IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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なんか、長っ!


中学1年(裏)---つきまとう狂気、回想

 

 

---某国、とある研究所

 

ビーッビーッビーッビーッビーッビーッビーッビーッビーッビーッ

 

 

 

『緊急事態発生、緊急事態発生、侵入者あり、直ちに迎撃せよ。繰り返す、直ちに迎撃せよ』

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、じょ、冗談じゃない、あんなのマトモに迎え打てるか!」

 

 

 

1人の男性研究員が無機質な長い廊下を走る。聞こえてくる警報を無視して。

彼が所属しているこの研究所は、国からの援助を受けて運営されている所謂裏側の研究所だった。ISという兵器を自分たちの物にしたい国が、研究員を集め孤児を集め非合法な実験を繰り返していた。このような施設は世界各国に当たり前の様に幾つか存在していた。

当然、そんな事をする人間にまともなのは居るはずが無い。

 

 

 

「クソっ、クソっ、クソっ、クソっ! せめて実験のデータだけは!」

 

 

 

彼は走る。そしてとある部屋のロックをIDを使い解除。その部屋には幾つもの機械が乱雑しており、中心には実験に使われていたと思われる異形のISがあった。そのISは全体が灰色で塗装され、腕部や脚部がISにしては細くスマートで何より片腕が巨大な銃器となっていた。このISを見れば誰もがある機体を思い描くだろう。そう『蒼天使』である。

『白騎士・蒼天使事件』の調査結果から『蒼天使』は『白騎士』とはまた別の高度な技術を使ってる事が予測された。何故なら、当時まだ開発されたばかりのISにも関わらず、一次移行(ファーストシフト)を行い、第1世代機では有り得ない武器の収納、果ては未だに実用化されていない全身装甲(フルスキン)での滑らかなモーションを実現していたからだ。

更に機体から特殊な粒子を発し非常に強力なジャマーを行う事まで出来ていたと考えられている。

この研究所では『蒼天使』がミサイル迎撃の際に使用していた巨大な銃の研究、再現、全身装甲(フルスキン)の実験を行なっていた。それと同時に、ISの男性パイロットを作る研究も並行して行なっており、孤児への投薬や実験を繰り返していた。

 

 

 

「ここで死ぬ訳にはいかないのだ、私の研究が成功すれば私の名が世界に轟く。成果を見れば国も、奴らもっ…!?」

 

 

 

部屋に大きな衝撃が走る。扉が吹き飛び1機のISが姿を表す。その機体は右肩に大剣を、左肩にシールドを、全身が装甲に覆われ蒼、白、黄、赤、緑の5色で彩られ、肩のシールドと背中から特徴的な緑色の粒子を放っていた。

 

 

 

「!? そ、『蒼天使』だと!? 馬鹿な、なぜこんなところに…!?」

 

 

 

『蒼天使』---OOクアンタ・フルセイバーに乗った新華は、篠ノ之 束と協力し、非合法なIS施設や人体実験を繰り返す施設を破壊していた。OOクアンタのGN粒子は隠密行動に役立ち、顔を含めた全身装甲の御陰で正体がバレる心配が無い故に心置きなく実行をしていた。

 

 

 

「………………………」(やっぱりこういうことをする奴は出るか)

 

 

 

新華は前世で灰色領域(クレイゾーン)の行なった人体実験や、『スキゾイド・ドーベルマン』の様な狂った研究、成果を直に見ており、ISの登場、自身のP・V・Fで同じ様な事が起こると確信していた。そこでISの開発と逃亡以外暇を持て余してる束に各国のコンピュータにハッキング、調査をさせ破壊を繰り返していた。

 

 

 

「………」

「な、何を」

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

「あ、あぁぁぁ、ぁあああああアアアアアアアアア!」

 

 

 

戸惑う研究員を無視してP・V・Fを起動、一瞬で対構造物徹甲弾をセットし実験用ISのコア以外を徹底的に破壊する。研究員が絶望の叫びを上げるが無視する。

 

 

 

『しんくん、そこの施設にあった全データの削除終わったよー、褒めて褒めてー!』

「な、何っ!?」

 

 

 

OOクアンタに束からの通信が入る。それを聞いた研究員が慌てて近くにあった機械のディスプレイ画面を起動させ確認する。

 

 

 

「は、はははは、なんという事だ、私の研究が、私の、私の」

「てめぇは人の命をなんだと思ってやがる」

「!?!! お、男の声…だと!? ッヒィィィィ!」

 

 

 

新華が殺気をまき散らしながら研究員に問いかける。装甲の下にある新華の顔は学校では見せた事の無い無表情があった。研究員は新華の殺気に飲まれヘタリ込んでしまい動けなくなっていた。新華はゆっくりとP・V・Fを展開したまま、対構造物徹甲弾をパージし新たに精神系通常弾を装填し、研究員に近づいていく。

 

 

 

「『私の研究』だと? その研究とやらのせいで何人の子供たちが苦しみの中で死んだと思っているんだ。明日を欲して、苦しみの無い明日を願って、そしてそんな明日を諦めた(・・・・・・・・・)、諦めてしまった子供たちを。」

「ヒイィぁ、ぁぁアア、アアアアアアアア」

 

 

 

研究員は新華の殺気で上手く言葉を発せなかった。しかし辛うじて言葉を、自分のやってきたことの意義を言うことが出来た。

 

 

 

「アアア、わ、私の行なった事は、今この世界に生きる、我々男の、魂の開放の為だ………」

「魂の開放だぁ?」

「そうだ、今の世の中は狂っている! これまで人類が進化し危険に主に立ち向かっていたのは我々男だ! 力を、頭を使い先頭に立ってきたのは女では無い! だが今の世界はどうだ!? ISが凄まじい兵器だと言うことは認めよう。それを作ったのも女だと。しかしそれらを扱う女共はなんだ! まるで自分たちが頂点に君臨したかのような振る舞い、態度! 挙句それを助長するかのような

男たちの情け無さ! 女共はISと自分たちに溺れ男達は魂を押し込められている!」

「………」

 

 

 

研究員は自分の言葉に酔っているのか、目に前の新華に対して演説を始めた。

 

 

 

「私の研究は、男達のそんな魂を開放するために必要なのだ! ISに女性しか乗れないと言うだけで我々の居場所を奪った国や女共に我々男の力を知らしめるのだ!」

「で?」

「は?」

「いや、だから? 男の強さは自分に酔っている女以外の奴は殆ど知ってるし。燻っているやつもちらほら見かけるぞ? それにそんな女共に政治を任せないで混乱を防いでる国のトップは未だに殆どが男だぞ? それにこのまま女共が調子に乗っていても女共は最終的にはツケを払う事になってるしな」

「な、なんだと?」

 

 

 

研究員の演説をぶった切る新華。呆然とする研究員。

 

 

 

「今の政治家は確かに流されているように見えるが、実際はそれでボロを出す愚かな女共を狩っているぞ? 理不尽な事で裁判をやったとある女はその裁判に勝利した後、自分がやった行為が世間に広がった挙句その裁判を根回ししていた女関係者全員投獄されたし、営業関連の仕事のとある女は相手が男だという理由で不遜な態度をとってクビにされた挙句逆恨みして結局現行犯逮捕。これ以外にも沢山あるぞ? それに目の前に男の操縦者が居るから結局無意味だし、何より子供たちの命に関する答えを聞いていないが?」

 

 

 

今新華が言ったことはテレビでニュースを見ていればある程度誰でも知っていることである。狂って自分の事しか頭にないこのような研究者は大抵が、このような事を知らない。

 

 

 

「し、しかし貴様の様に正体不明ではなく、歴とした男の操縦者でなければいみが無いのだ! 男の魂の開放には些細な犠牲だ!」

「………」ガスっダァン!

「グッ、ぎゃあぁ!」

 

 

 

最後の言葉を聞いた直後、P・V・Fのレバーを『Full』から『Semi』に切り替え研究員を蹴りつけ撃つ。

 

 

 

「………子供たちが些細な犠牲? 笑わせる。子供たちが居るから成長し大人になり子供を産む。そしてその子供を育て多くの物を受け継がせて人は進化してきたんだ。そこに男も女も無い。子供ってのはなぁ、希望なんだよ。地球上の全生命はこのサイクルを繰り返して生き延びているんだ。そんな子供を『些細な犠牲』? ふざけるのもいい加減にしろ。結局はお前の女達への復讐だろうが。その程度の事しか考えられず、自分から動こうとしないくせに命を奪うな」

 

ダァン、ダァン、ダァン

 

「ぐっ、ぎっ、ギャアアァ!」

 

 

 

足で研究員を抑えながら単発で打ち込んでゆく新華。研究員は苦しみもがく。

 

 

 

「痛いか? 苦しいか? だがここで死んだ子供たちはもっと痛くてもっと苦しんで死んでいったんだ」

 

ダァン、ダァン、ダァン、ダァン

 

『しんくん! 長いよ! この国の軍に包囲されているよ!』

「ちっ、無駄な時間使っちまった」

「ぁ、あああぁ、ぅああうぁ」

 

 

 

研究員との問答で時間を掛けてしまい、レーダーに束言った通りいくつものIS反応があった。P・V・Fに撃たれた研究員は最早指1本動かせない状態で顔を苦痛に歪ませていた。

 

 

 

「さっさとずらかるか。束さん、情報操作よろしく」

『はいはーい、じゃあ、いつも通り座標を送るからそこで合流だね~!』

「jud. ではまた後で」

 

 

 

束と通信を切った新華は、ツインアイのレンズを通して無機質な目を研究員に向ける。

 

 

 

「あんたに生きて貰う意味もないし、俺の事を話されても厄介だから、精々閻魔様(あの人)に裁かれてあの世で罪を償いな」

 

 

 

そう言うとP・V・Fを研究員の頭に当て

 

ダァン、ダァン、ダァン

 

 

 

「さて、さっさと外の雑魚を蹴散らして束さんと合流するかね」

 

 

 

P・V・Fを解除し、再びGN粒子をまき散らしながら

 

 

 

「Fire」

 

 

 

研究所に大穴を開けIS部隊と戦闘に入る。

 

 

 

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---篠ノ之 束の秘密ラボ『吾輩は猫である』

 

 

 

「たっだいまー!」

「ただいま、疲れたぁー」

「お帰りなさい、束さま…新華さん…」

「ハロ、オカエリ、オカエリ」

「ただいまくーちゃん! ハロちゃんズ!」

「「「「「ハロッ!」」」」」

 

 

 

IS部隊をあっさりと蹴散らし束と合流した新華はそのまま束の秘密ラボに来ていた。

 

 

 

「さて、いい時間に帰ってきたことだし、飯でも作るか。くーちゃん、手伝って」

「はい…」

「束さんは晩飯出来るまで準備しといて下さい。ハロ、調理器具出すから来な」

「はいはーい! くーちゃん頑張ってー!」

「はい…行こうハロ」

「ハロ!」

 

 

 

この『くーちゃん』は以前とある研究所を襲撃した際に着いてきた少女で、珍しく束が気に入り数少ない束の身内となってこのラボに束と共に暮らしている。束は半年前に国の重要人物保護プログラムの監視をかいくぐってこの移動用ラボを開発し脱走。以降世間では行方不明となっているが、このくーちゃんと、ヴェーダを持ちちょくちょくここに来る新華は別である。

 

 

 

「さて、今日は何を作るか? くーちゃん束さんとここんとこ何食ってた?」

「……」

「ん? レシート………よし、サラダメインで。後は、魚で何か作るか。さて、始めようか」

「………はい」

「ハロッ!」

 

 

 

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「ごちそーさまでした!」「ごちそうさまでした」「お粗末さんっと」

「うーん! 今日もしんくんの手料理美味しかったよー! くーちゃんもありがとねー!」

「………はい」

「ちゃんとバランスよく栄養とって下さいね。それじゃ、片ずけますか。食器まとめて持って行きますから、後は自由に。もう今日は

何もありませんよね?」

「うん! 今日のしんくんの仕事は終了~! 束さんは部屋に戻ってるねー!」

「jud. くーちゃんは後で束さんに差し入れ持ってってあげて」

「はい。では」

 

 

 

台所で皿を洗う新華。ここで1人になり、ふと考える。

 

 

 

「学校とはえらい違いだな。疲れるとはいえ、やめる気はねぇけど」

「ハロ?」

 

 

 

ポツリ、ポツリ…と独り言をつぶやく。ハロ以外誰も居ないせいか、普段は絶対に言わないことを口にしていく。

 

 

 

閻魔様(あの人)にあってからもう大分経つんだな…………長いようであっという間だったな。俺がずっと望んでいた平和を謳歌出来る環境がある、帰れる場所があるって幸せだよな。父さん母さんに迷惑かけっぱなしだけど」

 

 

 

苦笑し思いを馳せる。

 

 

 

「あの世界で一兎(いっと)志甫(しほ)勇樹(ゆうき)先輩はどうしているだろう…」

 

 

 

かつての映画部の面子で乾燥者(デシケーター)との殲滅戦、『選択戦争』を生き残った同じパラベラムの顔を思い出す。転生してもはっきりと思い浮かべる事が出来た。アホで元気一杯だった志甫、その志甫にツッコミを入れる一兎、そんな2人を見つめる3人の先輩達……映画部部長でカワイイ派の勇樹先輩、戦争中その勇樹先輩を庇ってバラバラになったカッコイイ派の尾褄(おずま)先輩、一兎を『サードプロメテウスファイア』まで護衛した俺たちを行かせるために2人の乾燥者と戦って相打ちになった残念な映画の趣味の睦美(むつみ)先輩。そこに新華が加わって映画部部室にて皆で笑っている画を思い浮かべ、微笑んでいた。

そして、そこにやって来てちょっと赤くなっている顔で輪の中に入ってくる、終戦後新華があの作戦に参加して死ぬまで支えたかつての新任教師で、映画部顧問となった宮田(みやた) 彩夏(さやか)先生。

 

 

 

「………あの時俺は焦っていたんだろうな、一兎が安心して起きられる様にって思ってあの作戦に参加したんだよな。その結果があの最後の戦闘。何が何でも殲滅することしか頭に無かったからな。彩夏先生の反対押し切って『また帰って手伝う』って約束、結局守れなかったな………大丈夫かな………」

 

 

 

戦後、先生は身寄りの無い子供たちを集め学校兼孤児院を建てた。建てたと言ってもかつての城戸(じょうと)高校の校舎を改装したもので、1つの教室に何人もの子供たちが共同で使っていた。最初は教える側も教わる側も人数が少なく半ば塾のような状況だった。

しかし時間をかけて努力し、新華が知る最後の光景は、戦前の様にとまではいかないものの生徒も教師もそれなりに来ている状況が出来て、子供たちや働く教師が皆笑顔で暮らしていた光景だった。

 

 

 

「人もそれなりに来るようになっていたし、彩夏先生ももう『新米』教師じゃ無くなっていたから、信じよう。先生が皆と笑顔でいることを」

 

 

 

洗い物を片付け、やることが無くなった新華。足元のハロを連れて

 

 

 

「クアンタの整備、調整でもするか。それとたまには何かテキトーに作ってみようかな? 時間はあるし、束さんみたいに自由気ままに作るのもいいかな」

 

 

 

台所を後にし部屋を出る。新華は気付いていなかったが、その顔には穏やかな微笑みが宿っていた。

 

 

 




先生にはフラグがたっておりました。
P・V・F最強説
途中の例である裁判やら投獄やらは、実際は新華がヴェーダを使ってやっていたので、政府の手柄ではありません。
次回モンド・グロッソ予定

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