美柑と黒猫と金色の闇   作:もちもちもっちもち

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注)ラッキースケベはリトさんの担当です。


リト

「んなぁ!? おまっ、ずっけーぞトレイン! それあたしのアイテムなのに!」

 

「ふははははっ! ナナの物は俺の物! 俺の物も俺の物!」

 

「どこのガキ大将ですかあなたは……」

 

「そいや」

 

「きゃあ!? 私の操作キャラに爆弾が!?」

 

「モモ、爆殺! お姫様はキノコ王国のピーチ城にでも引き篭もってろや!」

 

「ドラグーン完成! 行っくよーみんなー!」

 

「姉上姉上! トレインだ! トレインを狙うんだ!」

 

「……お姉様。私何とも思ってません。何とも思っていませんが――トレインを殺ってください」

 

「そ、そうしたんだけど、トレインの動きが速すぎて……!」

 

「す、スゲェどうなってんだ!? オレでもこんな動きは無理だぞ!?」

 

「わはははは! これが≪桜舞≫の真髄よ!」

 

「まうっ」

 

「あ、セリーヌがトレイン殿のコントローラーを」

 

「姉上今だ!」

 

「今こそ引き金を引く時です! お姉様!」

 

「は、離しやがれ桃色姉妹!? お前等ゲーム中に生身拘束するとか卑怯だぞ!」

 

「み、みんな……! うん、私やるよ!」

 

「ピンクの悪魔共がぁあああああああああああ!!」

 

 

 しゅきーん。

 

 

「やたー!」

 

「まーうっ!」

 

「ははは! ざまーみろ! 正義は必ず勝つんだよ!」

 

「はっ、汚い花火ですね」

 

 

 大喜びの女性陣。

 

 

「…………」

 

「ごめん、トレイン。あそこでお前を助けたら、オレがどやされてたから……」

 

「ご冥福をお祈りします。このペケ、これほど自分の非力さを呪ったことはありません……!」

 

「……リトやペケも苦労してんだな」

 

「……トレイン」

 

「トレイン殿……!」

 

 

 友情が深まる男性陣+α。

 

 

「……よくもまぁゲームの勝敗であそこまで一喜一憂できますね」

 

「ま、楽しければいいんじゃない? あ、ヤミさんお皿出してもらっていい?」

 

「これでよかったでしょうか?」

 

「うん、それそれ。ありがとねー」

 

 

 昼時。

 彩南町の住宅街の一角。

 

 

「みんなー、お昼の準備できたよー」

 

 

 庭付き2階の一戸建て。

 

 

「おいこら桃色姉妹。さっきの勝負は反則だろうが、罰としておかず一品ずつ寄越せや」

 

「あらあら、負け犬の遠吠えですか?」

 

「そうだぜトレイン! 敗者が勝者に従う、これ世の常識! おかずを献上するのはお前の方だろうが!」

 

「献上したところで吸収できねぇんじゃ意味ねぇだろうが」

 

「どこ見て言ってんだ!」

 

「壁」

 

「ペタンコで悪かったな!」

 

「それじゃあ、ナナの分も私がいただきましょうか」

 

「太るぞ」

 

「……本当に可愛くない子供ですね」

 

「化けの皮が剥がれてんぜお姫様? それがおたくの素か」

 

「まあ、化けの皮だなんて人聞きが悪い。でも、仕方がありませんわね。女の子の扱いすら満足にできないお子様なら見間違えるのも当然のことですし」

 

「…………」

 

「…………」

 

「あたしを無視すんなー!!」

 

 

 広いリビングに、彼等彼女等は一堂に募う。

 

 

「ナナ様やモモ様にあれほど早く打ち解け合えるとは……! さすがですトレイン殿!」

 

「本当にねー! リトもそう思うでしょ?」

 

「仲が良いっていうか、喧嘩するほど仲が良いと言えばいいのか……」

 

「早く席についてください、結城リト。プリンセス、早く彼女達を止めてください。せっかく作ってくれた美柑の料理が冷めてしまいます」

 

「もうあの人たちはほっとこうよ。私達だけで食べちゃお」

 

「まーうっ!」

 

 

 結城兄妹、宇宙植物のセリーヌ、デビルーク三姉妹、そしてペケ。

 普段の面子に加え、結城家に遊びに来たトレインとヤミを交え、昼食はスタートした。

 

 

「トレインのせいで出遅れたじゃねーか! どうしてくれんだ!」

 

「それはこっちのセリフだ。ナナと違って俺は栄養を必要としてんだよ。成長期なんだよ」

 

「お前、ホントいい加減に……!」

 

「もう、二人とも喧嘩はめっ! 私のおかずを分けてあげるから……トレインどうしたの?」

 

「い、いや……なんでも……」

 

「おや? お姉様の美しさに見惚れてしまいましたか? これだからませたお子様は」

 

「見惚れるというか……大丈夫かトレイン。お前、顔が真っ青だぞ」

 

「そ、その……ララの怒った顔が、どうしてか一瞬女剣士に……」

 

「女剣士?」

 

「まう?」

 

「は、ははっ……そうだよ、気のせいだよ。もうあいつはいないんだ。俺は手にしたんだ、掴み取ったんだよ平和な日常ってヤツを。女剣士やヤンホモに追い掛け回されてたのは遠い昔の出来事。はっ、そういや俺って逆行してんだっけ。てことはあいつ等がそのうちどっかから突然湧いて出てくる可能性も。いやいやいやいや、それはあり得ない秘密結社に入らなきゃ女剣士やヤンホモには出会わない筈そうだそうに決まってる同じ過ちを繰り返してたまるか俺は俺は――!!」

 

「と、トレイン殿――!?」

 

 

 新顔であるトレインを中心に騒ぎは拡大。

 

 

「……トレイン君、急にどうしたの?」

 

「いつものことです。御門涼子の見立てでは、精神的なものではないかとのことでした」

 

「……それって大丈夫なの?」

 

「問題ないと、御門涼子からお墨付きをいただいているので大丈夫ではないかと」

 

「ならいいんだけど……」

 

「……話は変わりますが」

 

「ん?」

 

「……き、今日はありがとうございます。お昼までご馳走してもらって」

 

「気にしなくていいよ。それに、私はヤミさんと一緒に入れて嬉しいし」

 

「……美柑」

 

 

 ある晴れた、昼時の出来事。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

「ちくしょう、暴力女と腹黒女め、本当に人のおかず奪いやがって」

 

「まぁまぁ、オレやララのおかずを分けたんだし、それでいいじゃん」

 

「あいつ等に盗られたってことが重要なんだよ。なんなんだよあいつ等、本当にお姫様なのかよ」

 

 

 穏やかな日差しが降り注ぐ、此処は結城家の庭。

 多種多様な園芸植物の内の一つの前に立ち、手に持ったジョウロを傾ける。

 

 

「ははっ……でも、ありがとうなトレイン。こうして水やり手伝ってもらって」

 

「タダ飯くらったんだからこんぐらいはな……中の方はどうにも居心地が悪ぃし」

 

「分かるよその気持ち。いつもなら男はオレだけだから、なんか疎外感というか、テンションの違いというか……」

 

「良かったな、ハーレムだぞ」

 

「は、ははっ、ハーレムじゃねーよ!?」

 

「いや、んなマジになんなくても……」

 

 

 赤面症も驚きなほどの真っ赤になりながら、リトは雑念を忘れるように一心不乱に水やりを。

 女所帯にいるからこの手の冗談は軽く流すと思っていたが、想像以上に初心なようで。

 にやけるトレインだったが、急にこちらへ向き直るリトに、表情を改める。

 

 

「ありがとう、トレイン」

 

「だから、水やりの件ならもう――」

 

「違う違う。……その、ヤミのことなんだけど」

 

 

 言葉が見つからないのか、視線は所在なしげに、指で頬を掻く。

 

 

「なんていえばいいのかな……雰囲気っていうか、表情が柔らかくなったっていうか……うん、なんか女の子らしくなったっていうか」

 

「つまり今までは男勝りなゴツゴツ女だったと。おーい、姫っちやーい」

 

「わああああああ! そういう意味じゃなくって! 今までもその……可愛かったよヤミは!」

 

「いや、突然惚気られても」

 

 

 こいつ無自覚な女たらしだと、リトの評価を修正。

 

 

「今回みたいに家に招いて一緒に食事なんて、今までなら考えられなかったんだ。たぶん、ヤミが変わったのってトレインのおかげだと思うから……ありがとうって、そう言いたかった」

 

 

 でも、物凄く良い奴でもあるんだろう。

 ヤミが殺し損なっていたのも、そんなリトの優しさに触れていたから。

 デビルーク三姉妹がリトの家に住んでいるのも、リトの優しさに惹かれたから。

 先程は冗談でハーレムといったが、あながち間違いではないのかもしれない。

 とはいえ、リトを好きになる奴は苦労するなと、他人事のように思うトレインだった。

 

 

「で、リトさんや。話は変わるけどさ」

 

「ん?」

 

 

 そんなリトに、トレインはどうしても気になっていたことを訪ねてみた。

 

 

「リトの本命って誰なの?」

 

「はあ!?」

 

 

 返答は、多量の水だった。

 

 

「ご、ごめんトレイン!」

 

「……いや、今のは俺も悪かった」

 

 

 振り返った拍子に浴びた、ジョウロに入っていた水がトレインの全身から滴る。

 濡れ鼠ならぬ濡れ猫状態トレインが、不意にひとくしゃみ。

 

 

「待ってろトレイン! 今タオル持ってくるから!」

 

「いや、このくらいならそのうち乾く――」

 

「たった今くしゃみした奴が何言ってんだよ! 風邪ひいたら大変なんだからな!」

 

 

 そう言って踵を返し、リトは家の中へと飛び込んでいった。

 

 

「……なんだかんだで聞きそびれちまったな、リトの本命」

 

 

 まあいっかと零し、見上げた空は青かった。

 肌に纏わりつく衣服の感触は依然として気持ち悪いが、それ以上に心地よい午後の日差し。

 膨れた腹は眠気を誘い、視界が徐々にぼやけていくのを頭の片隅で考えていた時だった。

 

 ――宇宙船?

 

 ≪黒猫ブラックキャット≫の常人離れした視力が、遥か彼方を飛行する飛行物体を捉えたのは。

 別に宇宙人が珍しいという訳でもなく、というかこの彩南町には自分の知っているだけでも相当数の地球外生命体がいる訳なのだが。

 ぞくりと、感じた悪寒は果たして、水を浴びて体が冷えてしまったからなのか――

 

 唐突に響く、甲高い悲鳴。

 

 

「姫っち……ミカンもか!?」

 

 

 瞬時に頭の思考を切り替え。

 駆け出すと同時に相棒ハーディスの感触を確かめながら、悲鳴の発生源である結城家の中へと突き進んでいく。

 玄関から入り、廊下を掛け、確信とともに伸ばしたドアノブの繋がる先は――脱衣所。

 

 

「お前等、さっきの悲鳴は――」

 

 

 思考が、完全停止する。

 

 

「ちょっ、リト!? 早く離れ――ひゃんっ」

 

「ふぁ……っ、結城、リト……毎度毎度、どうしてあなたは……!」

 

 

 濡れた肢体に御髪を張り付かせ、瑞々しい肌に朱が差す。

 浴室から僅かに空いた扉から湯気が漂うのは、先程まで入浴していたからか。

 生まれた姿のまま脱衣所にいるのは不自然なことではなく、故に今の彼女達の裸体を隠すのは、リトの顔と手と足と彼の持つタオルのみ。

 裸の美柑とヤミを押し倒し、胸元を弄り股間に顔を突っ込むという構図は、一体どのようにすればそのようなことになるのだろうか。

 苦しそうなリトの声と美柑とヤミの嬌声が響く、そんな状況が暫し続き、

 

 

「……お邪魔しました」

 

 

 トレインは空気を読んで退室することを選択した。

 

 

「トレイン君!?」

 

「ち、ちがっ!? これは……!!」

 

 

 背にする扉から伝わる、どんどんと叩く物音と衝撃。

 返すトレインの声は、全てを悟る仏のように穏やかだった。

 

 

「大丈夫、俺は何も見てない」

 

「その発言が既に大丈夫ではありません! 此処を開けて話を――」

 

「大丈夫、俺は何も聞いてない」

 

「誤解してる! 絶対に誤解してるからトレイン君! これはリトのラッキースケベが!」

 

 

 カッと目を見開き、トレインは天井を仰ぐ。

 

 

「漫画やアニメじゃあるまいし! ラッキースケベなんてもんがそう簡単に起こってたまるか!」

 

 

 世の理を叫ぶその声は、トレインの心の叫びだった。

 創作物の世界に転生し、可愛くて綺麗なヒロイン達とそのような関係になれればと思ったことがないと言えば、それは嘘になるだろう。

 トレインも男であり、ラッキースケベなどある意味野郎共の夢なのだから。

 しかし、トレインが進んだのは桃色な夢世界ではなく、暗黒色の茨道だ。

 幼い頃に両親と引き離され、気付けば立っていた原作通りの立ち位置、秘密結社や革命組織に命を狙われ、女剣士やヤンホモに追い掛け回される毎日。

 女の子と言われて真っ先に思い浮かぶのは≪滅界≫を連発する女剣士、デレと言われて真っ先に思い浮かぶのはなんか色々とイっちゃってるヤンホモ。

 ラブでエッチな展開など、とうの昔に存在しない夢物語だと、トレインは悟ったのだ。

 

 

「何があったんだトレイン! さっきの悲鳴、もしかしてまたリトのズッコケか!」

 

「セリーヌが先程やらかして、汚れを落とそうと浴室に向かわれたのは美柑さんとヤミさん……なるほど、そういうことでしたか、さすがリトさん」

 

 

 だからラッキースケベなど起こりえない。

 自分の理不尽と戦うトレインにナナとモモは追い打ちを掛ける。

 

 

「リトっていつもあんな感じなの。だから、トレインも気にしないでね」

 

 

 笑顔でそのようなことを平気で宣うララに、トレインの心は完全に折れてしまった。

 どうして自分ばかりがこんな目に。

 走馬灯のように、逆行する前の修羅道が脳裏を駆け巡っていく。

 あんまりな自分への仕打ちに膝が折れ、目頭が熱くなり、同時に胃が悲鳴を上げ、結城家のドアホンが鳴ったのはそんな時だった。

 

 

「……はい、今でます」

 

 

 目の前の現実から逃げたくて、トレインは来客の応対をしようと腰を上げる。

 

 

「失礼。ララ様、先程の悲鳴は一体……」

 

 

 しかし、来客は応対する前に扉を開いてきた。

 言動からして、結城家と親しい間柄なのだろう。

 一体どのような面なのだろうかと、見上げるような高身長の相手の顔を拝もうとし、

 

 

「何……だと……!?」

 

 

 超ド級の悪夢が蘇る。

 

 

「問題ないよ。リトがいつものアレをやっちゃったってだけで」

 

「まったく、リト殿には困ったものだな。ララ様達でなかったのはせめてもの救いか」

 

「いや、そういう問題じゃねーだろ」

 

「それで、唐突にどうしたの? こうして直接訪れたということは、何かしら事情があってのことだと思うんだけれど」

 

「はい、モモ様。実は皆様に直接お伝えしたいことがありまして」

 

 

 口を開けばトレイン。暇があればトレイン。どんな時でもトレイン。

 トレイン以外は生きる価値がない、君さえいれば僕はそれだけで満たされるなどとほざく変態。

 秘密結社を抜けてからは執拗に勧誘、断れば発狂、ならば四肢を切り落としてでも連れていくなどというとんでも発想で襲い掛かってくるキチガイ。

 どうして仲間になってくれない、僕の気持ちに応えてくれない、ねぇトレイン僕のトレイン。

 半殺しにすれば恍惚とした表情を浮かべ、会う度に≪幻想虎徹≫を使いこなし、レベルを上げ、お前俺を殺す気かとキレれば、どうして僕達は殺し合わなくちゃいけないんだと逆ギレ。

 終いには君を殺せば永遠に僕の物だと宣った瞬間から、奴のことはヤンホモで決定だった。

 

 

「実は、セフィ様のことで――」

 

 

 心休まる時は一時だってなかった。

 常時警戒、恐怖とストレスでどうにかなってしまいそうだった。

 それほどまでに、ヤンホモはトレインの心に一生消えない爪痕を残していった。

 故に、トレインは激怒していた。

 掴み取った平和な日常、絶対に壊してなるものかと、決意を秘めた眼差しで向き合う。

 

 

「おや、君は……子供?」

 

 

 全身を覆う怪甲冑。

 中性的な顔立ちに縁取られた実直な眼差し。

 陽光にきらめく銀の髪。

 

 

「ララ様、彼は……」

 

 

 だがもし、怪甲冑が悪趣味な黒装束になったら。

 だがもし、実直な眼差しに影が差せば。

 だがもし、下ろした銀髪をかきあげれば。

 

 

「うん。この子はね、リトの友達で、トレインっていう――」

 

 

 クリード=ディスケンス、その人の出来上がりである。

 

 

「死ねぇヤンホモぉ!!」

 

「ぐぼあぁ!?」

 

 

 勘違いが、加速する。

 

 

 

 

 




おまたせ(笑

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