IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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106話。
サブタイトルはワールドパージの日本語訳です。ネタが尽きた…。
そして今回、かなり長いです。


ワールドパージ編
世界解除


 

---side 一夏&簪

 

 

 

 

 

2人は電車とバスを乗り継いで計2時間以上の山中にある『倉持技研』に着いた。簪は以前も打鉄弐式関係で来た事があったのでスムーズに来る事が出来た。

 

 

 

 

 

「こんな山奥にあったんだな…」

「うん…」

「…で、これどうやって入るんだ? 見たところ取っ手が無いけど」

 

 

 

 

 

ゲートの前で戸惑う一夏が簪に尋ねる。チャイムどころかカメラすら無いので、一夏にはどうするか検討もつかなかった。

 

 

 

 

 

「あ、もしかして新華のソレスタルビーイングみたいにプレートの裏に…のわあっ!?」サワサワッ

「!?」ビクゥッ

「な、なななな…!?」

「んーふふ、やっぱり未成年のお尻はいいねぇ」

 

 

 

 

 

突然一夏が尻を揉まれ(誰得)、簪も揃って驚き飛び退く。そこに居たのは

 

 

 

 

 

「か、篝火(かがりび)所長さん…」

「え、この人が?」

「お? そっちは更識の嬢ちゃんじゃん。どれ」がばっ

「っ!」ばっ

「おや、前に会った時より反射が鋭くなってるねぇ。以前とどれだけ胸が成長したか確かめてやろうと思ったのに」

 

 

 

 

 

明らかに『夏だ!』といった格好でびしょ濡れの、右手に(もり)を、左手に野生のと思われる魚を3匹持った女性だった。一夏の次に簪にターゲットを据え飛びかかろうとしたが、新華によって鍛えられた反射で飛び退き難を逃れた。

そこで突然背後の扉が開き研究員が出てくる。

 

 

 

 

 

「所長! なにしてんですか!? あ、織斑 一夏君に更識君だね!?」

「あ、は、はい」

「はい…」

「そうかそうか! いや済まないね、所長が迎えに行くという事になっていたんだが、嫌な予感を察知して来てよかった! ほら、この人見た通り変態だから」

「おっさんは黙ってろ」ヒュン

「ぬぉぁ!? 何すんですか所長!? 危ないじゃないですか!」

「へいへい美少年、私の部屋でイイコトし~よーう、ぜ!」

「無視すんな変態所長!」

 

 

 

 

 

研究員は壁に刺さらず落ちた銛をため息を吐きながら拾う。

 

 

 

 

 

「…相変わらず、お疲れ様です…」

「ああ、ありがとう更識君。もう所長に振り回されるのは今更だけど、やっぱり天才っていうのは皆、どこかズレているのかなぁ…」

「………」

 

 

 

 

 

研究員の疲れた言葉に簪は新華を思い浮かべる。新華は確かに(この世界視点で)天才の部類に入るが、基本人間としてのブレはあまり無かったように思われる。

 

 

 

 

 

「あ、ごめんごめん。ここに居てもしょうがないね。中に入って待っててよ。織斑 一夏君の機体と一緒にメンテナンスするから」

「わかりました…」

「にしても更識君も、ちょっと変わったかい?」

「…?」

「以前よりも覇気があると言うか、無理せず自然体でいる感じがするよ。以前はどこか危うい感じがしていたからね」

「………」

「これも彼…蒼天使の青木 新華君が影響しているのかな?」

「…はい」

「そうか。いや、いい事だ。さて、あの変態所長をどうにかするのと織斑 一夏君を助けないとね」

 

 

 

 

 

そうして研究員は一夏から篝火を引き剥がし、一夏と簪を建物内に入れた。

 

 

 

 

 

「だぁー! 所長! 体拭いてから入ってきてくださいよ!」

「ぬはは、気にするな」

「後で掃除しないといけないでしょうが!」

「それもそうか。んじゃ乾くまでここに居る」

「どんだけ時間を無駄にする気ですか!」

「ぬはは!」

「ええと、それじゃあ、あの……また後で」

「ういうい、また後でナー」

「その、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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一夏達が研究所に入った頃、新華はサヤカと共に授業の合間を縫って人の居ない屋上の扉前に座って『no name』を展開していた。

 

 

 

 

 

「…ヤバイな。まさかエゴ・アームズが展開不能だとは」

「恐らく記憶喪失のせいでしょう。それ以前に『ストーリーズ・イレギュラー』は傷だらけだったので展開しない方がよろしいかと」

「マジかよ。しゃーない、しばらく『no name』だけで我慢するか。火力は落ちるけどトラウマ・シェルを駆使すればどうにか出来るべ」

「それに私が居りますので。対IS戦での危険性も下がるかと」

「そうか」

 

 

 

 

 

新華は起きた後P・V・Fエゴ・アームズ『ストーリーズ・イレギュラー』が展開出来ないことに気付いた。しかし逆にイド・アームズ『no name』のトラウマ・シェルは強化されていた。

 

 

 

 

 

「この状態で記憶が戻ったら、どうなるのか…。かなりヤバイ事は分かるけど、対処の仕方も分かんねぇし…」

「………」

向こう(パラベラム世界)のカウンセラーでも居ればどうにかなったのかもしれないが…いや、無いものねだりはよそう。今はこの嫌な感覚に警戒する事だな」

「…はい」

 

 

 

 

 

階段から立ち上がりP・V・Fを解除する。サヤカと共に階段を降りていき、途中で探していたのであろうシャルロットと出くわした。

 

 

 

 

 

「あ、新華! どこに行っていたのさ。次は2組との合同授業だよ?」

「ちょっとな。直ぐに行く。他の娘達はもう行ったのか?」

「うん。まだ行ってないのは僕らだけだよ」

「なら急ぐか。探してくれていたみたいだが」

「うん。いつの間にか居なくなるからビックリしちゃったよ。それで、次の合同授業の場所分かる?」

「………」

「…覚えてない?」

「私が記録していたので問題ありません」

「…な?」

「なじゃないよ、もう。ほら、行くよ!」

「お、おう」

 

 

 

 

 

シャルロットは新華の手を引き走り出す。新華はちょっと前のめりになったが直ぐに姿勢を戻し走る。更にその後ろをサヤカが走った。

 

 

 

 

 

「いででででで。デュ、デュノア君ちょっと待って。昨日の無茶な機動が祟って筋肉痛なんだ…」

「あ、ごめん。でも急がないと…」

「わかった、わかったから。でももうちょっとスピードを落としてくれ」

 

 

 

 

 

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合同授業が終わった後、授業で使った資料を山田先生と共に運んでいた。といっても、資料は新華とサヤカが殆ど持っているのだが。

 

 

 

 

 

「すみませんねお2人共。わざわざ持ってもらって」

「いえ、結構な量がありますからね。このくらいは手伝いますよ」

「筋肉痛は大丈夫ですか?」

「このくらいだったらな」

 

 

 

 

 

彩香先生と過ごしていた時はこういった手伝いをする事が多かったので、自然と体が動いていた。

シャルロットも付いてこようとしたのだが『サヤカちゃんが居るから』と言って置いてきた。

 

 

 

 

 

「こういった地味な作業には慣れてますし、こういう力仕事に分類されるものは力のある男の出番でしょう?」

「慣れ?」

「…ご主人様」

「あ、すいません。今の、忘れてください」

「は、はぁ」

 

 

 

 

 

新華がうっかり口を滑らせサヤカに釘を刺される。内心少し慌てた新華だが、山田先生は特に気にした様子は無かった。

そうして資料室に着き持っていた資料を仕舞う。

 

 

 

 

 

「これで、終わりですか?」

「はい。本当にありがとうございました」

「いえ、それほどでも」

 

 

 

 

 

ないですよと言おうとした時、バンッという音と立てて部屋の明かりが消えた。

 

 

 

 

 

「「!?」」

「こ、これはっ!?」

「ブレーカー…? サヤカちゃん」

「どうやら、ご主人様の嫌な予感が当たったようです」

「え…?」

 

 

 

 

 

昼間際だったので日光により真っ暗にはならなかったが、直ぐに窓が防護シャッターによって閉じられ完全な暗闇になった。

 

 

 

 

 

「こ、これって、防護シャッター!?」

「チッ、山田先生、大丈夫ですか?」

「は、はい」

「ご主人様、山田先生。こちらに」

 

 

 

 

 

サヤカが機能停止しているハロOを取り出してライトを付ける。壊れているのは大まかな自立機能と収納機能だけなので道具として使う分には問題無かった。

 

 

 

 

 

「ありがとう。山田先生もこちらへ」

「あ、ありがとうございます」

「しかし、一体何が起きた? 非常用電源も作動していないようだし、非常灯も付かない。いや、そもそもどうして今防護シャッターが降りた? まるで誰も校舎の外に出したくない、もしくは入れたくないような…」

「…ご主人様、通信です」

「ん、繋いで」

 

 

 

 

 

サヤカは新華の目の前にハロを出しディスプレイを映し出す。しかし映像は『SOUND ONLY』と映されシャルロットの声だけが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

『新華、大丈夫!?』

「デュノア君か。こっちは大丈夫だ。そっちも大丈夫か? 何があった?」

『こっちも皆無事だよ。それが僕らにも分からなくて』

「そうか」

 

 

 

 

 

新華とシャルロットが情報交換していると、通信に千冬の声が割り込んだ。

 

 

 

 

 

『専用機持ち達は全員地下のオペレーションルームに集合。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

『これって…』

「…どうやら急いだ方が良さそうだ。山田先生」

「はい?」

「俺は指示通り地下に向かいます。先生は…」

「私もオペレーションルームに行くよう指示が来ました。一緒に行きましょう」

「わかりました。じゃ、デュノア君、また後で」

『うん。また』

 

 

 

 

 

シャルロットとの通信が切れディスプレイを閉じる。資料室から出てハロを収納する。

 

 

 

 

 

「サヤカちゃん、今の俺は筋肉痛だから早く行く為に展開して行くよ」

「わかりました」

「山田先生、捕まってください」

「はい」

 

 

 

 

 

新華の意思の元、『Evolveクアンタ』が展開され山田先生を抱えて校舎内を飛ぶ。

 

 

 

 

 

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IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。新華は専用機持ち達と合流し千冬によるミーティングを聞く体勢になっていた。

 

 

 

 

 

「では状況を説明する」

 

 

 

 

 

しかし新華以外の専用機持ち達はIS学園にこんな空間があった事に驚き集中出来ていなかった。

 

 

 

 

 

「しかし、こんなエリアがあったなんてね…」

「ええ、いささか驚きましたわ」

「記憶喪失になる前のご主人様は、ここの存在を知ってましたけど」

「「「「「えっ」」」」」

「静かにしろ! 凰、オルコット、サヤカ! 状況説明の途中だぞ!」

「は、はいぃ!」

「も、申し訳ありません!」

「すみません。以後黙ってます」

「全く…」

 

 

 

 

 

千冬の怒号で3人(?)が黙り、山田先生が苦笑する。表示情報を拡大して全員に伝えていく。

 

 

 

 

 

「現在、IS学園では全てのシステムがダウンしています。これは何らかの電子的攻撃…つまりハッキングを受けているものだと断定します。今の所、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められる事はあっても、命に別状があるような事はありません。それに全ての防壁を下ろした訳ではなく、どうやらそれぞれ一部分のみの動作のようです」

 

 

 

 

 

だからトイレにも行けますよと山田先生は雰囲気を和らげる意図で言ったが、誰も笑わなかった。

 

 

 

 

 

「え、ええと、現状について質問はありますか?」

「はい」

「はい、ボーデヴィッヒさん」

「IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなど有り得るのでしょうか?」

「そ、それは…」

「例え独立したシステムとはいえ人の手によって作られた機械だ。同じく人の手によってハッキングされることも有り得なくはない。物事に絶対など無いのだからな。現在重要なのは、今なんらかの攻撃を受けているという事実だ」

「敵の目的は?」

「それが分かれば苦労はしない」

「…わかりました」

 

 

 

 

 

ラウラが質問を終える。今度は新華が質問をする。

 

 

 

 

 

「はい」

「はい青木君」

「我々は今現在この地下に居ますが、他の一般生徒や生徒会長君は今どうしているのですか? 避難しようにも防護シャッターがある限りトイレに行けたとしても出られないでしょう?」

「一般生徒は今、生徒会の誘導で1箇所に集まって大人しくしている。混乱も起きているが現段階では抑えられている。生徒会長の更識は誘導と混乱を抑える為に尽力している」

「成程。では、この後に予想される襲撃についてはどう対処をするのですか? この事態を引き起こした勢力、もしくは漁夫の利を狙った勢力が来ると思われますが」

 

 

 

 

 

新華の質問に専用機持ち達は息を呑む。しかし千冬は冷静に答える。

 

 

 

 

 

「無論、我々が出向く。お前の嫌な予感とやらで臨戦体勢は整っているのでな。これ以上好き勝手させん」

「私と織斑先生は作戦説明後、襲撃に対応すべく移動します。その為に一般生徒を1箇所に集めて守りやすいようにしてもらっているんです」

「成程。わかりました」

「…質問は以上ですか?」

 

 

 

 

 

新華も質問を終え、専用機持ち達も静かになる。

 

 

 

 

 

「それでは、これから青木君、篠ノ之さん、凰さん、オルコットさん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコアネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます」

「「「「「「…………」」」」」」

「…? あれ? どうしたんですか皆さん」

「「「「「「で、電脳ダイブ!?」」」」」」

「はい。理論上可能なのは分かっていますよね? ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての侵入が出来る…あれは、理論上ではないです。実際の所、アラスカ条約で規制されていますが現時点では特例に該当するケース4であるため、許可されます」

「そ、そういうことを聞いているんじゃなくて!」

「そうですわ! 電脳ダイブというのは、もしかして、あの…」

「個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、電脳世界へと進入させる…」

「それ自体に危険性は無い。しかし、まずメリットが無い。どんなコンピューターであれ、ISの電脳ダイブを行うよりもソフトかハード、あるいは両方を弄った方が早い」

 

 

 

 

 

各専用機持ち達が各々戸惑う。そこに新華が1つの懸念を出す。

 

 

 

 

 

「電脳ダイブ中は全員無防備になります。その場合何かあれば命の危険になりますが」

「そうです。それに1箇所に専用機持ち全員を集めるというのは、やはり危険なのでは?」

 

 

 

 

 

それらの意見を聞き、千冬はすっぱりと言い切る。

 

 

 

 

 

「駄目だ。この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。異論は認められない」

「それ以前に、せめてバックアップ要員を残してはくれませんか?」

「無理だ。今は人出が足りん。何かあった時に使えるISも迎撃に回すせいで残っていないのだ。加えて、バックアップに最適な更識 簪は織斑と共に片道2時間掛かる倉持技研に行っている。生徒会長の更識も一般生徒を纏めるので手古摺っている。本来なら青木、お前に任せたいのだが…」

「俺ですか」

「ああ。だが今のお前は記憶を失っている。バックアップを任せるよりダイブ組みに回した方が的確だ。それにすぐ生徒会書記の布仏を来させるつもりだ」

「…そうですか」

「不安なのは分かる。だがこれも上からの命令(・・・・・・)なのでな。嫌なら辞退しろ」

「上からの命令…?」

 

 

 

 

 

新華が千冬の言葉に不信感を募らせる。しかし今疑っても事態は好転しないと、一旦頭から不信感を消した。

千冬の迫力に専用機持ち達は気圧される。

 

 

 

 

 

「い、いや、別にいやとは…」

「ただ、ちょっと驚いただけで…」

「で、出来るよね、ラウラ?」

「あ、ああ。そうだな」

「や、やるからには成功させてみましょう」

「ま、出来るだけやりますよ。サヤカちゃん、よろしくな」

「はい」

 

 

 

 

 

それぞれの同意を得たところで、千冬はパンッと手を叩いた。

 

 

 

 

 

「よし! それでは電脳ダイブを始める為、各員はアクセスルームへ移動! 作戦を開始するぞ!」

 

 

 

 

 

千冬の号令で全員がオペレーションルームを出る。千冬はすぐさま通信を入れ楯無と連絡を取る。

 

 

 

 

 

「更識、聞こえるか」

『はい、織斑先生』

「今各専用機持ち達を向かわせた。出来るだけ早く布仏をバックアップに向かわせろ。それと、お前には別の任務を与える」

『なんなりと』

「青木も言っていたが、敵と言える勢力が来るだろう。悪いが、お前も我々同様防衛にあたってもらう」

『任されましょう。ですが今の新華君では不安が残ります。安全が確保され次第私も向かいます』

「そうしてくれ。では、そちらは任せた」

 

 

 

 

 

通信を切った千冬は、顔を歪ませて重く呟く。

 

 

 

 

 

「…私達は、情けないな。死に掛けた新華に、また戦わせる事になるとは…」

「織斑先生…」

 

 

 

 

 

千冬は新華の不安も不信感も重々承知していた。しかし千冬とて人間、それも世界最強とはいえ教師というある意味中間管理職なのだ。上からの命令には従うしかない。

出来れば教師だけで何とかしたかったのだが、敵と自分達が持つ戦力を考えると四の五の言っていられる状況ではないのだ。ただでさえ少ないISを防衛に使い、それでも心許ない戦力なのだ。使えるものは使わないと専用機持ちどころか、一般生徒ですら守れない。

 

 

 

 

 

「…さぁ、ぼんやりとしている暇は無いぞ。我々には我々の仕事がある」

「はい!」

 

 

 

 

 

気持ちを引き締め、千冬も山田先生も、防衛の為の準備へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

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新華含める専用機持ち一行は教えられた通りにアクセスルームへとたどり着いた。中に入ると白一色で、左右で5対、計10台のベットチェアがあった。部屋同様のそれらは、まるでヘアサロンのようにも見えた。

 

 

 

 

 

「ここが…?」

「そうだな。まるで映画の世界だな」

「(俺からすればISやIS学園は軽くSFなんだがな…P・V・Fも変わらんか)」

「このような設備、初めて見ましたわ。鈴さんは?」

「んー、中国にも無かったわね、こんな設備。ていうかさぁ、ここの地下特別区画って一体何なの? どう考えても変でしょ」

「確かにね。ちょっと普通じゃないよ。さっきのオペレーションルームなんて、物凄い耐久構造になっていたし」

「え、何、シャルロット。あんたISでスキャンしたの?」

「うん。ちょっとだけね」

「ドイツにもこれに類似する装置は無かったな。一体、この学園は何だ? 本当にただの高校か?」

「おいおい君ら、IS学園がただの高校だと思っていたのか?」

「何…?」

 

 

 

 

 

新華に視線が集中する。新華は記憶を失う前にした事のある呆れ顔で専用機持ち達を見ていた。まるで出来の悪い子供を困った目で見るように。

 

 

 

 

 

「ISなんて兵器が当たり前のように競技として扱われ、なおかつその操縦者を育成する為の学園。本当なら兵器として扱い軍で育成校を作るべきなんだ。なのにそれをせず『学園』として扱われている。これがどれだけおかしいか自覚した事、ある?」

「それは…」

「まぁ君らがどう思っているかなんてどうでもいいんだ。そもそもこの学園はIS操縦者育成校でありながら工業高校としての面も持っている。さらにそこらへんの大学工学部顔負けの技術力だぜ? この時点で既に『普通』なんて言葉が出る時点でおかしいのさ」

「………」

「それに、最新の技術を持っているのにその場で研究しないなんて事をただでさえ我欲に弱い人類が出来ると思ってるの? 好奇心は猫をも殺す。でも殺されるって分かってても辞められないのが人間。今まで歴史上で『もう繰り返してはいけない』と言って何度同じ事を繰り返したと思ってんの? そして、この学園がどれだけ人間のエゴに塗れていると思う?」

「ご主人様…」

「まぁ何が言いたいかと言うと、どんな組織でも腐敗は起きるし秘密の1つや2つは出来るって事さ。さて、この後どうするんだか…」

 

 

 

 

 

新華が言いたい事を言った後に、アクセスルームの扉が開き1人の女子が入ってきた。

 

 

 

 

 

「皆さん、お待たせしました」

「あ、布仏書記君。早かったね」

「急ぎましたから。それとこの電脳ダイブシステムについての情報も織斑先生から頂きました。直ぐに始めましょう」

「ああ。よろしく」

「はい。ではまず、それぞれベットチェアに座って体を楽にさせてください。私はあのデスクでバックアップをしますので」

「りょーかい」

 

 

 

 

 

虚の指示で全員がベットチェアに体を預ける。

 

 

 

 

 

「次にISをベットチェアに接続、ネットワーク接続の為にソフトウェア優先処理モードへ変更してください」

「サヤカちゃん、よろしく」

「……」

「…サヤカちゃん?」

「…私の場合はこのままで行けます。何があってもいいように」

「…そっか。そうだな、うん。出来るなら、頼んだ」

「はい」

「あ」

 

 

 

 

 

新華とサヤカが嫌な予感を全開に感じて普通じゃ考えられない事をやってのけようとしていた。そもそもサヤカはISのコアネットワークに入っていないのでヴェーダの福音からコアネットワークの旧アカウントを拝借して使う予定だった。

そこでシャルロットが先程からの重い空気を払おうとしてか、声を上げる。

 

 

 

 

 

「なんかさ、前に読んでた…SAOだっけ? ゲームの世界に入るっていうのがあったけど、そんな感じになるのかな?」

「中は仮想現実の世界になっていますが、デス・ゲームとは違うので安心を。では、こちらでバックアップをしますので皆さんは、システム中枢の再起動に向かってください。ナビゲートします」

「「「「「「了解」」」」」」

 

 

 

 

 

虚がサラッと流し電脳ダイブの準備を完了させる。

全員が返事したのを確認して、虚はシステムとの接続を行う。

 

 

 

 

 

「行きます!」

 

 

 

 

 

接続。瞬間、6人の意識は落ちるような、吸い込まれるような不思議な感覚に包まれた。

 

 

 

 

 

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---電脳世界

 

 

 

 

 

最初に気が付いたのは電脳世界(ヴェーダ内部)や精神攻撃に耐性があった新華だった。

 

 

 

 

 

「…着いたか」

「ん、ここは…?」

 

 

 

 

 

セシリアを筆頭に次々と皆起きる。見渡すと一面の草原。初夏の日差しが降り注ぐ、どこか心地よい世界だった。

しかしその世界を堪能する前に、草原に鈴の叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ギャー! な、なによこれぇ!?」

「おう、どうしたどうした」

 

 

 

 

 

新華がそちらを向くと、新華以外が全員青いドレスに白のエプロンを付けた、所謂『不思議の国のアリス』の格好になっていた。

 

 

 

 

 

「こ、これ…」

「新華以外の全員が…」

「同じ格好…? って新華、その格好…」

「ん? あ、これは…」

 

 

 

 

 

新華の格好は制服だった。その制服はIS学園のものではなく、どこかの一般高校のものにしか見えなかった。少なくとも箒達には。だが新華にとってその制服は自分が前世を生きた事の証であり大事なものであった。

しかし右腕はP・V・F『no name』を展開しており、さらに新華の周りには6角形の壁が張られていた。

 

 

 

 

 

「…無意識に障壁を張ったのか。だが、この制服は…」

「これは、一体…?」

『それがご主人様の今の心の服です』

「この声、サヤカ!?」

『えっと、布仏です。そちらの状況は?』

 

 

 

 

 

空中にウィンドウが2枚現れ、そこからそれぞれサヤカと虚の顔が出てきた。虚の背景がアクセスルームの白であるのに対して、サヤカの背景は蒼く、多くのディスプレイが浮いているのが見えた。

 

 

 

 

 

「え、えっと…その前に、どうしてサヤカが通信を入れられているのかと、この絵本みたいな世界、僕らの格好の事なんだけど…」

『まず私から。私はご主人様のISなので』

「「「「「「………」」」」」」

『…』

「「「「「「え、それだけ?」」」」」」

『? これ以上何を言えと? ISのコアネットワークを使っているのですから、私が話せてもおかしくないでしょう』

「そ、そうなのか…?」

「…それは置いておこうか。で、新華の今の心の服って?」

『そのままの意味です。ご主人様なら私の言っている意味、分かりますよね?』

「……そう、だな。やれやれ…」

「…新華?」

「俺って思ったより女々しいのな」

『そんな事はありませんよ。むしろ人間としては普通です』

「なら、いいんだけどな…。で、布仏書記君。彼女達の服とこの世界はどうなっているんだ?」

 

 

 

 

 

専用機持ち達全員の視線を無視して新華は虚に問いを投げる。

 

 

 

 

 

『少々お待ちを…………、………わかりました。現在、この電脳世界はハッキングを受けています。その為、皆さんには与えられた役を演じてもらう必要があるようですね』

「役ぅ!?」

 

 

 

 

 

全員を代表するように鈴が大声を上げた。

 

 

 

 

 

「え、何それ。まさかアリスやれっての?」

『わかりません。この空間はどうやら酷く不安定のようでして』

「…俺は?」

『ご主人様は無意識にトラウマシェルを張っていたので、役などはありませんね』

「…マジで何をすりゃいいんだ?」

「ま、まぁまぁ。えーっと、アリスって言うと…」

 

 

 

 

 

シャルロットはorzになった新華を宥めながらラウラを見る。

 

 

 

 

 

「なんだ?」

「いや、やっぱり兎さんかなーと」

「ふん、白兎などという軟弱な存在と一緒にされては困るな」

「(俺の知る兎は人類最強の救世主なんだが…)」

「私は誇り高き黒兎…」

「ああぁっ!」

「次から次へと、何なんだ…」

 

 

 

 

 

ラウラの言葉を遮るようにセシリアが声を上げ、処理能力が限界に近付いてた箒が疲れたように呟く。叫びを上げたセシリアの視線の先には…

 

 

 

 

 

「参ったなぁ。急がないと」

「い、居ましたわ!」

『捕まえてください!』

「!」

「うっわぁ! 危ないなぁ! でも先を急ぐから、バイバイ!」

 

 

 

 

 

虚の声に反応した新華が反射的に『no name』で精神系通常弾を、懐中時計を持ち紳士服を着込んだ兎に向けて打ち込んだ。しかし電脳世界故の誤差か兎には当たらずに逃げられてしまう。

 

 

 

 

 

「し、新華…いくらなんでも発砲は…」

「…追うぞ!」

「あ、待ちなさい新華! ああもう、スカート! 走りにくい!」

「鈴、そういう時はこうして両端を持って…」

「先に行くぞ!」

「いけない、森に入りますわ!」

「逃がすかよぉ…!」

 

 

 

 

 

P・V・Fによるアホらしい跳躍をする新華を筆頭に専用機持ち達は兎を追っていく。

葉っぱの天井に覆われた道を抜けると、広い空の見える空間に出た。

 

 

 

 

 

「これは…」

「あれ、なにこれ」

 

 

 

 

 

そこにはドアが6つ、佇んでいた。

 

 

 

 

 

「入れって事?」

『恐らくは。ここから先は通信が切れる事が予想されるので、各々の判断でシステムの中枢に向かってください』

「「「「「「了解」」」」」」

 

 

 

 

 

こくんと頷き合って6人はそれぞれドアを開けくぐる。しかしそこで新華が声を上げた。

 

 

 

 

 

「! 駄目だ、皆、入るな!」

「「「「「!?」」」」」

『青木君!?』

「くっそ、お、落ちる…!」

『ご主人様!』

 

 

 

 

 

そして、他の5人とは違い新華のくぐろうとしたドアだけが黒く染まった。そして新華はドアの中の闇へと落ちていく。サヤカが何とかしようとしたが、どうにもならなかった。

 

 

 

 

 

「っあ! こ、これは!?」

 

 

 

 

 

闇の中を堕ちる新華。そして、新華の頭の中に大量のビジョンが流れ込んできた。

 

 

 

 

 

「!? な、なんだ! 俺の中に、入ってくるなぁああああああ!」

 

 

 

 

 

そのビジョンは新華自身の記憶。失っていた分の記憶だった。

 

 

 

 

 

「こ、これは…そうか、俺は…」

 

 

 

 

 

強引にも新華は記憶をあっさり取り戻した。だが同時に苦しさも取り戻してしまった。

 

 

 

 

 

「…っくぁ! い、一夏(・・)簪さん(・・・)…!」

 

 

 

 

 

今まで通りに一夏と簪の名を叫ぶ。そして新華は

 

 

 

 

 

「俺を見捨ててでも、皆を、助け出せぇ…!」

 

 

 

 

 

闇と記憶に溺れ、トラウマシェルが消え去る。そして新華は闇の中に姿を消し、同時に新華がくぐったドアも消滅した。

 

 

 

 

 




最後に記憶を取り戻しました。でも、なんか本当にロスカラのライみたいな…いや、違うか。死ねるだけライよりマシか。
さて、過去バレまでさっさと行きたいので駆け足ですよー。
あ、そうそう。マーキュリーレヴ手に入れました。これクアンタに付けてもフルセイバーがあるので別のプラモに回そうかと思ってます。つまりこの作品にマーキュリーレヴは出ません。というかビギニングとBF出るかなぁ…?

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