IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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147話の投稿ー。サブタイのネタが思い浮かびませんでした…
最近思ったんですが、新華ってMS販売のやり方に失敗したらアイアンマンになりそうかなと。
深い意味はありません。


11月上旬

 

 

 

 

 

---放課後、食堂

新華が先生達に呼ばれどこかに行っている間、それ以外の生徒会メンバー+専用機持ち達は食堂で1つの話題で頭を悩ませていた。

11月に入った今彼女らを悩ませるのは今月に迫った新華の誕生日である。

 

 

 

 

 

「さて、こうして集まってもらったところで新華君の誕生日について話を始めましょう。と言っても、去年まではどうしていたのかとかプレゼントは何がいいかとかパーティーはどこでする? とかだけど」

「去年まではなぁ…」

 

 

 

 

 

刀奈が場の纏めと進行役をやり副会長である一夏が思い出して遠い目になる。そして去年までの事態を覚えている鈴も遠い目になった。

 

 

 

 

 

「去年までは、ねぇ…」

「えっと、なんだか聞くのが怖いけど、どうだったの?」

「「居なかった」」

「「「「「「「「えっ」」」」」」」」

「当時は放浪癖って言ってたけど、今考えるとソレスタルビーイング行ってたり束さんとどこかに行ってたんだろうなぁ」

「誕生日を祝う事自体は毎年出来てたんだけど、新華が当日居る事って無かったからね…」

 

 

 

 

 

一夏と鈴の幼馴染2人が思い出すのは、多くの女子達が新華が居ないことを残念がる光景だった。

 

 

 

 

 

「『平日だから学校に居るだろう』って思うでしょ? 居ないのよ。それも誕生日を見計らったように居なくなってたのよ」

「千冬姉がドイツ行ってる時はずっと新華の家で世話になってたし、その後も結構泊まる事多かったけどさ、うん。実質外出てるか離れにおじさんと一緒に作った製作小屋で何か作ってるか、もしくは部屋で映画観てばっかだったなぁ」

「……ごめんなさい、外出の原因の一端は私にもあるかも…」

 

 

 

 

 

割と暗部の仕事の依頼もしてた刀奈は顔を逸らす。仕事ついでに新華を誘惑したり手ごたえが無くとも諦めずデートに誘ったりと時間を浪費させていたのを考えると後ろめたかった。特に簪とシャルロット相手に。

 

 

 

 

 

「ま、まあまあ。寧ろ私の姉さんが迷惑掛けっぱなしだったようでしたし…。この話は置いておきましょう」

「そ、そうね。じゃあ次はプレゼントなのだけれど、どうしましょう…」

「本気で難しい問題出してきましたね…」

 

 

 

 

 

今度はゲンドウ姿勢になり顔を伏せる。簪とシャルロットも頷いて刀奈に共感する。

 

 

 

 

 

「いやね、自分で考えなさいって思うでしょうけど本当に難しいのよこれ。ほら、新華君って基本自分でなんとかしちゃうし欲しいものって言ったらプラモデルとか映画DVDとかでしょ? でもそういう嗜好品は新華君本人に直接選んでもらう方が喜んでもらえるし…」

「あのデートの時でそれは証明済み。となるとそれ以外でってことになるけど…」

「それ以外でプレゼントって、思いつかないんですよね…。何か思いついたとしても新華なら自分で買ったり作ったり出来ちゃうものばかりで」

「あー……。そ、それならいっそのこと新華さんご本人に何が欲しいか聞いてみればよろしいのでは? その、こうして新華さん抜きで話していたとしても、えぇっと、隠し通せるとは思えないので…」

 

 

 

 

 

刀奈、簪、シャルロットの3人が頭を抱えるのを見かねたセシリアが提案するが

 

 

 

 

 

「実はね? さりげなく聞いたことはあるのよ。今欲しいものってある? って。そしたらね? 『もう全部ある』って言って抱き締めてくれてね? ぎゅーって」

「あ、はい」

「うん、言いたいことは分かるし嬉しいのよ。嬉しいのだけど、ちょっとこういう時に困るのよね」

「あー…。新華、現状で満足しちゃってるからねー…。いや、もうチョイ時間経てば欲も出てくるんでしょうけど、今はねー…」

「我々が遠くから見ても新華が生き生きとしているのが分かる分、何も出来ることが無いのか。いいことではあるが、確かにこういった場合は困るな」

 

 

 

 

 

鈴やラウラも考えるが、一夏の時と違い新華に対するプレゼントとなると思いつくものは少なかった。

最も、現状こうして考えてもらえているという事実だけで新華本人にとっては『貰っている』ことになるのだが。

 

 

 

 

 

「それで新華君に聞くより、今まで何かあげたであろう織斑君に聞こうと思ってね。参考にしたいの」

「参考って言っても俺達だって悩みましたし…。去年は受験でそれどころじゃありませんでしたし、一昨年は…確か筋トレ器具を皆で小遣い出し合って買いましたね」

「ああそうそう、そうだったわね。今でも使ってるみたいだったけど、アイシングとか持ってなかったみたいだったしね。それもあった今は筋トレ器具一式揃ってるだろうし、この手は使えないわね。アイツは足りなくなったら自力で補充するでしょうし」

「ぬぅ、選択肢が更に削られたわね」

「わたしは~お菓子あげようかと思ってるけどね~」

 

 

 

 

 

一夏と鈴の言葉からトレーニング器具を除外する。本音がいつも通りのテンションでのほほんとしているが刀奈達の悩みが晴れることはない。

あーでもないこーでもないと話し合って時間が過ぎていく。プレゼントの事は後回しにして会場や内容について話を詰めていくとそれなりに時間が経ったのか新華が戻ってきた。

 

 

 

 

 

「あ、新華君。おかえりな…さい」

「ど、どうしたの新華?」

「………いや、なんでもねぇ」

 

 

 

 

 

暗い雰囲気を纏った状態で窓際の椅子にどっかり座る新華。大きなため息を吐いて天井を見上げる。サヤカも出てきて新華の隣に座った。

 

 

 

 

 

「あー、くそっ」

「…何が、あったの?」

「………」

「…ご主人様」

「分かってる。だけど、これはな…」

 

 

 

 

 

姿勢を戻すと明らかに荒んでいる雰囲気を抑えようと首を振っていた。それを簪が駆け寄り手を握ることで鎮める。

 

 

 

 

 

「これで、大丈夫…?」

「ああ、ありがとう」

「…一体何が?」

「…今から話すよ」

 

 

 

 

 

空いている手が無意識に作っていた拳を解き落ち着く。そして先生に呼ばれていた要件の内容を話した。

 

 

 

 

 

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---30分前、障害物が並ぶ第1アリーナ

そこに2体の鋼鉄の体を持つ人型が存在していた。そこに在ることが当然と言うように自身の存在を隠すことなく、自らの獲物を探していた。

片方の固体は全身が銃器を装備した黒光りの装甲に覆われ肩口から腕にかけて肥大な『銃人』。

もう片方は『銃人』よりも滑らかな曲線と洗礼されたフォルムを持つ、パラベラム達が『銃騎士』と呼ぶそれだった。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

その2機を障害物の影から覗き様子を伺う者が1人。装甲に覆われた右腕で拳銃を握り締め、2機を射殺さんばかりの視線で睨んでいる新華。歯を噛み締めイド・アームズ『ライフ・ジャッジメント』を握る力を強める。

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

一気に体に力を込め影から飛び出す。当然2機とも反応し新華に銃口を向けるが、新華が引き金を引く方が早かった。

ダンッダンッダンッと『対構造物鉄鋼弾』が放たれ正確に『銃人』の肩を撃ち抜く。『銃人』は動きを止めてしまうが『銃騎士』はその間に発砲していた。

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

新華は冷静に判断し走り出す。『銃騎士』が撃つ弾から逃げるよう楕円の軌道で走り動きが固まったままの『銃人』へと向かう。

内観還元力場により通常よりも高い身体能力を発揮し跳躍、『銃人』の上に乗ると頭頂部から真下に向け引き金を引く。

ガンッガンッと2発撃ち込み貫通、撃破した新華は『銃人』から飛び降りた。直後『銃騎士』の機関砲が放たれ、直線状に立つ形にされた『銃人』が弾幕に晒される。

新華は『銃人』を盾にしている状態でP・V・Fの弾奏を交換し構える。

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

 

そのまま力の限り『銃人』に銃身を捻じ込み貫通させトリガーを引いた。『対構造物鉄鋼弾』は『銃騎士』の頭部に命中し破壊される。

 

その装甲の中から、人の頭部は確認出来なかった。

 

頭部を失った『銃騎士』は乱射したまま後方に倒れる。仰向けに倒れた後も弾を吐き出し続け、弾切れになる前に『銃人』を投げ捨てた新華によって腕と胸部を撃ち抜かれ、その機能を完全に停止させた。

新華は冷え切った瞳で2機の残骸を見つめる。内部に人体があった形跡は無い。だがそれらが存在していたという事実。そしてそれを『作った』のが今居る場所と考えると

 

 

 

 

 

「……っ糞が…!」

 

 

 

 

 

拳をつくる手に自然と力が篭る。行き場の無い怒りが駆け巡りP・V・Fの表面が粗くなる。と、そこに通信が入る。

 

 

 

 

 

『あ、青木君! 壊したら駄目だって言ったじゃないですか!』

「………」

『…青木君?』

「……すいません」

 

 

 

 

 

新華は通信を入れた先生の言葉に返事をしたが、その声は暗く相手をたじろがせる。

 

 

 

 

 

「すいま、せん。ちょっと、黙っててもらえますか…!」

『!?』

『---ご主人様…』

「大丈夫、大丈夫だ…」

 

 

 

 

 

サヤカの心配していることが伺える脳量子波が届くが、新華は行き場の無い怒りを鎮めるように大丈夫と返事を返すだけだった。

 

 

 

 

 

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「『銃人』の修復に『銃騎士』の開発ですって!?」

「声が大きい。まぁ、理由は俺にあるかもしれんから分からんでもないのが、また、な」

「え?」

 

 

 

 

 

刀奈の驚く声の後に新華が自嘲する声が続いた。その言葉にシャルロットが疑問の声を上げる。

 

 

 

 

 

「まず前提としてだが、別に俺は無人機を完全に否定してねぇ。人員不足とかもあるが、『ゴーレム』シリーズのように能動的に使用するならともかくソレスタルビーイング(うち)のように防衛目的で使用するなら問題は少ない」

「そういえば使ってるんだっけ」

「ああ。さっき破壊してきた2機も中に人など居ない完全な機械だった。聞けば『銃人という脅威に対応するためのマニュアル製作』の為に修復していたらしいし、『銃騎士』に至っちゃ『ゴーレムシリーズの発展性を考慮し銃人の発展型が出てくる事が予想される』事における『シミュレータ』として作ったらしいからな」

「そういえば、最初の無人機との戦闘から半年しか経ってないものね」

「ああ。だから向こうの技術の進歩に焦ったんだろう。俺が1回撃墜された時、楯無会長、お前も対人戦で負傷したんだろ?」

「…ええ」

「装備を整えた人間の集団でもIS搭乗者を負傷させられるんだ。そこに『銃人』も加えたり、更にISに乗らない一般生徒達を標的にされた場合…」

「IS非搭乗時の身体能力が大したことのない生徒達は、あっさり蹂躙されてしまうでしょうね」

「そうだ。…多分。俺が撃墜された時の光景が先生方の意識を変えちまったんだろ」

 

 

 

 

 

視線を中空に投げて溜息をもう1度吐く。

 

 

 

 

 

「いつまでもISだけに頼っていたら助けられるものも助けられない。それを分かったんだろう。だから修復してデータを採りマニュアルを作成しようとしたんだろうよ」

「でも、新華はそれを壊したんだろ? データも採れないんじゃ…」

「俺が先生方にぐぅの音も出ない完璧なレポート仕上げてたうえで質問に答えるってことで手打ち。残骸からパッチワークで組み上げて回収していた『ゴーレム』のパーツも使っていたらしいし、ここじゃもう作れんだろうよ」

「そっか」

「ああ」

 

 

 

 

 

安心する面子と背伸びをして脱力する新華。そしてすぐ隣に居た簪をひょいと膝の上に抱き抱える。

 

 

 

 

 

「あっ」

「あー駄目だ。やっぱずっとこうしていたくなる。離れたくぬぇえ」

「…ものの見事にシリアスが吹き飛んだ件」

「今更でしょー。…うん、前にサヤカが言ってた通り反動が凄いことになってるわね。ここまでくると素直に賞賛するわ」

「そうだな…。もし、道場に通っていた門下生が今の新華を見ればひっくり返るだろう事が易々と予想出来るぞ」

「今更ですわね」

「今更だな」

「刀奈とシャルロットも来るかー?」

「「行くー」」

 

 

 

 

 

嫁が大好き過ぎる新華と旦那大好き過ぎる刀奈達を放置して一夏達は話題を変更する。内容は来月に迫った期末試験のことである。

 

 

 

 

 

「もう11月だし期末も近いよなー。クリスマスの話題ももう上がってるけど、俺達学生はテストの勉強しないと」

「どこの学校でも同じでしょ。また前期の時みたいに勉強会する?」

「いいですわね。また皆さんで苦手なところを補い合いましょう」

「筆記以外にも実技試験があるからな。それに向けてまたアリーナが混雑するようになるだろう」

「こういう時に専用機だと機体申請せずに済むから楽ではあるな」

「…そういえば2、3年生の授業やテストってどうなっているんですか? 入学したばかりの時から量産機の争奪戦でしたけど」

 

 

 

 

 

一夏が新華達とマイペースにお菓子を頬張る妹を見て頭を痛めている虚に話題を振った。

虚は眉間を押さえる手を戻し姿勢を正して質問に答えた。

 

 

 

 

 

「2年生は生徒会長が例外なだけで織斑君達とあまり変わりません。授業の復習を行い実技で失敗しないよう実機で練習したりイメージトレーニングをしたりといった感じです」

「生徒会長は随分と余裕そうだけど」

「授業の度に内容を理解して覚えているそうなので。その証拠と言いますか、定期試験における成績の順位は常に1位でいらっしゃいます」

「生徒会長は伊達ではない、ということだな」

「そういうことです。次に3年生ですが、こちらは学生最後の1年間ということで卒業と帰国の準備を始める生徒が大半を占めます。ですが自身の評価はそのまま母国からの評価に繋がるので手を抜く者は殆ど居ません」

「当然ですわね」

「ですが、それらの生徒は皆様のように代表候補生であったり国の支援を受けて入学している者です。逆にそれ以外の、自力で入学したような生徒は進学や就職活動、試験の板挟みで苦しみます」

「就職活動、ですか」

 

 

 

 

 

以前にも新華が言ったことではあるが、IS学園は工業高校の面を持っている。虚の言った通り国家の支援を受けている代表候補生などの生徒は成績がそのまま国からの評価に繋がるが、帰国してから再度実技評価が待っているのでそちらの方を重要視する者が多い。

だがそういった後ろ盾が無い本当に一般の生徒達は、概ねIS学園以降の進路が決まっていないので大学受験の勉強や就職活動を行う必要があった。ただしIS学園卒業生という実績はそのままアドバンテージに繋がるので、進路先を選り好みせず慢心しなければ問題は無い。

ただし慢心している場合はどれだけ優秀でも面接で落とされるうえ、ISというブランドに酔っている者は選り好みしまくりなので一部悲惨なことになる。

それでも進学、就職率は9割いくのだが、そもそも生徒の大部分が入学の時点で国家の後ろ盾を持ってるのであまり意味は無いだろう。

 

 

 

 

 

「IS学園といえど受験や就職活動は他の一般人と混じって行うのでストレスも溜まります。そこに定期試験なので毎年ノイローゼになる生徒は一定数出るようです」

「ふむ、進路か。考えたことも無かったな」

「そっか、ラウラは最初から…」

「うむ、軍人以外の選択肢は無かったうえ、卒業後も軍に戻るだろう。これでも一部隊を率いる身だというのもある」

「わたくしも国家代表への努力をすると同時に家の事もありますから、全く考えませんでしたわ」

「アタシだって軍に入ったようなものだしねー。そこから頑張って勉強したり特訓したりでここまで来たんだし」

 

 

 

 

 

ラウラ、セシリア、鈴は進路が既に決まっているので心配はしていないが、対する一夏と箒は進路がどうこう言えた立場ではなかった。

 

 

 

 

 

「俺の時はどうなるんだろう。白式あるけど、やっぱり千冬姉みたいに日本所属になるのか?」

「私の場合は……碌なことにならないのが目に浮かぶな。自業自得とはいえ、3年生になった時が不安だ。最も、今も昔も私に選択権は無かったが」

 

 

 

 

 

比較的一夏は楽観視しているが、箒は既に諦めの境地に居た。これまでの騒動や人間関係の問題を経験したせいで精神が急激にレベルアップしたことが大きいが、それ以前に束のせいで人生滅茶苦茶にされた、ある意味最大の被害者故の諦めかもしれない。

 

 

 

 

 

「あー、アンタの場合はね。一夏はともかく『紅椿』がヤバ過ぎだから…」

「確かに篠ノ之さんの場合、第4世代型ISもそうですが、やはり篠ノ之博士の妹という時点でどうしようもないかと。『紅椿』も技術的な意味でも厄介ですが、それ以外にも篠ノ之博士との繋がりの証明でもありますから」

「そう、でしょうね。若気の至りにしては、致命的過ぎますね…」

「まぁワンチャンあるけどな」

「「「「「「えっ」」」」」」

 

 

 

 

 

離れたところで地味に聞いていた新華が会話に割り込んだ。今はシャルロットを抱き抱えているせいでなんとも締まらない。

 

 

 

 

 

「全部の原因たるヤツをひっ捕らえりゃ問題は『紅椿』だけになる、が。その『紅椿』も開発者のヤツを捕らえりゃサンプル品、もしくは見本に成り下がる。そこにウチのMSで価値を下げればトドメよ」

「つまり、束さんをどうにかすれば箒は」

「自由の身……といかないのが現実なんよ。過程や理由はどうあれ『紅椿』は箒の専用機だ。良くて一夏と同じ所属国家で揉めるくらい。逆に言えばそれさえ乗り切れば今までのような窮屈な思いしなくて済む。柳韻(りゅういん)さん達呼んでまた道場開くことも夢じゃねぇかもな」

「なっ、そ、それは本当なのか!?」

 

 

 

どこに居るのか未だに知らされていない父親の名と、かつての日常を想起させる未来図に箒は思わず声を上げる。

 

 

 

「本当よー。今も篠ノ之ご当主夫妻は保護プログラムで日本国内を転々としているけど元凶の篠ノ之博士を捕まえて責任取らせれば、後は政治家や私達のお仕事。新華君に手伝ってもらえばあら不思議ってね」

「道場の建物も残ってるし今でも祭りに使われたりと地元の問題は無し。門下生は新規で頑張るくらいしかないが俺や千冬さんが居たって情報が流れりゃ一瞬で満員御礼になるだろ。その後持続するかは知らんが」

「だけど、全部元通りという訳にはいかないのよねー。戻るには篠ノ之博士はやりすぎた。ケジメは、公式の場で付けてもらわないといけないからね」

「そのフォローにMSが使われると。まぁ、千冬さんも居るし技術発展に貢献うんたらで最悪の事態にはならんだろうよ。なったらなったで色々問題出るし」

「ほ、ほぁー…」

 

 

 

 

 

新華と刀奈の言葉の嵐に箒は変な声を上げてしまう。自分の思考の外で濃密な政治的会話をされて置いて行かれているというのもあるが、再び親と暮らせるという事と再び道場を開けるという希望がいきなり提示されてオーバーフローを起こしてしまったのであった。

箒の、それはそれは珍しいマヌケ顔が晒されているが責める者は居ない。

 

 

 

 

 

「しっかし就活ねぇ。……とことん縁が無かったな、俺」

「? 縁が無いも何も、アナタは採用する側でしょう」

「あー…えー、まぁそうなんですけど。えっと、俺のは採用と言うよりスカウトばっかで新卒受け入れるってのは、まだやってないって意味でして」

「ああ、そういう」

「もちっと地盤固めてMSを発表出来たら新卒採用も考えますけど、それまでは今のままですかねー。それにMS以外にも開発したいものとかありますし、人手が足りるようになればルイードさん達を派遣って形で出身国に帰してあげられますし」

 

 

 

 

 

新華は一度も就活を経験したことが無い。そもそも20歳になったことが無いので仕方ないといえば仕方ないのだろうが、これからソレスタルビーイングを運営していくうえで雇用は必要なことであり重要なことである。不安や懸念も多く経験も無いので、新華は内心ビクビクだった。

 

 

 

 

 

「えっと、そしたら布仏さんは進路決まっているんですか?」

「ええ。というのも、生徒会で進路が決まっていないのは織斑君と本音くらいですよ?」

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 

 

 

 

虚の言葉に一夏達は驚きの声を上げる。が、すぐに本人達を見て納得した。

 

 

 

 

 

「ああ、進路ってそういう…」

「永久就職、か」

「いえ、それもありますがそうではなくて。そもそもお嬢様はロシアの国家代表ですし妹様も日本の代表候補生、デュノアさんもフランスの代表候補生でデュノア社の一人娘。青木君は言わずもがなですから」

「…改めて、凄いメンバーですわね」

「のほほんさんは進路とか考えてるのか?」

「ん~?」

 

 

 

 

 

一夏が本音に話題を振る。本音は相変わらずのほほんという感じだった。

 

 

 

 

 

「とりあえずかんちゃんやおねーちゃんと仲良く出来てればいいかな~? それに~、まだそこまで考えてないよ~」

「確かに1年生の時から考えるのは大変よろしいですが、考えてばかりで足元がおぼつかない状態では考えた時間も無意味になってしまいます。試験の時は試験に集中する方がよろしいかと」

「ですよねー。結局は地道に努力するしかないって事ですか?」

「概ねそれで合ってます」

「だが、視界が広がった感じはするな。同時に考えることも増えたが、有意義ではあった」

「そうね。私もいつかはIS降りるんでしょうし、その時の事も考えて過ごすっていうのもアリね」

「ふむ、確かにそうですわね。あまりに目先のことばかり気にしていた気がしますわ。日本に来て良かったと思えますわね」

「確かに視野が狭いと指揮で部下を犠牲にしかねん。……今度クラリッサの言っていた『聖地秋葉原』とやらにでも足を運んで視野を広げてみるか…」

「「「「「それはやめておこう(おきましょう)」」」」」

 

 

 

 

 

虚が年上の貫禄(くろうにんぞくせい)を遺憾なく発揮し、密かに弾と話そうと考えながら溜息を吐き食堂を見渡す。

一夏達は試験の話題から離れ別の話しをしており、新華は刀奈と簪とシャルロットとイチャイチャしまくっていた。本音はいつの間にかどこかに消えていて、他に生徒は居なかった。

 

 

 

 

 

「(あら、もしかしてこの場所から逃げるタイミングを逃した?)」

 

 

 

 

 

虚の安寧はやはり弾に掛かっていた。

 

 

 

 

 

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---アメリカ某所、処刑場

その場に多くの人間が集まっていた。各新聞社のパパラッチとISに携わる会社の高官、政治議員に大統領。

そして軍高官達に国家代表であるイーリスやナターシャを始めとするIS代表候補生達。

そして、痛んだ長い金髪に生気の無い目、囚人服を着せられたオータム。

 

 

 

 

 

「これより死刑囚の処刑を始める」

 

 

 

 

 

執行官の宣言でオータムが処刑台に連れて行かれる。IS組には予めオータムがどういった人物かを教えられており、今回の処刑は一種の見せしめだった。

イーリスやナターシャはオータムを連れて帰った本人達で、オータムの本性を知っている。だからこそ短期間で変わり果てた彼女の姿を見て驚きと戦慄を抱いた。表面上には出さないが、代表候補生達にはそれ以上の衝撃があったようで騒がしくなる。

だがそんな醜態を晒すIS組に目もくれず執行の準備は進められていく。処刑用に立っている金属棒に両手両足を縛られ、男軍人達が銃を構える。

 

 

 

 

 

「死刑囚は何か言い残すことはあるか?」

「……」

 

 

 

 

 

執行官の問いにオータムは答えない、否答えられない。彼女は新華に肉体内部を、アメリカに連れてこられてからは捕虜という名の性奴隷として扱われ、体も心も完全に壊されていた。

虚ろな目は何も映さず反応しない。それを知ってか知らずか執行官は恐ろしく感情が篭っていない声で進めていく。

執行官が手を上げると軍人達が一斉に銃口を彼女へ向ける。代表候補生達が更に騒がしく、煩くなった。

 

 

 

 

 

「よし、撃---」

 

 

 

 

 

執行官が手を振り下ろそうとした直後、上空で大きな爆発が起きる。その爆発と同時にIS組が集まっていた場所からイーリスとナターシャが専用機で飛び出す。

 

 

 

 

 

「敵襲ー!」

「撃てええええ!」

 

 

 

 

 

爆煙の中から2機のISが飛び出すが一歩遅く、執行官が憎しみを曝け出して腕を振り下ろし声を上げる。

鋼鉄同士がぶつかる音がすると同時にパパパンと発砲音がした。そしてオータムと軍人達の間に金色の装甲を持ったISが落ちて来た。

 

 

 

 

 

「っ、オータム!」

 

 

 

 

 

修復された『ゴールデン・ドーン』の搭乗者であるスコールは恋人の名を叫び、彼女が居る筈の方向を見た。

そこにあった(・・・)のは、体に穴を開け血を流している1体の死体だった。

 

 

 

 

 

「ああ…ぁああああああああああああああ!!!!!!!」

「大人しくしろ、スコール・ミューゼル!」

 

 

 

 

 

悲痛な叫び声を上げるスコールを挟むようにイーリスとナターシャも地面に降りる。同時に軍人達や政治家達は避難していく。

 

 

 

 

 

「オータム、オータム! よくもオータムを…!」

「……テロリストなんだからマトモな扱いされる訳ねぇだろ。いや、確かにドン引きだったがよ」

「哀れね。でも、自業自得よ」

「よくもよくもよくも! 殺してやる! 殺して---っ!?」

 

 

 

 

 

スコールが自身の周りに火球を大量に浮かべた。しかし直後その火球が撃ち抜かれ爆発を起こす。イーリスはそこから距離を取り、ナターシャは福音が光の翼を展開することで無傷だった。

爆発の衝撃が自身に伝わった事に驚きながら、スコールは背後を見る。そこには3機の凸顔のISよりスリムな機体が1機と、4ッ目の機体が2機、大きな銃を向けて存在していた。

新華が販売した機体『レイスタ』とアメリカが『ジンクス』のデータを交渉で手に入れて製作した『コピージンクス』だった。

 

 

 

 

 

「も、モビルスーツですって!? しかも、これは!?」

「IS、覚悟!」

 

 

 

 

 

『レイスタ』と『コピージンクス』の3機小隊が散開し試作型ビームライフルと対戦車ロケットを撃つ。それと同時にイーリスとナターシャも攻撃を行う。

 

 

 

 

 

「油断するな! ここで確実に仕留める!」

「今日は逃がさないぜぇ!? 『亡国機業』さんよぉ!」

 

 

 

 

 

四方から射撃攻撃が飛び、真上でナターシャが光の翼を展開したナターシャが行動を制限する。夏合宿の時に強制的二次移行したお陰か現在の福音はワンオフアビリティーが自在に使えるようになっていた。

光の翼(シャインウィング)』。V2のそれと福音が元々持っていたビットが同時に展開されている状態で、エネルギーの消費こそ激しいが威力と効果範囲は折り紙付きであり、福音の自我が確立され操作しているが故にエネルギーロスは考えなくてよいという鬼畜仕様である。無論こうなったのは新華のせいである。

さて、そんな状態の中で後方に居た代表候補生達もISに搭乗し戦場に出ようとした。いくらスコールの腕が良くISの性能が高いとはいえ戦いとは数である。苦し紛れに攻撃する隙を見つけ火球を放とうとするが、全て撃ち抜かれ意味を成さなかった。

 

 

 

 

 

「くっ、ですが『プロミネンス・コート』を破る事など…!」

『やはり、こうなりましたわね』

「!? クライン、あなた、どこに」

『3秒後に斉射しますので何とか『銀の福音』を突破してくださいませ』

「ま、待ちなさい! まだ、オータムが」

『3、2、1…』

「ぐっ、ああああああああ!」

 

 

 

 

 

ラクスの通信がスコールに届き、きっちり3秒後にレーザーとミサイルの雨がその場に降り注ぐ。そしてスコールはありったけの火球を上空で爆発させ、地面でも爆発させてエネルギーを利用し瞬間加速で飛び出す。

 

 

 

 

 

『っ! ドライバー!』

「ええ! 墜ちなさい!」

「甘いっ!」

 

 

 

 

 

福音のサポートを受けたナターシャが光の翼をスコールに叩き付けた。スコールは両腕を盾にしていたが福音自身が翼の密度をスコールの居る所に集中させたためにダメージは大きかった。

だが『ゴールデン・ドーン』の『プロミネンス・コート』はその衝撃を大幅に落とした。そして翼は突破され、スコールが横から掻っ攫われる形でその場を離脱する。

 

 

 

 

 

「なっ、ク、クライン…」

「舌を噛みますわよ? ブースター点火しますわ」

「オータムはっ!」

「ここであなたを失うわけにはいかないので。ブースター点火、離脱」

「お、オータムううううううう!」

 

 

 

 

 

ラクスがプロペラントタンク型ブースターを出し、一瞬で音速まで加速する。その際に機体の形状が変わりスコールと機械の体が悲鳴を上げたが、その加速は凄まじくアメリカのレーダー圏内から数秒も経たずに離脱した。

 

 

 

 

 

「待ちやがれ! …くそっ、逃げられた」

「あの加速、慣性制御が追い付かないはずよ。そうでしょう?」

『ですね。肋骨が何本というレベルでは済まない筈。虎の子でしょうからそうそう多用出来ないでしょう』

「次に遭った時はぜってー落とす」

 

 

 

 

 

イーリスが意気込むと、下で野郎の歓声が聞こえた。MS()IS()に、それもテロリスト相手に一矢報いた事が余程嬉しかったのだろう。オータムの死体を放置したまま騒いでいた。

その報告を聞いた政治家達や大統領、軍人達がMSの正式運用(・・)を確定するのは当然のことであった。

そして、スコールがこの事態にした元凶として、実質的にオータムを撃破した新華を逆恨みするのも、ある意味では当然の流れであった。

 

 

 

 

「しっかし後に出てきた機体は何だったんだ? 一瞬だがキッツイピンクが見えたんだが」

『どうやら『サイレント・ゼフィルス』が改造された姿みたいですねー。反応が一致しました』

「……イギリスの機体だったか。ご愁傷様だな」

「そうね」

『ですねー』

 

 

 

 

 

 




最初は銃人と銃騎士の話を書いてて、その後ダチとの会話で出た定期試験のネタを書いて、そのまま何故か就活の話になって、最後にオータム最後の出番。どうしてこうなった。最初は銃人、銃騎士関連と新華の誕生日の話だけで終える予定だったのに…。

近日『イージーアームズ』買いまして、AC風アセンをガンプラでやってます。楽しいすね! というかあの装備見た瞬間にACアセンしようと考えたコジマ患者は放送当時どれくらいいたのだろうか…

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