IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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142話を投稿也。一夏の成長っぷりをご覧あれ。

ACでランクB-2から上に行けない…。何でガチタンが空からミサイル降らせられるんだよ…。ターゲットサイトに入れよ…。


黒騎士

 

 

 

 

 

 

---日曜日、ソレスタルビーイング院長室

新華は日に日に増えていく書類を片付け一息付いていた。

 

 

 

 

 

「おーし終了。はぁ、こうも徹夜続きだと一々IS学園と行き来するのも辛いな」

「お疲れ様です。ですが急ぎの案件もありますし、情報の漏洩と混乱を避ける為に重要書類の持ち運びを嫌ったのはご主人様ですよ?」

「そうだけどさぁ」

「これでも経営部が多くを処理してくれていますし、MSが高く評価されているという証明でもあるじゃないですか。必要だと割り切りましょうよ」

「そらそうだけどよ」

 

 

 

 

 

今まで新華は多くの書類を死ぬほど処理していたが、以前に言ったように経営部が負担を引き受けた事で書類の山が減っていた。

そもそも今まで書類が山になっていたのは、新華が必要以上に他の部署に回さず仕事を抱え込んでいたせいでもある。創立初期ならば新華1人で仕事の殆どをこなす必要があったが、既に数年が経過し人員も揃った今ではその負担は無駄であった。

現にMS販売による世界からの反応は大きく、ソレスタルビーイングは利益と同時に負担も重なっているのに破綻していない。

女尊男卑によって放逐された優秀な人材を国に拘らず片っ端からスカウトしたのもあるが、それ以上に孤児達を守り正しく育でたいという新華の想いが職員のやる気を出しており、新華が合わせて給料も上げたので仕事が増えた事に文句は無かった。

というか新華が必要以上に仕事を奪っていた形になっていたらしく、寧ろ今までが楽過ぎたと経営部を始めた他の部署から言われた。

 

 

 

 

 

「なーんかこれくらいしか(・・)ないと逆に落ち着かないっていうかさ、徹夜続きつったけど体力的にはあと2徹くらい行けるというか」

「ご主人様ご主人様、それ完全に立派なワーカホリックというかブラック企業の諦め切った社畜の発想です」

「後は最終的に俺の所に来るとはいえ、分散された案件の経過とかなー。気になって仕方ない」

「慣れてください。今までが異常であって、この状況が通常であるべき姿なのですから。もっと楽になさってください」

「………もうお前も立派な(ひと)みたいだな。あとは俺から離れ---」

「嫌です」

「だよな」

 

 

 

 

 

クツクツと笑い座っている椅子の背もたれに全体重を掛ける。思ってもいない事を言おうとした新華に腹を立てたのか、サヤカが頬を膨らませて小さくなり新華の頭の上に乗った。

 

 

 

 

 

「お?」

「そんな思ってもいない事を言う社畜頭は……」

「お、おい?」

「こうしちゃいます!」

「痛だだだだだだだだ!?」

 

 

 

 

 

サヤカが小さい体で新華の伸びた髪を引っ張る。ブチブチと嫌な音を立てるのを聞いた新華は顔を真っ青にして痛みと戦いながらサヤカを退かそうとした。

 

 

 

 

 

「おい馬鹿やめろ!」

「ハゲちゃえハゲちゃえ!」

「特典ネタは要らねぇんだよ! マジで禿げたらどうすんだ!」

「知りません! 少しはその自虐癖を直してください!」

「おま、母さん方のおじいさんはそうでも無かったが父さん方の家系はいつもハゲてたんだぞ!? 地味に気にしてる部位への攻撃はやめろ! いやマジで!」

 

 

 

 

 

割とどうでもいい事だが、不思議と新華がこれまで生まれた家系の男達は年齢が高くなる毎に髪が薄くなっているというある意味最も一般的な特徴があった。若い時はフサフサだが祖父を見ると綺麗に大地と化している事が殆どで、今の父親方の祖父も禿げていた。

母親方の祖父はそこまでではないのだが今まで大人になった事が無かった新華にとって、優先度こそ低いがとても重要な問題であった。

とそこに部屋のドアがノックされる。

 

 

 

 

 

「新華くーん、お仕事終わったみたいだし入るわよー」

「か、刀奈!? 丁度いい所に! サヤカを何とかしてくれ!」

「……また何か言ったんでしょ? 今度は何を言ったの?」

「思ってもいないのに『自分から離れれば』と」

「ギルティ。しばらくそうして反省してなさいな。というかまだそんな事言ってたのね」

「冗談だから! 冗談だったから! だから離せええええ!」

 

 

 

 

 

呆れた顔で刀奈が溜め息を吐き、未だに髪を引っ張るサヤカを必死に宥めて頭から降りてもらう。しかしそれでもサヤカは膨れっ面のままだった。

 

 

 

 

 

「いつつ……ああ、割と抜けてーら…」

「自業自得です! いい加減に反省してください!」

「…新華君のそういう所、どうにかならないかしらねぇ」

「いやだから冗d」

「冗談でも言っていい事と悪い事があるでしょ」

「あっはい」

「はぁ、こうなったら少しでも改善する為にオシオキね」

「ゑ?」

 

 

 

 

 

嫌な予感をして振り向くと、刀奈が捕食者の目で手に持ったセンスを口元に寄せ色気を出していた。

察した新華が即座に床を蹴って椅子から立ち上がろうとするが、その前にサヤカが新華を椅子に縛り付ける。

 

 

 

 

 

「おい、待て。何故縛る」

「逃がさないようにですよ」

「ありがとうサヤカちゃん。さて、愉しみましょうか♪」

「待て待て待って超待って。俺徹夜で眠いの。そんな体力ねェよ」

「大丈夫、新華君が天井の染みを数えている間に終わるから…」

「というか何しに来たんだ!? それと簪とシャルロットは!?」

「2人共新華君の許可取って研究室に行ったじゃない。今は飛鳥君達と模擬戦してる筈よ。私は終わる頃だと思って持ち帰りの書類を取りにきたのよ」

「知らぬ間に俺の部屋が占領されていた件。ならその机の上にファイリングしてあるから持って行ってくれ」

 

 

 

 

 

新華の目線の先に、来客用の机の上に1つファイルが置いてあり、刀奈はそれが目的のものだと目視で確認した。

 

 

 

 

 

「流石、仕事は早いのね」

「ああ。だから、この拘束解いてくれ。というか解け」

「反省するまで駄目です。では簪さんとシャルロットさんも呼びましょうか」

「んー、それもいいのだけど、今は私が独り占めしたいわねー」

「じゃあいつも通り待機しますねー」

「……お前らが仲いいのはいいんだが、組まれると俺が持たないんだが」

「でも、嫌いじゃないでしょ?」

「いや、まぁ、その、それとこれとは話が違うだろ…」

 

 

 

 

 

椅子に拘束されている新華の膝の上に向かい合う形で乗り、両手を新華の頬に当てる。ひっじょうにアダルティな空気が流れ2人の心拍数と体温が上がる。

だが、唇と唇が触れ合う直前に新華とサヤカの脳裏が何かを感じ、拘束が解かれる。同時に刀奈は一瞬送れて気付き動きを止める。

 

 

 

 

 

「……刀奈、サヤカ」

「はい」

「何か、来たわね」

『緊急連絡! 緊急連絡! ISと思われる機影多数、上空より急速接近! 迎撃態勢!』

 

 

 

 

 

通信が響き、新華の黒い瞳が虹色に輝いた。

 

 

 

 

 

『機種特定、IS『ゴーレムⅠ』、『Ⅱ』、『Ⅲ』を確認、数……20!? その後方より、IS『アラクネ』と思われる反応! 防御システム起動します! 各員は所定配置に着いてください! 非戦闘員はシェルターへ!』

「! ガードシェル発進、観測用カメラ起動。各MS隊は順次発進。指揮権を経営部に譲渡、『アラクネ』は俺が仕留めます」

「簪ちゃん、シャルロットちゃん聞こえる? 聞こえた通りよ。私達も動くから合流しましょ。場所は…」

「町の方へ連絡を行います。それとオートマトンをトリモチ装備で起動します」

 

 

 

 

 

矢次早に指示を出し空からやってくる脅威に備える。

 

 

 

 

 

「実、聞こえるか? 今どこに居る」

『家で父さん母さんと一緒だ! もう『傘』は展開されて正常に機能してる』

「よし、ならお前は二次戦力として皆と合流しろ。今回彼女は居ないようだしな」

『…分かった』

「よし、敵が圏内に侵入し次第戦闘! 刀奈は…」

「もちろん、私も出るわよ」

「了解。簪とシャルロットと合流しててくれ。俺は先行しておく。経営部と連絡を密にな」

「わかったわ。……気をつけて」

「任せろ。行くぞサヤカ!」

「はい!」

 

 

 

 

 

新華は院長室の窓を開けて飛ぶ。刀奈も直ぐにその窓から飛び降り『ミステリアスレディ』を展開、簪とシャルロットとの合流を急いだ。

 

 

 

 

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---side 一夏

その頃一夏はIS学園から出て私服で公園のベンチに座っていた。根を詰めた特訓のし過ぎはかえって体に悪いと、意気揚々とアリーナ使用申請をする時に千冬と山田先生に諭され気分転換に外に出ていた。

外に出る時に箒を始めとする専用機持ち達がついて来ようとしたのだが、それらを断り1人で町を歩いた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

一夏が行った場所はレゾナンスを始めとした女子達を行動を共にした事のある店や風景。そして気分転換という事でゲーセンや本屋も回った。

道中でIS学園ではない女子達に追いかけられたり、ゲーセンで新華と弾の戦績を確認したりと充実しているように見えたが、その間ずっと一夏の脳内はぐるぐる巡っていた。

 

 

 

 

 

「……うーん」

 

 

 

 

 

ゲーセン以外で一夏の行った場所の殆どは、以前に専用機持ちの面子と共に行った場所ばかり。それらを1人で廻りながら当時の事を思い出しては考え事をしていた。

…新華の言った言葉が影響していた。

 

 

 

 

 

「……駄目だ、どうにも分からん」

『トリィ?』

 

 

 

 

 

一夏自身はあの言葉以降、彼なりに頑張って女子の感情の機敏を読み取ろうとしていた。今まで鈍感と言われ続けてきたのを、親友のように改善するように。

そうして意識を向けたからだろうか、今まで見えていた世界が姿を変えたように思えていた。女子達にはこれまでよりドキドキするようになり、特に専用機持ちの面々を意識しまくっていた。ワールドパージで色々と際どい体験をした事が拍車をかけていた。

……だからといってこれまでの暴力沙汰を本当に『照れ隠し』だけで済ませられるのは、器が広いというかなんというか。

一夏の上で飛んでいたトリィが肩に乗り主を気遣うように覗き込む。

 

 

 

 

 

「うーん、難しい」

『トリィ…』

 

 

 

 

 

一夏にも客観的に観察出来る鈍感が友人に居れば変わるのかもしれないが、悲しいかな彼以上の鈍感はこの世界には存在していないのである。   タブン

未だに恋心というか家族と友情以外の愛を理解し切れない一夏は、文字通り頭を抱えていた。

そんな一夏に近づく影が1つ。

 

 

 

 

 

『トリィ! トリィ!』

「? どうしたんだトリィ……!?」

「…こんな所で1人で居るとは、自殺願望でもあるのか?」

「お、お前…」

 

 

 

 

 

トリィが騒ぎ出し翼で一夏の視線を誘導する。そこに居たのは、以前も自分に銃を向けてきた姉と同じ顔を持った少女だった。

彼女の出現と同時に気温が下がった錯覚を受けた。新華と同じ人を殺めた者が纏う空気と相手を憎む目。千冬の顔が自分にそれを向けてくるという事に戦慄した。

しかし、体に渇を入れ相手を睨み返す。その一夏の反応に少女、マドカは関心のため息を吐く。

 

 

 

 

 

「ほう、以前とは違うようだな」

「……今日は、何をしに来たんだ」

『トリィ!』

「何、少しテストに付き合ってもらおうと思ってな」

「!!」

『ト、トリィ!?』

 

 

 

 

 

マドカがおもむろに剣を出し一夏に突き出す。それを一夏は咄嗟に腕部部分展開し雪平で弾いた。トリィが一夏の肩から飛び立つ。

 

 

 

 

 

「ふん、この程度に反応出来るなら、確かに丁度いいか」

「なっ、何を!?」

「少々付き合ってもらうぞ!」

 

 

 

 

 

マドカがISを展開する。それは以前一夏が見た『サイレントゼフィルス』ではなく、大剣を持ち真っ黒な騎士甲冑に見える装甲を持った機体だった。そしてその大剣は、どこか見覚えのあるものだった。

 

 

 

 

 

「そ、そのIS!?」

「さあ、抗ってみせろ! 織斑 一夏!」

「くっ、白式!」

 

 

 

 

 

一夏も己の白き剣を呼び出し相対する。マドカはそれを見てニヤリと嗤い小剣を新たに出し向けた。

 

 

 

 

 

「精々足掻いてくれよ? 直ぐに終わってしまっては気が済まないからな!」

「お前は、一体、何がしたいんだ!」

 

 

 

 

 

マドカが両手の剣を持って一夏に斬りかかり、一夏もそれに応じる。3振りの剣が打ち合い金属音を鳴らした。

そしてISによる戦闘が行われた事に気付いた一般人が叫びを上げて逃げて行き、騒ぎが起き始めた。

 

 

 

 

 

「くそっ、こんな街中で! 人が居るのに!」

「戦場を選べるとでも思ったか!」

 

 

 

 

 

マドカの剣の腕は意外と高く一夏を押していた。一夏は押されている自覚をしつつ街中故に荷電粒子砲を使えない事に舌打ちする。

だが剣筋が見えない訳ではなく左腕の『雪羅』を活用すれば一夏でも十分に対応可能で、少し切り合っただけで今度は一夏が押し出した。

 

 

 

 

 

「腕を上げたか」

「俺だって弱いままじゃぁ無い!」

「なら、これでも食らえ!」

 

 

 

 

 

マドカが一夏を足蹴にし距離を取る。そしてマドカの機体装甲がスライドし殺傷性のある9つの緑色の刃を覗かせる。

 

 

 

 

 

「行け!」

 

 

 

 

 

マドカの掛け声と共にビットと思われる刃が飛び出し一夏に向かっていく。それを見た一夏は回避する空間を確保するために上昇した。

それを追いかける刃の先端から、9筋のレーザーが一夏に向け放たれた。それを回避しようとするが、狙い澄ましたかのようにレーザーが曲がり一夏を襲う。

 

 

 

 

 

「おおおお!」

 

 

 

 

 

それを一夏は足を振って体勢をわざと崩す事でやり過ごした。新華との訓練を経て習得したAMBACがここで活きた。

しかし回避したレーザーは近くにあったビルのガラスに当たり砕いた。騒ぎが大きくなる。

 

 

 

 

 

「し、しまった!」

「余所見をしている余裕があるのか?」

「っ! トリィ!」

『トリィ!』

 

 

 

 

 

いつの間にか迫っていたマドカの言葉に我に返ると、トリィを呼び崩れた体勢を直す時間を稼がせる。

トリィはマドカの真上から嘴を突き出した状態で突っ込む。それをマドカは

 

 

 

 

 

「邪魔だっ!」

『トリィ!? トリィィィイイイイ!!』

 

 

 

 

 

ビットによるオールレンジで破壊しようとした。だがトリィは翼の角度を変える事で速度をそのままにビットを回避、更に翼に仕込まれたスラスターの出力を上げマドカに突っ込み小剣と切り結んだ。

 

 

 

 

 

「このっ、羽虫が!」

『ト、トリィ!』

「ああ、ありがとうトリィ」

「!?」

「これでっ!」

 

 

 

 

 

その間に一夏は体勢を立て直してマドカに肉薄していた。雪平を腰に構え居合いの構えのまま瞬間加速を行う。

すれ違いざまに一瞬だけ零落白夜を起動、振り抜く。

 

 

 

 

 

「っハッ!」

 

 

 

 

 

しかし、その攻撃はトリィと切り結んでいない方の大剣に防がれた。新華との訓練のお陰でそうなる事を予測していた一夏だったが、その光景を見て驚愕した。

 

 

 

 

 

「んなっ、零落白夜を!?」

「貴様だけが『零落白夜』を使えるとでも思ったか?」

 

 

 

 

 

大剣に纏うように真っ白な光が大剣を包んでいた。一夏もよく知る零落白夜の光を纏った刃が白式の零落白夜を受け止めていた。

思わず動きを止めてしまった一夏にビットのレーザーと刃が襲う。マドカはトリィを弾きレーザーによる狙撃で焼いた。トリィは地面に落下して主を確認するように翼を支えにしてカメラアイを上に向ける。

 

 

 

 

 

『ト、トリィ…』

「トリィ! くそっ!」

「踊れ」

「それでもっ!」

 

 

 

 

 

トリィの事を気に掛けながら、AMBACを使って体を回転させビット越しに伝わる殺気を呼んでレーザーと刃を回避していく。流石に全ては避けられないものの、マドカが苛立つくらいに回避することは成功していた。

 

 

 

 

 

「チッ、予想以上に腕を上げていたようだな」

「はっ、この程度は新華に比べれば温いもんだぜ!」

「ほざいたな? なら、容赦はせん!」

「最初からしてない癖にさ!」

 

 

 

 

 

一夏は急な襲撃と新機能、性能差に完全に対応出来ていた。これまでの経験と白式の左腕武装『雪羅』の汎用性、特訓の成果にトリィの存在があったお陰である。

 

 

 

 

 

「(前にラウラの言った通り、流れが掴めれば何とかなるもんだな! 零落白夜には驚かされたけど、これなら!)」

 

 

 

 

 

レーザーを避け切り払い、刃を避け切り払う。クローモードにした『雪羅』でマドカからの猛攻を何とか凌ぎチャンスを伺った。

しかしここにきて白式の燃費の悪さが状況を変える。一夏の視界の端にある残存エネルギーは予想以上に減っていく。

 

 

 

 

 

「(なっ!? なんでここまで……零落白夜か!)」

 

 

 

 

 

一夏の予想通り、原因は零落白夜にあった。元々燃費が悪いのに加えマドカからの零落白夜と小剣による攻撃を受け止める為に必要以上にエネルギーを消費してしまい、尚且つビット9機による攻撃を避ける時と受けた時にエネルギーを消費していた。

これまでは白式の性能に追いついていなかった一夏の腕は、今では逆に白式を振り回すほどに成長していた。才能もあるが密度の高い彼自身の努力の結果であった。

 

 

 

 

 

「こんなに零落白夜が厄介だったなんて…」

「この程度か?」

「まさか!」

 

 

 

 

 

マドカの言葉に勢い良く啖呵を切るが、実質追い詰められていた。何も気にせず暴れるマドカと違いどうしても街への被害を意識してしまう。先程割れていたガラスでどれだけの人間が被害に遭うのか、その事が頭に浮かんでしまう。

そのせいで動きが悪くなり被弾も多くなる。

そして、エネルギー回復の為にビットがマドカの機体へと帰還する。その隙を逃がすまいと一夏は雪平にエネルギーを回し渾身の一撃を放つ。

 

 

 

 

 

「(今だっ!)」

 

 

 

 

 

鋭い一撃を見舞うが、それを待っていたと言わんばかりにマドカが哂う。一夏の背筋に悪寒が走るが、もう遅い。

 

 

 

 

 

「掛かったな?」

「っ、えっ!?」

 

 

 

 

 

マドカが拡張領域からファンタジー風の盾を出した。そして零落白夜の軌道上に構え一夏が振り抜くと、零落白夜の光が消え去った。

 

 

 

 

 

「返すぞ」

「しまっ!?」

『一夏ぁ!』

 

 

 

 

 

一瞬呆然として動きを止めてしまった一夏にマドカの剣が迫る。そして、そこに2基の赤いビットが割り込んだ。

 

 

 

 

 

「箒っ!?」

「一夏、無事か!?」

「…データは十分採れたか。引き際だな」

「ま、待て!」

「紅椿、篠ノ之博士の傑作機の1つだったらしいが、搭乗者が性能を引き出せれば意味も無い」

「何!?」

「ではな。姉さんによろしく言っておけ。『もうすぐ会いに行く』とな」

「ね、姉さんだと?」

 

 

 

 

 

箒の後ろから専用機持ちたちがISを展開して文字通り飛んでくるが、マドカは盾を一夏達に突き出すように構える。一夏と箒が身構えるとシールドが真っ白に光り一夏達どころか一般人の視界をも潰した。視界が戻るとマドカは既に逃走した後で、ハイパーセンサーに反応を認められなかった。

 

 

 

 

 

「っ、箒! 無事か!?」

「あ、ああ。まだ視界が霞むが、大丈夫だ」

「よかった…。だけど、今の奴は…それに、姉さんとは…」

「悪い、後で話す。それより、この惨状…」

 

 

 

 

 

箒以外の専用機持ちたちも合流するが、各々は一夏とマドカによる戦闘の余波を見て顔を顰めた。

そんな中、白式に通信が入る。

 

 

 

 

 

『----か、一夏! 応答しろ!』

「! その声、新華か」

『やっと繋がったか。無事のようだな。トリィから緊急信号出てたから焦ったぞ』

「そ、そうだ! トリィ!」

 

 

 

 

 

新華の言葉に一夏は落下したトリィの所へと飛ぶ。部品が散らばり損傷が激しいが、それでも機械の瞳は主に向いていた。

 

 

 

 

 

『トリィ…』

「ごめん、無茶させたな。ゆっくり休んでくれ」

『あー、また壊れたか。でもま、また直してやるよ。ご苦労さん、トリィ』

 

 

 

 

 

白式の両手で丁寧にトリィを持ち上げ、持ち主と製作者の労いの言葉と共に収納される。

 

 

 

 

 

『で、何があった? トリィが大破するってことはまた襲われたか?』

「ああ。……箒達も居るし、新華が学園に戻ってからでいいか?」

『…割と重要らしいな。分かった。ただ、俺は戻るのが遅くなるから先に簪かシャルロットが行くと思う』

「? そっちも何かあったのか!?」

『ああ。だけどこっちは被害少なくて済んだし、かなりデカイ収穫があった。それ関係で俺と楯無はしばらくそっちに行けん』

 

 

 

 

 

そう言って新華は一旦言葉を切る。

そして、一夏は次の言葉に思わず息を呑んだ。

 

 

 

 

 

『亡国企業のISを捕獲した。……第2回モンドグロッソで俺達に攻撃してきたアイツだ』

「っ!?」

 

 

 

 

 




次回はソレスタルビーイングでの戦闘を描きます。オータム、2度目は無いんやで?(ゲス顔
しかし書いてて一夏の成長っぷりに戦慄。でも才能があって向上心があって目標が居て環境が整ってて圧倒的強者と訓練しまくりなら、こうなってもおかしくないと思いました。というかこのくらい強くなってないと寧ろおかしいというか…w

本当に、正直、この小説は何話まで続くのか自分でも分からない所に居ます…。

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