Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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お久しぶりです。
今回から日本での戦闘が始まります。


第16話 七夕の戦い

 

――1998年7月7日。重慶ハイヴより侵攻を開始したBETAの一団が長崎県の海岸線に上陸。BETAの日本侵攻が始まった。

 侵攻の3日前より出されていた避難勧告により民間人の大半は九州地方を脱出。残る者達も福岡県や大分県で連絡船待ちという状態だ。市街地には既に軍関係の者しか残っておらず、避難民の護衛も最低限で済んだため九州に配備されていた部隊の多くが防衛戦に参加。6時間以上にも及ぶ激戦の末BETA群の殲滅に成功した。七夕の勝利は世界中で大々的に取り上げられ、日本では翌日の8日はお祭り騒ぎだった。劣化ウラン弾や艦砲射撃、BETAや大破した戦術機の残骸等で暫らく九州は閉鎖されるだろうが、次期将軍最有力候補と斯衛大将の2人はBETAの侵攻を予測した英雄的な扱いを受けて持ち上げられた。

 しかし、そのお祭りムードは予想外の冷や水を掛けられて沈静化した。BETAの第2陣が接近中。その報が帝国軍の作戦本部に届けられたのは8日の深夜。BETAは既に日本海に入水しており、翌日9日の夜には上陸するだろうとのこと。侵攻してくる数は先日の倍以上で、最悪な事に大型台風の上陸と重なる。倍以上のBETAが侵攻して来ると聞いた時、本部に居た将校たちは先日のは先鋒に過ぎず、これこそが本体だったのだと。入水するまで観測班は何をしていたのだ、と怒鳴り散らす者が居たが返事は気弱な声で勝利を祝っていたという。そのせいで監視が緩んでいたそうだ。連続的な侵攻はないだろうという希望的な推測から生まれた油断。誰もが感じていた油断であるため、本気では怒れなかった。

 ともかく、現実にBETAは再度侵攻してきていることに変わりは無く、日本全土に再度勧告を出す。勧告を受けた市民の反応は2種類だった。先日の戦闘で既に多くの被害が出ていることを知っている兵庫以西の市民はパニックに陥り、京都以東の市民は再度返り討ちに出来ると自信を持って笑った。京都以東の中には京都には将軍や屈強な斯衛軍が居る為、自分達の場所までは来ないだろうと思っている者も居た。

 そしてパニックに陥った兵庫以西の者達の内、未だ九州に取り残されている者達は絶望に沈んでいた。台風の影響で避難用の連絡船が動かなくなったのだ。新幹線や高速道路は軍が戦術機や支援兵器を持ち込むために使用しており、避難には使えない。

 

 

「……台風の前に第一波があるなんて知らなかったぞ…くそっ」

 

 

 日本に潜入しているレアリエンからの報告を受け取り、ゼロは表情を歪ませた。BETAは台風と共にやってくる、としか知らなかったゼロは第一波に気付かなかった。クォーターとアイランド各艦の降下を待っていたゼロがその事実を知った時、戦闘は既に佳境を迎えており、バルキリー隊が発進準備を整えている間に戦闘は終結して残存BETAの追撃を行っている段階だった。

 この戦闘のお陰でクォーターやアイランド各艦は問題なく監視の目を縫って降下出来たのだが、それでも戦闘に気付かなかったのは痛い。一般市民に関しては避難途中に軽傷を負った者が数名いる程度で被害は無いに等しいが、軍関係はそうでもない。戦術機や戦車、無人偵察機はその半数が使用不能に陥り、歩兵部隊に至っては壊滅状態だ。

 このままでは第二陣を抑えきるのはまず不可能であり、未だ九州に取り残された市民も居る。

 

 

「ゼロ。残っている市民は凡そ2000人。避難が必要な戦傷者を含めると3000人ほどになるかと」

 

 

 海底に沈んだクォーターの艦橋でモモからの報告を受け取る。この2000や3000という数字は単なる計算によって導き出されたおおよその数でしかない。実際にはもっと多いか少ないか。それでも支援が必要な者が1000人以上いる事に変わりない。

 

 

「…日本政府へ通信文を送れ。『これよりフロンティア船団は帝国への支援行動を開始する』、と。

榊国防大臣が見れば反応はすぐに返って来るだろう。

 ジェフリー艦長、頼む」

 

 

「うむ。クォーター微速前進、アイランド3とアイランド21は本艦の進路をトレースさせろ」

 

 

 反応があろうとなかろうと支援だけはするつもりであるため、クォーターと環境艦2隻で帝国領海内へ移動を開始する。目的は港付近で立ち往生している避難民の回収。環境艦は単艦でも8kmにも及ぶ大きさを誇る。円柱状で直径が3km。半分ほどが海や密林と言った自然に覆われているとは言え、人が暮らす事の出来るスペースが20平方kmはある。それが2隻もあれば数千人なら収容出来る。問題は大人しく乗ってくれるかだが、連絡船が停まっている以上拒否すればBETAに殺されるしかない以上得体の知れない艦にも乗ってくれるだろう。念のために人型のレアリエンにも案内をさせるために配備してあるため、手間取らないことを願う。

 

 

「アイランド3よりオクトス2個中隊が発進を開始。アイランド3及び21の直援行動を開始しました」

 

 

 後続のアイランド3の耐圧ハッチが開き、そこからゲンゴロウのような機影が24個吐き出される。その正体は潜水艦形態をとった水陸両用デストロイド・オクトスだ。ミサイルやビーム砲、実体弾で武装した統合戦争時代に開発された初期型の機体で、マクロスの世界では珍しく水中戦も想定されている。技術的にも旧式で、唯一無人機化した際のAIだけが最新式であるためAIとビーム発生機、動力付近に自爆用の爆薬を搭載した完全に使い捨て兵器である。陸上での最高時速も95キロ毎時と戦車級にも劣るため接近戦になったら生還は望めない。それでも火力は充実しており、総合性能ではA-6を上回る。デストロイド形態では4脚の異形で、初見ではかなりの威圧感を与える。特に前腕部のクローを展開すれば厳つさが上がり、相手の人間にはそれだけで威圧になる。あまり刺激し過ぎると問題だが、ニコニコ笑顔で近づいて舐められるのはもっと頂けない。そのための手段としてオクトスを環境艦の護衛に付ける。

 環境艦内部の要所にもオクトスやVF-11Cサンダーボルトが警備をしているため、多少窮屈な思いをするだろうが死ぬよりはマシと諦めてもらう。

 

 

 

 

――数時間後、避難民の集中していた港に限界まで近づいて浮上し、避難民や負傷兵の収容を行っていた2隻の環境艦からクォーターに連絡が入った。混乱はあったものの、すでに斯衛軍の上層部からフロンティア船団という者から支援が行われるという連絡が入っていたらしく、想定していたよりはスムーズに全員を収容出来たとの事だった。何故政府からではなく斯衛軍からかと思ったが、真耶や醍三朗が動いたのだろうと予測が着いた。

 そして収容を終えた環境艦は次いで防衛戦に参加させる戦力を港に排出する。これらは使い捨てではなく、レアリエンに搭乗させた先遣部隊の主戦力だ。VF-171EXナイトメアプラスEXを隊長機としたVF-171ナイトメアプラスの機動部隊が1個大隊と、VF-11CサンダーボルトにAPS-11アーマードパックを装着したフルアーマード・サンダーボルトの1個大隊。この2個大隊が1隻の環境艦から発進し、合計で4個大隊。機数にして144機。これに加え、太平洋上からは浮上したアイランド13の甲板に展開した4機のVB-6ケーニッヒモンスターによる爆撃と言っても差し支えない支援砲撃。さらにクォーターにはゼロの機体を始めとしてVF-19シリーズが12機搭載されている。

 あとは避難民を乗せたアイランド3と21が安全圏まで撤退すれば、侵攻してくるBETA本隊を迎え撃つ準備は整う。第一陣で支援出来なかった分、今回の戦闘で挽回すべくゼロは気合を入れる。そして艦の指揮や展開部隊への指揮権をジェフリーに委譲し、ゼロはパイロットスーツに着替えるべくロッカールームへ向かった。

 




以上、第16話でした。
文字数少ない上に、説明臭い文章ばかりで会話文が全然無いという拙い話で申し訳ございません。

次話はゼロ視線でBETA戦になると思います。

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