Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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サブタイトルを考えたいのだが、思いつかない……。


第4話 聖剣の目的

 

――――ボパールハイヴ内部。そこは幻想的な地獄だった。

 

一見暗く大きな洞窟のようなそこは、岩肌に付着した苔かもしくは岩肌自体かが淡い緑色の光を放って辺りをほんのりと照らしていた。そのため、陽の光の届かない内部に潜っても暗闇とは程遠い。

そしてその地を埋め尽くすかの如く流れる赤い川。全長2m弱の蜘蛛のような外見をした醜悪な流水は戦車級と呼ばれるBETAだった。戦場に現れるBETAの中でもっとも多く、もっとも多くの兵士たちをその搭乗兵器ごと喰らったのがこいつ等だ。

普段なら数にものを言わせて戦術機に喰らいついていく戦車級だったが、今回ばかりは一方的に蹂躙されていた。

 

 

 

「反応炉に我々の情報を伝える訳にはいかない。確実に殲滅しろ。」

 

 

 

ゼロの駆るVF-19S(改)率いるバルキリー1個中隊は戦車級の跳躍でも届かないような高さに滞空しながらガンポッドやミサイル、対空レーザー機銃で虐殺していた。さながら絨毯爆撃のような連続的な爆発の波に呑まれ、戦車級はなす術なく死滅していく。

 

一帯の戦車級が全滅するとエクスカリバーは全機ファイター形態へ変形し、ハイヴ内を陣形を組んで飛ぶ。4機で1個小隊というこの世界の編成基準に則り、4機中3機で三角形を描き中央に1機が収まる。この陣が3つあり、更にこの3つで三角形を組む。一般的には傘型の陣形に似ている。フォーメーション・トライフォースと名付けられたこの陣の先頭集団の中央にゼロは居た。

 

 

 

「ッ!レーダーに反応!ターゲットと思しき熱源を探知しました!」

 

 

 

「了解。ナイト1より各機、ターゲットと思しき熱源を捉えた。アクティブ・ステルス最大展開、バトロイド形態での追跡を開始する。」

 

 

 

ゼロは言いつつ返事を待たずに通信を切り、アクティブ・ステルスの機能を最大まで上げる。アクティブ・ステルスとは相手のレーダー波を解析し、欺瞞情報を送り返すことによって此方の位置を隠すステルス機能のことで、従来のステルスと異なり機体の素材や形状に拘らなくていいという利点を持っている。更に言えばその効果は従来のものよりもはるかに優れ、いかにレーダー機能を強化された機体であってもこの時代の技術で作られた物では捉えることは出来ない。もっとも、人間や機械をレーダー以外の何らかの方法で探知するBETAに対しては何の意味もない機能である。

 

高速飛行が可能な代わりにエンジン音が大きくなるファイターやガウォークは止め、バトロイド形態による主脚歩行と短距離跳躍で前方に居る戦術機に近づく。

 

 

 

「機体識別完了。F-14AN3マインドシーカー、ビンゴです。」

 

 

 

「数は?」

 

 

 

マインドシーカーは国連主導の一大計画である「オルタネイティブ計画」の第3計画――通称オルタネイティブⅢ直属部隊に配備された機体で、これはこのスワラージ作戦でハイヴに潜ったと言われるフサードニク中隊の物だ。スワラージ作戦の要であり、ゼロ達の今回の目的でもある。

 

 

 

「残存機数12。中隊全機の健在をかく……ッ!偽装横坑よりBETA群出現!1機撃破されました!」

 

 

 

百式がフサードニク隊の状態を報告していたところで中隊の近くの壁が吹き飛んだ。そこから大量のBETAが湧いて出て来る。そして一瞬にして穴の近くに居た1機が赤く染め上げられた。10体以上の戦車級が取りついたのだ。衛士がパニックを起こし操縦桿から手を放したのか、そのマインドシーカーは一切抵抗することなく崩れ落ちた。

 

 

 

「生体反応は?」

 

 

 

「2つとも消失しました…。」

 

 

 

マインドシーカーの特徴の中でその最たるものは複座型であるということだろう。複座化は操縦を分担することで衛士1人にかかる負担を軽減することがメリットとして挙げられるが、2人の人間が操縦するため双方の意志の疎通が必要不可欠だ。更に言えば、1機でも多くの戦術機が必要な対BETA戦において複座型の機体を運用することは無かった。では何故このマインドシーカーは複座型を採用しているのか?それは前部座席に座る『少女たち』がオルタネイティブⅢの達成に不可欠なキーだからだ。複座型でありながらマインドシーカーは操縦の分担を行っていない。後部座席の衛士が1人で操縦していた。

では前部の少女は何をしているのか?その答えは『リーディング』と『プロジェクション』と呼ばれる第3計画によって生み出されたデザインベイビーたる彼女達の持つ与えられた能力の行使であった。

 

対象の脳波を色や絵に変換して読み取る『リーディング』と、対象の脳に此方の感じたモノをぼんやりとだが伝える『プロジェクション』。

 

この2つを駆使してBETAの思考を読み取り、有効な戦術を構築する。もしくはBETAに平和的なイメージを与え、友好的な関係を築こうとする。それがソ連の主導するオルタネイティブⅢの概要だった。

そして相手の思考を読み取るなどと言う通常の人間とはかけ離れた能力を与えられた少女たちが一般衛士達に快く受け入れられるわけが無かった。元来人間という生き物は一般と違うものを忌避する傾向がある。普通に生活するに当たって最もよく目にするモノを基準とし、そこから少し違ったモノが有れば表面上は受け入れたような態度を見せつつも本心では距離をとりたがる。家族といったような強固な繋がりのない関係であったなら尚更だ。

そしてそんなふうに父も母もなく、生まれたのではなく造られた人と違った能力を持った少女たち。衛士たちは畏怖し、背中を預けることは出来ないと少女たちを前部に座らせていた。

所詮は道具。壊れた(死んだ)なら代わりを造ればいい。

 

人間でありながら人間として見られない少女たち。その保護がゼロの今回の作戦目的だった。しかし、ならば今死んだ者達は良かったのか?よくは無かった。が、後の事を考えると今この場でマインドシーカーを撃破して連れ去るというのはリスクが高かった。ここで交戦して少女たちを連れ去れば正史にあったフサードニク中隊のもたらした『BETAには思考はあるが、人類を生命体として認知していない』という情報が伝えられなくなる。他の作戦で得られる可能性もあるが、今回のスワラージ作戦のような大規模作戦はもうない。次はいつ、何処のハイヴで第3計画が行動するか分からない以上、この場が唯一の場だった。

第3計画の最終生還率は6%。そして極僅かな可能性ではあるが、そのすべてが即死だったとは思えない。それを待つ。無ければ、帰還途中を襲撃する計画ではあるが、そうなるといろいろ面倒が増えるので遠慮したかった。

 

 

 

「フサードニク中隊、前進を再開しました。残機数10、撃破されたのは2機。両機ともに生存者はありません。」

 

 

 

「…そうか。

では、行くぞ。此方を感知し、向かって来るものだけを殺せ。

 

 

……すまないな。」

 

 

 

足元で蠢くBETAをホバリングで往なしながらフサードニク中隊を監視していたゼロ達はガンポッドによる銃撃と脚部に内蔵された高火力のマイクロミサイルの投下でBETAを吹き飛ばしながら追跡を再開する。途中、地面に転がるマインドシーカーに小さく謝罪の言葉を投げかけ、前進した。

その表情は己が未熟故に幼く、世界を知る事も出来なかった子どもを救えなかったことへの憤りで満ちていた。

 

 

 




本日も更新出来ました。読んでいただきありがとうございます。

先日、感想で貴重なご意見を頂きました。
今後追加設定がいくつか出てくる事が予測されます。
大目に見ていただけると幸いです。

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