Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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お久しぶりです。今回もまた1ヵ月ぶりです。


第19話 関門海峡防衛戦

 ゼロ達のVF-19が岩国基地での簡易補給を始めた1時間後、BETAの先頭集団が防衛部隊の射程圏内に侵入を果たした。開戦の合図はフルアーマードVF-11Cによる長距離ミサイルの雨。一機に付き100発を超える大量のミサイルが低空を直進して先頭を走っていた突撃級の群に真正面からぶつかり、盛大な花火を咲かせた。尤も、装甲殻を破るには単発火力が足りず傷をつけるだけに終わり、その傷も自然回復してしまう。それでも、足元で爆発したミサイルや突撃級の下に回り込んだミサイルは足を吹き飛ばしたり、そのまま命を奪った物もあった。このミサイルで完全に撃破した数は少ないが、真正面からの爆発による圧力で先頭のBETAの進行速度が僅かに鈍り、後続との差が縮まる。そこに水平線の向こう側に陣取ったアイランド21上で帰還して弾薬の補充を済ませたナターリア率いるラビット小隊のVB-6ケーニッヒ・モンスターの砲撃が撃ち込まれる。そしてそれでも倒し切れなかったBETAの群にスカル大隊が突入する。最優先撃破目標は突撃級。突撃級さえ居なければ正面からの砲火が通用するからだ。36機編成の大隊を半分ずつに分け、左右から挟み込むように突撃。ファイター形態での一撃離脱でミサイルや機銃で同時に複数のBETAを攻撃していく。レアリエンならではの完璧な役割分担でターゲットが重複する事なく、一度の突入でほぼ全ての突撃級に致命傷を与えて離脱する。残った僅かな突撃級とその後ろに控えていた他のBETA群に対してはフルアーマードの重ガンポッドと帝国軍戦術機の突撃砲による正面からの分厚い弾幕によって殲滅する。

 その後新たなBETA群が侵攻して来るが、それも補給を済ませたスカル大隊が再度突入して同様の戦法で殲滅。しかし、フルアーマードの搭載ミサイルが底を尽くとラビット小隊による撃破数が落ち始める。既に5度目の戦闘に突入している今、フルアーマードはアーマードパック内のミサイルを撃ち尽くしており、2種類のガンポッドとアーマードパックの連装レーザー砲による中距離砲撃戦を展開。未だに近距離戦闘の間合いに侵入させていない為撃墜された機体は帝国軍機にも居ないが、それもいつまでも続かないだろう。現に、最も厳しい戦闘を繰り返しているスカル大隊では損傷した機体が出始めている。目の前に飛び出してきた突撃級や要撃級を避けようとして高度を上げてしまった機体の片翼が光線級に撃ち抜かれたり、長時間に及ぶ連続戦闘に機体にトラブルが生じたりと戦死者は居ないものの限界が近づいていた。

 

 

「…スカル大隊を引かせろ。代わりは我々が務める。奇数班は俺、偶数班はカナンが指揮」

 

 

「了解。ナイト1よりナイト各機。スカル大隊に代わり、ナイト中隊が切り込み隊になります。ナイト2は4,6,8,10,12を指揮してください。

 続いて、ナイト1よりスカル大隊各機。後退してください。ナイト中隊が引き受けます」

 

 

 指示を回してもらい、その間にアイドリング状態だった機体のステータスをチェックする。弾薬は満タン。各部異常無し。ガウォーク形態で待機していた機体を浮かび上がらせる。整列していた中隊の各機も同じように浮かび、一斉にファイター形態へ変形する。BETA第2陣が上陸を始めて既に24時間を超えている。ナイト中隊で撃墜は1機。死者は無し。撃墜されたナイト6も、今回の補給の間にクォーターから予備機を送って貰ったお陰で戦線には復帰している。しかし戦闘に続く戦闘で機体にもパイロットにも相当な負荷が掛かり始めている。もう2,3のBETA集団の殲滅が完了すれば1回引き上げた方が良いかも知れない。交代要員として休息に戻していたアポロ大隊と、環境艦の治安維持に残していたフルアーマードのもう1大隊を送るように指示を出す。

 低空を高速で飛翔しながら部隊を半分に分け、左右に散らせる。海峡を超えれば防衛部隊の姿が見え、突貫工事で築いた簡易な補給基地に辿り着いた。もう少しで後退させる連絡は行っているため、フルアーマードの大隊は持ち込んだ補給物資全てを使い切るつもりで予備のガンポッドも引っ張り出してきている。戦死者を出すことなく防衛線を維持できているためか帝国軍の方も士気は高いようで、地上に出ていた整備兵らしき男達が通り過ぎるゼロ達に拳を突き上げている姿をカメラが捉えられていた。軍上層部の方では一部違うが、最前線の兵士達からはかなり受け入れられているらしい。平時であれば何かしらのパフォーマンスでも入れてやりたいが今は戦時だ。そのまま通り過ぎ、少し内陸に入った辺りで機体をガウォーク形態に変えて着陸する。再びアイドリング状態に戻して後は索敵班が敵集団を見つけて予測侵攻ルートを導き出すまで待機だ。

 

 

「…そう言えば、環境艦に収容した避難民はどうなったか報告は来ているか?」

 

 

 待機している間は周辺警戒も交代制なので空き時間は多く、その時間にふと思いついたことをゼロは背後の百式に訊ねた。百式はサッと機体の通信ログに目を通し、その中から環境艦についての報告ファイルを見つけると開いて目を通す。

 

 

「はい、暴動や混乱もなく比較的落ち着いているようです。避難民の大半は海岸エリアや放牧エリアに集中しているようで、機密区画への侵入者も10名を切っており対処完了しています。配膳した食糧も合成物ではないため好評を得ているようですね」

 

 

 負傷者に関しても医療設備を開放しており献血を募ったり、治療を施したりしている。尤も、外科医などは居ないため基本全自動で機械が管理しており、医療ポッドや回復促進の医療用ナノマシンを中心とした治療法で、この世界の人間にとっては違和感しかないだろう。それでも患者は暴れたりすることなく治療を受けているため警備を担当しているレアリエンは手間が省けて助かっているらしい。

 基地へと改修した機密区画への侵入者も無害な正真正銘の迷子が半数を占め、残りは他国と仲のいい所謂密告者だったそうで、後者の中でも特に抵抗的だった者は現在環境艦内の孤島でサバイバルに勤しんでいるらしい。警告や艦内での注意事項、違反者への処置等は予め通達しておいたので、文句を言われる筋合いは無い。一応最低限の飲み水とサバイバルナイフ一本は放置した地点の近くに落としておいたというし、バルキリーが定期的に哨戒するため死にはしないだろう。

 

 

「西北西、12kmに新たなBETA群を発見。防衛部隊にデータを転送します」

 

 

「頼む。中隊全機、戦闘準備!第1部隊20秒で離陸!」

 

 

 レーダーに新たなBETAが表示され、百式が後方の補給基地に展開している部隊に規模と予測侵攻ルートを算出したデータを送信する。その一方でゼロ自身も通信機を通してナイト中隊に出撃命令を出す。そして機体の出力を戦闘状態まで引き上げ、計器を確認して異常が生じていない事を確認して離陸する。それに続くようにゼロの後方でも5機のVF-19がガウォーク形態で浮遊する。

 

 

「ナイト中隊、出るぞ!」

 

 

 ゼロが叫ぶと同時に6機のVF-19が一斉にファイター形態へ変形して飛ぶ。少しの間縦一列の隊列を組んで飛翔していると、頭上を高い熱量を持ったナニかが一瞬で通り過ぎ、先の大地に落ちて灼熱の華を咲かせた。VB-6の320mmレールキャノンの砲弾だ。広範囲を巻き込んだ爆炎の中から砲撃で吹き飛んだBETAをものともせずに前進して来る後続のBETAがワラワラと姿を現す。

 

 

「エンカウント!全機、オープンコンバット!突撃級を最優先!」

 

 

 バトロイド形態に変形してガンポッドとミサイルを疾駆する突撃級の中でも最後列に居る個体の横っ腹にブチ込みながら叫ぶ。ゼロを始めとした4機が前衛に立ち、足を止める事なく駆け抜けながらガンポッドとレーザー機銃で掃討戦を開始する。火力の高いミサイル系は敵集団の内側に入ってしまえば扱い難いために撃っていないが、肉質の柔らかい背面を狙っての攻撃なのでガンポッド等でも10発程叩き込めば行動不能にまで追い込むことは出来る。絶命はしていないが移動が出来なくなっていればそれでよく、前衛4機の攻撃に耐えた個体を後衛に就いた2機が追撃を撃ち込む。動けなくなって倒れた突撃級はその状態でも14mはあり、ガウォーク形態をとったバルキリーなら充分に隠れる事が出来る。前方から同じようにして哨戒してきたカナンの率いている部隊と交錯した後、ガウォーク形態で動けない突撃級を光線級からの盾にするように回り込んでホバー移動する。こうすることで要撃級や戦車級と言った突撃級の直後について来る筈のBETAが倒れている突撃級を乗り越えて来なければならなくなり、進軍スピードが格段に落ちる。その隙に連携らしい連携をしないで真っ直ぐに突き進む残った突撃級を背後から攻撃を加える。こうして突撃級による簡易防壁を2層作ったところでナイト中隊は離脱を計る。これが大隊規模での哨戒であったなら弾薬に余裕があって最低でももう1,2層作れるのだが、中隊は大隊の3分の1しかいないのだ。一度目の哨戒で3分の1の機数と同等の戦果を挙げたのだがそれで限界だった。

 

 

 結果として、今回の戦闘で防衛部隊は遂に近接戦闘を繰り広げた。簡易防壁によって密度の増したBETA群に対してVB-6や帝国海軍の軍艦、陸軍の戦車隊からの波状攻撃が撃ち込まれたのだが殲滅には至らず、戦闘を駆け続けていた突撃級の集団と格闘戦一歩手前まで行き、警戒したVF-11Cがアーマードパックをパージしたのだが、減少した火力では砲撃を切り抜けた残党を抑えきることが出来なかった。帝国軍の戦術機は74式近接戦闘長刀を抜き放ち、VF-11も戦術機の短刀を借りて突貫で取り付けた銃剣で斬りかかったり、銃身が焼き付くまでトリガーを引きっ放しにして近距離砲撃戦を繰り広げたりした。そしてフロンティア船団側には居なかったが、帝国軍の方で遂にこの防衛線初の戦死者が出た。新兵が乗っていたという77式撃震が4機大破し、乗っていた衛士も1人しか遺体が回収出来ない程だった。それに加え、補給基地にまで兵士級と闘士級といった小型種が数匹侵入し、衛兵8人と整備兵2人が戦死した。この小型種は補給基地の機械化歩兵と整備用に派遣されていたレアリエンがEXギアを使用して撃破した。

 その戦いから二日後、侵攻しているBETAが中隊規模での散発的なモノになってきたため戦死した14名の簡素な追悼式がつい先ほどまで行われていた基地の片隅でゼロ達ナイト中隊はクォーターへの一時帰還準備を進めていた。先の戦闘でアーマードパックをパージしたVF-11の大隊はもともと限界が来ていた事もあって戦闘の翌日に帰投している。その際、アーマードパックの残骸は簡単な即席地雷としてリアクティブアーマーを起動し、ビーム砲のジェネレーターも外部からの暴走が可能な状態にしてBETAの侵攻が多かったルートに適当に埋められている。BETAがそのルートを通った際に一切の躊躇いも無く爆破すると宣言したため、衛星からの監視で軽く確認したところ盗人は出なかったし、実際に起爆した際も変な箇所で爆発した形跡はなかった。

 

 

「…さて、帰ったら再出撃の前に美味いもんでも食いたいな」

 

 

 アポロ大隊や交代のVF-11の大隊が到着した基地を後にし、海上で待つクォーターへ帰投しながら誰にともなく呟く。実際、基地では最初はともかくだんだんと歓迎されてきており、絶大な戦闘能力を持つ機甲戦団の代表ともなればそれなりに品の良い食糧を分けて貰えた。飼い慣らすための餌のようなモノで、この世界の食事としてはまぁまぁ美味しい部類に入るのかも知れない料理だったが、残念ながら合成品を扱っていない船団の食事と比べれば数十段ぐらい落ちる。口にすると問題になるので黙っていたが、クォーターでの食事が日を追うごとに恋しくなっていったほどだ。そしてそれはカナン達も同じようで、失礼にならない程度に食べてから貸し出された区画で持ち込んだレーションを齧っている姿を何度か見ている。

 BETAが侵攻を開始した時には頭上に在った台風もとうの昔に列島を通過し、青く澄んだ夏の空が広がっている。何もなければ眼下の海に思いきり飛び込みたい天気の中飛行するゼロ達が後10分ほどでクォーターとの合流地点に到着しようという時分、突如として緊急通信を知らせるアラートがコックピット内に鳴り響いた。

 

 

『ゼロっ!』

 

 

 即座に百式が回線を繋げ、切羽詰った表情のモモが目の前に開いたウインドウに映し出された。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兵庫県南西部に……母艦級らしきBETAが出現しました!』

 

 

 どうしたと、問おうとしたゼロを制して発せられたモモの言葉にゼロの顔が青褪めた。

 




今回も5000弱と、一ヶ月かけた割には短いです…。ですが、一応キリが良いところな上、この次は舞台を移す予定なので大目に見て頂けると幸いです。

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