25日発売の電撃ホビーマガジンを買って背表紙裏面を見たらデカでかと写っていたISのゲーム宣伝…。
非常に殴りたくなった…!
夜、1050室。新華はベットで仰向けになり授業で使う教材を読んでいた。しかし、ここで問題が1つ起きた。
「…なんか、普通に理解出来るんだけど」
「え?」
「なんだろう、こう、頭の引き出しから必要な物が取り出される感覚というか…知らない筈の、と言うよりも失った筈の知識が湧き出てくるというか…」
「…どういう事なのかしら」
「さぁ?」
記憶喪失の筈なのに教材の内容が理解出来るのだ。それも当たり前のように速読出来てしまう。新華は自分が自分ではないような感覚を味わう。
「ねぇ新華、本当に大丈夫なの?」
「ああ」
「何かおかしな事があったら、言ってね…?」
「ああ。じゃあまず1ついいか?」
「「「何?」」」
「生徒会長君はまだいいとして、何で妹君と…デュノア君までこの部屋にいるんだい? 君ら別の部屋だろう」
部屋には新華と楯無、サヤカ以外に簪とシャルロットが居た。簪は楯無と共に並んでベットに座り、シャルロットは新華のデスクの椅子に座っていた。もう夜なので本来ならば部屋に帰るべきなのだが
「ご主人様の彼女(候補)ですから、心配するのは当然でしょう。それに分からない所があれば聞くと言ったのはご主人様じゃないですか」
「(まだ彼女とかいうの続けるのか…)ま、そうなんだけどな。でももう外暗いぞ。見回りの先生とか居ないのか?」
「先生の見回りとかは無いわね。元々女子しか居ないし、何かして織斑先生に見つかったら事だしね」
「それに、他の人の部屋に行くだけなら何も言われないしね。新華もそうだけど僕と一夏が一時期同じ部屋だったんだよ? その辺りは厳しすぎると、問題の元になりやすくなっちゃうからね」
「確かにそうだが…」
「はいはい、文句言わないの。美少女3人に心配されて嬉しくないの?」
「自分で美少女とか言うなよ。いや、俺や織斑君のような男の部屋に喜々として侵入しようとする女子とか、不純同性交遊とかありそうだと思ってな。取締が厳しくなると思ったんだが…」
「あー…」
シャルロットは新華の懸念を聞いてラウラを思い出す。一夏の布団に潜り込むラウラは新華の言った女子の前者に相当すると思った。
「でも、基本は生徒自身の自己責任とされてるから…。何かあれば織斑先生の説教だし…」
「成程。程よい加減の恐怖で牽制出来ているのか、凄いな」
「そんな事より、分からない所はなかったの?」
「ああ。わざわざ来てくれたみたいだけど、悪いな。妹君、デュノア君」
「「………」」
「…? どうした?」
簪とシャルロットは新華からの呼ばれ方にムスッとなる。今までは名前で呼ばれていたのに、好きな人に以前の他人行儀な呼び方をされ距離が離れたように感じた。
「新華、なんか余所余所しいよ。ほら、今までみたいに…シャルって呼んでよ」
「! デュノアさん…!」
「え? …あー、そういえば俺は以前、どんな呼び方をしていたんだ? 今は適当に呼んでるけど」
シャルロットが捏造を始め、簪が慌て、楯無が目を光らせる。新華は頭に? を浮かべた。
「僕は、今も言った通りシャル」
「わ、私は、か、簪って…!」
「私は楯無って呼び捨てよ♪」
「…サヤカちゃんに聞いた方が早かったな。で、どんな呼び方だった?」
「………皆さんの言っている通りですよ。彼女(候補)ですから、お互いに深い呼び捨てでしたよ」
「だから、誰が彼女なんだっての…。その言い方だと俺が3股してたみたいじゃないか」
「……」
「冗談でも沈黙止めて。でも、呼び捨てかぁ。勇気あるなぁ俺は」
新華は天井を見上げ目を細める。新華の今までの記憶で女子相手に呼び捨てした事があるのは、何も知らなかった純心な最初の小学生時代、パラべラム世界での志甫だけだった。それ以外は『~さん』や孤児院設立以降は『~ちゃん』など呼び捨てはしなかった。
というよりも、出来なかった。最初の人生の時の同年代に対する恐怖がトラウマになり、呼び捨てをする事自体が恐くなったのだ。
パラべラム世界では志甫が全力でアホだったため、変に力む事が馬鹿馬鹿しくなり、志甫の意向もあって呼び捨てを解禁出来た。
「…でも、流石に今の俺にはハードル高いわ。それに今の俺は君らの事あんまり知らないし、せめてちゃん付けで…」
「「「駄目!」」」
「えぇー」
「ご主人様、いいじゃないですか。今は記憶喪失なんですから彼女(候補)達を試しに呼び捨てしてみたらどうですか?」
「んなこと出来るかっての。それに、やるとしたらそれは記憶がある時の俺だ。今の俺がやっていい事じゃない。ま、どちらにせよ呼び捨ては今の俺には無理だ。諦めてくれ」
「「「ええー」」」
「それよりも…」
新華は枕元に置いておいた資料を取り開く。その新華の目は輝いているように見えた。
「
「あ、やっぱり気になる?」
「当然。俺は工学部機械システム科ロボットコース志望者だからな。こういった機械を見たら知的好奇心が沸く。理解出来る頭も今は持ってる事だし、正直楽しみでしょうがない」
「…え?」
「明日使えるのかぁ。どんなもんなんだろうか。一応このマニュアル読んで想像してみるけど、基本のプログラムとか見てみたいなぁ。内部基盤も見てみたい。出力とかも知りたいし…」
「あの、新華?」
シャルロットは新華のセリフに疑問を持った。まるで大学に行く予定の学生のように一心不乱にマニュアルを読み始めた新華に話し掛けても、もう自分の世界に入った新華に声は届かなかった。
「どのくらいの重さになるかな…? 操縦者に掛かる負担を軽減する機能は…補助駆動装置が気休め程度。まぁでも、ISの方が異常と言えるからこれは要研究なんだろうな。だから
「聞いてない…」
「あーらら、自分の世界に入っちゃったわね」
「…あ、成程。こういうやり方があったのね。あ、コレもしかしてアレに使える? ちょっと今度検証を…」
「…こうなったご主人様は、集中してて誰からの声も届きませんよ。最近はこうなった事が中々なかったので、気の済むようにやらせてあげてください」
「美少女3人が同じ部屋に居て、それを完全に無視するなんてね。でも、本当に記憶を失っているのかしら」
「…失ってますよ。だからこそ今あなた達が居る事に疑問を持つような鈍感になっているんです。ご主人様の事を深く知りたいなら今のうちですよ?」
「え? サヤカ、それはどういう…」
「あ、サヤカちゃんルーズリーフとシャーペンある?」
「はい。どうぞ」
「サンキュ。えっとまずは…」
サヤカへの問いは新華の言葉でかき消された。新華は受け取ったルーズリーフに何やら書き殴っていく。
「サイズの調整はネジでやるとして、動力は…コンデンサも考慮して…積む場所は…」カリカリカリカリ…
「…まるで子供ねぇ」
「ここに居るのは私含め皆子供ですよ。ご主人様も例外じゃありません」
「でも、今までの行動とか見ていたらそうは思えないよ」
「それでも、ですよ。皆さん、ご主人様を見直すいい機会です。それにご主人様に近付くのも今のうちですよ?」
「「「………」」」
「んでこれが大体この大きさになる…いやいや、これじゃ駄目だろう。どうせならこのタイヤをもっと下に…」
新華は3人からの視線に気付かず何かを書くのを止めない。いつもの新華なら何かしらの反応をする故にヒロイン3人は違和感を感じていた。
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次の日、IS学園グラウンド、1学年合同IS実習。
新華が眠っていた間に各専用機持ち達は既に1回EOCに乗っており、今回も行われるデータ収集に勤しむ事になっていた。そして記憶喪失とはいえ起きている新華も操縦する事になっていた。
「おお、これが実物か。このゴテゴテ感はいいものだ…」
「専用機持ち達は以前と同じく専用機以外の機体に乗る体験としてデータ収集に励め。青木も同様だ」
「「「「「「はい!」」」」」」
「わかりました。早速ですが弄っていいですか?」
「…青木、指示に従って乗れ。余計な事はするな」
「あ、了解です。まぁ、後で弄れるかな?」
新華は一夏達と共にEOCに乗り込む。マニュアルは既に頭に叩き込んでおり機動と慣らしはスムーズに行えた。
だがそれを見て面白くないと思う物が居た。新華の専用機であり世界最高のワンオフ機であるサヤカである。
「…………」
「新華、何だか簡単に操ってるな。重い筈なのに」
「そりゃMSなんて物を作っていたんだし、体が覚えてるんじゃないの?」
「だが怪我なんて無かったかのように動くな。ただ、その分…」
「サヤカが目に見えて不機嫌になっているな…」
「えっと、サヤカ? そんなに新華が乗りこなしているのが嫌なの?」
シャルロットがサヤカに問う。返ってきたのはあからさまに不機嫌な声だった。
「だって私はご主人様が乗る為に作られた、ご主人様の為だけに作られたISですよ? ご主人様が初めて私に乗った時も簡単に乗りこなしてくれたので自慢したいくらいですけど、私以外の機体に乗ってほしくありません」
「えっと…初搭乗って言うと、『白騎士・蒼天使事件』の時?」
「その前です。でもちゃんと戦闘機動したのはその時なので間違っているとは言えないですね。ですが…」
サヤカはEOSを振り回している新華を見やる。
「この重量感、イエスだね! やっぱりロボは重量感とゴツさだよね! 泥臭さも有れば文句無し! ああ、中身を開けてみたい…!」
「…起きた後最初に乗って気分を高揚させるのが私ではないとは、どうなっているのですか…!? まず私に乗ってからでしょうに!」
「…あの、サヤカ? キャラがぶれてないか?」
「そんな事はどうでもいいんです! 私がご主人様唯一の専用機、MSは妥協しましたがEOCなんて未完成機体は他の人を乗せればいいんです! ご主人様は私に乗るべき人なんですから…!」
「…………」(゜д゜)
「サヤカ、ちゃん…? 結構無茶な事を言ってる…」
「というか、我々のISももしかしたら近い感情を持っているのだろうか…」
ラウラの呆然としたセリフに一夏達は自分達の待機形態になっているISを撫でる。正直一夏以外にISの自我をハッキリと認識している者は居ないが、新華の言った
その新華は…
「流石に長時間は無理かな、エネルギー配分的にも体力的にも。コレがISだとどうなるか…」
「…ご主人様! いい加減に戻ってきてください! 考えるのは後でも出来ます!」
「いやでも実際に動かしてみて初めて分かる事もあってだな…」
「だったらまず、私に乗るべきでしょう!?」
「いや後の楽しみって言葉があってだな? それに後でいくらでもガンダムに乗り込めるんだったら先に目の前の物を楽しむべきだろう」
「だったら、既に慣らし終えているその機体を降りてください!」
「…無茶を言うねぇ」
新華はサヤカの大声を聞いて一夏達の所に戻ってくる。サヤカの顔は不機嫌に歪んでいた。
「もう君さ、完全に普通の人間だろ。ISだって言われても逆に違和感感じるぞ」
「私は『Evolveクアンタ』、ご主人様の専用ISです! こうして人のように動けるのもご主人様の御陰ですけど、ご主人様のISを辞めるつもりは毛頭ありません!」
「…まぁ、後で思う存分乗り回させてもらうけどさ。あ、織斑先生、慣らし終えましたー」
「…そうか。なら、今日も模擬戦を行う。見た所青木も問題無さそうだな。参加しろ」
「わかりました。でも模擬戦を外から見てみたいので見学出来ませんか?」
「ふむ、なら模擬戦を前半後半で分けるか。前回脱落した奴から4人で前半戦を行い、その後に青木を加えた4人で後半戦を行う」
「「「「「「はい」」」」」」
「んじゃ俺は降りて体を休めながら見てますね。ISと違って乗り続けても意味無いんでしょう?」
「まぁ、な」
新華はEOCから降りる。そこにサヤカが寄ってくる。
「ご主人様、後でちゃんと私に乗ってくださいよ?」
「分かってるっての。というかガンダムに乗れる機会があるのに乗らない訳ないじゃないか。クアンタって言うくらいだから性能も期待してる」
「ならいいのですが…」
「…お前たち、授業に集中しろ。では前半戦、始めるぞ」
千冬の号令で前半戦、後半戦を進めていく。新華もEOCで戦い善戦したが、P・V・FともISとも違う機体を上手く操るラウラにあと1歩の所で負けてしまった。しかしそれ以外は新華の勝利で終わり、記憶を失いIS無しでも十分強い事を示した。
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放課後、第2アリーナ。
新華は現在
「俺が、ガンダムだっ!」
サヤカであるクアンタに乗り絶好調だった。一通り武装の確認も終えアリーナ内を飛び回り楽しみまくっている。それを一夏達は楯無と合流しそれぞれの専用機を展開して見守っていた。
「新華、まるで子供みたいだな。あそこまではしゃぐ新華は見たことがない」
「だな。でもガンダムって、MSの事だよな? クアンタってISだし、どういう事なんだ?」
「さあね。でも記憶失っててもあそこまで早く飛べるなんて、やっぱり新華は新華ね」
「確かにな。飛ぶイメージまでは失っていなかったという事か」
「そうね。あ、新華君? 出来ればワンオフアビリティーを戦闘用で使ってみてほしいのだけれど」
新華は通信を聞いてデータを呼び出す。そこにワンオフアビリティー『トランザム』の文字を確認し返事をする。
「いいけど、ターゲットはどうするんだ? 的も何も無いじゃないか」
『今から出すわ』
楯無の言葉の後に大量のドローンが出現する。
「コレを落とせばいいのか?」
『ええ。戦闘用でトランザムを使った所を見た事無いから気になっていたのよ』
「ふーん。まぁ、俺もやってみたいからいいけどさ。サヤカちゃん、行ける?」
新華の問いに、サヤカの言葉が画面上に映される。
『勿論出来ます。しかし一応屋内という事と出力の問題で誰にも当ててはいけないという事を頭においておいてください』
「分かってる。ファングも使えないみたいだし、気を付けないといけないしな」
クアンタの武装を確認したとき、新華はファングや胞子ビットが使えない事を知った。脳量子波が弱まり使えなくなったのと同時に使えなくなってしまったのだ。しかし脳量子波を使わないプリスティスや大型ハンドユニットは問題なく使えるので、元々馬鹿みたいだった火力は健在だった。
「んじゃ早速…トランザム!」
新華の声と同時に機体が赤く光りGN粒子が過剰に放出される。それを見た一夏達は久しぶりに見たワンオフアビリティーに見とれる。
「やっぱり凄いな。真っ赤だ」
「無粋な言葉は不要だな。以前と違うのは、放出される粒子によるあの空間が発生していない事だろう」
「そういえばシャルロットのISはコレと同じような原理を付けたんだっけ?」
「うん。でもここまでの出力は得られないよ。やっぱり凄いなぁ」
「そうねぇ。…それじゃ新華君、始めてちょうだい」
楯無の指示で新華が行動を開始する。
「よし、いくぞサヤカちゃん」
『はい、行きましょう』
その言葉を紡いだ直後、新華は前にスラスターを吹かしてドローンの1機を叩き潰し壁に足跡を付ける。
「ぐっ(思ったより、早い! でも、体が覚えてる!)」
足を使った反動を利用して跳び2機のドローンを破壊する。そこでようやくGNソードⅤを両手に出し壁に足跡を付けると同時に、更に2機のドローンを打ち抜いた。
「5機! 次っ!」
また反動で飛ぶ。今度はGNソードⅤを手放しドローン1機に蹴りを入れ潰し、大型ハンドユニットとプリスティスを射出。
「撃ち抜け!」
オールレンジ攻撃でドローンを高速で落とす。再び壁に足を付け方のシールドからビームを放ち腰のフルセイバーユニットからGNハンドガンを引き抜く。
「オラオラぁ!」
跳び横に回転する。そのままビームを乱射しドローンを落としていく。時節ハンドガンの持ち手にあるGNソードで切り裂き、ファングやカタール部の刃でドローンを切り裂いて破壊する。
そうして全てのドローンを破壊するのに掛かった時間は、驚愕の5秒だった。
「…かっ、はぁ、はぁ…。お、思った以上の性能だ…。トランザム、強制解除…」
『当然です。ご主人様の為に作られ共に戦ってきたのですから。GNドライブを4機積んでいるのも後押ししてます』
「そ、そっか…はぁ、はぁ…。つ、疲れた。流石に、明日筋肉痛に…」
『なりますね。こうしてトランザムを戦闘に使ったのは初めてですから』
「…マジ?」
『マジです。今までトランザムを使うような相手が居ませんでしたし、使う機会が無かったので』
「…俺って、予想以上に化物だったんだな」
トランザムを解除し地面に降りる新華。地面は戦闘の余波でボロボロになっていた。
「うわぁ…これは酷い。あ、皆大丈夫か!?」
「だ、大丈夫…」
「す、すまん。調子に乗って気が回らなかった」
「いや、性能が見れた事はプラスになった…が」
「あ、あの数のドローンを、5秒って…」
「あの、生徒会長? 今のドローンのレベルはいくつでしたの?」
「………Sよ」
「え…?」
「最高レベルの、S。織斑先生の20秒が最高タイムの…」
「「「「「「………」」」」」」
世界最強の千冬が20秒でクリアしたレベルSのドローン。それを新華は、5秒で終わらせた。一夏達は顔を引きつらせるが、新華は気まずそうな顔をする。
「えっと、織斑先生の強さが今どのくらいかは知らないけど、もし記憶もしっかりしてて万全な状態なら5秒も掛からないぞ?」
「「「「「「……ハァ!?」」」」」」
「だって、ファングと胞子ビットが今使えないから」
「…そういえば新華は今、脳量子波が使えないのだったな」
「ああ。この2つの武装は脳量子波でないと使えないからな」
「な、なんと…」
「というか、正直今の新華の動きが見切れた奴って居るの?」
「「「「「「………」」」」」」
「残像が多すぎて、何が何だか分からなかったよ」 ←シャルロット
「同じく。早過ぎて目が追いつかなかった」 ←箒
「何かを射出する所は辛うじて見えましたが…それ以外はからっきしですわ」 ←セシリア
「飛んでくるビームに対処するので精一杯だった…」 ←簪
「捉えられたけど、攻撃の瞬間は全く見えなかったわ」 ←楯無
「ビームの量と壊れていく壁に気を取られて、見る事叶わずだ」 ←ラウラ
一同が沈黙する。新華はクアンタを解除しサヤカが現れる。
「当然ですよ。もっと広い場所で自由に動けたとしても、ギリギリ追いつけた…と錯覚するので精一杯でしょうし」
「そ、そこまで早いのか!?」
「ええ。その際に掛かるGは私の方で消せてます」
「ほんと、ISは凄いよな。女しか乗れない所が非常に惜しいけど兵器としてはこれ以上の物は無いかもしれん」
「兵器、か」
「ん?」
「…何でもないよ」
一夏は新華の言葉の『兵器』に反応した。新華が死に掛けたときに、確かにISの兵器的面を見た。人を安全な場所から殺す道具と、認識出来てしまった。
「…? あ、そうそう。整備科ってさ、IS以外に何か作れるの?」
「…簪さん?」
「え、あ、うん…。新華君も武器とか作ってたから…」
「ふぅむ、なら作る為の材料は?」
「えっと、実習や課題以外は自分で持ってきて使う…」
「基本は持ち込みか。それもそうか。でないと経費が恐ろしい事になりそうだからな。じゃああの案は温めておくか…」
「何? また何か作るの?」
「ちょっとな。さて、汗を流しに行くか。俺だけ制服のままだから汗が染み付いてほしくないしな」
相変わらずの制服姿でアリーナの出口へと向かう新華と、その新華についていくサヤカ。一夏達は顔を見合わせ後を追った。
…その後、アリーナの惨状を聞いて見た千冬から雷を落とされる新華だった。
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次の日、新華は朝早く楯無含めた専用機持ち達と校門に居た。
「済まないな、俺がややこしい事になったせいで予定狂わせてたみたいで」
「いや、新華のせいじゃないさ。俺が我儘言って先延ばししてもらっていただけだ。悪いのは俺の方だよ」
「妹君も、迷惑掛けたな」
「ううん…。私は好きで新華君と一緒に居たから…」
一夏と簪はそれぞれの機体のデータ解析とメンテナンスの為に倉持技研へと赴く事になっていた。本当ならばもっと早い段階で行く筈だったのだが、新華がいつ起きるか分からない状態かつ、起きるまで安心出来ないと一夏、簪両名が先延ばしにしていたのだった。
どちらも新華が寝込んでいた1週間、機体の細かなプログラムの見直しや新華のやっていたトレーニングをするなどといった事を行なっていた。倉持技研としては更に解析しがいのあるデータが集まるという事で延期を認めていた。
しかし新華が目覚めた事でその延期理由も無くなり、この日2人は朝早くから出かける事になっていた。
「簪ちゃん、留守中は新華君に手を出さないから安心して。デュノアちゃんも同じよ」
「うん…信じてる」
「一夏、気をつけて行くんだぞ」
「ああ。分かってるさ、箒」
「何かあったら新華の変わりに守んなさい。新華は今、IS学園を出られないんだから」
新華は(技術以外の)記憶喪失なので現在の世界を実際に体験した事が無いと言えた。故に今IS学園の外に出したら問題を起こしてしまうという保守的な考えがIS学園にはあり、尚且つ敵に侵入された挙句貴重な男性操縦者が死に掛けたという失態を外に漏らさない為にも新華をIS学園敷地内に拘束するよう楯無や専用機持ち達、各教師や新華本人に通達されていた。
「勿論。新華の彼女(候補)はしっかり守るさ」
「…まだ彼女とかってネタ続いてたのね。いいから、時間、大丈夫か?」
「…もうそろそろ…」
「んじゃもう行った方がいいな。向こうを待たせてきたんだから、早めに行きな。人に待たされても待たせるな」
「うん…」
「まるで説教だな…」
「こればっかりは性分だから仕方ない。今更変えるのも面倒だしな。ほら、さっさと行った行った。モノレール来るんだろ」
「あ、ああ。行ってくる」
「行ってくるね…」
「行ってらー」ノシ
急かすように新華は2人を送り出す。2人は手を振る新華に手を振り返してモノレールの駅に向かった。
「…新華君、あんなに急かしてどうしたの?」
「そうよ。もうちょっと話くらい出来たじゃない」
「いや、なんとなく嫌な感じがしててさ」
「嫌な感じですの?」
「ああ。感じないか? 何か悪意の手がここIS学園に伸びてきているのを」
新華は漠然と嫌な予感を感じていた。害意と言っていい意思が自分達、というよりもこのIS学園を狙っているのを。故に、何か起きる可能性を考慮して一夏と簪を早く遠ざけたかった。
「もしかして、また?」
「…今まで襲撃があったのはサヤカちゃんから聞いている。だけどその時の感覚を知らないから何とも言えない。俺の思い過ごしならいいんだけどな…」
「……一応警戒態勢を取っておきましょ。織斑先生にも連絡を取っておくわ」
「いいのか? 俺1人の漠然とした確証の無い予感だけで先生を動かして」
「実は今のIS学園はこれ以上無い程に焦ってるの。何度も襲撃を受けておきながら生徒達に任せきりで、新華君という犠牲者が出てしまった」
「…俺、死んでないんだけど」
「犠牲者ってそういう意味じゃないわよ。IS学園としては新華君の事で『生徒に守られた無能』という烙印を押されたくないのよ。それに新華君は今までの功績がある。漠然とした不安だとしても警戒態勢を取らせるには問題無いわ」
「…随分と俺を信じてくれるんだな。何、また彼女だからとか言うのか?」
「それもあるけど、なにより新華君にこれ以上の負担を掛けたくないからね」
「ふーん…」
新華は一夏と簪の姿が見えなくなったのを確認して寮へと足を向けた。
そして知る事になる。自分の嫌な予感は本当に当たるのだと。
次回、ようやくワールドパージ開始。長かった…。
正直、原作じゃどうか知りませんがこの世界におけるEOCデータ収集の理由。あれってMSの存在に焦った開発陣が強引にねじ込んだのではないかと思いました。MSが広まれば完全にお払い箱と化しますからね。
ただ新華が半ば人材マニアになってますので見逃さないでスカウトする気が…。