IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

113 / 173
108話、中編1

まずは盛大な謝罪を。
書いている間に長くなってしまったせいで、区切る事になってしまいました…! さっさと終わらせたいのに、書きたい事が多く…!


過去 パラべラム前半編

 

 

 

 

新華は闇の中で目を覚ました。そして、胸が軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

新華は周りを見る。闇で染まった黒は光を通さなかった。そして足元を見る。

 

 

 

 

 

「………あぁ」

 

 

 

 

 

膝を付いているために足が赤い液体で濡れていた。いや、良く見るとそれは新華のP・V・Fから、新華の目から流れていた。そして左手にべっとり付着していた。

 

 

 

 

 

「…これが、俺の、ぐっ!」

 

 

 

 

 

新華の右腕のP・V・Fが内側から光りだし装甲がカタカタと鳴って外側に飛び出そうとする。しかしそうはさせまいと新華は左手で抱え込んで押さえ付ける。

 

 

 

 

 

「こ、これは…! もう、時間が無いってのかよ! まだ、一夏達の卒業を見届けてないのに、まだソレスタルビーイングを世界に認めさせてないのに…!」

 

 

 

 

 

必死に抱える。そんな新華に足元の液体から、周りの闇から沢山の赤い腕が伸びていく。

 

 

 

 

 

「な、なんだコレは!? くそっ止めろ!」

 

 

 

 

 

そして新華の体を掴みP・V・Fの装甲を剥がそうとしてくる。それだけではなく、強靭な握力で新華自身を潰そうとしてきた。その圧力に新華は凄まじい痛みを覚えた。

 

 

 

 

 

「ぐああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

----

-----------

----------------------

 

 

 

 

 

---side 専用機持ち達

 

 

 

 

 

『ぐああああああああああああああああああああああ!!!!!』

「「「「「「!?」」」」」」

「今の声、新華!?」

「新華君…!? い、急ごう…」

「更識さん…。うん、そうだね。今まで助けてくれた分、辛くても新華を、受け入れなきゃ」

「アンタら、強いわね…。でも、そうね。急ぎましょ。新華がどういう存在なのか、何となく分かってきたし」

「そう、ですわ。例え暗い感情が流れてきたとしても、歩みを止めたら何にもなりませんわ」

「ああ。これで新華に対する疑問が解決されるなら、この位の辛さも見据えよう」

「…そうね。私も新華君と一緒に居たいもの。新華君が感じていた痛みを受け入れるくらいの事、出来なきゃね」

「皆…。…よし、行こう!」

 

 

 

 

 

そうして一夏達はまた走り出した。そして今度は、自分の肩を抱いて膝を付く青年を追い抜いた。

 

 

 

 

 

----

-------------

--------------------------

 

 

 

 

 

「もう嫌だ…」

 

 

 

 

 

近くの公園のベンチに座って嘆く。傍目から見れば何の問題も無いが、服の下の全身には痣が沢山付いていた。

両親が現れた後、法律を盾に新華は両親の元に戻された。施設の職員は苦い顔をしていたが法律に黙らされた。弁護士を呼ぼうにもお金が無かった。

そして再び訪れた虐待の日々。以前と違うのは僕が稼いだお金が巻き上げられて酒に使われる事だった。

完全に食い物にされ虐待を受け、僕ももういい加減限界だった。生きている事が嫌になっていた。よく、自殺する事を考えていた。

 

 

 

 

 

「いっその事、動脈を切って…」

「おいおい、君はそれでいいのか?」

「っ!? だ、誰!?」

 

 

 

 

 

ベンチの後ろの木々の間から声が聞こえた。驚いて振り返った時に僕が見たのは、1人のゴーグルを掛けた女性だった。

 

 

 

 

 

「あ、あなたは…?」

「私? 私の事は『センパイ』って呼んでくれ。それよりも、君はそれでいいのかい? 自分を苦しめる巫山戯たヤツラをそのままにして。仕返しの1つもしないで」

「し、仕返しって…」

「憎いんじゃないのかい? 今の環境をぶち壊したくないのかい? 自由になりたくないのかい?」

「そ、そんな事…僕は…」

 

 

 

 

 

センパイから放たれる言葉に僕は心を暴かれるような気持ち悪さを覚える。確かにそう思った事はある。でも殺ってしまえば、取り返しのつかない事になると理解していたから。

だけどいい加減に終わりにしたかったのも事実だった。

 

 

 

 

 

「君は頭がいいだろう? だから自分の気持ちをも偽ろうとする。でも、そんな事バカバカしいと思わないか?」

「バカバカ、しい…」

「ああ。でもそんな君でも、法に裁かれない方法でヤツラをどうにか出来るものがあるんだ」

「え? …そ、そんなものが…?」

「ああ。コレさ」

 

 

 

 

 

そう言ってセンパイはポケットから1つの錠剤のケースを取り出した。それを見た途端に僕は警戒した。すぐに頭に浮かんだのは麻薬だった。

 

 

 

 

 

「まさか、麻薬を薦めようと…!?」

「麻薬? ハハハッ、違う違う。これは麻薬なんて幻覚を見せるものじゃなくて、力を与えてくれるものだよ」

「力…?」

「そう。理不尽をぶっ壊せるようになる力さ」

 

 

 

 

 

その錠剤のケースを受け取った僕は、中を開けて1粒出してみた。なんの変哲もない白い錠剤だった。

 

 

 

 

 

「水無し1錠で効果があるよ。あ、念の為に言っておくけど、麻薬なんてチンケな物とは違って中毒性とか無いから」

「…本当に?」

 

 

 

 

 

この時の僕は正常な判断力を失っていた。ただでさえ精神的に限界だった事に加えて彼女の魅惑的な言葉。思わず唾を飲み込んで錠剤に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

「ああ、本当さ。そうやって力に目覚めたやつもこの街に沢山いる。よく探せば見つかるとおもうよ」

「………」

「…飲むかい?」

 

 

 

 

 

その時の僕の目がどうなっていたのかは、想像出来る。恐らくかなりイった顔をしていたんだろうと思う。

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。それを飲んだ時に力を手に入れられる…かもしれないけど、同時に死ぬ可能性もあるから」

「…関係無い」

「お?」

「今更死んだところで心配してくれる奴は身近に居ない。こんな下らない記憶を持ち続けて生きるくらいなら…!」

「…」

 

 

 

 

 

僕は拳を握り締めて錠剤を1つ口に入れた。そして飲み込む。そしてすぐにそれはきた。

 

 

 

 

 

「あ、がっ、ぎぃあああああああああああああああ!?!!??」

 

 

 

 

 

まるで体がバラバラに引き裂かれる痛み。胸を抑えてその場に倒れ込んだ。痛みと苦しさで呼吸すら困難になる。そして意識がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

そして次に目を覚ました時にセンパイの姿は無かった。でも既に僕はセンパイの事を忘れていた。

 

 

 

 

 

「…展開」

 

 

 

 

 

何故か自然と言葉が出た。そして右腕に機械的な装甲が張り付き1つの拳銃が現れた。

 

 

 

 

 

「………………あはっ!」

 

 

 

 

 

()が死んで、()が生まれた瞬間だった。俺はこの時、何でも出来る気がした。

 

 

 

 

 

「あははっ! あははははははははははははははは、あはははははははははっ!」

 

 

 

 

 

何もかもがちっぽけに思えた。今まで俺を苦しめてきたあの屑も、借金を返済する為に奔走してくれた弁護士も、心配してくれた施設の職員も、前世の大学の友人達も、両親も、虐めてきたヤツラも、そして、今まで苦しみに耐えてきた自分自身も。

そして俺は衝動的に駆け出して住んでいた家に戻った。そして

 

 

 

 

 

「や、止めろ! その銃で何をがはっ」

「ウルセェなぁ…えぇ? ゴミが何を言っているのかなぁ…?」

「あ、あんたなんてごっ!?」

「黙れって言ってるのが聞こえないのかなぁ…あ”ぁ”? どれだけ俺が痛い思いして今まで生きてきたと思ってんだコラ…」

「ひ、ひいぃ!」

「ま、待て! 今までの事は謝る! だから、殺さないでくれ!」

「…あ? 謝るだぁ…? くっくっく…ふざけんじゃねぇぞゴミ屑が! 全部遅いんだよ! 俺を産んだあの日から、俺を気味悪がってたあの日からなぁ! 生きていた事を後悔して死に晒せ!」

「い、イヤァ!」

 

 

 

 

 

今まで働いてきた事で鍛えられP・V・Fによって強化された体で殴り、俺の服に血が掛からないように屠った。そして

 

 

 

 

 

「あははは………あれ」

「「------」」

「あれ、あっれえー? なんで動かないの? まだ俺が受けた痛みはこんなもんじゃないんだけど? あれ? あれ?」

 

 

 

 

 

俺はその時から、消せない罪を背負った。そして、死んだ、俺が殺した事を自覚した。怖くてP・V・Fを展開していられなかった。

 

 

 

 

 

「あ、ああ! 俺は、俺はぁ! なん、何て、事を…!」

 

 

 

 

頭を抱えて家と飛び出した。まだ外は明るく不思議な事に人も居なかった。だけどそんな些細な事を気にしていられないくらいに混乱していた。そしてひたすら走った。

走って、走って、走り続けて…どこかで躓いた。そしてその時に手を差し伸べられた。

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

「うぐっ…」

「…尾褄、この子、僕らと同じだよ」

「何? って事は…」

「うう…俺は、俺はぁ…」

「…兎に角、移動しよう。ここに居たら嫌でも視線を集めそうだ」

「うん、そうだね。ほら君、ちょっと付いて来て」

「殺して、しまったぁ…!」

「「!!」」

 

 

 

 

 

それが、俺と勇樹部長と尾褄副部長が出会った時だった。

俺が城戸高校に進学する理由をくれた人達との出会いだった。

 

 

 

 

 

----

-------------

--------------------------

 

 

 

 

 

「えっ?」

「い、今のは…」

「P・V・Fを手に入れたって、こういうことだったのね…」

『…皆さん、見ましたか』

「ああ」

 

 

 

 

 

一夏達は進む速度を少し落とした。だが進んでいる事に違いはなく、新華の記憶を整理する暇も無い。

今度はP・V・F『no name』を展開したIS学園ではない制服姿の新華が、一夏達を追い抜いた気がした。

 

 

 

 

 

----

----------

----------------------

 

 

 

 

 

時間が経つのは早いもの。誰かがそう言っていたけど、今まではそう思えなかった。大学に入るまではそう思えなかったし、転生を経験してからもなかなかそう思えなかった。

だけど二階堂 勇樹部長、工藤 尾褄副部長、その後に紹介された伊集院 睦美先輩。この3人が居て、自分と同い年でパラべラムとなった長谷川 志甫が行く予定の城戸高校に行こうと決めた時から俺の時間は加速した。まるで人生という時間を疾走しているような気分だった。

…俺があの屑どもを殺した事は殺人事件として扱われた。だが俺が捕まる事は無かった。俺が殺したという証拠が無かったというのと、屑が意外と多方面から恨まれていた事が原因だった。容疑者は多く俺も当然疑われた。だが鈍器で撲殺されたにも関わらず俺の当時の服には屑どもの血が付いてなかった。更に凶器となった鈍器も見つからず、事件は闇に葬られる事になった。

俺は人を殺してのうのうと生きている自分に吐き気を覚えたが、屑どもの葬式の時に虐待されていた事が親戚連中に知られたらしく、同情の視線を向けられた事で気にする事もしなくなった。

そして城戸高校に無事に入学して2ヶ月経った頃、1人の生徒が遅れて入学してきた。

その生徒こそ、後の救世主である佐々木 一兎だった。

一兎は最初、驚く事に部活紹介のポスターを見て俺達の居る映画部にやってきた。でも、パラべラムではない彼を入れられないと副部長の尾褄は一兎を追い返した。

俺はその後バイトに行って知らなかったのだが、あの後一兎を志甫が追って尾褄の行動を謝罪したらしい。アホなりに。

そして帰りの道中、他の高校のパラべラムに襲われピンチになった所を、志甫が持っていた例の錠剤にて一兎がパラべラムに覚醒し危機を救ったのだと言う。

その次の日に俺は睦美先輩と共に映画部へと赴き一兎を映画部として受け入れた。

 

 

 

 

 

「っていうか俺、『P・V・F』についてまだ何も知らなくて…」

 

 

 

 

 

そう言う一兎は、俺から見てもどこにでも居そうな感じだと思った。だが俺も同じと思って気にするのをやめた。

そうして1年間続く映画部が揃った。この映画部の部員には共通している事が2つあった。

1つは、全員が何らかの心の傷を負っているということ。

もう2つ目の共通点は、全員が『パラべラム』だということ。

『パラべラム』とは自分の殺意や闘志を、銃器の形にして物質化する事が可能な特殊能力、およびその能力者である。

そして『P・V・F』とは正式名称『サイコバリスティックファイア・アームズ』。和訳すると『精神弾道学の火器』。人類の天敵である少女達が持っている銃のレプリカと言える能力だった。

 

 

 

 

 

----

---------

-------------------

 

 

 

 

 

「P・V・Fって、超能力だったのか!?」

「精神武器…道理で絶対防御を簡単に破壊したりすり抜けられる訳だ」

「サイコバリスティックファイア・アームズ…。成程、だからサヤカちゃんは『P・V・Fを見れば分かる』ってあの時に言ったのね」

 

 

 

 

 

各々が驚愕する中、今度はP・V・F『ストーリーズ・イレギュラー』を展開した新華が走って一夏達を追い抜いていった。

 

 

 

 

 

----

-------------

----------------------------

 

 

 

 

 

一兎が映画部に入ってから1年間、良くも悪くも賑やかだった。

最初の騒動は連続殺人事件で、危うく一兎が犯人に仕立て上げられそうになった時だった。他の高校を巻き込んでのこの事件は、一兎が犯人にトドメを刺した事で集結した。

犯人は、当時映画部の顧問だった永山という教師。パラべラムだった彼は自分の娘を虐待し、それを告発しようとした妻を殺害した。しかし自分が助かる為に妻を殺す前後で全く関係の無い人間を殺害していた。そして一兎を犯人に仕立て上げて自分は何事もなかったかのように振舞おうとしていた。

 

 

 

 

 

「仮にも教師を名乗る親が巫山戯た事をぬかしてんじゃねぇよ! テメェは教師や親を名乗る以前に、人として失格だ屑野郎!」

 

 

 

 

 

錠剤でパラべラムになれなかった廃人、その利用法だと言って銃人と呼ばれるモノを使っていた永山。そんな永山を俺は許せなかった。いや今でも許せない。だが俺はトドメと一兎に譲り部長達と共に銃人を破壊した。そして永山が倒れた事でこの事件は集結した。

その後に映画部の顧問になったのは、新人教師の宮田 彩香先生だった。この人は小柄でよく赤面し、一瞬年上とは思えなかった人だった。だがそれは後々に変わっていく。この人だけが、俺にとって教師と呼べる人だったから。

 

 

 

 

 

「宮田 彩香です。よ、よろしくお願いします! なにぶん、こういうのは初めてなのでいたらない点も多いとは思いますが…頑張ります!」

「は、はい……」

「よ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

そして記憶を失った少女。自分の名前すら分からず一兎によって映画『グリーン・デスティニー』の登場人物から『シューリン』と名付けられ、志甫の家で面倒を見る事になった。

 

 

 

 

 

「クダモノが二つ」

「この無礼者は誰だ! ぶん殴っていいか!」

「睦美さん、ストップ、ストーップ! 相手は子供っす!」

「そうですよ睦美さん! 落ち着いて!」

「もちつけ。先輩」

 

 

 

 

 

次の騒動はこの記憶喪失の少女が現れた事から始まった。一兎と志甫の家族生活(と存分に煽ってやった。2人ともお互いに顔を見合わせて顔を赤くしてた)や映画部で学校に泊まった事。とても充実していた。

それとは裏腹にシューリンを狙う組織の襲撃。城戸高校に直接乗り込んできた、完全な敵。一兎のS・Sが初めて使われた事もあった。

だが一番衝撃的だったのは、シューリンの記憶が阿部と名乗る男性により復活し、自分たちの前から居なくなった事。そして人類の敵という単語。まるで妖精のように去っていったシューリン。彼女が居た時間は極僅かだったけど、俺達に多くの物を残していった。

 

 

 

 

 

「きゃん!」

「ばっか、何やってんだもう」

「「………」」

「……ありがと」//

「………」//

「いいじゃないか、幼馴染のぎこちなさが自然に出てる」

「はて、あれは演技にしては些か自然過ぎる気が…」

「「っ(余計な事言うな新華!)」」キッ

「お、おおう? 何だ、なんで2人は俺をそんなに睨むん?」

 

 

 

 

 

何となく、何かのカウントダウンが始まっている事に皆気付きながらも、目の前にある撮影を楽しんでいた。それが現実逃避だと言われようが、今でもあの時間が続けばいいと思っていた。

そして夏休みが始まり、映画部による最初で最後の映画撮影が行われた。俺はモブに近い立ち位置で完全に主役(一兎)とヒロイン(志甫)の引き立て役になっていたが、それでも撮影のセットや役の配置、勇樹先輩による妥協の無いストーリーなど学ぶ事や楽しい事も多かった。

だがここでも楽しい事は長続きせず、もしくは邪魔が入るものである。志甫の兄の敵である連続殺人犯が再び動き出し、俺はバイト先である新聞配達を利用して情報収集をしたりもした。志甫は単独で動き、一兎を除いた映画部メンバーで殆ど一兎と志甫のサポートに回った。

そして結果、志甫は兄の敵を討つ事が出来た。だがそれは、一兎にとって悲劇の始まりでもあった。

夏休みが終わり学校が再び始まった。そして、何故か睦美先輩の提案で海に行った。色々とツッコミどころがあったが、睦美先輩が何か抱えている事を感じた俺はそっとしておいた。丁度尾褄副部長が話していた事もあったが、滅多に来れない海だということで一兎と志甫のスイカ割りに混ざったりもしていた。

文化祭が始まり、城戸高校は賑やかになる。映画上映において生徒会が上映許可を出さない事で映画部の頭脳である尾褄と睦美が軽くキレていたが、最終的に意外な所からの援軍で上映許可は降りたから良しとした。

ここで彩香先生が映画上映の為に努力してくれた事は有り難く思った。以前の永山の件があっただけに、俺の中で株が上がった。ただ論争で押されていたが。

 

 

 

 

 

「あ、一兎。……どうしたそんな微妙な顔して」

「いや、新華は志甫のクラスの出し物見に行ったか?」

「うんにゃ。パンフ見て嫌な予感しかしないから後回しにしようかと」

「そっか。なら、あの理不尽は見ずに済むな…」

「理不尽って何でダヨー!」

「…何があった」

「いや、美少女なら何でも許されるのかな…って」

「無視すんニャー!」

「いやマジで何があった…。あ、そうそう。途中で気になって様子見てきたけど、なかなかに盛況だったぞ」

「本当!」

「ああ。意外と人も入ってる。行って見てくるといい。俺はテキトーに時間までぶらついてるから」

 

 

 

 

 

そうやって一兎達と別れて校内をうろつく俺は、金銭的に余裕も無いので冷やかしばかりしていた。途中クラスメイトの女子から一緒に行かないかと誘われたけど、何となく断った。だけど断った直後、衝撃波に襲われ全身が重くなった。そして、頭痛がした。

衝撃波がパラべラム特有の精神波である事を直感した俺は場所を考えずにP・V・Fを展開した。そして目の前の女子の影が襲ってきたのを反射的に精神系通常弾をぶつける事で撃破した。そして尾褄と連絡を取り映画部の上映会場へと行き、一兎達と合流。一兎の影を撃った事への不安を俺は直感で否定した。何故だか知らないが、あの影が本人に直接影響を与える事は無いと気付いていた。俺はこれ以降感覚が鋭くなって相手の先の動きが読めるようになった。

そして一兎の直感による推理で屋上へと向かい、人類の敵『乾燥者(デシケーター)』達の蜘蛛型兵器を破壊することに成功。しかしその直後に一兎の悲劇が起きた。

一兎の当時の彼女が乾燥者に覚醒して襲ってきたのだ。俺達は何がなんだか分からないままに戦闘を行い、一兎のS・Sによる彼女の記憶削除という解決で幕を閉じた。

後で話を聞いたのだが、彼女は体がだんだん砂になっていく治療法の見つかっていない病気に掛かっていたのだという。そしてその症状は乾燥者になれるものであり、他の乾燥者によって目覚めさせられた後に俺達を襲撃、一兎によって乾燥者としての人格と記憶を消去されて、普通の人として生きる事が出来たという。

文化祭も終わり俺達は平穏を取り戻した。一兎と志甫の間に妙な空気(今思えばお互いに意識していたんだと思う)が漂い、睦美先輩には何やら色気のような物を感じた。だがそれ意外に特に変わった事は無かった。少なくとも俺達には。

世界中では次々と大規模な襲撃事件が起こり大量の死者が出ていた。ニュースで報道される度に俺は焦りを感じていた。何か終わりが迫っているような気がして。

だがそんな焦りとは裏腹に皆で志甫の家で勉強会をしたりと充実していた。

 

 

 

 

 

「俺達、将来どうなっているんでしょうか」

「同じ大学に行って、また映画でも作っているさ」

「お、いいっすねそれ」

「でも、その後は?」

「それぞれの仕事について、それぞれの人生を歩む」

「尾褄さんは将来何をやる気なんですか」

 

 

 

 

 

俺達は志甫の家に泊まってした会話。他愛のない会話だったけど、夢を見るのは自由だった。

 

 

 

 

 

「雑誌記者とか編集者とか。知り合いにコネもあるし」

「へぇー」

「知り合いって、あの美人さん?」

「まあ、そうだけど」

「尾褄副部長、どんだけの層からモテてるんすか…」

「結局また尾褄さんのモテ話か…」

「新華も一兎も、いちいちつっかかてくんなよ」

「でもまあ、尾褄さんの雑誌記者ってのはなんか合ってる気がしますね……部長はどうなんですか?」

「僕は……ずっと映画に関わっていたいかも」

「なるほどー。それもいい感じ」

「いっそ夏休みの時みたいに監督とか似合いますよね、勇樹部長って」

「新華君は何か考えてるの?」

「どうでしょうかね………あ、教師とかいいかもって感じはあります」

「教師か…。どうしてだ?」

「俺は両親に恵まれなかったので、苦しんでる子供が居たら助けてやりたいなと。モンスターペアレントに負けないような正しい教師に」

「正しい教師か」

「ええ。永山のような屑は論外ですが、宮田先生みたいに生徒に親身になってくれる存在になれればいいかなと」

「確かに永山と比べたら、あの先生は天使だな」

「そうだね。で、一兎くんは?」

「俺ですか…? …まあ、俺のことはいいじゃないですか……」

「うわ、俺たちだけに話させておいて」

「ずるいなあ、一兎くん」

「う……すんません」

「何もないのかよー。声優とか俳優とかさー」

 

 

 

 

 

こうやって本当に来るかどうか(・・・・・・・・・)分からない未来に思いを馳せていた。

そして今度の騒動は、一兎の目の前で志甫が攫われる事件だった。結果的に助け出すことに成功したものの全員が重症で、一兎は俺の感覚だとパラべラム以上の何かに目覚めた。

神話における『カソウサス』に見立てられた山に作られた決戦兵器『サード・プロメテウス・ファイア』。それを撃ち制御する為に志甫は攫われた。だが俺達によってそれは防がれ、阿部 城介と那須 一子という女性の手で『サード・プロメテウス・ファイア』は破壊されず保存された。

事件が集結し1ヶ月後、全員で映画部の部室に集まった。

 

 

 

 

 

「あの……改めて……みんな……ほんと、ありがとう!」

「気にすんなよ。仲間を助けるのは当たり前だ。でも俺今回はいいトコ無かったな…」

「ま、無事に終わってよかったよ」

「これでもう、灰色領域にまともな戦力は残ってないでしょうし、一安心かも」

「だがまだ、油断は禁物だ。これからも、単独行動はなるべく避けるように」

「もっちろーん! 今回の事で、あたしは用心深さのスキルをみにつけた!」

「どうだかな……」

「もういっその事、一兎とずっと居りゃよくないか? そうすりゃ何かあっても一兎が助けてくれるだろ」

「ふにゃ!?」

 

 

 

 

 

俺はそう言いながらも、様子がおかしい睦美先輩が気になっていた。一兎も同じく気になっていたようだが、結局睦美先輩の問題は、後々睦美先輩が自分でケリを付けた。その身を代償にして。

そしてそれまでの騒動がまるで無かったかのように、平穏に時間は過ぎてクリスマスになる。クリスマス当日は全員+新聞部部長の蔵前 早苗さん、睦美先輩の義理の姪であるかつての永山の娘の里香ちゃんで志甫の家に集まり映画鑑賞会を行った。

皆最初は『ダイ・ハード』シリーズを見て盛り上がった。斯く言う俺も楽しんで見ていた。だが次に見た『ロング・キス・グットナイト』では寝落ちが大量発生した。最初に里香ちゃんが、次に早苗さんが。そしてとうとう睦美先輩、部長コンビ、志甫、そして一兎の順番だった。俺は一兎が寝落ちした時点でテレビとDVDデッキの電源を落とし、以前泊まった時に教えてもらった襖から掛け布団を出して皆に掛けた。電気代も馬鹿にならないし暖房あっても冬は冬。風邪引くし。

そして俺も、もと座っていた場所に寝転がって寝た。前世では体験出来なかった行事を経験して浮かれていたのかもしれない。それまで辛い事もあったけど、皆が揃って笑顔になれる事に幸せを感じていたから。

そして

 

 

 

 

 

『なんだこれ、なんだこれなんだこれ!?』

『あ、足がああああああ!?』

『死にたくない死にたくない死にたくない死にた---』

『おい、返事をしろよ---』

『あんな所に人が飛ん---』

『おい、お前ら----』

『お母さん? 足はどうしたの? 何で足があっちにあるの?』

『嫌だ! なんで俺が死ななきゃならない!?』

『どこだ! どこに行ったんだ、俺の家族はぁ!?』

『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』

「うあああああ、あ、ぁあああああ!」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

 

 

 

沢山の声が、感情が突如流れ込んできた。それが戦争開始の切っ掛けに過ぎないとは直ぐに気づく事が出来なかった。それどころか止めど無く流れる涙を止められなかった。

一兎達が外の様子を見たりテレビをつけて状況を確認。それを聞いて俺は、平和だった日常が終わりを告げた事を知った。

 

 

 

 

 

----

------------

---------------------------

 

 

 

 

 

「せ、戦争って、新華の言っていた戦争って…」

「これの事だったのね…。それにしても、今度のビジョンには、情報が多すぎる…」

「い、一体、今度は何を」

 

 

 

 

 

そして今度は、P・V・F『ストーリーズ・イレギュラー』を展開し防弾チョッキを制服の上から着た新華が走り去って行く。

 

 

 

 

 

----

---------

----------------------

 

 

 

 

 

 




書いててアレですが、途中から原作をパラべラムだと思って書いてました。回想がここまで長くなるなんて…!
以前感想で短縮してほしいと意見を頂いたTRANS-AMさん、申し訳ございません…! 昔からガノタは纏めるのが苦手だということを忘れておりました…!

多分次回パラべラム後編、次々回男性操縦者編をやって、その次に新華の所にたどり着くと思います。なるべく急いでうpします!

ちなみに新華がNTになった瞬間は、書きましたが心的爆撃を受けた時です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。