一人の女性へ愛を捧げる男の物語   作:( ∴)〈名前を入れてください

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久しぶりィ!


親の心の子知らず、子の心の親知らず。英霊その心を知る 上

崩壊した家々を見詰めながらぼんやりと考える。本来ならば怪我を負った人を助けるべきなのだろうが…その気がさっぱり起きない。

寧ろ…この光景が心底美しいと考える私がここにいる。

 

「あぁ…そう言うことだったのか……父は私に産まれたものに罪はないとそう言ってらっしゃった。誰もが神に祝福されて産まれたのだと」

 

ならばこの私の中にある鬼畜外道の心も神に祝福されて産まれた、そう考えるのが妥当なのだろう。

私にはすべき事をもって生を受け、それを成し遂げるべきなのだ。それこそが私の答、かつて神は己を信仰せぬ者に罰をお与えになった。モーゼが己を信じなかった時、罰をお与えになったように

 

ならばこの光景は神のお望みになったと言う事なのだ。現代の人々…お世辞にも神を信仰しているとは考えられない。

 

「神よ…漸く私は私の為すべき事が分かりました」

 

死に怯える人々も皆救済すべきなのだ。

信仰の失った人々を死によって救済するその為に畜生の心を持って私は産まれた。

私が彼等を救済する為に

 

「マスターよ…答を見つけたようだな己の為すべき事を己の指命を」

 

「あぁ…遂に私は見つけたのだ。己の在り方も己の指命を…人類の救済を」

 

アサシンがマスターと話ながら回りの景色を見つめる。綺礼がこの光景を嬉しそうに見詰めてアサシンがその能面ような顔を変えず見つめる。

 

「してマスターよ貴様己が父親をどうした?」

 

「殺した。父はこの光景に憤怒しておられた、神が望んだ事を否定するなど聖職者にあってはならん事だ」

 

「そうか…」

 

そう言って二人は会話を止めて佇む。綺礼の手を良く見れば袖の所が赤く血塗られており彼の言葉が本当の事だと分かる

回りから聞こえてくる悲鳴を聞きながらアサシンが綺礼に語りかける。

 

「彼等を助けないのか?今殺してやれば彼等も幸せだろうに」

 

「いや…今彼等は神からの試練をお受けになっているのだ。彼等が信仰深ければ神がお助けになるだろう」

 

「故に私は手を出さない」そう言う綺礼の顔は喜悦に染まっておりこの光景を心底楽しんでいるのだと言うことが分かる何という鬼畜外道だろうか。だが綺礼はそれが正しいのだと心の底から思っている。

心清らかな者が彼の言葉を聞けば怒り狂うだろう聖職者ならば彼の言葉を非難するだろう。

 

「あぁ…愛し子達よ貴方達は今、神がお与えになった試練の中にいるのだ…恐れるな、神を信じなさい」

 

「信じろ…信じれば神は貴方をお救いになるだろう」

 

慈愛に満ちた声色で苦しむ彼等にそう説く。事をしている間にも一人、また一人と死んでいく。

誰も彼もが神を、この世の全てを恨み憎みながらその生を終えていく。その姿を見届けていると一人の女性が赤子を庇いながら死んでいる姿を見つける。

赤子は女性が炎から庇っていたらしくまだ生きているらしい。そんな赤子を見つけると綺礼は炎の中から救い出す

 

「母の愛の全てを一身に受け、己の在り方も知らない無垢な心、お前は生きる事を神によって選ばれたのだ」

 

意識を失いぐったりと倒れている赤子を抱き抱えると足を翻しこの場所を後にする。鬼畜外道、今までの彼ならこのような事をするとは彼を知る者ならば思いも寄らない筈だ。

 

ならば何故このような事になったのか、それをこれから語ろう。一人の己が在り方を分からない男が答を見つけた最後の問答の、その一つを。

 

廊下を走るように歩く、何時もならこのような事は神の身元のお近くでするべきでは無いのだが今の私にとってはそれどころではなかった。アサシン…アーチャー、彼等から言われた言葉の一つ一つが私の頭の中で反響する。私は鬼畜外道だと畜生に劣る心の持ち主だと。

 

「ふざけるな…私はその様な物を私の心だと認める訳にはいかないッ!」

 

心の奥底から湧き出るこの熱さ…これが怒りなのだろう。私の為すべき欲しかった物が今になって手に入る。そう思ってしまえばあの時アサシンが見せた光景を見た時に感じた感情を思い出してしまう

確かにあの時に感じたあの高揚感。もしもあれが喜悦の感情ならば…

 

「馬鹿馬鹿しい…そんな訳がない」

 

そう思うもその考えを切って捨てる。今は父に会うことが先決、他の事は考えなくても良いのだと思い父がいると思われる礼拝堂に足を進める。

思い両開きの扉を開き礼拝堂に入ると神に祈りを捧げる父の姿を見つけいざ声を掛けようとするも私の中で様々な考えが頭を駆け巡る。

父は本当に私の全てを受け入れてくれるのか?寧ろ私の心を聞いて軽蔑しないのだろうか?と考えると本来ならば踏み出せる筈の足が踏み出せない。

 

どれ程の時間動け出せずにいただろうか

一時間かも知れないし10分程度だったかも知れない、ただ父の祈りを捧げる背中を見詰めていると声を掛けられる。

 

「どうした?お前も早く祈りを捧げるといい」

 

そう言われ父の隣で祈りを捧げる。祈りを捧げている中やはり私の心は晴れない

 

「父よ…一つ聞きたいことがあるのですが」

 

「ふむ…お前が私に何か聞きたいなぞついぞ聞いた事がなかったな。何が聞きたいのだ?」

 

「もしも…生まれつき世間一般的に鬼畜外道の心を持っている者がいるのならばその者は生まれてきてはいけなかったのでしょうか?」

 

自分の事だと言えなかったのは私が私を認めていなかったから。自分はそうだと口に出してしまえばそれを認めてしまうそれだけは避けたかったのだ。

 

「ふむ…簡単な事だよ綺礼、この世に生まれてきてはいけなかった者等いない」

 

「誰もが神によって祝福されて生まれて来る、その命には意味があるのだ」

 

一瞬父が何を言っているのか理解が出来なかった。いや、理解するのを頭が拒否したと言うのが本来は正しいのだろうか

 

は……? 神は私を御許しになる…? こんな畜生以下の心を持った私の事を?

それどころかそれには意味がある?私が鬼畜外道で有ることを神は必要としているだと?

 

私の中の大前提が壊れていく音が聞こえてくる…敬遠な神父である父を持った私は当然同じ様にそうあらなくては成らなくて、それが違う…神が御許しになりそれを必要としている。

 

「な…ならばその者は一体何を成せば良いのですか?」

 

声は震えていた、これが…此こそが私に必要な答なのだと確信していた。

父が声を発するのが遅く感じる…早く、早くそれを言ってくれ!私の答を教えてくれ!

 

「そうだな…綺礼、神は全知に全能であり全てを作り出した御方だ。ならばその神が「違う!私が知りたいのは私が成せば良いのかだ!」……綺礼?」

 

そんな聖書に書かれているような事が私の答の筈が無い!その程度の事なのだとしたらとうの昔に私は既に救われていた!

 

神では私を救う事は出来ないのだ!

 

「神が私のような鬼畜外道を産み出した理由とは何だ!?人の不幸を喜ぶ事しか出来ない私を神が許すとは何だ!?」

 

「私が成すべき事とは一体何だ!」

 

あぁ…言葉に出したらもう止まらない。私の中で溜まっていた全てが溢れだしてくる。まるで排水溝から溢れだす汚水のように

 

「私は神を信仰しても私の欲しいものが手に入らなかった!それどころか心は空虚なままで日々を生きていた!貴方に分かるか!?神を信仰して救いを得ていた貴方に私の気持ちが!」

 

私の心は神を信仰した所で晴れる事は無かった!心の中にあった空虚な穴は日に日に大きくなるばかりで閉じる事は無く、それを埋める何かを探しても、探しても見つかる事は無かった!

 

「自分の妻を自らの手で殺してやりたかったと思ってしまっていた私の気持ちが!」

 

言ってやった…言ってしまった。私の中の言いたかった事全て言ってしまった。

私は…悪辣な性根を持つ存在、貴方のような人では無いのだ。

私は畜生の以下の下劣な心を持った存在なのだ。人が苦しむ姿を見て喜びを感じる、汚泥に塗れた男。

 

それが私、そうこれが私なのだ。私は鬼畜外道の存在、神に敬遠な神父である父とは対極な存在なのだ

 

「綺礼…」

 

「父よ…私は貴方のような者では無いのです。鬼畜外道、畜生を地獄の釜で煮詰めた性根を持った悪魔のような存在なのです!」

 

「それでも貴方は私が生まれて来て良かった存在だと言えるのですか!」

 

神聖な教会に1人の男の全てが篭った叫びが谺響する。神への、己への怒りが篭った叫び。まるで子どものように叫ぶその姿は普段見せている敬遠な神父では無く、駄々を捏ねる子どものようであった

 

「…………」

 

「父よ!敬遠な神父である貴方ならば私の知りたかった事が分かるのでしょう!私が何をすれば良いのか!私が何の為に生まれてきたのかを!」

 

「答えろ。父…いや言峰瑠正!」

 

綺礼の叫びを聞けど瑠正は何も答えない。ただ綺礼をいつも通りその優しい笑みで見詰めるだけで言葉を発しない。暫くの沈黙の後、何時ものような声色で瑠正は語り掛ける

 

「綺礼…いや私の大切な息子よ。私はお前の事を愛している。神と同じようにお前の事を大切に思っている」

 

「貴方がどれだけ私の事を大切に思っていてくれているのかは私も分かっている。だが!それならば私の心の空虚を晴らす答を教えてくれ!」

 

「どうか

私をこの空虚な地獄から救ってくれ!」

 

矛盾、既に己がどのような人間であるのか分かっているのに、何をすれば満たされるのか心の何処かで理解している筈なのに言峰綺礼は己の中にある空虚を晴らす方法を教えてくれと父に懇願する。

 

それは己の本質である鬼畜外道があってはならないと心の底で思っている彼の心がそうさせるのだ。敬遠な神父である父を持ち、心優しき妻を持っていた彼の中の心の何処かにある人としての大切なナニカ。

 

いくら己の本質を言葉で肯定しようとも何処かで認める事は出来ない。だから別の答えを求める、心とはそんなものなのだ。己の善性と悪性の間で苦悩する男。それが今の彼であり、それをどちらかに傾かせる事が出来るのは彼本人ではなく

 

「綺礼…」

 

「父よ……」

 

彼以外の存在他ならない

 




愉悦型外道神父の制作過程その一

コトミー「サーヴァント共が私は外道だと言うけどあんな優しい父を持つ私がそんな外道なわけが無い!(震え声)」

パッパ「鬼畜外道でも生まれた意味はあるぞ。神様も許してるからな」

コトミー「ファッ!?なら私は何をすればええねん!私は鬼畜外道やぞ!(開き直り)」

コトミー「そんな私が何をすれば良いのか、何をしたら救われるのかさっさと教えんかいオラァ!」

パッパ「」

只今の状態は大体こんな感じ

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