IS~疾走する思春期の転生者~   作:大2病ガノタ

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97話目。
原作ブレイクしているせいで7巻の6、7割が無意味という…。
あと1話投稿したら多分タッグマッチになります。


誕生日の後

 

 

 

 

 

マドカが拳銃の引き金を引き、ダァンと音を立てて銃弾を放つ。一夏はいきなりの急展開に目を白黒させ、咄嗟の事に体を堅くしてしまった。しかし銃弾が一夏に届く事は無かった。

 

 

 

 

 

「…やはり邪魔建てするか、貴様は」

「当然だろ。君はこんな事をしちゃいけないって前にも言ったじゃないか」

「あ、す、すまない実君」

「いえ」

 

 

 

 

 

実はゼロの翼部分を展開し一夏の前に出るように翼を翳す。ISのレーザーすら防ぎファンネルとなる翼に銃弾が通る道理は無かった。

しかし一夏は実の後ろ姿を見て既視感に襲われる。かつて、第2回モンドグロッソでセカンドシフトしたクアンタに乗る、新華の後ろ姿を幻視した。

 

 

 

 

 

「あ…」

『トリィ! トリィ!』

「? …フン、そんな玩具で何が出来る」

 

 

 

 

 

一夏の眼前でトリィが羽ばたく。まるで一夏を守るかのように。トリィのOSは新華の設定した初期のもの。そのOSには『一夏を守る』という事が最優先事項としてプログラムされていた。

そして、3人の間に流れる緊張感は第3者の介入で終わりを迎える。軍人の勘で一夏の後を追いかけてきたラウラがマドカに向けてナイフを投擲してきたのだ。

 

 

 

 

 

「一夏、大丈夫か!」

「雑魚が増えたか…ふん」

 

 

 

 

 

マドカは自分の顔面向けて飛んできたナイフを、自身の手で受ける。ナイフは顔面に刺さらなかったが、代わりにマドカの手を貫通して止まった。それを見た一夏、ラウラ、実の3人は息を呑む。

 

 

 

 

 

「返すぞ」

「なっ! マドカ、君は…自分の事を…」

「気安く呼ぶな。私の体だ。私の自由だろう?」

「そんな事は…!」

 

 

 

 

 

ラウラはマドカから投げ返されたナイフをAICて止める。実とマドカの会話は一夏とラウラの耳に届いていた。

 

 

 

 

 

「…クローンだからって、もう『織斑』の名前を名乗った時点で君は織斑さんの家族になったも同然だ。だから、自分の体でも、大事にしなきゃ駄目だよ」

「く、クローン…?」

「ふん、好きに言ってろ。私にはそんな事どうでもいい」

「…いや、よくないよ。だって、君は…」

「…ふん」

「あ、待て!」

『トリィ!』

 

 

 

 

 

咄嗟に行動したラウラのAICを躱してマドカは闇へと消える。完全に居なくなった事を確認して実はゼロの翼を仕舞う。トリィは安全が確保された事で一夏の肩に乗る。

 

 

 

 

 

「…マドカ、かぁ…」

「ラウラ、大丈夫か!?」

「あ、ああ…。何だったのだ、今のは」

「えっと…その話は皆に心配掛けたくないから、明日でいいか?」

「ああ」

「それで、実君」

「…なんですか?」

「さっきの、マドカとか言っていたっけ。あの娘を知っているのか?」

 

 

 

 

 

一夏は実に問い掛ける。しかし実は

 

 

 

 

 

「…すみません、兄貴に口止めされているんです」

「新華に?」

「ええ。ですけど、聞かれたらこう答えるように言われてます。『千冬さんと相談しろ』…って」

「千冬姉と?」

「ええ。…俺から言える事はこれくらいです。多分、兄貴に聞いても無駄ですよ」

「そうか…」

 

 

 

 

 

一夏は複雑な心境の中、もう1つ気になった事を聞いてみる。

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日世話になったっていうのは?」

「それもお答え出来ません。こちらは俺でも分かるくらいに重要かつ最上級の規制を掛けられているので」

「最上級の、規制…?」

「…早く戻りましょう。パーティの主役が遅れたら変に怪しまれます。騒ぎになる前にここを立ち去りますよ」

「あ、ああ…」

『トリィ!』

 

 

 

 

 

新華の存在が一夏の中で大きくなると共に、新華の背中が遠く感じた。

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

----

--------------

-------------------------------

 

 

 

 

 

---次の日、IS学園屋上

新華は1限目だけ出て出席日数を確保し、それ以降の授業をサボり寝ていた。前日の仕事は何とか終わりを迎える事が出来たものの、気付けば日が昇りIS学園に直ぐ向かうという事になったので完徹だった。

屋上に降り注ぐ日光は程良い暖かみを与え、芝生は新華の体を柔らかく地面に置いていた。新華が寝転がり直ぐに寝てしまっても無理は無かった。

 

 

 

 

 

「………」ZZZ…

 

 

 

 

 

新華の顔には日光が邪魔にならないようにアイマスクがされており、少し離れた場所ではハロ3機が戯れ、サヤカはねんどろいど状態で新華の胸の上に座っていた。

昼休みに入るチャイムが鳴り学校特有のざわめきが起こる。それでも新華は起きない。完徹で相当疲れているようである。普通ならハロ達やサヤカが起こすのだが今日は新華の命令で目覚ましはセットされていなかった。

 

 

 

 

 

「………」ZZZ…

『------』

 

 

 

 

 

サヤカもハロ達も新華を起こそうとせず、かつ新華も起きる気配は無かった。と、そこに

 

 

 

 

 

『トリィ!』

「ハロッ!」

「トリィ、トリィ」

「ハジメマシテ、ハジメマシテ」

『トリィ!』

『------』

「あら、追い越されちゃったわね」

 

 

 

 

 

新華が一夏に間接的に渡したトリィが飛んで来る。それに続いて楯無と簪も屋上へと出てくる。遅れて走る足音が聞こえ一夏達専用機メンバーが集った。

 

 

 

 

 

「ま、待てよトリィ!」

「お、屋上まで来てしまったな」

「全く…一夏が新華の場所を冗談交じりにトリィに聞くから…」

「あら、皆も来たのね」

「あ、生徒会長に更識さん。おはようございます」

 

 

 

 

 

一同が集まり、ハロやトリィは未だに寝ている新華の周りに集まる。一夏達が来ても寝続ける新華を見て

 

 

 

 

 

「…新華、今日もまともに授業出なかったな」

「しかもこんな所で寝て…」

「新華君、最近ここで寝ている事多いわよ? でも相手にされないのよねぇ…」

「…知らなかった」

「そりゃ気配消して光学迷彩使ってひっそりと移動してるからね」

「シンカオキロ、シンカオキロ」

『トリィ!』

「イチカタチキタ、イチカタチキタ」

『------』

「モウオヒル、モウオヒル」

「…んぅ…………………ぐぅ」ZZZ…

 

 

 

 

 

ハロやサヤカの声を聞いても一向に目を覚まさない新華。一夏達が近くに居ても起きないくらい昨日は疲れたらしい。身動ぎするだけに終わった。

しかしサヤカはそこで行動する。ねんどろいどの状態のまま新華の額に昇りハロ達に指揮を送る。ハロ達はサヤカの指示の元、新華の足元に並ぶ。

 

 

 

 

 

「? 何が始まるの?」

「…静かに見ていろ。面白い物が見れそうだ」

「? どういう事ですの?」

「いいから見ていろ」

『トリィ』

 

 

 

 

 

トリィが一夏の肩に戻る。この場で唯一脳量子波を使えるラウラが静観する事を指示。そしてサヤカの小さな指が振られる。

 

 

 

 

 

『------』

「「「ハロッ!」」」

「…………くはっ!?」

 

 

 

 

 

ハロ3機が一斉に新華へと飛んだ。新華は殺気が無くじゃれ合い程度の行為だったせいで反応出来なかった。直撃し新華は慌ててアイマスクを外し飛び起きる。

 

 

 

 

 

「何!? 敵襲!? ………って何だ、ハロ達か。ふ、ぅあああああ。起こすなっての…あ?」

「「「「「………」」」」」」

『トリィ?』

『------』

「チッ…おはよう。さてはサヤカ…お前の仕業か」

『------』

 

 

 

 

 

新華は一夏達の姿を確認すると舌打ちを1つし、いつの間にか肩に乗っていたサヤカを一瞥する。

 

 

 

 

 

「「「「「「………ぷっ」」」」」」

「………ハァ。昼飯でも食いに行くか」

「あっ! 新華! その、トリィ、ありがとうな」

『トリィ!』

「………」

 

 

 

 

 

新華は一夏の礼を無視して一夏達の横を通り過ぎ校舎の入口へと歩く。それを見た一夏は新華を止めようと声を掛ける。

 

 

 

 

 

「お、おい新華…」

「………ハロ」

「「「ハロッ!」」」

「新華!」

 

 

 

 

 

新華はハロを呼び足元に集める。一夏は新華の肩を掴むが新華はそれを振り払う。

 

 

 

 

 

「…いつまで俺の後ろに居る気だ。いい加減に前に出ろ。もう俺とお前達の進む道、住む世界は違う。俺に構うな。お前らがお前ら自身の進む道を行け」

「………新華君、いい加減にそんな頑なにならなくてもいいじゃない。もっと気楽でいいのよ」

「………」

 

 

 

 

 

新華は無言でその場を後にし階段を降りる。階段の途中で新聞部の薫子と会うが

 

 

 

 

 

「あ、青木君発見。ねぇねぇ、私出版社で働いてるんだけど、独占インタビューを…」

「………」

「青木君ー? 聞いてるー? ねー? …あらら。お嬢様の言った通り相手にされないわね。仕方無い、織斑君達に頼むか…」

 

 

 

 

 

新華は完全に無視して通り過ぎる。その後購買でパンを買い教室には行かず、1階の外をうろつく。

 

 

 

 

 

「………」

『------』

「…サヤカ、余計な事はしなくていい。…疲れていたとはいえ一夏達が来ていたのにも気付かずに寝続け、その上自分のペットロボに情けない起こされ方するなんていい恥曝しだ」

『------』

「お前は俺の事を思ってやったのかもしれない。でも余計なお世話だ。お前は大人しくしてればいい」

『------』

「…俺の事は俺が一番知っている。だからこそ…」

『------』

 

 

 

 

 

新華は話している間に、いつの間にか学園祭でサーシェスを殺した場所に来ていた。既に破壊された校舎や真っ赤に染まっていた木や地面は元の形と色を取り戻していた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

新華は自分がサーシェスを殺した時の事を思い出す。そして、サーシェスの死体があった場所の土を手に取る。土色だが、新華には未だに血で赤く染まっているように見えた。

 

 

 

 

 

「…………」

「マダキニシテルノカ? マダキニシテルノカ?」

「…当然だ。まだ、あの光景を見せるには早すぎたんだが…『戦争』という単語を軽々使われて、自重が出来なかった」

「コウカイシテルカ? コウカイシテルカ?」

「まぁ、な。ただ、アレをやった御陰で俺は自身の立ってる場所を自覚し直せた。俺が一夏達と一緒に過ごしてはいけない事を分からせた。それにあのまま戦っててもいつかは殺していたとも思う。一夏達の意識も変わっていてくれれば、一概に悪いとは言えないが…」

「ミンナカワッテル、ミンナカワッテル」

「…だといいな」

『------』

「…そう、だな。俺の行動が無駄でないなら意味はあった。そう信じよう」

 

 

 

 

 

土を戻し手を叩いて土を落とす。辺りを見渡しても、普段から誰も来る場所では無い為に誰の気配もしなかった。

 

 

 

 

 

「………行くか。ハロ」

「「「ハロッ」」」

 

 

 

 

 

その場から離れ再びさまよう。新華が居なくなったその場所の木陰から、轡木が現れる。

 

 

 

 

 

「おやおや…。彼は思いを溜め込みすぎですね。更識君に少しアドバイスして彼のガス抜きをさせてあげないと…」

 

 

 

 

 

今の新華の行動と言葉は全て轡木に見られていた。そして轡木は新華の今の危うさを感じ楯無に少々アドバイスをする事を決める。

 

 

 

 

 

「さて、私も用務に戻りますか。彼の事は千冬君と更識君に任せてありますし、生徒を見守り安全性を確保するのも我々大人の仕事ですからね」

 

 

 

 

 

手に持つ竹箒と塵取りを持ち直しその場を離れる。今や全世界から認知され有名なIS学園と、注目が集まり出したソレスタルビーイング。その長である2人の男は、どちらも表で多くの物を偽りながら裏で多くを背負い歩いていた。

 

 

 

 

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---side 生徒会

 

 

 

 

 

時間は経ち放課後の生徒会室。新華と一夏以外の生徒会メンバーは会議をしていた。一夏はここのところ日課になっている部活のスケットに行っている。

楯無達の会議の内容は今までの襲撃者の事と、新華の事について。

 

 

 

 

 

「…これらより、敵はこのIS学園で何かイベントがある時にアクションを起こす事が予想されるわ。つまり、次は全学年合同のタッグマッチに襲撃があると思われるわ。各自、警戒するように」

「「わかりました」」

「わかりましたぁ~」

「…それで、次は新華君の事ね…」

「はい。一般生徒からも苦情が来ています。『青木君の無愛想を何とかして欲しい』や『青木君の突然変化した態度の説明を』などです」

「と、言ってもねぇ…。こちらからどんなにアクションを起こそうとも新華君は無視しちゃうし…。だからと言って理由を一般の生徒に説明出来る訳でもない。こればっかりは、厳しいわね」

「うん…。私が話し掛けようとしても、どこかに行っちゃうし…」

「あおきーも頑固だよねぇ~。かいちょーやかんちゃんが心配してくれてるのに~」

 

 

 

 

 

新華の頑なな態度に楯無も辟易していた。新華の態度の理由が分かる楯無としては新華に少しでも話を聞いて貰わなければ、今の状況を改善する事は出来ないと思っている。

簪も以前の優しい新華に戻って貰いたかったが、新華自身の態度と未だに引き摺っている感情(恋恋か恩か)が邪魔をして何も出来なかった。

 

 

 

 

 

「…でも、これ以外に私達が出来る事と言ったら地道に話しかける事と、強硬手段しか無いのよね…。でもソレをしたら新華君は抵抗してもっと頑なな態度で拒絶をしてくるだろうし、何より新華君に嫌われちゃうからね」

「……ですが、余りにも長い間この状態というのも良くありません。いっそ専用機組を含めた全員で強引にでも話を聴かせるという手も考えた方がいいでしょう」

「そうなのよねぇ…。…はぁ。新華君、罪の意識が強すぎるわよ。少しは気楽に行けば…って、出来ればあんなに頑固にならないか。はぁ~」

 

 

 

 

 

楯無はため息を付き憂鬱になる。そして、1つの決定を下す。

 

 

 

 

 

「…なら、タッグマッチまで私達で新華君の態度を改善させるよう動いて、出来なければタッグマッチの後に強硬手段を取る事にしましょう。タイミングとしてもいいでしょうし、何かあっても私達なら何とか出来るわ。そうでしょう?」

「はい」

「う、うん…。頑張る…!」

「がんばりまぁ~す」

「よし、じゃあ新華君の事はこのくらいにして解散しましょうか。私はちょっと呼ばれているから、皆は先に帰ってて」

「はい、わかりました」

「わかった…」

「は~い」

 

 

 

 

 

この日の生徒会を解散させ、楯無は呼ばれた所---新華の事で話があるという轡木の所へと向かう。皆、目標を定めた事で新華の問題に希望を持つ事が出来た。

後にそれどころではなくなると知らずに…

 

 

 

 

 

---side out

 

 

 

 

 

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-------------------------------

 

 

 

 

 

---side 一夏

 

 

 

 

 

一夏は副会長として与えられた役割である、各部活動の助っ人に来ていた。

行く部活はくじ引きで決められ、今日は剣道部に居た。

 

 

 

 

 

「ふぅ、お疲れ箒」

「ああ。お疲れ」

 

 

 

 

 

試合ローテーションの最後の相手である箒との試合を終え、防具を外し買っておいた自分と箒のスポーツドリンクを取る。

 

 

 

 

 

「ほら、水分」

「すまない」

 

 

 

 

 

剣道部では以前箒に対して虐めとして、箒に休憩させないような試合のローテーションをしていた。しかし一夏が副生徒会長として派遣されたり、箒がキャノンボール・ファストで実力を示した事で無茶な試合の設定はされなくなった。

それ以前に箒は剣道部の中でも実力者に入る。故にISでの実力が示された今となっては、剣道部での虐めは無くなっていた。

 

 

 

 

 

『トリィ!』

「あ、トリィ邪魔にならないように離れていてくれたのか」

『トリィ!』

「…本当に良く出来ているな。動作が本物の鳥と変わらん。新華の作った物は完成度が高いものばかりだな」

「そうだな」

 

 

 

 

 

トリィが一夏の肩に止まる。トリィの存在によって一夏のイケメン度が上がり女子達からの人気がうなぎのぼりだったが一夏は気付いてなかった。

一夏は新華の名前を聞いて中空を見上げる。それを見た箒は一夏に問い掛ける。

 

 

 

 

 

「…どうした一夏。何か考えているのか」

「…箒、昼に新華と会った後に昼食取って、昨日の夜にあった事を教えただろ?」

「ああ。『サイレント・ゼフィルス』の操縦者に襲われた事だったな」

 

 

 

 

 

一夏は新華が去った後、昼食を皆で取った。その時に昨日の夜にあった事を専用機持ちの皆に織斑 マドカの名前を伏せて話していた。

 

 

 

 

 

「敵の目的は分からず、セシリアのやる気が上がっていたが…」

「…襲われた時、実君が俺を庇って敵の攻撃を防いでくれたんだ。その時の背中が、新華と被ってな。俺はいつまで新華に守られているんだろう、って」

「…それは私達だって同じだろう。新華が居なければ私は今頃死んでいた場面だってあった」

「……そうなんだけど、ほら、前に『新華を超えたい』って言ったじゃないか」

「ああ。今でもその気持ちは変わらんぞ? ただ、『人を斬らずに』という条件が入るが」

「そうなんだけど、俺が考えているのは、そういう事じゃないんだ」

「ふむ、では何だ?」

『トリィ?』

 

 

 

 

 

箒とトリィが首を傾げる。それを見て一夏は言葉を発する。

 

 

 

 

 

「俺、本当に新華を超える事を、新華をも守る事が出来るようになれるのか…って」

 

 

 

 

 

箒は弱気な一夏を見て目を丸くする。一夏はいつだって、落ち込んでも直ぐに元気になって『無理だ』と言われたとしても、目標に向かって我武者羅に努力してきた。そういう時は決まって弱音は吐かず、前だけを一夏は見ていた。

 

 

 

 

 

「実君に庇われて新華の背中がダブって見えた時、過去にも同じような事があったのを思い出したんだ。それで、昔と変わってないって思ってさ」

「…新華に守られているという事がか?」

「うん。昔さ、俺、新華のISがセカンドシフトした現場に居たんだ」

「何? サヤカが生まれる前の、クアンタに?」

「その時はちょっとあって、俺は新華が『蒼天使』って事に気付かなかったんだ。でも、俺に背中を向けて守ってくれてたって点は同じだった」

 

 

 

 

 

一夏が思い出すのは第2回のモンドグロッソで誘拐された時の事。新華も捕まったとはいえ原因は自分にあり、当時から新華は自分の盾になってくれていた。それを思うと、自分は新華に全く近付けていない気がして止まらなかった。

 

 

 

 

 

「だから、俺は本当に強くなってるのかなって。新華に少しでも近付けているのかなって」

「そうだな…。少なくとも、剣道やISの操縦で一夏は強くなっている」

「でもさ、学園祭の時に新華が殺してしまった人に、俺は手も足も出ずに1度白式を奪われているんだ。それを新華は…」

「…白式を奪われた? …その話は後で聞くとするが、そこまでの差があるのか…」

「ああ。だから尚更新華との差が埋められない気がしてな」

「…だが鍛錬し日々を生きる以外に強くなる方法はあるか? 考える事も必要だと新華にも教えられたが、戦闘面での強さは鍛えて上げていくしかあるまい。幸いIS学園(ここ)には強くなれる環境があり私やセシリアといった専用機持ちも居る。焦らず己を高めるしか最善の手もあるまい」

「…そうなんだけどさ…」

「ええい、ウジウジしているなぞ、らしくないぞ! 立て! もう1度試合だ!」

「あ、ほ、箒!」

「悩むのはいい。だが目の前の目標が既に見えているのなら、少しでも近付く為に前に進むべきではないのか!?」

「………」

「例え遠くとも前に進まなければ届くものも届かない。新華との差がどれだけあろうともな。悩んでも何も答えが出ないなら、剣を振って己をもう1度見直せ。昔もそうだっただろう」

「………そう、だったな。ありがとう箒」

「う、うむ。では行くぞ」

「ああ!」

『トリィ!』

 

 

 

 

 

箒の言葉で気合を入れ、一夏は防具を付け直し竹刀を持つ。トリィは飛び部室の窓の縁に止まり持ち主を見守る。

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

2人で竹刀を中段に構え集中して試合を再開する。新華の背中を追って共に。

 

 

 

 

 




もう一夏のヒロインは箒でいいですかね?(いい加減)
新華が寝キャラって事を覚えていた人はどれくらい居ますか? 学園祭以前は授業に真面目に出てたものの寝てて、今は授業にすら出ずに寝てます。
新華の頑固さに苛ついて居る人、もう少し我慢を。

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