「じゃあ、俺は、ただの、ただの…」
『だから言っているじゃない。君はタダの殺人鬼・・・。人殺ししか脳の無いバケモノ。世界から疎まれ嫌われる異物。ほら、君のP・V・Fがそれを証明しているよ』
「P・V・Fが…?」
新華は右腕を見る。今にも壊れそうなくらい脆く見え、装甲の間からずっと赤黒い血が流れ汚れていた。ふと新華は、左手を動かして血を拭いP・V・Fの名前を見る。
血が溝に溜まりながら不気味に流れている。そこに書かれている文字は『Story's Irregular』。『物語の特異点』。
『そう、特異点。つまりは必要ないどころか』
「消えた方が、いい…? 俺は、無意味どころか、邪魔…? …あ、あははははははっ!」
『さて、それはいつからだろうね? 名前も無い、存在する意味も無い。そんな存在なのに沢山否定してきた僕ら・・は、どうすればいいか』
「そんなの、決まってるだろうが…」
新華はP・V・Fに張り付いている腕を振り払い『no name名無し』を展開、自分のこめかみに銃口を当てる。
「ここから居なくなるべきなのは、俺だ。本当に要らないのは、俺だったんだ。なのに沢山殺して…」
『……どうしたい?』
「決まってる。俺の罪は全部、ここで持って逝く。後は全部サヤカ達に継がせる」
『いいの?』
「良いも悪いもない。俺が死んだ時の対策は取ってある。だから」
『自分の納得出来る死を、か。ま、別にその結末でも問題無いけどね。僕ももう疲れたし、やるならさっさとやっちゃって』
「……ああ」
そうして新華は、引き金を引いた。
----
-------------
--------------------------
---side 専用機持ち達
ダァンと
一夏達は銃弾の音を聞いた。そして一足遅く新華の所へとたどり着いた。
「「「「「「新華(君)!?」」」」」」
そこで見たのは、何も展開していない状態で・・・・・・・・・・・・ゆっくりと立ち上がる新華の後ろ姿。途中で鈴とセシリアが膝を付いて止まってしまった為心配だったが、一夏達は背中を見て安堵のため息を吐き先程の銃声の事を聞こうとした。だがすぐに絶望の声が響いた。
「新華、無z」
『---間に合わなかった…』
「事だった…………か?」
「え……」
一夏、楯無、簪、シャルロットがその言葉に激しく不安を掻き立てられる。そして新華の背中に手を伸ばすが
------新華がガラスのように砕けた。
「は……?」
「え、ど、どういう事ですの?」
「新華が、砕けた、だと…!?」
「砕けた、のか? 私には折れたように感じられたのだが…」
鈴、セシリア、箒、ラウラの4人が呆然と呟くが、一夏達4人はそれどころではなかった。光を放っていたトリィはその光を失って墜落、足元で水没して消えタンザナイトからも光が消えた。シャルロットのラファールからも光が消え去り一夏達自身を中心とした光も失われた。
一夏達はその光景に慌てるも何も出来ず、ただ視界に広がる光景が真っ黒に染まっていくのを見ている事しか出来なかった。
そんな一同の背後に気配が1つ現れた。最初にラウラが気付き、ほぼ同時に一夏達が振り返り、それを見た箒達が振り向いた。そこに居たのは
「新、華…なのか?」
「………」
顔以外を全身装甲で包み込んで浮いていた新華だった。その姿を見て一夏達は絶望を抱いた。あの夢と同じ光景になってしまったと。
新華の顔に表情は浮かんでおらず、今まで暖かみを持っていた瞳は何も移していなかった。それどころか一夏達を『赤の他人』を見る目で見ていた。一同は言い知れない不快感を抱く。
「新華、君、なんて目をしているの」
「新華君…? これって…」
「………さよなら」
「っ!? 新華ぁ!」
一言、そう呟くと新華は消えていた。新華の消失と同時に黒く染まった世界もガラスが砕けるように崩壊して、一夏達は真っ白な空間に浮いていた。
誰も、何も言えなかった。
---side out
----
------------
----------------------------
その後一夏達はIS学園の中枢にたどり着き騒動を終わらせる事に成功した。しかし現実へと戻ってきた一夏達が見たのは、呆然とする虚と膝を付いて泣き崩れるサヤカ、そして破壊された新華のベッドチェアとアクセスルームの出入り口だった。新華の姿は無い。
一夏達はサヤカと虚に新華の事を聞くが
「どうしてご主人様ばかりがこんな目に遭わなくてはいけないんですか! どうして、のうのうと能天気に生きているあなた達ばかりが幸せを手に入れて、こんなっ、こんなっ…!」
「……青木君は突然光ったと思ったら全身に装甲を着込んだ姿となり、ベッドチェアと扉を破壊してどこかへ行ってしまいました。その際『さよなら』と言い残して…」
それを聞いた一夏達はそうすればいいのか分からず呆然としていたが、楯無がすぐに千冬と連絡を取り新華の捜索が行われた。しかし新華が見つかる事は無かった…。
----
-----------
------------------------
襲撃と新華の失踪から2週間。ソレスタルビーイングも新華を捜索したものの成果は得られず、更に新華の死亡通知がヴェーダから直接サヤカとソレスタルビーイングに届けられた。それを受けたソレスタルビーイングは混乱と悲しみに包まれるもサヤカの指揮と各大人の冷静な行動で落ち着きを取り戻した。
サヤカはISだが既に自律行動は可能で、IS学園からソレスタルビーイングへと自力で帰還していた。だがサヤカに以前のような感情の起伏は見られず、誰かから話し掛けられても事務的な返事しか行わず一夏達IS関係のメンバーに至っては完全に拒絶していた。
そして更に1週間後。
全世界の軍事基地がハッキングされ操作不能となり、新華から全世界へと宣戦布告が成された。
『これより48時間後、全世界への核、及びミサイル攻撃を行います。死にたくなければ発射までにカソウサス付近に居る私を見つけ殺しなさい。さぁ、『白騎士・蒼天使事件』の再来です。今度は誰が英雄になるのでしょうかね?』
この新華のセリフに各国政府は激怒しソレスタルビーイングを人質に取ろうとした。だが新華が宣戦布告と同時に政治家達や軍上層部の者達、所謂『お偉いさん』達の不正や闇に葬られた罪を垂れ流しにした。結果として全世界は混沌に陥り纏まりが無くなった。
纏まらない国。自分勝手に主張して責任を持とうとしない民。これ幸いと主権を握ろうとする女性利権団体。平然と行われ出した私刑や暴動の数々。ISに軍費を割いていたせいで追い付かない『カソウサス』の位置特定。
沢山の事が重なり世界は大混乱。ソレスタルビーイングは近くに居るであろう新華を探し話を聞く為にIS学園と連絡を取り戦力を整えようとする。
「カソウサスとは恐らくこの『ソレスタルビーイング』の事でしょう。彼が作った専用バスの帰還コードが『カソウサス』ですから。ですので青木君はこのソレスタルビーイングのどこか、もしくは周辺に居ると思われます」
『成程。ではこちらからは織斑と篠ノ之を向かわせよう。それと出来るだけ各政府にも要請を出すが…期待はしないでおいてくれ』
「分かっています。こちらでも各MSの出撃準備は出来ているのですが地元の人が押し寄せています。なるべく急いでください。最悪ISを展開したまま来る事も考慮した方がいいです」
『…そこまで酷いのか。承知した。恐らく更識 簪は間に合うだろうが更識 楯無が行けるかどうかは分からん。私もそちらへ向かう。戦力は多いに越した事は無い』
「分かりました。受け入れ準備をしておきます」
メリオルは胃を痛めながらそういった通信を千冬と行った。サヤカは新華と戦う事を拒否しソレスタルビーイングの新華の研究所を封印してどこかへと消えていた。
そして24時間後、一夏、箒、千冬、山田先生を始めとるす教師達、簪がソレスタルビーイングに到着。更に勝手に束が乗り込んで来て一触即発の空気となった。しかし状況は一刻を争うという事で暗黙の了解を経て新華の討伐が行われる事になった。
新華はソレスタルビーイングがある南アルプス、間ノ岳あいのだけの山頂に居た。まず一夏達が新華の説得に向かう。
「I'm thinke トゥートゥートゥートゥトゥー………やはり君達が来ましたか。一夏、箒」
「新華…! 一体お前は、何をやっているんだよ!?」
「今更そんな問答をする気はありません。さぁ、剣を抜きなさい。そして私を殺しなさい」
「っ!? 新華、お前に一体何があったんだ! あの日私達の前から消えたのは、どうしてなんだ!」
「さぁ、行きますよ。早く私を殺しなさい。時間が経つにつれ世界の危機は、人類の危機は迫ります。まぁこの程度の危機に一丸となれない人類など、死滅した方がいいかもしれませんが」
「っ! 本気で言っているのか新華!」
「くだらない。あなた方は私を説得に来たようですが、無駄です。私は人間のコトワリから外れた者。くだらない感情を持ったまま挑むとあなた方の大切なものが消えますよ?」
「くっ」
新華は生身だった状態から鎧を展開して浮き上がる。そしてソレスタルビーイングから計12機のISが、30機のMSが飛び出す。同時にソレスタルビーイングからの砲撃も加わり、たった1人を相手にした戦争が始まった。
最初は数の差とMS郡のコンビネーションにより有利に立てた。だが対する新華はだんだんと一夏達を追い詰めていく。
両腕両足のトンファーを使い打撃を、背中と腰の元砲身を使いオールレンジ攻撃を、連結させて薙刀状にして攻撃したりと、多彩な近接攻撃で攻める新華。30分が経過した所で鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、楯無達が合流し戦況は変化。一夏の零落白夜が新華へと届き胸を切り裂く。
そしてラウラのPICと多くのワイヤーで新華を拘束し一夏達は投降を呼びかけた。
「新華、もうやめてくれ! 勝負は付いた!」
「…殺しなさい。そうすればミサイルの発射は中止されあなた達は英雄となる」
「もうやめて…! どうしてそこまで死にたがるの…!?」
「……殺してくれないのですか?」
「そんな事、出来る訳ないじゃないか! ねえ、どうしてこんな事をするのさ!」
「………ああ、そうでした。君達はそういう人達でした。本当に…」
「…新華君?」
そこで遅場せながら一夏達は気付く。零落白夜で切り裂いた新華の胸から血が出ていない事に。新華の顔が死んでいる事に。
「本当に…………………失望しました。がっかりです」
瞬間移動でまず一夏の腹を貫く。
「………………え?」
「全く、私はもう死にたいからこの事態を起こしたというのに…。その死にたいという希望まで殺してくれるとは、本当にあなた方には失望しました。せめて私が今まで感じた以上の苦しみを抱いて死んでください」
「し、んか…?」
「い、一夏…?」
「ふんっ」
一夏を投げ捨て死んだ目で討伐メンバーを見やる新華。切り裂かれた胸はデータのような光を撒きながら徐々に修復されていた。
「い、一夏ああああ!」
「くっ、新華君、その体は…」
「言ったでしょう。人のコトワリから外れた者と。肉体は既に情報のみの存在となり血肉は存在していません。それと1つ…」
「一夏、一夏!」
「しっかりしろ一夏!」
腹から致命的な血を流す一夏と、一夏に声を呼び掛ける箒、鈴、セシリア、ラウラ、千冬をつまらなそうに見て新華は言った。
「もう私は知識上でしか繋がりを感じません。だから今私が一夏を殺せたのも繋がりを感じないから」
「……」
「ああ、繋がりを感じなくなったと同時に痛みも感じなくなりましたね。痛覚の繋がりまで無くなったのでしょうか。まぁ、どうでもいい事ですね」
「新華アアアアア!」
千冬が復活した『暮桜』で新華に斬りかかる。だがその怒りが乗った千冬の見え見えな斬撃を喰らう愚かな新華では無かった。
あっさりと躱してカウンターを入れる。だがそのカウンターは千冬の勢いをそのまま利用したもので、更に言えば今までの戦闘でシールドエネルギーを削られていた『暮桜』では防げなかった。結果
「がはっ」
「あなたも、下らない。殺そうとしてくれるのは有難いですが、私にそんな見え見えの攻撃が当たるとでも?」
「ぐはっ、だが、動きは止めたぞ…!」
「たああああああ!」
「……ハァ」
千冬は腹部に刺さった新華のトンファーを握り締め顔を歪める。そこに箒の憎しみに塗れた刀が迫る。しかしそれを新華はため息1つで終わらせる。
まず残りのトンファーを動かして千冬を四方八方から串刺しにして墜とす。そのまま冷静に箒へと振り返り迎撃しようとする。
「いけえええええ!」
「…ほう」
「許しません…! 許せませんわ!」
「新華ああああああああ!」
ラウラからの砲撃を使い箒が加速、新華の右腕を切り飛ばし鈴が剣を連結、回転させて飛ばす。その剣に対してセシリアがライフルを撃つ事で『ビームコンヒューズ』のレーザー版が出来上がった。レーザーと箒の斬撃が新華を襲う。
「憎しみが満ちる…。ここにインキュベーターなんて存在でも居れば大歓喜だったでしょうね」
「ごちゃごちゃ言っている余裕があるのかァ!」
「墜とす、落としますわ!」
「あんたは、一夏をおおおお!」
「やれやれ。ようやく殺してくれるのですか。随分と遅すぎますけどね。…おや?」
「兄貴! どうしちまったんだ!」
「アンタって人はああああああああ!」
「目標確認。…新華さん、すみません…。俺達はまだ、あそこに居たいんです…!」
「実にシンにスウェン…か。そうだな。君達なら…」
「余所見をするなああああああ!」
背後から斬りかかる箒を、振り向きもせずに串刺しにした。
実はフェザーファンネルを射出しツインバスターライフルを限界までチャージ。それを援護するように真のインパルスとスウェンのストライクノワールが、ラウラとセシリアと鈴、IS学園教師達が、各MS達が砲撃と狙撃を行って援護する。
「そう、それが正解です」
「兄貴! せめて俺の手で…」
「アンタには恩がある! だから、せめてアンタの願いを叶える事でそれを返す!」
「新華さん、俺は…!」
新華は砲撃を弾きながら実達に近付いていく。だがファンネルと砲撃の密度は高い。それに片腕が無い状態では限界があった。
「兄貴いいいいい!」
「!」
ツインバスターライフルが発射される。山を抉るビームが迸るが手応えは無かった。それを感じた真がソードシルエットからエクスカリバーを取り出して何も無い空間に突撃する。
「ハアアアアアア!」
「! ぐっ」
そこに新華が瞬間移動してきて、エクスカリバーが突き刺さる。真はその場からすぐ離れるが新華はまだ死んではいなかった。
「ぐっ、ま、だですよ…。もう、1押し…」
「……新華君」
「!」
「ごめんなさい」
新華が声のする方向を見ると楯無がナノマシンで出来た大きな槍『ミストルティンの槍』を掲げていた。その目に涙を溜めて。その隣には簪も居た。既にミサイルは消費し切っていた。
「…謝る事なんてありません。………ありがとうございます」
「くっ! ああああああ!」
そのまま『ミストルティンの槍』が放たれ新華に直撃。空に大きな爆発の花を咲かせて新華は散った。
----
---------------
------------------------------
新華は情報が集まる巨大な球体の中で目を覚ました。そこはヴェーダの中。情報生命体となった新華はこのヴェーダがある限りバックアップが取られ死ぬ事は無い。
「……予想通り、ここに来てしまうのですね。全く、死ねないというのはここまで苦しいものなのですね」
「…ご主人様」
「おや、サヤカではないですか。どうかしましたか?」
「もう、終わりに致しませんか? もうご主人様が苦しむ事なんて無いんですよ」
「…ですがこのヴェーダがある限りは、私は死ねません。だからと言ってヴェーダを破壊しようにも現在破壊出来る存在はこの世界には居ません」
「いいえ、私が居ます。私なら…」
「……そうですね。サヤカが居ました。でもいいのですか? あなただってこれから生きる事が出来るのに」
「そこにご主人様が居なければ私の存在意義はありません。どんなにご主人様が望もうと私はご主人様の為に存在すると決めています」
「………私が何を言っても聞かないのでしょうね。分かりましたよ。このヴェーダは人類が手に入れるには大きすぎるものですから、私の為にも徹底的に破壊しちゃいましょう」
「はい」
新華とサヤカはデータの消去を行っていく。それを見た福音が2人に話し掛ける。
「あの…」
「ああ、福音君ではありませんか。すみませんが、一身上の都合でここを破棄します。徹底的に破壊するので退避してください」
「それは、聞いていました。お別れなんですね」
「はい。…せっかくサヤカの友達になって頂いたのにすみませんね」
「いいえ、沢山楽しめました。寧ろこうして話す事が出来るくらいにお世話になったこと、感謝しています」
「そうですか。なら良かったと思います。ほら、サヤカも挨拶なさい」
「はい。……どうかお元気で」
「はい。さよならです」
そう言って福音の自我は消え去った。そしてすぐにヴェーダ内の情報の削除を終わらせて電源を落とす。
ヴェーダ内から抜け出した新華は、地球から自力で来ていたサヤカと合流する。
「どうやってここまで?」
「ISとして展開した後、内側に私の体である流体金属を流して動かしました。丁度ゴーレムⅢのコアと自律プログラムも取り込んでいたので楽でしたよ?」
「そうですか。では、最後の仕事といきましょう」
「はい」
新華はサヤカである『Evolveクアンタ』に乗ると、最初からトランザムを使用して手当たり次第に破壊を撒き散らしていった。
そして粗方破壊し尽くすと、ヴェーダ本体のあった位置まで移動し更にトランザムを行った。だが今度は何もしない。地球からは月が光を放っているように見えていたが、2人には関係無かった。
「これで終わりですね。さて、後やり残した事は……」
『もうありませんよ。後は私達だけです』
「そうですか…。しかし今回の人生も碌なものではありませんでしたね。正確には人間のモラルが全体的に低すぎでした」
そう呟くと新華は、オーバーロードさせているGNドライブの音を聞きながら破壊した施設の屋根の向こうに見える宇宙そらを見つめた。
「もう覚えている事も無いのでしょうから意味は無いですが…出来れば次の人生は、普通の人間関係を作って、普通の青春を送って、普通の頭を持って、普通の悩みを持って、普通の、普通の…」
『ご…人さ…、ザッ…』
「ああ、もうサヤカの意識もオーバーロードで消えかかってますか。ああ、サヤカにも人生があるといいですね。次は私のISとしてではなく1人の人間として」
ため息を付き最後の時を迎えようとする。サヤカの意識は完全に消え、GNドライブも限界だった。
「さて、もうそろそろですね。では最後に。今私を見ているであろう皆さん、この私の物語を最後までご覧頂きありがとうございました。もし私に別の可能性があれば……いえ、それは言わない事にしましょう。ではいつか、ご縁があればどこかの世界でお会いしましょう。私は新しい人生を歩んでモブ人生を満喫しているでしょうが、その時はどうか仲良くして頂けると幸いです。それでは、サヨウナラ」
限界まで粒子を吐き限界に達したGNドライブは、臨界を越えて自爆した。その爆発は残った施設の機械を巻き込んで大爆発を起こし新華とサヤカを消滅させた。その爆発の影響で月の公転に影響を与え遠い将来地球にぶつかる事になるが、新華にとっては最早些細な事で、どうでもいい事だった。
----
------------
-----------------------
「ぅわあああああああああ! はあっ、はあっ、はあっ、ゆ、夢…?」
一夏は自宅のベッドの上で飛び起きた。心臓はバクバク鳴り冷や汗は止まらず、自分が刺された腹を見て傷が無い事に深い安堵のため息を吐いた。
「ふ、はぁああああああああ……。夢、だよな。でも、あの夢の中の新華は…」
夢の中の新華に感じた恐怖を思い出し身震いする。気を取り直して現在の時間を見てみると朝の5時という中途半端な時間だった。
「うわ、微妙…。げ、汗でぐっしょりになってる。シャワーでも浴びよ…」
一夏は上着を脱いでシャワーを浴び着替える。これから寝るにしては中途半端な時間だったのでジャージに着替え以前新華がやっていた早朝ランニングをやってみる。
寮の外に出ると、空にはまだ明るき光る月が見えた。
「……そういえばあの夢じゃ月に何かあったみたいだけど…。今度聞いてみようか」
そう呟き軽く準備体操の後、思いのままにランニングを始めた。
現在トリィは新華が修理とオーバーホールの為にソレスタルビーイングに持ち帰っていた。
『ワールドパージ』から2週間が経過していた。