美柑と黒猫と金色の闇   作:もちもちもっちもち

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ザスティン

「ごめんなさい」

 

 

 土下座。

 人生で最初の土下座である。

 

 

「……顔を上げてくれ、トレイン君」

 

 

 頭上から降り注ぐ声に、しかしトレインの頭が上がる気配を見せない。

 デリカシー皆無の無神経男ことトレインの殊勝な態度に、遠巻きに彼を見守る住人達は言葉が出ないようであり、ヤミなどは早々に偽者説を唱え出す始末。

 だが、現実としてトレインは自分にできる最大限の謝罪方法を取っている。

 

 

「謝罪は受け取った。君が反省しているという気持ちも、土下座という姿勢から十二分に伝わってきている。なにより、反省している者に追い打ちを掛けるほど、私は非道ではないつもりなんだ」

 

 

 朗々と紡がれるのは、確固とした意志に基づく言葉。

 これにはトレインも折れるほかなく、床に擦り付けていた頭をゆっくりと上げた。

 

 

「……あの、もう一度確認しますが」

 

 

 全身を覆う怪甲冑。

 中世的な顔立ちに縁取られた実直な眼差し。

 陽光にきらめく銀の髪。

 

 だがもし、怪甲冑が悪趣味な黒装束になったら。

 だがもし、実直な眼差しに影が差せば。

 だがもし、下ろした銀髪をかきあげれば。

 

 

「おたく、本当にクリードじゃないんだよね?」

 

「何度も言うが、私の名前はザスティンだ。断じてクリードという名前ではない」

 

 

 ザスティンの容姿は、クリード=ディスケンスに酷似したものだった。

 

 

「……本当に?」

 

「本当だ」

 

「……実はクリードの親戚とか?」

 

「親戚どころか、クリードという名前を耳にしたのは今日が初めてだ」

 

「……嘘とかついてないよね?」

 

「騎士の名に懸けて、嘘ではないと誓おう」

 

 

 真っすぐに目を合わせるザスティンの眼差しは澄んでいて、暗く濁って腐りきっていたクリードとは対極的だった。

 それに、改めて観察すれば身長ははるかに高く、髪色も微妙に違うし、声だって全然だ。

 他人の空似。その結論に至り、ようやくトレインは警戒心を解いた。

 

 

「ねぇ、トレイン君。結局クリードってどんな人なの?」

 

 

 そんな時、皆を代表し、美柑が訪ねてきた。

 

 

「クリードがどんな奴かって、それは――」

 

 

 悪夢、再び。

 

 

「……ヤンホモ怖いヤンホモ怖いヤンホモ怖いヤンホモ怖いヤンホモ怖いヤンホモなんて嫌いだヤンホモ来んなヤンホモ失せろヤンホモヤンホモヤンホモヤンホモヤンホモヤンホモヤンホモ――」

 

「トレイン殿――!?」

 

 

 当時の恐怖体験がフラッシュバック。

 以後、トレインにクリード=ディスケンスについて聞いてはいけないという暗黙の了解が自然と出来上がるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 四方を壁で囲む、此処はザスティンの所有する宇宙船の一室。

 主に模擬戦を目的として使用される、そんな空間に二人は向かい合っていた。

 

 

「準備はいいかな、トレイン君」

 

「おー、こっちはいつでも」

 

 

 柔軟を止め、取り出したのは相棒の装飾銃。

 子供の身には持て余すほかない大仰な拳銃だが、それを持つ姿は不思議と堂に入っていた。

 対するザスティンはあくまでも自然体、しかしその眼差しは鋭く研ぎ澄まされ、纏う雰囲気は見た目子供なトレインを相手にするとは思えないほど剣呑だ。

 

 

「なあ、本当に止めなくてよかったのか?」

 

 

 そんな二人を、ナナは強化ガラス越しに見守る。

 

 

「あら、ナナったらトレインの心配? いつの間にそんなに親しくなったのかしら?」

 

「そうじゃねー。モモも分かってんだろ。ザスティンの奴、あの眼はマジだぞ」

 

「……分かってるわよ。ホント、あんなのザスティンらしくないわ」

 

 

 同意するモモの声にも、確かに戸惑いの色が見え隠れする。

 誰に対しても律儀で誠実、騎士道精神を重んじるザスティンを知る彼女達に、子供のトレインを相手に全力の姿勢を見せる姿は、あまりにも異質に見えるのは仕方のないことだった。

 

 

「恐らく、トレインを警戒しているのでしょう」

 

 

 集中する視線を相手にはせず、ヤミはガラス越しの二人から目を離さない。

 

 

「それこそ冗談だろ。だってトレインだぜ? 口が悪くて意地汚くてデリカシーのねー悪ガキが相手なんだぜ? お灸を据えるにしたってやり過ぎだろ」

 

「あのような銃を隠し持っていたことには驚きですが、ザスティンの相手になるとは到底思えません。ザスティンはデビルーク星王室親衛隊隊長、即ちデビルーク星最強の剣士なのですから」

 

 

 その一撃は地割れを引き起こし、身体能力はデビルーク星の中でも随一。

 普段の間の抜けた一面のせいで忘れられがちだが、純粋な戦闘能力で言えば、王族であるナナやモモよりも上であり、三姉妹の中で最もデビルークの血を色濃く受け継いだララ相手に、パワーという一点以外は全てを上回っているのだから。

 

 

「……私は一度もトレインに勝ったことがありません」

 

「へっ?」

 

「はぁ!?」

 

 

 呆けた声がモモから漏れ、信じられないとナナが叫ぶ。

 

 

「詳しい経緯は話せませんが、少し前に全力で挑みました。しかし、結果は私の惨敗。宇宙一の殺し屋などと言われていますが、トレインには意味などないということを思い知らされました」

 

「凄かったよね、ヤミさんとトレイン君の戦い。遠目からだったけど、全然目で追えなかったし」

 

「その節は、美柑には大変迷惑を掛けました」

 

「いいよいいよ、全然気にしてないし。あっ、それよりヤミさん、あの時凄い音したけど、頭は大丈夫なの?」

 

「……大丈夫です。それと、そのこともその後の出来事も忘れてくれるとありがたいです」

 

 

 紅潮した顔を隠すように俯くヤミに、ナナとモモは言葉が出ない。

 総合力ならザスティンに分があるが、ヤミの≪変身(トランス)≫は暗殺にこそ真価を発揮する。

 客観的に見て、ザスティンとヤミの実力は均衡しているといっていい。

 そんなヤミが、トレインには一度たりとも勝てなかった。

 言葉を失ったナナとモモは、改めてトレインを注意深く観察する。

 

 

「……あいつって実は宇宙人とか? 父上みたいに力を使ったら小さくなるとか、そういう系の」

 

「トレイン本人は地球人だって言ってたぞ」

 

「……どうなってんだよ地球人って。リトみたいな能力持ちが溢れかえってんのか?」

 

「オレみたいなってどういう意味だよ!」

 

「さすがリトさんって意味です」

 

「誤解だって!」

 

「あっ、始まるみたいだよ。リトはどっちを応援するの?」

 

「ララ! 今はそれどころじゃ――」

 

「私はどっちも勝ってほしいし怪我もしてほしくないから……頑張れートレイン! 負けるなーザスティン! どっちも怪我だけはしないでねー!」

 

「…………」

 

「まうっ」

 

「ドンマイです、リト殿」

 

「……オレの味方はセリーヌとペケだけだよ」

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

「なんか、向こうは随分と盛り上がってんな……」

 

 

 余所見をするトレインは隙だらけだが、ザスティンが仕掛けることが出来なかった。

 装飾銃を肩に預け、姿勢は脱力。

 しかし、意識が依然としてこちらへ向き、警戒心も解いていないことは明白だった。

 

 ――やはり、この少年は危険だ。

 

 思い出すのは、最初の邂逅。

 突然の攻撃に面食らったが、躱せない速度でも距離でもなかった。

 だが、結果としてザスティンはトレインの攻撃を受けた。

 射殺すような眼差し、ザスティンはそれに竦み上がり、動けなかったのだ。

 あれほどの殺気、銀河大戦を生き抜いたザスティンでも数えるほどしか浴びたことはない。

 

 聞けば、トレインはヤミと親しい間柄だとか。

 横目で伺えば、ララ達に混じる、宇宙一の殺し屋≪金色の闇≫の姿が確認できる。

 護衛として、それはあって欲しくない光景ではあったが、ザスティンとしても彼女達の意思を無視する訳にもいかない。

 一時ではあるが本来の職務を放棄し、人違いによる負い目に付けこみ、今回の試合を設けた。

 トレインの人間性がララ達に害を及ぼさないか、それを見極めるために。

 

 ――瞬間、トレインの姿が掻き消えた。

 

 

「なっ――」

 

 

 条件反射の抜剣、愛剣≪イマジンソード≫の柄から伸びた光の刃を、振り向きざまに一閃。

 

 

「へぇ、ライトセイバーかよ。カッコいいじゃん」

 

 

 火花散らす先で、好奇心に光る金の瞳を捉える。

 常軌を逸した速度と戦闘中にも拘らず軽口を叩く余裕。

 一瞬とはいえ油断した己に活を入れ、裂帛の気合と共にトレインを弾き飛ばす。

 

 

「いざ、参る!」

 

 

 間髪入れずに肉薄。

 縦横無尽に振るう光子剣の太刀筋がトレインを襲うが、そのどれもが空を切る。

 

 

「ならば――」

 

 

 横薙ぎに振るった光子剣を勢いのまま回転。

 トレインに背を向け、光子剣が死角になった瞬間、刀身のリーチが倍加。

 質量を持たない光子剣だからこそ可能な芸当であり、振り向き様に伸びた刀身が襲う、ザスティンの得意技の一つだ。

 

 

「ほいっ」

 

 

 トレインにとっては初見の技。

 しかし、彼は屈むことでこれをやり過ごし、即座にザスティンへ接近。

 急ぎ引き戻した光子剣が、振るわれた装飾銃とぶつかり合う。

 

 

「何故、私の攻撃が……っ」

 

「奇襲性は上々、アイデアとしても面白いとは思うんだけどなぁ」

 

 

 鍔迫り合いの中、動揺を隠せないザスティンに、トレインは静かに告げる。

 

 

「刀身が見えてる時点で、俺には届かねぇよ」

 

 

 脱力と同時に後退。

 前へつんのめりたたらを踏むザスティンに、黒猫の爪が襲い掛かる。

 

 

「≪黒爪(ブラッククロウ)≫」

 

 

 描かれる四筋の爪痕。

 鎧越しに伝わる衝撃に息が詰まり、後退を余儀なくするザスティンだが、その顔に浮かぶ苦悶の色は時間を置かずに色褪せていく。

 

 

「……軽いっ」

 

 

 速度はザスティンより上。

 だが、パワーは圧倒的に格下。

 華奢な外見は、見た目通りの筋力しか持たないのだろう。

 トレインの未成熟な身体では、鋼のように鍛え抜かれたザスティンには十分な威力を発揮させることが出来ないのだ。

 

 

「へぇ……」

 

 

 決まったと思ったのか、僅かに見開かれる金色の瞳。

 だが、次の瞬間には細まり、口元は弧を描く。

 

 

「目には目を、歯には歯を」

 

 

 そう言って突き出した装飾銃の銃口は、あらぬ方向を向いていた。

 

 

「剣士には剣士が相手をしなくちゃな」

 

 

 銃声。

 一瞬遅れ、もう一度。

 ザスティンの動体視力では線でしか捉えられないが、銃弾はそれぞれが全く関係のない方向を直進し、そのまま四方に存在する壁へ。

 誤射か、それにしてはあからさま過ぎるのでは。

 トレインの行動が読めず、視線を戻したザスティンの耳に、異音が響く。

 その直後だった。

 

 

「――っ!?」

 

 

 何の前触れもなく、手に持つ≪イマジンソード≫が弾かれる。

 そして、再び響く異音。

 驚愕に固まるザスティンだが、視線は光子剣に向けられ、だからこそ次の瞬間に起こった現象を捉えることが叶った。

 

 ≪リフレク・ショット≫――。

 跳弾を利用した、射線外からの奇襲攻撃。

 先の二射は、そのどれもが一見関係ないようで、緻密な計算のもとに放たれ、跳弾したそれぞれの銃弾が空中でぶつかり合い、その一発がザスティンの持つ光子剣の柄を射抜いたのだ。

 まさに神業、そうとしか形容できないトレインの絶技。

 弾かれた光子剣は、再度の≪リフレク・ショット≫によって遠くへ弾き飛ばされ、回収しようと駆け出すザスティンの目の前を黒い旋風が駆け抜ける。

 

 

「いただき」

 

 

 得意げな顔で光子剣を拾い上げたのは、トレインだった。

 犯した失態に表情を歪ませるザスティンだが、例え剣がなくともその戦闘力は一級品。

 回収を諦め、肉弾戦を選ぶザスティンだが、壁へと突き進むトレインの速度は衰えを知らない。

 あのままでは壁に激突する。

 そう思った次の瞬間、勢いそのままに飛び上がったトレインは空中でくるりと方向転換し、両足で壁に着地。

 限界まで曲げられた両膝が速度を吸収、光り輝く刀身の剣尖が標的(ザスティン)を射抜こうと突き立つ。

 

 

「≪雷霆≫」

 

 

 身構えていなければ、躱せなかった。

 それほどまでに凄まじい、迅雷の如き威力と速度。

 一条の矢となったトレインの一撃は、顔を反らしたザスティンの頬を薄皮一枚で削り取り、

 

 

「っ!?」

 

 

 直後に感じた、手首への違和感。

 突然の負荷に無理矢理反転させられ、それが装飾銃から伸びるワイヤーの仕業だと理解し。

 ワイヤーを巻き付けたザスティンの腕を軸に向き直ったトレインの間合いは、完全にザスティンを捉えていた。

 

 

「塵も残さねぇ」

 

 

 ≪アークス流剣術≫、終の第三十六手。

 

 

「≪滅界≫」

 

 

 視界一杯に広がる突きの壁。

 逃げ場はない、あまりの手数に防ぐ術もない。

 戦意を刈り取り、≪死≫を予兆させる、まさに≪必殺≫と呼ぶべき剣技は、

 

 

「降参だ」

 

「おう、じゃあ俺の勝ちだな」

 

 

 ザスティンの心を折るには、十分だった。

 寸でのところで静止した切っ先の先に、無邪気に笑うトレインの顔が映る。

 元からその気がないのには気付いていた、手心を加えられて悔しい気持ちがないのは嘘になる。

 それでも、全ては己の弱さが招いた結果。

 

 

「……先の技は?」

 

「なんちゃって技。あいつの技は殆ど盗んだけど、≪滅界≫だけは本家の足元にも及ばねぇよ」

 

 

 格が、違い過ぎた。

 

 

「切っ先が見えただろ? 本物は見えねぇぞ。気付いたら技が終わってんだ」

 

 

 完敗だ。

 己の未熟さ、相手の強さに敬意を表し、噛み締めるように閉じた瞳を静かに開けた時だった。

 

 

 

 一人の青年が、佇んでいた。

 

 

 

 不可思議な装飾の付いたジャケットを羽織り、顔に携えるは不敵の笑み。

 大仰で手に持て余していたはずの装飾銃は、その青年にはよく栄えていて。

 何故か思い浮かべたのは、自分の仕える宇宙の覇者。

 ≪鬼神≫と呼ばれ畏怖される最強の男に匹敵するほどの覇気が、目の前の青年から感じられて。

 

 

「……………クロ?」

 

 

 かつて剣を交わし、任務を共にした知人と、目の前の青年の容姿があまりにも酷似していて。

 そんなはずはない。そう思って目をこすり、瞳を瞬かせ、

 

 

「ザスティン?」

 

 

 次の瞬間には、青年の姿は何処にもなかった。

 代わりにあったのは、自分を見上げるトレインの金色の瞳だった。

 

 

「この剣、返すよ。悪かったな、勝手に使っちまって」

 

「あ、ああ……ありがとう。大事な剣なんだ、この≪イマジンソード≫は」

 

「え゛」

 

 

 スイッチが入ったように真っ青になるトレインを見下ろすザスティンの目は、穏やかだった。

 先の光景は、きっと幻に違いない。

 どことなく知人を彷彿とさせる容姿だが、常に無表情な彼とでは性格が違い過ぎる。

 トレインがザスティンを間違えたように、きっと他人の空似だろうと、そう決断を下す。

 それよりも、ザスティンには言わなければいけないことがあったから。

 自分の実力が及ばない強者が護衛の傍にいることへの危機感は、そこにはなかったから。

 

 

「これからも、ララ様達とは良き友人でいてください」

 

 

 剣を通して心を交わす。

 彼の心を体現したように、トレインの剣筋は何処までも真っすぐだったから。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

「やはり自分は剣士。そして、二束の草鞋が履けるほど、自分は器用な人間ではないんだ。だから、漫画家としての道は諦めると、そうリト殿の父君にはお話をするつもりだ」

 

「……お前って漫画家だったんだな」

 

 

 宇宙船から場所を移し、再び結城家のリビングに集う一同。

 態々椅子に座らず直接床に正座してから放った感想として、トレインは小さく呟いた。

 

 

「……そっか。親父も寂しがるだろうけど、きっと応援してくれると思うよ」

 

「マウルとブワッツについては、今後もアシスタントを務めたいと本人達たっての希望です。ですので、リト殿はこれからもララ様の傍にいてもらえると助かります。ですが、仮に才培殿のピンチとならば! 締め切りが間に合わないというのなら何時でも何処でもこのザスティン! 必ず駆け付けると誓いましょう!」

 

「未練タラタラじゃねぇか」

 

 

 デビルーク星王室親衛隊隊長兼漫画アシスタント。

 どんな肩書だよと、燃え上がる熱血漢を見下ろすトレインの目は冷ややかだった。

 

 

「ところで、トレイン師匠」

 

「誰が師匠だ!?」

 

 

 いい加減ツッコミが追い付かなくなってきた。

 

 

「では、トレイン殿。実は先の模擬戦で新しい技を思いつきまして。刀身が見えてる時点で俺には届かない、そうおっしゃったトレイン殿の言葉を参考に、自分なりに考えてみたんです。限りなく透明に近い光子で構成された、伸縮自在な不可視の剣。地球にある有名な侍ブレードの名前を冠してみた、名を≪イマジンブレード≫と――」

 

「おい馬鹿やめろ」

 

「必殺技っぽく漢字で書くと≪幻想虎徹(イマジンブレード)≫と――」

 

「その名を口にすんじゃねぇええええええええ!!」

 

 

 歩くトラウマことザスティン。

 本人としては無自覚にトレインの古傷を容赦なく抉るその手腕は、トレインがツッコミに回らなければならないほどの領域に達していた。

 恐るべしザスティン。

 口撃による精神攻撃は、なるほどデビルーク星最強の剣士は伊達ではなかった。

 

 

「ねーねーザスティン。そういえば最初に此処に来た時に、何か言いかけてなかったっけ?」

 

 

 自然な流れで反ることが出来た会話の流れに、トレインはララに救いの神を見たとか。

 そう言えばと表情を改め、ザスティンが向き合ったのはデビルーク三姉妹。

 

 

「お話というのは、セフィ様についてのことです」

 

「ママがどうかしたの?」

 

 

 トレインは知らない。

 

 

「通信を用いては盗聴等の恐れがあるため、こうして直接報告に参ったのです。保安上の理由で公には出来ないのですが、あなた方に知らせぬ理由はないですから」

 

 

 トラウマ(ザスティン)が運んできたものが、更なるトラウマであることを。

 自分には関係のない話だと適当に聞き流していたことを、後に死ぬほど後悔することを。

 怒り顔のララにトラウマ(女剣士)が重なった理由を、もっと深く考察していれば対策も取れたことを。

 

 

「実は、近日セフィ様が地球に訪れます」

 

 

 既に、運命の賽は投げられているということに。

 この時のトレインは、知る由もなかった。

 

 

 

 

 




セフィ様が地球に訪れます(大事なことなので2回言いました

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