Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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はい、まずは好調に第1話行きますよ~。


第1話 始動

フロンティア船団の中でも最大の規模を誇る亀の甲羅のような形状をした居住区――アイランド1内にある政庁の執務室で目を覚ました男はまず始めに鏡の前に立った。

前世での日本人然とした黒い髪や瞳はその名残すら消え去り、金色の瞳の吊り目と肩口まで下ろした銀髪が目を惹く少年。それが鏡に映った男の新しい肉体だった。引き締まっているが決してマッチョではない屈強そうな肉体やスラリと伸びた細身。前世では二次元の中でしかお目に掛かれないであろう程の美少年だ。顔立ちや身長などから判断して年齢は12歳程度。伸び盛りの育ち盛りというこれからの鍛え方次第で大きく化ける肉体だ。

 

 

 

「ふむ、凄いな…。しかし、これでは名を変えなくてはならんな……。」

 

 

 

西欧人の容姿をしていながら日本人の名を名乗るのは不自然だろう。なら、折角生まれ変わったのだから名も変えてしまおう。

しかし新しい名を考えるのはそう急がなくてもいい。暫らくは訓練や勉強に費やす予定なので、人前に出るのは少なくとも2年は先になるだろう。1992年のスワラージ作戦、もしくは1998年の光州作戦のどちらかでこの世界の人類と接触を持つつもりだ。しかし、これはあくまで予定であって実際には大幅に変更される可能性も高い。

 

着用していた新統合軍の制服の襟を正し、マホガニー製の机に置かれたパソコンを立ち上げてみる。ファイルを適当にクリックして中身を確認していっていると、現在の船団の様子が表示された。細々とした数値を添えて書かれていたが、面倒な部分を略して纏めると以下のようになった。

 

 

 

・レアリエン総数200体、全体正常稼働中

・全アイランド生命維持システムに異常無し、発電システム並びに天候操作システム正常に作動中

・食用動植物全200種類正常に栽培中、一部収穫可

食糧庫在庫不足

・鉱物資源在庫潤沢(フォールドクォーツを含む)

・現戦力:バトル・フロンティア…1

     マクロス・クォーター…1

     グァンタナモ級宇宙空母…3

     ウラガ級護衛宇宙空母…9

     ノーザンプトン級ステルスフリゲート…18

計 戦艦32隻、バルキリー0機

 

 

 

これだけの情報を脳内に叩き込み、男は革張りの椅子に深く腰掛けて凭れ掛かる。男というよりも少年といった方が適切な男の体重では軋みもせずに椅子は男を押し返す。

 

 

 

「…バルキリーは無し、か。だが資源は豊富にあるから時間さえかければ揃えられる。護衛艦も、船団の護衛としては少ないがBETAを相手取るには充分だな…。

 

取り敢えず、バルキリーの製造を指示するか。」

 

 

 

船団内全ての指示がこのパソコンから行える。そのためこの執務室に居れば何でも出来るのだが、それではつまらない。人間、動いてなんぼだ。製造の指示を出した際にレアリエン1人を呼び出し、船団内を案内してもらおう。それらすべてを見てから各所への細かい指示は出す。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 

 

 

 

――そして1年後

 

アイランド1から繋がった環境艦の1つであるアイランド3。南国の海と孤島をイメージした艦内を2羽の鋼の鳥が飛び交っていた。白く2枚の主翼の他に同じく2枚の尾翼、さらにコックピットの斜め後ろにも2枚の羽根を備えた鳥……否、可変型戦闘機・バルキリーは高度な3次元戦闘を繰り広げていた。

 

VF-11C サンダーボルト

 

それがこの2機の機体名称だった。新統合軍が第一次星間戦争後の主力量産機として開発した機体で、優れた操作性を持っており一般兵に配備された。この機体を第1期量産機として1個大隊36機+予備機10機の計46機が現在フロンティア船団の所有する主力バルキリーである。

通常の戦闘機形態であるファイター形態を中心にUターンや宙返りで交互に背後を取り合い、機体下部に装備したガンポッドのペイント弾で攻撃する。そんな攻防が暫らく繰り返され、最終的に1機が相手を振り切れずエンジン部分をピンクに染められたことでこの空中戦は終了した。

観光レジャー用の人工島の砂浜に手足の生えた戦闘機という奇妙な形態――ガウォーク形態で着陸した2機のキャノピーが開き、それぞれ1人ずつ男が降りてくる。敗北したサンダーボルトからは銀髪に金の瞳をした少年が、勝利した側からは短い茶髪の青年が降りた。

 

 

 

「……ふぅ、やはり、カナンは強いな。」

 

 

 

「まぁ、俺の素体は記録に長けたタイプだがこう言った兵器の操作に関しても高い適正を持つように造られたからな。」

 

 

 

少年に“カナン”と呼ばれた青年型のレアリエンは今降りたばかりのサンダーボルトの装甲を軽く叩きながら答えた。

この1年少年に機体の操縦を教えてきたカナンは自分達の主君とも言える少年の操縦技術の上達速度に内心驚いていた。確かに、自分や他の戦闘部隊のレアリエンには及ばないものの、たった1年で身につけたとはとても思えないような機動を繰り出してくるのだ。1から肉体を鍛え上げ、船団全体の指揮や地球の状況の把握も同時に行いながら修練に励む少年は何でも教えればスポンジのように吸収していく。

カナンや、少年に徒手空拳やナイフによる体術、銃などの白兵戦能力を教えている戦闘用レアリエンも少年を鍛える時間を楽しみにしているらしい。

 

 

 

「お疲れ様でした、ゼロさん。」

 

 

 

近くの小屋で待機していた桃色のウェーブがかった髪の少女型レアリエンが少年に水で薄めたスポーツ飲料を差し出す。

過去の名を捨てた少年の新しい名前……それが“ゼロ”だった。

零(0)、虚。存在しない、という数字。この世界の生まれでない、過去のない少年に適した名ではある。

 

 

 

「ありがとう、モモ。」

 

 

 

少女型レアリエンのモモ。百式汎用観測型レアリエンのプロトタイプで、船団中の百式の頂点に立つ存在である。本来はそのような能力は持っていなかったため、能力と性格が合っていない。モモはとてもではないが他人に命令出来るような性格ではなく、とても優しかった。

 

 

 

「はい、カナンさんもどうぞ。」

 

 

 

「貰おう。」

 

 

 

カナンにも差し出されたドリンクを受け取り、カナンは少年――ゼロを見る。

ボトルを持ったまま腕を組み、目を閉じて天を仰いでいる。それはゼロが何かを思案する時の癖だった。

モモもゼロの様子に気付いたようでカナンと並んでジッと待っている。

 

 

 

「あと、半年かな…。」

 

 

 

不意にゼロが天を仰いだまま目を開けて呟いた。その言葉の意味が分からずカナンとモモは揃って首を傾げた。

 

 

 

「カナン、あと半年で私を完成させてくれ。」

 

 

 

「…いいだろう。」

 

 

 

ゼロの言葉にカナンは頷く。

正直、カナンはこの世界のBETAとの戦闘を知らない。しかしそれでも、今のゼロの操縦技量でもこの世界のパイロットの初陣における平均生存時間である8分を生き延び、生還することが出来るだろうと推測する。それはゼロ自身も気づいているだろう。それでもまだ準備に徹する。万全に万全を重ね、さらに万全を重ねる。

万が一にもミスをしないために。評価は全て誤差を下方修正し、油断も慢心も無くす。それがゼロの方針であり、船団の全レアリエン達はプログラム関係なしにそれに賛同していた。

 

 

 




以上、第1話でした。
舞台はマブラヴ、機体はマクロス、キャラはゼノサーガ(レアリエン)が基本になります。

オリキャラは今後も何人か出る予定ですが、ネーミングセンスに関しては先に謝らせていただきます。ごめんなさい。

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