本編11話および前話既読後推奨。一部内容がリンクしています。
《これは、11話後のあとがき会話から続くリーフとグリーンのとある出来事である。》
旅の途中に寄ったポケモンセンターでのことだ。手持ちを回復するためポケモンを預けていたグリーンは、休憩所にて同じく待ち時間を潰しているリーフと偶然にも出くわした。
よぉ、と声をかければリーフは驚いた様子を見せたが、すぐに自前の明るいテンションで話しかけてきた。
「そういえばうちのお父さんから聞いたんだけどさ、あんたと私がサントアンヌ号のパーティで会ったって」
「はぁ?」
突然の言葉に、グリーンは思わず自販機のボタンを押し間違えてしまう。コーヒーの微糖を買うつもりが、出てきたのはココアだった。思わず舌打ちしてしまうが、特に飲めないといった訳では無い。渋々と飲むその姿にリーフは答えを見た。
「ははーん、なるほどね。その反応でわかったからもういいわ」
「どういうことだよ?」
「ちなみに、あんたが会ったのって可愛い系? それとも美人系?」
「んなっ、急に言われても……」
慌てて視線を逸らすグリーンの顔は僅かに赤い。リーフはあえて「誰」とは質問しなかったが、毎度聞かれることは同じだ。なのに敢えて選択肢を入れたのはちょっとした意地悪だ。
魔女に引っかかった愚かな羊。それを何匹もリーフは見てきた。ついに幼馴染にまでその毒牙にかかろうとは思わなかったが。
相変わらずの身内に嫌気が差す。しかし、その予想はグリーンからの返答によって覆される。
「……どっちかってーと、美人系」
ポカンと口を開けたまま、リーフは暫し固まる。
え、嘘、グリーンの目がおかしいとかそんなオチはないよね?
混乱するリーフをよそ目に、グリーンは照れ隠しのように喋り続けていた。
「――だし、そもそもその質問ってなんか意味あんの……って、どうした?」
そこでようやく幼馴染の異変に気づいたグリーン。彼女の目の前で「おーい」と手を振れば、すぐさま邪魔だと払われる。
「おいこら、心配してやったっていうのに」
「もじもじしてたグリーンが気持ち悪くて、つい」
「さっきからお前の態度酷くねえ!?」
どうでもいいとばかりにグリーンの反応を無視したリーフが取り出したのは一枚の写真。先日、兄妹同然の存在から送られてきた物だ。それを彼に見せながら言う。
「確認するけど、こんな感じの子?」
「お前知ってるのか!」
「知ってるも何も姉妹だし」
写真の姉は普段滅多にしないお洒落を施された女の子姿で写っている。うん、あれに比べれば断然美人系だ。どうやらグリーンの目は正常で間違いなさそう。
リーフはこの手の問答で得られた初めての回答に、内心複雑な思いが渦巻く。
片割れを選んだ幼馴染の審美眼は間違っていなかった。 ホッとしたのも一瞬。次に浮かんできたのは「グリーンが義兄とか無理」だった。気が早いにも程がある。
そもそも赤い人は生涯独身宣言をしているのだが、そんなことなど知らない彼女の脳内は緊急会議で討論が白熱していくばかりだ。
「……ぁ……ぅ……ぇと……」
一方、グリーンはといえば。写真とリーフの顔を交互に見ながら狼狽えていた。
何が言いたいかなんて聞かなくてもわかっている。生まれてこの方、双子だと初見で見破られたことなど一度もない。そもそもうちは家族全員似てないし、と今では開き直っているくらいだ。
言い出したくても言い出せない、傍目から見てももどかしい行動ばかりを繰り返すグリーン。それを見たリーフはピンと来た。
「当ててあげよう。今あんたはうちの姉の情報を知りたくても、妹の私に対する今までの態度が悪いせいで、どうお願いしたら取り成してくれるのか分からなくて悩んでいる、でしょ?」
「くっ……」
「ふっ。図星か」
「う、うるせえ! なんか文句あんのかよ!!」
「いいや、べっつに~」
真っ赤に染まったグリーンを見てニヤニヤと楽しむリーフだったが、ちょうどジョーイさんから呼ばれてしまう。せっかく楽しくなってきたところだったのに、と不満が洩れる。最後に置き土産とばかりに写真をグリーンに向けて差し出した。
「反応が面白かったからその写真はあげるよ。じゃあねー!」
機嫌よくスキップしならがその場を去ったリーフ。その後姿を見てグリーンは特大のため息を吐くが、その手には先ほど送られた写真がしっかりと握られていた。
遠いどこかで誰かがくしゃみをする音が聞こえた気がする。