Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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一月ぶり、お久しぶりです。
今回、切りのいいところまで書こうとして途中で力尽きました、ゴメンナサイ。
後半かなり急ぎ足です。


第15話 接触

――7月3日午後5時30分。

指定された時刻の30分前に悠陽は真耶をと手紙に書かれていた者達のみを伴って大文字山を登っていた。双子は忌み児という古くからの習わしによって生まれてすぐさま『生まれなかった』ことにされ、分家である御剣の家に差し出された妹が絡んでいる以上下手に人員は動かせないため直衛は真耶と醍三朗、秋閣の3人のみ。他は暗部の人間が10人ほど頂上付近に潜んでいるだけだ。

左近を呼び寄せ、醍三朗達が屋敷を訪れた時に手紙の事を話し出向くという旨を話した際当然の如く猛反対されたが、五摂家としての権力にモノを言わせて認めさせた。結果、納得はしてないが仕方がないと説得を諦めた醍三朗がまず味方についてからは意外とすんなり話は進み、残った真耶達は悠陽が直接出向く事を止める事を諦めた。

数時間前から先行している暗部からの報告で道中に罠等は確認されていないため周囲の気配にのみ気を配りながら6人は頂上を目指す。そして指定された6時の10分前に頂上に着いていた。夕日に照らされた山頂には悠陽達以外誰も見えず、また誰も姿を見せていないと真耶の小型イヤホンに報告が入る。

悪戯だったのか、そんな思いが一同の脳裏に浮かんだその時、空気を切り裂く飛翔音とジェットエンジンの音が微かに耳に届いた。その瞬間真耶と醍三郎が悠陽の前に出て腰に差した刀に手を掛け、是親と左近が悠陽と背中合わせになり秋閣がその前に立つ。

 

 

「あれは…?」

 

 

真っ先に音の聞こえる方角の空を見上げた悠陽の視界には2つの黒い影が映った。一瞬鳥かとも思ったが、違った。羽ばたかず、人の形をしている。真耶達も釣られるように視線を向けてその姿を認識し、思考を止めてしまった。人が飛んでいるのだから仕方がない。

茫然としている内にその2人の人影は悠陽達の手前20m程の場所に足元から着陸した。衛士強化装備ほどではないが身体のラインの浮き出る似たような物を着て背中や手足に装甲を身につけた男女だ。バイザー付のヘッドギアを付けているため顔つきは分かりにくいが、2人とも銀髪で日本人ではなさそうだった。

 

 

「お初御目に掛かります、煌武院悠陽様」

 

 

ガシャリと、足音を立たせながら一歩前に踏み出した男の方がヘッドギアを外し、跪いた。肩口までの銀髪と月のような金の若い男だった。悠陽よりは年上だが、真耶よりは下だろう。男が踏み出した時の音に反応して真耶と醍三朗の刀の鍔が鳴ったが、男も女もそれに緊張した様子は見られない。

 

 

「貴公…名は?」

 

 

足を肩幅まで開き、腰を落とした醍三朗が低く睨みながら悠陽に変わって問いかけた。

 

 

「失礼、申し遅れました。私はフロンティア船団所属のゼロ。ファミリーネームは御座いませんので、ゼロと御呼び下さい。そして彼女はナターリア」

 

 

「…ナターリア・ビャーチェノアです。AL第3計画の出自ですので、この場での策略は無意味とお思い下さい」

 

 

ゼロと名乗った男の後ろで待機していた女が立ったままヘッドギアを外した。腰元まで届く銀髪をポニーテールにした少女と言っていい年頃で、左目に眼帯をしていた。

そして悠陽達を驚愕させたのはナターリアの言ったAL第3計画の出身だと言うことだった。五摂家とは言え、まだ子どもだった悠陽には詳しくは教えられていなかったが、悠陽は第3計画とはBETAの思考をリーディングという相手の思考を読み取る超能力のようなモノで調査するという計画だったと記憶している。幾ら計画が当に廃止されたとは言え、ソ連が計画の遺物をそうそう他者に差し出すとは思えない。しかし、銀色の髪と青い瞳は悠陽達が得ていたESP能力者の外見的特徴と一致する。

予め第3計画出身であると明かし、周囲に潜んでいる者達の行動と悠陽達が深く思案する事を制限する。それがゼロの思惑であり、悠陽達が見事に策に嵌った事を何とか『読み取った』ナターリアは悟られないよう一息吐いた。正直なところ、ナターリアのESP能力はそれほど高くない。悠陽の思考もはっきりとはイメージが分からず、潜んでいる者達も何人か居るという事ぐらいしか分からない。

 

 

「……ゼロ、ナターリア…。

 名は分かりました。ではゼロ。回りくどいのは止めましょう。私(わたくし)達を呼び出した用件は何ですか?」

 

 

「はい、重慶ハイヴよりBETAの大規模集団が東進を開始。海岸線へ向けて突き進んでいるため日本列島への侵攻が目的と思われます。九州、中国地方に避難命令を発して頂きたく直にお願いしに参った次第です」

 

 

「BETAが…日本に…!?紅蓮、彩峰!真ですか!?」

 

 

ゼロの発した言葉に悠陽は慌ててその手の情報を早期に入手しているであろう軍部の高官2人に問うた。

 

 

「確かに、重慶ハイヴのBETAが東進を開始したとの情報は入っております…。しかし…」

 

 

「作戦司令部の予測ではBETAの帝国侵攻は半年後とされております。朝鮮半島への増援ではないかと言うのが我々の意見です」

 

 

しかし、高官2人は違うと言う。ホッと一息吐きそうになった悠陽だったが、遮るように立ち上がったゼロが口を開いた。

 

 

「半年後に侵攻、とはどのような情報を基に推測されたのですか?BETAの思考は解明されていないというのに、どうやって?貴方方の常識ですか?今まで散々その常識を裏切ったBETA相手に」

 

 

「確かにそうだな。しかし、君の話の根拠は何だ?BETAが帝国に侵攻して来るという根拠は?」

 

 

秋閣が問う。此方の推測の根拠を尋ねてきたのなら其方の推測にははっきりした根拠があるのかと。

 

 

「…残念ながらありません。ただ、BETAはこれまで人類の意表ばかり突いてきました。地下侵攻や、光線級が居なかった地帯への急な出現。何れも人類側が大丈夫だろうと油断し切ったところで発生しています。半年後まで大丈夫などという推測を信じて油断している帝国に侵攻しても可笑しくはありません。重慶から海岸線まで、既に防衛戦はなく一直線ですしね」

 

 

ゼロの根拠は無いと答えた。これもまた推測だと。しかし一理有る事でもあった。

 

 

「此方の警告を受け入れるも受け入れないも自由です。ただ、侵攻が始まった際には迅速に一般人の退避をお願いします。

そして、用件がもう一つ有りまして、帝国にBETAが侵攻した時に我々フロンティア船団の参戦許可をお願いします」

 

 

「警告は感謝します。…しかし、フロンティア船団とは?得体の知れない者を帝国に招く訳にはいかないのですが」

 

 

「あぁ、そう言えば言ってませんでした。1600m級超大型戦艦バトル・フロンティアを旗艦とした艦隊で、現在は月面にて残存BETAの処理及び資源の収集を行っています。彩峰閣下とは光州でお会いしましたね」

 

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

1600m級やら艦隊やらと気になる事も言っていたが、そのどれよりも簡潔にフロンティア船団という組織の事を悠陽達に理解させたのは月面と光州だろう。左近だけは普段のポーカーフェイスを保っていたが、ちらりと視線を向けた悠陽に対して首を左右に振った事からして掴んでいない情報だったらしい。

スワラージ作戦以降大規模な戦闘の時には時折現れる不明機を所有する月面でBETAと交戦していた所属不明勢力。火力や機動力、防御力、武装の全てが戦術機を超える可変戦闘機を所有する勢力を各国は血眼になって探した。しかし、戦場で得られる映像が限界で、一度見失えばレーダーから消え失せてしまい追跡は不可能。直後に水平線の彼方で急上昇する機影が確認されるが、大気圏を突破したところで再びロスト。監視衛星にもダミーの映像が流されているために何処から来て何処に消えていくのか分からなかった。

 月面で確認された時には米国が調査隊を打ち上げたが、接触は出来ず。月面には未だBETAが残っていたために着陸は断念し、以後は監視衛星での観察だけに留めている。

軽快な機動に光線級の攻撃すら弾く防御兵装、高性能な小型誘導ミサイル、そして未だどの国も実現出来ていない光学兵器。そんな世界中が欲している超技術の塊を所有している組織が今、自分達の目の前に居るという。

 

 

「市民の避難が遅れる場合は港に向かうよう指示してください。此方で回収します。

 また、九州の防衛が不可能と判断された場合早急に全軍退避してください。完全退避の確認後海上よりケーニッヒ・モンスター4機による砲撃を行わせて戴きます」

 

 

ケーニッヒ・モンスターと言えばヴァリアブル・ボンバー、可変爆撃機のカテゴリーに属する機動兵器としては最大級の火力を誇る、その名の冠する通りの怪物だ。この世界のS-11にも匹敵する威力を持つ大口径誘導弾を放つ砲を4門備えており、弾薬を満載したモンスターが4機も居れば容易く地形を変える事が出来るだろう。ましてや、反応弾を使用した場合など九州がこの世から消滅する。しかし悠陽達はケーニッヒ・モンスターを知らないためゼロの説明では支援砲撃程度のものと推測した。そのため、その恐ろしいまでの火力を知らないまま頷いてしまった。

 

 

「それから、鎧衣さん。これを」

 

 

そう言ってゼロはフロッピーディスクのようなモノを懐から取り出し、左近に投げ渡した。開いていた距離を緩やかな放物線を描きながら飛んだそれを左近は丁寧に受け止めた。

何の変哲もないただのフロッピーのようだが、何のデータが入っているのか。警戒を続ける真耶や醍三朗以外がそのフロッピーに目を向けると、ゼロは中身の解説を始めた。

 

 

「我々が母艦級と呼称している超大型BETAと月のオリジナルハイヴ最奥に居た重頭脳級、反応炉とも呼ばれている頭脳級BETAの現在判明しているだけの戦闘データです。大きさや行動パターンが記録されています。他にもこれまで潰したハイヴの内部構造とBETAの出現予測地。

 余った記録領域にバルキリー……VF-11CとVF-171のスペックデータが少しだけ入っています。好きに使ってください」

 

 

 告げられた中身に悠陽達が驚いている中、ゼロとナターリアはEXギアを起動させてフワリと浮かび上がる。その時のエンジン音で悠陽達が視線を戻した頃にはゼロ達の身体は既に人の頭の高さを超えていた。

 

 

「ま、待て!」

 

 

真耶が一歩踏み出し声を上げる。

 

 

「終始一方的で申し訳ありませんが、退散させて頂きます。そろそろ逃げないと包囲されそうですので。

 では、ごきげんよう。またお会いしましょう」

 

 

バイザーを下ろし、ニッコリと社交的な笑みを浮かべたゼロは腰のアタッチメントからスモークグレネードを取り出し、真下に落とす。白煙が辺り一帯を覆い隠し、不意打ちを警戒した真耶達が悠陽達を囲む中、飛翔音が遠ざかって行く。煙幕が晴れる頃には空には誰も居らず、茜色の空には人影は無い。完全に逃げ切られていた。

真耶が山の外で待機していた者達に連絡を取っているが、南に飛んでいくのが見えたが目標が小さく速かったため見失ったという。これまでアンノウンとして扱われてきた者達と接触出来たのは僥倖だったが、一方的に情報やデータを渡されただけで此方の質問は一切出来なかった。何処の国の者達なのか、それすらも分からず悠陽とゼロの面会は終わった。

 

 

翌日、九州地方に対して非常事態宣言が発令され、民間人の避難と防衛部隊の展開が五摂家の煌武院家次期当主であり、次期将軍最有力候補である悠陽と斯衛軍大将の醍三朗の指示で開始された。

 




以上第15話でした。
こう言った政略は苦手です。納得いかないかも知れませんが、何卒御容赦を…

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