IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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158話。何とか年越し前に投稿出来ました。次回は来年になるかと。


嵐の前の静けさ

 

 

 

 

 

 

---sideスコール、???

薄暗い、日の光が入らない部屋に、スコール・ミューゼルは膝を抱え背中を壁に預けて蹲っていた。

 

 

 

 

 

「……オータム」

 

 

 

 

 

擦れた声で既に居ない者の名を呼ぶ。今居るのは彼女の一時的な自室で彼女以外には誰も居ない。例外的に少ない彼女の私物と、オータムの私物が詰められた箱が置かれていた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

スコールの瞳は濁り光を失っていた。しかしその顔に涙の跡は見られなかった。

 

 

 

 

 

「待ってて。すぐに仇を取ってあげるから」

 

 

 

 

 

オータムが死亡してから、スコールは戦力的に行動できないので最低限の指示を出した後、部屋に篭っていた。

しかし時間を費やして自分の感情に一区切り付けた後、改めて最低限の身だしなみを整え部屋を出る。

表面上は普段通りを維持し外からの光が入らない通路を歩いて『通信室』のプレートが張られた部屋に入る。

 

 

 

 

 

「クライン、異常は無い?」

「あらスコール様。何も異常はありませんわ。どうかなさいました?」

「補給と現戦力の確認をね。ゴーレムは何機稼動出来る?」

「以前に在庫処分したことでⅠ~Ⅲは、水中タイプ以外は全損してますわ。Ⅳは既に10機ロールアウト、明日にはもう3機稼動出来るようになりますわ。『ファミリア』の方は後続機を開発中とのことです」

「そう。Mはどうしているの?」

「『黒騎士』の最終調整を終えて個室にて待機してますわ。出られるので?」

 

 

 

 

 

『通信室』の中ででラクスが多くのモニターと機材に向き合い、スコールの質問に答える。ラクスが機材のキーボードを叩き、幾つかのデータを出してスコールに見せる。

 

 

 

 

 

「まだよ。近いうちにセーフハウスに移動する予定だから、動かせるのを確認しておきたくてね」

「また、移動ですか」

「クリスマスでどこもかしこも浮かれている今のうちにね。ここの存在がいつまでも隠し通せると楽観も出来ないもの」

「確かに補給は終えてありますが、ここを離れるとなると次の補給が心配になりますわね。ここなら残りの心配をせずに済みますもの」

「そちらの手配はこちらでやるわ。後でいつも通り確認して受け取れるようにしておいて」

 

 

 

 

 

オータムの骸を前にしていたときの悲壮感は微塵も見せないスコール。ラクスの懸念と今後の展開を脳内でシミュレートし調整する。

 

 

 

 

 

「それと、篠ノ之博士はどうしているかしら?」

「こちらで提供した個室でスコール様のISを改装していらっしゃいますわ」

「そう、後で行ってみるわ。それで、例のご老人達は?」

「既にご搭乗され調整も済んでおります。現在は眠っていらっしゃるかと」

「いつでも出せるのね?」

「滞りなく」

「分かったわ。移動するときに護衛を兼ねたテストを行いましょう」

 

 

 

 

 

なにやら不穏な単語を顔色一つ変えずに交わす2人。スコールは「引き続き警戒をよろしくね」とラクスに言い部屋を出て行った。

スコールは次に束が居るという個室へと向かった。途中で作業が終わったとされる複数の構成員とすれ違う。男性の構成員達は上司のスコールに道を空けるが、気付かないと思っているのか彼女の肢体を嘗め回すように視線を這わせていた。

機械の体であるにも関わらず虫唾が走るのを感じながら、目的の場所へと急いだ。まるでその感覚を一刻でも早く忘れようとせんばかりに。

急ぎ足のせいもあり、目的の場所である『第一研究室』のプレートがある明らかに頑丈な扉の前に着いた。

 

 

 

 

 

「さて…」

 

 

 

 

 

スコールは扉の横にあるタッチパネルを操作し扉を開け部屋の中に入る。彼女の目に真っ先に入ってきたのは、黄金に輝く機体だった。

 

 

 

 

 

「これは…」

 

 

 

 

 

束の姿は見えなかったが、それを忘れさせるほどに、目の前に鎮座する機体は存在感をこれでもかと主張していた。

新華との戦闘で失っていた色を取り戻しただけでなく、各ユニットは小型化され背中にBTと思われる4つの突起物、新たに追加された全身装甲にどこか見覚えのある頭部が目を引いた。

スコールは導かれるように機体の下へと足を動かし、脚部装甲に手を触れる。

その瞬間、機体の胴体装甲が継ぎ目から開き、頭部装甲もフェイスガードが中心から割れるように開く。まるで主を迎えるように。

それに応えるように彼女も機体に乗り込む。閉じていく装甲。頭部装甲が閉じ、ツインアイのディスプレイに情報を示す画面が現れた。

 

 

 

 

 

「…見えにくいわね。この頭部装甲は必要なのかしら。武装は…」

 

 

 

 

 

軽く手足を挙動させ動きを確認し、1人で作業していく。たった1人広い部屋で操作するスコールは、不意に寒さを覚えた。

今までは、スコールの隣にオータムも居た。プライベートの時間はもちろん、こういった機体調整時にも共に居ることが多かし、『アラクネ』の『タペストリー』を調整していたときも2人で行っていた。

だからこそ、自分以外に誰も居ない環境は酷く彼女に寂しさを強要していた。

 

 

 

 

 

「…オータム……」

 

 

 

 

 

冷たい装甲に包まれた腕で体を抱く。機体は駆動音を上げながら。新たに追加されたシステムを起動させ、装甲の温度を上昇させる。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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---side クロエ

束とクロエの2人はスコールと入れ替わりになる形で部屋を後にしていた。

 

 

 

 

 

「束様、大丈夫でしょうか」

「んー? 何がー?」

「スコール様のことです」

 

 

 

 

 

束がスコールから頼まれた『ゴールデン・ドーン』の魔改造、もとい大改修を終えて勝手に部屋から『吾輩は猫である』に勝手に戻る途中であった。

クロエは束に自分の懸念をぶつける。

 

 

 

 

 

「今回契約の関係でスコール様の機体を対新華さん用に改装しましたよね」

「うん、そうだよ」

「ですが、束様の望む結果が得られるとは思えないのですが…」

 

 

 

 

 

クロエは暗にスコールでは新華に勝てないと言っていた。しかも大改修したスコール機には束が新たに開発したシステムも搭載している。それが亡国機業に悪用されはしないか、ということである。

 

 

 

 

 

「んー? くーちゃん何言ってるの?」

「あ、いえ、すみません。出過ぎたことを---」

「あいつら程度にしんくんが負けないのは当然でしょ?」

「ですよね」

 

 

 

 

 

クロエは束の即答に言いかけた言葉を止めた。新華がIS学園で重体になった時は多くの条件が重なり合った結果であり、臆病なほどに用心深い新華にはもう通じないだろうという確信もあった。

 

 

 

 

 

「では、束様は何を期待してあそこまで技術の投入を?」

「そりゃ決まってるじゃん。なんかしんくんの周りに居るあいつら。邪魔だから」

「ああ、更識 楯無様に更識 簪様、シャルロット・デュノア様ですね」

「そそ。大したことない癖にしんくんの周りに集ってさ。前はそのせいで落とされたようなものだし」

 

 

 

 

 

束は子供のように頬をぷくーと膨らませる。しかしクロエから見た彼女の雰囲気は真っ黒なオーラを放っているように見えた。

 

 

 

 

 

「つまりは、スコール様が新華さんの足止めをして、その間にゴーレム等のISが彼女らを排除する。新華さんはそうさせまいと彼女らを庇い消耗する…」

「出来るだけ消耗させてくれればいいんだけどね。それに後はあいつが勝っても負けても、束さん達には何も損は無いし。今回入れた技術はしんくんならいつか作るだろうし本命は別にあるしね!」

「そう、ですね」

 

 

 

 

 

クロエは束の軽い言葉に歯切れの悪い返事しか出来なかった。確かに束が言う通り、新華を手に入れ被害を最小限にするにはこれ以上ないやり方だろう。

だがクロエには、頭の隅で燻っている不確定要素が気になって仕方が無かった。

 

 

 

 

 

「(『黒鍵』で『ワールドパージ』をしたときに見れなかった、新華さんの願望。あの六角形で出来た壁は…)」

 

 

 

 

 

クロエの持つ専用IS『黒鍵』、束がコアから全て1人の人間のために製作した数少ない機体の特殊機能『ワールドパージ』。

ISコアの根幹を支えるシステムとコアネットワークを利用した、その名の通り世界を分離させるシステム。しかしその名ほど大仰なものではなく、世界を分離というのも一種の催眠によるトリップを引き起こすものである。

しかし現に一夏が体験した通りで、自力ではほぼ脱出不能という強力なものである。

 

 

 

 

 

「(少しでもいいから、新華さんの願望を知れればいいと思っていたのに)」

 

 

 

 

 

対象の願望を観測し、それに沿った世界をシミュレータとして構築するという過程を経て起動する。大まかな作業はISがやってくれるが、観測しシミュレータ内部の方向性はクロエが指示しなければならない。

しかし新華が扉に落ち願望を覗こうとした時、トラウマシェルの壁に阻まれ観測出来ずに一夏達が救出、千冬に補足されててしまった。

 

 

 

 

 

「(あの場所では確かにISの武装は再現出来る。でも『ワールドパージ』を退けるだけの武装は未だに存在していない筈。例えそれがISコアネットワークから外れ自我を有しているISであっても、彼女は新華さんに殆どを任せ……任せ、て?)」

 

 

 

 

 

クロエは何かに気付き『黒鍵』の『ワールドパージ』、その使用履歴を調べる。そして見つけた。

 

 

 

 

 

「……束様」

「んー?」

「こちらを」

「なーにー? ………? あれ?」

 

 

 

 

 

クロエが出した空間ディスプレイを除く束。履歴の最後の方を見ると、新華とサヤカの項目だけ他とは違う部分が見受けられた。

 

 

 

 

 

「文字化けしてる?」

「はい。新華さんだけ名称欄から接続方法に使用ツール欄まで綺麗に。今修復を試みたのですが…」

「出来なかったの?」

「はい。それに破損ではなく、どうやら情報自体が無いようで」

「あーそっか。うんうん、そういうー」

「…束様?」

「やーごめんごめん。前にしんくんにコア1個報酬であげてたの忘れてた。多分情報無いのは、そこだけ引っこ抜かれてるねー」

 

 

 

 

クロエの言葉に束はサラッと言ってのける。

 

 

 

 

 

「あー、あー! そういえばそんな事も。なるほど、確かに新華さんなら解析を終えていそうですね。ですが」

「うん。しんくんはそう処理をする間も無く戻っちゃったんだよね? なら」

「クアンタさんが単独でやったのでしょうね」

「んー……興味深いなー。どうにか弄れないかなー」

「新華さんの許可が無いと出来そうにありませんね」

「じゃあ結局はしんくんを手に入れないとね!」

 

 

 

 

 

そう言っている間に2人は『吾輩は猫である』に到着。内部に入り幾つもある部屋の1つ。そこに入る。

 

 

 

 

 

「じゃあそろそろくーちゃんの中にある悪性ナノマシン、どうにかしちゃおっか! そしたらここを離れよう!」

「出来るのですか?」

「束さんに不可能は無いのだー! ちょっと時間掛かっちゃったけどね、今ならすぐに出来るよー」

「すみません」

「気にしない気にしない。悪いのはくーちゃんを襲ったあいつらだからね。ささ、横になって。あと『黒鍵』も使用するから一緒にチェックもするよー」

 

 

 

 

 

束がISを開発する部屋に備えられたベッドにクロエを寝かし、やたらごちゃごちゃと機械のアームを大量に展開した。

アームの先端はコードであったりマニュピレータであったり、ペンライトであったりと様々な種類が存在していた。

 

 

 

 

 

「では束様、よろしくお願いします」

「うん任されてー! あとはー」

 

 

 

 

 

クロエが目を瞑り束がなにやらライトを当てたり赤外線を点滅させたり空間ディスプレイを操作しつつ、背後に半分だけ意識を向けた。

 

 

 

 

 

「もういつでも出せるコレのチェックかなー。くーちゃんのお陰でAIも申し分ないし、本命として対しんくん用にもなったしねー」

 

 

 

 

 

そこにあったのは、やはり特徴的な頭部を持った全身装甲の機体。しかしスコールが使用それとも、新華のクアンタとも違う特徴がその機体にはあった。

両腕に当たる部位はマニュピレータが見えるものの大きめの銃を握っているせいで見えず、背中のバックパックには骨組みだけの羽、そしてフェイスガードが無い頭部があった。

フェイスガードが無い部分には機械が剥き出しではなく、静かに目を瞑る女性の顔があった。

 

 

 

 

 

「趣味悪い無人機も束さんの手に掛かれば! ご覧の通り人が乗ってるが如き機体に! まー本命というより奥の手かな?」

 

 

 

 

 

無人機は、誰もが予想した通り束が新造したコアを使って作られている。『ゴーレム』と呼ばれるこれらはⅠ~Ⅳまで種類があるが、この内束が作ったのはⅠ、Ⅱ全機、そしてⅢ、Ⅳは最初の1機のみ。つまり最低でも6機しか作っておらず、それ以外の固体は全て亡国機業が製作していた。

とは言ってもガワだけでコアは束に作らせていたので張子の虎、虎の威を借る狐なのだが。

 

 

 

 

「よっと。はいくーちゃん! 処置終わったよー! 確認してみてー」

「はい。………異常ありません。流石ですね」

「にっひひー! でも『黒鍵』が体に馴染んでいるからこそ出来るから気を付けてねー?」

「……次が無いよう精進します…!」

「よーし! 後顧の憂いも無くなったことだし! コレの最終チェックを終わらせちゃおうか!」

「はい」

 

 

 

 

 

2人で機体の周囲に大量のディスプレイを投影し、チチチチと電子音を鳴らして次々と指を頭を動かしていく。空間ディスプレイが物凄いスピードで表れては消えていく。

その最中、無人機の閉じられていた目が薄っすらと開いていた。

 

 

 

 

 

『---システムコール、外部からのアクセスを確認。上位権限『篠ノ之 束様』、『クロエ・クロニクル様』を確認。…一部システムの更新を確認』

 

 

 

 

 

瞼まで再現された顔の下で瞳が光る。ごく一般に知られるような人型ロボットであればカメラのレンズ調整でキュイキュイ音を鳴らしていたのだろうが、目の虹彩がその名の通り虹色に光っていた。

 

 

 

 

 

『システム最適化………完了。コアネットワーク再接続、データ再収集、最適化………完了。シミュレータの更新を確認。実行、新規ファイル作成、データ共有開始…』

 

 

 

 

 

再び瞼を閉じ束とクロエの操作を受ける。束は自分の一種の傑作になる予感に酔いしれ、クロエは『黒鍵』で機体管制AIのシミュレート結果を確認し他の機能を確認する。

 

 

 

 

 

『修正プログラム、チェック……』

 

 

 

 

 

最後に他の無人機には無い、学習機能とも言えるプログラムを確認し、再びスリープモードへと移行した。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

---

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---side マドカ

少し時間は戻り、スコールが通信室から出て行った直後。

部屋の中でラクスがキーボードを叩いている背後で扉が再び開き、マドカが入ってきた。

 

 

 

 

 

「ラクス、スコールの様子はどうだったか?」

「いつも通りでしたわ。いつも通り、冷静な判断は下せてましたわ」

「そうか。そうでないと困るが。オータムが死亡したことが後々で影響してこなければいいが…」

「ですわね」

 

 

 

 

 

ラクスが画面からマドカに体を向ける。マドカはISスーツの上から作業服を羽織った状態だった。

 

 

 

 

 

「あら、着替えてないのですか?」

「ちょうど『黒騎士』の調整を終えたばかりでな。ラクス、お前も調整しておけ。私の時のデータも残っているだろう」

「あら、それなら済ませましたわ。前回の出撃もありましたし、逃げるくらいなら問題ありません」

「…逃げること前提なのか。狙撃機体なのだから援護くらいしたらどうだ」

「そう言われましても、オリジナルの博士のように肉弾戦が出来るわけでもありませんから。元々バックアップ担当ですし」

 

 

 

 

 

ラクスが今まで表に出てこなかったのは、彼女が後方支援を主に行っていたからである。

マドカが『黒騎士』に乗り換え空いた『サイレント・ゼフィルス』を与えられたが、IS搭乗時間が数えるほどしか無く経験も少ない彼女を戦力として数えるにか心許無い。

そんな彼女ですら作戦行動に従事するほど、『亡国機業』の戦力は少なかった。

 

 

 

 

 

「『ゴーレムⅣ』もロールアウト、『ファミリア』はもう残ってませんが後続機が開発中。スコール様の機体も博士によって改装中ですし、うまく使えば私の出番も無いかと」

「だと、いいがな」

「…もし当初の予定通り、彼がこちら側に来てくれていれば、状況は変わっていたのでしょうかね?」

「ん? 予定とは何だ?」

「あら、そういえばマドカさんは知らされてませんでしたわね。『亡国機業』上層部は篠ノ之 束、織斑 千冬、そして青木 新華の3名のクローンで小隊を組ませたクローニング部隊を作る計画があったのですよ」

 

 

 

 

 

キーボードを横目で操作し画面にある計画書が写された写真データを出す。そこにラクスの言った通りの内容が書かれていた。

 

 

 

 

 

「こんなものがあったのか」

「はい。ですが死人1人作るだけならまだしも、育成と維持に莫大な時間と費用が掛かるとされ一度は白紙に。しかし上層部の個人達はその計画を母国へと流し、最終的にデータ収集の名目で『亡国機業(われわれ)』に固体を譲渡…という予定になってました」

「…そうか」

「しかしそれも、篠ノ之博士と青木 新華本人による攻撃で研究所は軒並み消滅。私とマドカさんは間に合いましたが、梃子摺っていた彼の方は間に合わず。当初の予定は崩れ去った、ということです」

「成程な。確かに奴の戦闘能力があれば、この状況も多少は楽になっていただろうな」

「あら…? あらあら」

 

 

 

 

 

ラクスはマドカの言葉に反応し首を傾げた。マドカはラクスが何に反応したのか分からず、むしろ自分が首を傾げたい気分になりつつ眉をしかめた。

 

 

 

 

 

「何だ、あらあらうるさい」

「いえ、マドカさんが他人を、それも殿方を評価するのをあまり見たことがありませんので」

「……そうだったか?」

「ええ。同性のスコール様にオータム様、サーシェス様相手にも、良い感情は抱いていなかったようですし、ましてや殿方相手になると…」

「…よく見ているものだ」

「ふふっ、後方支援担当は物流だけでなく人も見ることが大事なのですよ? それで、一体どういう心境の変化ですか?」

 

 

 

 

 

ラクスは楽しそうに両手を合わせマドカに言葉を促す。ため息が漏れる。

 

 

 

 

 

「変化も何も無い。まぁ、考えることはあったがな」

「それは?」

「…以前の任務で、奴らの本拠地である『ソレスタルビーイング』の周辺調査をしに行った時だ。運悪く、奴らに見つかってな…」

「あら、そうでしたか。ですが目的は達成したとお聞きしましたが…」

「……地元の人間に案内されれば嫌でも調査を終えられるさ」

「…んん?」

 

 

 

 

 

マドカが小さく呟いた言葉にラクスが改めて頭を傾ける。マドカは先程より大きなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

「なんでもない。…ああ、そうだ。『ゴーレムⅣ』は1機使えるか? 動作や汎用性を実際に確認したい」

「それなら『第3研究室』で確認できますわ。ですが生産は『第2研究室』で行われていますので、隣接した部屋で大きな振動等は」

「そのくらい理解している」

 

 

 

 

 

マドカがうまい具合に話を逸らし部屋を出て行こうとした時、ディスプレイを操作し研究室を確認しようとしたラクスが、あることに気付いた。

 

 

 

 

 

「あら? いつの間にかゲートが開いて…? 篠ノ之博士が居ない? 今のでしょうか…」

 

 

 

 

 

束のラボ『我輩は猫である』が、基地から姿を消していた。

 

 

 

 

---side end

 

 

 

 

 




次回から予告通り決戦になります。突っ込みどころも多々あると思われますが、最後までどうかお楽しみいただけたら幸いです。

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