になってるが、当時の時点では卒業後に争奪戦になるし、色々決まったとしてもクソ兎関連で身柄を狙われただろうしな。自衛出来なきゃ奪われて何も出来ないだろうし」

「そう、なんだろうな」

「最もその辺はもう安心していいが」

「? 何故だ」

「この間の作戦に参加したろ。アレで実力を示して元凶を捕らえたっつーケジメも付けた。そういうことになってる。あとお前さんの実力もいい感じに上がってるしな。来年辺りの行事でそれを示せばいい」

「だが、それでも止めない奴は出るだろう」

「そこまで来たらこっちで潰せるから。既にマークしてるのも居るし。あ、最初に箒の消しゴム盗んだ犯人も分かってるから安心しろ」

「………そうか」

 

 

 

 

 

最後の新華の言葉に何の感情も篭っていないことに、別の不安が沸いた箒だった。

当の新華は薄笑いを貼り付けて真っ黒いことを考えていたが。

 

 

 

 

 

「どうケジメを付けさせてやろうか」

「…まあ1組の皆は良くしてくれるし、あまり過激なことはしてくれるなよ? 2学期といえば学園祭があったな」

「ああ、あったな。俺らは『ご奉仕喫茶』で執事服着せられての営業だったけど」

「全員扮装していたのだから、それくらいいいだろうに。そういえば途中でお前の弟が来ていたな」

「ハロFを届けに来て、そのまま学園祭を見て回ってたらしいな。その先で敵に遭遇していたわけだが」

「思えばあの日に初めて『亡国機業』の人間を知ったのだったな」

「速攻で処したけどな」

 

 

 

 

 

IS学園で行われた学園祭。『シンデレラ』の途中で一夏が狙われ、犯人を新華が完膚なきまでに叩き殺した終わり方をする。

 

 

 

 

 

「あの日から俺は自分の手が汚れまくってるのを思い出して1人になろうとしてたな」

「まぁ、あのような惨状を見せられて平気でいられる訳もなく、軽くトラウマになったから当然だろう」

「んで授業ぶっちして屋上で昼寝して睡眠時間確保しまくって」

「それでもお前を見つけては話し掛け続けた生徒会長には、尊敬の念を抱くな。本当に最後まで押し続けて落としたのだから」

「『楯無』だからトラウマ云々は良いとしても、落とされたというか嵌められたというか。いやハメたのは俺だが」

「………下品だぞ」

「事実だし。ただ、視界は大きく変わったよ。前は戦って最後に守れりゃ死んでもいいかって思ってたけど、ぜってー老衰以外で死んでやんねー」

「また極端な…」

 

 

 

 

 

学園祭が終わった後の行事に『キャノンボール・ファスト』があった。行事自体は滞りなく終わったものの、その裏でCBの『亡国機業』奇襲を返り討ちにするという事が起きていた。

 

 

 

 

 

「学園祭の後といえば『キャノンボール・ファスト』があったな。箒は3位だったか」

「そうだ。ラウラと更識相手に全力を尽くしたのも鮮明に思い出せる。1位はシャルロットだったな」

「せやで。後で見たが上手いこと機体性能を発揮した勝利だったと思う。だがセシリアと鈴がなぁ」

「あの2人がどうかしたのか?」

「本人らから頼まれて鍛えてたんだよ。なのにあんな結果になられると、なんというかもにょる」

「もにょ…?」

 

 

 

 

 

その後は一夏の誕生日を挟んでタッグトーナメントが行われ、複数の無人機『ゴーレムⅣ』と『銃人』のシルエットを持つ対人無人機『ファミリア』による襲撃。

これを予想していた新華は被害を最小限に食い止めるため全力で戦い、生死の境を彷徨い一時的な記憶喪失に至った。

 

 

 

 

 

「まぁそれはいいとして、一夏の誕生日の後にタッグトーナメントがあったんだな」

「タッグトーナメント……あの日のことは一生忘れられんだろうな。お前が撃墜されるなど、誰が想像出来たか」

「完全にメタを張られた上で殺しに来てたからな、あの機体群。自分でも何で生きてるのか分からんレベルで出血してたし」

「…あの、サヤカの創造主とやらが手助けしたのやもしれんな」

「かもなー」

 

 

 

 

 

ISの兵装を生身で受けた本人は飄々としているが、当時は本当にIS学園にとってもCBにとっても一大事であり関係者各位に多大な動揺を与えていた。

新華本人は既に過去の出来事と思っているせいか笑って語るが、箒は笑えなかった。この場に更識姉妹とシャルロットが居れば笑っている本人を叱るだろう。

 

 

 

 

 

「今と比べると、あの記憶喪失していた間の新華は、なんというか子供っぽく感じたな。特に『EOS』などに触れていた時がそうだな」

「記憶『喪失』っつーか『封印』っつーか。この世界は平和だしあんま気を張らなくてよかったってのもあったし」

「チャンスとばかりに約3名が頑張っていたようだが?」

「害意は全く感じなかったし、言っちゃ悪いが当時は興味無かったからな。あの頃にCBに置いてきた電動ローラーシューズを思い付くくらい物づくりが頭にあった訳だし」

「…それはそれで、どうかと思うが」

「じゃあお前、記憶喪失したら女を侍らせるようになる一夏とか考えてみろ。気持ち悪くね?」

「それくらい女に興味があるなら苦労しない」

「………ああうん、それもそうだな」

 

 

 

 

 

一夏の鈍感という共通の悩み事に触れたせいで会話が途切れる。先程の会話の『約3名』の『約』であるサヤカが会話を進めるために軌道修正を促す。

 

 

 

 

 

「そのご主人様の記憶が戻る時も一騒動ありましたね」

「あったなぁ。彩香先生や一兎達と再開出来るとは露ほどにも思ってなかったし、『閻魔様』には本当に感謝してる」

「前世での新華の恩人や戦友達か。我々が持っていない雰囲気で殆どが、そのP・V・Fとやらを持っていたな」

「そりゃ映画部は俺らフライトの隠れ蓑だし、新任の彩香先生以外はパラベラムでないと入部出来なかったからな。入部していない人も居たが」

「(ふらいと?)」

「そういえばIS学園に映画部は無いんだよな。世話になった演劇部も無いし、生徒会じゃなければ作ってたかもなー」

 

 

 

 

 

IS学園は学ぶ対象のせいか運動系の部活動が多い。勿論文系の部活も存在するが、新華の居た映画部のようなある意味ガチなものは無い。

むしろ城戸高校映画部がおかしいとも言えるが、それしか知らない新華は物足りないものを感じていた。酷い無茶振りである。

 

 

 

 

 

「それはそれとして、あの事件も結局クソ兎の手引きでくーちゃんの『黒鍵』のワンオフアビリティー『ワールド・パージ』によるもの、って裏取れたからもう次は無いが」

「…また姉さんか。しかし、その『ワールド・パージ』とやらで、あの時に間に合わなかったどうなっていたのだろうな」

「あの時?」

「お前のところへ行く時だ。直前までお前の過去を、本人から案内されていたものでな」

「そんなIFがあったとすれば、完全にぶっ壊れてどうにかなっちまっていただろうな。そこまで俺の心は強くないし」

 

 

 

 

 

新華は救われて以降、更に自分の心を弱く感じることが多々あった。同時にその弱さを身内や友人に見せるようになり、悩みや弱音も話すことが多くなった。

 

 

 

 

 

「けど今は素直になれる相手が居るし、もう自分を追い込んで他人を拒絶することは無いだろうな」

「…幼馴染として本当に、新華の心を開かせたあの3人には敬意を抱くよ」

「話を戻して、次の大きな出来事と言えば何だったか」

「ご主人様、『大運動会』です」

「ああ、あれか。なんというか、平和に終わり過ぎてこれといった印象が薄い」

「それは危険な兆候だぞ」

「うーん、今まで戦い過ぎたか?」

 

 

 

 

 

少々自身に危機感を抱きつつ『大運動会』を思い出す。この行事は予め決められていたものではなく、一夏の部屋割りを決めるという理由であり、これまで起きた事件に関する情報規制で発生した鬱憤を晴らすというガス抜きが目的に企画されたものであった。

新華にとってかなり他人事なのも印象が薄い原因だったであろう。

 

 

 

 

 

「そういや当時生徒会でも言ったが、IS学園とCBの双方が安全に過ごせた行事って実は無いんだよな。どっかの馬鹿テロ組織が喧嘩売ってきたせいで」

「らしいな。来年度はその心配をしなくていいから楽じゃないか」

「そうだな。で、結局あの『大運動会』、今思うがガス抜き以外に意味無かったよーな」

「あれだけやって引き分けという結果は、流石にな。一夏への抜け駆けを誰もしない、という意味では最上の結果ではあったが」

「楽しめたからいいか。その後に………専用機持ち達のクラス変えをやったんだったな」

 

 

 

 

 

アメリカ軍原子力空母の件は出さずに思い返す。1年生のことなので刀奈は直接関与していないが、新華は1組から3組に異動となり簪とシャルロットは4組でクラスメイトとなっていた。

 

 

 

 

 

「私からすれば、新華が3組に行った以外最初と変わらないのだがな」

「だろうな」

「お前はどうなんだ? 我々と違い1人だが」

「そこまで困ることはねぇな。強いて言うなら実習の時の指導効率になる。とはいえ基本は既に先生が粗方終えてるから操作方面と戦闘技術か」

「そうか」

「この話題は盛り上がらんな。次」

「クラス変えの次と言いますと…『亡国機業』による同時襲撃ですね」

「街中で一夏に襲ってきて、同時にCBに返り討ちに遭ったときか。随分と時間が飛んだものだな」

「だってそれまで平和だったしな」

 

 

 

 

 

事実、『亡国機業』が行動を起こすまで新華は仕事しつつ学生生活を楽しみながら嫁達とイチャイチャしていただけであった(血涙

 

 

 

 

 

「そっちは町とトリィが被害にあったらしいな」

「一夏は周りを気にしていたが、向こうがお構いなしに暴れていたからな。おかげで駆け付けられたが」

「こっちは完全勝利で『アラクネ』も捕獲出来て万々歳。しかも『亡国機業』のIS搭乗者も潰せたことで戦力に差を付けられた。個人的にも一組織としても得るものが多かった」

「その女性は、一夏にも関係があったのか?」

「一夏というか、一夏と俺の2人を第2回モンドグロッソで誘拐しようとしやがった奴だな。もうアメリカで処刑されてるから出てこないけども」

「えらくあっさりしているな」

「というか今まで忘れてた。ぶっちゃけ自業自得だしどうでもよかったし」

「…そうか」

 

 

 

 

 

箒が呆れた声を出すが、彼女にとって顔も知らず一夏に危害を加えようとした人物が預かり知らぬところで罪を問われる、などということに関心はあまり無かった。

 

 

 

 

 

「で、IS学園の行事はハロウィンパーティーやって期末テストだったな」

「大きな行事はそれで終わり、冬休みの作戦が行われたんだな」

「そうそう。仮装コンテストもあって。盛り上がってたな。弾も虚さんと楽しめたみたいだし」

「あの2人は、私とあまり関わりが無いからよく分からないのだが、付き合っているのか?」

「んー、あと一押しって感じ? 互いの気持ちは十分に思えるけど、まぁ色々あるし? 弾は俺らの中で一般人オブ一般人だから付き合うにしても問題はあるし」

「そうなのか」

「頑張ってほしいよなぁ」

 

 

 

 

 

弾と虚の恋愛は『布仏』家のこともありいくつかの障害が発生すると思われる。だが弾の人間性は新華や一夏達が知っている。なんだかんだで大丈夫じゃないかと、思っていた。

 

 

 

 

 

「冬休みに入ったら……俺は実家に挨拶しに行ってたなぁ」

「実家? お前の家はCB内にあっただろう」

「俺じゃなくて3人の実家。クリスマスの直後にフランスを往復もしてたんだぜ」

「あの3人が持つ『カーバンクル』というロボットはその頃か?」

「ああ、クリスマスプレゼント。一応『トリィ』の系列になるのか? 龍形態を作るのに苦労したけど」

「あそこまでやる必要はあったのか?」

「戦闘で使ったから印象悪いかもしれんけど、あれ攻撃は一切出来ないからな? 質量を活かした体当たりくらいで、万が一の防御壁的な扱いを考えていたんだが」

「だから、そこまでやる必要はあるのか?」

「実際あったからいいだろ。………俺がどれだけ日常生活に危機感持ってたかの証明みたいなものかな」

「ああ、どちらかというと護衛、SPのようなものか」

 

 

 

 

 

『亡国機業』襲撃作戦で姿を見せた『カーバンクル』の龍形態。目の前で見ていたのを思い出した箒は新華の心配性の一端だと納得した。

そして、大まかかつ粗方に去年の出来事を振り返り終えた新華は、腰を上げて背伸びをする。

 

 

 

 

 

「ん、んん”-。まぁ『カーバンクル』はあの作戦で予想を超えた働きしてたし、龍形態は本当に予備というか本命じゃないからなー」

「一夏の『トリィ』と同じならペットロボの扱いでいいのだろうが、やはりやり過ぎだと思うぞ」

「もう作っちまったししゃーない」

「それはそうだが…。…あの作戦、姉さん達は、結局どうなるんだ?」

「ん? それに関しちゃ、まだ何とも言えねぇ。冬休みが終わったくらいに落ち着くだろうから、始業式に全員呼ぶと思う」

「それまでは待ってるしかないか…」

「色々あるんだ。色々な。しっかし俺ばっか喋っちまってた気がするな」

「それを言うなら、サヤカは殆ど口を開いていないぞ」

「あまり口を挟んで話題を途切れさせてもどうかと思いましたので」

「気にせずどんどん喋ってええんよ? そこまで器小さくは無いから」

 

 

 

 

 

肩を回し体を解すとサヤカの頭を撫でる新華。箒は白い息を吐いて肩を竦めた。

 

 

 

 

 

「サヤカは新華に従順過ぎる気がするな。もう少し我を通してもいいと思うぞ?」

「そうそう」

「これでも以前よりご主人様に甘えていますが。それに会話の方は途中まで私が生まれていない時期でしたので、タイミングが無かったというのもありますが」

「あー」

「それに現状に不満などありませんからね。我を通す理由もありません」

「…本人がそれならいいが。…帰るのか?」

「いい時間にもなったしな。そろそろ帰るわ。箒も、付き合ってもらってサンキューな」

「気にするな。私の方でも整理したかったから丁度良かった」

「ならよかった」

 

 

 

 

 

座っていた木の下から日の当たるところへと歩く。結構な時間喋っていたようで、空の色が変わりつつあった。

改めて新華は箒に向き直る。

 

 

 

 

 

「じゃ、これで。今日は本当にありがとな」

「ああ、次はIS学園で会おう。サヤカもまたな」

「はい、また」

 

 

 

 

 

軽く別れの挨拶を済ませ敷地から外へ向かう。箒も道場へ戻り最寄の駅の途中で新華が不意に笑った。

 

 

 

 

 

「ふふっ」

「どうされました?」

「いやぁ、平和だなって思ってさ」

 

 

 

 

 

そう言って前を見る。今ある平和な日常が嬉しくて笑ってしまっただけだったが、足取りは随分と軽く感じられた。

そして始業式が始まるまでの間、彼は再び忙しい日々に追われることになった。

 

 

 

 

 




次回は最終決戦のリザルトの予定です。
主に作者が今まで出せなかった解釈や設定を出すつもりです。

今話を書いていて主人公に回想さる際に、作者も5年間を思い出しながら書いていました。随分と長い付き合いだなぁと、しみじみ思いました。

次回もよろしくお願いします。

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