IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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122話。
IS最新刊が出るみたいですね。だが遅い。遅すぎる。
あとオーバーラップのサイトであらすじ読んだんですけど、体育祭の動機が完全に潰れてて草不可避でした。


戻ってきた日常

 

 

 

 

『ワールドパージ』から3週間後。IS学園は通常通りの授業へと戻っていた。だが1年1組最後列の一角で

 

 

 

 

 

「くー……」ZZZ…

「…青木、起きんか」

「申し訳ありません。ご主人様は1週間と3日間徹夜続きの仕事漬けだったので疲れが溜まっているのです」

「だが今は授業中だ。ここの生徒である限りは起きて授業を受ける義務がある」

「それを今更言うのですか? この2週間この学園から居なかったのですからどうとでもなりますよ」

「他の生徒に悪影響を与えるだろうが。見ろ。そこの布仏など良い…いや、悪い例だ」

「むにゃむにゃ~…」ZZZ…

 

 

 

 

 

爆睡する新華の姿が見受けられた。そしてその横に立ち待機するサヤカも。ソレスタルビーイングの仕事が一段落しIS学園に戻って来る事が出来た新華は、荷物を部屋に置いて着替えないまま爆睡した。

疲れが溜まった新華は、普段なら目覚まし時計のアラームで起きる所を完全にスルー。サヤカが居なければ遅刻するレベルで寝ていた。そして授業が始まってもそれは変わらず、現在千冬が内心頭を抱えている所だった。

 

 

 

 

 

「仕方ない。青木の母上から教わったワードを使うとしよう」

「ワード、ですか?」

「ふむ、サヤカは知らないのか。なら好都合だな」

 

 

 

 

 

そう言って千冬は呟いた。

 

 

 

 

 

「………机の引き出し2段目裏にある隠し書庫」

「何故それをっ!? ………………あっ」Σ(゚д゚)

「おはよう青木。覚悟は出来ているか?」

「……織斑先生、今のは…」

「お前の母上に教えてもらった起床ワードだ」

「………かーさん」orz

 

 

 

 

 

机に突っ伏した新華の頭に出席簿が振り下ろされるが、サヤカが止めて千冬と睨み合う。生徒たちはその光景を唖然とした表情で見るが、シャルロットだけはソレスタルビーイングでサヤカと行動する事もあったので動じていなかった。

 

 

 

 

 

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---昼休み、屋上

 

 

 

 

 

うららかな日差しの中、新華達専用機持ちメンバーは屋上で集まっていた。

 

 

 

 

 

「まずは一夏。ほれ、修理&強化したトリィだ」

『トリィ!』

「あ、ああ。サンキュ。しかし新華、本当に眠そうだな。サヤカも言ってたけど貫徹だって?」

「おうよ。だから、ちょっとおやすみー…」

「ちょっ!?」

 

 

 

 

 

一夏にトリィを渡した新華はそのまま後ろの芝生に倒れこむ。すかさずサヤカが後ろに回り新華を支えてゆっくり芝生の上に寝かせた。しかし新華は寝かされる前に既に寝ていた。

 

 

 

 

 

「お、おいおいどれだけ疲れていたんだよ…」

「見ての通りですよ。さて」

 

 

 

 

 

新華を芝生の上に寝かせたサヤカは空中に手を出してあるものを3つ取り出した。

 

 

 

 

 

「「「ハロッ!」」」

「あ~、ハロハロだ~。直ったんだねぇ~」

「はい。ご主人様が2日程寝続けていた時に直しました。装備の方も新規で生産してインストール済ですし」

「……その言い方だとサヤカがやったように聞こえるが…」

「ええ、私がやりましたが? ご主人様にそんな余裕もありませんでしたし私がやるしかありませんでしたから」

「………もう驚かないぞ」

「そこはご自由に。今日までゴタゴタしてましたからハロを出そうにも出せませんでしたから、改めて出して不具合などを見極めなければなりませんけどね」

「……そうか」

 

 

 

 

 

ハロ3機はコロコロと転がったり跳ねたりと、随分久しぶりな光景を作り出す。新華は芝生で眠りサヤカはそんな新華の横に座っている構図だったが、一夏にはその光景が酷く懐かしく感じられた。

 

 

 

 

 

「…この光景も久しぶりに見るわね。随分懐かしく感じられるわ」

「ですわね。もうずっと新華さんはわたくし達と居る事を拒んでいらしてましたし、わたくし達の目の前でこうして寝るなんて事はありえませんでしたしね」

「新華は今まで沢山頑張ってきたんだ。今はゆっくり休ませてやろう」

「そうだな」

 

 

 

 

 

刀奈が新華の枕元に膝を付き新華の頭を乗せる。

---所謂『膝枕』なる行為を行った。

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

「お、お姉ちゃん…!?」

「お~! かいちょー大胆~」

「あの時見た新華君の記憶にはこういった事が全く見当たらなかったからね。せめて今はこうして、女の子とちゃんとした触れ合いをさせてあげましょ」

「ん………すー」ZZZ…

『トリィ! トリィ!』

「ハロッ!」

 

 

 

 

 

目を閉じた新華の顔を見ながら優しく微笑む刀奈。その画を見て一夏達は自然と集まり新華の顔を覗き込んでいた。

眠りにつく新華の顔は、疲れを感じさせるも同時に優しさと穏やかさを兼ね備えていた。風も優しく新華の頬を撫でる。

 

 

 

 

 

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時は移ろい放課後。目が覚めた新華が顔を真っ赤にさせて刀奈から勢い良く離れたり、ハロ3機と一夏達の賑やかさを久々に感じて新華が涙ぐんだり、校内の雰囲気が戻ってきたり、サヤカが人気者になったりと、事件後初めての穏やかで正常な初日の授業が終わった。

今は久しぶりに一夏と新華が共に並んで寮に帰る道を歩いていた。

 

 

 

 

 

「ふ、あああぁぁああ。よく寝た。でもまだ眠いわ」

「本当に疲れてるのな。後でマッサージしに行こうか?」

「臨海学校の二の舞になった挙句風評被害が激しくなるからやめーや。そういうお前はこの2週間どうだったんよ? 副会長だろ」

「ああ、うん。確かに大変だったけど最初の1週間だけだったな。後は普通に各部活を回ってたし」

「そっか」

「なんか、ごめん。新華を助けたいって言ったのに早くも何もしてやれてない…」

「ああ、そこは気にスンナ。ソレスタルビーイング関係は寧ろ手伝われたら困るから。その気持ちだけでありがてぇよ」

 

 

 

 

 

新華の足元には3機のハロが、一夏の頭上にはトリィが飛んでいた。それを後ろから見るヒロインメンバー+モブ女子達には、『理想の男子』に見えた。

実際に一夏から『鈍感』を抜けば大多数にとって『理想の男子』そのものの筈だし、新華に至っては目つきが少し怖いだけの中身が伴ったイケメンである。ハロとトリィを作ったというのも大きい。

 

 

 

 

 

「まさに文句の付けようが無いくらいに良い画ね。新華君の背中が逞しく見えるわ。実際逞しいのだけれど」

「いいなぁ、ああいうの」

「新華君…。なんだか嬉しそう」

「うう、ご主人様。ようやくご自身の願いが叶いましたね。本当に、ここまで長い道のりでした…。本当に、良かったです」

 

 

 

 

 

何故か後ろの女子陣の中にサヤカが混じっていたが気にしないでおこう。サヤカも空気を読むのだ。

 

 

 

 

 

「まぁどっちにしろ話したい事が沢山あるし、後で皆でお邪魔してもいいか?」

「あー…明後日以降でもいいか? 新しく持ち込んだ荷物の整理と体内時計の修正とかあるから。いいですか楯無会長?」

 

 

 

 

 

一夏の問いに新華は後ろに居る刀奈を見る。刀奈は新華の視線を受けて指でOKサインを出す。

 

 

 

 

 

「大丈夫だってよ。賑やかになる分歓迎する」

「おし。じゃあ後で行くな。しかし今の仕草、まるで夫婦みたいだったな」

「は?」

「あらあら、嬉しいわね♪」

「「むっ」」

 

 

 

 

 

一夏の一言と刀奈の満更でもなさそうな言葉に簪とシャルロットは対抗意識を燃やし新華の両脇に移動する。そのまま強引に新華の腕を抱えて並ぶ。

 

 

 

 

 

「お、おいシャルロット? 簪さん?」

「……負けない」

「僕も譲る気は無いよ。こればっかりは、ね」

「いや、あの…えっと」

 

 

 

 

 

新華は2人の行動と近さに戸惑いながら隣の一夏を見る。一夏は微笑ましいものを見る目で新華を見ていた。サヤカからの脳量子波も飛んでくる。

 

 

 

 

 

『ご主人様! ファイトです!』

『いや助けろよ。羞恥心で参りそうなんですけど。嬉しいけど恥ずかしいんだけど』

『今までご主人様が捨ててきた恋愛を挽回するチャンスですよ!? 私が邪魔出来る筈ないじゃないですか! しっかり、青春を堪能して謳歌してください!』

『お前は……はぁ。でもま、他人から嫌われるよりかは好かれた方が嬉しいよな。ほんと、「俺は恵まれてるよなぁ…」』

「ん? 新華、どうしたの?」

「いや、改めて皆が居てくれて良かったって思ってさ。ありがとうな」ニコッ

「はうっ」///

「うっ…」///

 

 

 

 

 

新華の(無自覚な)ニコポが炸裂し近距離で直撃を受けた簪とシャルロットは顔を真っ赤にして新華の腕を抱く力を強めた。それを一夏は安心して見ていたが、後ろから多くの視線を感じて視線を向ける。

そこには箒を始めとした専用機持ちの面々が。若干、いやかなり新華達をチラ見しながら一夏を見ていた。

 

 

 

 

 

「な、なんだよ」

「いや…」

「なんでもありませんわ…」

「いや、なんでもないって感じじゃないだろ」

「うっさい。ちょっとは察しなさいよ…」

「…シャルロットは嬉しそうだな…」

 

 

 

 

 

新華達を羨ましそうに見る4人。そして何か思いついたのか4人そろって一夏に近付く。一夏はまた理不尽な暴力に襲われるのかと思い思わず身構えた。それを見て4人はムッとした表情になる。

 

 

 

 

 

「…なんでそこで顔を顰めるのよ」

「いや、その…」

「おりむー、女の子相手にそんな反応しちゃダメだよ~。もっと笑ってなきゃ~」

「お、おう」

「まぁ、今回は気にしないでおく。それよりも歩かないと新華達に置いて行かれるぞ」

「そうだな」

 

 

 

 

 

返事した一夏の左腕を抱いて箒が並んだ。素早く鈴が右腕を抱いて並びセシリアとラウラは叫んだ。

 

 

 

 

 

「なっ! …先を越されましたわ」

「くっ、なんという無駄の無い動き…! まさかこの私が遅れを取るとは」

「ふっ、幼馴染は伊達じゃないのよ! さ、行きましょ一夏」

「あっああ」

「…一夏とまるで恋人のように…すこし恥ずかしいが、これはこれで…」

 

 

 

 

 

ぐぎぎと3人を見るラウラとセシリア、ドヤ顔で一夏の腕を抱える鈴、顔を真っ赤にしてニヤつく箒、そして2人のスタイルの良さを腕越しに感じて頬を染める一夏。

 

 

 

 

 

『トリィ!』

「オソイゾイチカ、オソイゾイチカ」

「サキイッテル、サキイッテル」

「オサキニ、オサキニ」

「おーい。お前らいいから足を動かせー。そこで纏まってると邪魔になるだろー」

 

 

 

 

 

新華+新華のハンドメイドロボ達が歩くスピードが落ちた一夏達に声を掛ける。それに気付いて一夏達も新華達に並んで歩いていった。

 

 

 

 

 

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---夜、男子風呂

 

 

新華は久しぶりに一夏と入浴していた。

 

 

 

 

 

「だぅー……血が循環してるぅ…」

「新華、寝るなよ? 危ないから」

「流石にまだ死にたくねぇよ。それに寝るならベッド行きゃいいし」

「でも眠そうだぞ」

「そっとしておけ」

 

 

 

 

 

2人で浴槽にもたれ掛かってリラックス。その後ろでは

 

 

 

 

 

『トリィ! トリィ!』

「ハロッ! ハロッ!」

「マテ! マテ!」

「ロクガチュウ…」

「お前ら、一応防水コーティングしてるけど浴槽に入るなよー。あのハロO、何撮ってんだ。男の入浴シーンなんぞ要らん、削除しろ」

「賑やかになったな。前は俺達だけだったけど」

「あと一時期シャルロットがお前と入っていたけどな。あの時は驚くより呆れたな、全く。サヤカの教育上悪いったらありゃしない」

「あ、あの時の事はもういいだろ! シャルの方から入ってきたんだし…」

「『もういい』とか言っておきながら話を続けるな。まぁ、そのネタで一夏を弄るのも面倒だしいいか」

「弄るって…」

 

 

 

 

 

くっくっくと新華が笑い天井を見上げる。

 

 

 

 

 

「あー……こうして話すのも久しぶりだ。それについ昨日まで詰め込むように色々な事が起きて大変だったな。ほんと、リアルに死ぬかと思った」

「………そうだな、特に新華は。傷の方は大丈夫なのか?」

「コレか? もう大丈夫だが一生残るだろうな。まぁこれが初めてって訳じゃないし今更どうこうする気も無いけど」

 

 

 

 

 

見ると傷だらけの新華の体に最近出来た傷があった。腹部ど真ん中に縦に大きな傷。ゴーレムⅢに刺された時のものだった。刺されたとは言ってもISの装備による負傷、傷は塞がっても消える事は無い。

 

 

 

 

 

「……ごめん」

「何いきなり誤ってんだよ」

「だって、俺が弱いから新華ばっかりそんなに傷ついて…」

「……」

「それに新華は、俺なんかより辛い事も悲しい事も沢山経験してて。あの時俺は『新華を守る』って思ったままに言ったけど、俺なんかじゃ新華を守るどころかまだまだ新華に守られてばっかりで…」

「…………」

「千冬姉や生徒会長は強いから新華を守れるかもしれない。だけど、俺は…何も知らずに」

「そーぅら」バシャッ

「わぶっ!?」

 

 

 

 

 

一夏が暗い顔で淡々と話すのを聞いて新華は一夏の顔にお湯を掛けた。一夏がむせる。

 

 

 

 

 

「げふっ、何するんだよ!」

「アホ。普通俺らの年代で守るだの守られるだの考える方がおかしいんだよ。まだ15だぞ? 大人に守られてナンボのケツの青い子供(ガキ)だ」

「そ、そうだけど」

「俺や楯無会長じゃあるまいし、いくら千冬さんの弟とはいえお前はお前だ。経験もそこまで無いのに俺を守るなんてまだまだ早い」

「うっ」

「でもさ。それでいいんだよ、お前は。ガキらしく無邪気な正義感振り翳して我武者羅に前に進んでいく。それでいいのさ」

 

 

 

 

 

再び天井を向いて息を吐く。

 

 

 

 

 

「そうやってお前は、お前達は成長していく。それで、いつか俺を追い抜いて俺の手の届かない所まで行っちまうんだろうな」

「え…」

「俺が今の実力を手に入れたのは人一倍、いや3倍の時間と経験を重ねているから。でもお前はそんな俺の戦闘技術を取り込み経験して俺の時以上の成長を見せている。このまま行けばいつか俺を倒せるくらいにな」

「俺が、新華を?」

「と言っても、俺にはサヤカっていう誰よりも頼れる相棒が居るし? まだまだお前に負ける気も無いけどな。実だって真やスウェン達と一緒に強くなってきてるし」

「…そっか」

「ああ」

 

 

 

 

 

2人はトリィとハロ達のじゃれ合いを背に、静かに体を湯船に沈める。

 

 

 

 

 

「まぁ、なんにせよだ」

「?」

「コンゴトモヨロシクな、親友(・・)

「!! ああ! よろしく!」

 

 

 

 

 

新華が突き出した拳に一夏が拳をぶつけて笑みを浮かべる。そのまま男2人で笑いあった。

 

 

 

 

 

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---side 女子風呂

 

 

 

 

 

男2人が男子風呂で絆を深めていたのと同じ頃、女子風呂ではヒロイン勢が同じように中を深めていた。

敢えて言おう、戦争出来るメンツである。

 

 

 

 

 

「ふうっ、やっぱり大きなお風呂は気持いわね。ほら簪ちゃん、もっとこっちに。他の子達も居るからね」

「うん…」

「ほら本音、フラフラしないの。危ないでしょ」

「わかった~」

「やっぱりIS学園だと気が楽だなぁ。最近良くなってきたけど、やっぱり社ちょ…お父さんは苦手だからなぁ」

 

 

 

 

 

刀奈、簪、虚、本音、シャルロットのメンツ。虚は本来なら2年の寮で入るのだが、今日は仕事も新華の事も1段落したという事で刀奈に誘われ入っているのだ。

 

 

 

 

 

「やはり日本人には風呂だな、うむ」

「日本人だけじゃないわよー。でも本当、ここ最近は疲れたわ。はぁ…」

「鈴さん、ため息を付くと幸せが逃げると言いますわよ」

「だが、流石にここ最近の非常事態は多過ぎではないか? 疲れるのも無理ないだろう。かくいう私も一旦ドイツに戻り仕事をしていたからな。まぁ、部隊員達との交流もあったからな」

 

 

 

 

 

箒、鈴、セシリア、ラウラのメンツ。こちらは特に言う事は無いだろう。そして

 

 

 

 

 

「ふむ、皆さんもご主人様程ではありませんが疲れていますね。この2週間程で癒されているかと思えば…」

 

 

 

 

 

浴槽に入らず刀奈の後ろで座っていた。他の女子達とは違い見た目は服を着ていた。

 

 

 

 

 

「あの、サヤカ? お風呂だから服脱がないと…」

「ああ、これですか? 実はこれ服を着ているように見えて着ていません」

「「「「「「は?」」」」」」

「要はイメージで出来てます。まぁ私のこの体を構成しているのは流体金属なのでイメージ次第でどうにでもなるのですが」

「…そうなんだー」(棒)

「それに…」

「ん?」

「ご主人様からの強い要望で『サヤカ、お前が裸になるのだけは勘弁してくれ。頼むから』と言われているので」

「…新華……」

 

 

 

 

 

ここに当時新華は割と必死だった事を記しておく。

 

 

 

 

 

「そんな事はどうでもいいんです、重要な事じゃない」

「そ、そうなの…?」

「どうでもいい事です。私はご主人様に必要とされて使ってもらえればそれだけでいいので」

「前からそう言ってるけど、本当にそれだけでいいの? もっと自由に生きたいとか思わないの?」

「ご主人様からも聞かれますけど、私は今も自由に生かしてもらってますよ? その最たる例が今こうしてご主人様から離れて行動している事ですし」

「…そういえばサヤカは新華のISなのに人と殆ど変わらないよね。サヤカの元になった、えっと『OOガンダム』だっけ? を制作した存在ってやっぱり、あの時に出てきた…」

「はい。まぁそこは気にしなくても問題ありません」

「「「「「「いやいやいやいや」」」」」」

 

 

 

 

 

聞いていた女子達が一斉に首を振る。

 

 

 

 

 

「問題大アリよ? なんせオーバーテクノロジー満載の『蒼天使』を作った存在なんだから。それこそ篠ノ之博士以上に重要視されるのに、問題無いって…」

「この世界に居ないのにどうやって連れてくるんですか。どうあがいても人間には無理ですよ。そういう存在なんです、あのお方は」

「は? どういうこと?」

「そういうことです。考える方がバカバカしいですよ。それよりも私には気になる事があります」

「いや、それよりとは…。サヤカの基準が分からんな」

「価値観の違いです。それよりも」

 

 

 

 

 

箒の疑問の声をバッサリ切り捨てサヤカは刀奈、簪、シャルロットに視線を向ける。

 

 

 

 

 

「? 何かしら」

「いえ、ご主人様の伴侶になるのは誰になるのかと」

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

刀奈、簪、シャルロットの3人が思い切り反応し他の女子達の意識が一斉にそちらへ向いた。

 

 

 

 

 

「あ、1つ言っておきますがご主人様は今まで恋愛という意味において好きな人を持った事は無いようですよ? そんな余裕も無さそうでしたし、作る気も無かったみたいですし」

「そ、そう…」

「ですがこれからは違います。あなた方があの時受け入れてご主人様を救ってくれたお陰で、ご主人様の心に余裕が出来ました。だから、これからは皆さんに頼る事もあるでしょう」

「でも、だからって伴侶とかは早すぎじゃ…」

「忘れましたか? この国には『婚約』というものがある事を。そしてご主人様は一途な方です。ああ見えて貞操観念はしっかりしているんですよ? ですから一度好きになったら…」

「……最後までいくと?」

「はい。それに今までの反動も予想されますからね。どうなるかは私でも分かりません。もしご主人様がお相手を決めたその時は……」

「「「「「「そ、その時は……?」」」」」」

 

 

 

 

 

サヤカの言葉に一同が息を呑む。

 

 

 

 

 

「砂糖が大量に生産される事でしょう。人体から」

「そ、そこまでですの?」

「ええ、恐らくは。考えてもみてください。ご主人様だって男性です。それこそ人並みに性欲はあるんですよ? 恋愛だって人並みにしてみたかったでしょうし、それこそ思春期男子特有の甘さに憧れた事もあるでしょう。ですが立場と自身の行動からそれらを押し殺していた。誘惑を全て振り切って」

「まぁ、そうだな」

「それに織斑さんとは違って鈍感ではないのですよ? 好意を向けてくれる異性を突き放すというのは辛い事です。でももし、それが必要無くなったとしたら?」

「……あー」

「それは、うん…」

「後は想像にお任せします。まぁ私から言わせてもらうと」

 

 

 

 

 

サヤカは一同を見渡した後に再び刀奈、簪、シャルロットに視線を向ける。

 

 

 

 

 

「…ご主人様の選択を尊重します。誰も選ばないという最悪の選択以外は」

「あ、その選択肢もあるのね…」

「そうはさせませんけどね。ご主人様はもういい加減人生の幸福を得るべきです。ですから、よろしくお願いします」

「…サヤカは?」

「私はご主人様が幸せなら何もいりませんが? あ、贅沢を言うならご主人様の子供や孫を抱いてみたいですね」

「「「「「「気が早すぎる…!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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風呂から上がり新華は1050室に戻っていた。

 

 

 

 

 

「えと、これは明日整備科に持って行くとして…あ、もうやる事ねぇや」

「終わったかしら?」

「あ、はい」

 

 

 

 

 

荷物の整理を終えベッドにうつぶせになる。今部屋に居るのは新華と刀奈だけ。

 

 

 

 

 

「はぁー…。やっと日常に帰ってこれた…」

「お疲れさま。それにしても以前のピリピリした雰囲気から一気に戻ったわね」

「こっちが素ですからね。もう皆を突き放なそうとしなくていいなら俺も自然体で居ますよ。その方が楽ですから」

「でしょうね。今の方が生き生きしているわよ」

「それはどうも」

 

 

 

 

 

サヤカが新華の横に座る。

 

 

 

 

 

「さて、ご主人様はこの後どうされるおつもりですか?」

「寝る」

「そ、即答ね…」

「眠いですし。疲れ溜まってるんですよ…。しかも風呂にゆっくり浸かれたもんだからあったかいですしぃ…」

「そうだけど、まだ8時よ? 流石に寝すぎじゃない?」

「明日の早朝からトレーニング再開しないと筋肉が休止状態のままリストラ始めるんですよ。筋力低下するサイクル知ってます? 1~2週間程度なら筋肉が休止状態になってて数日くらいで筋力が戻りますが、それ以上運動を怠ると筋肉自体が減少していくんですよ。今の俺はまさにギリギリですね」

「そ、そうなの」

「ですけどご主人様の場合は幼少期から運動し続けていたので直ぐに元の状態に戻るかと。鍛え上げた時間だけ休養期間が長くなっても筋力は低下しにくくなる…らしいですし」

「でもなるべく毎日した方がいいっしょ?」

「逆に1~2週間の休暇を取った方がいいという事が医療方面で言われている事ですよ?」

「でも今更やめるってのもなぁ。ソレスタルビーイングの仕事と同じで『必ずやること』って括りの中に入ってるし」

「……新華君、それワーカホリックの言葉じゃない?」

「違います。…違うよね?」

 

 

 

 

 

そうやって3人で話していると、部屋のドアがノックされた。

 

 

 

 

 

「あら、誰かしら」

「あー……この感覚だと簪さんあたりですかな?」

「……何で分かるのよ」

「脳量子波と勘の併用です。多分そのうちラウラも出来るようになるんじゃないでしょうか」

「おっかないわね…。でも日常で使う必要無いんじゃない?」

「俺とアンタはありまくりでしょうが。ってかさっさとドア開けてあげたらどうっすか」

「そうね。待ってて、今開けるから」

 

 

 

 

 

そう言って刀奈がドアを開けると本当に簪が居た。部屋の中に入れる。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい簪さん。俺は見ての通り溶けてるけど堪忍ね」

「う、うん…」

「で、どしたん? 何か用事があってここに来たんでないの?」

「うん…。少し聞きたい事があって…」

「聞きたい事? 言ってみ」

 

 

 

 

 

上半身を起こして簪に視線を向ける。簪は少し躊躇いがちに新華に問うた。

 

 

 

 

 

「新華君は、その、どうして私だけ『さん』付けなの…?」

「ん? …あー、なんとなく?」

「何で疑問形なのよ。そういえば箒ちゃんや鈴ちゃんはともかく、セシリアちゃんとラウラちゃん、それにシャルロットちゃんは呼び捨てね」

「うん…。お姉ちゃんだって『楯無会長』って呼び方変わったのに、私だけ…」

「…そういえばご主人様は最初『妹さん』と呼んでいましたね。いつから今の呼び方になっていたんでしたっけ」

「えーっと…」

 

 

 

 

 

新華は仰向けになって上半身を起こした。そのまま腕を組んで考える。

 

 

 

 

 

「確か開発手伝い始めて少しした時に『妹さん』はやめてって言われて、『更識さん』にしようとしたんだけど何故か今の『簪さん』で落着いたんだっけ」

「うん…」

「でもなぁ。今更変えるってのもなぁ」

「でも、デュノアさんの時はちゃんと変えてた…」

「ああ。そういやあん時もシャルロットの時からだったな。でも長い間呼び続けていた名前って変えづらいんだよ。違和感あるし」

「それでも、私だけ『さん』付けなのは嫌…。私の事も『簪』って呼んで」

「……その方がいいのか?」

「うん…。だって、好きな人からなら嬉しいから」

「うっ…」//

 

 

 

 

 

簪の真っ直ぐな気持ちに新華は思わず顔を背ける。今までいくつもの好意を受けて流してきた新華だったが、『ワールドパージ』の時に救ってくれた特別な(・・・)女性(ひと)からの好意は嬉しくも恥ずかしく感じられた。

 

 

 

 

 

「むぅ、簪ちゃんやるわね」

「いいですよ~、その調子でご主人様を篭絡しちゃってください」

「サヤカ、お前は俺の味方じゃないのか」

「味方だからこそですよ。で、どうするんですか? 呼び捨てにしないんですか?」

「……そうさな…」

「………」

 

 

 

 

 

簪が真剣な目で新華を見つめる。その簪の意思に新華は折れた。

 

 

 

 

 

「はぁ、分かったよ。でも直ぐに出来る訳じゃないからな」

「うん…! …今、呼んでみてくれないかな…?」

「…シャルロットの時もこんな感じだったな」

「こら、女の子と話している時は他の娘の事を考えちゃダメよ」

「はーい。っつっても面と向かって言うのは恥ずかしいな…」

「ご主人様、ファイトです! これも青春ですよ!」

「お前は本当にどっちの味方だよ…」

 

 

 

 

 

ゴホンと咳払いを1つして簪の顔を見る。簪は期待に満ちた顔で新華の目を見つめ返した。

 

 

 

 

 

「あー…んと、簪」

「! うん…! もう1回、呼んで…!」

「…簪」

「も、もう1回、もう1回…!」

「簪」

「っ~~~~!!」//////

 

 

 

 

 

簪は真っ赤になりながらニヤつく顔を両手で押さえて、首をブンブン振っていた。相当嬉しかったようです。

対する新華もそれなりに顔を赤らめて簪から視線を外していた。その外した視線の先で刀奈が微笑ましそうに、それでいて寂しそうな羨ましそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

「…良かったわね、簪ちゃん」

「うん…! あ、ありがとう新華君…!」

「いや、まぁ、うん」

「明日から、またよろしくね…! おやすみなさい…!」

「ああ、おやすみ」

 

 

 

 

 

簪が真っ赤な顔のまま走って部屋を出て行った。部屋には気まずい空気が流れる。

 

 

 

 

 

「………楯無会長」

「…何?」

「……いえ、俺はそろそろ寝ますね。明日からまた生徒会に顔を出すので、よろしくお願いしますね」

「ええ」

「…更識さん…」

 

 

 

 

 

刀奈は新華から視線を逸らして自分のベッドに座る。そして仰向けに倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

「はぁーあ。私も、寝ちゃおうかしらね…」

「アンタは俺と違って仕事溜めずに終わらせてますからねぇ。早すぎですけどそれもいいんじゃないですか?」

「ご主人様……」

「そうね…。たまには、そういうのもいいかもしれないわね。じゃあ、私も寝ちゃいましょうか!」

「じゃあ電気消しておいてくださーい」

 

 

 

 

 

そうやって刀奈が電気を落として新華がサヤカを待機状態に戻し枕元に置いて布団に潜り込む。すると、なんということでしょう。刀奈が新華の布団に入ったではありませんか。

 

 

 

 

 

「……楯無会長」

「いいじゃない♪ 今はお姉さんに甘えなさいな」

「俺、中身は40超えてるんですけど」

「でも今は15でしょ。過去を大事にするのもいいけど、今新華君と居る私達を忘れないで」

「………」

 

 

 

 

 

刀奈が布団の中で新華の背中に抱きつく。豊満な胸が当たってドキドキする新華だったが、次の刀奈の言葉でそんな自分を押し殺す。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。嫌かもしれないけど、こうさせて」

「……会長…」

「んっ…」

 

 

 

 

 

新華の背中に顔をうずめて額を擦りつける。新華には刀奈の不安の感情が流れてきた。

 

 

 

 

 

「……(不安、か…。あの時、会長は俺が好きだと言ってくれた。でも、多分さっきの俺と簪さんのやり取りを見て……って所かな?)」

「………(簪ちゃんが幸せになってくれるのは嬉しい。だけど、私も新華君と一緒に居たい…。ダメね、私。簪ちゃんの事を想うんだったら、私が手を引くべきなのに…)」

「…(ご主人様がこれからという時に、更識さんが不安に駆られるとは…。もういっそのことご主人様が皆さんを囲えばいいんじゃないでしょうか)」

 

 

 

 

 

各々が内心で思いに耽る。サヤカの思考が問題だが、生憎ツッコミが出来るラウラは自室、新華は刀奈の事で思考しているので突っ込めない。

 

 

 

 

 

「………もう寝ますよ。眠れないのなら、そのままでもいいです」

「!」

「それに、別に嫌じゃないですよ。俺だって男ですからね、結構ドキドキしてます。だから自重が効く間に寝ます。疲れもありますしね」

「……そう」

「ええ」

 

 

 

 

 

ですから、と言って息を吸う。

 

 

 

 

 

「おやすみ、刀奈(・・)

「っ!」

 

 

 

 

 

刀奈が欲しい一言を贈り、目を閉じた。刀奈の大胆な行動で眠れないかと思ったが、自分が思っていた以上に疲れが溜まっていたのか意識を直ぐに手放した。

 

 

 

 

 

『ご主人様、いい夢を』

 

 

 

 

 

そんなサヤカの穏やかな声が最後に聞こえたが、意識が落ちる新華は返事が出来なかった。

 

 

 

 

 

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---side 刀奈

 

 

 

 

 

「……新華君?」

「…すかー……」

「…本当に寝ちゃったのね…お疲れ様」

 

 

 

 

 

刀奈は新華の背中に抱きつき密着した。その豊満な胸が新華の背中の間で確かな弾力をもって潰れるが、刀奈はそれを苦とは思わなかった。

 

 

 

 

 

「本当に、新華君って女殺しね…。私が言って欲しい事をちゃんと言ってくれるんだから…」

 

 

 

 

 

刀奈の脳内では新華の声が延々と繰り返し流れていた。新華が呼び捨てにしてから顔は赤くなり熱が収まらなくなっていた。

 

 

 

 

 

「んもう…こんなんじゃ私の方が眠れないわよ」

 

 

 

 

 

激しく鳴る心臓をそのままに新華の匂いを堪能する刀奈。自分の最愛の妹がライバル故に悩んでいたが、新華の最後の一言で心が決まってしまった。

 

 

 

 

 

「私も、新華君に好かれたい。ううん、愛されたい。心の拠り所になりたい。また呼び捨てにされたい。恋人になりたい。抱き締められたい。ちゃんとしたキスがしたい。もっとこうして一緒に寝ていたい」

 

 

 

 

 

刀奈の口から次々と想いが溢れてくる。その目は……潤んでいた。

 

 

 

 

 

「ふふ、新華君。私をこんなにした責任、取ってちょうだいね? 私はあなたを放すつもりはもう無い。ずっと、一緒に…」

 

 

 

 

 

新華を抱く力を少し強める。そこで1つ思いついた事があった。

 

 

 

 

 

「…いっそ簪ちゃんも纏めて面倒見てもらっちゃおうかしら。うん、その方が平和に収まりそうね。私は簪ちゃんと仲違いしたくないし、私も簪ちゃんも新華君を離したくない。世間体なんてどうとでも出来るわ。うふふ」

 

 

 

 

 

物凄くマズイ思想に染まっていく刀奈。暴走状態と言ってもいい。だがその表情からは幸せ一杯である事が分かってしまえた。

このままではアウトネリコになってしまうが……正直それでもいいと思ってる。というかそうしたい(by ガノタ

 

 

 

 

 

「うふふ…。まぁ、やっぱり新華君が誰を選ぶかで決まるんだけどね。だから今は、こうして幸せな未来を夢見ましょう。大丈夫」

 

 

 

 

 

時間はこれから沢山、あるのだから…

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

 




新華を『中2恋』の世界に入れてみたいと思ってしまった先週。ガチの超能力の持ち主で鬱な前世持ち…。どうなることやら。
まぁそんなこんなで、最新刊が出るまで完全にオリジナルをダラダラと書く予定です。以前にも言ったかな? もしかしたらファフナーを進め…られそうにないな。(←おい

次回の更新はいつになるかわかりません。

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