しかし何故かシャルロットが書いてる最中に脳内にて時雨になる…。提督ではないのに…。
---フランス、デュノア邸フロア
新華は静かに椅子に座っていた。机を挟んだ対面にはデュノア父が座り同じように沈黙している。
「………」
「………」
「(き、気まずい…)」
デュノア邸に着いてから新華とシャルロット達はそれぞれフロアのテーブルと隣の部屋に分けて案内された。女勢は機械系含め全員隣の部屋で男2人だけで対面している。
更識家、ロシアに続いてのご挨拶だが、前2箇所とは違って目に見えないプレッシャーも無く値踏みするような視線も無い。ただ微妙な空気が流れるだけだった。
「(挨拶するのが目的で来たわけだが、完全に話すタイミングを逃した。それにこの空気は初めてだ…)」
「……シャルロットは」
「は、はいっ」
「シャルロットは昔から母親似でね」
2人分用意された紅茶を一啜りしたデュノア父はポツポツとなにやら語りだした。
「君も知っての通りあの子は学校に通っていたとはいえ、家庭的な重圧を強いることになってしまった」
「そう、ですね」
「送金だけで顔も知らない父親はともかく、母親と2人で半ば軟禁状態の別邸暮らし。学校では友人に恵まれたようだが、それでも精神的に辛い事もあった筈だ」
「まぁ、ですよね」
「…ここだけの話、シャルロットにも妻達にも言っていないが時々2人の様子を見に行くことはあったのだよ。出掛ける際に立ち寄ったりと」
「……そうだったんですか」
「良くて1ヶ月に数分だったがね」
そう語り苦笑するデュノア父。親としての後悔が滲み出ていた。
「そんな状況で頼れるのも母親だったのだから無理は無いのだが、見る度に彼女に似ていってね…。まさか男の襲い方まで似るとは…」
「えっ、えっ? まさか、そちらも媚薬を…?」
「流石に媚薬は…。ただ、ハイスクール時代の友人達と飲んでいたら珍しく酔いが回って…」
「酒ですか…」
「後で連中に聞いたら彼女に頼まれて雰囲気を作るのに協力していたらしくてね。『女の涙には勝てない』って」
「うわぁ…」
「うん、まぁそうなんだ。後は君が知る通りになってね? まぁ、何だ。何が言いたいのかというとだね」
改まってデュノア父がテーブルに額を付ける勢いで頭を下げた。
「あの子を、シャルロットをどうか今まで以上に幸せにしてやってくれ。私の分まで」
「ちょっ、そんな頭を下げなくても…」
「いや、あの子の父親として! せめてこれくらいはっ…!」
「頭を下げるのは俺の方ですよ! 寧ろ俺が頭下げに来たのにやめてください!」
新華とデュノア父とで頭の下げあいが始まり、デュノア夫人がやってきて止めるまで5分程続けていた。
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---市街地
デュノア家訪問を終えた新華はシャルロットと機械組と共に市街地をゆったり歩いていた。
「……ふふっ」
「ええい、まだ笑うか」
「だって新華ったら、ふふっ。僕らが隣の部屋に居る時ずっとお辞儀し合ってたんでしょ? 普段とのギャップがね?」
「他人事じゃないんだぞー。でも穏便に済んでよかったよ」
「僕らに関して父さんは何も言えないと思うけどなー」
2人で軽く笑い合いながら歩いており2人だけならば只のカップルの散歩だが、一歩後ろにサヤカと足元にハロ3機、シャルロットの肩にカーバンクルが居る光景、しかも新華はいつものバイザーを着用しているので目立つことこの上なかった。
しかし今はクリスマス真っ最中で町がどこか浮ついているので、そんな奇妙な集団も『割りと目を引く』程度で騒がれる程ではなかったのは幸いだった。
「お二方、この後の予定までまだ時間もありますがどうしますか?」
「ん? んーそうだなー…」
「あ、じゃあさ! 僕がこの辺りの案内をするよ。新華は来たことあるって言ってたけど、あまり時間掛けて見て回るなんてしてないでしょ?」
「あー、確かに早朝ランニングを1回したけど軽くだったしスケジュールキツキツだったな…」
「なら行ってみようよ! ほら、早く! 時間も限られているんだしさ!」
「おっ…とと。まずはどこから行くんだ?」
「んーと、僕が行ってた学校なんていうのは?」
「おっけ。んじゃ行きましょうかね。案内よろしく」
シャルロットに手を引かれ笑って散策へと繰り出す新華。この後には再び軍の方に行く予定になっているが、時間もあるし何よりシャルロットが楽しそうであるからよしとした。
「学校まではやっぱ徒歩で?」
「ううん、自転車だったよ。あまり外に居るのもダメだって言われていたし、母さんから乗り方は教えてもらっていたしね」
「ほうほう。ん? その言い方だと毎日直帰になるんじゃないのか?」
「そうなんだけど、ほら新華覚えてる? 以前僕と一緒に大変な目に遭った人」
「ああ、居たな」
「彼女が色々と教えてくれてね。帰りに寄り道とかおしゃべりしながらとか」
「ほー」
新華が思い出すのはシャルロット救出にしてジニン、ワーカー、ソンネンをスカウトする切っ掛けになったあの日である。
シャルロットの隣に巻き込まれた女子が1人居たのを確かに覚えている。同時に自分の事を口止めしていたのも。
「そういやあの時の俺を見てビビッてたみたいだったな次に会った時に叫ばれなければいいけど」
「大丈夫だと思うよ?(あの件で新華を気にしていたけど、言わなくてもいいよね?)」
シャルロットが友人の事を思い出して新華の腕を抱く。彼女には感謝している部分もあるし巻き込みで引け目もあるが、もう彼は彼女らのものである。
「まぁでも一応会った場合、騒ぎにならなきゃあの時の謝罪とその後黙っててくれた礼も言っておくか」
「そうだね。彼女はこの地元の家だしクリスマスだからね。ひょっとすると本当に会えるかも?」
「彼氏が居て同じようにデートしてたりとか?」
「いや、大丈夫だと思うよ」
「おん? そうなのか?」
引っ付いたままサヤカを引き連れ2人の散歩は進んでいく。
シャルロットが通っていた学校を見て、彼女の当時の思い出を聞いていく。進学して新たな環境に慣れようとしたこと。だけどデュノアの名がそれを邪魔していたこと。それでも友達になってくれた人達が居てくれたこと。通学以外で外を出歩かせてもらえなかった自分が、友人と出歩いて遊んだこと。
「でね、歩きながらお店を回っていたんだけど僕はお金を持ってなくてさ。ちょっと笑われちゃったけど、その時に食べさせてもらったパンはおいしかったなぁ」
「買い食いは癖になるもんなぁ。大学の帰りに連中と初めて食ったコンビニのから揚げ、今でも忘れられんし」
「そうそう。お母さんに内緒で家をこっそり抜け出したり」
「帰ったときに何故かばれたり」
「そうそう! あっ、ここがそのパンのお店だよ」
そう言ってシャルロットが指差したお店は、他の店に漏れずクリスマスの装飾が施されクリスマスツリーが1本立っていた。
「いい匂いだな…。そういやそろそろ昼か」
「あっ、本当だ。…食べて行く?」
「そうしようか」
「私達はどうしましょうか」
「……大丈夫だとは思うが、込んでるかもしれないし一応ハロは仕舞っておこう」
「分かりました」
新華はハロOから自分の財布を取り出してパン屋に入る。店内に入ると香ばしいパンの香りが食欲を掻き立てた。
店内には既に何人の客が入っており、アルバイトだろうか同い年くらいの男女1組がエプロン姿で忙しそうに働いていた。
「いらっしゃいませー!」
「(ん? どっかで聞いたような声が…)」
「(初めて見るけど新人さんかな?)相変わらずおいしそうだなぁ。すいません、今日の店長のお勧めは?」
「はーい! 今日はクロワッサンがおいしく焼き上がってますよ!」
「ありがとう。じゃあ、それを買っていこう。他においしそうなのは~…」
店長のお勧めというクロワッサンと他多数のパンを選びレジに並ぶ。カウンターの奥からは今も追加のパンを焼いているのだろうか、胃を刺激する匂いが漂ってきていた。
「ここは人気があるからね。もう少ししたらお客さんももっと入る筈だよ」
「その追加分か。匂いで美味いのも分かるなら、そら人気も出るわな」
新華が注視すれば店内で働いている2人は焼きあがるパンを置けるようにしつつお客の邪魔をしないように動いていた。2人共に明るい笑顔で接客しているのも人気の理由の1つであろう。
と、観察している間にカウンターの奥から1人の男性が焼きたてのパンが入った業務用のケースを運んでくる。
「追加焼けたぞ! トビア、ベルナデット! 頼む!」
「分かりました!」
「はーい!」
「(トビア、ベルナデット…? …クロボンか! じゃああっちのパン焼いてたのとカウンターのはF91の…)」
「? 新華、どうかしたの?」
「アレですよ、ご主人様の人材センサーに引っ掛かった感じです」
「あぁ…、癖になっちゃってるのか」
「そういうことです」
新華が意外なガンダム勢に驚いている横でサヤカがシャルロットの疑問に答えるように誤魔化す。実際のところF91やクロスボーン本編のような事が起きてスカウトのチャンスが巡ってくるのなら、新華は迷わずスカウトしてF91を開発していただろう。
その後サヤカが多くの怪訝な視線に晒されたが何の問題も無くパンを購入して近くの公園に移動した。
「おいしいねぇ」
「そうだなぁ」
ベンチで仲良く座り腹ごしらえ。新華を挟んでサヤカとシャルロットが座り、それぞれ膝の上にハロα、O、カーバンクルが乗っていた。
「焼きたてだからホクホクしてて腹から温まってくるわな」
「あったかいねぇ。ねぇ新華、この子に食べさせたり出来ないよね?」
「クゥ?」
「あー…、流石にその辺は無理だなぁ。純機械だし、やるとすれば生体ユニットとか空想の域になるし」
「それもそっか。新華ならやりそうだと思ったけど」
「そこまでしねぇっての」
談笑しながら腹を満たし、寄り添いつつ冬空を見上げる。
「ふぅ…」
「多めに買い込んだけど全部食べちゃったね。次はどこに行こうか?」
「そうさな…。この辺は大体見終わったし…」
「そうなんだよねぇ…。あ、サヤカちゃん?」
「はい、なんでしょう」
「この後の新華の予定ってどうなっているの?」
「おい、シャルロット?」
不意にシャルロットがサヤカに新華の予定を聞く。サヤカは新華の秘書のようなものなので予定もしっかり管理している。ただ新華は全部頭の隅に入れているので普段はあまり意味が無いのだが、今日に限っては全面的に忘れて楽しむことにしていた。
「今日はこの後に以前と同様、フランス軍IS部隊へ出向ですね。その後の夜もフリーですが今日はホテルではなく、ご実家で宿泊の筈です」
「そう。ねぇ、僕も一緒に行ってもいいかな?」
「シャルロット?」
「今僕のラファールが改修されてる最中なんだけど、新しい機能が追加されるらしいんだ。軍の方は後継機が配備されたって聞いたし、1度代表の人と会ってみたいしね」
「……いいのか?」
新華はシャルロットの提案に怪訝な声を出す。折角のデートを早めに切り上げて自分の仕事に同行することになってもいいのか、と。
「もう少しこのままがいいけどね? でもどうせ新華の予定で離れる時間があるなら、理由付けて一緒にいればいいかなって」
「あーうん、確かに仕事になるからサヤカ連れて行こうとは思ってたけど…」
「それに今の内に新機能の確認とテスト終わらせておけば、IS学園に戻ってからテストしなくてもいいし? その分こうして一緒に居られる時間も増えるし」
「あ、そうか。そういう手もあるんだな」
「帰ってから何があってもいいように、万全な状態にしておきたいっていうのもあるけど」
そう言ってシャルロットは新華の目を覗き込む。バイザーがあってもちゃんと目を合わせられた。
「近いうちに何かあるんでしょ?」
「!」
「新華と楯無さん、それに織斑先生達がどこかせわしなくしてるのに、僕らが気付いていないと思った?」
「僕らって、簪もか?」
「勿論。今日はちゃんとデートに集中しててくれたみたいだけどね」
そう言うシャルロットの目は新華の心を見透かしているようだった。新華は肩を竦めた。
「分かったよ、俺の負けだ。ちゃんと話すよ」
「本当?」
「予定全部終わらせてシャルロットん家に戻ってからな。帰国してから簪にも話すし、最終的にはIS学園の主要メンバー、CBの連中にも話すことになるしな」
「……また、戦い?」
「ああ。だが、今までのとは違う戦いだな。なんせ------」
新華が息を吸い込むのと同時にシャルロットも唾を飲んだ。
「------今度は俺達が襲撃する番でなんだからな」
この後無事にマーベットさんは圧倒されました(←オイ
そういえばシーブックとセシリーの2人の子供は『ゴースト』でリガミリティアに参加したという記述があるんですよね。まぁこの世界じゃザンスカールは居ませんし(マリアが居ないとは言っていない)、MSに乗る理由も機会もその子供達には……自分から志願しない限りありませんし。現に両親は全く関わっていないという。
さて、次回一旦亡国視点挟んで決戦を書こうと思っています。もうどれくらいの人がこの小説を読んでおられるか分かりませんが、完結はしっかりするつもりです。
次回の更新も遅くなりそうですので、毎度拙い文章ですがご了承下さい。