Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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お久しぶりです。
執筆速度が上がらず、申し訳ありません…


第18話 合同軍議

 

 

「ナイト1、フォックス1!」

 

 

 生きたBETAと死骸、砲撃の残り火に埋め尽くされた戦場の低空をファイター形態で飛びながら機体を横回転させる。機体の上部が地面と水平になった瞬間、マイクロミサイルを12発ばら撒く。ランダムにロックした小型種に殺到したミサイルが爆発でより多くのBETAを巻き込んだ。それに見向きもせずに前方に迫っている要撃級を新たなターゲットへと選定し、バトロイドへ変形させる。高度をさらに下げて両足で地表を削りながら急減速を謀りつつ右腕部にピンポイントバリアを収束。勢いを失いきる前に要撃級の左半身をすれ違いながら抉り取る。

 着地からすれ違うまでに接近しようとしてきた小型種に対して頭部のレーザー機銃で迎撃し、再度ファイター形態へ変形して飛び立つ。

 

 

「ゼロ。ナイト6がレーザー攻撃により左翼を損失。ファイター形態への変形に支障が出ています」

 

 

「自力での撤退は?」

 

 

「…困難かと。僚機のナイト5がカバーしていますが高速移動自体が不可能のようです」

 

 

 ファイター形態のまま、ガンポッドを保持した右腕部だけ変形させて弾幕をばら撒きつつ、戦場を見渡す。撃墜された者は居ないものの、弾薬節約のために格闘戦主体のスタイルになってきている機体がチラホラ見え始めた。

 

 

「スカル大隊はどうなった?」

 

 

「帝国陸軍と連携して防衛線の構築が完了しました。陸軍の撤退支援に向かった2小隊も損害は無く、大隊との合流を目指しています」

 

 

「分かった。引き際だな……カナン!」

 

 

 防衛線が構築されたのなら光線級が姿を見せ始めたここで無理に戦線を維持することもない。大破する機体が出る前に撤退する。そう判断したゼロがカナンを呼ぶと右側後方にカナンの乗る水色のVF-19が並ぶ。

 

 

「撤退する!ナイト5に6を回収させろ!」

 

 

『了解、カバーに入る』

 

 

「ナイト1より各機、撤退します。光線級が存在しているため撤退プランはBです」

 

 

 カナンの機体が急速に進路を変更し、地上戦を続けるナイト5と6の支援に回る。ゼロの後ろの席では百式が戦域に存在する中隊全機に指示を送り、撤退コースのデータを転送している。転送されたコースは光線級が存在しているせいで高度がとれない為、地上のBETAや建造物の残骸を盾に出来る程の超低空での飛行を中心に手近な山岳を超えるまでは戦闘機動を維持したままの撤退だ。被弾しているナイト6では厳しいため機体を放棄させ、窮屈ながら5に同乗させる。

 カナンが直援に回り、それをさらに他の機体でカバーする。その間に6のパイロットは機体に残された全ミサイルの信管を外し、ジェネレーターを暴走寸前まで出力を上げた状態でEXギアを使用して機体の傍でホバリングしていたガウォーク形態の5に飛び移った。もともと1人乗りのVF-19に後付けでEXギアを付けているためかなりの窮屈になっているが、このまま大気圏離脱するわけでもないので何とかなるだろうと予測する。

 回収が完了したのなら長居は無用。全機がファイター形態へ移行して最大戦速で東へ向けて移動を開始する。目指す先はスカル大隊の居る防衛線。追撃を仕掛けてくるBETAがかなり居るが、速度の差でどんどん引き離していく。散発的に飛んでくるレーザーも、ランダムに回避行動をとらせることで回避し、結局全機が被弾することなくBETAの攻撃範囲から脱した。

 

 

「――っ、はぁ、はぁ……」

 

 

 機体のレーダーや衛星からの情報で安全区域に出た事を確認したゼロはヘルメットを乱暴に脱ぎ捨てて荒い息を吐く。意識して深く呼吸を繰り返す事でだいぶ落ち着いてきたゼロはボトル内のドリンクを含み、携行用の固形食を口に押し込む。それはカナンを始めとした他の機体のレアリエン達も同じで、数時間ぶりのエネルギー補給を行っていた。決して美味くないソレを味を感じないように一気に喉の奥に流し込んだゼロは機体の制御を自律機動に移行する。非常時に備えて常に操縦桿を握ってはいるが、張りつめていた全身の筋肉を緩和させて休息を摂る。

 

 

「…戦況は?」

 

 

「スカル大隊にアポロ大隊が合流したようです。作戦自体は順調ですが、進軍してくるBETAの数が想定より多いことが不安要素ですね」

 

 

「帝国軍の動きはどうなっている?」

 

 

「既に九州の放棄を決定したようです。彩峰中将が働きかけたようで、関門海峡に絶対防衛線を敷いて九州にBETAを封じ込める算段らしく、デルタ1に協力要請が出されています」

 

 

 ふむ、と頷くゼロ。船団側だけで見れば損害は無いに等しく、順調に作戦を遂行しているがゼロ達に対抗するためか元々これほどの数を送り込んでいたのかは分からないがBETAの数が非常に多い。敵の増援が途切れずに押し寄せるため帝国軍の戦術機や戦車、歩兵部隊にはだいぶ被害が出ているらしい。軍の損害を抑えるため、ケーニッヒ・モンスターと海軍の攻撃で大半が焦土と化した九州を早々に諦めた動きの速さに感心と同時に驚きを感じる。正直、もっと戦力を投入するなり、抗議をガンガン持ち込んでくるなりすると思っていた。

 そして関門海峡に絶対防衛線を構築するというのは此方の計画の内でもあり、フルアーマードのVF-11Cの大隊が早い内から向かっている。しかし、重装甲で可変機構部分を塞いでいるせいでファイター形態になれず、ナイト中隊やスカル大隊の補給物資を持ってバトロイド形態で走っているためまだ到着はしていない。このまま何事も無く両方が進軍出来ればほぼ同時に合流することが出来る。

 

 

「それから、デルタ1の索敵範囲内に多数の無人偵察機を確認しています。どうしますか?」

 

 

「障害にならない限り無視させろ。無いと思うが此方の通信に影響が出るようなら撃墜を許可する」

 

 

「了解、そう伝えます」

 

 

 この段階で既に無人偵察機を飛ばせるのは帝国軍と在日米軍だろう。中華やソ連も近いが、戦闘開始から6時間と経っていない状況では辿り着いては居ない筈。通信内容は流石に見逃せないが、映像を残す程度なら相手にする必要もない。ただ単に学者や技術者勢が腰を抜かす程度だ。そしてその予想は当たっていたりする。クォーターから発進する可変戦闘機部隊や可変爆撃機、カタパルトや艦載機数等の情報を海の向こうでほぼリアルタイムで見た技官達一同は開いた口が塞がらず、唖然とするばかりで分析が手つかずになっていた。

 

 

 そして数十分後、関門海峡に敷かれた絶対防衛線の内側に辿り着いたゼロ達ナイト中隊は一足先に到着していたアポロ大隊から補給を受けていた。弾薬を始めとした消耗品の補給や、破損もしくは摩耗の点検。それらをナイト中隊の隊員達が行っている間、ゼロはカナンと共に岩国基地に置かれた帝国軍の作戦司令部に呼ばれ、出向いていた。身体検査を受け、銃を持った衛兵に左右を固められながら向かった先は壁一面に及ぶ巨大なモニターのある部屋で、帝国陸軍の軍服に身を包んだ日本人達が10人と少し。そして米国陸軍と国連軍が1人ずつ。2人とも白人で、この場に居る者の階級章を見ればそのほとんどが大佐以上。尉官も僅かに居るが、若い男女で資料らしきモノを抱えていることから補佐官か通訳だと推測する。入室すると同時に室内に居た者全員から一斉に視線がゼロ達に向けられる。好奇心や疑惑……そして敵意。様々な感情の籠った視線を受けながらもゼロは一切たじろぐことなく自分をこの場に呼び出したであろう人物へ柔和な笑みを浮かべ頭を軽く下げる。

 

 

「お久しぶりです、彩峰少将閣下。此度の戦闘において、早期に此方の参戦を認めて頂き感謝します。そして同時に、BETA第1波の対処に参戦出来ず、申し訳ありませんでした」

 

 

「いや、感謝や謝罪をしなければならないのは我々の方だ。避難勧告を出したは良いが、正直私達は半信半疑だった。そのせいで部隊の展開は不十分。それでも自力で押し返せると、君達に支援要請をしなかった。結果が、多大な被害とたった1度の勝利に酔ったための警戒心の忘却。今回の事はこれ以上の失態を繰り返さないための行いだ。

 君達の警告を意味なきモノにしてしまった事を、帝国を代表して謝罪したい」

 

 

 互いに頭を下げ、同時に上げる。頭の下げ合いはこれ以上は無意味であり、早急に本題に入らなければならなかった。しかしその前に、

 

 

「フロンティア船団所属、可変戦闘機部隊指揮官及びナイト中隊中隊長ゼロです。そして彼は副隊長兼隊長補佐のカナンです。双方ともファミリーネームは御座いませんので、お気軽に呼び捨てて貰って結構です。以後、お見知りおきを」

 

 

自分達を紹介しておく。話している言語は日本語。パイロットスーツに翻訳機もあるので英語に設定しても良かったのだが、この場は日本人が中心なので日本語で行く。何人か、比較的若い佐官や将官が質問を口にしようとしたが、中将の階級を付けた老兵が手で制した。米陸軍や国連軍はそれでも聞いてくるかと思ったが、こう言った作戦会議に参加するだけあってこの場では控えるようで動きは見せなかった。そして一度軍議が始まれば自国の危機であるため集中して積極的に意見を出して行っている。

 

 

「ゼロ君、其方の戦力はどれくらい出せる?」

 

 

軍議の途中、戦術機部隊の展開位置についてになった時に秋閣がゼロに問いかけた。割り振られた席に座って軍議が始まって以降一言も発していなかったゼロに注目が集まる。

 

 

「我々としても関門海峡に防衛線を構築する予定だったため戦力は集まっています。2個大隊72機です」

 

 

「それだけか!?」

 

若い佐官の男がゼロの答えに思わず立ち上がって声を上げた。

 72機。作戦内容によって異なるが、今回の決して抜かせる訳にはいかない絶対防衛線に投入するにしては少ない。まして、ゼロは当初から海峡に防衛線を敷くつもりだったと言った。帝国が九州を諦めなければどうするつもりだったのかは今はいい。問題なのはこの72機を足したところで戦術機の数が必要と推測される数より少ない事だった。

 帝国軍はもともと岩国に配備されていた1個師団108機と九州から撤退してきた中でも応急措置で即行戦闘可能な24機。そして在日米軍と在日国連軍から合わせて2個大隊。数で言えばゼロ達と同じだが、駐屯軍である上、その駐屯基地から離れた地に即座に向かえる数としては多い。合計276機の戦力で海峡の死守。海峡のみを死守するのであれば足りるが、海底を移動して側面や四国に渡るBETAにも対処しなければならない。在日の両軍は四国へ回ることが決まっており、200機足らずでの本土防衛は厳しい。

 しかし、

 

 

「ご安心を。数は少ないかも知れませんが、相応の倍以上の戦果を挙げられる者達ですので」

 

 

「これをどうぞ。アポロ大隊に配備されている36機の武装データです」

 

 

ゼロが朗らかに言うと、その背後に控えていたカナンが小さなバッヂのような物を取り出してゼロの前のテーブルに置く。そこから立体映像が空中に映し出され、その中にフルアーマード・サンダーボルトの映像が浮かび上がる。軍議に参加していた者達はこの小型の立体投影機に驚き、その次にはフルアーマードのデータに驚く。

 全高12.92m。一般的な戦術機の凡そ3分の2の大きさ。にも拘らず、長射程且つ高い貫通性を誇る30mm6連重ガンポッドを一門と対空パルスレーザーが一門。口径は小さいものの、射程や貫通性で戦術機の36mmチェーンガンを凌ぐガンポッドと、何処の国でも未だ研究中のレーザー兵器。これだけで標準装備の戦術機に匹敵する火力がある中、さらにその分厚い装甲の中に高火力且つ高追尾性のマイクロミサイルを大量に仕込み、両肩に連装ビーム砲を合わせて4門。最終的には攻撃機であるA-10サンダーボルトⅡに匹敵する火力を持っており、重鈍ではあるがミサイルやビームの取り付けてある装甲は着脱式で、打ち切った後にはパージして身軽になる事も出来る。また、装甲自体を付け替えるだけでミサイルやビームが補給出来るため補給に掛かる時間が飛躍的に短い。今回は補給部隊が同伴していないためこのような方法は取れないが、それでも高い面制圧能力があり、リロードや再補給の隙を埋めるためにスカル大隊が控えている。

 そしてそのスカル大隊の機体――VF-171のデータも公表する。此方は火力ではフルアーマードに大きく劣るが、近接格闘性能や継戦能力で勝る。汎用性を求めた戦術機に似た運用方法が主で、低威力で連射性の高いビーム砲と連射出来ないものの単発威力の高いビーム砲をそれぞれ2門備えている。大隊内の中隊長機に当たるVF-171EXも、此方は映像だけで武装データはないが、明らかに武装強化されているのが分かった。

 これらに加え、ナイト中隊11機も補給が完了し、満足な休息を得た後に参加。弾薬の補給や加熱した砲身の冷却のために一時下がっているラビット特務小隊も参加する。九州の大地を焦土と化した怪物の主砲の口径――320mmレール砲を4門――を話した時、この場に居た多くの者が戦慄し、極一部の将官が喜色を浮かべた。恐らく大艦巨砲主義者なのだろう彼らの気持ちも、分からなくもない。全長約30m、全高も10mを超えないシャトルに足の生えたような機体に戦艦の主砲が取り付けられている。この怪物が群を成せばそれだけで壮観であろう。流石に砲弾や砲身が特注品のため数が揃えられないので大量生産は効かないが、たった4機で街数個を焼き尽くすのだから今回はこれで充分。寧ろ、これ以上出して火山を刺激でもしたら目も当てられない。

 

一先ず、データの一部を開示したことで数は物足りないかも知れないが充分な戦力足りえると納得して貰えたので良しとする。この後、戦術機と可変戦闘機の展開の配置や補給のローテーション、連携の相談等を行い解散となる。隊員達に伝えるとさっさと退出したゼロとカナンが通路を歩いていると背後から英語で声を掛けられた。一瞬浮かべた嫌そうな表情を消し、ゼロが振り返ると案の定、米陸軍の男がカツカツと靴を鳴らしながら歩いて来ていた。

 

 

「貴様ら、どこの国の人間だ?」

 

 

 ゼロよりも背の高い男は見下ろし、威圧しながら英語で問うた。屈強且つ強面の軍人に間近で威圧されても顔色ひとつ変えないゼロは男に合わせて英語で答えを発する。

 

 

「秘密です。……何分、忙しい身ですので、失礼しますよ」

 

 

 ゼロの答えに憤りを露わにする男に背を向け、歩き出す。男は肩を掴もうと手を伸ばすが、ゼロに触れることなく割って入ったカナンに阻まれる。男はカナンを睨みつけるが、カナンは全く意に介さず男に背を向けゼロを追う。男は逃がすものかと、基地に来ている部下に足止めして米軍の貸し出し区画まで連れてくるよう指示を出したが、そうするだろうと予想していたゼロ達が呼んでいたナイト中隊のパイロット達によって失敗に終わる。単なる自動小銃で武装した軍人程度では強化外骨格よりも遥かに高性能なEXギアを着込んだレアリエンを一瞬たりとも止める事が出来ず、ゼロとカナンはEXギアの機械の腕に捕まって悠々と自分達の機体の置いてある区画へと戻った。

 

 

 

 この時のEXギアやフルアーマード・サンダーボルトの記録が元に強化外骨格の改良計画や、戦術機のフルアーマー化計画が立案されたりするのだが、それはまだ少し先の話である。

 




以上、第18話でした。
書く内容が思いつかず、見直してみれば何やら後半機体スペックをグダグダ書いているだけに……。今後善処します…。

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