Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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目指せ、毎日更新!
(…せめて大学の春休み中は)

と、いう感じです。話のストックはまだありますので今のところ余裕がありますです。


第2話 ファーストアタック

そして月日が流れ、1992年9月某日。ラグランジュポイントの一角に一隻のグレーの巨艦が在った。全長400mを超えるこの艦はフロンティア船団からフォールドと呼ばれるワープ航法を使って単独で地球圏にやってきたステルス強襲艦マクロス・クォーターであった。その甲板には12機の蒼い機体が並び、発進の指示を待ちわびていた。グレーのミサイルポッド兼増加ブースターであるファストパックを装備したその機体達は今回の作戦のために半年間で急遽製造され、さらにフロンティア船団の設備で最新式に改修された単独での大気圏突入・離脱能力を備えたエース機VF-19F エクスカリバーだった。高性能ながらも操縦性の悪さからじゃじゃ馬とまで呼ばれたYF-19の操作性をある程度改善したその機体を駆るのはゼロとカナン、そして他のレアリエン達の中でも腕利き10人を引き連れた船団最強の中隊だ。そしてその中でも異彩を放つのがゼロの乗る機体だった。左右のファストパックを改修し、ミサイルの装弾数を減らして小型レドームを装備しており、識別名称はVF-19S(改)となっている。シートも複座になってり、後部座席には髪の色が水色なだけでモモとそっくりな百式レアリエンが1人座っていた。

 

 

 

「クォーターよりナイト各機へ。ユーラシア大陸インド領ボパール付近にて戦闘と思しき熱源を探知。スワラージ作戦が開始された模様。」

 

 

 

クォーターの艦橋で通信席に座った百式レアリエンからの報告にエクスカリバーに搭乗するゼロは気を引き締める。

 

 

 

「ナイト1、了解。予定通り、軌道降下師団(オービット・ダイバーズ)の陰に紛れて降下する。ナイト2(カナン機)を先頭に慣性航行にて地球に接近開始。」

 

 

 

「了解。ナイト2、発艦する。」

 

 

 

カナンのエクスカリバーを拘束していたワイヤーが外され、電磁式カタパルトが作動してカナン機を押し出す。一瞬にして加速させられた機体はそのまま慣性に従って地球へと流されていく。続けて他のエクスカリバーも射出されて行き、ついにゼロの番となった。

 

 

 

「では、死なないように頑張ってくるとしよう…。

 

 ナイト1、ゼロ機出るぞ。」

 

 

 

途端に勢いよく押し出される。シートに強く押し付けられる感覚に呻き声が漏れるが、アイランド内の擬似重力下でのアクロバット飛行に比べたらどうと言うことはない。

そしてクォーターから放れたなら後は進路を微調整して待つだけになる。その微調整も後部座席の百式がやってくれているので、ゼロの仕事はもう降下するまでない。

 

 

予め傍受しておいたスワラージ作戦で降下師団の出番は中盤であることは分かっていた。

戦車や歩兵、戦術機、さらには衛星軌道上からの爆撃などでBETAを――特に光線級を地上に引っ張り出し、その大半を殲滅した後にAL(アンチレーザー)弾による重金属雲の展開。この段階で漸く降下師団の降下が開始される。光線級は空間飛翔体を優先的に狙い、さらにその精度は恐ろしいまでに正確だ。下手に光線級が残っていたり、光線級のレーザーを幾分か減衰させる重金属雲が不十分な状態で降下しようものなら最悪大気圏突破に使う再突入殻がそのまま棺桶になりかねない。

 

そして降下師団は本作戦におけるハイヴ攻略部隊であり、彼らの全滅はそのまま作戦の失敗である。そのため、確実に降下出来るよう光線級の誘き出しに時間をかける。降下師団の降下は最短でも作戦開始から3時間後であろうというのがゼロの予測だった。

 

そしてその予測は当たった。作戦開始から3時間後――ゼロ達が衛星軌道上に到達して30分後、地球周辺を周回していたシャトル群から大量の再突入殻が放出される。ダミーも合わせて50は超えている。今回のタイミングで投下するのは傍受していた通信から分かっていたため予め温めてあったエンジンの回転が一気に加速する。

 

 

 

「ナイト各機、発進!降下後即座にハイヴ構造体北部より突入する!」

 

 

 

ゼロが叫ぶ。

 

それと同時に12機全てのエクスカリバーがテールノズルの蒼白い光の筋を残して飛び出した。スワラージ作戦を監視するためにこの宙域の監視衛星のほとんどが内側を向いており、外から接近するエクスカリバーには気づいていない。また、視界の狭いシャトルの搭乗者には目視すらされず、レーダーには放出したばかりの再突入殻と混ざってしまってエラーとして認識される。

 

結局、宇宙に居た者達は誰一人として地球に降下していった12個の蒼い機影に気付かなかったのである。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 

 

 

 

大気の摩擦等で激しく揺れるコックピットの中でゼロは歯を食い縛りながらも眼だけは見開いていた。ピンポイントバリアを機体下部に集中展開させ、摩擦熱から機体を保護する。それでも熱は完璧には防ぎきれず、コックピット内は優に60℃は超えている。機体とパイロットスーツの空調設備が無ければあっという間に熱中症に陥っていただろう。

と、ゼロが場違いなことを考えていると近くで複数の爆発が起こった。

 

 

 

「軌道降下師団、光線級による狙撃を受けています!」

 

 

 

「チッ…!光線級の数が多いのか!?

 

 各機大気圏突入後全速で降下しろ!速度にモノを言わせて突っ切る!」

 

 

 

「了解!」

「「「イエッサー。」」」

 

 

 

百式からの報告に舌打ちしつつ即座に対応を考え、叫ぶ。大気圏突入中のため電波状態があまりよろしくないが、全員の返事を待つ余裕はない。

数秒後、大気圏突入の高熱で赤く染まっていたコックピットがもとの色を取り戻す。ゼロは即座にコントロールスティックを前に押し倒し、機首を下げさせる。地表とほぼ垂直になるまで機体を傾けた後、一気にスロットルを踏み込んだ。二発の熱核反応タービンエンジンが火を吹き、白い飛行機雲の軌跡を引いて加速する。エンジン出力に加えて重力による加速によって尋常でない負荷が機体と搭乗者に加えられる。機体の方は不用な部分の電力供給をカットして無理やり発生させたピンポイントバリアで凌ぎつつ、人体にかかる分は小型の重力制御装置とパイロットスーツの対G機能、それと根性で耐える。

 

 

 

「…ッ!レーザー照射来ます!」

 

 

 

後部座席の百式の悲鳴のような短い声が挙がる。

 

 

 

「突っ切る!後続、続けぇ!!」

 

 

 

機体前部に集中したピンポイントバリアと全体に施した対レーザー塗膜によって数秒程度の照射なら問題ない。連続的な照射を受ければ塗装が剥がれてしまうが、よほど集中的に狙われない限りもつ。

 

回避行動は一切行わず、ただ真っ直ぐに落ちていく。後続11機も全機が同じように落ちている。

 

 

 

「舌噛むなよぉ!」

 

 

 

やがて近づく地表。BETAの体液で染まった紅い大地ギリギリまで我慢を続け、変形レバーとコントロールスティックを一気に引いた。

 

部分変形によって脚部が前に押し出され、機体に急制動を掛ける。音速を軽く超えた速度から一瞬にして秒速0m近くまで減速したため、身体に掛かった負荷は並ではなかった。それでも足を止めれば『死』に繋がるのが戦場だ。すぐに機体の体勢を整え、ガウォークもどきからファイター形態に戻る。地表数mの高さを音速で駆け抜ける。

 

 

 

「ナイト2から12まで、全機のマーカーを確認しました。作戦をフェイズ2へ移行します。よろしいですか?」

 

 

 

「許可する。」

 

 

 

百式がレーダーを確認し、全機が健在することを知らせる。次いでフェイズ2――弾薬を極力消費しないよう、回避重視の戦闘機動でハイヴへの突入指示を出していく。バルキリーは取り込んだ大気をタービンで加熱し、膨張したそれを吐き出すことで推力を得ている。つまり、原子力エンジンを搭載しているため半永久的にタービンを回し続けられるバルキリーには大気圏内で行動するに当たって活動限界というものが存在しない。機体が壊れない限り飛び続けられるバルキリーは長丁場が当たり前の対BETA戦において非常に優秀だった。

 

ファイター、ガウォーク、バトロイド。

 

3形態全てを駆使し、緩急をつけた機動でBETA群を翻弄しつつ、ゼロ機を始めとした12機のバルキリーは一直線にハイヴの入口を目指した。

 

 

 




今回もありがとうございました。

…ふぅ、1区切りずつの文字数稼ぐのがキツイ。皆さんよく書けますね。尊敬しますよ。

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