Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

18 / 22
また一ヶ月ぶりです。
なかなか話しが思いつかず申し訳ありません。感想の方でもあったのですが、基本月一更新になると思います。


第17話 戦闘開始

 太平洋上に浮かび、船首を戦場と化している九州へ向けているマクロスクォーターのデッキに青いカラーリングを施されたバルキリーが待機していた。VF-19Sを複座型にして通信機能を強化した改造機であるこの機体に乗るのは新統合軍のパイロットスーツを着込んだゼロと百式レアリエンの少女だ。

 BETAの第2陣は台風に紛れるように上陸を開始。展開していた海軍艦が艦砲射撃を行うものの、悪天候故に戦果はほとんど挙げられていない。このままでは大多数のBETAが上陸することになっただろうが、史実と比べて上陸したBETAの総数は少ない。九州を縦断して日本海へと侵入した先遣のオクトス部隊の働きが大きかった。陸戦ではBETA相手では性能不足が否めないが、オクトスの土俵である水中戦に持ち込めば殆どワンサイドゲームと化す。BETAは水中でも活動出来るが浮かぶことは出来ず、水底を歩くことしか出来ない。対してオクトスは潜航形態であれば水中を縦横無尽に駆け巡れる。光線級は水中ではレーザーを放つことがない上に、例え放ったとしても海水によって大幅に減衰させられて本来の威力を発揮できない。結果、海中を高速移動するオクトスに対するBETAの持つ有効な攻撃は要塞級の触手程度に限られてくる。尤も、レーザーが使えないのはオクトスも同様で、使用可能な火器が限られるため戦闘継続時間は短い。よって撃ち漏らしが多いが、光線属種2種を優先して排除するよう設定してあるため、上陸に成功した光線属種は多くない。

 

 

『日本帝国国防省より、榊国防大臣名義でアイランド3経由で通信、入りました。

内容はフロンティア船団戦闘部隊の戦闘参加要請、及び展開中の帝国防衛部隊の展開配置。提供情報より戦線の後退している区域への最短ルートを選出。データを転送します』

 

 

「データ受信を確認。ナイト中隊は第4戦闘区域へ向かう。スカル大隊は第2戦闘区域の防衛戦の再構築。内、バーミリオン、パープルの2小隊は連携して帝国部隊の撤退支援及びラビット特務小隊への観測データの転送を優先」

 

 

 VF-171シリーズで構成された可変戦闘機大隊であるスカル大隊と、その中に組み込まれている小隊の2つに任務を言い渡す。クォーターの百式経由でゼロの言葉がそのまま大隊レアリエン各員に伝えられると、その旨がクォーターから返される。

 その間にクォーター自体が回頭して船首が九州内陸――ナイト中隊が向かう方角へと向けられており、ゼロのVF-19Sが3基あるカタパルトの内の1つに到着していた。0.5Gの重力場が形成され、機体が僅かに浮遊する。

 

 

「ナイト1、発進する!」

 

 

 カタパルト脇のランプが赤から青へと変わると同時にスロットルを全開。低い重力の中で一気に加速し、離陸する頃には音速に達する。高速で移動する以上、通常なら身体をシートに押し付けられることになるのだが、機体自体とパイロットスーツに装着しているEXギアの重力制御で負荷を軽減する。

 後続も続いて来ており、ゼロ機を囲むように陣を組んで飛翔。陸地に達する前に高度を下げた中隊12機は九州の大地を高速で縦断するべく加速。その速度はVF-19の大気圏内での最高速度であるマッハ5に迫る。

 

12振りの聖剣が目指す先の空は紅く燃え上がり、嵐の中であっても明るく照らされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――帝国陸軍本土防衛軍九州方面第3戦術機甲連隊。九州北部の臨海地域で戦闘を行っていた戦術機108機からなる大規模部隊だったこの部隊も、先日から続く連戦で壊滅状態だった。第1波の侵攻時に約半数を失い、今回の戦闘で既に10機近く脱落したこの部隊は最早一個大隊規模にまで減少している。77式戦術歩行戦闘機『撃震』と89式『陽炎』の2機種編成の部隊では性能不足が否めず、損害を出しながらの撤退戦が精一杯だった。

 

 

『ちくしょお、ちくしょお…ちくしょぉぉぉぉぉ!』

 

 

『死ねぇぇぇ!糞どもがぁぁぁぁ!』

 

 

 開きっ放しの通信回線から今も生き残っている連隊員達の中でも若い者達の絶叫が絶えず流される。陽炎を駆る連隊長である男性の少佐も、叫び声を上げてはいないが網膜上に映る忌々しい異星起源種共を鋭く睨みつけながらトリガーを引き続けている。36mm徹甲弾が彼の部下に群がる戦車級を薙ぎ払っていく。若い隊員達は仲間を殺されたせいで頭に血が上り、足元の警戒が疎かになってきている。遠方の大型種に砲撃を加えてばかりで、足元に戦車級の死体が積み重なって来ていることに気付いていない。古参の衛士はそんな若い衛士のフォローに回っており、戦力の損耗を抑えている。

 

 

「っ!?…またか……」

 

 

 遥か前方――始めに部隊を展開した沿岸部より先の海岸線で大規模な爆発が確認された。10から先は数えていないが、これでかなりの数の所属不明機が自爆したことになる。海上に展開する駆逐艦からの報告によれば戦術機よりも小型の多脚型の機動兵器で、海中を泳ぎ回ってBETAの数を減らしているらしい。そして弾薬が尽きれば上陸して光学兵器と巨大な爪でBETAと陸戦を繰り広げる。しかし、陸上での機動力は高くなく、戦車級に簡単に追いつかれて喰い付かれている。機体機能に障害が発生する前に自爆で多数のBETAを巻き添えにしているらしく、戦闘続行が困難と見るや即座に自爆する様からアレ等は無人機ではないかと推測されている。

 光学兵器を搭載した水陸両用小型無人機なんぞ何処の国の物かと考えてしまいそうになるが、彼らにとっては今は敵ではなく友好的である上、自分の命の危険のある戦場でそんな暇は無かった。未だ光線級が上陸して来ない事を見るにアレ等が光線級を優先的に撃破してくれているのだろう。だがそれもそろそろ限界だろう。数が減り過ぎている。

 

 

「…南も北も…。所属不明勢力ばかりか」

 

 

 そして所属不明なのは目の前の無人機だけではない。南の方の港では3キロ以上もある超巨大なドームのような艦が2隻現れて避難民を収容したという。そこにも多脚型の無人機が居たという事は同じ勢力なのだろう。本当に、いったい何処の国なのか……。

そう考えてしまったのが悪かったのだろう。

 

 

『隊長!』

 

 

「ぬっ!ぐぅぅぅぅ……!」

 

 

 2機連携を組んでいた副官の声で意識が現実へと引き戻されてみれば、接近を許してしまった突撃級が眼前に迫っていた。咄嗟に回避行動を取るが躱し切れず、多目的追加装甲を保持していた左手腕が捥ぎ取られた。衝撃を受けて機体は転倒し、2体目の突撃級が突っ込んできている。

 

 

「しまっ……!」

 

 

 跳躍ユニットを吹かせようとしたが、転倒した際に損傷したらしく右側が動かずに中途半端にしか動けなかった。

 

 

『隊長!』

 

 

 回避不能。死。

 副官の呼び声を聞きながらこの2つの単語が目の前に浮かぶ。最後の足掻きとショートしている右腕の突撃砲を乱射。弾丸は突撃級ではなく、全く別の戦車級を吹き飛ばすべく飛翔する。着弾を見届けるより早く突撃級が視界いっぱいに広がってくる。

目を閉じることなく、突撃級を睨みつけていた男は次の瞬間に、自分が死ぬ筈だった瞬間の一歩前で起こった光景に茫然とすることになる。

 

 

「なに…?……づぉ!」

 

 

 接触寸前だった突撃級の無防備な横っ腹に光の矢が突き刺さったのだ。突進中に真横から高エネルギーの衝撃を受けた突撃級は身体を前後に焼き切られ、慣性で吹き飛んだ前半分の進路が僅かに逸れる。その僅かなズレのお陰で彼の陽炎に突撃級が直撃する事は避けられた。尤も、完全に外れた訳ではなく機体の一部を引っ掛けられたために機体は吹き飛んだ。ワンバウンドして滑る陽炎だったが、中の衛士だけは守り切った。関節は在らぬ方を向いて各所から火を吹く陽炎だったが、胴体部分の損傷はもともと多い胸部装甲と兵装担架、肩の装甲のお陰で損害は大きくなく、緊急脱出の操作は受け付けた。

 

 

『隊長!御無事で!?』

 

 

「……あぁ。何があった…?」

 

 

『例の無人機のレーザー攻撃です。直後にレーザー砲が爆発して結局自爆してしまいましたが』

 

 

「…そうか。では、ヤツの分ももう少し頑張るとしよう」

 

 

 そう言って強化外骨格を装着し終えた彼はアサルトライフルを片手に機体から飛び降りて離れる。もうもちそうになかった陽炎は彼が距離を取り切る直前に爆発を起こして大破したが、副官の陽炎がカバーに入ったお陰で爆風で吹き飛ばされることはなかった。

 

 

『隊長。6キロ後方に後退中の補給部隊が居ます』

 

 

「分かった。隊の指揮権を君に譲渡する。互いに運が良ければまた会おう」

 

 

『……はい、お気をつけて』

 

 

 強化外骨格を付けているとは言え、BETAが侵攻してきている中を単身移動するには成功する可能性は限りなく低い。中型種や戦車級は戦術機部隊が何とか抑えているが、兵士級や闘士級といった小型種はほとんど素通りに近い。現に、彼自身何体かの小型種が陽炎の足元を通過するのを見送っていた。一対一で相手より先に発見できれば勝機があるが、そう上手くは行かないだろう。戦場で緊急脱出して自力で無事生還を果たした者は少ない。彼も副官も、最後の会話になるだろうと覚悟していた。

 

 

 

 

その時だった。では、と言ってBETAが来る前に走り出そうとした彼らの通信機に落ち着いた、自身に満ちた青年の声が届いたのは。

 

 

『こちらフロンティア船団、マクロス・クォーター所属ナイト中隊。これより其方の部隊の掩護に入る。指揮官は居るか?』

 

 

 若い男の声は混乱した戦場の中とは思えないほどきれいに聞こえてきており、その声に気を取られて聞いていた全員の手が止まる。しかし流石とも言うべきか、連隊長である彼は即座に自身のすべきことを思い出し、通信機に向かって口を開いた。

 

 

「各員!手を止めるな!」

 

 

 彼の言葉で全員が気を取り直し、再度目の前に集中し出す。一瞬とは言え隙を晒したのだが、幸い攻撃を受けた機体は居なかった。

 

 

「連隊長は私だ。貴官は?」

 

 

 このオープンチャンネルで声の青年に名乗りを上げる。網膜投影中のウインドウには『Sound Only』とだけ表記されており、顔を晒すつもりがないことが分かる。

 

 

『先ほどは行き成り声を掛けて済まなかった。我々の事は一種の私設部隊と思ってくれて構わない。国防省に許可を得たので今回の戦闘に参加させて頂く』

 

 

「何だと…?そんな話は……」

 

 

『10秒で有視界に入る。貴隊は後退して補給に入ってくれ』

 

 

 通信が切断され、ノイズだけが残される。何とか再度交信を試みようとするが一向に繋がる気配はない。

 すると甲高い飛翔音とエンジン音が微かに聞こえ始めた。音の聞こえた方に視線を向けると12個の青い戦闘機が視界に入ってくる。戦闘機が飛んでいることに一瞬驚くが、その飛んでくる機体がはっきりと見えるとその驚きは倍に跳ね上がった。大陸派遣部隊が持ち帰った記録に残されていた不明機だったのだ。タイミングからしてあれが声のナイト中隊なのだろう。そして彼らの飛んできた方角は南。つまり、避難民を収容した巨大艦や自分の命を助けて自爆した無人機は彼らの勢力と予測が着く。

 自分や仲間の戦術機部隊の頭上を越えてBETA群に突っ込んだ戦闘機たちは報告にあったのと同じように人型へと姿を変えて単砲身の突撃砲やミサイル、小型レーザーでBETAを蹂躙していく。報告書で読んだ時には半信半疑だった彼だが、実際に目にしてその戦術機とは比べ物にならない戦闘能力に言葉を失った。しかし、すぐに仲間に指示を出すべく回線を繋ぐ。

 

 

「ブロンズリーダーより各機。後退して補給に向かえ」

 

 

『隊長!?』

 

 

「あれでは我々は不用だろう。なら、これ以上失う前に後退する。奴らのデータは取って置けよ」

 

 

『…了解。各機!聞こえたな!?』

 

 

『『『『了解!』』』』

 

 

 聞こえてきた声は予想以上に少ない。どうやら向こうに気を取られている者が多いようだが古参の仲間が怒鳴りつけて後退させているので大丈夫だろう。

 

 

『隊長、乗ってください』

 

 

「あぁ、済まんな」

 

 

 目の前で片膝を着いて手を差し出してくる副官の陽炎の手に乗り、そのまま陽炎が立ち上がる。立ち上がりながら管制ユニット内に収納してもらい、簡易シートを引っ張り出して身体を固定する。

 

 

「やれやれ、何とか生き残ったか…」

 

 

小さく呟きながら網膜投影をリンクさせ、急速に遠ざかっていく戦場を見やる。拡大してみれば、かなりの混戦を行っているにも関わらず、12機の機体に損傷は見受けられずどんどんBETAの死骸を生み出して行っている。性能だけでなく、衛士の腕もいいのだろう。上手く互いにカバーし合っている。

あんな機体が自分達にもあれば……。そう思って彼は首を振る。今大切なのは日本を守ったという結果であってその結果をもたらすのは自分達でなくてもいいではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ達のバルキリー部隊が第3戦術機甲連隊への加勢を果たしたその頃、日本海上に展開していた帝国海軍艦隊の旗艦・霧島の艦橋でもその姿を確認していた。100年近くも前に建造された霧島は老朽化が進んでいるが、その火力は未だ健在。しかし激しい風雨と荒波によって満足な砲撃を行えないでいた。

 

 

「主砲、てぇぇぇ!」

 

 

 艦長の指示に従って沿岸部に上陸したBETAを引き連れている護衛艦や駆逐艦と共に砲撃していく霧島だが、照準が定まらず命中弾は少ない。それでも、海中の無人機によって光線級の上陸が阻止されている今は上空の無人偵察機が健在であるためこの状態の命中率としては高い方なのだろう。

 

 

「無人機、残機数が二桁を切りました!」

 

 

「雪風被弾!光線級が上陸した模様!」

 

 

 索敵手と通信士の報告に艦長は下唇を強く噛み締める。ついに光線級が上陸し始めたのだ。無人機達はよく二桁以下になるまで光線級の上陸を阻止してくれたものと感謝するが、ここから加速度的に被害が増大していくだろう。

 

 

「雪風は後退!

艦首を陸に向けろ!レーザーの照射源に砲火を集中!撃てぇぇぇぇ!」

 

 

 カウンター戦法になってしまうが、それでもこの悪天候で確実に光線級を撃破するにはこれが最良だった。幸い上陸した光線級は少なく、被弾した艦を後方に回せば何とか撃沈される艦は少なくて済む。光線級の一撃では駆逐艦や護衛艦でも多少の被弾なら航行を続けられるため、重光線級が上陸を果たすまではこの戦法で行くしかない。

 

 

「艦長!フロンティア船団、ラビット特務小隊という部隊から通信が届いています!」

 

 

「フロンティア……?閣下の仰っていた者達か!繋げ!」

 

 

 今回の戦闘に出撃する前に斯衛軍の紅蓮大将から艦長自身に直接通信で伝えられた援軍の組織名。詳しい戦力や所属国家は機密と言われたが投入された無人機の性能や数、さらには避難支援をしたという巨大艦の規模からして一国並の能力があると見て間違いない。どんな相手が出て来るのか、緊張と不安を感じながらも通信用モニターを見上げる。しかし映し出されたのは『Sound Only』の文字のみ。

 

 

『戦艦・霧島ですね?このような通信越しで申し訳ありませんが、此方はフロンティア船団、マクロス・クォーター所属のラビット特務小隊です。これより砲撃支援を開始します。可能でしたら観測データの共有をお願いします』

 

 

 まだ少女と言って差し支えのない声が流れる。予想外の声に言葉に詰まるが、何とか気を持ち直して対応する。

 

 

「分かった。5分程待ってくれ」

 

 

『お願いします。此方も、航空隊からの観測データが入り次第砲撃を開始しますが其方の観測データも併用しますので部隊の展開に注意して下さい』

 

 

 そこで通信は切れ、艦長の男は緊張を解いて一息吐く。

 

 

「艦長、よろしいので?」

 

 

「あぁ、彼女らについては紅蓮閣下から聞いていた。小隊程度でどの程度の火力があるのか疑わしいが、陸軍の展開配置と地雷原のマップを纏めて転送しておけ」

 

 

「はっ!」

 

 

 副長に指示を飛ばさせ、通信士と索敵手がコンソールを叩く速度が上がる。

ずれて来ていた帽子を被り直そうと手を頭に持って来ると、目の前の九州の大地で一際大きな爆発が起こった。続いて爆風が霧島にまで届いて艦隊が大きく揺れる。

 

 

「何事だぁ!?」

 

 

「分かりません!……南方より高速飛翔物体接近!」

 

 

 その報告が終わるや否や、再度大きな爆発が起こり何が起こったのか何となく理解出来た。しかし同時にその推測を否定する自分が艦橋に居る将校たち全員の中に居た。

 

 

「まさか…今のが砲撃か……?」

 

 

 有り得ない程の高火力で、レーダーでの発見の次の瞬間には着弾する非常識な弾速。何れも彼らの知る武装とは桁が違った。

 通信を繋げてきた少女がデータを欲しがったのは命中率を上げる為ではなく友軍を巻き込む可能性を少しでも減らすためだったのだと遅れて理解出来た。

 

 

「……まったく、とんでもないな」

 

 

真っ赤に燃え上がる大地を見ながら艦長の男は呟く。あの様子では例えBETAを駆逐して防衛に成功したとしても、この辺り一帯は焼け野原になって暫らくの間人の住める環境ではなくなるだろう。可能であったなら出来る限り街は形を残しておきたかったが、アレではもう何も残るまい。後で上層部から五月蝿く言われるだろうなと、あまりにも場違いな思考をしながら艦長は指示を出す。

 

 

「本艦隊も砲撃支援を開始する!各艦、全砲門開け!」

 

 

 各艦の砲雷長達が一斉に動き出し、砲塔に配備された兵士達が弾頭を装填。

 

 

「撃ち方始め!」

 

 

「撃ちぃ、方ぁ、始めぇ!」

 

 

 艦長が叫び、砲雷長が復唱。同時に全艦が一斉に火を吹き、既に火の海となった大地の手前――海岸線付近に砲弾を撃ち込んでいく。内陸に進んだBETAは例の航空隊と特務隊に任せ、霧島旗下の艦隊は水際に上陸したばかりの無防備なBETAに狙いを付けている。

 上陸してすぐに背後から砲撃を受けて粉砕されるBETA群だが、砲弾の再装填の間に次々に侵攻していく。艦隊の弾薬が尽きるのが先か、BETAが途絶えるのが先か。どちらかが尽きるまで続く砲撃戦が繰り広げられ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――同時刻。

 

 

「撃てぇ!」

 

 

避難民を収容し、太平洋上に浮かぶアイランド13から発進したケーニッヒ・モンスター4機から為るラビット特務小隊を率いているナターリアは自身もケーニッヒ・モンスターの一番機を操縦しながら指揮を執っていた。可変戦闘機での戦闘は出来ないが、可変爆撃機でなら出撃出来るとカナン達に教えられており、訓練を積んできたナターリア。可変戦闘機の簡単な操縦訓練と並行してのそれは困難を極め、離着陸と変形、砲撃しか出来ないナターリアだったが今回はそれで充分だった。山岳を盾に反対側の戦場へと320mmのレール砲をひたすら叩き込むだけの仕事。

 しかし目視での狙撃ではなく、観測データを当てにした予測射撃であるため難易度は高い。その難易度を少しでも下げる為、ナターリアは眼帯を外して義眼である左目を開いていた。トランスジェニックタイプのレアリエンの物を流用しており、人間の裸眼と違って羽コープ越しのような機械的に見えるようにも出来る。その機能を利用して観測データを統計して作成されたBETAの分布図の位置に予め衛星軌道に挙げられていた偵察機の照準器を数ミリの誤差もなく合わせている。実際に撃ち込んだ際には大気などの様々な要因によって誤差が大きくなるが、それでも狙った箇所は砲弾の効果範囲内に収めている。

 砲撃を行うのは2機ずつ。砲撃と再装填を交互に行い、砲撃が途絶える時間を極力減らすようにしている。弾薬が尽きる前にはアイランド13から出た補給部隊が補給してくれるため弾切れの心配はない。そして砲撃が交代制になっている理由はもうひとつある。それはゼロ達ナイト中隊が飛べるようにするためだ。4機の一斉砲撃では着弾時に発生する爆風も桁違いになり、如何にバルキリーといえど姿勢制御に支障が出る。ならばナイト中隊を下げればよいのだろうが、撃ち漏らしを撃破しつつより詳しい観測データを送信するのがナイト中隊の役割なのだ。そんな危険な役目をゼロやカナンにやって欲しくないナターリアだが、ゼロは指揮を執りながらも自ら前に立つ人物だと知っているし、ゼロが出る以上護衛の役割のカナンが出ない理由はない。

 自分に与えられた任務を正確にこなしながらナターリアは他に2人――観測班の百式レアリエンの乗るコックピット内で小さく呟く。

 

 

「…ちゃんと帰って来てくださいね……?2人とも」

 

 

 

 

 

 

――1998年7月9日。後の歴史に深く刻まれる大規模戦闘が始まった。

 




以上、第17話でした。
今回は長めに8000字越え!……この内6000字近くをこの土日に書いたんですよね……。思いついた分全部つぎ込んだから頭の中すっからかんですわ…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。