Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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今回は3年後。
時間は進み、フロンティア船団の活動が本格化します。


第7話 動き出す者達

スワラージ作戦から3年後の1995年末。木星圏で着々と準備を進めていたゼロ達フロンティア船団は当初よりもその規模を大きくしていた。

マイクローン装置の代わりに設置されていたレアリエン用パーツの製造設備を稼働させて活動するレアリエンを10倍の2000人にしたためだ。操艦等は自動化が進んでいたために大きな問題もなく進んでいたのだが、兵器の保有数が増えたり月日を重ねたりしていく内に人手が足りなくなって来ていたのだ。

自動化された機械では対処できない場所の修理や、環境艦の動植物の調査などは人間と同じ思考を持つレアリエンでないと対処出来ない。よって、次第に増やして行って落ち着いたのが2000体と言う数だった。もっとも、そのすべてが従軍しているわけではなく、4割ほどは食糧の生産や建築、学問といった分野に散って一般人として暮らしている。もちろん、簡単な訓練は受けているため非常時のヘルプには入れる。

現在の人口はレアリエンを含めて2002人。人間はゼロとスワラージ作戦で救出したESP発現体の少女だけだ。

 

そしてグリニッジ標準時1995年12月31日22時01分。フロンティア船団のうち、旗艦バトル・フロンティアとマクロス・クォーターは月の近くにフォールドアウトしてきた。

月面奪還作戦。そのために5年かけて揃えたバルキリー部隊が2隻に搭載されている。バルキリー108機の1個師団と偵察用ゴーストが12機、72機2個大隊のデストロイド部隊まで用意した。戦術機で同数の180機を揃えてもハイヴ攻略は不可能だが、バルキリーはスペックで戦術機を圧倒している。加えてマクロスが2隻。戦力は充分だ。

 

さらに、現在確認中の要素もある。それは『月に光線級はいない』という推測だった。

 

 

 

「先行したQF-4000部隊より月面の探査データを受信。

 

 ……現在、月面に光線級の痕跡はありません」

 

 

 

ゼロの居るマクロス・クォーターのCICに座った百式がスワラージ作戦でVF-19S(改)の入手したBETAのデータとゴーストから送信されてきたデータを照らし合わせて報告する。その内容に艦長席に座ったゼロは口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

「…続けて各種レーダーによるハイヴ内の索敵に移ります」

 

 

 

「60分で切り上げて撤退させろ。作戦開始までに確実に脱出させてくれ」

 

 

 

「了解」

 

 

 

「あの……ゼロ…」

 

 

 

コンソールを叩き、ゴーストに指示を出す百式。ゼロが指示を出し終えたのを見計らい、その後ろに控えていた少女が躊躇いがちに声をかけた。

手入れの行き届いた腰まで届く銀髪をうなじの高さでヘアゴムで1房に止めた色白の少女だ。左目には黒い眼帯を着け、百式達と同じ統合軍の女性用制服を着ている。

 

 

 

「ん?なんだ?ナターリア」

 

 

 

ナターリア・ビャーチェノア。

 

かつてドゥヴェースチ・ビャーチェノアと数字で呼ばれていた少女は今は祖国と決別し、フロンティア船団で生きていくと決めた日よりそう名を変えた。そして、その時祖国や家族を忘れないようファミリーネームはそのままにし、ファーストネームもソ連風の女性の名にしていた。

救出後フロンティア船団で様々なモノを見ながら過ごしたナターリアは人間らしい感情を手に入れ、同じ人間であるゼロとゼロに言われて自分世話をしたカナンとモモに懐いている。本人曰く、ゼロは兄でモモが妹、カナンが父だそうだ。前者2人は初めにそう言われた時には恥ずかしそうにしていたが同時に嬉しそうではあった。が、カナンだけは少なくない精神的ダメージを負ったようだったが。

そしてナターリアはゼロ達の力になりたいといい、バルキリーの操縦適正があまり高くなかったためにゼロの副官及びクォーターの副長を務めている。

そしてリーディングに頼らないようにしているナターリアはゼロに作戦立案時から気になっていたことを訊ねた。

 

 

 

「どうして、ゼロは月に光線級BETAが居ないと思ったのですか?」

 

 

 

「あぁ、その事か。

 ナターリアには以前話したよな?俺の過去とこの世界の可能性の2つを」

 

 

 

 

「えと…はい。BETAが居ない世界から来た、というのと桜花作戦とバビロン作戦ですよね…?」

 

 

 

「そう。その桜花作戦で得られたBETAの生態…というのかな。分からんが、行動原理がかなり単純だったんだ。

数々の星を渡って資源を回収する。それだけがプログラムされた土木機械、それがBETAだ。そして奴らは人間を生命体と認識せず、人類の反抗を地球の自然災害と認識しているんだ」

 

 

 

月に立つハイヴモニュメントの中でも最も巨大な月のオリジナルハイヴ。今現在クォーターの遠く正面に天辺を見せるそれを見ながら一端言葉を切ったゼロはナターリアに視線を向ける。ここまでは分かったか、という確認にナターリアは頷く。

 

 

 

「人間も、戦術機も、核兵器も災害。当然、今のところはG弾だってそうだろう。

 そして地球で光線級が誕生した理由は何だ?」

 

 

 

「戦闘機…ですよね?」

 

 

 

「そう、戦闘機。その戦闘機はBETAにとってどんな災害だっただろう。自分達の届かない高さから攻撃してくる。それは軌道こそ違うものの砲弾やミサイルも同じだ。空を飛ぶ物。それに対処するために造られたのが光線級で、それ故空間飛翔体を優先して狙う。

 

そして、光線級で対処しなければならなかったような物は今まで地球以外で観測されなかった。故に地球特有。作業最優先の奴らが、戦闘機などの災害の無い地球以外でそんな災害に対処するために造られた物を他でも造ると思うか?そんな物を造るなら小さいが月面戦争時代から活動していた戦車級とかを量産した方がよっぽど効率的だ。

 

月や火星で光線級を造る理由がないんだよ。人類は月面戦争でもパワードスーツや戦車といった地上兵器しか使ってなかったんだからな。上から襲ってくるのは地球だけだった」

 

 

 

ゼロの推論を聞き、ナターリアは純粋に驚いた。なんの根拠もなく月にも光線級は居る、と思っていたのだが、ゼロは根拠を持って光線級は居ないと言っていた。そしてその根拠を聞いて納得した。

推論するための材料をなる情報の差があったとは言え、確かにそう考えれば月に光線級がいないと考えられる。

 

 

 

「ま、人間の考えの効かないBETAだから、本当に居ないかはしっかり確認しないといけないがな。ひょっとしたら月の低重力に適応した新種がいるかも知れんし、気は抜けないぞ」

 

 

 

「っ、はい」

 

 

 

BETAに人類の常識は通用しない。これは先人達から言われてきた戦訓だ。これを忘れたら一気にBETAに呑まれる。ナターリアは気を持ち直し、正面ハイヴ構造物を見る。これから始まる大規模作戦。この世界の地球生まれの人間としてただ1人の立ち会い人となるナターリア。

一瞬たりとも気を抜かない。そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてグリニッジ標準時1996年1月1日00時00分。

 

 

 

「作戦開始!」

 

 

 

ゼロの号令とともに月面オリジナルハイヴ攻略作戦が開始された。

 

 




今回は少し書き方を変えてみました。
さらに、ゼロによる月面における光線級の考察。オリジナル設定ですがいかがでしたでしょうか。

次話では撃って殴ってぶち抜いて吹き飛ばす、という虐殺タイムを予定しています。

今回も閲覧いただきありがとうございました。

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