またしても遅れました。スマヌ。
一夏とキラってどちらもウザイし綺麗事しか言わないし消えて欲しいけど、キラの方がまだウザくない気がする…何で?
あ、色んなゲームでシンに倒させる事が出来るからか。それにキラじゃなくて嫁の方に殺意が行く事も関係しているのかな?
新華の押しつぶそうとしてくる腕に対する抵抗は弱くなっていた。新華が今まで会って来た者達からの罵倒と、足元から伸びる腕の主である自分の影の言葉によって。更に、新華の体にガラスのような亀裂が入っていた。
「うっ、ぐうぅ…」
『ねぇ、いつまでそうして苦しむつもりだい? そうやって苦しんでれば誰かが助けてくれるとでも思ってるの? それとも『苦しんでる俺カッコイイ』とか思ってる?』
「ふ、ざけっ! いい加減この手を、離しやがれ…!」
『やってごらん? 僕は君だって言っているじゃないか。君自信が止めればいいんだよ』
「んなことっ」
『出来ないよねぇ? だって僕は君。正確には君自信の罪悪感や悲しみといった負の感情の集まりだもの。それを止めさせるって意味が、君に分からないわけじゃないよねぇ』
「ぐっ、糞がっ、があっ!」
『ほらほら、早くしないと君は圧死するよ? でも
「っ、っ…!」
立ち上がろうにも影から伸びる腕に押さえ付けられ、動く事が出来ず亀裂が増えていく新華。
今新華が居る場所は己の精神が強く影響される場所。本来ならば、この空間を作り出した者が『ワールド・パージ』という行為で対象の願望を歪んだ形で映し出し溺れさせる事になっていた。実際それで一夏、更識姉妹を除く専用機組みは一夏が介入するまで夢に溺れていた。
だが新華の場合は守られた。己の願望で溺れる事が無かった代わりに自分自身の負の感情が浮き彫りになる。それが黒い腕となり新華の体に纏わり付いて押しつぶそうとしてくるのだった。
先程までの抵抗力も無く、体を震わせながら己のP・V・Fを抱えて体と目から赤黒い血を流し続ける。
「………、…」
『…もう喋るだけの力も無い? 抵抗しないならそれでもいいよ。そっちの方が楽になれるからね』
「…俺は」
『?』
「俺は、確かに誰かを否定しなきゃ自分を肯定出来ない…。だって、俺が今まで否定されてきたから…」
『だから? それでも君が人を殺すっていう罪を犯した事に代わりないよ』
「でも! それで俺の理想が守れればいいって、そう思ったから! 俺自身が生きる為に手に入れたこの
『…でもさ、それ、誰が君に頼んだんだい?』
「そんなの、俺自身の意思に決まってるだろ…」
『でもさ、誰に頼まれもせずに勝手にやっても、感謝されるどころか非難されるような事だよ? 忘れた? デュノアさんの時の事を』
「……」
『結局さ、君がやってきた事は君自身の理想の押し付けだって』
「理想の、押し付け? 俺が?」
『そうでしょ? 君は一夏君達に自分の理想を見たみたいだけど、それって君の理想を勝手に彼に押し付けた挙句に、それを理由にして正当化を計ってる。自分が人を殺した事に対してね』
「っぁ…!」
『それに君自身も以前言ってたよね? 『余計なお世話じゃないか』って。この世界に生まれてからISに関わって、全体的にそうじゃない?』
「ISに関わってから…」
『例えば『白騎士・蒼天使事件』。君は自分が出た事で被害を無くせたって思ってるけど同時にこう思ってるよね? 『俺が居なくても千冬さんなら何とか出来たんじゃないか』って』
「………」
新華は俯いて歯を噛み締める。亀裂が増え、広がる。
『『俺が居なくても一夏は強くなった』って』
『『俺が居なければ束さんの行動はもっと大人しかった』って』
『『俺が居なければ死ぬ人はもっと少なくて済んだ』って』
『『俺が居なければ、実は俺のクローンではなく、父さんと母さんの間に第一子として生まれていた』って』
『『俺が居なければP・V・Fの再現をしようという施設は生まれなかった』って』
「………っく」
『『俺が居なければ、更識姉妹は俺ではなく一夏を好いていた』って』
『『俺が居なければゴーレムは3機じゃなく1機だけで襲撃してきたんじゃないか』って』
『『俺が居なくてもラウラを助けるのは一夏だけで十分だったかもしれない』って』
『『俺が居なくてもシャルロットの問題はなんて一夏や千冬さんが何とか出来たかもしれない』って』
『そして、『俺が居たせいで一夏は、千冬さんは、束さんは、世界はこうもおかしくなったんじゃないか』』
『そして、『俺が居なくても大して世界は変わらなかったんじゃないのか』』
「………」
新華の足元から次々と言葉が紡がれる。自分で思った自分の存在意義の否定。これまでの行動の無意味さ。考えても仕方無いと言ったのはいつだったか、それでも考えてしまった事。自分が生まれてこなければ…という懸念。
その声に、新華の弱った心に反応するように、新華が大切だと言った人々の影が新華を囲む。何も言わないがその目は養豚場の豚を見るような、人ではないものを見ているようだった。そして新華へと足を進めていく。
「俺は……」
『僕は君。君が思った事は知っているさ。そして『自分は今までコロシテきた奴らと何の変わりがあるのか』』
「っ」
『『俺と俺をコロソウとしたIS操縦者のどこがどうチガウのか』』
『『ご大層に自分のゴタクを並べていたあの研究員と、『誰かの為』とイイワケする俺にチガイはあるのか』』
『『ずっと世界から逃げ亡国企業と手を組んだ束さんと、ずっとイタミから逃げて
「っ、っぅ…」
だんだんと体の震えは激しくなり抵抗する力が弱くなっていく。内心気付かないふりをしてきた言葉を、考えを目の前に突き付けられて、何も言えない事に愕然とする。
「俺、は、俺のしてきた事は、何の意味も無かった、って事なの、か……?」
『………』
「じゃあ、俺は、ただの、ただの…」
『だから言っているじゃない。君はタダの「違うっ!」…!?』
「え……」
「新華は、新華が居たから俺はここに居るんだ! それに、新華が俺の事を心配してくれていた心は本物だろ!?」
『トリィ!』
新華の周りに居た人々の影を掻き分けるように、光が近付いてくる。
「新華君のしてきた事が無意味? そんな訳ないじゃない! 新華君が居なかったら私は、今頃まだ簪ちゃんと仲直り出来ていなかった! それに新華君がずっと活動して築き上げたソレスタルビーイングに、新華君に感謝しても恨んでる人なんて居なかったでしょう!?」
「新華君が手伝ってくれたから、打鉄弐式は間に合った…! 新華君が居てくれたから…!」
「僕が何の気兼ね無く、こうして生きていられるのも新華の御陰。なのに、それを無意味だったなんて言わないでよ! 新華が居なかったら僕の世界は、僕の家族は何も変わらなかったんだから!」
「うおお! どけえええ!」
『トリィ! トリィ!』
一夏が、楯無が、簪が、シャルロットが、専用機持ち達が、それぞれ白い光を纏って新華へと走ってくる。だが新華はそれを見る事が出来なかった。
その白さを見たら最後、自分の汚なさが露わになるようで、自分がどれだけちっぽけか、どれだけ惨めか見せ付けられるようで。
恐くなった新華は、怯える体と心をそのままに目を瞑った。目からはずっと血が流れていても、キツく目を閉じた。
ザブザブと、新華の周りは赤く一夏達の周りでは無色透明な液体を掻き分けて一夏達は新華のところへと辿り着く。
『ま、間に合った! ご主人様、聞こえますか!? 私です、サヤカです! 聞こえますか!?』
「新華! 無事か!? 無事だよな!?」
「新華君!?」
一夏達は新華の姿を見て驚く。新華の体は既に消えかけ、全身にヒビが入っていた。今にも壊れそうで、更に足元から伸びる手が新華を壊そうとしているように見えた。
「来るな! 来るなよ…。俺は、俺なんて…」
「新華…」
「俺は、所詮人殺しなんだ。それも、お前らに理想を押し付けてそれを正当化しようとしていた、ただの屑野郎なんだよ…」
『そんな事は…! 私はご主人様の優しさを知ってます! ただの屑なら他人への優しさは持っていません! しっかりしてください!』
「俺は、俺は…」
新華は体を丸めてP・V・Fを抱える。そうしている間にも影達は新華にどんどん近付いてきていた。
一夏達は新華を守るように、その白い空間の内側に新華を入れて囲む。赤黒い腕はそのままに、無色透明の水に新華から流れる血の赤が映えた。
「何で、何で来るんだよ…」
「何でって、ダチなんだから当たり前だろ!?」
「でも、でも…」
「……新華君…」
『ご主人様………』
弱々しく血を垂れ流す新華に触れようとする一夏達。だが新華はそれすらも許容しようとはしない。
「俺に触れるな! お前らの『白』に濁りを入れたくない…」
「白って、この光の事なのか…?」
『そう…。それは彼が君達に抱いている潔白さのイメージ』
「「「「「「!?」」」」」」
『こ、この声…まさか、ご主人様?』
『の、負の感情の集合体と言えばいいかな? まぁどうでもいいけどね』
「ど、どうでもいいって」
『だって後少しで死ぬから』
「「「「「「!?」」」」」」
『…やっぱり、時間が無いのですね』
「…サヤカ?」
『ご名答。あの影達が彼に全部取り付いた時が最後、彼は死を迎える事になる。まぁ彼自身に取り付いている赤黒い腕を払ったら人としての死を迎えるんだけども』
響く声に一夏達は絶句する。新華を助けに来たのに、新華が抱えているものをようやく理解出来たのに、まだ聞きたい事や言いたい事が沢山あるのに、新華という大切な人物の死が目の前に迫っているという。
助けようにも大量の影がすぐそこまで迫り、締め付ける腕は払ってはいけないという。だが一夏達にそんな事を許容出来る筈が無かった。
何とかして助けようと足掻く。
「どうすれば、どうすれば新華は助けられる!? どうすれば新華は死なずに済む!?」
『そんな『救い』は無いよ。いずれはこうなるって自分で分かってたし、『救い』を望むのも止めたからね』
「………どうして」
『ん?』
「どうして、そこまで1人で苦しむの…? あんなに沢山苦しんで、どうしてそれでも1人で居ようとするの…? 私だって、新華君と一緒に居たいのに…」
『彼の過去を知っても同じ事が言えるかい? 彼の過去はかなりのものだよ? それこそ、こうしてこの世界に生まれるまでに人を殺しているし、地獄だって見ている』
「……知っているわ。ここに来るまでに、見てきたもの」
『………へぇ』
「新華君がどうして苦しんでいるのか、どうして私達を拒むのか、今まで何をしてきたのか、知った上でここに居るの」
「っ」
『………』
新華の体が小さく跳ね息が詰まる。楯無が新華の正面でしゃがみ、新華の頬に手を当てる。
「ねぇ新華君。新華君が今まで人を沢山殺してきた事を、今ここに居る皆が知っているわ」
「……ならっ」
「でもね」
楯無の手の上に新華の目から流れる血が流れる。
「新華君が『罪』だと理解して、ちゃんと苦しんでいる事も分かるの。それに、私達だって何かが違っていれば新華君と同じになっていた、いいえ、新華君に殺されていたかもしれない」
「それは…」
「くそっ、下がれよ! 下がってくれないと、新華が! ずっと苦しむだろ!? もうダチが苦しむのは見たくないんだ! 白式!」
一夏が白式を呼び出して影を零落白夜で斬ろうとする。本来ならISは現在ダイブによって使えないのだが、鈴のように自分のイメージで形を作り出し展開する事が出来た。
だが影には当たらず、それどころか一夏が居ないかのようにすり抜けて新華へと近付いていく。
「なっ!?」
『無駄だよ。その影は彼が殺せなかった、どちらかと言うと大切に思えた人達の影なんだ。斬る事も、触れる事も出来ない。彼以外にはね』
「じゃあどうすればいいんだよ! 新華は俺のダチだけど、同時に目標でもあるんだ! このまま見殺しになんて出来ない!」
『少しは自分で考えたら? それに簡単に言うけど、現実ってのは理不尽なものだよ。どれだけ想いが強くても目の前の現実と理不尽はそうそう覆せるものじゃない。彼の過去を見たならそれも理解出来るんじゃないの?』
「っ! でも、それでも! 俺は新華を助けたいんだ! 新華が今まで俺を守ってくれたように、今度は俺が新華を守りたいんだ!」
「っ、一夏…」
「私も同じ気持ちよ、新華君」
「会長…」
新華は一夏の言葉に反応し、楯無が続くように言葉を掛ける。
「新華君は今まで沢山奪ってきたと同時に、それだけ沢山のものを守ってきたじゃない。今度は守られなさいな」
「わ、私も…!」
「簪さん…」
「私、新華君から色んなものを貰った…。打鉄弐式を完成させる事も出来た、お姉ちゃんと仲直りする事も出来た…。でも、それは新華君が居たから。新華君と居ると、何でも出来るって、そう思えた…。新華君の御陰で自分に自身が持てたし、新華君と一緒に居ると、それだけで嬉しかった…」
「僕だって…」
「…シャルロット…」
「新華は僕を助けてくれた。新華は、僕が一夏を異性としてずっと好いていれば良かったって思っているかもしれない。でも! 僕は新華がいいんだ! 僕の事をすぐ女の子って見抜いてもずっと黙ってくれたのも、僕が『シャルル』でもなく『シャルロット』として生きる事を許された今の環境を作ってくれたのもみんな新華じゃないか! 僕の事を想ってくれたのに、僕が新華の事を想うのはダメなの!?」
「でも…だけど…」
『ご主人様』
「サヤカ…」
『私はご主人様が居なければこうして『Evolveクアンタ』として、『サヤカ』として『生きる』事は無かったでしょう。VTシステムとして削除されるだけだった私を、こうして1つの命にしてくれたのは、他ならないご主人様です。それに私は、ご主人様にどんな事があろうと共に居ると、そう決めているんです。皆さんの事を想って行動する、優しい心を持ったご主人様に』
「……」
『………』
楯無達の言葉に、新華は更に体を震わせる。影も鳴りを潜め、腕に掛かる力が弱まる。
そして今度は新華が言葉を発した。
「…お前らは」
「?」
「お前らは、恐くないのか!? 沢山人を殺して殺して殺してきた俺を! 何度も死んで、それでも人を殺してきた俺を化物と思わないのか!? なんでそうやって綺麗な心で居られるんだ! どうしてこんな俺の近くに居ようとする!?」
「新華…」
「俺はだったら怖くて近づけないさ! 人を殺しておきながらのうのうと『表』で生活をしているなんて、信じられないだろう!? それに、俺が守りたいだの許せないだの言っても所詮はただの自己満足、何を言っても自分の為なんだよ! 人間はどこまでいっても自分の為にしか動けない! 『他人の為』だの『守りたい』だの綺麗事を言ってもさ! 俺がそうしたい、俺がそうやって満足したいだけなんだよ!」
「「「「「「………」」」」」」
「俺はお前らが考えている程綺麗じゃない! 俺にだって欲がある! 醜いくらいに! 俺は俺の欲の為に人を否定し殺してきたんだ! そんな奴が今更、今更っ…!」
新華はそこでようやく顔を上げ目を開いた。その目はまるで鉛筆で塗り潰したように真っ黒で、その黒い目から赤い血を流して叫んでいた。
「この腕だってそうだ! 結局俺は勝手に殺して、勝手に苦しんで、勝手に終わりにしたいだけなんだ! 本当はもう沢山なんだよ! 苦しいのは、痛いのは! でも行動には必ず責任が付き纏う。だったら責任を果たす為にも、償う為にも! 苦しんで苦しんで苦しんで、痛みに耐えて耐えて耐えて、そうでなきゃ、俺が納得しないんだよ!」
「し、新華…」
「もう楽になりたい、もう全部投げ出したい、そう思う事もあったさ! でもさ、俺は見捨てる事も、見限る事も出来る程に非情になれない! だって知ってるから! 痛みも悲しみも辛さも苦しさも、知っているから! そして、それをどうにか出来てしまえる力も環境も頭もあった! なら助けるしかないじゃないか…! 俺なんかの苦しみで誰かが救われるなら、俺なんかが苦しむだけで誰かが笑顔になれるのなら…!」
「…新華君」
「新華君…」
『ご主人様…』
首を振って楯無の手を払い、再び俯く新華。誰もがそんな新華を見て何とも言えない感情を抱いた。
そして楯無が、何かを決意した表情をして新華の顔を上げさせる。
両手を頬に当てて光の無い新華の目を見る。
「新華君」
「………」
「新華君の気持ちはわかったわ。だから、その上での私の答え、あなたにあげるわ。覚悟なさい」
「お姉ちゃん…!?」
「せ、生徒会長、何をする気ですか!?」
「こうするのっ! んむっ」
「んぐっ、!?!?!?」
「「「「「「!?!?」」」」」」
楯無は新華の唇に自分の唇を重ねる。その楯無の行為に一夏達だけでなく新華も驚き、新華へと歩みを進めていた影も硬直した。
新華の目に微かに光が戻る。
「んー!」
「んんっ!? ぷはっ、え、ぇえ?」
『楯無さん…』
「お、お姉ちゃん!?」
「ごちそーさま♪ で、どうだった新華君」
「どうだったじゃなくて、どうして…!?」
「これが私の答え。ねぇ新華君。私はね、新華君と初めて会う前から貴方に興味があったの。だってあの有名な『蒼天使』よ? 警戒心もあったけど、証拠を掴んで男の子と知った時の衝撃は計り知れなかったものよ?」
「……」
「実際に会ってみて私は貴方の存在に圧倒された。裏を纏める四家の1つである『更識』の当主である、この私がよ? 自分より年下の男の子に圧倒された悔しさよりも、そんな男の子に更に興味が出た。思えば一目惚れだったのかもね」
「……何が言いたい」
「そう急かさないの。それで今まで私は貴方の事を調べて、監視からの報告も聞いたわ。それだけじゃなくて私自身も貴方と何度も接触した。自分の想いに素直に、貴方を見極める為にね」
楯無は今まで新華と過ごして来た時間を思い出しす。その都度新華が見せた表情と自分への心遣い、他人への優しさと自分への厳しさを共に持つ新華を。
「その上で新華君の過去を見て、新華君の考えを聞いて、安心したの」
「安心…?」
「ええ。新華君だって人間だって事と、私が思っていた通りの優しい人だっていうこと。そして、私は新華君を好きでいられるって事に」
「っ」
「新華君。私は新華君の事が好き。貴方が苦しんでいるなら、その苦しみを少しでもいいから分けてちょうだい。もう1人で苦しまないで」
「…何で、何で俺なんだ。俺じゃなくても…」
「何言ってるの。新華君じゃなきゃ駄目なのよ。どんなに罪を重ねていてもそれに対して引け目を感じ苦しんでいるなら人間よ」
「人間…」
「自己満足でもいいじゃない。自己満足でも他人の事を思いやれるのは大事よ。それに新華君は経験を活かして次に繋げられるだけの力がある。そんな人をどうして手放せるのよ」
「………」
新華の目に浮かんだ微かな光が揺れる。楯無はまだ足りないと思い言葉を掛けようとする。だがその前に新華の右側から簪が割り込んで
「んんっ!」
「!?」
「簪ちゃん…」
「か、簪さんまで…!?」
新華にキスした。左側に居たシャルロットが驚愕を露わにし新華も戸惑いを隠せない。
新華の瞳に光が戻っていった。
「っ、ぇ、え!? な、何してるんだ簪さんまで!?」
「わ、私だって新華君の事、好きだもん…! お姉ちゃんだけにいい思いはさせないもん…!」
「いや、もんって、あの…えっと」
「新華君は私の事を見ていてくれた。私をお姉ちゃんの妹としてではなく、『更識 簪』っていう1人の女の子として見てくれた初めての男の子だったから! それに沢山助けてもらった優しくしてもらった。だから、今度は私が新華君の力になって助ける番…!」
「……」
「だから、だから、消えたりしないで…。私と一緒に居てよ…」
簪が新華の肩に手を置いたまま俯き涙する。新華は自分がされた事を理解出来ずにフリーズしていた。新華の体を抑えて居た腕が水中へとだんだん沈んでいく。
「あ、腕が…」
「後少しといった所か。新華、戻ってこい!」
「新華さん!」
「新華ァ!」
『ご主人様! 戻ってきてください!』
「お…俺、は…」
『……行くのかい?』
「っ」
『もしこのまま行ったら確かに『救い』を得られるかもしれない。でも忘れた? 自分がした事で沢山の恨みを買っているのを。そして人間は醜くえげつない。本人に直接的なダメージを与えられないと分かった時に被害を被るのは、君が大切に思っている人達だ。そして君はこの女尊男卑の世界の中で頂点に近い男性。馬鹿な人達が何をするか…』
「ぁ………そうだ。俺が居たら、皆に悲しみを与えてしまう…。そんなの、俺が許容出来ない…。俺は何を…」
「新華! そんな奴の言葉なんか…!」
『そんな奴? あはははっ! 僕は彼の負の集合体だって言っただろう? 僕を否定する事は彼を否定する事になるよ』
「でも、こんなに悲しい姿の新華をもう見たくない!」
『具体的な対策案も無くただ喚く事なら誰にでも出来るよ? 『目をそらす』って言うの、知っているかい? 僕は彼の負の感情の集合体だって言っただろ? 聞こうが聞くまいが関係無いのさ。僕は彼なんだから』
『…確かにご主人様は『最悪の事態』を想定し未然に防ぐようにしていました。ですが! いつだってそれは誰かを助ける為。こうして自分が苦しむ為にやっていた訳ではありません!』
『………』
新華の目の光が再び消えかかり、声に対してサヤカが反論した。
そして今度は、意を決したような表情を持ったシャルロットが動く。簪とは反対側である左側からシャルロットが、光が揺れる新華の瞳を見つめて
「新華…。ちょっと強引だけど、んっ!」
「!?!?」
「「「「「「お、おお…」」」」」」
「デュ、デュノアさん…」
新華の目に光が戻り顔を赤くする。楯無、簪、シャルロットのした事を理解出来た新華はあたふたしてシャルロットの顔を左手で離す。
「うっ! お、おい、お前ら!? 何をしているんだ!?」
「だって、新華が僕らの前から居なくなろうとするから! 嫌だよそんなの!」
「だが、俺が居るせいでお前らに災いが降りかかるんだぞ!? シャルロットなら分かるだろ! 俺が関わったせいで実際に被害を被ったシャルロットなら!」
「あの時は友達と居たし、慣れない環境で戸惑ってたからね。普段なら問題無く撃退出来てた。新華が心配する事なんて無いんだよ。僕の事は僕自身が決める。僕が新華と居たいって思うのも、僕自身の意思なんだから」
「だけどっ」
「新華。新華はもっと僕達を信じてよ。僕らは新華に守られる為に居る訳じゃない。新華と共に生きる事だって出来るんだ。僕だって好きな人に守られるだけじゃなくて、好きな人の支えになりたい。でもその肝心の好きな人が拒み続けてたら、出来る事も出来なくなっちゃうよ」
「………俺は」
「だから、ね? 新華はもっと僕らに寄りかかってよ。僕らは新華の過去を見たうえでここに居る。だから新華がこれ以上1人で何でも抱え込まなくてもいいんだよ」
シャルロットが新華の肩に手を置き微笑み掛ける。新華の体を押さえつけていた腕は完全に水中に没した。
「そうよ新華君」
「会長…」
「新華君は確かにみんなの事を想ってくれてるし、行動して結果を出している。でもね、私達から見れば沢山抱えて無理してるのは分かるのよ。特に最近は壊れてしまいそうなくらいということはね」
「……俺」
「私達は貴方の味方よ。だから、これ以上無理しないで。もう貴方は1人じゃないのよ」
楯無が新華の左手を両手で優しく包み微笑む。新華達の周りに居た影が消えていく。
「わ、私も居る…!」
「簪さん…」
「今まで私は新華君に助けられてきた。でも逆に新華君を助けられなくて苦しかった…。でも、今は違う。新華君を知った事で新華君の痛みを知れた。新華君の優しさを知る事が出来た。今度は、私が助ける番…!」
「………」
「一緒に、行こう? 私が一緒に居るから…」
簪が新華のP・V・Fに優しく触れる。新華の血涙の色素が薄くなり、体中から流れる血が止まる。。
『私を忘れてもらっては困りますよ、ご主人様』
「……サヤカ」
『私は、いえ、『私』になる以前の『Evolveクアンタ』はご主人様と居る事に疑問を持っていませんでした。ご主人様の為に創られたという事を差し引いても、ご主人様と共に在る事を、寧ろ誇りにしていました』
「誇り……」
『誰よりも他人の事を思いやり、例え躊躇い無しに殺した相手でも、その死後に思いを馳せる優しいご主人様のISである事を。『私』になる前の
「………」
『そんなご主人様だからこそ、共に居ようと、共に在り続けようと思えるんです。だからこそ、ご主人様の幸せを願えるんです』
「……」
『ご主人様、どうか、お心のままに。私はずっと、ご主人様と共に在り続けます』
足首程の深さまである液体が、一夏達の位置に関係無く無色透明に澄んでいく。
「新華」
「……一夏」
「俺、ずっと新華を追い抜いて皆を守る為にはどうしたらいいかって、ずっと考えてたんだ。俺にとって新華は大切な親友で、目標なんだ。だから、失いたくないって思うし居なくなった方がいいなんて思わない。それに、今までがどうあれ新華は新華だろ」
「………」
「俺は新華に居て欲しいぜ。それにダチなんだから、もっと俺達に頼ってくれよ。今度は俺達が新華を守る番だ」
新華の血涙が止まり、風景が変わっていく。足元の水が完全に無色透明になり光を放ち始める。上にいくつかの光が現れた。
「それに、居てほしいと思うのは俺だけじゃないぜ。なぁ、皆」
「…ああ。目標と定めた相手に勝手に消えられても困る。それに、もう身近な知り合いが居なくなるのはゴメンだ」
「そうね。父さんの事もあるし、アンタには聞きたい事があるんだから、勝手に居なくなるなんて許さないわよ」
「わたくしも、まだ新華さんから学ぶ事や聞きたい事がありますし、以前偏向射撃を教わった時の恩も返せていませんですし」
「お前の身に何かあると嫁がおかしくなるんだ。これ以上困らせるな。それに、だ。お前はもう我々にも、IS学園にとっても、そしてソレスタルビーイングとやらにも必要な存在となっているんだ。今更居なくなられても困る」
「お前ら…」
「な? 皆新華に居てほしいんだよ。だから、自分自身を追い詰めなくてもいいんだ。俺達は新華の味方だ」
「…俺、俺…」
新華は皆の顔を見て、自分がここに居てもいいのかと、誰かと共に在っていいのかと自問する。すると一夏達の後ろで黒い影が浮き上がり過去の新華の姿を取る。
『……フフッ、まさかここまで肯定されるとはね…』
「! お前は…」
『そう構えないで。僕はもう何も出来ないよ。というか、何かするんだったらこうやって姿を取る事は無いしね』
「………」
影は一夏達をすり抜け新華の頭に手を置く。
『僕は君の負の集合体。でも負って、何も悲観的な事だけじゃなくて強い思いでもあるんだ。その中にある想い、分かるよね?』
「……お前」
『僕を構成する負の中にある感情があるんだよ。それは『皆と一緒に居たい』。まるでパンドラの箱みたいだね。あまりに君のその想いが強いから負になった。でもその想いが肯定されちゃった今、僕は還るしかないんだよねぇ』
「…………」
『…くくっ、もうこうして話せるだけの時間も無いから君の中に還るね。あ、還った時に感情が渦巻くと思うから注意して』
「なっ、新華君!?」
『ああ、大丈夫。君達が居れば問題無いと思うから。でも忘れないで。僕はどういう形であれ君な事に変わりは無い』
「……」
『分かってるみたいだね。それじゃ、『ただいま』』
「……『おかえり』。あの時殺していたと思っていた俺」
新華との会話で満足そうな笑みを浮かべた影は、新華と重なり消えた。そしてP・V・Fが光り新華は胸を抑えた。
「うっ! ぐっ、ぅあっ、ああ!」
「新華君、大丈夫!?」
「新華!」
「お、俺は…」
新華の口から言葉が溢れる。
「俺は、今まで沢山の人を殺してきたから、この人類に優しい世界に対して、皆に対して引け目を感じてきた。だけど、お前らを見ていたら、いつかのように誰かとの繋がりを守りたいって、そう思ってきた…」
「「「「「「………」」」」」」
「学園祭の時までそれを忘れていたんだ。だってお前らは暖かいから! その暖かさが俺にとってかけがえのない救いになっていたから! 俺だってお前らと一緒に居たい! 一緒に、居たいんだよ…」
「新華君……」
「俺は、本当は怖かったんだ。お前らに拒絶されるのが。だから沢山考えて、理由を付けてお前らから離れようとした。でも、俺はやっぱり人間なんだ…。誰かと居て、皆で笑っていたいんだ」
「…新華」
「本当に、いいのか? 俺は、お前達と共に居て、いいのか…? こんな沢山抱えた俺を、お前らは、受け入れてくれるのか…?」
新華は一夏達に、今まで見せた事の無い怯えを映した瞳で問い掛ける。楯無、簪、シャルロット、一夏、箒、鈴、セシリア、ラウラは、その問いに答えるように頷く。
「あぁ……………………ありがとう…」
肯定された新華の胸に想いが溢れる。ずっと血涙を流していた目から、綺麗な涙が流れ、足元の光る水へと落ちた。
その瞬間、水面の波紋と共に水中に色とりどりの花が咲き乱れていき、
「こ、これは…!」
「す、すごく綺麗…」
「ふああ…き、綺麗だ」
「なんて幻想的なんだ…。美しい…」
そう一夏達が言葉を漏らすと、新華の背後にサヤカの姿が現れた。
「あっ、とと。ご主人様、大丈夫ですか!?」
「さ、サヤカちゃん? どうしてここに…」
「えっと…」
サヤカ本人も訳が分からず、戸惑う。更に、事は大きく動いた。
「全く、手間の掛かる後輩だ。一時はどうなることかとヒヤヒヤしたぞ」
「「「「「「!?」」」」」」
「え…この、声は…」
新華は呆然と、声のした方向---地球のある方へと視線を向ける。そこには、この世界に居ない筈のかつての仲間達、そして恩人の姿があった。
「な、何で…」
「さあな。でも
「うん。あ、キスの責任は取らなきゃ駄目だよ? 私も取ってもらったし」
「まさかまた皆と会える事になるとは思わなかったが、これもハッピーエンドの1つか。
「…そうだね。たまにはそういうのも、いいかもしれない。こう、救いがある物語もいいと思うからね。
「…はい。でも、こうして言葉が届くようになるなんて、思いもしませんでした。でも、何だか安心しましたね。全く、本当に…先生に心配を掛けさせる生徒ですね、新華君は」
「あ、あなた達は…」
楯無達も驚愕で目を見開く。新華の記憶経由で知った、新華に関わりの深い者達、しかも死者までそこに居た。驚きを隠せない。
新華はまるで酸欠状態のように口をパクパクさせていた。
「ぁ…っぁ、…い、っと…?」
「ああ。久しぶり、新華」
パラべラム勢出せたヒャッホイ!
俺は…これが、書きたかったんだ…(『たむらしげるの世界』風)
今回一番力を入れたのは『どうやってヒロイン勢とキスさせるか』です。
正直キスさせないと新華の頑なな態度が崩せないと思ったのと、楯無にキスさせて終わりだとヒロインが1人になるから。3人に迫られてあたふたする新華が書きたいんだ…! 食われる(意味深)けどね!
没案で『この、分らず屋ぁ!』と言って一夏があまりの頑なさにキレて殴るシーンもあったんですが、尺と一夏を出すの面倒になったという理由で却下。