IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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164話をお届け。束の内面とか因果応報とか、そんな話。
まだ決着付かないってどういうことなの…? で、でもあと1、2話以内には終わる…筈。


決着③

 

 

 

 

---竹島

 

厳密に竹島とは『男島』と『女島』の2つの島から成り立つ島根県の島である。

それぞれの島の表面で対マドカ戦と対ラクス戦が行われていたが、最終的に『男島』に捕虜含め全員が集まった。

 

 

 

 

 

「状況報告」

「Aチーム、基地内部は完全制圧。非戦闘員の捕虜は拘束し第1層目のドッグに集めてある。『シーマ艦隊』のMS隊はエネルギーが心もとないが威圧のために陸戦隊と母艦と一緒に監視に回ってもらっている」

「Bチーム、ターゲットを捕獲し拘束。実の『ウィングゼロカスタム』に損害が出たけどそれ以外の被害は無し」

「Cチーム、ガンペリーが墜落されちゃったけど欠員無し。襲撃機体を撃破してボーデヴィッヒちゃんがターゲットを確保」

 

 

 

 

 

順にカナード、真、刀奈が報告を行う。それを聞いた新華は集合している面子を見渡す。

皆慣れない深夜の作戦行動で疲労の色が見え隠れしていた。カナードとラウラは軍で夜間訓練を経験したことがあるので、他のメンバーと違い警戒を継続していた。

 

 

 

 

 

「それと、『シーマ艦隊』から伝言を預かっている。『兎が亀を追い越した』そうだ」

「! 了解。刀奈、簪、シャルロット」

「ええ」

「うん」

「僕らは大丈夫」

「ありがとう。…総員傾注!」

 

 

 

 

 

カナードが通信で新華に言葉を伝えた。『シーマ艦隊』から、というよりシーマ・ガラハウの暗喩であり『兎と亀』の童話に当て嵌め皮肉を込めた現状報告であった。

『亀』は『シーマ艦隊』、ないし『リリーマルレーン』を指し『追い越した』という単語から『後方に居た兎が前に出てきた』という内容になる。同時に『リリーマルレーン』の現在位置が分かれば『兎』の大まかな位置も予測出来る。

そして『兎』は、この場合言うまでもなく『篠ノ之 束』を指していた。

 

 

 

 

 

「皆のお陰で反抗勢力の鎮圧と基地の制圧を完了することが出来た。作戦は成功したと言える。だが『シーマ艦隊』より『兎』の接近が示唆された」

 

 

 

 

 

全員に声が届くようにフェースガードを解除し現状を伝える。

実際に作戦の目的で言えば『亡国機業』の殲滅を成しているので成功と言えた。もし作戦中に束が逃走、ないし姿を見せなければ作戦を終了し後回しにするつもりであった。

新華の言葉に驚きが走るが、時間が惜しいので言葉を続ける。

 

 

 

 

 

「捕虜は武装を解除させて一箇所に集めろ。太陽基準で5時方向、何か見えないか?」

「5時方向…あっちか?」

「あれは、鯨?」

 

 

 

 

 

新華が指示した方向は『リリーマルレーン』が居る方向であり、ハイパーセンサーで確認したIS組は鯨の姿を見た。

 

 

 

 

 

「あの鯨が?」

「『我輩は猫である』。篠ノ之 束博士の移動拠点にしてラボ。…出てくるぞ」

 

 

 

 

 

新華の言葉に呼応するかのように鯨が背を海面に出す。皮膚にしか見えない背面の一部が大きく開くと、そこから人参が生えた(・・・)

まともな思考を持つMS組は軽く理解を拒絶したくなるが、その人参がVLSのように発射され自分たちの傍に着弾すると気付き我に返る。

そして新華たちの目の前に刺さる。

 

 

 

 

 

「やっほーしんくん箒ちゃんちーちゃんいっくん! 久しぶり!」

「…」

「…久しぶり、です。姉さん」

「束…」

「束、さん」

「もーどうしたのー? 束さんが会いに来たんだよー?」

 

 

 

 

 

人参型のロケットが割れ中から束が飛び出す。一夏達は緊張感の無い束が、このタイミングで現れたことに疑問を感じ警戒する。

対する新華は何も言わず両手の武装を握り込む。刀奈は新華の影に回り見えないよう他の面子に指示を出す。

 

 

 

 

 

「………」

「しんくんー? 雰囲気が怖いよー」

「---!」

 

 

 

 

 

束が意識を向けてきたのに新華は我慢できず左手の『GNソードⅥ』でビームを撃ち込んだ。

束の眉間を狙い撃ったビームは、しかし彼女の直前で霧散する。その瞬間、束が球体の中に居るように見えた。

 

 

 

 

 

「ちょ---」

 

 

 

 

 

次の言葉を発する前に『GNソードⅥ』から実弾を発射し、同時に右腕のP・V・Fから精神系通常段をそれぞれ眉間と心臓目掛け撃つ。

だが、そのどちらも当たることはなかった。束がずれるように横に動き回避したからだ。

 

 

 

 

 

「---っと、って何するのさー!」

「次会った時は殺すと、そう言った」

「新華!」

「…分かってる。だが…」

「新華君…」

「……分かってる。大丈夫だ、ありがとう」

「ちょっと博士? ウチの人(・・・・)に近付かないでもらえます? 具体的には見えなくなるくらい」

「お前が行けば? そっちのも束さんの視界から消えろよ」

 

 

 

 

 

暴走しかける新華をシャルロットと簪が宥め刀奈が束に挑発する。それに対し束は不快感を隠そうともしない。売り言葉に買い言葉である。

束と4人の間に流れるドロドロとした空気に箒が、割り込む。正直非常に入りたくない雰囲気だったが、聞きたいこともあった。

 

 

 

 

 

「ね、姉さん!」

「お、どうしたかな? 箒ちゃん」

「姉さん、聞きたいことがあります。私と一夏とそこの生徒会長は先程、新華と似た動きをする白い無人機と交戦しました。あれは…」

「『白獅子』のこと?」

「っ! やはり姉さんが…。何故です。何故あのタイミングで生徒会長を狙うような真似を! 『亡国機業』と手を組んだからですか!?」

 

 

 

 

 

箒が束に向かって叫ぶ。箒から見ても『亡国機業』と手を組み援護するのであれば他にやり方とタイミングがあったと思う。特に基地から離れていたなら出来ることは多い。

具体的に言えば作戦が始まる前の時点で『白獅子』に襲撃させたり、『亡国機業』側に情報を流したり、MS以外の戦力を使えなくしたり、『シーマ艦隊』に攻撃し混乱させMS隊に同様を与えたり…

しかしそれらをせず、無人機による戦闘行動以外は何もしていない。と思えば刀奈は執拗に狙う。

 

 

 

 

 

「んー、『白獅子』はしんくんの戦闘データも入れた傑作のつもりだったんだけどなー。箒ちゃんもいっくんも強くなったね」

「姉さん!」

「束、あまり茶化すな。今の我々にそれを流せる余裕は無い」

「んもー。ちーちゃんまで怖い顔になってるよー? まぁ簡単なことなんだけどねー」

 

 

 

 

 

束は先程の剣呑とした視線ではない、感情の篭ってない視線を『亡国機業』の3人に向ける。

ラクスは相変わらず意識を失ったままで、マドカは気まずそうに目を逸らし、スコールは何か言いたげに睨んでいた。

 

 

 

 

 

「随分とこっ酷くやられたみたいだね? 最初から勝てるとは思ってなかったけど、もうちょっと頑張ってほしかったかな」

「……」

「まぁいいや! でー『白獅子』のことだったね? あれは今まで作った『ゴーレム』、そっちで言う無人機を束さんなりに完成させたものでさー。しんくんの戦闘データを入れてそんじょそこらの奴じゃ敵わないようにしたんだけど」

「けど?」

「何であのまま仕留められなかったのかなー? どこか不完全だったのかなー? 何人相手でも問題無いくらいに作った筈なんだけどなー」

 

 

 

 

 

まるで普段と変わらない言い方に箒はおぞましいものを感じる。完全に目の前の姉は刀奈を殺す気であり、そのことに何の躊躇も感情の変動も見られない。それどころか所々に苛立ちを感じすらした。

束と箒が会話している間に捕虜を監視するカナード、ラウラ、実以外が束を包囲するように移動していた。

 

 

 

 

 

「…確かにあの『白獅子』とやらは強敵でした。ですが! 私が聞きたいのは、そういうことじゃない!」

「束さん! あなたは一体何がしたいんだ! こんなところでテロリストと関わって、今になって姿を現してどうしたいんだ!」

「んー? そうだねー、当ててごらんよ」

「あら、それなら私が当ててあげましょうか?」

 

 

 

 

 

束の笑顔に刀奈が言葉を挟む。そのせいで、再びドロドロの空気が流れる。

 

 

 

 

 

「引っ込んでろよ。消えろって言っただろ」

「その意見は却下されました。で、博士がどうしたいかなんて決まってるじゃない。どうにでもしたいのよ。行き当たりばったりで自由気ままに自分の思い通りの展開を望んで行動しているのだから」

「お前に束さんの何が分かるって?」

大共(おおども)の格好した子供の思考くらい読めずに『更識 楯無』は出来ませんからね」

 

 

 

 

 

『大共』とは子供っぽい大人のことを指す皮肉である。刀奈の言葉に苛立ったのか束は更に攻撃的になる。

 

 

 

 

 

「はっ! 小娘が、この束さんに向かって子供扱い?」

「不満ならいくらでも理由を指摘して差し上げましょうか? いえ、子供相手に大人気ないですね」

「…『白獅子』落としたからって調子に乗ってる? いっくんと箒ちゃんが居なければお前如きここに居ないんだから」

「私が1人だったら、そうだったかもしれませんね。ですが私は今ここに居ます。あなたと違って1人じゃないんで」

「しんくんに寄生している奴が何を言っているのかな?」

「残念、寄生じゃなくて相思相愛なんです。私を消すために『白獅子』なんて機体を寄越す人にとやかく言われる筋合いはありませんよ」

 

 

 

 

 

互いに一歩も引かない言葉の応酬だが、当の新華は刀奈を信頼してか成り行きを見守っていた。

 

 

 

 

 

「ねえ篠ノ之博士、知ってます? 新華君が本当に欲しかったものを」

「あ? そりゃ自由に決まってるでしょ」

 

 

 

 

 

そう答えた束の言葉に新華は小さくため息を吐く。

 

 

 

 

 

「しんくんは優しいから名前も知らない奴だって助けるし、頭が良いからこの束さんと対等の話も出来る。でもこの世界は馬鹿が多いからね、そいつらのせいで出来ることも出来なくなるのが多いこと多いこと」

「……では新華君が経営している『ソレスタルビーイング』は?」

「だから、しんくんの優しさだよ。いっくんや箒ちゃんはともかく、お前らみたいな有象無象にだって手を差し伸べる。お前らはしんくんが今までどんな気持ちで戦ってきたか分かる? どれだけ血を流して私達を守ってくれたか分かる? 分かる訳がないよね。だって知らないもの。知ってるのは束さんとくーちゃんだけ。しんくんの望む自由を共有出来るのは束さんだけなんだよ。しんくんの隣に居るべきなのは束さんなんだよ! なのにお前らは何も知らないくせにしんくんにこびり付きやがって! お前らのせいでしんくんは死に掛けたんだぞ役立たず! 邪魔なんだよ、さっさと居なくなれよ!」

「それがあなたから見た新華君、と。随分と聖人君子に見られてるわね?」

 

 

 

 

 

束の絶叫を軽くいなした刀奈は新華に視線を向ける。新華本人は肩を竦め苦笑する。

 

 

 

 

 

「篠ノ之博士。新華君が本当に欲しかったものは、そんなものじゃないんですよ」

「お前に何が!」

「新華君が欲しかったのは、自由でもなく立場でもなく力でもない。本当に欲しかったのは、『普通』なんですよ」

「あ?」

「『普通の両親』、『普通の生活』、『普通の友人』、『普通の恋愛』、『普通の悩み』、『普通の人生』…。誰もが持っているような、あなたの言う有象無象が当たり前に持っている小さな幸せ。それが新華君の望んでいたもの」

「新華君は、本当は怖がりで、寂しがりやで、ネガティブで…」

「だからこそ自分で行動して、人との繋がりを大事にして、心が荒んでた」

「だから俺は、そんな俺自身を受け入れて止めてくれる、皆と一緒に歩いていきたい。そして俺の手でこの3人を幸せに出来るなら、それが俺の幸せだ。俺を選んでくれた、その選択を後悔させたくない。悲しませたくない。奪わせない消させない離さない。そう決めた」

 

 

 

 

 

刀奈、簪、シャルロット、そして新華の4人が力強く応える。すると先程と同様に4人と龍形態の『クルちゃん』を光が包んだ。

それはサヤカ、『Evolveクアンタ』と『カーバンクル』3機に組み込まれた『サイコフレーム』が4人の強い思いにより発生したものであり、『クアンタムバースト』時よりも力強いものだった。

そして『サイコフレーム』が組み込まれた機体はこの場所に2機存在し共振していた。

 

 

 

 

 

「これは…暖かい…?」

「えっ、何だこの光!?」

「それにな、俺は確かに『普通』が欲しかった。でも今は成りたいものがあるんだよ」

「……それは?」

「『大人』だ」

「! 何でよ! しんくんだってアイツら嫌いだって言ってたじゃん! 何でそんな奴らに!」

「アンタが言ってんのは、散々見てきた人間的に腐った外道畜生の類じゃねぇか。俺がなりたい『大人』は、もっとカッコいいもんだよ」

 

 

 

 

 

スウェンと真の戸惑いと束の感情を無視し、新華は光に包まれて穏やかな表情で語りだす。

 

 

 

 

 

「自分の役目を果たしながら子供を守り、正しく導こうと必死になり、時には褒め時には叱る。子供にとって多少うっとおしくても尊敬出来て頼り甲斐のある、そんな『ああなりたい』って思える『大人』に成りたいんだ」

「大分理想が入っているけどね? あと恩人先生への無意識的な尊敬とか…」

「まぁ『蒼天使』やら『死神』やら無ければ普通に教師目指してたと思うからな俺。ま、そういうことだ。自由もある程度は必要だが、あくまで常識の範疇であってモラルを放棄する気は無い」

「………………………」

 

 

 

 

 

新華達の言葉を聞いた束は下を向き黙り込んだ。その顔を見ることは出来ないが、一同は嫌な予感が膨れ上がる。

 

 

 

 

 

「…『トライアルシステム』起動、『マスター:篠ノ之 束より対象ISへコード:停止命令』」

「なっ!?」

「皆!」

 

 

 

 

 

束の命令で『Evolveクアンタ』以外の全ISがその機能を全て停止する。新華が叫ぶ前にMS組がフォローに入り、その瞬間に束が4人の目の前に来て腕を振るう。

だが振り切る前に刀奈が『蒼流旋』で受ける。

 

 

 

 

 

「やると思った。『クルちゃん』?」

「GYUAAAAAA!」

「邪魔すんな!」

 

 

 

 

 

束が振るったのは一振りの刀であった。しかしその刃はバターに熱したナイフを当てるかのごとく『蒼流旋』を切断し、『クルちゃん』が体当たりを慣行する。

それを束は片手で流し刀を振り切る。が、もう片手に別の刀を出して刀奈へと向ける。

その取り出した一瞬に新華が『GNソードⅥ』で割り込み止める。

 

 

 

 

 

「させねぇっての」

「うがああああああ!」

「姉さん、やめて下さい!」

「うるさい!」

「っ!?」

 

 

 

 

 

束が半泣きで新華に矛先を向けるが、簪とシャルロットがそれぞれ拳とシールドで割り込み引き離す。

箒が止めようと声を上げるが束は半狂乱になり拒絶した。

 

 

 

 

 

「何で、何でだよ! 何でこんなツマンナイ世界でツマンナイ奴らを選ぶんだよ!? みんなみんな束さんより馬鹿だし束さんよりしんくんと一緒に居たんだよ! そんなぽっと出の奴なんかより沢山一緒に居たじゃん! 沢山色んなもの作ったじゃん! 楽しかったじゃん!」

「束! いい加減にしろ! お前がいくら天才だったとしても、何でもかんでもお前の思い通りにはならない! 初めてISを発表した日に思い知らされたことだろう!」

「だけどしんくんもちーちゃんも束さんのすることを止めなかったじゃん!」

「それは…」

「確かにそうだし反省もしているが、だからって何やってもいいって訳じゃねぇっしょ」

「何でしんくんもちーちゃんも、箒ちゃんもいっくんも束さんの言うことを聞いてくれないんだよ! なんで一緒に居てくれないんだよ!」

 

 

 

 

 

荒れる束と、千冬と新華達の会話はその場の全員が聞いており、一同はそれぞれ微妙な顔をしていた。束と千冬、新華の3人それぞれの温度差が滑稽なまでに違ったのもある。

だがその中に1人、怒りを抑えきれない人物が居た。

 

 

 

 

 

「ふざけるなよ、ふざけるなよ!」

「真?」

「アンタ言ってること滅茶苦茶だし自業自得じゃないか! 何が天才だよ、ただの駄々をこねる子供と一緒じゃないか!」

「あ!? 何だよお前、関係無い奴が」

「うるさい!」

「!?」

 

 

 

 

 

『サイコフレーム』の共振を起こしていた『デスティニーガンダム』が真の眼と同じ赤に光りだす。真の唐突なガチ切れに束ですら怯む。

 

 

 

 

 

「アンタのその我侭でどれだけの人が迷惑していると思ってる! アンタが撒き散らしたISでどれだけの人が人生狂わされたと思ってるんだ!」

「知らないよそんなの! どうでもいいじゃん!」

「っ! ふ ざ け る な ぁ !」

 

 

 

 

 

叫ぶと同時に真はビームライフルを連射し『デスティニーガンダム』で束へと加速する。

が、ライフルから放たれたビームは先程新華の『GNソードⅥ』と同様に弾かれた。

 

 

 

 

 

「やっぱり『I・フィールド』か」

「ならっ!」

 

 

 

 

 

ビームが効かないと分かると真はビームライフルを腰にマウントし背中の『アロンダイト』を握り束へと斬りかかる。

束はそれを手にしていた刀で受け止め押し返そうとする。しかし光を纏った真の予想外の力に、流石の束も自身のISを展開せざるをえなかった。

真は手を蹴り上げ刀を狙うが、距離を離される。

 

 

 

 

 

「なんだあの中途半端なIS…MS? いや二の腕と太ももに顔面露出してるからISか」

「……どうするの…?」

「そうさな…。今の(アレ)に何言っても無駄だろうし、こっちも停止したISをどうしかせにゃならんし、それに…」

「それに?」

「真は思うところ色々あるだろうし、CBに誘った理由もあってなぁ。好きにさせるのが一番だと思う」

「えっと、その理由って?」

「前も言ったと思うけど、俺の口からは言えん」

 

 

 

 

 

束のISは頭部と脚部に『Ex-Sガンダム』の、胸部と腕部に『ガンダムナドレ』の意匠が見えた。ただしISの性能もしっかりと持ちつつ『ALICE』とIS用の『トライアルシステム』まで持っているので厄介この上ない。更には『紅椿』の『雨月』『空裂』の発展型である刀まで両手に所持していた。

新華達4人組みの会話に、地味に機能停止しなかった『白式』と『赤椿』に乗った一夏と箒が、機能停止し千冬の降りた『暮桜』を持って聞いてくる。千冬は生身で『雪片』を持っていた。

そうしている間にも真は束へと執拗に攻撃を行う。

 

 

 

 

 

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-----------

----------------------

 

 

 

 

 

---side 真

 

 

 

 

 

「アンタは自分の家族がどうなってもいいっていうのかよ!」

「箒ちゃんさえいればいいもん!」

「その人だって今はアンタの敵だ!」

「違うもん! ちゃんと最後は戻ってくるもん!」

「何も失ったことが無いからそう言えるんだ! 自分から放り投げておいて、妹はアンタの願望を押し付ける道具じゃない!」

「うるさいうるさい! お前に何が分かるっていうんだよ!」

「俺にだって家族が、妹が居た!」

「だから!?」

 

 

 

 

 

もはや子供の喧嘩に近い言い合いだが、次の真の言葉に束が、そして千冬、一夏、箒が特に反応した。

 

 

 

 

 

「俺の家族は、妹の真由(マユ)は俺の目の前で死んだ! ISに殺された!」

「!?」

「アンタに分かるか!? 目の前で大切な人達が死んでいく悲しみが、当たり前の日常が突然消える恐怖が! 俺に何が分かるって? そりゃ分からないさ、自分から大事なものを捨てて被害者面する奴の気持ちなんかなぁ!」

 

 

 

 

 

『デスティニーガンダム』の光の翼が一層赤く輝く。手に持つ『アロンダイト』が発振するビームの出力も上がり、束が持つ刀を押し込む。

 

 

 

 

 

「なっ、何が起きてるの!?」

「俺はあの時のISも! そのISを無責任にばら撒いたアンタも許せない!」

「そんなの知ったことじゃないよ! 箒ちゃんは死なない! 束さんもちーちゃんもいっくんも居るもん!」

「元はといえばアンタ自身の行動で危険に晒してるじゃないか! そんな事を言う資格はアンタに無い!」

 

 

 

 

 

束の機体脚部からワイヤーの付いた球体、『リフレクターインコム』が2基、頭部から『インコム』が1基射出され真を狙う。

鍔迫り合いから一転して真が激しく飛び回り回避行動を取る。『デスティニーガンダム』に搭載された光の翼発生器でもある『ヴォワチュール・リュミエール』により赤い残像が光学センサーを惑わす。

だが真の移動先へ束の両手の刀から放たれた光刃が迫る。

 

 

 

 

 

「くっ、それに今こうして戦っているアンタは1人じゃないか! アンタが望んだのは、こんな世界だったのかよ!?」

「そんなわけないだろ! 束さんはISで宇宙に行きたかったのに、馬鹿な連中が理解出来ないくせに好き勝手言ったから!」

「それでも、理解してもらおうと努力したのか!?」

「そんな無駄なことしてもあいつらに分かる訳ないじゃん! なんでそいつらの為に束さんが貴重な時間を使わなきゃならないのさ!」

「「ふざけるなっ!」」

 

 

 

 

 

真と束が戦闘している中に、とうとうスウェンまで介入してきた。スウェンの『ストライクノワールガンダム』は光を纏っていないものの、『ノワールストライカー』に仕込まれている『サイコフレーム』はしっかりと共振していた。

 

 

 

 

 

「貴様にとってどれだけ無意味、無価値だろうと、それは貴様自身の勝手な認識だ。それを押し付けられた側はたまったものではない!」

「理解してもらおうと思ってない奴が理解されるわけ無いだろ! そんなことも分からないのかこの馬鹿!」

「馬鹿じゃないもん! 束さん馬鹿じゃないもん!」

「こんだけ言っても分かんない奴は馬鹿で十分だ、バーッカ!」

 

 

 

 

 

子供の口喧嘩になっていたが、その間も戦いは続いていた。スウェンは先程のマドカ戦と違いレールキャノンを撃ちつつ『インコム』の攻撃を潜り抜け真と共に近接攻撃を仕掛けている。

束にとってそれは実に不愉快なことであり、同時にその不愉快を排除しようと全力を出す。

刀を1本仕舞い両手で持つと、瞬間加速を用い真の懐に潜る。その間は『ALICE』に『インコム』を制御させスウェンに攻撃させており割り込ませなかった。

 

 

 

 

 

 

「やばっ」

「落ちちゃえー!」

 

 

 

 

 

刀を振るう動きは正確に真を捉えていた。『デスティニーガンダム』にはVPS装甲が使われているが、束の振るう刀は言ってしまえば『戦国アストレイ』のそれに近い。ただし、発想元は新華が散々使用していた『GNソードⅤ』であり、どちらかというと『刀の形をしたGNソード』と言っても差し支えなかった。

それが直撃すれば機体も搭乗者も危うい、そんな攻撃は戦闘に参加していなかった人物の援護により防がれた。

 

 

 

 

 

「このっ、馬鹿野朗共が!」

「ぐあっ!? か、カナードさん!?」

「また増えた!?」

 

 

 

 

 

カナードの『ハイぺリオン』が腕部の『アルミューレ・リュミエール』を展開しギリギリで割り込んだ。その際にカナードは利き腕を痛めたが、即座に束に向けて『アルミューレ・リュミエール』を展開し真とスウェンに叱咤する。

 

 

 

 

 

「貴様等、自分1人で戦っているつもりか!? 頭を冷やせ!」

「で、でも、アイツ!」

「貴様等が怒り狂う気持ちは分かる。だが、だからといって奴と同じレベルに落ちる必要など無い」

 

 

 

 

 

真とスウェンを守るカナードを援護するように島から2条のビームが、精神系通常弾も混じった弾幕が束目掛け殺到し、その上で龍が向かっていった。

 

 

 

 

 

『真、スウェン!』

「実?」

『俺を仲間外れにするなよ。大したことは出来ないけど援護くらいなら出来るしさ。俺のわがままに付き合ってくれたんだ、それくらいさせてくれ』

 

 

 

 

 

見ると島の表面でツインバスターライフルを構え残ったウィングユニットから残りのフェザーファンネルを射出する実の姿があった。

 

 

 

 

 

『しんくんしんくん! 見てよ! 『I・フィールド』っていうのも『MS』っていうのも束さん作れたんだよ! だから私の---』

『ちょっと博士、人の旦那にちょっかい掛けないでもらえます?』

『一夏、箒、遠慮なくやっちまえ。真、スウェン、急がないと2人が決めちまうぞ?』

『姉さん、あなたを止める!』

『行こう、箒! みんなの分まで!』

 

 

 

 

 

龍、『クルちゃん』が一夏の『白式』と箒の『赤椿』を輸送し主の下へ戻っていく。束は新華へと意識を向けたが一夏と箒へと向かい合う。

束は真達に興味を示していないためか、はたまた脅威と感じていないためか意識を向けてこない。だが少しでも刺激すれば反撃が返ってくることは予測できたが。

 

 

 

 

 

「…頭は冷えたか?」

「……正直、怒り自体は収まっていませんが、多少は」

「…はい」

「自己申告出来てるだけ十分だ。今この場はな。で、今何をすればいいか分かっているか?」

 

 

 

 

 

カナードの『ハイぺリオン』は『デスティニー』や『ストライクノワール』等の機体とは違い滞空時間に制限がある。その上作戦行動していたせいでエネルギー残量も残り少なく今は『アルミューレ・リュミエール』を展開していない。

 

 

 

 

 

「アレをぶっ飛ばす」

「篠ノ之博士の確保、ただし抵抗する場合は実力行使も已む無し」

「そうだ。だが、向こうのペースに飲まれては勝てる戦いも勝てん。特に真、先程もそうだが貴様は詰めが甘い。怒りに飲まれるな」

 

 

 

 

 

カナードは先程真とスウェンの機体表面を覆っていた光が気に掛かりつつ2人を諭す。真はカナードに庇われた手前、強く反論出来なかった。

 

 

 

 

 

「ぐっ、わかってますよそのくらい! だけどあんな奴のせいで家族が…って思うと!」

「それはスウェンも同じだ。もう1度言うぞ、怒りに飲まれるな。貴様1人の犠牲で奴を倒せるなら今こうして戦闘は発生していない。それに貴様が先程言った通り奴は1人だ。やりようはいくらでもある」

 

 

 

 

そうカナードが言った途端、『ハイペリオン』の高度が下がり始める。

 

 

 

 

 

「ちょっ!?」

「チッ、タイムリミットか。ガンペリーが残っていれば補給出来たが仕方あるまい。とにかく、貴様らはもう孤独ではないんだ。仲間を頼れ。作戦自体は成功しているから帰還後に祝勝会でも行われるだろう。負傷で欠席などという間抜けを晒すなよ」

 

 

 

 

 

カナードはそのまま落下する機体を器用に島へと着地させる。真とスウェンはカナードの言葉と自分達の周囲を見渡して互いに顔を見合わせる。

 

 

 

 

 

「…やっぱツンデレだな、カナードさんって」

「そうだな」

『回線を閉じずによく言ったな貴様ら。帰ったら覚悟しておけ』

「ぬぉ」

「じゃ、じゃあ行ってきます!」

 

 

 

 

 

半分笑いながら真とスウェンは一夏達の戦闘に参加すべく機体を向かわせる。束に対する怒りは収まらないが、頼れる仲間が居ることの安心感と気力が沸いてきた。

 

 

 

 

 

「スウェン、実! 行くぞ! 実援護でいつものパターンだ。俺が殴ってスウェンも殴って実が撃つ!」

『兄貴相手の『いつもの』じゃねぇか! おーけー、やってやるよ!』

「なんだかんだで慣れた動きの方がやり易いからな。あと真は遊ぶなよ?」

「大丈夫大丈夫、あのマニューバ完成したし上手くいくさ! 行くぞおおおおお!」

 

 

 

 

 

真は気合を込めて『アロンダイト』を手に大声を出し束へ突貫していく。

真っ赤だった光の翼は、その中に虹色の光を潜ませていた。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 




シンちゃんマジ主人公。本当に『Life goes on』のイメージピッタリ。
というかシンちゃん、ちゃんとした大人とか余裕があると輝くなぁ…。

あと一夏、箒以外のIS勢は新華ヒロインズ以外出る予定はもうありませぬ。マジで鈴ちゃん泣いていい。本当にごめん。

あと『Evolveクアンタ』を現実で再び改造している自分が居る。こっちに関しては終わらない気がしてきた。

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