Muv-Luv Frontier   作:フォッカー

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お久しぶりです。忘れられていない事を願いつつの3か月ぶりの投稿です。


第14話 太陽の少女

 

――1998年7月1日。

旗艦をマクロス・クォーターとしたフロンティア船団先遣部隊は4隻の環境艦を従え宇宙のL5宙域へとフォールドアウトした。居住性に優れたリゾート艦を始めとして、医療関係の施設が集中した艦や兵器開発の設備を整えた艦、牧畜などの食糧生産能力に長けた艦。L5の暗礁宙域に全艦を待機させ、クォーターから2機のバルキリーが飛び立った。1機はゼロ専用の改良型ファストパックを装備したVF‐19Sで、もう1機は薄い水色をしたVF‐19だ。正式名称はVF-19AというVF-19シリーズの初期生産型で、じゃじゃ馬と呼ばれたYF-19の機体色を濃く残している。S型、F型では廃止された前進翼の可動を使用出来るようになっており、全体的により空力特性を意識した機体だ。ピーキーな操縦性故にゼロは遠慮したが、宇宙での空間戦闘用に再設計されたS型よりも地上での活躍は期待出来る。此方に搭乗しているのはカナンで、S型にはゼロとナターリアが搭乗している。

使い捨てのフォールドブースターを装備した2機はある程度加速してからフォールドを行い、この宙域から姿を消した。

 

そして2機は地球の衛星軌道上にフォールドアウトし、ブースターをパージした。ブースターは重力に捕まり大気圏に突入して燃え尽きるため後に回収されてデータを取られる心配はない。対して2機は地球の重力に引き込まれないよう注意しながら監視衛星にダミーの映像を流す。その後は現在の高度を維持し、日本への降下タイミングを待った。

 

 

「ゼロ、クォーターのモモさんから緊急の通信が来ています」

 

 

「なに…?繋いでくれ」

 

 

出立してからまだ1時間と経っていないのにも関わらずの緊急通信を疑問に感じつつも、ゼロはナターリアに通信を繋がせた。すぐに回線が開き、小型モニターにモモが映し出された。

 

 

「どうした?」

 

 

『H.16、重慶ハイヴ周辺にてBETA反応が増大。近日中に大規模部隊の侵攻が開始される可能性があります。また、太平洋上にて大型台風発生の予兆が見られます。恐らく……』

 

 

早くも来た、と言ったところか。続けて詳細を報告するモモによれば、この様子では第2週にはBETAが日本に上陸するだろうとのこと。1週間で何処まで堅牢な後ろ盾を造れるかは疑問だが、これでは多少強引な手段に出る必要があるかも知れない。

 

 

「…艦隊は現在の宙域にて待機。第1種戦闘態勢のまま連絡を待て。また、4日以内に連絡のない場合、指揮権はジェフリーに委託。あとは任せる」

 

 

『分かりました、作戦の成功を祈ります』

 

 

「…通信、切断されました。降下予定時刻まで残り30分です」

 

 

モニターが消え、ナターリアがこの高度に留まる残り時間を報告した。足元の地球は生憎と夜であるため今どこの上空に居るのかは見えない。ただコンピューターの計算した時刻に計算通りの角度で侵入するだけだ。そうすれば日本の三宅島付近に降りられる。

カウントダウンをモニターに表示させ、ゼロはシートを少し傾け力を抜いてその時を待った。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

――1998年7月2日・京都

 

日本の首都である京都。その中に武家の屋敷が集中する区域がある。そして五摂家の一角である煌武院家の屋敷もまたここに在った。日も沈み、すっかり暗くなった屋敷の縁側に1人の少女が座っていた。白い着物を着た少女からは気品が漂っており、知らぬ者でも一目見れば彼女が大変高貴な生まれであると分かる。少女の名は煌武院悠陽。齢15にして次期政威大将軍最有力候補だ。

その悠陽は夕食を終え、自室に戻って1人空を見上げていた。雲は晴れており、澄んだ視線の先には金色に輝く月が顔を見せているが、悠陽は彼女にとって大切な1人の少女の姿を幻視していた。

 

 

「悠陽様」

 

 

「真耶さん?どうぞ」

 

 

閉じた襖の向こうから呼ばれた悠陽はその声の主を招き入れた。襖を静かに開いて入って来たのは紅いの軍服に身を包んだ眼鏡を掛けた女性だった。月詠真耶という、悠陽の付き人だ。

 

 

「悠陽様。紅蓮大将閣下と彩峰少将閣下、榊国防大臣は明日の正午にお見えになられるそうです」

 

 

「そうですか、分かりました。ありがとう、真耶さん」

 

 

現在の将軍は弱っている。別に歳という訳でも病という訳でもなく、ただ政府でいう支持率というモノが下がっているのだ。将軍に問題があったのではなく、そういう時期が来たというだけだ。人々が新しい流れを求める時期が。そしてそれすなわち悠陽が将軍になる日が近いという事で、悠陽を支援している幼い頃より彼女に文武に渡って指導してきた師達を呼びその将来に向けてどうするべきか話し合おうとしていたのだ。これまではそれぞれが日本の重鎮とも言える者達故に時間が合わなかったが、明日漸く揃うと言う。

3人の来訪時刻を伝えに来た真耶に礼を言い、再度悠陽は外に視線を向けようとした。しかし、その動作はふわりと自身の膝に降り立ったモノに気を取られて中断させられる。

 

 

「何者だ!」

 

 

鋭い剣幕で真耶が叫び、悠陽を室内に引き込み自分を盾とした。外を見ても既に人影はなく、気配も感じない。真耶の声を聞き付けた侍女や警備の者達が慌ててやって来る。

 

 

「どうなされました!?」

 

 

「賊だ!まだ遠くには行っていない筈!」

 

 

真耶の言葉を聞き、警備部隊の隊長が部下に指示を出して周辺一帯に包囲網を敷き、警戒するよう指示を飛ばす。

そんな中悠陽だけは落ち着いた様子で外から投げ込まれたと思しきモノを見ていた。それは紙飛行機だった。独自の織り方をしているのか、少なくとも悠陽の知る形ではないもののそれは確かに紙飛行機だった。翼の裏には文字のようなモノも見え、悠陽は破らないよう慎重に紙飛行機を開き始めた。

 

 

「悠陽様!危険です!」

 

 

「大丈夫ですよ、真耶さん。文のようです」

 

 

駆け付けた者達がそれぞれの場所の警備に向かうのを見送った真耶が注意するが、重さからして単なる紙のようで、例え毒が塗られていたとしても着物の袖越しに触っているため危険は低いだろう。それに、悠陽自身このような一風変わった形で届いた手紙に興味があった。

 

 

「…開きました。どれ……っ!?」

 

 

「これは!?」

 

 

少し手間取ったものの紙飛行機を開くことに成功した悠陽は何が書かれているのか楽しみにしながら2つ折りになっていた紙を開き、一緒に見た真耶と共に息を呑んだ。手紙は上半分は文字でメッセージが書かれていたが、2人の目にまず飛び込んできたのは下半分を埋めた一枚の写真だった。道着姿の悠陽そっくりな少女が何処かの庭先で剣を振っている様を斜め上から捉えた写真。写ってる少女はまるで気付いた様子はなく、隠し撮りされたかのようなアングルだった。

 

 

「…冥夜っ」

 

 

真耶よりもいち早く正気を取り戻した悠陽は慌てて上半分の内容に目を通す。

 

――明日7月3日午後6時、大文字山の頂上にて内密にお会いしたい。可能なら紅蓮醍三朗、彩峰秋閣、榊是親、鎧衣左近の同席を希望する。

 

簡潔に纏めるとこのような内容が丁寧な文体で書かれていた。この文で呼ばれている鎧衣左近という男は明日来訪する3名と同じく信用に足る人物で、彼は国内外の情報収集に秀でた者だ。写真については一切触れられていなかったが、そのせいで逆に下手に動けない。

すぐさま真耶が冥夜の安否の確認のために御剣邸へ連絡を取りに向かった。幸いなのか、知っていたのかは分からないが明日要求された3人は屋敷に来ることになっている。左近についても現在は何処に居るのか定かではないが呼べば地球の裏側からでも即座に現れるだろう。

今の自分に出来ることは無い。そのことを歯痒く思いながら悠陽は空を見上げた。視線の先に浮かぶのは何者かによって奪還されたという月だけ。その月に冥夜の姿を思い浮かべながら悠陽は明日への不安を感じていた。

 




はい、以上第14話でした。
次話更新日は未定ですが、なるべく早く投稿出来るようにしたいと思います。

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