IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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108話。中編2。
わーい雪だー・・・今更過ぎる。あんまり嬉しくない。というか除雪作業疲れる(東京立川の隣市在住)。
しかもバイト(飲食チェーン店)休みになったし。店の方が。


過去 パラべラム後半編

 

 

 

 

 

 

俺は戦争が始まった事を理解しても動けなかった。多くの死人の声と感情を受け精神が弱りきってしまった俺はP・V・Fを展開するどころか歩く事もままならなかった。

特に精神から生まれる殺意や闘志を源にして武器を生み出すパラべラムにとってそれは致命的でもあった。

満足に動けなかった俺は志甫の家で安静にしていた。そんな俺と志甫を残して一兎達は家族の様子を確認すべく自宅へと戻って行った。俺は体が動かないのと家族と呼べる存在はこの手で既に葬った為に住んでいる場所に戻る意味が無かった。志甫の両親は連絡が取れなかったらしく、俺と共に志甫宅に残った。

地味に壁にもたれながらじっとしてしばらくすると、睦美先輩と早苗さんが帰ってきた。里香ちゃんは叔母に預けたのだと言う。志甫の家には四肢を動かせるくらいには感覚が戻った俺と、家の主である志甫、後は一兎達を待つのみとなった睦美先輩と早苗さんだった。

一兎達に連絡を取ろうにも携帯が通じないから後で秋葉原に行き無線を仕入れようという事になり、志甫達は一兎達が帰ってきた時に腹に何か入れられればいいと食事の準備を始めた。俺も何か手伝おうとしたが無理をするなと言われて大人しくする事にした。

そこに外のような戦争の空気は無く平和だった。睦美先輩が自分の心を志甫に吐露するという場面も見られ穏やかだった。

だがやはり、過ぎて欲しくない時間は突然終わりを告げる。

『センパイ』と『ツバメ』という少女の姿をした人類の敵『乾燥者(デシケーター)』の襲撃。

志甫と睦美先輩は即座にそれぞれのP・V・Fを展開し迎撃。俺はまだ完全ではなく足で纏いになるため早苗さんを守ろうと瓦礫の影に連れて行った。辛うじてイド・アームズ『no name』は展開出来るものの戦闘は出来ず、守りに徹するしかなかった。そこで幸いだったのは乾燥者2人は志甫と睦美先輩に集中して俺達を無視していた事だった。

だが乾燥者の力は凄まじく、俺達の目の前で志甫が吹き飛ばされ呻き睦美先輩がセンパイとツバメのコンビに殺られそうになった。

それを見た早苗さんが瓦礫の影から飛び出そうとする。しかし俺は、それを止めた。まだ完全ではないが盾くらいにはなると。だが早苗さんは俺の腕を振り払って走って行ってしまった。俺も後を追おうとしたが、体調が戻っていない体は、足は走る事を許してくれなかった。

そして

 

 

 

 

 

「睦美!」

 

 

 

 

 

センパイの持つP・V・Fに付いたバヨネットに睦美先輩が切り裂かれる寸前、早苗さんがギリギリ間に合った、間に合ってしまった。

早苗さんは睦美先輩と突き飛ばした。そして

 

 

 

 

 

「早苗!」

 

 

 

 

 

縦に真っ二つに切り裂かれた。バヨネットも精神系武器だったらしく、血は出なかった。だが神経を焼き切られ、即死だった。その時、俺の頭に早苗さんの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

『睦美、死なないで---』

「ああ、あああああ!」

「間違った、ごめん。でも、まあ仕方ないよね。どうせ人間は最終的に皆殺しにしちゃうんだし」

「なっ!?」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて俺は激しい怒りを覚えた。そして睦美先輩はキレた。センパイにありったけの殺意をぶつけ弾をばら撒く。しかし敵は2人。センパイのライフルの照準が睦美先輩を捉えた時、俺は体の状態を無視して動き泣けなしのトラウマシェルで銃弾を防いだ。そして志甫が復帰し戦線に戻る。しかし、それでも乾燥者2人には勝てず俺は瓦礫の上に倒れ睦美先輩は暴走仕掛けた所を志甫に撃たれ止められ行動不能に、そして志甫も戦ったがS・Sを決められずに殺されそうになった。

しかしそこで一兎と自衛隊が到着。それを見た乾燥者2人は去っていき、俺達は『勧誘したい』と言ってきた自衛隊の話を聞くべく、直ぐに戻ってきた勇樹部長と尾褄副部長と合流して、崩壊した志甫の家から城戸高校へと拠点を移した。

 

 

 

 

 

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「今のが、あの時新華が話してくれた…」

「目の前で、死んだ知り合い…」

「それで新華は、あんなに怒っていたのだな。私の愚行を」

「あれ? でも、あの時は恋人の目の前でって言ってなかったっけ…?」

 

 

 

 

 

また新華の影が一夏達を追い抜く。今度は胸に漆黒の杭が刺さっていた。

 

 

 

 

 

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城戸高校に拠点を移した俺達は自衛隊の勧誘を受けた。その間睦美先輩は対応が遅れた国への怒りを露わにし、あの温厚だった勇樹部長までもが怒りと憎しみで苛立っていた。

結局俺は自衛隊の勧誘には乗らなかった。自衛隊の勧誘に乗ったのは勇樹部長と尾褄副部長の2人。一兎、志甫、睦美先輩は乗らなかったものの、睦美先輩は『会っておきたい人間が居る』と単独行動をする意思を示した。

単独行動は危険だと、志甫と共に睦美先輩を止めようとした。しかし俺は憤怒の形相で睦美先輩に言われた事が胸に突き刺さり、この後ずっと自分の罪を自覚しながら生きることになる。

 

 

 

 

 

「単独行動はよくないですよ! さっきみたいに、いつ乾燥者に狙われるか」

「いいんだよ。1人なら、逆に逃げやすい。大丈夫、無理はしない」

「そういう問題じゃないでしょう! 今はなるべく集まって生き延びれる方法を」

「うるさい! なんの罪もない人間を守れない足で纏いは要らないと言っているんだ!」

「っ!」

「人を今まで殺めてきた私達が生きて、どうして早苗が死ななければならない! 殺してしまったようなものだろう、私が!」

「そ、そんな…事は…」

「なら、お前が殺したとでも言うか!? 守るべきだった位置にいた、お前が!」

「っぅ!?」グサッ

「睦美さん!」

「! ……今は、1人にしてくれっ」

 

 

 

 

 

俺はその睦美先輩の言葉に反論する事が出来なかった。人を殺めてきたのに、早苗さんが目の前で死ぬのを止められなかった。体調なんて免罪符にはならない。俺があの時止めていれば、早苗さんは生きた。だが、睦美先輩が死んでしまう事も事実だった。

俺はどうすればよかったか、何が最善だったか、分からなくなって、結局、俺が殺したようなものだと、そう思うようになった。

その後、重くなった体を無理矢理動かして一兎と志甫と行動した。そして、秋葉原で無線を手に入れた後に通信で自衛隊の専門部隊が新宿都庁付近で戦闘を行うという情報を手に入れた。その専門部隊に勇樹部長と尾褄副部長が居ると考えた俺達は、新宿の都庁へと向かう事にした。

そして、都庁を目の前にして、俺は見てしまった、聞いてしまった。

残酷な、現実を。

 

 

 

 

 

『あとは、任せたぜ。みんな』

「はっ! お、尾褄副部長…! 副部長ぉおおおおおお!」

「新華!? ねぇ一兎、ってどうしたの一兎も!? 顔が真っ青だよ!?」

「俺のことはどうだっていいよ!」

「っ!? 何かあったの? 尾褄は……」

「尾褄さんは…」

「…俺達はあの人に託されたんだ。明日を」

「それって…」

「…勇樹先輩を探そう」

「くそっ、俺はまた…!」

 

 

 

 

 

そして俺達を見る視線に気付き、再び視線を向けた。そこには指揮官型と思われる乾燥者が2人居た。俺はその2人に激しい怒りを覚える筈だったが、あまりに短時間で悲しい事が怒ったせいで感覚が麻痺しだしていた。その乾燥者に怒りをぶつけるより早く、勇樹部長を探した。

そして気絶して瓦礫の上に倒れていた勇樹部長を城戸高校の保健室まて連れて行き寝かせた。すぐに勇樹部長は起きたものの、尾褄副部長の死を思い出したのだろう。1時間程泣き通した。

一兎と志甫ももらい泣きしていた。俺はそんな勇樹部長に尾褄副部長の最後の言葉を伝え部屋を出た。俺は耐え切れなかった。もう知っている誰かが居なくなるのが。

映画部部室に入って、泣いた。声も涙も枯れるくらいに。何も出来ない、知り合いの死を目の前で見るしか出来なかった無力感に苛立った。だけど無くなった命はもう返ってこない。アニメや小説ではないこの世界(現実)において、どんな奇跡が起ころうとも死者が喋る事はないのだ。喪失感を胸に俺は、ずっと泣いていた。

だが俺はその泣く事すら最後まで出来なかった。不意に一兎が消えたような感覚に陥ったのだ。俺は慌てて涙を拭い一兎を探した。そして、見つける。水飲み場で立ち尽くす一兎を。

まるでここに居ないかのような存在感の無さで宙に視線を向けたまま、呼んでも何の反応も返さない一兎に激しい不安を覚えた俺は、大声で一兎を呼び続けた。どこかに出かけていた志甫が戻って来た時にようやく一兎の存在感が戻り、疲れたような返事をした。

そして一兎の目には、先程までは無かった力強さが宿っていた。

そして、こう言った。

 

 

 

 

 

「乾燥者に勝てるかもしれない」

 

 

 

 

 

俺達は一兎の後に続き勇樹部長を連れて校舎裏に移動した。そこで一兎が手に入れた、人類最強の力の一部を目の当たりにする。

 

空を、飛んでいた。

 

正確には空中で数回跳躍をしたそうなのだが、空中に足場は無いからどうして跳躍出来るのかとか、跳躍というレベルではないぞとか、力を手に入れた一兎に嫉妬する余裕なんて無く色々と言いたい事はあった。が、時間も無いので俺達は一兎を中心に動く事にした。

まず向かったのは、以前一兎がパラべラムになる切っ掛けになった志甫を襲撃した生徒の所属する『桑園高校』。そこにまず向かい一兎の作戦を成功させる為の仲間を集める事となった。

そしてそこで、リーダーの西園寺 遼子をリーダーとした計15名のパラべラムと会い、睦美先輩と再開した。

睦美先輩は那須 一子と戦ったらしい。だが早苗さんが死んだ後よりは回復していた。

 

 

 

 

 

「なんだか、悪かったな……みんな」

「睦美さん…すいませんでした!」

「! 新華…」

「俺、あの時に俺が早苗さんを止めていれば、あんな事には…! 本当に、すみませんでしたっ!」

 

 

 

 

 

俺は睦美先輩に即座に土下座した。俺にとって守れなかった事は人殺しとしての自覚を強くさせるものであり、誰かの愛する者を殺してしまったと、取り返しのつかない事をしてしまったという思いを抱く結果になった。それは俺自身が許せる事ではなく、土下座して謝ってでも許される事ではないと思っている。

 

 

 

 

 

「もういいんだ、新華。お前だってあの時は満足に動けなかっただろう」

「でもっ」

「早苗がああしたから、私が生きている。早苗に貰った命だ。だから、新華ももう…」

「……早苗さんは、最後に、睦美先輩に生きてほしいと言っていました…」

「…何?」

「でも、俺があの時動けていればっ…!」

「……新華、それはどのタイミングでだ?」

「早苗さんが、切られた直後に聞こえたんです。祈るような声で…」

「……新華、お前は…」

 

 

 

 

 

俺はその時ずっと土下座したままだったから睦美先輩の顔を見る事は出来なかった。でも戸惑いの感情を感じる事は出来た。俺はその戸惑いの感情に疑問を持ちながらも、謝る事をやめなかった。

その後、土下座を半ば強引に止めさせられた俺は勇樹部長と睦美先輩と共に尾褄副部長の話をする為に、スーパーアンビュランスにいる灰色領域の最高幹部の人と話をしに行った一兎と志甫を見送った。俺は勇樹部長と睦美先輩と話をしたうえで、自分もどこかおかしい事にようやく気付いた。死人の声が聞こえ、身体に支障をきたすほどの影響を受ける。まるでNT(ニュータイプ)のようだと思ったが、一蹴した。俺が生きているのは現実離れした現実で、アニメのような能力など有り得ないからだ。

一兎達が作戦の協力を確約してきた後、一兎、志甫、勇樹部長の3人が千葉にある陸上自衛隊駐屯地へと向かった。そこに自衛隊を指揮するパラべラムが居り協力を申し出る為に。

睦美先輩は尾褄副部長の死を聞いて動揺した為に桑園高校に残った。俺はというと、志甫から城戸高校に宮田先生が居ると聞き、行く事にした。

城戸高校に着くと、志甫が言ったのと同じ体勢で宮田先生は呆然としていた。俺は危ないからと、校舎内に宮田先生を連れて入った。

 

 

 

 

 

乾燥者(やつら)に見つかったら確実に殺されますよ! しっかりしてください」

「ごめんなさいね。でも、なんだか実感が湧かなくて……」

「それでも、全部終わるまでは大人しくしていた方がいいです。幸いこの辺に居る人は少ないみたいですし……」

 

 

 

 

 

そう言って俺は宮田先生を置いて桑園高校へと戻った。戻ってきた一兎達から作戦の決行が翌日と聞き、映画部一行は1度城戸高校に戻って一夜を過ごす事になった。俺は万全の体勢で臨めるように休む事にした。勇樹部長は視聴覚室で、睦美先輩は保健室で、志甫と一兎は宿直室で、俺は敢えて映画部部室で。

翌日の決戦で死ぬかもしれない。だからこそ、俺達が1年間楽しく過ごした思い出のある部室で寝る事を選んだ。

だがなかなか寝付けない。何か胸騒ぎがあるのを自覚していた。気分転換に部室を出て校舎内を見回ると、どこかに行く一兎が見えた。その後ろ姿に激しく不安を覚え追い掛けようとしたが、背後から呼び止められ断念した。

 

 

 

 

 

「あの、青木君?」

「……宮田先生。起きていたんですか」

「それはこちらのセリフですよ」

 

 

 

 

 

宮田先生も眠れないらしく、少し話をする事にした。先生も家族と連絡が取れずに不安らしく、帰ろうにも交通は麻痺していて無事に帰れる保証も無い為に城戸高校に泊まる事にしたのだそうだ。

加えて俺達映画部と宮田先生以外の人も居らず、人の気配が無い校舎は不気味だったと気丈に笑おうと振舞っていた。宮田先生にとって夢だった教師になれた初めての1年。そしてこれからも頑張ろうと、思いを馳せた新年がこうも崩れたのだ。無理も無かったと思う。月明かりで照らされた宮田先生の顔をよく見ると、泣いた跡があった。

 

 

 

 

 

「家族とも連絡が取れませんし、他の先生方も生徒の皆さんもどこに行ったのか……」

「実質今は世界規模で通信も交通も遮断されて混乱していますからね。こうして話せるのも奇跡的でしょう」

「そうなん、ですか……。やっぱり、あまり実感が沸きませんね。まだどこか遠い世界の話を見ているように感じちゃいます」

「それが普通ですよ。あまりにも自分の想像を超えた事態が起きた場合、そいうった風に現実感を感じられないもんです。俺も経験がありますからね」

「青木君もそうなんですか?」

「はい。ずっとずっと前に、1度」

 

 

 

 

 

こうして転生して生きている事を俺は最初、現実感を持てなかった。だが時間が経つにつれ痛みを受け、現実だと思い知らされた。

 

 

 

 

 

「こうして戦争の真っ只中を駆け抜けて、がむしゃらに今を生きてます。それだけは自分で選んだ道だと思ってますし、こういう日が来るって事を何となく感じていました」

「そうですか……」

「でも、昨日まで過ごした平和な時間をずっと過ごしたいと思っていたのも事実です。だから、明日、俺達は戦ってきます。『平和』を取り戻す為に」

「……」

「…いや、『平和』じゃなくて、またみんなで笑える『日常』というか、『明日』を取り戻す為、ですかね。ちょっとくさい感じですけど、『平和』とか大層な理由より分かりやすい」

「……青木君は、恐くないんですか? もしかしたら、死んでしまうかもしれないんでしょう?」

「恐いかどうかと聞かれたら、恐いですね。でも、今まで『恐い』や『痛い』から散々逃げてきましたし、それに何もしなくても死ぬんだったら、自分の納得する形で死にたいじゃないですか。出来る事を出来るだけやって、足掻けるだけ足掻いて、それで未来に繋げられるんだったら何もしないで死ぬより何億倍もマシです」

「……」

「あ……なんか、すいません。先生に偉そうな事言って」

「…いいえ。でも、そうですね。出来る事を出来るだけですか。私も、何か出来るでしょうか」

「もちろん、先生にだって何か出来ますよ。俺達とは別の形で。まだ何も見えないなら、ここを守ってくれませんか?」

「ここって、城戸高校をですか?」

「ええ。俺もそうですが、志甫と勇樹部長は家を失ってます。要は、帰る場所が欲しいんです。全部終わった後で帰る所が無いって寂しいでしょう?」

「そうだったんですか…。わかりました。先生として、生徒の帰る所は守ってみせます」

「ありがとうございます。…なんだか話したらスッキリした気がします。これならちゃんと寝れるような気がします」

「私もですよ。でも生徒に励まされる先生って、格好が付きませんね」

「いえ、先生はちゃんと正しく『先生』をやれてますよ。俺達は先生に助けられてます」

「だったらいいんですけどね……」

「自信を持ってください。それでは、おやすみなさい」

「はい。お休みなさい」

 

 

 

 

 

そうして俺は部室に戻って、ようやく眠る事が出来た。翌日の決戦への意気込みを新たにして。

 

 

 

 

 

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「新華、こんな経験してたんだ…」

「あの時、戦争って単語でキレた理由がコレね。新華は実際に想像を絶する戦争を経験していたから…」

「もしかして、手加減出来ないって何度も言っていたのってこれが原因?」

 

 

 

 

 

再び制服姿で『ストーリーズ・イレギュラー』を右腕に展開して、漆黒の(悔い)を胸に刺したままの新華が走り抜けた。

 

 

 

 

 

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翌朝、俺達は灰色領域のバックである多国籍複合企業『メルキゼデク』(表向きは外資系株式会社)が用意した改造ミニバン2台に乗り込んで、以前志甫を助ける為に訪れたカソウサスへと向かった。そして山梨県に入った所で乾燥者達は襲撃してきた。城戸高校から俺達5人、桑園高校のパラべラム達、城戸病院にいたメルキセデクの幹部を含めた構成員達が一斉に動いたのだ。気付かない訳がなかった。

最初に俺達のミニバンが見つかり、乾燥者の『ツバメ』と『センパイ』が襲ってきた。だが一兎達をここで止める訳にはいかないと後部座席からP・V・F『バーンアウト』を展開した睦美先輩が飛び降りる。勇樹部長と俺はそれを見て叫んだ。

 

 

 

 

 

「睦美さん!」

「睦美先輩!」

『車を止めるな! あの2人には個人的な恨みがある』

『でも、パラべラム1人で乾燥者2人を相手にするのは無謀だ!』

 

 

 

 

 

睦美先輩と桑園高校パラべラムのリーダー西園寺 遼子が喉に付けたマイクで言葉を放つ。

 

 

 

 

 

『心配するな! 勝算があるんだ! 一兎は任せた!』

「でも、睦美先輩!」

『もしここで一兎達が止まれば人類は終わりだ』

「っ!」

『変な事をしたら、私が殺すぞ。先を急げ!』

「「っ!」」

「…分かりました! 睦美先輩、ご武運を!」

『ああ!』

 

 

 

 

 

飛び出そうとした一兎と志甫を止めるように睦美先輩は言って、俺達を先に進ませてくれた。だが、戦争が終わって睦美先輩が戻って来る事は無かった。

そして南アルプス市に入ると、今度は4人の乾燥者が襲ってきた。ここで桑園高校のパラべラム達が迎撃に入ろうとしたときに、一兎が援護を依頼していた自衛隊が駆け付けてくれた。

結果として俺達と桑園高校一行、メルキセデク一行はカソウサスにたどり着く事が出来た。施設に入ろうとした所でまた邪魔が入る。

戦争の原因となった進化を自称するパラべラムからの派生者達『新生人類騎士団』。その幹部である阿部 城介と大柄で太った男性の2人が道を塞いでいた。そして規約だの何だのと訳の分からない事をのたまい嫌がらせをしようとしてきた。

しかしそこに新たな乱入者、『夜警同盟(ウォッチメン)』のシンクロ二シティという少女がどこからともなく現れ、交戦許可を出して俺達、いや一兎を応援して消えた。

まず新生人類の相手として映画部ではない城戸高校所属のパラべラム阿部 喜美火(きみか)水面(みなも) 夜南(やな)と、メルキセデク幹部の宮脇 奈々の3人が残った。俺達はその3人を置いて進み、途中の登山道休憩地で桑園高校パラべラムが残り乾燥者の迎撃にあたった。

最後に施設のある山荘に向かったメンバーは俺を含め一兎、志甫、勇樹部長、サード・プロメテウス・ファイア管制役の霧生(きりゅう) 六月(むつき)の4人だった。

途中、俺は睦美先輩の消滅を感じた。しかし死んだという感覚はしなかった為に、一兎達の意識を乱したくなかった為に言わなかった。

山荘の入口に辿り着く直前、俺達は乾燥者に追いつかれてしまう。それも、指揮官型の2人の女性。尾褄副部長の敵だと思い熱くなるのと同時に、一兎の叫びで俺は正気に戻った。

そして戦闘を開始した。一兎の特殊な弾が圧倒的プレッシャーを放っていた乾燥者2体に刺さり爆発。しかし乾燥者は虚空から13体の15m程の大きさの巨人を出現させて攻撃してきた。

皆で協力して勝ちに行った。だが敵はあまりにも強力だった。

 

 

 

 

 

「あっ!」

「部長!」

 

 

 

 

 

まず勇樹部長が右大腿と左肩を貫かれ大量出血を起こし、次に志甫が巨体に蹴り飛ばされ動かなくなる。

次に乾燥者に直接攻撃された。だけどサード・プロメテウス・ファイアを動かせる人を失う訳にはいかないから、俺が身代わりになった。衝撃と共に地面にめり込んだ感覚があったものの、カウンターでS・Sによる大量のミサイルをお見舞いしてやった。直撃こそ出来なかったもののミサイルによる爆風は13の巨体に影響を及ぼし動きを鈍らせる事が出来た。しかし乾燥者は2体。俺はもう1体の乾燥者に、立ち上がろうとした所を斬られた。すんでの所で後ろに飛び回避したものの、壁にぶつかり倒れてしまった。

そして、その間に一兎がS・Sを発射しようとしているのが見えた。だがS・Sというのは使うまでどういった物なのか分からない。一兎は威力が強すぎた場合を考えて撃つのを躊躇っていた。だから

 

 

 

 

 

「一兎! 撃て!」

「!」

 

 

 

 

 

俺が言って、一兎は撃った。一兎のS・Sの効果は、時間停止だった。

13体の巨体と指揮官型の乾燥者は完全に停止していた。だが問題は、その停止した乾燥者にトドメを刺そうにも刺せなかった事。一兎が言うには『時間を小刻みに過去を遡っている』らしかった。もう驚く気力も無い俺は苦笑して勝った事を宣言した。

 

 

 

 

 

「兎に角向こうからは攻撃も妨害も出来ないんだろ? だったら俺達の勝ちだ。今なら行ける」

「ああ。後は……」

 

 

 

 

 

俺達は応急処置をしながら山荘から施設に入り、サード・プロメテウス・ファイアへと辿り着く。そして、そこで残酷な現実に向き合った。

 

 

 

 

 

「これで……人類は生き残るんだね」

「……たぶんな」

「勝ったんだ……! 勝ったんだ! あたしたち……!」

 

 

 

 

 

そうやって志甫が喜ぶ。しかし俺はそんな志甫を寂しげな表情で見る一兎に、そこはかとない不安を感じた。そして、嫌な予感を覚える。

 

 

 

 

 

「ねえ、この機械が起動したとして……一兎はどのくらいで開放されるの?」

「……」

 

 

 

 

 

沈黙が降り、志甫の顔から笑顔と喜びが消えた。俺も冷や汗をかく。

 

 

 

 

 

「ねえ……答えて」

「一兎、大丈夫だよな? ちゃんと、戻ってくるよな?」

「たぶん、開放はされない」

「------え?」

「ごめんね、君に嘘を付いた」

「おいっ、一兎!」

 

 

 

 

 

一兎のその時の表情は、死を覚悟した人間のものだった。そして一兎は止めようとする志甫のP・V・Fに弾丸を1発撃ち込んだ。俺も志甫と同じように一兎を引きとめようとしたが、薄々こうなる事に気付いていたという勇樹部長に止められ一兎の覚悟を知り、止められないと悟ってしまった。

そして一兎は機械の拘束台に自ら乗り、サード・プロメテウス・ファイアが唸りを上げる。俺達はそれを泣いて見てるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「…くっ、一兎! お前の帰る場所は俺達が守る! だから、早く帰って来い! 必ず、帰って来い…!」

「新華……。ありがとう」

 

 

 

 

 

そして志甫が告白し一兎がそれを受け入れ、サード・プロメテウス・ファイアは完全に起動。一兎の意識は、俺が死ぬまで戻らなかった。

一兎のP・V・Fにおけるサード・プロメテウス・ファイアの制御は完璧なものだったらしく、巨大な砲塔から無数の光が世界中に散らばり戦意の無いシューリン以外の乾燥者と敵全てを消滅させた。

後に『選択戦争』と呼ばれる生存戦争は集結を迎えた。

 

 

 

 

 

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「「「「「「……」」」」」」

 

 

 

 

 

一同は絶句した。途中までは希望があった。だが結末はどうだろう。確かに新華達は生きた。だが一夏達が思った以上に苦しい勝利だった。

元居た仲間は新華を含めて6人。だが最後に残ったのは3人。一夏達で当てはめるなら、新華を犠牲にして一夏と誰か2、3人しか生き残れなかった結果であった。

だが、新華の過去はまだ終わっていなかった。

今度はコートに身を包み、今に近い形をした『ストーリーズ・イレギュラー』を展開して杭を刺したまま走り抜ける、少し成長した新華が通り過ぎた。

 

 

 

 

 

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俺と志甫、勇樹部長の3人はサード・プロメテウス・ファイアの砲撃が終わった後もしばらくその場を動く事が出来なかった。霧生さんに促されてようやく立ち上がり、意識の無い一兎を背にして外に出た。そこで俺達を待っていたのは、人類が勝った事を証明する人々の雄叫びだった。だが、俺達もその中に混ざるには、あまりにも大切な物を失っていた。

俺達3人は全員家を失っていた。だが、帰る所は残っていた。

城戸高校。宮田先生は俺の願い通りに帰れる場所を守ってくれていた。校舎を無事に確認出来た時の安心感を、俺は忘れられなかった。

それからは、丸1日休んで怒涛の日々が待っていた。戦争の事後処理として総人口の再計算、パラべラムの管理体制の再構築、破壊された街の復興など、やることは多く人は少なかった。

大きく言えば、霧生さんは戦死した宮脇さんに変わってメルキセデクの代表となった。霧生さんはメルキセデクと世界中の支部を一時的に解体し、生き残ったパラべラムを中心とした復興の中心となる組織『エリシュオン』を設立。世界中の政府が機能を停止してしまった中で、世界唯一の秩序となった。自衛隊は最終決戦の時に援護してくれたパラべラムの自衛官、金剛さんが同じくパラべラムの自衛官、風神(かざかみ)さんとで自衛隊を纏め『エリシュオン』の日本支部長に就任されていた。桑園高校のパラべラムは世界中に散らばって復興に勤しんでいた。特にリーダーの西園寺さんは掃討戦の司令官となって世界を回っていた。

志甫はゴタゴタが終わった後、人類復興の為のキーパーソンとしてアイドルのような活動を行う事になり、勇樹部長は戦争と復興を取材しドキュメント映画を作る映画監督に。映画館の数が増えればアクション映画や恋愛映画も作る予定だと聞いていた。そして俺は

 

 

 

 

 

「お兄さんせんせー!」

「おう、どうした?」

「いんちょうせんせーがよんでたー!」

「ああ、ありがとう」

 

 

 

 

 

かつての城戸高校をそのまま改造し利用した『城戸孤児院』で院長先生の補佐をしながら教師の真似事をしていた。あの戦争で親を亡くした子供も多く、世界各地に多くの孤児院が建てられた。そしてこの孤児院は

 

 

 

 

 

「彩香先生、お待たせしました。行きましょうか」

「はい」

 

 

 

 

 

宮田 彩香先生を院長(中心)として機能していた。城戸孤児院は元々高校のだっただけあって建物の規模が大きく、職員の多くが住み込みで働いていた。俺もその1人であり、主に宿直室で寝泊りしていた。そしてこの日は、年に数回の、墓参りと一兎の様子を見に行く日だった。

まず、かつて都庁のあった場所に広がる共同墓地に行き尾褄副部長と睦美先輩、早苗さんを始めとする城戸高校の生徒達の墓参りを済ませる。そしてその後は、サード・プロメテウス・ファイアに繋がれたままの一兎の所へ。

移動は俺が運転する車だった。世界人口が減った為に多くの分野で年齢制限の引き下げが行われており、車やバイクの免許取得の年齢制限も下げられていた。それを利用して前世にも一応取っておいた車の免許をもう1度取り直し、長距離移動も出来るよう孤児院の経費で公用の車を購入していた。

一兎の眠る場所は以前のような山荘からパルテノン神殿のような外観に建て直されていた。加えてパラべラムの駐屯地も置かれ、警備はどの国よりも高い物になっていた。

パラべラム50人によって厳重に警備されたゲートを通り、内部に入る。そこには戦争が終わったあの時から、一切何も、傷すら変わらずに眠る一兎の姿があった。

 

 

 

 

 

「……まだ、起きませんね。佐々木君は」

「そうですね。あの時から、何1つ変わってない。本当に、あの時のままだ」

 

 

 

 

 

多くの事があり、戦争から4年経っていた。俺は以前より身長が伸び精悍になった(らしい)。だが目の前の一兎は高校生の時のまま。毎年何度も来ているものの、一兎の変化は一切見られない。何の変化も無く眠る戦友を見るのは辛いが、生きているだけでも希望が持てた。

孤児院の事もあり長居はせず、「また来る」と言い残して孤児院に戻る。戻ってからは子供たち面倒を見て職員の人たちと意思疎通を行う。以前とは違うが、平和で穏やかな時間は俺にささやかな安寧をもたらした。

だがやはり、俺の安寧は4年で幕を閉じる事になった。

-------新生人類を名乗った者たちの残党が発見されたという知らせと、討伐作戦への参加意思の確認が俺の元に来たのだった。

俺は即、参加する事を決めた。

 

 

 

 

 

「本当に行くんですか?」

「はい。この作戦が成功すれば一兎が起きるって、そんな感じがするんです。それに今、元映画部で戦闘に参加出来るのは俺だけですし」

 

 

 

 

 

志甫はアイドルとして戦闘参加を認められず、勇樹部長は丁度映画製作の大事な時期らしくスタッフから行くのを止められていた。せめて一兎が起きても安心して外を歩けるようにと、そう思っての参加だった。

 

 

 

 

 

「この孤児院は新華くんの帰る所でもあるんです。子供達もみんな新華くんに頼ってますし、必ず無事に帰ってくるんですよ」

「もちろんです」

「……約束です。もう私に、教え子を失う想いをさせないでください」

「はい。約束です」

 

 

 

 

 

そう言って俺は、作戦に参加するべく移動した。向かったのはエリシュオン日本支部。そこで自分のパラべラム登録ナンバーと所属を出し作戦への参加意思を提出する。作戦の指揮を取るのはかつて桑園高校パラべラム部隊のリーダーをしていた西園寺さんだった。

だが再会を懐かしむ事はせず、参加メンバーが集まってすぐ作戦は開始された。新生人類残党が潜んでいたのは、未だ復興が完全に終わっていない街の地下だった。パラべラムと自衛隊で構成された戦闘チームで地下に突入し殲滅していく。俺は後ろで待機していたが、予想以上に敵の数が多く、待機組全員が出張っても2人が逃げ出そうとしていた。

俺はその2人を追った。ただ、人数的に余裕が無かったのとタイミングが悪かった為に1人での追跡だった。

そして、その2人を道連れにする形で俺は、心臓を貫かれて死亡した。彩香先生との約束を守れずに。

 

 

 

 

 

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「こ、これが、新華の過去…?」

「思った以上の上限を超えている…」

「そうか。以前『時間が止まった友人を見る』と言っていたのはこの事だったのか」

「これで、新華君への疑問の殆どが解消されたわね」

『……(後は皆さんが、知ったうえでご主人様を受け入れられるかどうか…)』

 

 

 

 

 

そして、一夏達は見たことのある新華を、まだ小さい頃の新華を追い抜いて行った。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

 




次回でようやっと男性操縦者編。その次にまずはトゥルーENDを書きます。んで、どっかのタイミングでBADの方を。
リアルでまさかのαユニット修復。

あと……以前あとがきで書いた『主人公をホモからマトモに戻す』といった感じのPCゲー、何かの拍子に見付けてしもうた…。
タイトル知りたい人は感想欄にて、返信で教えます。原因の男の娘、秀吉並にやばかったです。

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