IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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165話目。ようやくここまできました…。来てしまいました…。毎度の如くクオリティには(ry

最近DMMの新着ゲーム見てたら
ガールズシンフォニーというゲームの脚本・世界観設定

深見 真

という文字が…


決着④

 

 

 

---side 一夏

 

一夏と箒は新華達の援護を受け『クルちゃん』に掴まり束の近くまで上がってきた。

真の叫びに驚愕したものの、一夏はとある理由で考えるのはやめていた。その理由とは

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!?」

「上だ一夏ぁ!」

「ぬおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

…徹夜の作戦行動で体が疲れを訴えている上に睡魔に襲われており、脳が思考するのを拒否していたからというものだった。

以前の臨海学校時に『銀の福音(シルバリオン・ゴスペル)』と戦った時と、状況がまるで違うのだ。

 

 

 

 

 

「もっと、もっと前に!」

「姉さん…!」

「何でよ! なんでいっくんも箒ちゃんも束さんの邪魔をするの!? 大人しくちーちゃんと一緒に居てよ!」

 

 

 

 

 

束の射撃と『インコム』、『リフレクター・インコム』による弾幕は一夏と箒にとって鬼門だった。

今2人は、一夏が突っ込み箒が援護という形で戦っている。『紅椿』による光刃の支援は束の手にある刀により相殺され、一夏は近付くことが出来ずにいた。

 

 

 

 

 

「俺達も千冬姉も、そんな大人しくしてられませんよ!」

「姉さん! これ以上戦ったところで新華は! あなたの欲しかったものは手に入らない!」

「違うもん! しんくんあいつらに惑わされただけなんだよ! だから、束さんが目を醒まさせてあげないとならないんだよ!」

「っ! いい加減にしてください! いつまで独り()がりを続けるつもりですか! 現実を見てください!」

 

 

 

 

 

一夏は箒の支援があるとはいえ、光の弾幕の中を時に切り払いながら進む。箒と束の会話も耳に入っているが、考えてる余裕は無かった。

 

 

 

 

 

「……箒ちゃんまでそんな事を言うの?」

「姉さん…!」

「そう言う奴に限って束さんを理解しない、理解しようともしないんだ! 出来る筈が無い、馬鹿なことを言うな、現実を見ろって言って知ったかぶって何も見ようとしない! 自分が理解出来ないものを認めようとしない! 箒ちゃんまで、箒ちゃんまでそいつらと同じことを言うの!?」

「姉、さん。私はっ!」

「束さん、アンタは間違ってる!」

 

 

 

 

 

一夏は姉妹の会話に割り込み叫んだ。同時に箒の動揺で援護が弱くなったため『雪片』を突くように瞬間加速で距離を詰める。

考えるのをやめた頭で口を動かせながら体を動かす。激しい戦闘で『白式』も悲鳴を上げているように感じていた。

 

 

 

 

 

「何が!」

「アンタは理解されなかったんじゃない、理解してもらう努力を諦めただけだ! 我慢しなかっただけだ、頑張らなかっただけだ!」

「いっくんに何が分かるの!?」

「束さんに俺や箒、新華の何が分かるんだよ!」

 

 

 

 

 

強引に突き進み何とか束の刀に『雪片』を掠らせる。

 

 

 

 

 

「束さん。アンタの求めた新華が今まで何を思って、何を考えて行動してきたか理解していない」

「そんなこと…」

「理解してるなら! 新華(あいつ)が言ったようにこうして俺たちは戦ってませんよ! あなたが1人で居ることも無かった!」

 

 

 

 

 

一夏は『雪片』を振るい束と打ち合う。新華に拒絶され感情で動いている束の攻撃を、一夏は全て捌くことが出来ていた。

動揺から戻った箒が『インコム』と『リフレクターインコム』を抑えているのもあるが、極限状態にある一夏の危機察知能力、鍛えてきた反応速度、経験、精神がそれを実現させていた。

 

そして、2人は束の刀捌きに見覚えがあった。

 

 

 

 

 

「そもそも、あなたは自分で誰かを知ろうとしていない! ただ知ったような気でいるだけだ!」

「違う違う違う! しんくんのことは束さんが一番」

「だったら今新華の隣に、あなたが居る筈じゃないんですか!?」

 

 

 

 

 

考えることを止めた一夏の太刀筋に迷いは無い。故に、その勢いは束を上回る。前へ、前へと斬り進み加速していく。

それは一夏だけでなく、箒も同じこと。

 

 

 

 

 

「おおおおおおおお!」

「箒!」

「姉さん! 姉さんは世界を変えた責任がある! でも私達にも姉さんを追い込んだ責任がある!」

 

 

 

 

 

一夏の隣に並び刀を振るう。

束が刀を振るう速度は彼女にとっても速すぎるものだったが、それでも対応することが出来ていた。

 

 

 

 

 

「今まで私達は姉さんを『天才だから』と理解しようとしなかった。『天才だから』と甘えていた。そうやって突き放してきたんだ」

「でも箒ちゃんは束さんに頼ってくれた!」

「違います。私は甘えてしまっただけだったんです。自分自身の不足を努力ではなく別のもので埋めようとした。その結果が臨海学校での初出撃です」

 

 

 

 

 

襲い掛かるビームに『紅椿』の展開装甲をビットとして飛ばし盾にする。一夏と自身を守り、一夏と共に刀を振るう。

 

 

 

 

 

「私は後悔しました。軽率な行動で大切なものを失い掛けた、その責任があると。でも私は1人ではなかった!」

 

 

 

 

 

その叫びの直後、束の背後から攻撃が加えられた。

1条のビームと2条の実弾。『I・フィールド』でも完全に防ぎきれない威力が、光の翼を持つ運命により放たれた。

 

 

 

 

 

「またっ、あんなのが!」

「束さん。今のあなたは変わらない限り1人のままだ! 走り続けるのはやめて周りを見てくれ! それでも続けるのなら…!」

「私達がここで、止めてみせる! それが私達の責任だ!」

 

 

 

 

 

そう言い一夏と箒は一旦距離を取る。そこへ真とスウェンが戦闘に復帰する。これで4対1となった。

 

 

 

 

 

『はああああああ!』

「邪魔!」

『織斑さん、篠ノ之さん、合わせてください。援護します』

「分かった!」

 

 

 

 

 

スウェンの言った通り一夏と箒は再び束へと肉薄しスウェンが『インコム』と『リフレクター・インコム』、及び射撃武器を狙う。

その間に真が束にブーメランである『フラッシュエッジ2』を投げ飛ばす。

 

 

 

 

 

『今です!』

「おおお!」

 

 

 

 

 

回転している2つの『フラッシュエッジ2』にスウェンがビームを放つ。『フラッシュエッジ2』のビーム刃に当たったそれは拡散され束を襲う。当然の如く『I・フィールド』に防がれるが展開中だった『インコム』を破壊し『リフレクター・インコム』のビーム反射角計算を狂わせた。

それを一夏と箒が斬り破壊、束からのヘイトは真が集めることで攻撃を散らしていた。

 

 

 

 

 

「ああもう邪魔邪魔邪魔邪魔! まとめて吹き飛んじゃえ!」

「っ!? 箒、下がれ!」

「何っ!?」

 

 

 

 

 

束が叫んだ直後、一夏は箒の手を引き下がる。その瞬間に束を中心にエネルギーが放出され爆発が起きる。

それを見た一夏が叫んだ。

 

 

 

 

 

「『アサルトアーマー』!? 今なら!」

 

 

 

 

 

そして一夏は、爆発の中を突き進む光を見た。

真の『デスティニーガンダム』がシールドを犠牲にしつつ手の平の『パルマフィオキーナ』を前に出して束へと向かう。

そして束が真を斬ろうと振るった刀を受け止め

 

 

 

 

 

『ハアアアアア!』

「なっ!?」

『実!』

『次はスウェン、織斑さんと篠ノ之さん!』

『畳み掛ける…っ!』

 

 

 

 

 

『サイコフレーム』が真の感情に反応し出力を上げ刀を破壊する。その直後に島でタイミングを狙っていた実が『ツインバスターライフル』を撃ち込みスウェンがアンカーを射出する。

射出されたアンカーは計5つ。両手から射出されたそれは束の両手を狙いつつ弾かれる。宙返りをする機動で背中、両足の順に時間差で射出する。

それらが全て弾かれ、撃ち抜かれた、その左右から一夏と箒が挟みこむように斬りかかった。

 

 

 

 

 

「これでも、まだっ…!」

「届かないのか…っ!」

「…この束さんが、ここまで追い込まれるなんてね。でも、これで」

 

 

 

 

 

一夏は『零落白夜』と『雪羅』を、箒は両手の刀を同時に叩き込んだが束は『ビームサーベル』を引き抜き受け止めた。

そして、束は手首を捻って一夏と箒を斬ろうと動かした。

 

---それがいけなかった。

 

 

 

 

 

「姉さん、そう来ると思いました」

「え」

「私も『篠ノ之』の娘です。姉さんの刀捌きは覚えのあるものだと、安心しました」

 

 

 

 

 

箒と一夏が束の手首に合わせ動く。流れるように体を捻り一息に斬る。

 

 

 

 

 

「「ハァッ!」」

 

 

 

 

 

それは『篠ノ之流』の、舞の一節。剣舞の動き。

それにより束は機体の両腕を切断された。

 

 

 

 

 

「姉さんの刀に『篠ノ之流』の動きを見ました。私は姉さんが竹刀を持ったところを見たことが無かった。でも」

「俺達も同じ人から、箒や束さんの父さんから剣を教わりました。だから、届きました。俺達の刀が」

「あ、ああああああああ!」

 

 

 

 

 

一夏と箒は知らないことだが、束はあまり竹刀を握っていない。幼少期に『篠ノ之』の第一子という期待から握らされていただけに過ぎない。

だが『天才』だった彼女はすぐに体の動かし方と『篠ノ之』の剣を覚え、千冬や新華と出会った後も振るう事は無かった。

だが『天才』故に基礎の動きが『篠ノ之流』の物になり、同門の一夏と箒の見覚えがあるものとなっていた。

 

 

 

 

 

『おおおおおお!』

「! 一夏!」

「ああ!」

 

 

 

 

 

そして響く声を聞き一夏と箒は束から離れる。束は2人を追おうとしたが、『I・フィールド』にビームを受け中断した。

彼女が見ると虹の光が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

「くっ!?」

『運命を切り開く、そして、運命の先へ!』

 

 

 

 

 

虹の光を翼として展開し、ビームライフル、『パルマフィオキーナ』、高エネルギー長射程ビーム砲を間髪入れず撃つ。

『I・フィールド』があるとはいえ避けるに越したことはないと束は回避運動を行うが、全て吸い込まれるように被弾していく。

 

 

 

 

 

「な、なんで」

『動きが見えてるんだよ!』

 

 

 

 

 

束が被弾し怯んでいる間に宙返りで勢いを付け『フラッシュエッジ2』を投擲、『アロンダイト』を片手に突き進む。

 

 

 

 

 

「すげぇ…」

「まるで流星のようだ」

『ハアアアアア!』

 

 

 

 

 

一夏と箒の驚嘆を受け虹の光が満身創痍の束に肉薄する。

束が怯みから回復した瞬間を狙ったかのように真は頭部バルカンを放ち目くらましをする。『フラッシュエッジ2』が肩部と背部バックパックを切り裂き、『アロンダイト』が胸部の『I・フィールド発生器』に突き刺さる。

そのまま真は『アロンダイト』を切り上げ、宙返りしながら背部のラックに仕舞うと右手を構えた。

 

 

 

 

 

『これでっ、終わりだ!』

 

 

 

 

 

右手を突き出し『I・フィールド発生器』を掴むと、切れ込みに『パルマフィオキーナ』を撃ち込んだ。

 

---それは後にMS乗り達の目標となる、『フル・ウェポン・コンビネーション』と名付けられる極地。

機体の性能を引き出し、全ての武装を活かせる前提があって初めて、無駄無く最大のダメージを与えられる、専用機持ちに許された必殺技。

 

 

 

 

 

「が、ぐああああああ!」

「姉さん!」

「束さん!」

 

 

 

 

 

最後の『パルマフィオキーナ』で『I・フィールド発生器』の上から打ち抜かれた束は、絶対防御のお陰か致命傷を免れていた。

しかしその衝撃は束を派手に吹き飛ばした。悲鳴を上げ落下する束を一夏と箒が慌てて抱えるように受け止める。

 

 

 

 

 

「う、ううううううううううう」

「姉さん…」

「何で…何でみんな寄って集って束さんを虐めるんだよぅ…」

「…束さん」

 

 

 

 

 

束は泣いていた。世界に理解されず、親友は助けてくれず、愛する妹は親友の弟と敵に回り、好きになった少年は自分ではない女を選び、今眩しい光に敗北した。

彼女の心は、彼女の幼い精神は折れてしまった。これまでの狂気が嘘のように、子供のように泣いていた。

 

 

 

 

 

「箒ちゃんも、いっくんも、ちーちゃんも…ひっく、しん、くんも、束さんを、守ってよぉ…」

「………姉さん。後で、話しをしましょう」

「…箒ちゃん…」

「沢山、たくさん話しをしましょう。気が済むまで、何度でも。互いに理解するまで何度でも」

 

 

 

 

 

泣きじゃくる束を宥めるように箒は自分の意思を語る。今まで『束の妹』というレッテルから逃げ、自分自身の弱さから逃げてきたが、もう逃げずに姉と向かい合おうと決めていた。

遅すぎる決意であると自覚はしていた。だからこそ箒は、束の目を見て言葉を発したのだった。

 

 

 

 

 

「束さん。箒だけじゃなくて俺や千冬姉ともお話ししましょう。俺達もあなたのことを理解しなきゃいけない、いや、しなくちゃいけないんだ」

「いっくん…でも、しんくんは…」

「……すぐには会うことすらしないでしょうね。でも、だからこそ話し合って理解しないと。束さんの知っている新華のこと、束さんの知らない新華のことを」

「ううっ、グスッ」

「姉さん。泣きたい時は、泣いていいんですよ。もう、泣いていいんです」

「ヒグッ、うわああああああああああああ」

 

 

 

 

 

箒の言葉で堰を切ったように泣き出した束。

ようやく束は、走り続けるのをやめたのであった。

一夏は戦いの終わりを感じ、皆が待つ場所へと束や真、スウェンと共に戻っていく。

確かな人と人との繋がりを感じながら。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---『我輩は猫である』表面

 

一夏と箒を『クルちゃん』に乗せて援護弾幕と共に送り出した後、新華と刀奈、簪、シャルロットの4名はクロエの目の前に降り立つ。

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、新華さん」

「ああ、久しぶり」

「更識 楯無様、更識 簪様、シャルロット・デュノア様。お初にお目にかかります。束様の従者をやっております、クロエ・クロニクルと申します」

 

 

 

 

 

クロエは楯無達3人に対して挨拶をする。束と違ってマトモな挨拶をしてくるクロエ。

 

 

 

 

 

「俺が(アレ)と袂分かって以来か。元気にしてたか?」

「つい最近に『亡国機業』に悪性ナノマシン入れられて人質にされた以外は。束様が既に撤去しましたが」

「……そうか。連中は既にこっちで確保したが、(アレ)は放っておいていいのか?」

「私では足手纏いになってしまいますので。それと束様不在時はこのラボを任されている身なので、下手に離れる訳にもいきませんから。今この状況で自動操縦にしても撃沈させる勢いで魚雷が飛んでくるのが見えてますし、ここまま離れれば乗り込まれるのは分かりますから」

 

 

 

 

 

『我輩は猫である』の周りには包囲するように『シーマ艦隊』が展開していた。それこそすぐにでも行動を起せるよう準備を整えて。

 

 

 

 

 

「まぁ、そうなるな」

「新華さんも束様の(もと)へ行かなくてよろしいのですか? MSというので束様を相手にするには流石に無理がありますよ?」

「そうでもないさ。それに一夏と箒が行った。くーちゃんやアレが思っている以上に強くなったあいつらも加われば」

「束様はそこまで甘くは---」

「甘いさ。でなければ今まで通り姿を消すべきこの局面で出てきたりしない」

 

 

 

 

 

そこまで行ってクロエも新華も軽くため息を吐く。新華は束を嫌ったがクロエは別に嫌っているということは無く、またクロエも束程新華に好意を持っている訳ではなかった。どちらかといえば親愛のレベルである。

 

 

 

 

 

「そうそう、メールありがとよ。お陰で今回の作戦を立てることが出来た」

「私から見ても『亡国機業』に利点を見出せなかったものですから。束様はご自身の技術のテスターとしてご利用なされていましたが、ああまで表立った行動に出られると束様の為になりませんでしたので」

「テロリストのすることなんざ歴史が示しているだろうに。あとあのメールはアレを裏切る行為にならないか?」

 

 

 

 

 

クロエが以前新華へと送ったメールには『束が病んであなた達を狙っているから気をつけて(意訳)』という内容が書かれていた。束へ忠誠を誓っているなら沈黙するのが正しい筈である。少なくとも今回の作戦の切っ掛けは新華の言った通りクロエからのメールなのだから。

新華の言葉にクロエは静かに深呼吸をした。

 

 

 

 

 

「……少々話しをしましょうか。新華さんがいなくなった当時のここは、少し広くなったように思いました。私でもそう感じたのです。束様がどう感じたのか、私でも分かりました」

「………」

「それ以来、私は束様の従者でありながら家族であろうと努め、束様を支えようと微力を尽くしてきました。『亡国機業』と利害関係の中でISを開発しながら放浪する日々。ですが、空虚感を感じていたのでしょう。束様はそれまでの自身を演じるように動いていました」

「…勝手な話だ。そういう選択肢を取ったのは奴自身だろうに」

「返す言葉もありません。ですが、そうした束様を見ていて分かったんです。束様は『新たなISが作りたかった』のではなく『新華さんと趣味を共有したかった』のだと。自覚はしておられなかったようですが」

「今更んなもん知るかよ」

 

 

 

 

 

クロエの持論を新華は興味無いと言わんばかりに切って捨てる。その答えを予想出来ていただけクロエが一抹の寂しさがあったが、言葉を続ける。

 

 

 

 

 

「そちらの臨海学校の後に『I・フィールド』という技術を研究し出したのも、新華さんを感じたかったからでしょう。事実、束様は研究中に精神的な不安定さを見せませんでした」

「だから知らんと」

「そう言わずに最後まで聞いてください。…そんな生活でも新華さんが更識様方と交際を始めたことを知ってから狂いました。ご自身の感情を理解しないまま新華さんにご執心されたのです」

「そう言われてもね? 自分からアドバンテージを捨てたくせにとやかく言われる筋合いは無いわ」

「重ね重ね返す言葉もありません」

 

 

 

 

 

刀奈は文句を言ったものの、クロエのあまりのマトモさに哀愁を感じた。同時にシャルロットが話の内容を大まかに理解した。

 

 

 

 

 

「なるほど。つまり博士は新華を欲しがったけど、手に入れる方法と結果が本人の自覚無しに食い違っていた。そういうこと?」

「その通りです。束様は生きているなら手足が無くともいいと仰りました。しかし束様の求めていたのは相互理解と対等を必要とするもの。無理矢理奪っても手遅れになるだけで何の解決にもなりませんでした」

「………」

「私は……束様のその意思を全て盲目的に肯定するには多くを知り過ぎました。束様にとって、そして新華さんにとっても最善は何かを考えるくらいには」

「それであのメールか」

「はい」

 

 

 

 

 

ふぅ、と新華はため息を吐く。クロエのメールの真意を知ることが出来て一段落したと内心思っていた。

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなって、いえ、ここまで来てしまったんでしょうね」

「んなもん決まってんだろ。みんな子供だった。それだけだ」

 

 

 

 

 

クロエの呟きに新華は答えた。

 

 

 

 

 

「今暴れてるアレも、ここに居る俺も、教師をやっていた千冬さんも。ISを発表した時に否定した当時の有権者達も、事件後に『IS委員会』なんてものを作った世界も、『亡国機業』の連中も、女性権利団体なんてのを生み出した社会も。全員子供だったってだけさ」

「………」

「最も、一番近くに居ながら便乗してた俺が言えた義理じゃねぇがな。当時は一杯一杯だったが、今思えば出来ることは沢山あったと後悔してる」

「そうですか」

「ああ。…で、抵抗しないのか?」

「既にアクアナノマシンを周囲に展開されてますし、私のISと相性最悪なの分かって言ってますよね?」

 

 

 

 

 

クロエのIS『黒鍵』は生体同期型であり、機体がダメージを負うと操縦者であるクロエにもフィードバックされるというものである。空間ごと爆破出来る刀奈の『ミステリアス・レディ』とは最悪の相性であり、『蒼流旋』無しでも操作可能なアクアナノマシンは天敵とすら言えた。

 

ちなみに『黒鍵』の攻撃方法は、一言で言えば『収納、操作』である。

IS特有の量子変換にて対象(万物)を『収納』し、『操作』することで逃げ場の無い地獄を創ることが出来るというもの。『精神系通常段』で撃たれた廃人と同様の『操作』も可能であり、万能とも言える性能である。

ただし『収納』する場合距離によってタイムラグが存在し、至近距離でも1秒前後掛かるというデメリットを抱えている。『収納』するにもエネルギーで取り込む必要があり、その展開したエネルギーを攻撃されるとクロエにダメージが入るという暗殺仕様であった。

 

つまるところ、クロエが何かしようものなら最悪死ぬという詰みの状況である。

 

 

 

 

 

「そもそも抵抗する気が無かったくせによく言う」

「真正面からですと千冬様にも破られましたし、真正面からでは不意打ち以外の対処がありませんでしたし。新華さんも対処出来るでしょう?」

「……ん、あれ…? 水中からじゃ駄目だったの…?」

「水中行動は出来ない仕様ですから」

 

 

 

 

 

簪の指摘によるクロエの回答は、正しいが間違っている。確かに『黒鍵』は他のIS同様水中行動が出来ない。しかし『吾輩は猫である』にはVLS以外にも小型艇が搭載されているので、それを使えば不意打ちも可能であった。実際にそれを使い食材の買出し等も今まで行っていた。

最も、こんな戦場でそんな迂闊なことをすれば即座に魚雷を撃たれ奇襲足りえないのだから、クロエの行動を間違っているとは言えないが。

 

 

 

 

 

「…そういうことにしとくか。まぁ悪いようにはしないさ。ただ多少窮屈な生活になると思うが」

「束様と共にあるなら問題はありません。最も離したらどうなるか私にも分かりませんが」

「箒が居る手前、そうそう危ない真似はさせんよ。アレはああ見えてくーちゃんを身内判定してるし、精神的にもそうした方が安全だ」

 

 

 

 

 

そう言って新華は振り返り島上空の戦闘を見る。

束の機体の両腕が切断され、真の『フル・ウェポン・コンビネーション』が決まったところだった。

 

 

 

 

 

「束様!」

「真の動きがヤベェな。まぁ、これで終わりだな」

 

 

 

 

 

一夏と箒が束を抱え島へと降りていく。新華は深呼吸をして、全機に通信を繋げ宣言する。

 

 

 

 

 

「篠ノ之 束の撃破を確認、同時に移動ラボ『我輩は猫である(名前はまだ無い)』も確保した。ここに作戦の終了を宣言する!」

 

 

 

 

 

島からの視線を一身に受ける。

 

 

 

 

 

「俺達の勝利だ! ---ありがとう!」

 

 

 

 

 

ここに一連の戦いが終わりを告げた。

そして日常(みらい)が再開する。

 

 

 

 

 

 




真「罠カード発動、『マインドクラッシュ』!」

冗談はさておき、これにて戦闘は終了。後はリザルトというかエンディングとかエピローグとかになります。が、作中時間的に大晦日とか正月とかあるので、詳しい話は後になるかと思われます。

まぁもう切った張ったの戦闘を書くつもりは今のところ無いので、ゆっくりしていってください。

あと束が『アサルト・アーマー』ぶっ放したのは、新華がACの話をしたからです(白目

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