…どうして刀奈と新華のエピソードはこんなに書けるのだろうか
---大運動会翌日、振替休日
原作とは違い既に機体の調整を終わらせていた刀奈は、朝からわくわくしていた。
今日は新華とのデートである。
「これでよし。じゃあ、行きましょうか!」
年相応の女の子らしく張り切って1050室のドアを開ける。そこには紺のダメージジーンズを履き黒のパーカーと緑のシャツに身を包み、銀のバイザーを掛け、腰に
「お、行きますか?」
「ええ。エスコートはよろしくね♪」
「うっす」
刀奈が新華の腕を取り密着する。刀奈の服装は全体的に白で統一されており、肩に白に近い青の肩掛け、腕を完全に出す形の胸から下を包む黒いラインの刺繍が入った上着、黒と白の2重構造になっているミニスカートにニーソックス、スカートにはタンザナイトのキーホルダーを付けていた。
……ちなみにこの服装、新華の嗜好を研究した結果刀奈が出した『答え』である。『白』で『清楚』を表し『肩掛け』を利用して視線を自信のある胸元の肌へと誘導する。更にミニスカート+ニーソックス+というフェチズムを感じさせる組み合わせを使う事で新華の意識を引き寄せ、そこに『更識』の遺伝子の結果である『青髪』と清楚感の象徴と言える『白』、ところどころにアクセントとして『黒』という配色を以て『対新華(理性)』を完成となる。
自分自身の持てる全てと研究した新華の嗜好を掛け合わせた『必殺』の、ある意味勝負服。それが今の刀奈の服装だった。
尚、これまた新華の嗜好故だが化粧の類は一切していないので刀奈本人のスペックがどれだけ高い事かお分かりだろう。
「さて、どこか行きたいところってあります?」
「最後にホテルでディナーといきたいわね。それ以外にこれといった希望は無いわね」
「ふむ、俺も特に行きたい場所は無いし…。どうします?」
「ならまずは街を散策しましょ。今日は時間があるのだから、ね?」
「そうしますか」
「ええ。ふふっ♪」
改めて自分の体を新華に押し付けて笑う刀奈。幸せそうな笑顔だった。
実は刀奈にとって新華公認のデートはこれが初めてだったりする。今まで何かと理由を付けデートに近い事はしてきたが、そのどれも新華は『デートではなく更識家当主の護衛』、もしくは『荷物持ち』と言って態度を崩さなかった。
しかし今回は告白出来たうえで新華もデートだと認識しているデートだ。嬉しくない筈がないし、もう自重せずイチャつけるという事で全力で新華に甘えるつもりだった。
「ところで新華君。今日の私の服装はどう?」
刀奈が新華からパッと離れて目の前でクルクルと回る。タンザナイトをきらめかせスカートを翻すもギリギリで見せないという技能を発揮し新華を魅了する。
「似合ってますよ」
「うふふ、ありがとう。新華君ってこういうの好きでしょ? だから新調したのよ」
「ま、マジですか。気合入ってますね」
「当然♪ さ、早く行きましょう!」
満面の笑みで再び新華の腕に抱きつきハート飛ばしてデレッデレになっている刀奈を見て、新華も頬が緩んでいた。
「(かわいいなぁ)じゃあまずは適当に回りましょう。門限までに帰ってくればいいですし」
「ええ♪」
寮を出る前からイチャイチャしやがっている2人。振替休日でまだ寮から出ていないので当然
「…」バンッバンッバンッ
「……」ダダダダダダダダ
「………」ギリィッ
「コーヒーってまだ自販機にあったよね…」
目撃した女子生徒達が壁パンしたり歯軋りしたり苦いコーヒーを求めて居なくなったりと、しっとマスクが発生するくらいの瘴気を放っていた。
けふっ、これは…血? いや、イチゴシロップ…?
新華と刀奈は寮を出てモノレールに乗る。振替休日で朝から街に繰り出す他の生徒達の視線を浴びるが、2人共その程度の視線で動じる程ヤワな精神をしていない。
「……すっげぇ見られてますね」
「寧ろ見せつけてやりましょうそうしましょう」
「はいはい…」
離れる気配の無い刀奈に一種の諦めをして暖かさを柔らかさをしっかり堪能する新華。刀奈も刀奈で新華の筋肉の硬さと匂いを堪能して新華を離す気は無かった。
その状態のままモノレールを降りて駅から出る。他の生徒達と混ざって街に繰り出すが、特に目的地も無い2人は軽く会話をしながらゆっくりとぶらついた。
「それで父さんと母さんが歌いだしまして。もうレベルが凄かったとしか言えませんでしたよあの時は」
「デュエットだったの? 私もその場に居たかったわね」
「次に機会があればお呼びしますよ。それとも今から歌いに行きます?」
「いいわね! 一緒にデュエットよ!!」
「じゃあ3時間程、喉を枯らしに行きましょうか。あー…でも、
「無ければ私がエスコートしてあげるわよ♪ さあ、そうと決まれば早く行きましょう!」
午前中からカラオケショップに入り熱唱。個室で2人きりだったが、それを指摘するのはお互いに野暮だと、気にせず思い切り楽しんだ。
「『カーニバル・ファンタズム』で『すーぱー☆あふぇくしょん』! 私の歌を聞けぇ!」
「『DYNAMITE EXPLOSION』! いくぜ! Bomber!」
この時、待機形態のまま大人しくしていたサヤカはその様子をヴェーダにて福音と共に観ていた。
「ご主人様、ものすごく生き生きとしてらっしゃって…」
「あー、私も思い切り歌いたいですよー。サヤカさん、ここで熱唱してもいいですか?」
「……今は私達以外誰も居ませんし、いいですよ」
「ヤッター!」
「ですが、私もご主人様の邪魔をする訳にもいかないのでここで暇つぶしさせてもらいますよ。いいですね?」
「アッハイ」
主人が歌っている
3時間後、カラオケから出た新華と刀奈は案の定喉を枯らせて汗を掻いていた。ずっと歌い続ければこうもなろう。刀奈に至っては肩掛けを取り露出度を上げていた。
「ふーっ、ここまで歌ったのはいつ振りかしら」
「俺は約半年振りですね。なんだかんだゴタゴタ続きで行く余裕も有りませんでしたし」
「次は簪ちゃん達や織斑君達も誘って皆で来ましょうか」
「お、それいいですね。楽しみだなぁ…」
「ふふ、そうね。……そろそろいい時間だしお昼にしない? 喉も乾いちゃった」
「ふむ、もうそんな時間ですか。そうですね、適当に済ませますか」
「ならマック行きましょうよマック! 久しぶりにファーストフードでお昼にするのもいいでしょ?」
「なら俺はクーポン用意しておきますね」
お互い汗を掻いたにも関わらずまた腕を組む刀奈。
「…楯無会長、俺も汗掻いてるんでベタつきますよ」
「大丈夫大丈夫。私は気にしないから」
「俺が気にするんですよ。ほら、肩冷やしますよ」ツンッ
「ひゃん! ちょ、ちょっと、いきなり触るのは反則よ…」
「じゃあその柔肌を晒すのやめましょうって」
新華が刀奈の剥き出しの肌を突いて、刀奈が抗議の視線を送る。正直新華から言わせてもらえば、目の毒である。
カラオケで汗を流した(深い意味は無い。無いったら無い。イイネ?)後の熱を帯びた艶肌が目の前にあるのだ。ムラムラして仕方ないし新華がこういった行為に及んでも仕方ないだろう。
というか刀奈の方から誘ってる訳だし。
……ってか今更ながらにこの構図と行為は事後に見えるな。
「汗流したんだし暑いんだから脱ぐでしょ? そ・れ・と・も、新華君は私の肌が他の人に見られるのがイヤだって言ってくれるの?」
「……さてな」
「え? い、言ってくれるの!?」
「ほら行きますよ。あんま騒ぐと目立ちますし」
「ねえ、言ってみてよ! 1回、1回でいいから!」
「騒ぐなって言ってるでしょうが! あとひっつき過ぎですって歩きにくい!」
「いいじゃないー! ねね、先っちょだけでいいから」
「なんの先っちょだー!」
………何だこのバカップル((((;゚Д゚))))
それと、既に目立ってますよ? そこらじゅうに歯軋りしてたりガードレール握りつぶしてたり呪詛を吐いてたり写真撮ってたりツバ吐いてたりドン引きしてたり近くのビルの壁パンチしまくってたりets…
ただ新華がバイザーしてハロを出さずサヤカを待機させたままでいるのと、刀奈が気合の入ったオシャレをしてイチャつきまくってるせいで赤の他人には『頭お花畑になってるバカップル』にしか見えないのである。
さてそんな
「…そういやこうして外で食うのも久しぶりっすね。そうでなくてもファーストフード店に入るにですら楯無会長は久々なんでしょう?」
「そうねぇ。そもそも新華君と出かける時しか来れないから、この味も久しぶりなのよ。癖になるけど、好きな時に食べられないってのはキツイものよね」
「仕方ないでしょう。由緒正しい家柄が~って事ですし、俺らパンピーにはそっちの方が夢あっていいと思いますよ。昔ながらの手遅れじゃない日本がまだ残ってるって」
「パン、ピー? え? 俺ら…え?」
「おう文句があるなら言えや」
冗談を言い合ってケラケラと笑う2人。とそこで刀奈が思い出したように新華に問いかける。
「ねえ、新華君って時々私相手でもタメ口になるけどあれって無意識?」
「反射的に行うツッコミをタメと言うならYesです。何故か…じゃないですね。一夏の行動と鈍感に対するツッコミ高じていつの間にかこうなってました。いや、もしかしたらもっと前からかも」
「なんとなく予想がつくのが織斑の凄いところなのかしら? 褒められたものじゃないけど」
「芸人スキルが上がったところでネタにしかなりませんけどね。でも、何故今になってそれを? 今更じゃないですか?」
「んー…」
刀奈はポテトを摘んで新華の顔をじっと見る。チーズバーガーを片手で食べながら自分を見る目は、最初に見た頃のような剣呑としたものではなく、ついこの間まで秘めていた危うさも無く、ひどく穏やかなものだとバイザー越しでも分かった。
「新華君、私に対して敬語使うの不便だと思ったことない? もういっそタメで話すってのは?」
「あのですね、俺は
「それはお仕事や学園の時の話であって、プライベートまで畏まる必要無いでしょ? あ、年上だからって理由も無しよ?」
「でも今更変えるのも変でしょうよ。俺も俺で会長には敬語で話すのに慣れてますから。そもそもツッコミ以外で俺がタメになったことってありました?」
「無いからこの際にタメにしましょって言ってるのよ。折角のデートに彼氏が敬語で接してくるって寂しいのよ?」
「このご時世なら珍しいもんじゃないでしょうに」
「何が悲しくて好きな人にまで敬語してもらわなきゃならないのよ。お互いに自然な喋り方で接するのが正しい恋人の在り方でしょう?」
「俺もそう思いますけどね」
頬杖付いて刀奈の言葉に同意する。女尊男卑における一般的な男女の付き合いは『男性が女性に奉仕する』形だ。お互いに同意していると言われればそれまでだが、男寄りの男女平等社会と男だ女だと言っていられなくなった社会を経験した新華からしてみれば、歪この上ない光景だった。中学の時一夏の取り巻きの1人に言ったところ『時代遅れ』のお言葉を頂いたが。
刀奈は女尊男卑社会生まれとはいえ、家と裏社会が女尊男卑などというくだらない思想になる事を許さなかった。家庭内ヒラエルキーの頂点が父親で頼もしいのもあっただろう。彼女からしてみても、現社会の男女の在り方には疑問があった。
「というわけで、デートしている男女らしく堅っ苦しい敬語なんてやめちゃいなさい! 別にここはIS学園でもソレスタルビーイングでも更識でもないんだから」
「だからといって『はいそうですか』で変えられれば苦労はしませんよ。少なくとも十数年間ずっとこの喋り方で過ごしてきたもんですから、変えるにしても時間は掛かりますね」
「ん、そうね。でもまずはやってみましょうよ。敬語無しでの私との会話」
「いきなりっスか。んーそれはそれでこそばゆいんですけど」
「デュノアちゃんと簪ちゃんを名指しで呼ぶ努力はしたのに?」
「それを言われると実行するしかないんですが」
刀奈の期待する眼差しを受けながら頭を掻く。
「まぁ、努力はする……ようにします」
「いきなり敬語になってるわよ」
「だからいきなりは無理…ですって。もう十何年もこうなんですから」
「んー、分かってはいるけど3人の中で1人だけ敬語っていうのもねぇ。疎外感を感じるのよ。勿論新華君がそう思ってないって事は知っているけど」
「3人というと、楯無会長に簪にシャルロットですか?」
「そうそう」
ジュースをストローで飲む刀奈。口がωに見えた新華だったが華麗にスルー。
「というかね、新華君。新華君の私に対する呼び方がちょっと硬いのよ」
「は?」
「確かにね、部屋で2人きりの時は名前でちゃんと呼んでくれるけど、外じゃ『楯無会長』じゃない」
「はあ、そりゃまあ」
「硬いわよ。『会長』って付くと明らかに一線引いてますって感じじゃない」
「(実際立場的な問題とか考慮して、対外的にそうですって見せる意図があったんだが)」
「どうせ新華君の事だからまた政治的な事を考慮してそうしてるんでしょうけど、今の新華君は『蒼天使』でなければ『IS学園』の生徒でもなく、『ソレスタルビーイング院長』でもないでしょ? 無論対外的な意味で」
「まぁ、はい」
「だったら、今だけでも色んな
「切り替えか………ちょっと時間頂けます?」
「いいわよ」
刀奈から許可を取って目を閉じ自身の内に潜る。剣道を通して得た遮断スキルで周囲のざわめきを断ち、体に入っていた力を一旦抜き拳を作り開く。
実際には展開しないが、自身のP・V・Fをイメージ。なんとなくで解除する感覚を再現し体の力を入れ直す。
「……ふぅ」
「終わった?」
「ああ、うん。…これでいいのか?」
「ええ。そっちの方がワイルドでかっこいいわ。しかし相変わらず切り替えが早いわね」
「性分だ。というかワイルドというよりか野蛮とか荒くれ者って言った方がお似合いの状態だと思うんだがな…。で、呼び方も変えろって話だったか」
「そうそう」
「『楯無』、これでいいか?」
「おっけーおっけー。あ、帰って部屋に戻ってからもその状態でいいのよ?」
「どっちも素だからなぁ。大して変わらないんだが」
「じゃあ今の状態で。新華君の言っている素って『家の外』と『家の中』の違いでしょ? 私と2人の時は後者の方が嬉しいし」
「了解。じゃあそろそろ次に行くか?」
「ええ。ご馳走さまでした」
手と口を拭いて食べ終わった容器を片付けてマックを出る。また刀奈の方から腕を絡めて引っ付き散歩を再開する。
「さて、また色んな店を回るとするか」
「午前中はカラオケで潰れちゃったからねぇ。すこし静かな所に行きましょうか」
「静かな所……本屋とか?」
「あら、読みたい本でもあるの?」
「それを探しに行くんですよ」
「あらロマンチックなセリフ」
だが近くにある本屋は『レゾナンス』内部にしか無かった。レゾナンスという大型デパートが地元の街にあった店をも取り込んだのであろうと予測出来たが、新華にとっては関係なく過ぎた事だった。
レゾナンス内部にある『オリオン書房』を見つけ入る。多少の騒がしさは無視した。
「やっぱり
「
「レゾナンスは聞いた事無かったが、後者の2つはあったな。変わったのは一部ラノベやアニメ、漫画が存在していなかったり、逆に俺の知る以上に続いている作品があったりだな」
「ふむふむ、興味深いわね」
「そうか? っとこれは…ほぅ」
新華が雑誌のコーナーであるものを見つけ声を上げる。その声に引きつられて刀奈も視線を辿りブツを見る。
「あっ」
「『ISモデルショット 9月号』か。これ、楯無だよな?」
「そうよ。発刊されてたのね」
刀奈が表紙になっている雑誌『ISモデルショット』を手に取り2人で見る。近くに居た一般人が新華と刀奈に気付いて小さく騒ぎ出した。
「ちょっと恥ずかしいわね。自分の写真が載ってる雑誌を見るのは」
「だろうな。俺だって新聞に載ってるの見て吹いたし。…お、『2人の男性操縦者特集vol.5』ね…。楯無、これ」
「…見出しの端に新華君と織斑君の顔写真ね。あ、袋とじになってる」
「アイドルかっての俺らは。しかもvol.5ってことは少なくとも4回載ってるって事だろ? すっげー複雑だ…。というか何時のだ」
「買ってく?」
「…いや、止めとこう。自分の載ってる雑誌買うとかどんな羞恥プレイだ」
「あら、私はそうでもないわよ?」
「慣れてるからでしょうよ。俺は無理」
雑誌を戻して物色を再開しようとすると、近くに住んでいるだろう女子高生達が近付いて話しかけてきた。
「あの」
「ん?」
「更識 楯無さんですか?」
「ええ」
「やっぱり、本物だ! 隣の人は彼氏ですか!?」
「そうよ」
「「「「キャー!」」」」」
「おい、ここは本屋だ。静かにしろ」
「「「「は、はーい…」」」」」
問いに0.2秒で、キッパリと断言した刀奈に女子高生達は沸いた。だがその声が大きかった為に新華が嗜める。
そして女子高生の1人が新華の正体に気付いた。
「あれ? もしかして…『蒼天使』の青木 新華!?」
「えっ、マジ!?」
「そうだって! 丸いの無いけどバイザーしてるし髪型写真で見たのと同じだし!」
「……ちょっと」
「(あるぇー)」(・3・)
女子高生達の騒ぎで刀奈が新華を見るが、新華にとっても予想外の展開だった。というかバイザーだけで変装になっている訳が無い。どこぞのグラサンノースリーブや地球連合版クルーゼやハム仮面と大して変わらない、いやそれ以上に分かり易い。
最も近い例だと、どこぞの火消しさんとどっこいである。というか雑誌の中にはバイザーを外した瞬間の写真もあったりする。
「あの、サインください!」
「あと写真も!」
「私はメアドを!」
「…悪いけど」
「お断りします」
だんだん声が大きくなる女子高生達のせいで騒ぎを聞いた他の客達が集まってきた。刀奈と新華は女子高生達の要望を真っ二つに切り捨てその場を去ろうと後ろに下がり反転。急ぎ足で書店を後にする。
「あ、待ってー!」
「さて楯無」
「ええ」
「「逃げるか(わよ)」」
書店から出ると2人が注目の的になっていた上、後ろから女子高生が追いかけてくる。2人は手を繋いでさっさと逃げることにしてレゾナンス内部を移動、さっさと外に出た。
「やっぱり人気者は辛いわね」
「なんでバイザーしてハロ出してなかったのにバレたのか…」
「さっきの娘達が言ってた事を信じるなら、もう既にその偽装は無意味だって事になるわね。別の考えたら?」
「っつてもなぁ。髪は手を入れるの面倒だし目付きは隠す以外の偽装法が無いし、別のを思い付かない」
「多少の面倒には目を瞑ったら? まぁ新華君がそれでいいって言うならいいけど」
「…悪い。迷惑掛ける」
「いいえ、むしろ迷惑掛けさせてくれるって事が嬉しいわよ。今まで新華君は何でも自分1人で完結させようとするから」
「…なるべく迷惑掛けたくないんだけどなぁ」
うむむ、と唸る新華に刀奈は微笑みかける。そして視界に入った服屋に新華を引っ張る。
「あのお店、丁度いいから入って作戦を練りましょうよ。いいやり方が思いつくかもしれないし」
「ん、そうだな。行ってみるか」
そう言って2人で店に入りあーだこーだと話しバイザーやグラサンを複数所持すること、服装のバリエーションを増やす方向で話を纏めた。
根本的解決にはならないが、有名税だとある程度は割り切ることにした。
新華の用が終わると、あとは刀奈の買い物だった。これから秋に入るのでコートを試着していた。
「これなんてどうかしら」
「丈が短過ぎだろ。もっと長いのにしたらどうだ?」
「んー、日本ならこのくらいで十分だと思うけど」
「見てる方が寒いって言葉があってだな」
「デザインはこれが可愛いのだけど…」
「機能性を重視する俺としては、外見は二の次だからな。ってか日本ならってことは、ロシア行く時のも買うのか」
「ええ。向こうに行ってから買ってたら凍傷になっちゃうわよ」
「それもそうか」
新華の服装はいつだって機能性を重視したうえでの組み合わせである。そこにファッションが入ると悩みどころだが、大抵は適当に変じゃない程度で即決して終わらせる。ちなみに現在履いているダメージジーンズだが、元々ダメージが入っていた奴ではなく使い潰して自然とそうなった物だったりする。
一夏もそんな感じだが女性陣は違う。機能性も確かに大事だと思う反面、可愛さをバランスも重視しどう両立させるかを悩むのだ。それも好きな異性が目の前に居る時、それは顕著になる。
「新華君も新しいの新調したらどうかしら? これから寒くなるし」
「黒い長袖とかあるし必要以上に金を使う気になれん。というか一応、どこに行っても問題無い程度は持ってるからこれ以上増やしてもな」
「そういえば世界中を回った事があるんだったわね」
「ま、来年『モンドグロッソ』あるし考えておくのもいいかもな」
新華は前回の『モンドグロッソ』の事を思い出して顔を顰める。千冬がラウラと出会う原因となったあの事件を、
『モンドグロッソ』はオリンピックと2年ズレた4年周期で開催される。前回が中学1年の時だったので、来年新華達が2年になった時に第3回が開催される事になっていた。
「織斑君や篠ノ之ちゃんも行く事になるでしょうね」
「というか皆代表候補生なんだし、専用機持ちは全員行くだろ。来年も忙しくなりそうだ」
「そうね。あ、でも新華君と織斑君、篠ノ之ちゃんは1セット扱いになるんじゃない?」
「それか俺だけ別枠とかな。各代表候補生は自国に戻るだろうし楯無だってロシアに行くんだろ?」
「そうなるでしょうね。最も、1年後の話だけど」
「だな」
結局丈の短いそのコートを買って2人は店を出た。いつもの如く荷物にならないようにハロの中にコートを収納していた。
「うん、いい買い物したわ♪ 持ってもらっちゃってありがとうね」
「何、気にすることはない」(´<_`川)
「テイルズは面白いけどやったこと無いのよね」
「ネタ分かってれば十分。というか簪はともかく楯無はゲームしている暇あったのか?」
「無いわ。勉強と仕事にIS訓練と目白押しだったからそんな暇無かったし、私自身あまりしたいとも思わなかったから」
「『どうぶつの森』はやってたのに?」
「あれは新華君の勧めで始めたんじゃない。別に急ぐようなゲームでも無かったし、のんびり出来た作品だったけどね」
「3DSで出たし、最近ご無沙だな。今度買ってさ、改めて始めてみるか?」
「それもいいわね」
そんな会話をしていたからか、視界にゲームセンターを見つけた2人は
「新華君、ゲームセンター行ってみたい!」
「行ったこと無いんでしたっけ。OK、エスコートしましょうか」
「新華君は遊びに行ったことあるの?」
「ここじゃないけど、割とな」
「ん、じゃあ行きましょ♪ ほら、あのゾンビを撃ち抜くやつやってみたい!」
「あー、あれね。うん、あれかぁ…」
「?」
「いや、何でもない。行こうか」
微妙な表情を浮かべた新華に疑問を持ちながらゲームセンターに入った2人。刀奈の希望で真っ先にゾンビを撃つガンシューティングに向かった。
「へぇ、これが…」
「コードレスだし機械が程よい振動を伝えて衝撃も再現してくれるから比較的やり易いぞ」
「あら、やったことあるんじゃない」
「まあ、な。楯無だったら余裕だろうよ」
「ふふ、ならご期待に答えて連勝させてもらいましょうか! レコード更新させてもらうわよ!」
「…ああうん、頑張れ」
「…何かノリ悪いわね。どうしたの?」
「やれば分かるさ」
「?」
コインを入れ刀奈が拳銃型コントローラーを両手に持って構えた。
「まあいいわ。
そう言うと両手の銃を連射し次々と出てくるゾンビを打ち倒していった。手元の拳銃をクルクル回し、銃ノ型の名に恥じない動きでゾンビ達を寄せ付けない。
「流石」
「当然!」
新華の褒め言葉に調子に乗ったのか、ゾンビを撃ち抜く速度が上がる。近くでそれを観ていた人たちが歓声を上げていたが、新華だけはどんどん微妙な表情を深くしていった。
「さあ、フィニッシュよ!」
ラスボスをあっさり倒しポーズ。観客は沸き上がり拍手が起きた。
「ねえねえどうだった!?」
「決まってた。流石代表やってるだけあると思うよ」
「…何かトゲがあるように聞こえるんだけど」
「ランクインしてるから名称登録してみろ。そうすれば分かるから」
「わっ、ホント! えっと…『
名前を登録しランキングが流れる。50位からスライドして1位まで流れた上盤くらいに刀奈が登録した名前があった。
だが……
「……ねえ、ちょっと」
「………」目逸らし
1位に輝く名前が『
「さては、やりこんでたわね…! 知ってる名前がちらほらと…」
「まだ顔が割れる前、受験が終わった辺りに…な? まず弾がハマって、俺が手本見せたらのめり込んで、俺も本気でやったら…。多分実、スウェン、真の3人組は学校帰りに寄ってたんじゃねぇかな」
「道理で微妙な顔をしていたわけね。新華君から見たら私のプレイはまだまだって感じかしら」
「いや、十分過ぎるくらいだ。ただ、このゲームでならもう少し点を取れるんだよ。ちょっと見てろ」
刀奈と代わりゲーム台の前に立ちコインを入れる。ゲームが始まると拳銃による速射と狙撃のオンパレードが始まった。
「実はこのゲーム、撃って消えるまでに追撃すると得点が更に追加される仕組みなんだよ」ガガガガガガ
「ちょっ、何その速さ。しかも出てきたところを…」
「久しぶりだし、1体につき3発かなー。前は5発行けたんだけど」ガガガン!
「なん…だと…」
「厨2センスで言うなら…『
ゾンビが出てきた所をヘッドショット+追撃2発叩き込み、この繰り返しでどんどん殲滅、いや蹂躙していく新華。刀奈が唖然としている後ろで観戦していた人達もざわめき、中には動画を撮りだす者も居た。
弾倉をリロードする時は、両手に持った拳銃のスライド部を上下逆に合わせズラすことで一瞬で終わらせた。ラスボス相手では大人げないと言えてしまう程の弾幕を浴びせ一気に倒してしまった。
「ドヤァ」
「酷い本気を見たわ。というか新華君、あまりにも慣れ過ぎてない?」
「治安悪い国じゃああの量で反撃されるからな。あのスピードでゆっくり近付いてくるだけとか的でしかない。しかも倒れるまでのタイムラグが長いし、所詮はゲームって所かな」
「経験者は語るってやつね。あー、自身あったのになー」
「なんというか、その、すまん」
「いいわよ。ところであの『Dan』ってネームの人は…」
「ああ、うん。虚さんにぞっこんのあのバンダナ。俺と一夏より時間あっただろうし色々とアドバイスしたら化けた」
「……現代版のび太君?」
「弾はちゃんとテストで点数取ってるから。メガネしてないから。日常でもやるときやれる奴だから」
なんてコントをしている2人の正体に気付いてか、外野がまた騒がしくなった。何人かの人が近付いてきたのを察した2人は
「ここでもか…」
「みたいね」
「なら」
「ええ」
「「逃げるぞ(ましょう)」」
レゾナンスの時と同じように手を繋いでさっさとゲーセンを飛び出し逃走した。2度目だからか2人には呆れつつも楽しむ余裕があった。
「あはっ! まるで愛の逃避行しているみたいね!」
「なら、どこまで行きましょうかお嬢さん!?」
「あはは! 出来るだけ遠くへってどうかしら!?」
「月面旅行でもしますかい!」
「いいわね! 1度でいいから行ってみたいわ!」
「その時は案内させてもらいやすぜお嬢様!」
「よろしくね!」
追いかけられながら軽口を叩き合い、追っかけの人達を撒いて近くの公園に入る。刀奈も新華も息切れをしていないことから体力の多さが伺える。
「ここまで来れば大丈夫ね。もうちょっとゲームセンターで遊んでみたかったけど」
「また行けばいいだろ? これが最後の機会って訳じゃあるまいし」
「あら、また連れてってくれるのかしら?」
「次からは一夏達誘って皆でな」
「それこそ注目浴びて身動き取れなくなりそうだけど」
「何もさっき行った所だけなんて行ってないだろ。ソレスタルビーイングの近くの街にあるんだよ、1件。ほら、あのゾンビゲーはオンラインでランキング出してるから知ってる奴の名前あったろ?」
「弟君に飛鳥君とバヤン君だったかしら。かなりのスコア記録してたように見えたけど」
刀奈がベンチに腰掛け新華は横に立って背もたれに腰を軽く乗せる。
「真はともかく、あの2人は扱う武器が両手装備のライフル系だからな。加えて実の戦闘スタイルはある意味あれで完成しているが、スウェンに至っては専用と言える装備を作ってるレベルだし」
「専用装備ですって? それがあのゲームと何の関係が…」
「一言で言えば『全距離対応型
「全距離対応型の、ガンカタ装備? それって、使う人によっては最高の装備じゃない」
「使える人間が少ないんだよ。ガンカタはかっこいいだろうが実際にやるとなると、な?」
「あー…確かに」
刀奈は先程の自分と新華の動きや、以前ソレスタルビーイングでスウェンとラウラの戦闘を思い出して納得する。あれだけの戦闘を実現するには相当な訓練をしなければ、才能が無い限り無理が出る。
「ソレスタルビーイングで生産しているMSの多くは誰にでも扱える汎用型だが、俺自身が作ったり誰かのテンションが天元突破して作ったりするのが専用機やワンオフ機。その殆どがISとタメ張れるというハイスペックを誇ってる」
「あら、新華君が作ったものだけじゃないのね」
「あのね、確かにワンオフの殆どは俺が作ったし汎用機の雛形を作ったのも俺だ。でも後は放置してんだぜ? 時間が無い時や急ぐ時は俺が作るけど、後の発展や応用は全部開発部任せだ」
「もう正式に発表したら? 生産力と技術力に組織体制が下手なIS企業より高いわよ」
「……モンドグロッソで公表するか?」
「だったら、1年で情報を小出しにしないと混乱と暴動が起きるわね。ヘタをするとIS操縦者達がIS持ち出してソレスタルビーイングにテロ活動するかも」
「……考えるだけでメンド」
頭を掻いてうんざり顔の新華がこぼした感想に刀奈は呆れ顔になる。
「予測される混乱と暴動に対する感想が『面倒』ね…。ま、新華君なら妥当なところかもね」
「面倒と言いつつ対処するだけマシだと思うけどな。ってこの話し止め止め! なんで外に出てデートしている時にまでそんな事考えなきゃならんのや」
「それもそうね。っていうか元はゲームの話しだった筈だけど」
「そうだったそうだった。で、結論はソレスタルビーイングの近くのゲーセンに皆で行くって事でOK?」
「いいわよ。出来ることなら、また2人で楽しみたいけど」
「予定が合えば行けるだろうさ」
「約束よ」
「ああ」
そう返事をすると、刀奈が小指を新華に出してきた。
「お?」
「指切り」
「あいよ」
腰をベンチから退かし座っている刀奈の真正面に移動し、目線を合わせる。
「ゆーびーきーりーげーんまーん、うーそーつーいたらはーりせーんぼーんのーますっ!」
「「ゆーび切った!」」
すいません! 殴れる壁がありません!
来いよコーヒー! 糖分なんて捨てて掛かってこいよ!
「…ふふっ、じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「だな」
新華が手を差し出し、その手を握ってベンチを立つ刀奈。
また腕を組み夕暮れ時の公園から移動しようとした矢先に、刀奈の『ミステリアスレディ』に秘匿通信が入った。
「あら? ちょっとごめんなさい」
「おう」
「もしもし。…ええ。ええ。……そう、わかったわ。丁度新華君も居るし今すぐ向かうわ」
通信をして、先程まで
「どうした」
「新華君、お仕事の時間よ」
「……
お仕事と聞いた新華は、先程までの緩い雰囲気を一気に引き締め刀奈に対する態度を改める。
「全く、折角のデートくらい最後までやらせてくれてもいいのに…」
「仕方ありませんよ。それで、今回の内容は」
「潜入よ。詳しい事は後で話すから、まずは移動しましょう」
「Jud.」
2人してまるで別人のように迅速な行動を実行していく。公園から出る時、2人は腕を組むどころか手を繋いですらいなかった。
ランバ・ラル「小僧、自分の力で勝ったのではないぞ。そのモビルスーツの性能のおかげだという事を忘れるな!」
ラルさん、『モビルスーツ』を『IS』に変換して一夏に言ってやってください。割とマジで。